04-04 幕間・ヒアリング
ガチャ大会とトレード大会をした後の、ユージンの工房。ユージンはある人物と向かい合っていた。
「さて、それじゃあ作製したい装備について聞こう」
にこやかに微笑みかけるユージンに、少年……ヒイロが頷く。
「よろしくお願いします」
ユージンに製作を依頼する上で欠かせない、ヒアリングである。ユージンは生産職人として、依頼人の意向を最大限汲み取った物を製作する。それが彼のポリシーだ。
尚、レンとシオン、イリスは新たに製作する物は無いので、ヒアリングは行わない。
二人はまず、ヒイロの戦利品を確認する。ガチャとトレードで手に入ったのは、素材の≪フェンリルの毛皮≫と、スキルオーブ【魔剣術】だ。
「≪フェンリルの毛皮≫か、これなら今の服をランクアップ出来るね」
「はい。だから、一緒に鎧も強化しようと思います。プラチナチケットで、≪失われし鋼≫というアイテムと交換しようと思うんです」
≪フェンリルの毛皮≫はHPを増やし、STRとAGIを強化する素材だ。無論、激レア素材である。そこでヒイロは、鎧の強化に≪失われし鋼≫を選択した。これはHPとMPアップ、VITとMND強化が可能な素材なのだ。
「あぁ、それは良いね。後の二つは?」
「一つは【拡張スキルスロット】ですね。【魔剣術】を手に入れたので……もう一つなんですが……」
……
ヒアリング二人目は、ヒメノだ。
「これって、≪壊れた発射機構≫と同じ様なアイテムでしょうか?」
ヒメノが提示したのは、シルバーチケットで手に入れた≪大破した砲塔≫である。
「多分そうだろうね。恐らくだけど、大砲が作れるんじゃないかな?」
砲塔と言うだけあり、普通の銃よりも大型の物になるはずだ。最低でもバズーカくらいか。
「プラチナチケットの用途は決まっているのかな?」
「はい、二つは決めてます! ヒナちゃん用にしようかと思っているんです」
そう言って、ヒメノは隣に座るヒナに視線を向けた。その瞳は優しく、相当にヒナを大切にしているのが解る。対するヒナも、ヒメノと顔を合わせてにっこり。これにはユージンもにっこり。
「それは良いね。ヒーラーにするんだったかな? それならオススメは≪聖女の杖≫と【癒しの聖女】だ。回復効果を増強する性能があるからね……こういう機会でもないと、中々ゲットできないスキルとアイテムだし」
「成程……ありがとうございます、それにしようと思います!」
ヒメノはあっさりと、ユージンの提案を受け入れる事にした。彼女のユージンに対する信頼の度合いが解る。
「そうしたら、チケットはあと一つですね」
「そうだね……あ、そうだ。ヒメノ君は【ゴーストハンド】を手に入れていたね? それなら、こういうのはどうかな……」
……
三人目は、話題沸騰中の忍者さん。ランキングトップに輝いた少年、ジンの番だ。
「そうか、確かにジン君ならそれが良いね」
ジンの語るプラチナチケットの使い道に、ユージンは頷く。というのも、ジンは【超加速】一つと【拡張スキルスロット】二つを取得するつもりなのだ。
「ジン君の特徴である速さ、それを活かすなら【超加速】は必須か。そしてスキルオーブを死蔵しないように、【拡張スキルスロット】で装備出来るようにするのも合理的だね。【達人の呼吸法】もあるし」
ジンのスキルスロットは既に、予備スロットに空きを一つ残すのみ。しかし、現在スキルスロットや拡張スキルスロットにセットしているのは、主力スキルばかりなのだ。
「はい。それで、≪グレイプニル≫なんですけど……」
「あぁ、それがあったね」
……
続くヒアリングは、ケイン。とはいえ、彼は既にユージンが作製済みのアイテムを依頼しただけだ。その為、すぐにヒアリングが終了。
現在は、ゼクスの番である。
「≪エルダートレントの樹液≫で作製できるのは、ポーション系のアイテム。他には、染料かな?」
「ふぅん……染料にすると、どんな効果があるんスか?」
「装備を好きな色に出来るね。後は……」
システム・ウィンドウを操作して、情報を検索するユージン。
「ふむ、HPとMPをプラス10。これは大きいね」
「おー……んじゃあ、≪飾り布≫をお願いします。色は、白で!」
「OK、確かに引き受けたよ」
そして、あと一つ。
「プラチナで、もう一個手に入れようと思ってるんスけど……」
……
続くはケイン達の新メンバーとなる、ダイス。彼はまだ面識の浅いユージンに、情報を明かしていいものかと考えていた。
しかし。
「一応、簡単に案を考えておいたんだ。こんな感じはどうだい?」
ユージンが提示した物を見て、警戒心が失せた。綺麗さっぱり、消え失せてしまった。
というのも、ユージンが用意したのは中華風装備のデザイン画だったのだ。しかも、中々に見事なものである。
「これ、いつ描いたんだよアンタ……」
「君等が、ガチャやトレードをしている間にね。自信作は、コレ。色や形は、ダイス君のイメージに合わせたんだけどどうだい?」
ユージンのイチオシは、左右非対称の軽装鎧だ。それを見せられて、ダイスは言葉を詰まらせる。その理由は、純粋に……
――い、良いかも……。
素直に、格好良いと思ってしまったが故に。更に言うと、自分の手元には≪サファイアドラゴンの鱗≫がある。作れる、作れてしまう。
「い、良いっスね……じゃ、じゃあ、コレで……」
ダイス、陥落。更に鎧だけでなく、衣服を製作する為に≪サファイアドラゴンの抜け殻≫をプラチナチケットで入手するのだが、それは余談である。
……
次の相談者は、フレイヤである。彼女は既にプラチナチケットの用途を定めていた。
「手数を増やすのも、魔法の威力を上げるのも優先される……だから、コレを選ぶつもりよ」
「ふむ、まぁ魔法職だもんね」
フレイヤの選んだのは、【スペルサークル】【拡張スキルスロット+1】【拡張スキルスロット+1】だ。
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スキル【スペルサークル】
説明:古の魔法使いが編み出した、魔法の力を増幅させる秘儀。
効果:魔法詠唱中、前方に展開されるスペルサークルに示されるスフィアをタップする事で、魔法の威力を増加させる。
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「新素材じゃないのは残念だけど、一応見てみる? デザイン案」
「……は?」
戸惑うフレイヤだが、それで遠慮する生産おじさんではない。ダイスの分と一緒に描いていた、いくつかのデザイン画を提示する。
「……こ、これは……!!」
「どうだい、お気に召すモノはあるかな?」
先に述べた通り、フレイヤさんはコスプレイヤーである。それも、衣裳を自作するガチのレイヤーさんだ。
そんな彼女から見ても、ユージンの提示したデザイン画は見事だった。そして、コスプレイヤーの血が騒いだ。
「……でもお高いんでしょう?」
「それが何と、今ならこのお値段でご提供」
どこぞの通販のようなやり取りである。フレイヤさんが陥落するのは、時間の問題だった。
……
次はレーナの番……なのだが、レーナだけではなくミリア・ルナ・シャインも一緒に入室した。
「おや、お揃いで……四人一度で良いのかな?」
「はい、お揃いにしたいので!」
四人揃って入室したことに対する”お揃い”に掛けて、製作依頼する品を”お揃い”にしたいという言い回しだ。レーナのその発言に、ユージンは苦笑してしまう。
「君達向けのデザインは考えてあるけど、見る?」
「さっすが……どんなのですか?」
ニヤリと笑ったユージンが、デザイン画を提示する。それを見たレーナ達は、思わず唸ってしまった。
「これは、中々……」
「安直にスカートとかじゃないのは高評価だわ」
「オー、ナイスデザイン! 私、これにアーマー付けたいです!」
「かなり格好良いね、私は良いと思うな」
四人の反応が上々だったので、ユージンは更に付け加えた。
「ミリア君は≪黒曜亀の甲羅片≫と【自動修復】を手に入れていたよね。それで、この服に合った防具を作ると良いんじゃないかな」
「……そうですね、是非」
「任せてくれ。ルナ君の≪オニキスドラゴンの抜け殻≫は、布系素材だね。魔法職だし……コートか何かにするかい?」
「あ、それなら袖が無いタイプのって出来ますか?」
「あぁ、問題ない。レーナ君は≪八咫烏の羽≫か」
「ですねー。あ、腰に巻くマントみたいなのが良いかな?」
「成程……じゃあ、こんな感じ?」
ユージンとのヒアリングで、一番時間が掛かったのはこのグループであった。
……
最後はリリィだ。
「……という訳で、この≪朽ち果てた楽器≫は魔法発動体になるだろうね。もしかしたら、レン君の魔扇みたいな効果があるかもしれないけれど」
ユージンの説明に、リリィは真剣な面持ちで頷く。
「解りました……これを修復する事で、新しい装備が手に入るんですね」
「あぁ。どうする、リリィ君。依頼をしてくれるならば、喜んで請け負わせて貰おう」
リリィはそこで、思考を巡らせた。
普段のリリィは、町の中にあるNPC鍛冶屋で装備の作成やメンテナンスを行っている。これはプレイヤーとの貸し借りが生まれるのを、避けたいと思っているからだ。
しかし≪朽ち果てた楽器≫を修復する事が、NPC鍛冶屋で可能なのか? それに他の鍛冶職プレイヤーに、その技量はあるのか?
――信頼したい、けど……。
リリィは、現役アイドル。だから、彼女に下心を持って接してくるプレイヤーは多い。目の前の人物が、そうでは無いとは限らないのだ。
だからこそ、リリィはユージンに尋ねてみた。
「ユージンさんは、何故……生産職を選んだんですか?」
その言葉に、ユージンは驚く事も不思議そうな顔をすることも無く、ただにこやかに頷いた。
「昔からね、モノを作るのが好きだったんだ。最初は必要に迫られてやっていたんだけど、その内あれもこれもとハマっちゃってね」
それは、どこか懐かしんでいるようだった。
「そうしたら僕の周りの人が、僕の作ったモノを喜んでくれたんだよ。それからかな……誰かの為に、何かを作り出したいって思うようになったのは」
そう言うと、ユージンは笑みを深めてリリィを見る。
「縁あって出会えた、このゲームのフレンドさんも同様さ。勿論、人は選ぶけどね。こう見えて、僕は偏屈なおっさん職人だから」
最後に嘯いて、ユージンは言葉を切った。
――さぁ、どうする?
そう言われている様に、リリィは感じた。迷いはあるが、選択肢は少ない。リリィは一度深呼吸して、決断した。
「是非、お願いします」
……
来客を見送ったユージンは、受注した依頼品のリストを見て笑った。ジン達五人の分に、ケイン達五人の分。そしてレーナ達四人分と、リリィの分。合計で十五人分の受注とは、ゲームを始めてから一度も無かった。
――こりゃあ、しばらくは外に出られないね。
しかし、同時に楽しみでもある。リリィに語った通り、彼は物作りが好きなのだ。更に言えば、気に入ったプレイヤー達の……ジン達からの依頼だ。
ケイン達の事も、レーナ達やリリィの事も気に入っている。そんな彼等の為に製作するのだから、手は一切抜けない。満足のいく物を、彼等に手渡してあげたい。
――興が乗るね。これらを装備した彼等が、どんな活躍をしてくれるやら。
ジン達が更に強くなり、大活躍してくれる。自分が拵えた装備を使用して、だ。その光景を思い浮かべると、ユージンは楽しみで仕方がないのであった。
次回投稿予定日:2020/7/28