18-25 くノ一、覚醒しました
プレイヤーとPACが、『スキルスロットを共有する』……このシステムは、そのコンビの相性が色濃く出るシステムといえるだろう。
例えば直剣使いのプレイヤーと魔法職のPACだと、共有するスキルが限られて来る。前衛職で装備に依存しないスキルとなると、【体術の心得】や【体捌きの心得】といったスキルだろう。魔法職の場合は、魔法系スキルは杖が無いと意味を為さない。となると、MP回復等の補助スキルが該当するだろう。
前衛と前衛のコンビとなると、同種のスキルを共有して限界突破を狙うのが良いだろう。しかし基本的に同じスキル構成の組み合わせは稀で、こちらもやはり【体捌きの心得】等のスキルを限界突破させる等の使い方が考えられる。
そんなこれまで隠されていたシステムを手にした、ジンとリン……この二人の場合は莫大な相乗効果を生み出し、相性が良いどころの話ではなかった。
「「【空狐】」」
極限のAGIに、多彩な武技と魔技。そして息の合った連携で、二人はアークエンジェルを斬り付けていく。ジンが両手の小太刀を振るい、次の攻撃に移るその隙間にリンの小太刀による攻撃が叩き込まれる。間断無く繰り出される、忍者とくノ一の連携攻撃。更に【九尾の狐】の武技【空狐】が加わる事で、その手数は倍である。
スキルオーブが全サーバー内に、一つしか存在しないユニークスキル……それをジンとリンが【スキルスロット共有化】出来るという、奇跡的な効果が起きていた。
しかもジンの【九尾の狐】とリンの【スピードスター】が共有された事で、【九尾の狐】が限界突破を果たした。これによって【九尾の狐】は、デメリットであるステータス減少が解消された。
二人が復帰するまで全力攻撃を繰り出していたヒメノ達は、忍コンビの怒涛の攻撃を見て動きを止めていた。
「リンさんのAGIが、上がった……!?」
「それだけじゃない、ジンさんと同じ技を使っている!! どういう事だ、あれはユニークスキルじゃなかったのか……!?」
「……予想が外れた? でも、あれだけのスキルがそういくつもあるとは思えないけど……」
事情を知らない【フィオレ・ファミリア】の三人は、二人の猛攻を見守りながら呆然としてしまう。しかし、そんな三人にヒメノが呼び掛けた。
「ジンくんとリンちゃんは多分、二人でボスのAPを削るんだと思います。そうしたら、私達は全力で攻撃するという事で大丈夫ですか?」
ヒメノは、二人の変化にそこまで驚いてはいなかった。きっとジンとリンの間で、何かがあったに違いない……それは、二人の表情を見れば解る。同時に二人ならば、きっとアークエンジェルを抑えてくれる。その確信が、ヒメノにはあった。
しかしながら、二人の全力疾走はまだここからだった。
「二人纏めて、幻影の如く!!」
「……え?」
ジンの台詞を耳にして、ヒメノは思わず疑問の声を発してしまう。
その台詞は、ジンがあるスキルを発動する時に口にする台詞だ。幻や影を想起させる、これまた忍者らしいスキルオーブを彼は保有し……それを限界突破で消失した【スピードスター】の代わりに、リンのスキルスロットにセットしていた。
プレイヤーのスキルオーブをPACのスキルスロットに移す際に、スキル熟練度はリセットされない。これは第四回イベントの際にヒメノが実際に行っており、ジンがそれを実行に移す事に迷いはなかった。
「「【分身】!!」」
ジンだけではなく、リンもまた【分身】を発動。これには流石のヒメノも、目を丸くして絶句してしまった。いくらなんでも、これは予想外だったのだろう。
それを知ってか知らずか、ジンとリンは駆け出した。分身NPCを引き連れて、一斉に。
「うおおおぉっ!!」
「はあああぁっ!!」
六人のジンと、六人のリンがアークエンジェルの周囲を駆け抜ける。そして、両手の小太刀を全力で振るい斬り付けていく。その光景は、どこからどう見ても忍者とくノ一である。
二人の気合いの掛け声と共に攻撃音が立て続けに発生し、戦場に反響する。アークエンジェルのAPは表示されていないので、その残量がどの程度かは推し測れない……だがこの勢いで攻め立てれば、そう時間は掛からないだろう。
「ぜ、全員、全力攻撃の準備よ!!」
装備を砕かれたアークエンジェルに自分やヒメノが攻撃をするのは、確かに良い考えである。AP装備を剥ぎ取る事が出来るならば、大ダメージを一気に叩き込む方が話が早い。フィオレは、そう判断した。
ネーヴェは直剣を構え、いつでもスタートダッシュを切れるように姿勢を低くする。ステラも弓に矢をつがえ、アークエンジェルに狙いを定める。フィオレは両手に一つずつ、宝石を握って即座に動ける態勢。ヒメノも弓刀≪大蛇丸・改参≫を握り締めて、その時を待つ。ヒナはヒメノが何をするのかを予想しているらしく、支援魔法の詠唱を進めていた。
そんな仲間達の準備が整うのを、待っていた訳ではないが……ジンとリンの疾風怒涛の攻撃で、アークエンジェルの身に纏った装備が罅割れた。罅はたちまち広がっていき、アークエンジェルの装備全体を覆い……そして、砕け散った。
「【ストレングスアップ】!!」
その瞬間、ヒナはパーティ全体に効果を及ぼす支援魔法を発動。全員のSTRが強化され、ここから先の全力攻撃を後押しする。
「【力】【速度】!!」
「【クイックステップ】!!」
フィオレは切り札の宝石を使い、自身のステータスを更に強化。それに呼応するかの様に、ネーヴェも全力で駆け出した。
そして、ヒメノもまた全力を尽くすべく四神スキルを発動させる。
「【縮地】ッ!!」
瞬間移動でアークエンジェルの目前に飛んだヒメノは、そのまま攻撃できる態勢である。相手からの反撃の心配が無いならば、直接斬り付けるのが最もダメージを与えられるのだ。
「【一閃】!!」
渾身の力を込めた一撃で、ガクッと減少するアークエンジェルのHP。この勢いならば、このままアークエンジェルを倒し切れるかもしれない……それは、このパーティの全員の総意である。
「まだまだっ!!」
ジンは更に小太刀を振るい、アークエンジェルを斬り付ける。新たな形態に移行するまでの時間を、攻撃すれば稼げるのは先程の攻防で確認していたからだ。【分身】はもう効果時間を終了しているが、それでもジンの速さならば十分効果は見込める。
「させませんっ!!」
リンも、ジン同様に凄まじい勢いで攻撃を繰り出す。攻撃速度はジンに匹敵する程であり、その甲斐あってアークエンジェルの動きは実にゆっくりだ。
「そんじゃあ……いくよっ!! 【スパイラルアロー】!!」
ステラが放ったのは、単体相手に最もダメージを与える武技である【スパイラルアロー】。APによる守りが無い今のアークエンジェルならば、五段ダメージが全てHPを削る事が出来る。
勿論ヒメノ程の威力ではないが、それでもしっかりとダメージを与えていく。
ステラの攻撃が命中している間に、ネーヴェもアークエンジェルの目前に到達。彼はそこで剣を振り上げ、その状態で力を溜めていた。それは隙が大きい代わりに、与えるダメージが高い武技を放つ為だ。
「【デストラクトスラッシュ】!!」
渾身の力を込めて振り下ろした剣が、アークエンジェルの身体を確実に捉えた。その威力でアークエンジェルのHPが減少すると同時に、吹き飛ばし効果が発生する。
「【炎蛇】!!」
「≪シーカーロープ≫でゴザル!!」
完全に吹き飛ばされるその前に、ヒメノの魔技で放った炎の蛇がアークエンジェルの右腕を、ジンのロープがアークエンジェルの左腕を捉える。そのまま二人がアークエンジェルを引き寄せれば、そこにフィオレが駆け込んだ。
「これでフィナーレにしましょう? 【キックインパクト】!!」
引き寄せられてくるアークエンジェルの胸元に、フィオレが勢いを付けて跳び蹴りを叩き込む。その一撃で、アークエンジェルのHPバーが減少していく。
キックの勢いで地面に叩き付けられたアークエンジェルが、起き上がろうと身を起こすが……その頭上のHPバーが光を全て失うと同時に、糸の切れた人形の様にアークエンジェルは崩れ落ちた。
『[試練の塔・北]四百階層ボスモンスター【アークエンジェル・N】を討伐しました』
アークエンジェルが倒れても気を張り続けていたジン達だったが、そのアナウンスが響き渡った事でようやく肩の力を抜く事が出来たのだった。
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「SABの時間は、二十分……結構シビアでゴザルな」
「ですね。俺達でも十九分三十二秒でしたから、かなり厳しい条件だと思います」
ジンとネーヴェの会話から解る通り、彼等は無事にスピード・アタック・ボーナスを獲得していた。とはいえ、余裕があったとは言い難いのが実情だ。ステラとヒメノも、苦笑しながら首肯していた。
「ギリッギリだったねぇ」
「そうですね、この階層でSABを逃すパーティは多いと思います」
「うーん……このボスのデザイン、多分だけど【変身】を持つ相手と戦わせるのが目的だったんじゃないかしら」
フィオレがそう言うのは、アークエンジェルの仕様があまりにも強力過ぎたからだ。しかしその戦い方を振り返り、そう結論付けたのにも理由があった。
「今、プレイヤーの中でも【変身】を使える人が多くなって来ているでしょ? で、今後そういった人達と戦う場面が出て来る」
そう言って視線を向けるのは、当然ジンとヒメノである。
既にこれまでのイベントで、ジンとヒメノは【変身】を駆使して戦う姿を見せて来た。それ以外となると、【七色の橋】ではレンも所有している。また【森羅万象】のアーサーに、【天使の抱擁】のアンジェリカ……そしてギルドには所属していないが、クラン【十人十色】に加入しているコヨミとケリィ。
そして【暗黒の使徒】のビスマルクに、【漆黒の旅団】のエリザも【変身】保有者だ。
「成程。その時に一方的に負ける様な事が無いように、【変身】との戦い方を学ばせると」
ジンはフィオレの視線を受け止めつつ、あっさりとその意見を受け入れた。自身も【変身】を持っているだけあり、その強力さは当然理解している。
第二回イベントの様な決闘形式や、第四回イベントの様なサバイバル形式のイベント……プレイヤー同士で戦うイベントは、当然今後もあるだろう。その時、【変身】の有無は非常に大きい差となる。
しかし【変身】は無敵のスキルという訳では無く、100ポイントのAPを削り切れば解除する事が出来る。その対抗策は、今回のアークエンジェル戦に通じる部分があるだろう。
「実際に【変身】を持っているプレイヤーと戦わないと、その辺りは身に付かない。しかし今回のイベントの様に、攻略の途中に出て来るとなれば……特にSABが欲しいならば、何度でも挑む事になるでゴザルな」
「そうね、それが運営側の狙いなのかも。今の内に【変身】持ちに慣れさせるなら、このアークエンジェルは丁度良い相手だわ」
そんな会話に割って入る様に、ステラがおずおずと挙手をする。その視線が向いているのは、やはりジンとリンである。
「あの~、答えたくないなら全然いいんですけど……ジンさんとリンさん、さっき何かありました?」
リンが吹き飛ばされた後から、明らかに二人……特にリンの速さが違ったし、それまで使っていなかった武技やスキルを使用していた。何かが起きたのは誰でも気付くだろうし、知りたいと思うのも当然だろう。
そんなステラの質問に、フィオレとネーヴェも困惑気味だ。それは「聞いていいものなのか」という思いと、「是非聞いておきたい」という思いが内心で渦巻いているからだと察するに余りある。
ジンは少しだけどうしたものかと考えを巡らせて……そして、一つ頷いて応える。
「言える範囲でならば、お答えするのも吝かでは無いでゴザル。それでも構わないでゴザルか?」
「えっ、良いんですか!?」
「……マジで?」
「勿論。贅沢言える立場では無いし、それだけでも有難いわ」
そんな三者三様の反応に、ジンは思わず苦笑してしまう。
ジンは自分の判断で伝えられるのは、『プレイヤーとPACのスキルスロットを共有する事が出来る』という点までだと考えた。ユニークスキル【九尾の狐】については、ほぼ周知の事実ではある……が、ギルドやクランの戦略面を考慮するならば、公開はしない方が良いだろうと考えた。
その為、PACとの絆が最大になる事で、各々一つだけスキルスロットを共有できるという事を伝えた。勿論その事実には、三人だけでなくヒメノも驚いていた。
「驚いたわ……PACとの絆が最大になる事で、そんな力を手に入れられるのね」
フィオレはそんな反応をしつつ、内心では今後のプレイ内容に大きな変化をもたらすシステムについて熟考している。この情報が広まった場合、PAC契約の争奪戦が更に加速しそうだ。
「貴重な情報をありがとう。勿論だけど、むやみやたらに拡散する様な事はしないと誓うわ」
「あはは、そこは心配はしてないでゴザルよ。それに、この情報を秘匿するつもりも無い故。もっとも、仲間達に相談した上でゴザルが」
「うふふ、やっぱり。そうだと思ったわ」
幾ばくかの緊張感はすっかりと薄れ、パーティの雰囲気は和やかさを取り戻した。そこで、ヒメノが笑顔でフィオレ達に呼び掛ける。
「それじゃあ、折角ですしSABの報酬を確認しませんか?」
「あ、そうだった!」
「ヒメノさんの言う通りだね。どれどれ……」
各々がシステム・ウィンドウに視線を落とすと、そこにはまた新たな≪引換券≫が表示されていた。その名も、≪エンジェリックエフェクト引換券≫だ。
「≪エフェクト≫……か。何かどんどん、見た目が派手になっていきそうだね」
「確かに。要するに、全身に何かを纏う感じだろうね」
ステラとネーヴェの言う通り、これはプレイヤーのアバター周囲に特殊なエフェクトを発生させるアイテムである。
「これも結構、バリエーションあるね?」
「そうねー。ネーヴェ、この辺りとか合いそうじゃない?」
「姉さんが言うなら、それにしようかな」
「ん、姫はこの桜の花弁が舞い散る感じのが合いそうでゴザルな」
「えへへ、私もそれかなって思いました!」
ジンは≪エンジェリックエフェクト≫で自分の周囲に風が流れるエフェクトを、ヒメノはやはり桜の花弁のエフェクトを選択した。
このエフェクトは通常時はうっすらと、そしてゆっくりと発生するようになっている。しかし装備者が「激しく」と念じると、動きが激しくなる。これはどうやら、プレイヤーの脳波を検知しているらしい。
ちなみにフィオレはキラキラとした輝きのエフェクト、ステラはその名にちなんで星、ネーヴェはフィオレの勧めるままに氷の結晶を選択した。五人全員がエフェクトを装備すると、実に賑やかな見た目となっている。
五人が自分に合いそうな≪エンジェリックエフェクト≫を選んでいる間、PACの二人は笑みを浮かべてその様子を見守る。ただ、そこでいつもとは違う事があった。
「ヒナ……あなたももうすぐ、奥方様との絆が極限まで深まるでしょう」
「……? そうなんですか?」
普段は話し掛けられるまで、自分から話し掛けないリン。それはPAC同士でも同じであり、同じ空間に居ても話し掛けなければ黙ってその場に居るのがリンだった。しかし彼女は今、自発的にヒナに声を掛けた。それも、ごく自然に。
「えぇ、そうです。そしてきっと、ロータスや他の皆も……私は、その時が楽しみです」
そう言って、リンはヒナの髪を優しく撫でる。最初は呆然としていたヒナも、リンの笑顔につられた様に満面の笑みを浮かべる。
「えへへ、私も楽しみです!」
ヒナの笑顔……それは、ヒメノの笑顔によく似ている。リンはそう思って、今もシステム・ウィンドウを見て会話をしている主達へ視線を向ける。
――この先も、私はここに居る……主様や奥方様、そしてその周りの皆様をお守りする為に。
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こうして四百階層を目指すという、当初の目的を達成したジンとヒメノ。フィオレ達は、フィオレの宝石とステラの矢が少なくなってきたため、一時離脱する事となった。二人はまだHPにも消耗品にも余裕があったので、フィオレ達とその場で別れて先へと進む事にした。
ちなみにクラン全員が見る事が出来るチャットに、四百階層の攻略について共有済みだ。
次にマッチングしたのは【聖光の騎士団】【絶対無敵騎士団】【白銀の聖剣】から一人ずつの、【騎士団連盟】パーティだった。
「に、忍者さんにヒメノちゃん!?」
「や、やべぇ……!! 今回のマッチング、マジやべぇ!!」
「よ、よろしくお願いします!!」
ちなみに三人は、全員女性だ。だがそれぞれ男性PACを引き連れているので、ジンとしても居心地の悪さは軽減されていた。
女性三人だけでのマッチングパーティとは珍しいと思いつつ、ジンとヒメノは簡単な挨拶と自己紹介を交わす。すると彼女達は、興奮気味のままに色々と話を始めた。
彼女達はそれぞれ女子大生らしく、クラン結成を機に仲良くなったらしい。四百階層までは【絶対無敵騎士団】と【白銀の聖剣】からは男性が一人ずつ居たらしいが、アークエンジェルとの戦いで戦闘不能になりリスポーンしたそうな。
「ようやく四百階層を突破したんだから、どうせならこのまま進もうって話にね?」
「リスポーンした男二人は、ずっと鼻の下伸ばしてたしねぇ。そうしたら、最高の夫婦とマチできちゃったよ!!」
「というか、ジンさんとヒメノさん……その身体の周りのヤツって、まさかSABですか!?」
三人寄らばなんとやら、聞いてもいない事から≪エンジェリックエフェクト≫の事まで、やたらと盛り上がっていた。
その盛り上がりは、四百十階層を突破するまで変わらなかった。ちなみに彼女達の実力は中の上といった所で、フィオレ達とのマッチングと違いジンやヒメノが指示出しをする場面が割と多かったのはご愛敬か。
……
続いてマッチングしたのは【竜の牙】二人組と、ソロで挑んでいた【遥かなる旅路】のロビンだった。
「よぉ、ジン君にヒメノさん! いやぁ、君達と一緒に攻略できるとは最高だね」
ロビンのその言葉は、間違いなく本音だろう。嬉しそうに二人に歩み寄る彼の様子に、ジンとヒメノも笑顔で挨拶を返す。
「ロビン殿、こちらこそご一緒出来て光栄でゴザルよ」
「よろしくお願いしますね、ロビンさん!」
そして、【竜の牙】の二人組。彼等も、ロビンに遅れて歩み寄って来た。
「ど、どうも……マッチング、宜しくです」
「えぇと、俺等は【竜の牙】のメンバーで……」
彼等はジン達の存在感に気圧されているというだけではなく、どこか居心地が悪そうだった。ここに来るまでに、何かあったのだろうか?
その理由は、攻略の中で浮き彫りになっていく。
ジン・ヒメノ・ロビンに、PACコンビは順調そのもの。誰かに指示されずとも、自分がどうすれば仲間達の助けとなるのか自分で判断できるのだ。
逆に【竜の牙】の二人は、その判断をするのに手間取ってしまっていた。彼等は指示を受ければその通りに動き、対応する事は出来る。しかしこういった自発的に動くパーティでは、動きに迷いが生まれてしまうのだ。
どうやら、ここに来るまでもそんな状況が続いていたらしい。しかも今回はトップランカー中上位の猛者が揃っている事もあり、その歴然たる差を痛感させられた様だった。
結果として彼等は四百二十階層に到達し、このパーティが解散するタイミングで今夜の攻略を中断する事となった。
……
「さて、今日はこのマッチングで最後でゴザルかな?」
「そうですね! どんな方が来るんでしょうか」
二人がマッチングシステムを起動させると、PAC達と一緒に転送される。そうして転送した先に居たのは、幸いな事に親交のある相手だった。
「ここでお二人とマッチング出来るとは、思いもよらない幸運ですね。どうぞ宜しくお願いします」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願いするでゴザルよ」
その相手とは、ギルド【ラピュセル】のギルドマスターであるアナスタシアだ。彼女はジンとヒメノの姿を見た瞬間こそ目を丸くし驚いたが、すぐにその表情は和らいで安心した様な穏やかな笑顔に変化した。
そんな彼女に同行するプレイヤーは、お馴染みのテオドラとイザベルであった。二人はアナスタシアに続き、挨拶をするべくジン達に歩み寄る。
「お二人のお噂は、常日頃から伺っています。どうぞ、宜しくお願いします」
「まぁ、あなた達なら安心ですね……えぇ、ヒメノちゃんが居るなら」
ちなみにテオドラは未だに、ジンとアナスタシアの距離感について警戒心を抱いている模様。
これはギルド内でもジンについて、好意的な会話がされているからだ。特にアナスタシア・アシュリィ・アリッサは、陸上関係で繋がりがありそれが顕著なのだろう。
基本的に、彼女達はギルドメンバーによる五人パーティで攻略を進めているらしい。そんな彼女達が三人でいるのは、先程まで居た二人が所用でログアウトしなくてはならないからだった。
どんな相手とマッチングするかと、警戒していたのだが……やって来たのは、良く見知った信頼できる存在。そのお陰で、三人共ホッとした様子を浮かべているのであった。
ちなみに、【ラピュセル】側にもPACが居る。アナスタシアのPACである、盾職のリューシャだ。そこにリンとヒナが加わり、パーティ人数は八人となる。
「それじゃあ、行きましょうか」
「こちらは問題無しでゴザルよ」
「はい! 皆さん、宜しくお願いします♪」
次回投稿予定日:2024/6/15(幕間)