18-17 三百階層を攻略しました
ジン達が三百階層を突破した、丁度その頃。
「【トライスロー】!!」
ベイルは投げナイフを投擲し、アークエンジェルを攻撃。その攻撃を喰らい続けたアークエンジェルは、ベイルを次の標的にする。そうして開始される、形態変化。ベイルの本職は魔法職である為、魔法攻撃形態だ。
そんなアークエンジェルのすぐ側に控えるは、【聖光の騎士団】が誇る騎士達である。
「決めるぞ……!!」
「はいよっ!!」
「かしこまりましたわ!!」
アークの必殺技、【ブレイドダンス・エクストリーム】がアークエンジェルを襲う。更に【ベルセルク】で自己強化状態のシルフィも、大剣で果敢に攻撃。アリステラは二人の攻撃の間を埋める様に、ヒットストップを狙って攻撃を加えていく。
そうしてアーク達も、ジン達から数分遅れてアークエンジェルの討伐に成功した。勿論、無事にスピード・アタック・ボーナスも獲得した上でだ。
先に三百階層に到達していた彼等が、ジン達より遅れて突破したのはやはりPACの存在の有無が大きいだろう。
「今、一番攻略が進んでいるのは誰でしょうな。我々が……と信じたい所ではありますが、油断ならない相手が多過ぎます」
セバスチャンがそう言えば、アークも一つ頷く。
「同格の実力者達は、同じくらいの所に居るだろう。まだ行けるな?」
更に上を目指す……そんなアークの言葉に、反対意見が出るはずも無い。五人はそのまま次の階層の入口へと向かい、[試練の塔]の頂を目指して進むのだった。
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それから少し後。
「トドメは任せたよ、三人共……【其の知り難きこと陰の如く】」
「これで終わらせましょう」
ユージンとケリィが、接近戦でアークエンジェルを翻弄する。その間にミモリは大量の≪爆裂玉≫を、カノンは≪爆裂モーニングスター≫を構えていた。同行するクベラも二人の攻撃でヒットストップを受けまくっているアークエンジェルに、大砲≪逢縁鬼煙≫の砲口を向けて砲撃の準備を整えていた。
そうして準備が整った三人。代表して、ミモリが二人に合図を出す。
「準備完了、いけます!!」
その声にユージンは口元を緩めて、アークエンジェルに銃剣の切っ先を向けた。
「さぁ、フルコースの時間だ。【雷竜】」
同時にケリィも、剣に纏った魔法をアークエンジェルに向けて開放する。
「【ウォータージャベリン】!!」
水と雷の二属性を同時に受けたアークエンジェルは、その相乗効果で麻痺状態に。その間に二人はアークエンジェルから距離を取り、三人の攻撃範囲から逃れる。
「ほーら、召し上が……れっ!!」
「やる、時は……やる、からっ!!」
「大盤振る舞いしたるわ!!」
身動きが取れないアークエンジェルに襲い掛かる、≪爆裂玉≫や≪モーニングスター≫。トドメとなったのは、クベラが放った砲弾の直撃であった。
『[試練の塔・東]三百階層ボスモンスター【アークエンジェル・E】を討伐しました』
「よっしゃ!!」
「ふぅ、やり……ました、ね?」
「あー、しんど……ユージンさんとケリィさんが居なかったら、これ詰んでたわ」
やっと終わったと声を上げる三人に歩み寄り、ユージンとケリィは苦笑する。
「それは、三人とケリィのフォローがあるからこそさ。僕も打たれ弱い極振りプレイヤーだしね」
「まぁ、ユーちゃんがクリティカルをバンバン出してくれるので、ヒットストップ頻度が高いのもありますけどね。ふふっ、つまり全員の力です」
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「こいつはどうやら、俺ら的に相性が良い相手みたいだぜ!!」
そう言って駆けるのは、赤髪の少年。手にした愛剣≪征伐者の直剣≫で、アークエンジェルを斬り付ける。
「全く……油断するなよ、アーサー!!」
そんな少年……アーサーに釘を刺すのは、彼の実姉であるクロードだ。そんな二人と組んでいるのは、ギルド【陽だまりの庭園】のギルドマスターであるナコト。そして同じギルドのメンバー二人である。
ナコトは魔法職であり、いつでも魔法が撃てる様に準備している。残る二人は盾職の男性と、弓使いの女性だ。
「やっぱり凄いわね、あの二人……こっちも負けていられないわ。二人共、良いわね?」
「勿論です、ナコトさん!」
「やってやりますよ!」
盾職の男性は、どんと来いと言わんばかりに前に出る。そして弓使いの女性は、矢をつがえて狙いを定めていた。
「アーサー、準備完了だ」
「はいよ! それじゃあ……俺にタゲを向けて貰おうか、天使サマ!!」
アーサーは更に速度を上げて、アークエンジェルに果敢に斬り掛かる。すぐにアークエンジェルはアーサーをターゲットにして、形態変化を開始した。
アーサーはそれを確認すると、盾職の男性の少し手前の位置に移動。そこが、ナコトと弓使いの攻撃ポイントである。
高速機動形態に移行したアークエンジェルは、アーサー目掛けて駆け抜ける。しかしアーサーも、そんな直線的な移動で驚くようなプレイヤーではない。
「【ハイジャンプ】」
アークエンジェルが斬り掛かる直前に、アーサーは上空に跳び上がり回避。そこへ盾職の男性が【シールドバッシュ】を叩き込み、ノックバックさせる。
「行くわよ!! 【バーニングカノン】!!」
「【シューティングスター】!!」
ナコトの魔法砲撃と、弓使いの矢の流星がアークエンジェルに襲い掛かる。一気のそのHPが激減し、最早残りは一割未満だ。
そこでアークエンジェルは、ジン達の受けた状態異常を引き起こす光弾を放つ飛翔形態に移行しようと浮かび上がる……が、そこにはアーサーが居た。
「お? 飛べんのか。でもまぁ、落ちとけ……【ギガンティックフィスト】!!」
ユニークスキル【三汁七菜】で得た、モンスター由来の技。その一撃は威力も申し分なく、アークエンジェルはその一撃で地面に叩き落された。
「うむ、良し!」
アーサーのトドメの一撃に、クロードも満足そうに頷いてOKを出す。剣術を学んでいた為か、弟の動きを批評するのがクセになっているらしい。
そんな姉弟にナコト達も歩み寄り、和気藹々と互いの健闘を称え称え合う。そうして彼等も、無事にスピード・アタック・ボーナスを得て上層を目指すのを再開した。
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「目標の形態変化を確認、防御形態に移行」
「「「「了解」」」」
黒い現代風の衣装と、革製のガンベルトやコートで身を包んだ一団。その手に持つのは、重厚さを感じさせる銃である。
「じゃあ、先行するね」
そう言って駆け出したのは、金髪の少年。その両手に握られているのは、敬愛する彼の祖父が製造した金色と銀色の≪リボルバーピストル≫だ。
少年・トーマの接近を確認したアークエンジェルは、彼に向けてその腕を振るう。盾と鎧でガチガチに固められたその腕の叩き付けを喰らったら、まだレベル54であるトーマのVIT値では、大ダメージか一撃死も有り得るだろう。
なので、トーマはそれを軽やかな身のこなしで避けた。迫る剛腕は、トーマを捉える事無く空を切る。それでもアークエンジェルは、トーマを叩き潰そうと腕を振るう。
「悪いけど、当たってあげる義理は無くてね」
その剛腕を避けながら、トーマは≪リボルバーピストル≫の引き金を引く。銃弾が命中する度にダメージ値が表示されるが、その数値は半減していた。つまり、その部分は鎧という事だ。
「やはり防御形態は、効き目が薄いね。まぁ、解っていたけどさ」
そう嘯いたトーマは、ある攻撃を仕掛けようと銃を再度構え……そこで、最愛の婚約者がこちらに向けて駆け寄っているのに気付いた。
――私もアレ、持ってるからね
――オッケー、レーナ。一緒に決めようか。
アイコンタクトをした二人は、タイミングを合わせる。そうしてトーマとレーナが、同時にアークエンジェルに向けて四神スキルを発動させた。
「「【玄の衝撃】」」
レーナは第一回イベントで、トーマは今回の[試練の塔]でその四神スキルを入手していた。これは防御貫通効果を持つ、強烈な衝撃を与えるスキルである。
前後からその攻撃を喰らったアークエンジェルは、HPを削られて瀕死の状態。そして、飛翔形態へと移行した。
「あれ、厄介そうです!」
「魔法陣の数も、多いね……あれかな、エンジェルエッグの光弾」
「なら、さっさと撃ち落としましょ」
すぐさまミリア・シャイン・ルナも駆け出して、レーナとトーマの元に向かう。
「それじゃあ……【ウォークライ】!!」
ミリアは光弾が放たれる前に、【ウォークライ】でヘイト値を稼ぐ。彼女はそれで攻撃を自分に引き付けるつもりだったのだが、その前にアークエンジェルに変化が起きた。
「あら?」
「……目標の形態変化を確認」
ミリアは元々剣士タイプのビルドであり、STRとVITを中心にステータスを振り分けている。そんな彼女が【ウォークライ】を使用してタゲを取ったので、アークエンジェルは大剣を持つ重戦士形態に移行したのだ。
「初めて見る形態だね……これ、スーパーアーマーありそうじゃないかな」
「でもさっきより鎧部分は少ないです! いっちゃうですよ!」
ルナの言葉を聞いたシャインが駆け出して、アークエンジェルの鎧が無い部分へ≪サブマシンガン≫を向ける。そして、決めてやると武技を発動させる。
「【JACKPOT】!!」
外国人のシャインなので、発音が実に流暢だった。放たれた全ての銃弾はアークエンジェルに次々と命中し、そのHPをぐいぐいと減らしていく。しかし残弾数が少なかった為、ほんの少しだけHPが残ってしまった。
だが、彼女達は慌てない。ミリアに向けて接近していたアークエンジェルに、四人が銃口を向けていた。
「「「「【アサルトバレット】」」」」
残りHPはほんのわずかなので、武技を発動させた狙撃で事足りる。その判断は的確で、アークエンジェルは四発の弾丸を喰らって膝を付いた。
「目標の沈黙を確認。任務完了」
「「「「了解」」」」
そうして戦闘が終了した所で、五人の間に流れる空気が弛緩した。
「皆、お疲れ様~」
「ふぅ、変なボスだったわね」
「お、SAB取れてるです!」
「あと、初回撃破報酬? へぇ、何だか面白そうだね!」
談笑する四人の美女を、トーマは笑みを浮かべながら見守っている。今回のイベントでは、オシャレしたいプレイヤー向けの装備が次々と手に入るのだ。女性陣はそれを見て、大いに盛り上がるだろう。
――姉様達もそうだったからね……僕は慣れているけれど、慣れていない人は大変そうだな。
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「うーん……この時間が勿体ねぇんだよなぁ」
そうぼやくのは、傭兵風の鎧を身に纏った青年。【遥かなる旅路】のエースである、タイチだ。
そんな彼に苦笑して、肩を竦めるのはギルド【おでん傭兵団】のギルドマスター・オーディンであった。
「ははは、若いねぇ。でも女性にとって、着飾る事は永遠の最優先事項だ。それを笑って受け入れるくらいじゃないと、将来苦労するぞ」
「そんなモンすか? ってか、オーディンさんって結婚とかしてましたっけ?」
「人の心の弱い所を抉るなよ……」
このオーディンさん、独身貴族である。しかし見た目は良いし、頼りになるし、女性のオシャレにも理解がある。普通にモテても良さそうなものだが、何故か独身貴族なのである。
そんな二人を意識の外に置いている女性陣は、ワイワイキャッキャとスピード・アタック・ボーナスの報酬である≪エンジェリックエンブレム≫をどう使うか頭を悩ませていた。
「えー、これ瞳にもやれるみたいだよ! でもそれやるんだったら、両目にしたいよねー」
「私は鎖骨のとこにしよっかなー。エルちゃんは、どれにするか決めた?」
【おでん傭兵団】の女性二人と会話していたエルリアは、笑みを浮かべてラインナップの中にあるモノに指先を向けた。
「この辺が良いかなって思ったんだけど、どこにやろうか迷ってるんだ」
エルリアが指さしたのは、流れ星を思わせるタイプのものだった。右向きと左向きがあり、彼女は右向きを指で指し示している。
ちなみにタイチは既に選択済みで、エルリアの選んだものと同じ……左向きの流星の≪エンジェリックエンブレム≫を、左腕に刻み込んでいた。
――あー、これは乙女心ですなぁ。タイチさんとお揃いしたいって事だよね~。
――うちのギルメン涙目~! まぁ最初から結果は決まり切ってる、勝てない勝負なワケですが。
二人はエルリアの意図を正確に察して、あと一歩を踏み出そうかどうしようか迷う彼女の背中を押す。
「それにするなら、やっぱ腕じゃない? エルたんはローブで肩とか見えないしさ~」
「足とかお腹も良いかもだけど、エロい野郎共の視線が飛んでくるかもだし。腕が無難でしょ~」
二人は男性陣にも聞こえる様な声量で、そんな事をのたまった。そんな二人の言葉に、エルリアも「そ、そうかな?」とはにかみながらその気を見せる。
そんなエルリアの様子に「これは可愛いな」と思いながら、二人は更に押す。
「そうそう、絶対それが良いって!」
「エルちゃんならバッチリ似合うよ!」
尚も押せ押せでエルリアを説得した二人は、無事に彼女の右腕に≪エンジェリックエンブレム≫が刻まれて満足そうに頷いた。
そうして三人がオシャレ談義を終えた所で、タイチはエルリアの≪エンジェリックエンブレム≫を見て……少しだが、表情を赤らめる。
「エルもそれにしたんだな」
「あ、タイチ兄と被ったね……まぁ、色は別だけどさ~」
わざとらしく、今気付きましたといった風を装うエルリア。女性二人はニマニマが止まらない。
「そうだな。あー、まぁ、うん……似合ってんじゃないか、それ」
タイチは先程のオーディンの言葉もあってか、ここは褒める所だと素直な感想を口にしてみせる。普段は自分からそんな事を言わないタイチなので、エルリアはどうかしたのだろうかと思いつつ……胸の奥から湧き上がる、喜びの感情に身を任せて表情を緩めた。
「ありがと、タイチ兄。そっちも格好良いよ」
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「いやはや、流石は皆様方。あの大天使をこうも容易く下すとは」
そう言って大剣を背負い直すのは、混成パーティに参加しているサスケだ。そんな彼が称賛しているのはシオンとダイス、ヴィヴィアンとバヴェルである。そんな彼に、シオン達は「そちらこそ」と返す。
「大太刀でのカットが、来て欲しい時にドンピシャで入ってたろ。心強かったぜ」
「私にタゲが向いた時も、すぐさまフォローに入って頂きましたし。助かりましたよ!」
純粋な前衛職のシオンとダイスがアークエンジェルを相手取る間に、魔法と剣を併用するバヴェルが攻撃してダメージを稼ぐ。そして適した形態になった所で、ヴィヴィアンの魔法攻撃で一気に大ダメージを与えるという戦術だった。
そしてシオン以外にタゲが向く場合は、サスケが率先して攻撃しカット。防御形態に移行させて、アークエンジェルの攻撃を可能な限り制限したのだ。
終盤の光弾攻撃には仲間達も慌てたものの、シオンの【展鬼】があれば全員纏めて庇える。そうしてそこで、ダイスが契約したPAC【クラリス】の出番だった。彼女は青銀色の髪を項あたりで結った弓職で、短刀もサブ装備として装備している。
今回は空中に居たアークエンジェルを弓で攻撃し、その行動を阻害。彼女がタゲを引いた所で、アークエンジェルは左腕に弓を装備した狙撃形態に移行した。
狙撃形態はVIT値が低いと誰もが即座に判断し、残り僅かなHPを散らすべく突撃。シオンが弓矢の攻撃を防ぎ切った所で、ダイスの【チェインアーツ】による猛攻撃で勝利を収めたのだ。
「クラリスも、ありがとな。援護射撃、助かってるぜ」
「そうでしょう、そうでしょう。私、デキるPACなので。ご主人、報酬にあの非常に美味な饅頭を所望します」
ダイスのPACである、クラリス。彼女は中々、イイ性格をしていた。ちなみに彼女の言っている饅頭とは、あんまんである。肉まんも好きだが、甘いのが一番いいらしい。
「では、こちらを。お好きだと存じていたので、多めに用意しております」
シオンが自分の収納から取り出したあんまんを差し出すと、クラリスの目がキランと輝く。
「おぉ……ご主人のも美味ですが、これも中々に美味しそうです。シオン殿、あなたを新たなご主人と認めても構いません」
「契約破棄しようとすんな……ありがとう、シオン」
「好きで作ったものだから。ダイスも食べる? 数はそれなりにあるから、報酬分が不足する事は無いと思うわよ」
空腹度の回復も必要である為、パーティ全員にあんまんを配って食べる事にした一行。その間に、報酬についても確認する。勿論、スピード・アタック・ボーナスもゲットしている。
「バ、バヴェルさんは……その、どんな≪エンブレム≫にします……か?」
おどおどしながらではあるものの、ヴィヴィアンはバヴェルにそう問い掛ける。そんな彼女に、バヴェルは優しく微笑みかけて応えた。
「気になるものが多くて、迷ってるんです。ヴィヴィアンさんは、決めましたか?」
「え、えーと……私も、迷っているところで……」
「解ります。こういいデザインが多いと、目移りしちゃいますよね。あ、ヴィヴィアンさんはこれとかどうですか?」
バヴェルが指し示したのは、プルメリアの花を模した≪エンジェリックエンブレム≫だった。
「あ、これ……可愛いですね」
実はこのプルメリアは、ヴィヴィアンの誕生日である十一月十六日の誕生花だ。ハワイの伝統的な装飾品であるレイなどに使われており、その為この花もラインナップに入っていたのだろう。
そんな事は露知らず、ヴィヴィアンはバヴェルに勧められたそれを選択するのだった。
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一方、ようやく三百階層に到達した面々も居る。
「ぬぅ……っ!! こいつ、戦い方を変えられんのかよ!!」
迫るアークエンジェルの攻撃を受け止めて、イカヅチが表情を歪める。アークエンジェルの適正レベルは60で、イカヅチにしてみれば格上の難敵だ。
そんなイカヅチへの追撃は、彼の義妹によって遮られた。
「兄さんばっか見てると、怪我するよっ!!」
アクエンジェルの顔面に、豪快なフルスイングで戦槌による強打を喰らわせるイナズマ。流石のアークエンジェルもこの攻撃は堪えたらしく、攻撃を中断してHPを減少させながらたたらを踏む。
「サンキュー、イナズマ!」
「へへっ、ボクの方がゲーム歴長いからね! フォローは任せて!」
そんな兄妹の前で、アークエンジェルが形態変化を開始。タゲはイナズマに向いており、防御形態へと移行した。それを確認したナタクが、ネオンに向けて呼び掛ける。
「ん? あの感じだとVITタイプか? それなら……ネオンさん!」
「はいっ! 私の出番ですね!」
後方で魔法詠唱を完了させてチャージしていたネオンが、アークエンジェルに向けて魔法を発動させる。
「【ライトニングカノン】!!」
彼女の≪番傘・泰然自若≫に付与されている武装スキル【チャージング】は、チャージ時間に応じて魔法を強化するという効果を持っている。雷の砲撃魔法はアークエンジェルのHPをどんどんと削り、一気に七割から三割まで削ってみせた。
その攻防を見守っていたハヅキは、イカヅチに≪ポーション≫を投げて回復させつつ分析を続けていた。
「イカヅチさんを狙っていた時はSTR高めの形態、イナズマちゃんの時が防御……もしかして、次は……」
ネオンの魔法を受けたアークエンジェルが、またも形態変化。その装いから、ハヅキはそれが魔法攻撃形態だと判断する。
「そっか、タゲる相手に応じて……って、これ最高のタイミングかも!!」
収納から出していつでも撃てる様にしておいた、大きな鉄の塊。それに飛び付く様にして、ハヅキは照準を合わせた。アークエンジェルが魔法詠唱を終わらせる前に、その引き金を引く。
「いっけぇ!!」
ズドンという轟音と共に、撃ち出されたのは一本の杭。魔法詠唱を阻止するには至らなかったが、ハヅキが放った杭はアークエンジェルの腹に突き刺さり、大ダメージを与えた。その一撃を目の当たりにして、男子二人は歓喜した。
「うおっ、すげえ削れたぞ!?」
「パイルバンカー!? ハヅキさん、なんて素晴らしい浪漫兵器を……!!」
そう、ナタクが言う通りそれはパイルバンカー。本当ならば、超至近距離からぶっ放したい一品である。ちなみに連射性を捨てた単発式である代わりに、その威力は申し分無し。
しかしアークエンジェルの放った魔法は、ネオンとハヅキの方へと飛んで来る。しかし、ネオンのPACであるニコラがそれを許さない。
「【エレメンタルガード】!!」
ニコラは対魔法攻撃に長けた、【盾の心得】の武技を発動。その手にした盾を駆使して、二人を守ってみせる。
「ニコラさん、ありがとうございます!」
「ふふっ、任せなさいって! マスターとハヅキお嬢さんには、指一本触れさせないよ!!」
見た目に反さず、気風の良い姉御風なニコラは話し方も豪気そうな女性だ。ネオンと対照的なのだが、それがやけにしっくり来る。
ちなみに今の攻撃で、アークエンジェルのHPは一割を切る。飛翔形態に移行して、アークエンジェルが空中に浮かび上がった。
「あん? 飛ぶのかよコイツ!!」
「……まずい! 皆、警戒して!」
ナタクが警戒を促すと同時、アークエンジェル飛翔形態が光弾を放つ。断続的に放たれる光弾は、タゲ関係なく全員に向けて放たれている。
「ナタク、使って良いか!?」
イカヅチがそう言うと、ナタクは一瞬思案し……そして決断する。
「オーケーです!!」
「っしゃあ、行くぜ!! 【スーパースター】!!」
スキル発動宣言と同時にイカヅチは全身から金色のオーラを発し、その瞳と髪も金色に変化する。これが全てのスター系スキルを入手する事で得られた、特別なスキルであった。
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エクストラスキル【スーパースター】
効果:発動時、無敵状態になる。効果終了後、HPが残り1になる。全ステータス+100%、技後硬直時間-100%、クールタイム-100%、発動宣言省略。持続時間60秒間。
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「出た、兄さんの超サ●ヤ人!!」
「凄いよね、超サイ●人!!」
イカヅチの変貌に沸く、義妹とその親友。彼女達の言葉通り、スキルを発動させたイカヅチの姿は、某少年漫画で描かれる主人公達の血統によって発揮される超強化を彷彿とさせる。イカヅチの場合は、瞳の色が金色なのでそのままではない。
そんな二人を見つつ、ネオンはニコニコしながらイナズマとナタクの為に魔法障壁を張っていた。自分とハヅキに向けられた光弾は、ニコラにお任せだ。彼氏の影響か、自然に仲間をフォローする役回りが板に付いて来ている。
光弾がバンバン当たるのだが、無敵状態なのでダメージは無く状態異常も起きていない。そうしてイカヅチは、アークエンジェルを射程距離に収めた。
「降りて来いや!! 【シールドキャノン】!!」
左手の盾を投擲する武技で、イカヅチはアークエンジェルのタゲを引く。イカヅチを標的にしたことで、アークエンジェルは攻撃と防御のバランスが良い前衛形態へ移行した。
イカヅチはそんなアークエンジェルに、【一閃】をこれでもかと叩き込んでいく。効果持続時間は一分しかない為、これで勝負を決めたい所だ。
「こいつで、どうだぁっ!!」
【スーパースター】の効果が切れたイカヅチは元の風貌に戻る。それと同時に、HPが残り1ポイントになってしまった。そんな彼の目の前に居るアークエンジェルのHPゲージは、完全に光を失っていた。グラリと力を失って、床に倒れ伏すアークエンジェル。その姿を見下ろして、イカヅチは深呼吸をする。
――こっから先でも、強いヤツが待ってんだよな……上等じゃねぇか。
湧き上がる衝動を抑えて、イカヅチはグッと左手で小さくガッツポーズを取る。自分がトドメを刺したものの、そこに至るまでは助けられてばかりだったのだ。
仲間や家族を守る為に、もっともっと強くなる。ジンやハヤテ、ミモリと肩を並べられるくらいに。そんな決意を胸にして、イカヅチは仲間達へ振り返って笑うのだった。
最初はスーパー●リオのスーパースターのつもりだったのに、何で超サ●ヤ人になってんだろ←
次回投稿予定日(2024/4/9修正)
2024/4/10(本編) → 2024/4/20(本編)
楽しみにして下さる読者の皆様には申し訳ございませんが、作者の一身上の都合により投稿日をずらさせて頂きます。
何卒、ご容赦頂きますようお願い申し上げます。




