18-06 幕間・イケメン俳優さんじょう
サブタイ?
え?
変換を忘れてる?
いやぁ、ハハハ……まさかぁ。
ジン達がエクストラクエストを攻略している、その頃。始まりの町[バース]に、一人のプレイヤーが初めてログインしていた。
「へェ……なかなかリアルじゃん」
彼の名前は、滝山年也。芸能事務所【オクタビュー・エンターテイメント】に所属する、多方面で活躍する俳優である。
彼は五年前にメンズモデルオーディションにて準グランプリを受賞し、現事務所に所属。そこから俳優としての活動を始め、ドラマにチョイ役で出演するようになった。そして二年前、特撮ヒーロー番組に出演して一躍人気となった新進気鋭の若手俳優として注目を集めている。
が、そうして人気者となった彼は、それから様々な女性芸能人と浮名を流す様になった。その為か、最近はファンにまで手を出す様になったともっぱらの噂である。
そんな彼が、何故AWOを始める様になったか? それも、女性関係のあれやこれの影響だったりする。
関係を持ったファンの一人がAWOプレイヤーであり、熱心に彼を勧誘して来たのだ。曰く「タキトシが始めたら、ファンギルドが出来る」とか「スタープレイヤーになるのもすぐだよ!! マッハだよ、マッハ!!」との事。
しかしそんな楽天的すぎるファンの言葉を真に受けて、彼はAWOを始める事にした。勿論、そのファンに入れ込んでいるとかそういう理由ではない。
――VRなら妊娠の心配はねーからな。それに現実と違って、ブスも少ねぇ。
見事なまでにクズな理由である。
ちなみに彼は手を出したファンから妊娠したと聞かされて、事務所を巻き込んで大騒動になったばかりだったりする。その時に彼は自分の子供とは限らないと口にしてしまい、わざわざDNA鑑定をする程の事態となった。
結果として、妊娠したのは彼の子供で間違いなかった。そこから事務所に叱責されながらも、何とか中絶手術の費用を支払い騒動は決着した。
――チッ……!! 社長やマネージャーに睨まれてなきゃあ、今度はあの女子大生を抱こうと思ってたのによ……。
つまりは現実で女遊びが出来ない状況下の為、プライベートの時間にVR・MMO・RPGをプレイして女遊びをしようという魂胆である。
AWOを選んだのは、このゲームが今一番の話題作である事……そしてリアルさを追求するフルダイブ型のゲームでは、現実さながらの行為が可能ということを知ったからだった。
あの頃の神速さんがマトモな紳士に思える程に、清々しい程のクズだ。
ちなみに余談ではあるが、男女の営みがゲーム内で出来る事には世間からの反感を抑えるだけの理由もある。例えば単身赴任で離れ離れにならざるを得ない夫婦や、遠距離恋愛のカップル。そういった人達が距離を超えて、ゲームの中で現実同様に愛し合える。
そうは言っても、ゲームに詳しくない一般の人々は騒ぐのをやめないだろう。そこで代わりに法令順守の為、十八歳未満は一切そういう行為が出来ない様になっている事……そしてハラスメントセキュリティを備えている事や、犯罪行為を行ったプレイヤーへのデメリットが取り返しのつかないレベルで重い事などが最低限の仕様基準。それでようやく、リアル追求型のフルダイブVRゲームは実現に至ったのだ。
おまけの余談ですけど、あの頃の神速さんも”出会い”が欲しかっただけで”とっかえひっかえ”しようなんて思ってはいなかった。もしも誰かが彼の言葉に応じていたならば、彼は全身全霊でその女性だけを愛していただろう。そういう所は、ちゃんとしていたんですよ彼も。
さて、そんなクズい彼のアバターネームは【TOSHIYA】。芸能界でも公開している本名をそのまま使い、アバターもスキャンされた現実の自分をそのまま反映した姿だ。
そうした理由はただ一つ……自分のルックスと知名度ならば、顔と名前だけで女性が勝手に寄って来ると考えたからである。
――VRゲーだから期待してなかったけど、ゲームの中とは思えねぇリアルさだ。なら、あっちの方も期待して良さそうだなァ。
実際に彼の姿を見て、その辺りを歩いていた女性プレイヤー達が反応を見せている。
「ねぇねぇ、あれってタキトシじゃない!?」
「まさか……本物!?」
「いや、本物な訳ないでしょ……だって、タキトシは俳優だよ?」
「そうそう、きっとガワだけっしょ」
「待って!! タキトシのツブヤイターで、AWO始めるって書いてる!!」
「はぁっ!? まさか、もしかしてもしかする感じ!?」
そんな声が耳に入って、トシヤは気分を良くする。この分なら、現実で発散出来ないフラストレーションを解消する事が出来そうだ……なんて思っていた。
そんな時である。
「おい、お前……あの年也か?」
「ん? あぁ、ハイハイ。俳優の滝山年也だけど、もしかしてファンの人かな?」
声を掛けて来たのは、男だった。女性にしか用はない……さっさと追い返そうと思って振り返ったトシヤは、そこに立っている五人組を見て言葉を失った。
「久し振りだな、俺の顔……覚えてるか?」
厳しい視線と、絞り出した様な低い声。声の主が怒りを滲ませている事は、彼にもよく解った。
「せ、センパイ達……!?」
そう、その五人組はトシヤの高校時代の先輩だった。その頃は彼等に世話になっており、可愛がって貰っていた覚えがある。
そんな彼等が、何故トシヤに対して怒りを向けているのか? 理由は簡単で、トシヤが彼等の恋人や想い人を寝取ったのだ。つまり今現在、トシヤからしたら修羅場開始である。
「おー、良かった良かった。ちゃーんと、覚えてたみてーだな?」
「この前出ていたドラマ、見たよ。頑張っているみたいだね」
「う、うす……どうもっす……」
「その様子だと、ゲームを始めたばかりみたいだね」
「だな? いつから始めたんだよ」
「つ、ついさっき、っす」
「あぁ、ガチの初心者なのか。それはそれは……」
周りからは、普通に会話をしている様にしか見えないだろう。しかしトシヤからしてみれば、恩を仇で返した先輩達に睨まれているのだ。苦痛以外のなにものでもない。
そこで最初に声を掛けてから、ずっと黙ってトシヤを睨んでいた男が口を開く。ちなみに彼は恋人だけでなく、妹にまで手を出されている。なのでこの中で一番、トシヤに怒りを覚えている人物だったりする。
「それはタイミングが悪かったな……もうすぐイベントがあるから、初心者向けの狩場も人が多くて競争率が高い時期だ」
「そ……そう……なんです、ね……はは」
「しかし、そうだな……お前は昔から運動神経も良かったし、要領も良かった。十分なレベルのプレイヤーのサポートがあれば、すぐに活躍出来るはずだ」
青年はそう言うと、笑みを浮かべてトシヤの肩を叩く。口は笑みの形だが、目は相変わらず笑っていない。いっそ、殺意すら感じる。
「ここでお前に会ったのも、きっと縁だろう。俺達が、お前の成長を手伝ってやろう」
そう言って、青年はトシヤの肩に置いた手に力を込めた。
――や、やべぇ……こ、殺される……!!
「セ、センパイ達の、御迷惑……に、なりません、かね?」
せめてもの抵抗は、忖度する事だけだった。ここは、丁重に断ってこのままログアウトしたい。そう思ったトシヤだったがしかし、他の四人も青年に同調した。
「そりゃ良いな、賛成だ」
「うん、可愛い後輩の為に一肌脱ごうか」
「昔を思い出すなぁ、トシヤもそうだろ?」
「断ったり……しないよね?」
――これ、詰んだ?
ちなみに彼等には本当に良い意味でも可愛がって貰っていたので、実家の場所も電話番号も知っているし親とも面識がある。ヘタをしたら、家族経由で色々とヤバい事になりそうである。
しかも、彼等には様々な……それはもう、本当に様々な弱みを握られている。それが公となった場合……事と次第によっては、また事務所の社長やマネージャーから叱られるかもしれない。
「そ、そういう……事、でしたら……よろしく、お願いしやす……」
断ったら、肉体的には無事でも精神面・社会面で死ぬかもしれない。そう考えたら、返答は一つしかなかった。
――ど、どうやってバックれよう……!?
――絶対に逃がさねぇ、徹底的にわからせてやる……!!
さて、そんな光景を見ていた一般プレイヤー達。
「……ねぇ。あれってさ……」
「う、うん。何で……タキトシが、あの人達と……?」
「まさか、リアルで知り合いとか……?」
「確かに顔は良いけど……でもさ……」
「あれって【ベビーフェイス】だよね……?」
次回投稿予定日:2024/3/5(本編)
参上? いいえ、惨状です。大惨事です。
【ベビーフェイス】は忘れた頃に出すと、思いの外良い味を出してくれます。
スルメみたいですね。




