19-16 マッチングしました7
PKK作戦が開始してから、現実世界で二時間……ゲーム内では、六時間が経過。三百一階層からマッチングを開始し、四百層に到達したコンビが増えていた。
センヤとヒビキもその中の一組で、五百七十階層のボスを倒した後に入れる中継ポイントへと転移していた。
「いやぁ、全然PKerとマッチングしなかったねぇ」
「そうだね……PKK参加者か、一般プレイヤーとしか当たらなかったもんね」
最初の二十階層は一般のプレイヤーとマッチングしたが、その後は二度ほどPKKに参加するコンビとマッチングした。そしてここに来るまで、PKer達とのマッチングは一度も無かったのだ。
ちなみにマッチングしたPKK参加組は【遥かなる旅路】のウィンフィールドとゼノン、【真紅の誓い】のカーマインとルビィだった。
そうこうしていると、今回のマッチング相手が転移して来る。相手は男女の二人組で、面識の無い相手だった……それもチャラい風の男と、ギャルっぽい少女である。
「ウィーッス、君らが今回のマチ相手?」
「ってかもしかして、【七色】の人~!? マ!?」
今まで交流した事の無いタイプの二人に戸惑い、センヤとヒビキは目を丸くしてしまう。しかし無視する訳にもいかず、ヒビキは前に出て一礼してみせた。
「は、初めまして。僕は、【七色の橋】のヒビキといいます」
「お、同じくセンヤです……宜しくお願いします」
二人が自己紹介をすると、チャラ男とギャルは相変わらずのテンションで口を開く。
「俺ァフリーランスで、テイルズってんだ。宜しくゥ!」
「あーしは、リリカね~! マチよろ~!」
随分と軽い感じの二人だが、勿論これは演技である。
――まさかPKKの気分転換で上の階層に来てみたら、【七色】とマッチングするとは思わなかったな。しかしこれは、嬉しい偶然ってやつだ。
――マストの資料だと、この二人は第五回イベントで忍者さん達と一緒に激戦区に居たって話だったわね……その実力を間近で見られるなんて、幸運だわ。
チャラい雰囲気の仮面の下で、冷静にこのマッチングについて考える二人。公にはしていないが二人もプロゲーマーであり、チームを率いる事もある立場だ。他のメンバーよりも思慮深く、そして洞察力も優れている。
そしてテイルズとリリカ……このチャラ男とギャルの仮面は、意外な利点があるのである。
「ホント、これァありがてぇわ。俺は年明けからプレイし始めた新参者でよォ」
「あーしも新規~! だからこれが、初めてのイベってワケ」
「二人は前衛か遊撃に、盾役兼アタッカー? 俺ァ長剣の前衛アタッカーだから、前衛三枚かぁ?」
「あーしは魔法職で、攻撃と支援だと攻撃寄りの構成ってカンジ。ま、いちおー【回復】と【支援】はアゲてっけど~? 声掛けてくれれば、ソッコー回復飛ばすわ」
口調はチャラいが、内容はしっかりとしたパーティ構成における自己申告。これにはセンヤとヒビキも、「思ったより意思疎通は出来るかも」という気にさせられた。
真面目な人間が突然チャラくなると、違和感を感じて「何か裏があるんじゃ?」と思われる。しかしチャラチャラした人間が真面目な事を言うと、「あぁ、意外としっかりしているんだな」といった方向に誘導しやすい。
テイルズとリリカは、【フロントライン】の事務所外の人間との対話の機会が多い。故にこうして、話題を誘導しやすいキャラクター像を選択しているのだ。
そうこうしていると、最後の一人が転送されて来る。その人物はセンヤとヒビキの姿を見て、顔色を変えた。
「……【七色の橋】ッ!?」
その人物はつい先日、ジン達によって陰湿な目論見を打ち砕かれた男……ギルド【竜の牙】のメンバー・ソウリュウだった。
「あ、はい! 初めまして、【七色の橋】のセンヤです!」
「お、同じくヒビキです……マッチング、宜しくお願いします」
ソウリュウと面識がない二人は、相手が【竜の牙】のメンバーという事しか解らない。なのでひとまずは、普通に会釈をして挨拶をするに留めたのだった。そんな二人にテイルズとリリカも続き、ソウリュウが自己紹介をする流れになる。
内心では【七色の橋】に所属する二人に悪態を吐きつつも、ソウリュウは表情を取り繕って笑みを浮かべる。
「……【竜の牙】のソウリュウだ、宜しく頼む」
その名前を聞いたセンヤとヒビキは、一瞬で状況を察した。本人との面識はなくとも、彼が【ラピュセル】のイザベルを脅していた件については知っていたのだから当然だ。
そこでヒビキは、詳細について知らない風を装って言葉を投げ掛けた。
「はい、どうぞ宜しくお願いします。えーと、ソウリュウさんは前衛タイプ……ですよね? 【竜の牙】の方は実戦経験も豊富でしょうし、僕とセンヤちゃんは遊撃が良いでしょうか?」
ソウリュウは右手に長剣、左手にラウンドシールドを装備した前衛アタッカーだ。攻撃と防御を両立するのはヒビキも同様だが、装備性能は勿論ヒビキの方が上である。何せ、AWO屈指の生産職人達が拵えた装備なのだから。
それを理解した上で、ヒビキはソウリュウに問い掛けていた。
その態度にソウリュウは眉を僅かに動かしてみせたが、何とか取り繕った表情を維持しながら返事を返す。
「いやいや……【七色の橋】のメンバーに比べたら、俺なんてまだまださ」
ヒビキの言葉の真意を探る様に、ソウリュウは目を細めてそう笑う。それに対し、ヒビキは苦笑しつつ首を横に振る。
「いえ、僕達は途中から加入したメンバーですから……それにVRMMOもAWOが初めてで、戦闘経験もまだまだなんです」
ヒビキはそう言うが、その比較対象はあくまでジン達……AWO最高峰とされる、トッププレイヤー達だ。他の一般的なギルドや、後発組達と比べると実戦経験の密度の濃さは段違いである。
勿論、その点についてもヒビキは自覚している。その上で、ソウリュウに言葉を返しているのだった。
「ヒイロさん達から聞いた話ですが、LQOというゲームから移籍されたんですよね? 経験豊富な方にお任せするのが、一番良いのかなって思って」
相手を立てるような態度でそう告げるヒビキに、ソウリュウは思考を巡らせる。
――こいつらは、あの会談の顛末を聞かされていないのか? まぁ忍者達に比べたら、こいつらは平凡そうなガキだしな……ウチの末端共と同じで、方針や展望には関わってねぇのかもしれねぇな……。
そう思ってソウリュウは、得心したとばかりに頷いてみせた。
「そういう事なら、了解した。そっちの二人も、それで構わないのかな?」
「おう、異論はねぇよ」
「おk~! んじゃ、よろ~!」
ソウリュウ……彼はまだ知らない。イザベルとの一件を、センヤとヒビキが知らないフリをしている事を。そしてテイルズとリリカが実はプロゲーマーであり、かなりの実力者なのだという事を。
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ソウリュウが何やらフラグを立てている、丁度その頃。
「あら? お疲れ様です!」
「これはマリーナ殿に、サブリナ殿。お互い、小休止といった所ですか。お疲れ様です」
マッチングで顔を合わせたのは、クラン【十人十色】に所属する者同士だった。片方はギルド【ラピュセル】に所属する、マリーナとサブリナ……そしてサブリナのPACヴェロニカ。片やギルド【忍者ふぁんくらぶ】に所属するメンバーで、女子二人男子一人の三人組だ。
「確か、【アゲハ】さん……でしたよね?」
サブリナがそう問い掛けると、亜麻色のロングストレートの髪を持つ美少女・アゲハが嬉しそうに微笑んだ。
ハナビと同行していたアゲハだが、予定通りにPKKを一巡して一旦休憩になった。ハナビは一度補給で[試練の塔]を離れる為、リアルで交流のある仲間と合流する事にしたのだ。
「はい、アゲハと申します。名前を憶えて頂けていたとは、光栄です」
小柄ながらもキリッとした顔立ちの彼女は、丁寧な挨拶でサブリナに応えた。更に続いて、彼女が同行する二人を紹介した。
「こちらは私の学友の【カスミ】と、その弟である【ゴエモン】です」
アゲハに紹介された二人は、礼儀正しく一礼し挨拶の言葉を口にする。
「紹介に預かった、カスミでございます。お二方と同行する機会を得られた事、幸甚に存じます」
「ゴエモンと申します。以後どうぞ、お見知り置きを」
カスミは長身で、黒髪ロングに紫色の瞳を持つ美女だ。その弟であるゴエモンは真紅の短髪を逆立て、ヤンチャそうな顔つきの少年である。
丁寧な挨拶を受けて、マリーナとサブリナも笑顔でそれに応える。
「改めて【ラピュセル】の弓使い、マリーナです」
「同じく、魔法職のサブリナです。マッチング、宜しくお願いします」
【ラピュセル】側はマリーナが弓使いで、サブリナが魔法職。そしてPACである大剣使いのヴェロニカに、前衛を務めて貰う編成だ。
「こちらこそ宜しくお願い致します。私は両手の≪小太刀≫で戦う、遊撃役を務めております」
「自分は≪打刀≫を使います。直剣使いに、【刀剣の心得】が追加されたという認識で頂ければ」
アゲハとゴエモンがそう言うと、カスミに視線を向ける。彼女は頷いて、腰に差した刀を鞘ごと手に取った。
「私の装備は……」
そのままカスミが刀を抜くと、その柄を鞘に差し込んだ。マリーナとサブリナはそれを見て驚くが、カスミはそのまま鞘部分に巻かれた布……柄巻ならぬ、鞘巻部分を持った。
「生産職人であるハヅキの製作した、この薙刀でございます」
刀かと思ったら、薙刀だった。勿論この状態で、【槍の心得】の武技を扱えるらしい。ただし本来ならば使えそうな、【長剣の心得】は扱えないそうだ。
「【ふぁんくらぶ】の皆さんの武器って、結構変わった物が多いですよね」
「浪漫武器っていうのかな? ちょっと面白いよね」
「ハヅキの発想力のお陰でしょうか」
「彼女の作る装備は、中々興味深いものが多いんです」
興味津々な様子を見せる、マリーナとサブリナ。そんな二人に応える様に、アゲハとカスミは談笑に応じる。
ちなみに談笑の中で判明したのだがマリーナとサブリナは高校三年生で、カスミも同学年だった。ちなみにアゲハは高校二年生で、カスミとは学年差はあるが親友同士というわけである。
その話題に至るまでの間、ゴエモンは姉とその友人に加わる様な立ち位置で……内心、頭を抱えていた。
――姉貴はともかく、アゲハさんにマリーナさんにサブリナさん……年上お姉様三人プラス姉貴に、男は俺一人とかマジかーッ!! き、緊張する……た、助けてアニキッ!!
ゴエモン……彼が心の中で助けを求めた”アニキ”とは、ご存知【七色の橋】の新メンバー・イカヅチである。イカヅチの知人で彼をアニキ呼びする、【忍者ふぁんくらぶ】メンバー……そう、イカヅチこと寺野数満の同級生が、このゴエモン……本名【井手 社】である。
ちなみに彼の姉であるカスミこと【井手 命】と、その親友であるアゲハこと【古狩 亜央】。この二人が、ゴエモンを【忍者ふぁんくらぶ】に引き摺り込んだ元凶である。
……
尚、彼が引き摺り込まれた経緯だが。
「社、AWOを始めるって言っていたわよね?」
「社君、私達が所属するギルドに来ない? 今、メンバーを募っているところでさ~」
「あ、姉貴? 古狩センパイ? 目、目がこえーんすけど……」
ささやかな抵抗は意味を成さず、初ログインと同時に彼はギルドホームへと連行された。そして真っ先に始まったのは、AWO初の忍者にして最速プレイヤーであるジンの活躍についての解説。
最初は乗り気では無かった社だったが、第一回イベントでレーナと組んだジンの戦いぶりに絶句。更にはヒメノを救ったあのシーンを見て、思わず立ち上がってガッツポーズ。それ以降の映像も食い入るように視聴した結果、沼に引き摺り込まれる事を受け入れたのだった。
余談だがジンがイカヅチとイトコであり、互いに顔立ちが似ていたのも一因かもしれない。
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そんな平和な光景とは、打って変わるのは[試練の塔]北側三百五十階層の中継ポイント。そこで三人のプレイヤー……PKerが必死に攻撃したり、攻撃を防いだりしている。
「うおおおっ!! は、速くあいつらを殺れェッ!!」
「うっせぇ!! お前はしっかり盾を構えてろッ!!」
「クソッタレが!! まさかあいつらと遭遇するとはッ!!」
その相手は当然PKKに参加した二人組であり、その内の一人は年明けの騒動に参戦した女性であった。
双方が攻撃する際に、発生する音……それは、銃声である。
【暗黒の使徒】に所属するPKer……ブルードとドベルの銃使い二人に、【ダルメシアン】という大盾使い。ダルメシアンが攻撃を引き受けてブルードとドベルが交互に攻撃するのが、今回のMPKにおける彼等の戦術である。
そんな彼等が遭遇したのは、同じく銃を扱う有名なプレイヤー集団の二人だった。
「今更だけど、あの銃ってどこの生産職人が作ったのかな」
「確かに。ユージンさん以外に、銃を作れる人が居るって事だもんね?」
「うん。まぁ、性能はやはりお祖父様の品の方が上だけど」
銃という単語で真っ先に思い浮かぶギルドといえば、十中八九【魔弾の射手】だろう。
そして【暗黒の使徒】三人がマッチングしたのは、その中でも特に有名なプレイヤー。第一回イベントの時点で、銃を駆使した戦いを披露したレーナ。そして年明けに起きた事件で、彼女の婚約者と知れ渡った少年・トーマである。
ちなみにトーマが言う通り他のプレイヤー達が使用する銃と、ユージンが製作した銃は性能が大分異なる。
「クソッ……同じ銃なのに、あっちは連射しまくってんぞ!!」
「それだけじゃねぇ、射程も違う……!!」
流石に火縄銃の様な旧式の銃ではないものの、多くの場合は西部劇等で用いられる回転式拳銃だったり、手動式ライフルだったりだ。それよりも古い物だと、十七世紀頃に使用されていたフリントロック式の銃を使用したりしている。
それに対してユージンの製作する銃は、実在する近代的な銃をモチーフとした物ばかり。同じタイプの銃種であっても、射程距離・装弾数・使用感において優れている。ちなみに攻撃力……固定ダメージの値は、流石に変わらないらしい。
更に問題なのは、レーナとトーマの回避能力の高さだ。
「死ねぇっ!!」
「それは出来ない相談だね」
ブルードの≪リボルバーピストル≫の攻撃を、サイドステップで難なく避けるレーナ。その表情には焦りの色は無く、彼女がまだ余裕を残しているのが見て取れる。
――多分、ハヤテ君と戦った後に銃の特訓をしたのかな。射線切りも意識しているみたいだし、モンスター相手で偏差撃ちも練習したんだろうね。
しかし、それでもまだ足りない。AIで思考制御されているモンスター相手に命中率を上げたとしても、銃使い同士の戦いではアドバンテージを得ることは出来ない。
何故なら自分の動きを予測して、相手は進路上を狙うと予測し返すのが当然だからである。そして彼女はそういった戦いの経験値が高く、視線や銃口の向きで相手の狙っている位置を瞬時に察する事が出来るのだ。
一方、トーマはレーナとは異なる避け方をしていた。
「何だこのガキッ!! MA●RIXかよッ!!」
「別に狙っている訳じゃないけど……確かに、アレに似ているのかもしれないね」
レーナは跳び退いたり身を屈めたりして、銃弾を回避する避け方だ。しかしトーマは大きく動かずに、最小限の動きで命中を避けている。紙一重の回避術なのだが、やはりトーマの表情は涼し気だ。
――まぁ、素人ならばこんな所だろうな。
自分を狙うドベルを見れば、銃の使い方がまだまだ甘いとトーマは断じていた。
照準を定めるまでに時間が掛かり過ぎで、相手の動きを予測する時にも迷いが見て取れる。
第一、馬鹿正直に銃撃だけで応戦するのは愚策だ。自分ならば銃は牽制用にして、相手の動きを制限し≪爆裂玉≫等を投擲してダメージを与える。その上で、最後のトドメに弾丸を撃ち込む。
そんな事を考えつつ実行に移さないのは、トーマが彼等に対して憤っているからである。
そうして弾丸を撃ち尽くした二人は、サッとダルメシアンの背後に身を隠す。するとレーナとトーマは、共に≪アサルトライフル≫で銃撃を開始。
ダルメシアンの大盾は一部が透き通ったクリスタルの様な物で出来ており、そこから前の様子を見る事が出来る。その為、大盾で全身を隠しながら敵の様子を覗う事が可能だった。
「くっ……当たらねぇ!!」
「どうする? 今ならまだ、バックレられるぞ……」
「諦めんな!! 奴等をKILLしたら、銃を落とすかもしれねぇ……そうしたら、更に戦力増強になるんだからよ!!」
「「……確かに!!」」
ダルメシアンの言葉を受けて、ブルードとドベルも戦意を回復させる。見た目も性能も優れている銃をドロップするかもしれないと考えたら、この戦い負けるわけにはいかないという気にさせられた。
「この部屋はそう広くねぇ、隅に追い込んでやれば盾を持ってるこっちの方が有利だ」
「弾丸を切らさねぇ様に、注意しようぜ」
大盾で射線を切りつつ、レーナとトーマを追い詰める策を練る三人。銃に弾を籠め、準備万端となった所で銃撃が一旦止む。ダルメシアンが大盾の透き通る部分から確認すると、レーナもトーマも弾切れを起こしたらしくマガジンを交換しようとしている所だった。
「今だッ!!」
「オラァッ!!」
「死ねェッ!!」
放たれる銃撃は、勿論レーナとトーマを捉える事は無い。しかし二人を狙った銃撃は、あくまで部屋の隅へ追い込む為の攻撃だ。当たればラッキー程度の考えである為、ブルードもドベルも落ち着いている。
そうしている間にダルメシアンは二人に向けて前進し、行動範囲を狭めようと画策する。
ダルメシアンが冷静に二人を観察すると、回避に専念する事でマガジンの交換が出来ない様子だった。
――良いぞ、落ち着いてやれば行けるじゃないか……ッ!!
ダルメシアンが、そう思った瞬間。
「誘導完了、これより殲滅に移行する」
「オーケー、片を付けようか」
レーナは≪アサルトライフル≫から手を離し、ポーチから取り出したアイテムをダルメシアンの頭上に向けて高く放り投げる。
「くっ……爆弾アイテムか!? 前に出る、お前等は左右からッ!!」
「チィッ!!」
「やってやらぁっ!!」
ダルメシアンはレーナとトーマに向けて駆け出し、アイテムの落下地点から距離を取る。ブルードとドベルはそれぞれ斜め前方に駆け出して、それぞれの標的目掛けて銃撃を続ける。移動しながらの銃撃なので、先程よりは狙いが悪くなっている……が、ハヤテとの戦闘で得た教訓は、一応生かしているらしい。
だがレーナとトーマは、それに動じず動き出す。迫るダルメシアンに向け一歩を踏み出し、一瞬視線を合わせて口元を緩め……そして、跳んだ。
「な……っ!?」
レーナはダルメシアンの右肩に手を置き、そこを支点にして前方回転。接近して来たダルメシアンをやり過ごし、逆に隅へと追い詰める形だ。
トーマはダルメシアンの左肩を足場にして、更に跳躍。そのまま空中で、COLT SAA型≪リボルバーピストル≫を装備。両手を広げた状態で、無造作にブルードとドベルに向けて引き金を引いた。
「ぬぉぁっ!?」
「馬鹿なぁっ!!」
二人は全く同じ場所……眉間、両肩、両太腿、心臓の位置に銃撃を受け、HPを全て喪失。全身から力が抜けて、崩れ落ちる。
レーナは左手にM1911型≪オートマチックピストル≫を手にしつつ、右手で後ろ腰に差していた打刀≪黒猫丸≫の柄に手を掛ける。
振り返りながら≪オートマチックピストル≫の引き金を引き、同時に鞘から≪黒猫丸≫を抜くレーナ。その弾丸がダルメシアンの背に撃ち込まれ、HPを削っていく。
「な……めるなぁっ!!」
ダルメシアンは焦りを覚えつつも、振り返って大盾を構え直し……その瞬間、足元で爆発が起きた。
「のわあぁっ!?」
爆発の原因は、跳躍する前にこっそり転がしておいた≪爆裂玉≫によるものだ。予想外の爆発を背後で発生させる事で、ダルメシアンの体勢を崩す為の仕込みである。
「【一閃】」
するりと滑り込む様に、ダルメシアンの目前まで接近したレーナ。その瞬間に武技を発動させた彼女は、ダルメシアンの左肩から右腰へと斜めに線を描く様に刀を振り切る。激しいライトエフェクトが発生すると同時に、ダルメシアンのHPが底を突いた。
三人纏めて、戦闘不能。それでも【不屈の闘志】や≪聖なるメダル≫による、自己蘇生の可能性は残っている。故にレーナもトーマも、警戒を緩める事は無い。
「チクショウ……こんなはずじゃ、なかったのに……ッ!!」
うつ伏せに倒れながら、そんな事を口にするダルメシアン。そんな彼を見下ろしながら、レーナはポツリと一言呟いた。
「自業自得、因果応報でしょう? その上で敗北したのだから、潔く受け入れる事ね」
次回投稿予定日:2024/12/30(本編)
※12/25、こぼれ話でまたイベント物いきます!




