18-26 幕間・覚醒を迎えて
AWO運営チームの中でも、限られた者しか入室出来ないとある部屋。部屋の灯りは落とされているが、光源が無い訳ではない。そしてその唯一の光源は、四人の人物の前に表示されているモニター。そこには、ジン達の様子が映し出されていた。
「……ついに、この時が来たんだな」
「はい。また、その組み合わせについても納得です」
「うん、僕も同意見だ。なにせ彼だからね……この結果は予想の範疇内だ」
それは、三人の男性の声だった。彼等はジンとリンの絆が最大になり、そして【九尾の狐】が共有された瞬間を目の当たりにしていたのだ。
そんな三人の男性の会話を聞いて、一人の女性が溜息を吐いた。
「あのね……わざわざ部屋を、暗くしなくても良いでしょう?」
そう言って、手にしたリモコンを操作するのは見目麗しい美女だった。ピッという電子音がすると、部屋の照明が点灯する。
限られた者しか入室出来ないとはいっても、決して隠された何かがあるという訳では無い。ただ単に、役職や立場の都合で勝手に入れないというだけだ。ユートピア・クリエイティブの社員からは、この部屋は【ボス部屋】と呼ばれている。つまり運営責任者のデスクがある、部長執務室である。ちなみに、別にレアアイテムがドロップするとかそういう事は一切ない。
つまりここはAWO内ではなく、現実の執務室だ。彼等が見ているのはリアルタイムではなく、ログから抽出した映像であった。
「水姫……これはな、様式美っていうやつなんだ」
「もう……否定はしないけど、それが原因で視力が落ちるとかシャレにならないの。ここは現実で、VRの中じゃないのよ?」
運営責任者であり、初音家の婿養子である初音北斗……そして運営主任であると同時に、初音財閥の令嬢である初音水姫。そんな二人のやり取りを見て、普段通り執事らしい澄ました顔で佇む三枝大地。この三人の姿は、日頃から運営内で見られるものだ。
しかし今回はこの三人に加え、もう一人が同席していた。爽やかな笑顔を浮かべる、整った顔立ちの青年である。
「ふふっ、君達は本当に仲が良いね。何だか無性に、今すぐ妻に会いたくなって来たよ」
「……誠也様も、愛妻家でいらっしゃる」
彼は、公では広報メンバーの一人という事になっている人物。しかしその実、同時にAWO開発当初からアドバイザーを務めて来た男……上谷誠也である。
「……申し訳ありません、日本にお帰りになって早々に大変お見苦しい所を……」
「いや、水姫? 照明を消してたの、誠也さんの発案なんだけどな?」
そう……見た目は歳若い青年であり、北斗達とそう大差ない年齢に見える人物。しかし執事である三枝だけではなく、北斗や水姫も目上の存在として扱っていた。まぁ北斗の口調からは、そうは思えないだろうが。
「ははっ、ごめんね? 兄さんの影響か、こういう演出的なのが結構好きになっていてね」
「……あー」
謎の説得力のある発言を聞いて、納得してしまったという表情の水姫。どうやら彼女も、青年……誠也のいう『兄さん』の事を知っているらしい。
水姫の様子を見て笑みを深めながら、誠也はモニターに視線を戻して話を続ける。
「自己学習型AI搭載NPC……彼等を無二のパートナーとして、共に冒険する事が出来るPACシステム。徐々にPACも増えているけれど、もうここまで到達する事が出来たとはね」
「流石、と言わざるをえないですね。まぁ、彼を知っている俺達からしたら納得ですが」
北斗と水姫、そして大地は、寺野仁と面識がある。それは運営とプレイヤーとしてだけではなく、一個人としてもだ。そこで彼等は仁の人柄を知る事が出来ており、彼ならばこうなってもおかしくないと思わせる少年だと考えていた。
「そこまで言うなら、そうなんだろうね。君達の人を見る目は確かだし、あの兄さんが”推し”と言うくらいだ」
「ふふっ、そうですね。でも、もしかしたらそれ以上の成果が得られているのかも……」
水姫はそう言って、モニターに映るリンに視線を固定する。彼女はジン達が≪エンジェリックエフェクト≫を選んでいる様子を見守りつつ、隣に居るヒナと会話をしている所だった。
――彼女のAIが大きな成長を遂げて、自我に等しいものを持つに至ったとしたら……AI産業において特別な存在になるかもしれない……。