18-21 女子パーティでいきました
ジンが西側の[試練の塔]で攻略を開始した、丁度その頃。東側の[試練の塔]に入る為の、≪転移門≫が設置されている場所はちょっとした騒ぎになっていた。
「おいおいおい、マジかよ!!」
「まさかあの五人で、攻略すんのか!?」
「今もしかして……あ、あの娘達だけか……? ギルマスのヒイロは!? ジンやハヤテは!?」
「美少女五人組パーティ、だと……!? 俺は今、すげぇ光景を目の当たりにしてる!!」
パーティを組むメンバーを募集していたり、ソロでマッチングに臨もうとする者達。そんな彼等が目にしたのは、【七色の橋】が誇る美少女五人組の姿だった。
弓刀であらゆるものを撃破するお姫様、ヒメノ。
魔扇で舞うような戦術を披露する魔法職サブマスター、レン。
卓越した薙刀術を駆使して戦う侍少女、アイネ。
抜刀術で先陣を切る切り込み隊長、センヤ。
番傘と羽衣を装備する癒し系魔法職、ネオン。
いつも彼女達はその傍らに、特定の少年が居る。ヒメノにはジン、レンにはヒイロ、アイネにはハヤテという恋人が居るのは周知の事実。センヤはヒビキと行動をよく共にしているし、ネオンは偽物騒動が起きて以来ナタクと共に居る所を目撃されている。勿論、恋人なのでは無いかと勘繰られている。
そんな彼女達は有名なわけだが、それが今夜は女子だけで行動しているのだ。この様な光景は中々お目にかかる事が出来ないものであり、外部の男性陣が目を奪われても仕方のないことであった。
「やっぱ見られてるねぇ」
「ランキング常連だものね、私達」
向けられる視線に気付いていても、大して気にしていない二人。センヤは深く考えずに受け流しており、レンはそういった視線を向けられることに慣れている。
「うーん、落ち着かないなぁ……」
「大丈夫、ネオンちゃん? やっぱり、気になるよね」
「さっさと入っちゃおうか。攻略中は、外部からは干渉されない訳だし」
ネオンは逆に視線を気にするタイプで、いささか困り顔である。ヒメノとアイネも視線が気にはなるが、それよりネオンを気遣う方が優先されていた。
そこでレンが、自分達に歩み寄ろうとするプレイヤー達の姿を視界の端に収めた。今の自分達のパーティ構成は、前衛二人に後衛三人。盾持ちが不在で、バランスが後衛寄りになっている。
接近するプレイヤー達はそれを理由に、自分達とパーティをシャッフルして攻略しないか? といった具合で声を掛けようとしているのだろう。勿論、彼女達にその気は無い。
「それじゃあ皆、PACを呼びましょうか」
普段は[試練の塔]に入ってから、PACを呼んでいる。しかし今は、下心満載で近付いて来る者達への牽制が必要だ。
レンの意図を察する者、察していない者に分かれるが、四人は指示通りにシステム・ウィンドウを操作してPACを召喚する。無論、レンもだ。
突如姿を見せたPAC達を見て、接近しようとしていたプレイヤー達は思わず足を止めてしまう。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「お姉ちゃん、お待たせです!」
「よぉ、嬢ちゃん。出番かい?」
「マスター、お待たせ!」
「呼んだかい、お嬢」
既に何度か公の場でその姿を現していた、執事・ロータスと巫女姫・ヒナ。元エクストラボスである、守護騎士・ジョシュア。
そして多くのプレイヤーが初めてその姿を見る、センヤのPACとなった魔法職のシスル。盾とメイスを持った姉御風の美女、ネオンのPACであるニコラ。
五人のPACがその場に現れて、一瞬でパーティは五人から十人になった。しかも盾役・回復役まで充実した、バランスの良いパーティ編成だ。
「え、PAC? まさか、PAC連れてけるのか?」
「PACが居れば、普段と同じ最大十人パーティ……そうか、その手があったか!」
「マジかよ、そうと知ってりゃPAC契約進めてたのに……」
PAC組の登場を目の当たりにしたプレイヤー達は、このイベントルールに隠された仕様について各々が感想を口にしている。
この仕様については、別段隠していた訳ではない。なので、こうして知られる事にも抵抗は無い。むしろ、件のプレイヤー達を牽制する方が重要だ。
「よ、よーし……じゃあ攻略行くか~」
「「「「お、お~……」」」」
声を掛けようとしていた男性五人組は、案の定そのまま何事も無かった風を装って≪転移門≫へと向かう。流石にこの状況下で、ヒメノ達に声を掛ける勇気は無いらしい。それはそうだろう、PAC含めて最大人数で攻略出来るのに、わざわざそうしない理由はそう多くない。
そのまま≪転移門≫へ向かう青年達を見送って、レンは仲間達に振り返る。
「さて、それじゃあ私達も行きましょうか。最初の目標は三百階層のSABね」
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和気藹々とした雰囲気で、いよいよ開始した[試練の塔]攻略。その道中は、ほとんど鎧袖一触で進んでいく。
その上気心知れた間柄、しかも日頃から一緒に行動する事が多い。そんなメンバーでの攻略である為、緊張感などは皆無である。故に少女達は雑談しながら先へ、先へと進んでいく。
「皆はもう、バレンタインどうするか決めた?」
そうして話題に上がったのが、目前に迫ったバレンタインデーについてだった。今日は二月八日で、バレンタインデーはもう六日後だ。
「うちはいつも通り、二家族合同でバレンタインのチョコを送り合う感じ!」
センヤとヒビキは家が隣同士で、幼馴染から恋人になった。まだ幼馴染であった頃から、家族合同でのバレンタインだったのだそうだ。
「ホワイトデーも、同じ様にするのかな?」
「そだよ~、毎年恒例なの」
しかしながら、その日ばかりはセンヤも気合いを入れて準備するつもりだ。毎年、ヒビキの好むチョコレートを作ろうと母親の指導を受けつつ頑張っているらしい。
「ネオンちゃんは?」
「今まではお父さんにあげるだけだったんだけど……今年は、その……頑張るよ」
はにかみながらも、ハッキリと決意表明をするネオン。恋人となったナタクの為に、どんなチョコレートが良いか検討中らしい。
「ラミィお姉さんに色々と、教えて貰ってるんだ。どうせなら、やっぱりナタクさんの好みのチョコをあげたいから」
ネオンとラミィも、実に良好な関係を築いている様だ。ゲーム内だけでなく、RAINでも頻繁にやり取りをしているのだとか。
「私は、ハヤテ君をお家に招待する予定だね」
アイネは互いの両親の許可を得て、巡音家へハヤテを招待する事にした様だ。
バレンタイン当日は金曜日なので、アイネは自分から相田家に向かおうかと提案していた。しかしハヤテが、巡音家まで送り届けるからその時にと譲らなかったのだ。その理由は、冬の日没は早いのでアイネを気遣っての事である。
「渡しに行く事で感じられるドキドキも、バレンタインには大切だと思ったけど……ハヤテ君が私の為にって言ってくれたから、そうなったんだ」
との事である。何気に乙女チックな面がある、アイネらしい理由だろう。
「レンちゃんとヒメのんは? やっぱお泊り?」
センヤがそう言うと、ヒメノが首を横に振る。
「ううん、私は放課後にお家で渡す予定だよ」
ヒメノがそうした理由は、バレンタインの後に控える重大イベントの為であった。そう、二月二十一日……ジンの誕生日の為である。
婚約者とは言え、まだ中高生カップル。泊まりの日は、月に一度までという取り決めだ。その貴重な一日を行使するのならば、バレンタインよりも誕生日を優先させた訳である。
「私もヒメちゃんがそうするって言うから、同じタイミングで渡すつもり」
レンによると、代わりに後日ヒイロが初音家にお邪魔する日を設けるらしい。
「初音家にお泊り……」
「それはヒイロさん、緊張しそうだね……」
センヤとアイネが言う通り、初音家に泊まるとあってはヒイロも緊張するだろうが。しかし今後もレンと歩み続けるならば、そのイベントは避けては通れないだろう。
「まぁ、杞憂なんだけどね。両親もお姉様やお兄様、お義兄様も楽しみにしてるんだもの」
その言葉を聞いたヒメノ達は、それは盛大に歓迎されるんだろうなぁ……と苦笑した。そこまで相手の家族に気に入られるのも珍しいが、そこはやはり「ヒイロさんだもんなぁ」という感想で締め括られる。
「ちなみにヒメのんは、ジンさんの誕生日プレゼントはもう決めたん?」
センヤにそう問い掛けられて、ヒメノは表情を変えた。
「それが、まだなんだ。ジンくん、あまり欲しいものって無さそうで」
そう言ったヒメノは、普段はあまり見せない困り顔であった。
「……確かに、ジンさんってあんまり物欲が無さそうなイメージ」
「うん、言われてみると確かにそうかも」
ここ数日、ヒメノが必死に考えているジンの誕生日プレゼント……それは、地味に難航していたのだ。
「ジンさんのご両親に聞いてみるとか……」
ジンとヒメノは現実でも婚約者という関係で、寺野家の父と母からも大層可愛がられている。その事を知っているので、アイネがそう提案するが……ヒメノは苦笑しながら首を横に振る。
「それはもう、してみたんだ」
「あー、両親ですら欲しい物が思い付かないんだ……」
両親ですら、誕生日プレゼントに悩む高校一年生(忍者)。
実際にジンは、あまり欲しいと思う物が多くないタイプである。それは偏に、ひたすら陸上に打ち込んでいたからだ。
アクセサリー等には頓着せず、唯一付けているのがヒメノと買った指輪くらいである。本や音楽にも、あまり興味を抱かない。例外として、リリィこと渡会瑠璃の曲はオンラインショップでダウンロードして聞いている。仲間だから聞いてみようと思っていたら、普通に心の琴線に触れたそうだ。
「これはもう、ヒメのんがリボン巻いてプレゼントはわ・た・しってやるしか……」
「センヤちゃん、心の中のおっさん出てるよ。ステイステイ」
「というか私はもうジンくんのお嫁さんなので、今更じゃないかな」
「ヒメちゃんも、マジレスしないの」
「ふふっ、二人はラブラブだもんね」
三人寄らば何とやら、五人が揃うと賑やかだ。攻略道中の談笑、彼女達の話題は尽きない様である。
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PAC同行の十人パーティによる攻略は、非常に順調に進んでいく。二百階層の少し手前からのリスタートだったが、既に三百階層が目前に迫っていた。
ここまでは、既に他の[試練の塔]を突破した階層。その為攻略は順調そのもので、不安要素は全くといって良い程無い。しかしながら、やはりヒメノとしては物足りなさを感じてしまう。
――自分で言い出した事なのに……ジンくんが居ないのが、寂しく感じるなんて。
ジンに、思う存分走って欲しい。そんな考えから、今夜は別行動をする事を提案したヒメノ。だが、やはり最愛の旦那様と一緒に居たいという想いはある。
勿論、今現在のパーティに不満がある訳ではない。むしろ親友達とのパーティなので、居心地はとても良い。
「ヒメちゃん、考えが顔に出てる。気持ちは解るけど」
レンにそう言われて、ヒメノはハッとした。そんな彼女に向けられるのは、親友達の共感の視線だ。
「大好きな人とは、いつも一緒に居たいって思うよねぇ」
「同じ学校とかだったら、そうでもなかったのかな? 私ら、女子校だもんね」
共学の学校に通うもの同士のカップルであれば、顔を合わせる機会も多いだろう。昼食を共にしたり、登下校したりもできる。
しかし彼女達は女子校に通っており、アイネやネオンに至っては毎日会える訳ではない……現実では。その為、ゲーム中くらいは一緒に居たいと思うのだ。
「三百階層をクリアしたら、今日は切り上げて拠点に戻る事にする?」
レンがそう言うと、ヒメノ達も同意を示した。皆同じ気持ちであるので、反対意見が出るはずも無い。
「やっぱり、好きな人と一緒に行動したいっていうのはあるかな。でも、またこのパーティでやるのも良いよね」
「このメンバーでのパーティも、楽しいもんね~。でもヒビキと別行動にするのは二、三回に一度くらいが良いかも。二回に一回は、ちょっとねぇ」
センヤとネオンがそう言うと、アイネとヒメノもその話題に乗り出す。
「別行動の時は、必然的にこのメンツになるのかな? 五人縛りが無いなら、ミモリさんとカノンさんも一緒に行きたいね」
「あとはラミィさんとか、イナズマさん? イナズマさんが居るなら、ハヅキさんも一緒かな」
ギルドメンバー以外だと、ナタクの姉であるラミィはやはり近しい存在。またジンのイトコでありイカヅチの義妹であるイナズマと、その親友であるハヅキも同様の認識である。
それ以外の同年代だと、何度も共に肩を並べたリリィとコヨミだろうか。
「そう言えば、このイベントだと他の人達とマッチングする事もあるんだよね」
ネオンがそう言って、更に言葉を続けた。
「もし機会があれば、【森羅】のアーサーさんやハルさんとマッチング出来たら嬉しいかな」
それはかつて、偽物騒動が発生した時に自分達のフォローに入ってくれた二人だ。彼女はその時の事を深く感謝していて、仲良く出来たら良いなと考えていた。
「それなら、私はアリアスさんかな。クリスマスパーティー以来、たまにやり取りしてるし」
「うーん……流石にシルフィさんとかと、マチするのはレアかな~」
「トロさんとか、エルリアさんとも一緒に攻略出来たら楽しそうだよね」
「他だと【ラピュセル】とか、【ファミリア】の上の人かしら。【闇夜】は……セシリアさんだけなら良いんだけれど」
第四回イベントのあたりから、彼女達も新たな交友関係を構築していた。所属するクランも別で、ライバル関係にあるのは確かではある。しかしそれでも、トップギルドの主要なプレイヤー達は良好な関係を築き上げている。
そんな事を話していると、いよいよ三百階層への入口が見えて来る。勿論、そこには道を阻む天使達が居る訳だが……。
「流石に、この辺りまで来ると、戦闘も少し、時間が……掛かるねっ!!」
そう言いながら、華麗に薙刀を振るって天使を斬り伏せるアイネ。危なげない立ち回りは相変わらずで、迫る天使達は彼女の薙刀捌きに対応し切れていない。
「いっくぞぉ! 【一閃】!!」
センヤは得意技の抜刀術を駆使し、天使達に痛烈な一撃を与えていく。発展途上の彼女だが、その動きは更に良くなっている。これはやはり、第四回イベントの激戦で戦闘経験を積めたからだろうか。
そんなアイネとセンヤを警戒し、襲い掛かろうとする天使達。しかし、そうは問屋が卸さない。
「余所見をするでないわ、【ウォークライ】!」
守護騎士・ジョシュアは攻撃にも防御にも対応出来る、頼りになる前衛PACだ。天使達の注意を引き付け、仲間達を守る姿は正に守護騎士の異名が相応しい。
「流石、ジョシュアの旦那……そーれっ!!」
「失礼……【一閃】」
ジョシュアが天使の注意を引いている間に、ニコラとロータスが天使を攻撃。ニコラのメイスの一撃は強烈で、天使のHPがグッと減った。ロータスの【一閃】は【刀剣の心得】と【暗殺の心得】両方のパッシブスキルで強化され、こちらも大ダメージとなっている。
逆に天使側の盾職は、後衛職の方に向けて突っ切って来る。そのまま後衛を抑え込めれば、前衛チームは苦戦するだろう……本来ならば。前衛が盾職天使を素通りさせるのは、そこにヒメノが居るからである。
「やっ……えいっ……はっ!!」
武技無しの、矢の速射。しかしその一射一射に込められたSTRは、AWO中最高レベル。盾が砕け、鎧も砕け、天使達のHPゲージが一気に消し飛ばされる。後衛を抑え込むどころか、逆にヒメノ一人によって盾職天使達は全滅していた。
そんな物理攻撃組を支えるのは、支援と回復に重点を置いて育てられたヒナだ。
「【バイタリティアップ】です!」
攻撃力に関しては、ヒメノとレンの主砲コンビが居るので問題ない。どちらかといえば、ボス戦まではダメージを軽減しておく方が良い。その為、ヒナは支援魔法で味方のサポートに徹している。
「【雷陣】……【ライトニングアロー】!!」
前衛に群がる天使達に向けて、レンが放つ雷の矢。それが命中した瞬間、天使達が次々と倒れていく。
またレンの【術式・陣】は本人だけでなく、陣の中に居るパーティメンバーにも恩恵を与える。ネオンとシスルもまた、雷属性魔法の詠唱を終えていた。
「そこだねっ! 【ライトニングピラー】!!」
「喰らえ、【ライトニングカノン】!!」
そこにシスルの【ライトニングカノン】を撃ち込めば、一気に殲滅可能という訳だ。
センヤとネオンも、第四回イベントや今回のイベント前のレベリングを経て更に強くなっている。その上PAC契約を果たした事で、安定感も増しているのだ。
彼女達の進撃を止めるのは、このレベルの天使達でも荷が重かった。
「さーて、いよいよ三百階層だね」
「えぇ、行きましょうか」
既に三百階層のボスであるアークエンジェルの攻略法は、解っている。ボス戦に備えて準備を整えたヒメノ達は、やる気十分で三百階層へと上がった。
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アークエンジェルとの戦闘は、ヒメノ達の想定通りに進んでいく。
ターゲットになる役割はジョシュアとニコラに任せ、二人がタゲ引きをするまでは被弾を避ける事に集中。どちらかが【ウォークライ】でターゲットになった瞬間、一気に攻勢に転じる作戦だ。
陣形はアークエンジェルを囲む様な陣形で、絵面だけを見れば数の暴力に見えるかもしれない。
「掛かって来るがいい、【ウォークライ】!!」
ジョシュアがターゲットを引くと、アークエンジェルは高火力形態へ。この形態ではアークエンジェルはスーパーアーマー状態になるのだが、HPが増える訳では無いしダメージは当然受けるのだ。
アークエンジェルはその剛腕を振り被り、ジョシュアに向けて振り下ろす。その衝撃は相当なもので、流石のジョシュアも余剰ダメージを受けざるを得なかった。しかし、それも想定の内。むしろこの攻撃を受けられるのは、このメンバーではジョシュアしかいないだろう。
その間に、アイネ・センヤ・ロータス・ニコラが攻め立てる。アークエンジェルの攻撃に当たらない様に、その動きに注意しながらだ。
「さっさと……倒すよ!!」
「もちのろん!! 【一閃】!!」
アイネは【百花繚乱】の力を駆使して、武技発動宣言を省略した【一閃】を浴びせていく。クールタイムも技後硬直も短い【一閃】は、アイネの薙刀捌きと非常に相性が良い。ジンのそれには及ばないが、連続して繰り出される攻撃は怒涛の勢いだ。
センヤは逆に、全力を込めた一撃。威力も早さも申し分なく、万全の状態で放たれた【一閃】は、高い確率でクリティカルヒットとなっている。そのお陰で、アークエンジェルのHPはどんどん減っていく。
更にロータスとニコラの攻撃も加わり、アークエンジェルのHPは三割を切る。そこでアークエンジェルがターゲットを変更、狙われるのはクリティカルを連発したセンヤだ。
「今よ!」
前衛組は、アークエンジェルを囲むような陣形を組んでいた。その理由はアークエンジェルがどの方向を向くかで、誰がターゲットになっているかが即座に解る様にする為だ。
センヤはINTとMNDを除くステータスにポイントを配分したビルドで、所謂バランス型前衛。その為、アークエンジェルが形態変化をするのは同様に前衛型バランス形態である。
つまり、その場合は魔法攻撃が効果覿面となるのだ。
レン・ネオン・シスルはタイミングを合わせ、同時に魔法を発動させる。
「「「【バーニングカノン】!!」」」
魔法の選定も、予め決めてあった。同時に放たれた火炎の魔砲が、アークエンジェルのHPを焼失させていく。レンのINTと、ネオンの【チャージング】……そして【神獣・麒麟】の【炎陣】で強化された魔法攻撃の三連発だ。アークエンジェルのHPは、一気に一割を切ってしまう。
「【其の侵掠すること、火の如く】」
「ヒメちゃん!」
「お願い!」
HPが一割切った時に発動する、アークエンジェルの特殊形態。それに合わせて、ヒメノは攻撃態勢を整えていた。
「はいっ! 【スパイラルショット】!!」
放たれた渾身の一射は、唸りを上げてアークエンジェルに襲い掛かる。今のアークエンジェルはデバフ魔法攻撃に特化した形態である為、物理攻撃への耐性は低い。そこにSTR極振りのヒメノが、【八岐大蛇】&【変身】状態で放った矢が当たればどうなるか? そのHPゲージから光が失われ、アークエンジェルは矢の勢いそのままに吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。
「よし、大勝利っ!!」
「うん、やったね!!」
センヤとネオンのその言葉で、パーティ全員の肩から力が抜けた。これで三百階層踏破は、二箇所目となったのだ。
「皆、お疲れ様。PACの皆も、ありがとう」
レンがそう言えば、PAC達も笑みを浮かべて頷く。
「SABも、無事にゲット出来たね」
アイネがそう言うと、ヒメノも笑みを浮かべて頷いた。
「ふふっ、そうだね!」
そうして五人は、それぞれシステム・ウィンドウを開いて≪エンジェルエンブレム≫と≪カレイドスタイル≫の設定を始めた。
ヒメノは当然、右目と同じ桜の紋章を左目にも施した。
レンとアイネはもう一つ紋章を入れるのではなく、既に入れた紋章を更に飾り付ける形にしたらしい。
センヤはヒメノの≪エンジェルエンブレム≫に惹かれたのか、左目に輝きをイメージした形の紋章を入れる事に。ネオンは右肩に入れた紋章の下に、もう一つ紋章を入れるスタイルを選択していた。
それぞれが設定を終えたのだが、まだクラン拠点に帰還する訳ではないらしい。センヤがシステム・ウィンドウを見て、親友達にある考えを告げた。
「そういえば、折角二つ目の≪カレイドスタイル≫が手に入ったでしょ? 【桃園】スタイルだけじゃなくて、【魔弾】スタイルも作ってもいいかも!」
一つ目の≪カレイドスタイル≫は、中華風装備。今手に入れた二つ目は、変装時に使用する装備を設定している。しかし、どうせならばオシャレに走りたい。それが、女の子というものだろう。
「あ、それは面白そう!」
「確かに……あぁいうスタイルも格好良いよね」
「うん、私も興味あるな」
「でも、センヤちゃんの仕事が増えないかしら?」
「だいじょーぶ、ネコヒメさんにも協力して貰えそうだし!」
女子中学生組の賑やかな会話は、まだもう少し続くようだった。
次回投稿予定日:2024/5/5(本編) → 2024/5/10(本編)
体調不良につき、掲載予定を変更とさせて頂きます。
楽しみにして下さっている皆様、大変申し訳ございません。




