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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十九章 第五回イベントに参加しました・弐
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19-08 気分転換のはずでした

 高校受験を目前に控えた、隼と拓真。彼等の通う中学校は、受験生の入試対策の時間を確保する為に、午前で授業が終わっている。

 二人はすぐに帰宅して、昼食を済ませたらすぐにAWOにログイン。ギルドホームの大広間に集まると、インターネットを利用しての高校受験対策に取り掛かる。とはいえ切羽詰まった様子は無く、過去問を解いて理解度の再確認といったところだ。

「タク、答え合わせ終わった?」

「うん、安定して八割は出来ているかな。そっちは?」

「まぁ一応、九割はいってる」

「流石だね」

 三年分の過去問を解き終えた二人は、身体を伸ばしてリラックスの体勢に入る。仮想現実内なので肩や腰が凝るという事は無いが、気分的なものだろう。


「現実だとまだ十八時か……皆がログインして揃うまで、早くても一時間は掛かるかな?」

「そッスねぇ……時間加速してるから、体感だと三時間か。気分転換に、二人で[塔]に行ってみるッスか?」

「そうだね、気分転換には丁度良いかも。どうせなら、四神ドロップでも目指す?」

「アリ寄りのアリッスね」

 銃撃による後衛のハヤテと、両手短槍で前衛のナタク。共にVRMMOに精通している二人であり、連携的にも不安はない。更にハヤテには【一撃入魂】、ナタクには【ドッペルゲンガー】という強力な切り札もある。

 こうして二人は、仲間達が揃う前に[試練の塔]でドロップ目当ての周回を行う事にしたのだった。


……


 二人は早速、南側の[試練の塔]へと向かった。理由はハヤテが、朱雀の四神スキルが欲しかったからだ。

「まだ掲示板でも、朱雀の四つ目のスキルについては情報が無いみたいだね」

「他の四神は、ドロップ報告があったッスからねぇ」


―――――――――――――――――――――――――――――――

 《玄武の宝玉》

 効果:装備に使用する事で、玄武のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。

 スキル:【硬化】【加重】【玄の衝撃】【武の護甲】


 《朱雀の宝玉》

 効果:装備に使用する事で、朱雀のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。

 スキル:【滞空】【軽量】【朱の羽撃】【????】


 《白虎の宝玉》

 効果:装備に使用する事で、白虎のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。

 スキル:【縮地】【俊敏】【白の狩猟】【虎の瞬脚】


 《青龍の宝玉》

 効果:装備に使用する事で、青龍のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。

 スキル:【延長】【鋭利】【青の咆哮】【龍の打鞭】

―――――――――――――――――――――――――――――――


 実際にクラン内でも、数名のメンバーが四神スキルを新たにゲットしている。ナタクもお目当ての【縮地】は得られなかったが、代わりに【虎の瞬脚】をゲットしていた。

「ハヤテの狙いは、四つ目?」

「んにゃ、【軽量】か【朱の羽撃】」

 ハヤテの主武装である銃……特にFAL型≪アサルトライフル≫は、重量もそれなりにある。銃の取り回しに関してはお手の物だが、移動に費やされる労力が上がるのだ。【軽量】が手に入ったならば、その重量問題を大幅に軽減できる。

 そして【朱の羽撃】を求めるのは、ハヤテの弱点の一つ……範囲攻撃が無いという点を、解消する事が出来るからだ。一対多の戦闘において、範囲攻撃の有無は大きい。


「タクは? やっぱ【朱の羽撃】か、新スキル?」

「新スキルが気になるのは実際あるけど、【滞空】も気になってるんだよね。【虎の瞬脚】は機動系スキルで、空中でも発動可能だし。滞空時間が増える事で、より多彩な攻撃を繰り出せそうだと思ってさ」

「それをドッペル君と一緒にやったら、DPSかなりエグいんじゃない?」

 そんな事を話しつつ、二人は[試練の塔]に挑む為の転移門へと到着する。まだ比較的早い時間なので、プレイヤーの数はまばらだ。


 さて。二人は今回変装はせずに、普段通りの装備でここまでやって来た。そうなると、どうなるか? 結論、目立つ。めっちゃ目立つ。

「【七色】のハヤテと、確かナタク……? 他のメンバーは居ないのか?」

「何か、楽しそうに会話してるな。仲良いみたいだな、あの二人」

「そういえば二人共、カラーリングがオレンジだよな。オレンジコンビって所か」

「そこは橙色組って言った方が良いんじゃないかしら? ほら、和風な方がしっくり来ない?」

 周囲のプレイヤー達は、二人の様子に興味津々だ。そうなるのも、仕方が無いと言えば仕方が無い。

 普段目撃されるのはギルドメンバー勢揃いか、ハヤテとアイネ・ナタクとネオンの恋人ペア。もっともナタクとネオンの関係は、まだ外部には広まってはいないが。もしくはクラン内での混成パーティが、最近では多いのだ。


 そんな外部のプレイヤー達の視線に苦笑を浮かべつつ、二人はマッチングシステムを起動する。

 今の時間帯だと社会人は少ないだろうから、学生がメインだろうか。そんな事を考えていたら、早速転送が始まった。

 転送された先は、三百階層のチェックポイント。三百一階層に向かう為の入口がある場所だ。現在攻略中の階層から、大分低い階層だ。これはマッチングする相手によっては、バランスが悪く苦戦を強いられる可能性を考慮しての事だった。

 逆に言うとこの辺りの階層ならば、ハヤテとナタクの二人で十分突破可能な難易度という事である。


「さてさて……鬼が出るか、蛇が出るか~?」

 どんな相手でも構わないといった具合に笑うハヤテに、ナタクは苦笑する。

「ウチの場合だと鬼ならカリスマ鎧武者か最硬盾職(タンク)で、蛇だったら絶対破壊の御姫様じゃん」

「言われてみれば、それはそう」

 ことわざを使ってみたら、身近な存在が該当する事になった。

「狐の嫁入りだと、ジン兄がお嫁に行く……? ヒメさんとこに」

「ジンさんを女装させて、ヒメノさんを男装させたら?」

「想像しちゃったんスけど……ジン兄細マッチョだから、パッツパツにならん?」


 そんな冗談を話していると、やがてプレイヤーが転送されて来た。

「おっ? 【七色の橋】の……」

 最初に姿を見せたのは、初めて顔を合わせる青年だった。しかし特徴的な真紅の鎧で、彼がどのギルドに所属しているのかはおおよそ察する事ができた。

「初めましてッスよね? ハヤテッス、どうぞ宜しくお願いするッス」

「初めまして、ナタクです。今回のマッチング、宜しくお願いします」

 二人は堅苦しくならない様に、しかししっかりと挨拶をする。そんな二人の様子に、青年もニッと笑みを浮かべて頷いた。

「あぁ、こちらこそ宜しく! 俺は【真紅の誓い】に所属している、【カーマイン】だ」


 すると、続いて二人のプレイヤーが同時に転送されて来る。同時という事はハヤテ・ナタク同様、二人パーティでのマッチングだろう。

「……あら? あらあらあら!?」

「嘘、【七色の橋】のハヤテ君にナタク君!? やば、超ラッキーマッチじゃん!」

 そう告げた女性二人も、初めて会うプレイヤーだ。そのまま挨拶に移行すれば、彼女達が【フィオレ・ファミリア】に所属するメンバーだという。名前は両手短剣使いのユノと魔法職の【ミーネ】で、彼女達はフィオレから【七色の橋】や【十人十色ヴェリアスカラー】について色々と聞いているそうだ。


「幸先良いマッチングッスね?」

「だね。カーマインさんは、盾役で良いんでしょうか」

「おう、勿論だ。この大盾は飾りじゃないぜ! まぁ、君等の所のシオンさんには劣るとは思うけどよ」

 早速五人で編成について相談し、メインアタッカーはナタクが務める事になる。主砲役は勿論ハヤテで、ミーネは支援と回復のサポーター。そんな二人の防衛をカーマインが務め、ユノは遊撃しつつナタクの取り零しを迎撃する役割となる。

「それじゃあ宜しくっ!」

「頑張りましょー!」

「おう、宜しくな!」

 カーマインも、ユノとミーネも気持ちの良い人物らしい。ハヤテとナタクも気合いを入れる三人に合わせ、同じ様な言葉で応えるのだった。


************************************************************


 そこから先も、十層ごとに三百一階層からリスタートで周回をするハヤテとナタク。

 その中で時折面倒臭そうなプレイヤーと遭遇する事はあったものの、【七色の橋】というネームバリューから露骨な迷惑行為をされる事は無かった。実績というものはこういう時にも大きな武器になると、ハヤテとナタクはマッチングの間に感じていた。

 そうして四神ドロップ周回を続けて、八回目のマッチング。


 二人が待つチェックポイントに、転送されて来たのは大柄な短髪の男だ。男は仏頂面をしてハヤテとナタクを見……そして、クワッっと目を見開いた。

「【七色の……橋】ィッ!!」

 手にした得物を振り被り、目を血走らせて駆け出す男。その様子を見て、ハヤテは「あー……」となんとも言い難い声を上げた。何せ男の頭上に表示されているカラーカーソルは、真っ赤に染まっているのだ。


 一方ナタクは、ハヤテに向けて全力疾走する男を阻止すべく両手の短槍を構えて走り出す。

「させない……!!」

「退け、小僧ッ!!」

 迫る男の形相は憤怒に満ち、自分よりも大柄な彼を止められないんじゃないか? そのまま力任せに攻撃されて、無様に地面に転がされてしまうのではないか。

 過去のナタクならば、そんな事を考えて竦み上がったかもしれない。しかし、今の彼は違う。

 仲間達……そして最愛の少女である、ネオンの存在が彼を変えた。恐怖心を乗り越えて、仲間の為に自分が今出来る事を全力で……そんな強い想いを持つ今のナタクは、暴力的なプレイヤーになど怯んだりはしない。


「退かないなら……いやっ!! 貴様もリア充だなッ!! ならば貴様からアッ!!」

「そうは問屋がってね……はぁっ!!」

 武技を使用せずに純粋なプレイヤースキルで男の行動を停めるべく、短槍を連続で突き出すナタク。腕に、太腿に、肩に……男の動きを阻害する様に、的確に突きを繰り出していく。

「ぬぅ……ッ!! だが、これしきで俺は止められんぞッ!!」

 そう叫んだ瞬間、男は手にした得物……釘の刺さったバットを振るうが、ナタクはそれを跳躍して回避する。相手は大振りな攻撃で、隙だらけの状態……ナタクは、このタイミングを待っていた。


「【虎の瞬脚】」


 それは今回のイベントで手に入れた、一瞬で間合いを詰める四神スキルだ。勿論、一日四回限定なのは他のスキルと同様である。【縮地】と違って自由に行先を選択は出来ないが、代わりに移動可能な距離は長くなっている。

 このスキルは、空中でも発動可能。そしてナタクは男の真上に跳び上がっていた為、男の頭上に一瞬で接近した。その一瞬の接近に、男は目を丸くして驚きの表情を浮かべる。

「【ハードピアス】!!」

 頭頂部に短槍の攻撃を受けてしまえば、流石に男も強行突破は出来なかった。

 止まった足は崩れ膝を突き、まるで土下座をさせられるかの様に頭を垂れる形となっている。無論、男は怒りで更に顔を歪めた。


 そんな中、更に二人のプレイヤーが転送されて来た。他の二人にも手伝って貰うべきか……そう考えたナタクだが、その可能性を即座に否定した。

「ぬぅっ!? な、【七色の橋】っ!?」

「まずい……いや、逆だ!! これはチャンスだ!!」

 何故なら、その二人のカラーカーソルも重犯罪者を示すレッド。恐らく、会話の内容からも最初の男の共犯者だろう。

「「覚悟しろぉっ!! このリア充共めっ!!」」

 その言葉から解る通り、襲い掛かって来たのは【暗黒の使徒】。最初に転移して来たのはビスマルク、後から転移して来たのはモーリとナインだ。


「タク、頼んだ」

「ハヤテ、お願いね」

 全く同時に、お互いの考えを察して声を掛け合う二人。その事に一瞬笑みを浮かべるが、二人はすぐに表情を引き締め直す。

 ハヤテとナタクはそのまま視線を合わせる事無く、堕ちる所まで堕ちた【暗黒の使徒】の面々を迎撃する。


「あらよっと!!」

 ガンベルトに装備していたアイテムを、ハヤテはビスマルクに向けて投げる。

「無駄だ、無駄ッ!! 【武の護甲】ッ!!」

 ハヤテの投げたアイテムが≪爆裂玉≫だと見越し、ビスマルクは四神スキルを発動。どうやら彼も、四神スキル取得に向けて周回を重ねていたらしい。

 しかし、それは《爆裂玉》ではなかった。ビスマルクの【武の護甲】に触れた瞬間、アイテムは弾けて大量の煙を噴き出す。

「煙幕……!? ふん、視界を封じて攻撃する気かぁッ!!」


「【ドッペルゲンガー】!!」

 ビスマルクがハヤテに意識を向けた瞬間に、ナタクはかつてのアバターであるマキナの【ドッペルゲンガー】を召喚。そのままビスマルクを無視して、モーリとナインに向けて駆け出した。

 モーリとナインはそれに驚く事なく、煙幕を抜けて来たナタクとマキナにそれぞれ襲い掛かる。

「そのスキルは第四回で確認済みだッ!!」

「貴様がマキナから転生した事もなぁッ!!」

 自分達が驚くと思ったら大間違い、そんなニュアンスが込められたその言葉。ナタクはそれに動じる事無く、モーリとナインとの打ち合いを始める。


「貴様が破壊力を増すユニークスキルを所持している事は、把握している」

 煙幕の中でビスマルクはそう告げて、ハヤテが居るであろう方向に釘バットを向ける。その目は憎しみに染まり、本来の意味での殺意すら感じさせるものだった。しかし、それでも尚ビスマルクは冷静だ。

 そしてビスマルクが、ハヤテが居ると認識している方向は正確だった。恐らくは彼等が持つ謎の能力……リア充感知センサーによるものだろう。今更だが、こいつらは一体何なのか。

「銃にとっては、盾が天敵。いくら破壊力を込めていようと、その仕様には逆らえまい……それならばッ!! 【変身】ッ!!」

 ビスマルクは【変身】を発動させ、その身を漆黒の鎧で包む。更に彼は、システム・ウィンドウを操作して黒い大盾を取り出し……それが、宙に浮いた。

「……ほーん、【ゴーストハンド】ッスね」

「ふん、流石に気付くか……まぁ良い!! 一撃で俺を倒せると思うなよッ!!」

 言葉通り、大盾で自身を守りながら突撃を開始するビスマルク。


 確かに盾は、銃弾の固定ダメージを無効化する。そしてハヤテの一撃ならば【変身】のAPを一気に尽きさせる事は出来るが、その一撃はビスマルクのHPを減らすには至らない。

 そしてハヤテの【一撃入魂】は、MPを充填するのには時間を要する。つまり渾身の一撃を放ってビスマルクのAPを削っても、そのままビスマルクは突進して来るという事だった。

 近付かれれば、確かに不利どころではなく命取りになる。ハヤテはそれを理解しつつ……ニヤリと不敵に笑った。

「こんな小細工は無駄だッ!! 煙幕の中であろうと貴様の気配は察知しているッ!!」

 ビスマルクがそう告げた瞬間、銃声が響き渡る。ビスマルクが【ゴーストハンド】で構えた大盾の下……そんな僅かな隙間を狙った弾丸。それが、ビスマルクの右足に命中。その一撃がビスマルクのAPを奪い去り、【変身】を一瞬で解除させる。


 しかしビスマルクも、【変身】を解除される可能性は織り込み済みだった。むしろ絶好のタイミングは、今この瞬間だと確信している。

「力を高めるのにどれくらい掛かる!? 五秒か、それとも十秒か!!」

 その読みは正解で、ハヤテはMPを充填し切れていない。ハヤテのユニークスキル【一撃入魂】は、MPを消費して攻撃のダメージ値を増加させる。しかしMPを充填するのには、時間が掛かるのだ。

 目を血走らせつつ、自分が有利な戦況に持ち込んだビスマルク。煙幕をものともせずに自分の得意な間合いまで迫り、ハヤテを攻撃の有効範囲内に捉えた。

「今日こそは貴様等を、爆発させてくれるわぁッ!!」

 勝利を確信したビスマルクは、ハヤテを屠ろうと釘バットを振り被ってそう叫んだ。


「くふふ……爆発が好みかえ? ならば、丁度良かったのう」

 それは、女性の声だった。


 アイテム効果時間が切れつつあり、煙幕が薄れていく。そんな空間にどこからともなく姿を現したのは、艶やかな黒髪を靡かせた妖艶な美女。

 彼女は右の手を広げており、その指先には小さな球体の火球が灯っている。それは大規模PKの際に披露した、ハヤテの入れ知恵で実現した離れ魔法わざ

「たぁんと喰らうが良い!!」

 放たれた五つの火球は、ビスマルクに一発。そしてモーリとナインに向けて、二発ずつ飛んでいく。


 ハヤテが煙幕を張ったのは、視界を封じる為ではない。システム・ウィンドウを操作して召喚した、自分のPACパック……カゲツの存在を、気取られない為の目晦ましだった。

「さっすがカゲっちゃん!!」

「合わせるよ、マキナ(ぼく)!!」

 カゲツの火球に合わせる様に、ハヤテは銃口をビスマルクに向ける。同時にナタクはモーリ、マキナはナインへと接近。


「喰らいな、【アサルトバレット】」

「無駄だぁッ!!」

 盾を突き出したビスマルクは、正面からハヤテの弾丸を防ぐ。それは彼の視界を塞ぐ事になり、ハヤテの真の狙いには気付けなかった。

「メインディッシュはこっちッスよ……【フライクーゲル】」

 銃を形作る様にした右手、その一指し指の先端から放たれた魔力の弾丸。これは銃弾ではなく魔法攻撃であり、盾で防御しても余剰ダメージを受ける事になる。

「なっ……!? 銃弾は、囮かッ!! だ、だがまだだっ!! ま……だ……!?」

 ビスマルクの視界には、飛来して来るカゲツの魔法。駄目押しのそれは、ビスマルクのHPを大幅に削り……そして、焼き尽くした。


 同時にナタクとマキナも、ヒット&アウェイでモーリとナインの動きを封じていく。

「このっ……鬱陶しいわぁっ!!」

「それ、こっちの台詞なんだよね」

 ナタクの狙いは彼等の足を止め、カゲツの魔法を喰らわせる事だ。相手の動きを読み、狙った場所へと誘導し、カゲツの魔法を命中させる。見た目の派手さは無いものの、やっている事は高等技術である。

「ぐあっ!? な、にぃっ!?」

「ナインッ!! って、うおぉっ!? 俺もぉっ!?」

 ほぼ同時にカゲツの【ファイヤーボール】がモーリとナインに着弾し、そのHPを消し飛ばす事に成功したのだった。


「ふぅ……タク、大丈夫ッスか?」

「お陰様でね。カゲツさんも、ありがとう」

 ナタクもマキナも、ダメージはゼロとはいかなかった。しかし半分以上はHPも残っており、圧勝と称するに相応しい戦果である。

「なに、わらわも面白いものを見せて貰ったからの。改めて思うが、お主も中々の戦闘技巧者じゃの」

 既に、勝負ありだった。≪聖なるメダル≫等も持っていない様で、あとは彼等の蘇生猶予時間が尽きるのを待つだけである。


「このッ……リア充共がぁっ!!」

「絶対に、絶対にいつか貴様等を……ッ!!」

「覚えていろ、ガキ共ッ……この屈辱、必ず倍以上にして返してやるからな……ッ!!」

 怨嗟の声を上げる【暗黒の使徒】の三人。そんな彼等に対し、ハヤテとナタクはあっさりとした様子だった。

「大方年明けの一件で、相手をするプレイヤーが居なくなったんじゃないッスかね。そのまま諦められないで手を出して、重犯罪者レッド堕ちってとこ?」

「だろうね。あとこれって多分、他のメンバーも分散して同じことをやってるよね? 注意喚起が必要かな」

「掲示板にカキコして、警戒を促すのが良いッスかね」

 自分達の顛末、目論見、そしてやられたくない対応。それら全てを看破した二人の少年に、ビスマルクは苦虫を噛み潰した様な表情になる。


「うん、そろそろ時間だね」

「ッスね~、グッバイ!!」

 消滅間際までビスマルク達の態度を意に介さず、軽い調子で見送る二人。

「お、おのれガキ共ォッ……!! 覚え……」

 最後まで言い切る事適わず、ビスマルク達は強制ログアウトしていく。それを確認した二人は、苦笑しながら肩を竦めるのだった。

次回投稿予定日:2024/10/15(幕間)

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― 新着の感想 ―
堕ちるところまで堕ちてて草も枯れますわ。 屈辱なんて雪だるま式に増えていくだろうなぁw
正直、もう少し冷静さがあれば 暗黒も脅威となるんだろうけど 口を開けばリア充リア充 だからダークサイドにいるって いい加減理解すればいいのに…
相変わらずよくわからない高性能リアルスキルを所持してますね暗黒はそれをもっと別のこと活かせば色々変わってくるでしょうに。それが出来ないから暗黒たる由縁なんでしょうが。
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