19-19 マッチングPK・3-暗躍者-
【忍者ムーブ始めました】をご閲覧下さる皆様へ。
新年明けましておめでとうございます。
昨年も拙作にお付き合い下さり、誠にありがとうございました。
本年も皆様にたくさんの物語をお届けできるよう、頑張って参ります。
2025年もどうぞ、宜しくお願い申し上げます。
巳年という事は、ヒメノの年ですね!!
そんな訳で年賀状代わりに、新年絵をペタリ。
それでは新年一発目の【忍者ムーブ始めました】、どうぞお楽しみ下さい。
時は遡り、ジンとヒメノの二人が向かった[試練の塔]。PKerの討伐を掲示板に書き込んだその後、二人がマッチングしたのは三人の人物だった。
「うおおぉっ!! ジンとヒメノじゃねーか!!」
「トップランカー二人とマチとか、ツイてるぅ!!」
三人の内、二人は盛大に喜びに沸き上がっていた。ジンとヒメノはそんな反応をされるのにも慣れてしまい、苦笑して一礼する。
「マッチング、宜しくお願いするでゴザル」
「どうぞ宜しくお願いします!」
挨拶をする二人に対して、マッチング相手の二人は満面の笑みで頷く。
すると、残り一人がゆったりとした速度で歩み出た。
「君達とマッチング出来るとは、光栄だねぇ。俺は【ズーク】って名前でプレイしている、宜しく頼むよ」
簡単な挨拶と自己紹介を交わした五人は、早速配置について相談する。
ズークは湾曲した剣……シミターと呼ばれる剣を持つ、前衛職。同行するのは小型盾とメイスを持つ、盾職の【ゼイル】。そして両手に短剣を装備した、斥候の【スレイヴ】である。
彼等は第三回イベントの頃から始めたプレイヤーであり、レベルも既に60に到達済み。各種スキルもカンストしており、限界突破に向けて情報収集をしているらしい。
話し合いの結果、最前衛はやはりジン。ヒメノは最後衛で、援護射撃を担当する。ズークとスレイヴがジンに続き、ゼイルは中衛から後方寄りの布陣である。これは、ヒメノの護衛としての役割も兼ねている。
編成が決まった所で攻略が始まり、五人はサクサクと天使達を討伐していく。それぞれが自分の役割を全うし、さしたるダメージも負う事無く前進していく。
ジンとヒメノは言うに及ばずだが、ズーク達三人のプレイングスキルも実に高い。身のこなしは熟練のそれであり、攻撃と防御の切り替えも上手い。
その力量の高さは、ジンもヒメノも実感していた。
――結構順調だな……この人達、戦い慣れている。
――これまでマッチングした中でも、上位のプレイヤーみたいですね……。
ジンとヒメノの様子から、自分達の実力を認めている雰囲気を感じ取ったズーク。真剣に攻略に臨む表情を浮かべるその心の裡で、彼は全て想定している通りに動いている事を確信し嗤っていた。
――感心してやがるな? ま、当然だけどなぁ? こちとらガチガチのPKer……のんびり仲良くなんて生温いプレイをしてるテメェ等と違って、斬った張ったの殺し合いが専門だからよぉ……。
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ズーク……彼はかつて、【漆黒の旅団】を率いていた男・ディグルだ。しかしジン達に敗れて所持品を全て失い、更にはグレイヴにギルドを乗っ取られて転生を余儀なくされていた。
第四回イベントでは、グレイヴ達に情報を流してジン達をKILLさせようとした……しかしグレイヴは自分の意に添わず、正面から正々堂々と戦いを挑んでいた。それも彼には、気に食わなかった。
そんな元・ディグル、ズークがジン・ヒメノとマッチングしたのは……彼の狙い通りだった。
年が明けてしばらくしてから……偶然にもNPC食堂で遭遇したダリルに、ズークは目を付けた。彼が【暗黒の使徒】のギルドマスターである事も、年明けの事件で落ち目になっている事も知って……その上で、彼に近付いたのだ。彼が【七色の橋】のメンバーに惚れていると知ったズークは、何度か彼と話す機会を設けた。勿論、ダリルを利用する為に。
そうして第五回イベントが開催され、その仕様を悪用した今回のマッチングPKを思い付いたズーク。彼は言葉巧みにダリルを誘導し、そうしていよいよマッチングPKを実行に移させた。
勿論ダリルの恋の行方など、ズークにとってはどうでも良い。彼の本当の目的……それは勿論【七色の橋】のメンバーの居場所を特定し、PKerと戦い疲弊した所を不意打ちでKILLする事である。
その為だけに、彼等はPKしたいという欲求を堪えて一般人であり続けていた。自分達を壊滅させた【七色の橋】への復讐の為だけに、彼等は力を蓄え続けていたのだ。
その手段は、自分を含めた元【漆黒の旅団】の中でも特に腕の立つメンバーによる騙し討ちだ。PKerと戦い続けていれば、一般プレイヤーである自分達への警戒が緩むはず。そうして油断している所を突いて、KILLする。
この作戦の難点は、狙った獲物とマッチング出来るのかは運次第。どうでも良い相手とマッチングしたならば、そのままマッチングパーティを組んで攻略しなくてはならない……という点だった。
しかしそれは、思わぬ形で解消されたのだった。
「クックック……まさかトップランカー共が、こうも協調して動くとはなぁ……? クソ雑魚PKer共には脅威だろうが、俺達にとっちゃあお誂え向きだぜ……」
PKKが開始された際に、ズーク達も掲示板の書き込みに気付いた。他のスレッドでも話題になっており、PKKスレに気付くタイミングも早かった。
順調に書き込まれていくPKer討伐情報……その書き込みには、ギルド名とプレイヤー名が必ず記載されている。それを見たズークは、これを利用しない手は無いと考えた。
「潜伏してる奴等は、掲示板の書き込みを注視しろよ……狙い撃ちするにゃ、丁度良いからな。いや、しかしすぐはやめろ……他のPKer共が、残り僅かになったタイミング。そこで仕掛けるぞ」
ハヤテとアイネ、そしてシオンとダイスが元【漆黒の旅団】にマッチングしたのは、それが理由だった。
ちなみにヒイロとレンがマッチングしたのが、元【漆黒の旅団】ではなくダリル達とだったのは……平たく言えば偶然。たまたまダリル達と元【漆黒の旅団】が同時にマッチング候補となり……そして引き合わされたのが、ダリル達だったというだけの事である。
ちなみにその元【漆黒の旅団】達は現在、リリィ・コヨミとマッチングしている。
そしていくつかのスレッドを監視して、ズーク達はある書き込みを見付けた。それはPKKスレでは無く、毎度おなじみの雑談スレである。
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398 名無し
ジンさんヒメノさんとマチしたあああ!!
蝶サイコー!!
399 名無し
>398
誤字ってない?w
ホムンクルスにでも生まれ変わったんか?w
400 名無し
>398
裏山
どこでマチったん?
401 名無し
南側[試練の塔]の331階層!
402 名無し
>399
パピヨンマスクwww
304 名無し
>401
情報tnkx
南側向かうわ
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自分達が赴いた南側の[試練の塔]に、ジンとヒメノが居る事に気付いたズーク達。彼等は二人に狙いを定めて、PKKスレを監視しながらひたすら書き込みを待った。
その間に、ジンとヒメノを相手取る為の策を練る。
「御頭、ジンの速さとヒメノの力はヤベーっしょ?」
「わーってんだよ、んな事ァ。逆にお前等二人、あいつらに殺られろ」
「「ハァッ!?」」
「心配すんな、コイツを持ってろや」
ズークがゼイルとスレイヴに持たせたのは、≪聖なるメダル≫である。
「良いか? まず俺が仕掛ける。それを妨害しようと攻撃したら、お前等が無抵抗で攻撃を受けろ。HPがゼロになった時点で、あいつら重犯罪堕ちよ。あいつらが重犯罪者になって、KILLされたらどうなる?」
ズークがそう言うと、二人も彼の言わんとしている事が解った。ジンとヒメノ……二人の保有しているスキルや装備は、稀少な物が多い。特に、ユニークスキル……それがもし手に入るとなれば、これ以上のチャンスは無い。
「ククッ……第四回イベントでの、スパイの件で解った情報。ユニークスキルも、全ロスの対象って情報はデカい。クソガキ共をハメて、重犯罪者にしてやりゃあ……奴等の力は俺達のモンよ」
そう言って舌なめずりをするズークは、邪悪な笑みを浮かべていた。
そんなズークに気圧されつつ、スレイヴがおどおどと声を掛ける。
「で、でも……あいつらを、殺れるんすか……?」
不安そうにそう口にしたスレイヴに対するズークの反応は、視線だけで殺してやろうかと言わんばかりの鋭い睨みだった。
「テメェ、どういう意味だオイ? まさか俺に出来ねぇとでも思ってんのか? あぁ?」
「す、すみません!! そういう意味じゃ……」
顔を青褪めて地面に這い蹲り、土下座を始めるスレイヴ。そんな彼の目の前の地面に、ズークは一本の短剣を突き刺す。
「何の為に俺達がチマチマと、デバフ武器を掘り続けて来たと思ってんだ? コイツがあるだろうが!」
「せ……【石化】の短剣……!!」
「そ、そうっすよね!! この≪ペトリファイド・ダガー≫なら……!!」
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この攻略も、もう中盤に差し掛かった。ここまで普通に攻略している為、ジンとヒメノの警戒心も薄れている頃だろう。
ズークはシミターを右手で持ちつつ、腰後ろに差した≪ペトリファイド・ダガー≫の柄を軽く撫でる。この武器は攻撃力こそ低いが、強力無比なデバフを相手に与える凶悪な武器である。
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短剣≪ペトリファイド・ダガー+10≫
効果:確率で斬り付けた相手に状態異常【石化】を付与する。全ステータス-50。
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装備時にステータスを下げるデメリットと引き換えに、確率で【石化】を発動させるデバフ武器。当然、レア中のレアな武器である。
初期状態だと”低確率”であったものの、最大強化によって”確率”になっている。ズークが何度かモンスター相手に試した印象では、”低確率”で1から10パーセント……”確率”の場合は10~30パーセントといったところだ。
そんな中、通路の行く手を遮る様に現れる天使達。その数は十体で、一般プレイヤーが油断して良い相手ではない。もっともジンやヒメノにとっては大した障害では無いし、ズーク達にとっても脅威にはならない。
仕掛けるのならば、ここだ。そう考えて、ズークはタイミングを見計らう。
「ゼイル!! ヒメノさんに天使を近付けんなよ!! スレイヴ、ジンさんの動きをちゃんと見るんだぜ!!」
「ウッス!!」
「任せなッ!!」
「ジンさん、タゲ引きを頼む!! 隙を突いて、俺とスレイヴが動きを止める!! そしたらヒメノさんの攻撃で、イチコロだ!!」
「承知!!」
「了解です!!」
ズークが出した指示に、全員が了承の言葉を口にする。
ジンが前に出て、【狐風】を放ち天使達のヘイトを稼ぐ。ヒメノが後方で矢をつがえ、動きが止まった天使に即座に攻撃できるように準備を整える。
そんなヒメノの少し前の位置で、ゼイルが構えている。ヒメノがズークを攻撃したら、その矢をその身体で受けられる位置だ。スレイヴもズークとジンの間を意識し、ジンの反撃をその身で受ける事を意識している。
――さぁ……復讐の開幕だッ!!
ズークがジンの背中を攻撃すべく、≪ペトリファイド・ダガー≫を突き出す。それがジンの背中に突き刺さり、ジンのHPが若干減少した。
「……ッ!? ズ、ズーク殿!?」
ヒメノは狙いをズークに定め、矢を射ようとし……その瞬間、ゼイルがその射線に入った。
「何を……っ!!」
「させるかッ!!」
またジンが反撃すべく小太刀を構えてズークに駆け出すが、ズークの前にスレイヴが立ちはだかる。
「この……ッ!!」
「さぁ来いやぁっ!!」
無抵抗でその攻撃を受ければ自分達のHPは枯渇し、ジンとヒメノは重犯罪者となる。二度と一般人には戻れない……そして重犯罪者はKILLされれば、ありとあらゆる全ての所持品をドロップするのだ。
「さぁ……落ちる所まで堕ちて来いやぁっ!!」
この二人を地獄の底まで叩き落し、その力を自分達が貰い受ける。そんな未来を予想したズークは、歓喜の笑みを浮かべて叫んだ。
そんなズークの叫びの直後……ジンとヒメノが、唐突に動きを止めた。
「やはりでござったな!!」
「警戒していて、正解でした!!」
スレイヴの目前で動きを止めたジンは、右手の小太刀を素早く収めて彼の腕を掴む。
「何ッ!?」
ヒメノは矢を射ずに、ゼインから一歩距離を離す。
「はっ!?」
「「【縮地】!!」」
ジンが【縮地】を発動すれば、触れられているスレイヴはそのスキルの効果対象となって一緒に瞬間移動する。瞬間移動先は……まだ倒されていない、天使達の真上だ。
「何……ッ!? う、うおああぁぁぁっ!!」
そのまま、重力に従って落下するスレイヴ。そこには、ピンピンしている天使達の姿がある。
そして更に、唖然としているゼインの首にある物が巻き付いた。
「≪シーカーロープ≫!!」
そのままジンが力を籠めると、ゼインの身体が勢いよくジンの……正確には、天使達の方へと引き寄せられる。
「な……なんて事をしやがるッ!?」
そしてヒメノが瞬間移動したのは、ズークの目前。確実に彼に矢を当てる為の、【縮地】である。
「な……ッ!?」
「【スパイラルショット】!!」
既に軽犯罪者となったズークには、遠慮は無用。至近距離で放たれた強力無比な矢の一撃は、ズークの腹部にしっかりと命中していた。
「な、んだとおぉッ!?」
その威力に抗う事は適わず、ズークは吹き飛ばされて地面を転がり倒れる。
ズークを吹き飛ばしたヒメノは、システム・ウィンドウを手早く操作しヒナを召喚した。
「ヒナちゃん、ジンくんをお願い!!」
「はいです!!」
ジンの背中から、徐々に石化が進行している。その状態異常を癒すべく、ヒナは魔法の詠唱を始める。その間に、ヒメノはスレイヴとゼインの様子を伺う。
「ち、ちくしょぉっ!! クソがあぁっ!!」
「MPKだろ、こんなのッ!?」
自分達の事を棚に上げて、天使達に攻撃をする二人。死んでたまるかと必死の形相で武器を振るっている二人は、自分達のカラーカーソルがいつの間にか軽犯罪になっている事に気付いていない。
「よっと!!」
天使達と戦うスレイヴ・ゼインから距離を取ったジンが、ヒメノとヒナの待つ場所へと着地する。
「目には目を、歯には歯を……拙者達を罠に嵌めようとしたのならば、やり返されても文句はないでゴザろう」
天使達に攻撃をする、スレイヴとゼイン……ジンはその二人の側に位置取って、彼等の攻撃を全て回避していたのだ。それによって二人のカラーカーソルが、軽犯罪に変化したのである。
やがてヒナの詠唱が完了し、魔法が完成する。
「【リカバリー】!!」
魔法が発動されれば、ジンの背中のほとんどを侵食していた石化の進行が止まった。そして石化していた箇所が、元通りにの状態に回復していく。
「感謝するでゴザル、ヒナ」
「ありがとう、ヒナちゃん!」
「はい、お役に立てて良かったです!」
そんな穏やかなやり取りに反して、激昂する者が居た。
「クソがアァァッ!! テメェら、何で気付いたァッ!!」
ズーク……彼はジンとヒメノに、憎悪の籠った視線を向けて立ち上がった。どうやら彼も≪聖なるメダル≫を持っていたらしく、それを消費する事で蘇生する事が出来たらしい。
ズークに殺気を向けられて尚、ジンは自然体だった。ヒメノを庇う様にして前に出ると、彼は冷静にズークの疑問に答える。
「貴様の目論見に気付けたのは……グレイヴ殿の助言のお陰でゴザル」
……
昨夜、ジンがグレイヴ達を含めたフレンドにメッセージを送った後。グレイヴから、ジン宛にメッセージが入ったのだ。
『シミターを持ってるプレイヤーには、レッドだろうがグリーンだろうが精々注意しておくんだな。ディグルのクソ野郎は、シミターを使う事に拘ってるからよ』
ディグル……その名前を見た瞬間に、ジン達は合点がいったのだ。
……
「ダリルがマッチングPKを主導する事自体に、拙者はどうにも違和感があった……確かにダリルは考えが浅く、独り善がりな点が見受けられるが……」
高校一年生のジンに、ここまで散々に言われるダリル。もっとも事実その通りであるし、ジンは本当に高一? と言いたくなるくらい老成しているのだが。
「しかしそれでも、拙者との一騎打ちに拘る等の信念の様なものはあった。そんな男が最初から三対二という不公平で、しかも奇襲を前提とするマッチングPKを目論むとは思えなかったでゴザル。そして……」
そう言うと、ジンは視線をズークに向けた。
「圧倒的優位を確保しつつ、奇襲や騙し討ちといった卑劣な手段も厭わない。そういう者達に、心当たりがあった」
ズークを射貫く視線は、鋭利な刃の様に鋭く冷たい。それはジンにしては珍しく、攻撃的なものである。
「グレイヴ殿達とは違う、かつての【漆黒の旅団】……貴様達のやりそうな手でゴザル。そうでゴザルな、元【漆黒の旅団】のギルドマスター・ディグル」
確信めいたその言葉に、ズークの顔が醜く歪む。
ジンの言葉から感じられたのは、自分に対する非難の意図。そしてグレイヴ達とは大違いだと……更には、まだダリルの方が芯があったと言わんばかりの意味合い。
それを易々と、受け流せるものか。
ギルドを乗っ取っておきながらPKerとして生温い事をしているグレイヴに、自分が負けるものか。
ホイホイ口車に乗って掌の上で踊るダリルなどに、自分が劣る等あるはずがない。
そんな自尊心が刺激され、怒りで胸中が激しく渦巻く。
「死にてェみてぇだな、クソガキが……テメェ等、いつまで遊んでやがる!! 【チェイサー】!!」
そう言うと、ズークがシミターで天使を斬る。その瞬間、斬撃が二度・三度と発生……天使のHPを、一気に狩り尽くした。その斬撃の攻撃範囲は広く、更に側に居た天使達も巻き込まれてダメージを負う。
「「……っ!! す、すんません!!」」
他の天使達は、どうにか倒す事が出来たのだろう。残る二体の天使を攻撃して、スレイヴとゼインはようやく安堵の溜息を吐く。
「姫……行くでゴザル」
「はいっ!!」
ジンとヒメノは、【変身】の構えを取る。しかしズーク達も、それは予想済みであった。
「甘いんだよボケェッ!! 【クイックステップ】!!」
スーパーレアスキル【変身】は、スキル発動宣言から変身完了までの間に攻撃する事で中断させる事が出来る。そして【変身】を発動している間は、他のスキルや武技が使用できないのだ。
――そんな目立つスキルはなぁ……対策くれぇ考えてんだよ、クソがぁッ!!
攻撃は通る……そう確信したズーク達の目の前に、突如一人の少女が姿を現した。
「ここは、通さない」
「こ、こいつは……ッ!!」
ジンのPACである、くノ一のリン。彼女のその出で立ちはこれまでのものと、大きく変わっていた。
黒地の和風衣装はくノ一らしいデザインで、胸元と太腿部分に網目の意匠を取り入れている。ブーツはヒメノ達女性陣の最新装備と同じタイプであり、加えて右肩にジンと揃いの肩当を装備。また右の太腿に苦無、右腰に手裏剣と、ジンの≪忍衣・疾走夜天≫と親和性のあるデザインだ。
そしてトレードマークのポニーテールに付けているのは、ジンが手ずから製作した風車をあしらった≪ジンの簪・菫≫。
絆が最大にまで到達した事を祝して、ジンが仲間達の協力を得て完成させたリン専用装備……それがこの≪忍衣・風舞菫花≫であった。
しかしズーク達にとっての問題は、そこではない。ジンはいつの間に、彼女を召喚したのか。先程までは、影も形も見当たらなかったのに……と。それがジンから借り受けた【隠密の心得】による【ハイド・アンド・シーク】によるものだとは、今のズーク達には気付けない。そう、リンはずっとジン達の側に居たのである。
だが、ズーク達はそれを些細な事と考えた。リンがAGI特化型のPACである事は、第四回イベントで把握済み。スピードは相当なものだが、STRやVITはそう高くない。そして魔法などの攻撃手段は無く、同時に三人を倒し切る力はリンにはない。
このまま、強引に押し切れる。つい数日前までのリンならば、それは適ったかもしれない。
「雷鳴の如く!! 【狐雷】!!」
地面に小太刀を突き立てて、魔技【狐雷】を発動させるリン。地面を駆け巡る雷撃がズーク達に触れると同時、三人纏めて麻痺状態に陥る。
「な……何イィィッ!?」
予想外の妨害に驚愕し、叫び声を上げるズーク。それを確認しつつ、ジンとヒメノは頼れるくノ一に声を掛ける。
「ありがとうございます、リンちゃん!」
「助かるでゴザルよ、リン!」
そんな二人の言葉に、リンは振り返って力強い頷きで応える。
「それでは、いざ!!」
……
時を同じくして、西側[試練の塔]。
「【展鬼】!!」
何とかダイスを効果範囲内に収めたシオンは、即座に【展鬼】を発動。範囲防御を駆使して、自分とダイスの身を守る。
「シオン、大丈夫か……!?」
「えぇ、何とか。もう遠慮は要らない様だし、切り札を使うわ……」
切り札。その言葉を受けて、ダイスは目を丸くし……そして、すぐに表情を引き締める。
「……おう、解った。俺はこのままクラリスを召喚して、援護に回るぜ」
「えぇ、お願い。さぁ……反撃を始めましょうか」
エクストラクエスト≪聖樹の苗≫を攻略した際に、改めて欲しいと思ったスキル。それを手に入れる為に、意を決して課金しガチャを回した結果の産物。それが今、彼女のスキルスロットに収められている。
……
また、同じ頃の北側[試練の塔]。
「おじいちゃん、お願いッ!!」
「カゲッちゃん、頼むッ!!」
守護騎士・ジョシュアと、魔女・カゲツ。頼れる二人のPACを召喚する事に成功した二人は、一度距離を取って状態異常を回復させる。
「本邦初公開ッス!! 行こうか、アイ!!」
「オッケー、ハヤテ君!! ジンさん、ありがたく使わせて貰います!!」
ハヤテがスキルスロットに収めているのは、【暗黒の使徒】サブマスターであるビスマルクを倒した時に手に入れた物。そしてアイネは、ジンから借り受けたそれをスキルスロットに装備していた。
……
そして東側の[試練の塔]、ダリルを前に怒りを爆発させているヒイロとレン。
「二度とふざけた事が言えない様に、徹底的に叩き潰す……!!」
「これまでの愚行のツケを、支払う時よ……!!」
レンの収納鞄には、≪風化した石板≫を修理して手に入れられるアイテム……≪オーブドライバー≫が収納されている。
そこに装備されているのは、レンが福袋ガチャで手に入れたあのスーパーレアスキルのスキルオーブ。そして夫婦である二人は収納鞄を共有しており、ユージンやケリィの様に≪オーブドライバー≫に収められたそのスキルをも同時に使う事が可能。
……
そしてアイネにスキルオーブを貸し出したジンの為に、レン同様に≪オーブドライバー≫を手に入れてスキルオーブをセットしたヒメノ。それによって【七色の橋】結成メンバー七人が、そのスキルを使える様になっていた。
ジンは目の前で指を交差させ……
ヒメノは弓の弦を引く様にし……
ヒイロは呪いの籠手を目前に構え……
レンは一回転させた右手を耳元で止め……
シオンは両腕を胸の前で交差させる。
そして、ハヤテ。
ジン達同様に両手をクロスさせながら突き出すと、ハヤテはそれを頭上に突き上げる。そして右腕を縦に、左腕を横に交差させながら徐々に下ろしていき……右肩のあたりでそれを制止させる。
同じく、アイネ。
揃いのポーズである、両手のクロス。そこからアイネは左手を右手に添えて、手の甲を表に前進させていく。それが伸び切った所で、彼女はピタリと動きを止めた。
それは偶然か、それとも運命か。
ジン、ヒメノ、ヒイロ、レン、シオン、ハヤテ、アイネ。
そのスキルを発動させるのは、七人全員が同じタイミングだった。
両手の指で十字の印を組む、【九尾の狐】。
矢を放つ様に右手を開く、【八岐大蛇】。
右腕を力強く握り締める、【千変万化】。
扇を開く様に右手を開く、【神獣・麒麟】。
交差させ構えた手首を反転させる、【酒呑童子】。
左腕を支点にして右手を銃の形にして突き出す、【一撃入魂】。
右手首を素早く動かし手刀の形にする、【百花繚乱】。
『【変身】!!』
その腕が振り下ろされ、変身エフェクトが開始される。
ジンとヒメノは立ち上る煙と、燃え盛る炎。
ヒイロとレンは噴き出す霊魂と、迸る雷撃。
シオンは激しい振動と、もうもうとした土煙。
ハヤテはジン同様に、煙が立ち上る。これは銃の硝煙をイメージしたのかもしれない。そしてアイネの場合は、頭上から舞い落ちる花弁である。
そして腕を振るいエフェクトを掻き消せば、そこには【変身】専用装備を身に纏った彼等の姿があった。
ハヤブサをモチーフにした仮面のハヤテに、キジをモチーフにした仮面のアイネ。誕生鳥モチーフで合わせたのは、ハヤテとお揃いが良いというアイネの意向だろう。
「さぁて、ブチ抜いてやるぜ……!!」
「御覚悟を!!」
メイド要素を取り払い、鬼面の女武者の専用装備に身を包むシオン。彼女が全力で敵を叩き潰すべく、その実力の全てを発揮する姿である。
「レンお嬢様にお仕えする使用人のシオン……参ります!!」
幽鬼の仮面武者・ヒイロと、麒麟仮面の巫女令嬢・レン。その視線の先で青い顔をする愚者の性根を、徹底的に叩き直す為に声を揃えて宣言する。
「「さぁ、刮目(しろ)(なさい)!!」」
そして小太刀を両手に握り締め、一歩前に出るジン。そんなジンの横に、共に行くと言わんばかりに並ぶヒメノ。
「行くでゴザル!」
「はい、ジンくん!」
「主様、奥方様。お供致します」
「私も頑張りますよー!」
≪大狐丸≫と≪小狐丸≫を構える、最速の忍者。≪弓刀・大蛇丸≫を構える、最強の姫君。主の力を共有する、華麗なるくノ一。聖女の力を持つ、妹姫。
そんな四人の姿を目の当たりにしたズーク達は、思わず気圧されて後退りしてしまう。しかし逃がしはしないし、逃げられもしない。
「スーパー忍者タイム……」
「「「「いざ開幕!!」」」」