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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十七章 クランを立ち上げました

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17-38 訓練を始めました

 イカヅチの申し出を受けたジン達は、とあるダンジョンにやって来ていた。

「ここでジンは、ユニークスキルを手に入れたんだよな?」

「そうでゴザルな」

 その場所とは、最速忍者が誕生するきっかけとなった[魔獣の洞窟]だ。獣型のモンスターが出現する、初心者向けのダンジョンである。

「もう【九尾の狐】も【スピードスター】も手に入らないでゴザルが、獣型モンスターとの戦いを経験するには持って来いの場所でゴザルな」

「よし、解った。そしたらやってみっか!!」

「イカヅチさんは今、レベル17でしたね。これなら、[魔獣の洞窟]でも十分戦えます」

 イカヅチのレベルは、先日のスタンピード戦での経験値も手伝ってゲームを初めて数日とは思えない程に上がっていた。


 イカヅチに必要なのは、まず実戦経験。そして戦闘スタイルの確立と、それに見合ったスキル・装備・装飾品の拡充。

 その辺りをクリアする為に、ジン達はまずイカヅチの戦闘を見る事が重要だと判断したのだ。

 同行するのは、いざという時の戦力としてジンとヒメノ。アドバイザー役にハヤテとナタク、そのサポートとしてアイネ・センヤ・ネオン・ヒビキ。この時点で九人になる為、ヒイロ・レン・シオン・ダイス・ヒューゴは別行動だ。


 ジン達は基本的には手を出さず、イカヅチが単独で戦う様子を見てアドバイスする方針。

 ステータスはまだ低めではあるが、高性能な装備がそれを底上げしている。このビルドならば、[魔獣の洞窟]に生息するモンスターとの戦闘に支障は無い。


「オラァッ!!」

 豪快な大振りの一撃で、モンスターを吹き飛ばすイカヅチ。獣型モンスターのVITであれば、特に問題無く倒せる。

 しかし、ハヤテは難しい顔をしていた。

「ウチには居なかったタイプッスね、やっぱり。何と言うか、こう……」

「ザ・パワータイプ、って感じ?」

「そうそう、そんな感じ」

 言い淀むハヤテの言葉を、アイネが上手く言語化した。二人の言う通り、イカヅチは今までにないタイプの攻撃スタイルだった。


 近接戦闘を主とするのは、ジン・ヒイロ・シオン・アイネ・センヤ・ヒビキ・ナタク。

 ジンの場合は言うまでもなく、徹底的に速さを追求したもの。そこに様々な要素が組み合わさって、生半可な相手では手が付けられないのだが、それは置いておくとしよう。

 ヒイロは鋭い切れ味を感じさせる、正確無比な狙い澄ました様な攻撃だ。システム外スキルを我が物にする為の修練が、彼の技量をそこまで押し上げたのだろう。

 シオンは初音家の訓練を受けている為、やはり完成された動きで戦う。圧倒的な防御力に目を奪われがちだが、彼女の戦闘技術は本物だ。

 アイネに至っては、正式な薙刀術を駆使した戦いである。その洗練された薙刀捌きと立ち振る舞いは、ある意味イカヅチとは対極だろう。

 センヤは抜刀術スタイルで、一撃の速さと鋭さをウリとしている。最初は興味本位で身に付けようとした技巧だが、今ではすっかり立派な戦術として昇華されていた。

 ヒビキは重い一撃を叩き込むという点では、イカヅチと似ている。だが彼の場合は格闘技を参考にしているので、印象は大分異なる。

 ナタクは短槍で相手の隙を潰し、突くタイプ……彼もまた、技巧派の中でもトップクラスの実力者だ。流れる様な動きが持ち味の戦闘スタイルである。


 そんなこれまでのメンバーと異なり、イカヅチの攻撃スタイルは豪快な戦い方だ。相手モンスター目掛けて、武器を振り下ろす。薙ぎ払う。斬り上げる。

 更に武器を振るった直後に迫って来るモンスターを、強引に蹴り飛ばす。大太刀も刀身だけでなく、柄で殴打したりと型に嵌まらない戦い振りである。

「というか動きとか掛け声が、明らかにヤンキーって感じ。バイオレンスって言葉がピッタリッス」

 そう、イカヅチの戦い振りは非常に攻撃的なものだった。言い方は悪いが、暴力的な戦い方だ。

 とは言うものの、悪い面だけではない。

「でもああしてバッタバッタと薙ぎ倒していくのは、観戦する分には痛快だよね。戦う相手としては、ちょっとご遠慮願いたいけど」

 ナタクの言う通り、そういった豪快な戦い方を好む者もいる。見ている分には、爽快感や痛快さを感じさせる場合もあるのだ。

 同時に戦う側の視点で考えると、その勢いや迫力に気圧される事もあるだろう。それもまた一つの戦略要素になり得る訳で、一概に否定できるものではない。


 そんな仲間達の批評は耳に入っておらず、モンスターを相手にする事に集中するイカヅチ。彼は迫る獣型モンスターを倒し続け、一掃してみせた。

「……っしゃあ!! どんなモンよ!!」

 その様子は、得意気なものである。ジン達からしたらまだまだ粗削りではあるのだが……それでも、攻撃のセンスは良い方と見て良いだろう。


「……イカヅチ、結構戦い慣れしていないでゴザルか? 武器を振った後に接近して来たモンスターを、蹴り飛ばして怯ませたりしてたけど」

 ジンがそう問い掛けると、イカヅチは鼻を鳴らした。

「別に、好きで慣れたワケじゃねーよ。絡んで来る連中が居るせいで、自然に慣れちまっただけだ」

「……もしかして、喧嘩?」

「勘違いすんなよ。俺から吹っ掛けた事は一度もねーし、あくまで身を守るだけに留めてらぁ」

 イカヅチは現実でも、不良っぽい見た目の少年だ。そんな彼なので、絡んで来る輩が居たらしい。


 ちなみに本人の言う通り、喧嘩を売られても安易に買ったりはしていない。執拗に絡んで来る相手が実力行使に訴えた時、身を守る為に対応するだけである。

 その理由は、実はジンにある。イカヅチ……数満は、仁がいつかオリンピックで金メダルを獲得する陸上選手だと信じていた。そんな彼のイトコが、素行不良の荒くれ者だと思われたら? 自分が原因で、仁がスキャンダルに見舞われる訳にはいかない。その為にも、自分が無法者と周囲に見られない様にしなければならなかったのだ。

 何だかんだで、仁の事を大切に思っているのはハヤテやミモリと変わらないのである。


「ま、今は落ち着いてっけどな。絡んで来た連中も、今じゃ下らねー雑談したりする仲だぞ」

「河原で殴り合って友情を深めでもしたでゴザルか?」

「んな目立つところでやり合わねーよ」

 殴り合って友情が深まったのは、否定しないらしい。


……


 そんなこんなで、イカヅチはそのままボス部屋へ突入。流石にボスをソロで相手取るのは危険と考え、二人が戦闘に参加する事になった。

 ()()()参加者は、盾役のヒビキとサポートアタッカーのセンヤだ。

「宜しくお願いします、イカヅチさん」

「頑張りまっしょい!!」

 丁寧に挨拶をするヒビキと、明るく快活なセンヤ。可愛らしい見た目の二人だが、その実力は先日のスタンピードで目の当たりにしている。だからイカヅチに侮る様な素振りは無く、二人に対して真っ直ぐ向き直って言葉を返す。

「付き合ってくれてサンキューな、二人共。こっちこそ、宜しく頼むわ」

 そう言って、イカヅチは軽く頭を下げた。

 気心知れたジンや、ハトコであるハヤテに対するものとはまた異なる……しかし、親愛の情を感じさせる言葉と態度だ。そんなイカヅチに、二人は笑顔で頷いてみせた。


 そして始まるボス戦はセンヤのスピードを生かしたタゲ引きと、ヒビキの守りの堅牢さがうまく嚙み合った。

 ボスモンスターの素早さは、センヤの抜刀術で行動を阻害。動きが止まった所で、イカヅチの豪快な攻撃が叩き込まれる。攻撃を受けた後の、ボスの反撃はすかさずヒビキが防御。更にそこへイカヅチが攻撃を繰り出して、着実にダメージを与えていく。

 結果、三人はスピード・アタック・ボーナスまでは得られなかったが、大きな損害も無くボスモンスターを討伐してみせた。


「ふぅ……二人のお陰で楽勝だったぜ」

 この言葉は慢心ではなく、実際にその通りであった。センヤとヒビキのサポート能力の高さもあるが、イカヅチとしては今回の[魔獣の洞窟]は相性が良いダンジョンだったのだ。

 一連の攻略が完了した所で、ハヤテが号令をかける。

「はい、それじゃあ審査員総評のお時間ッスね~」

 そう……今回は、単純に攻略をする事が目的ではない。イカヅチの戦闘を評価し、アドバイスするのが目的だ。

 ジン達はボスまでの攻略を見ていて、気が付いた事について評価する。


「ここぞという時の踏み込みや、力の乗せ方は文句無しだと思うでゴザル。大型のモンスターやボス相手でも、怯まずに立ち向かえるのは前衛向きでゴザルな」

「ボス戦での、センヤちゃんやヒビキさんとの連携も出来てましたね! ちゃんと二人の動きを見て、タイミングを合わせられてたので!」

 ジンとヒメノがそう言うと、実際に一緒に戦ったセンヤ・ヒビキも頷いてみせる。

「そこはイカヅチさんが、私らを信じてくれてたのもあるね! モンスターの動きを妨害したり、防御したりした時にドンピシャで攻撃してくれてたし!」

「うん、同感。一番良いタイミングで、攻撃を入れられていたと思います。アタッカー適正は、僕より高いんじゃないでしょうか?」

 このメンツは、実際に身体を動かして覚えるタイプ……所謂、感覚派の面々だ。そういった方向性のメンバーからの、イカヅチの動きは高評価だった。


 では、理論派の面々から見ると。

「ただ、防御に関してはあんまり意識を割いていなかったのかなって思いました。回避能力は低く無いですけど、大ダメージを受けない攻撃に関しては頓着していなかった気がします」

「そうだね、攻撃が状態異常攻撃だったらまずかったかな。それに小さなダメージも、積み重なれば大きなものになる……」

 ネオンは魔法職……同時に回復役としての視点から、気になった点を言及する。ナタクもそれについては同じ考えで、ベテランプレイヤーとしての奇譚なき意見を口にした。

「後は、攻撃の後の隙がやっぱり大きいね。小さいダメージは、そこが積み重なっていたから……動きに、ちょっと無駄が多いのかも」

 アイネはやはり、技巧に長けたプレイヤーとしての意見だった。申し訳なさそうな様子ではあったが、武の道に通ずる者としては言わずにはいられなかったのだろう。

 感覚派の面々の評価の後に、立ち回りについて意識を割く理論派からの奇譚なき意見。それを聞いて、イカヅチは奥歯を噛み締める。


――そりゃそうだよな、こいつらは広く名前が知られている連中だ……俺は始めたばっかりで、知らない事が多過ぎる。


 そして、イカヅチにとっても本人にとっても「ウマの合わない相手」……ハヤテの意見。

「うん、まぁ……今回はそんくらいッスかね? アイやタク、ネオンさんが言った通り立ち回りに難はあるけど……初めて来るダンジョンでこんだけ出来れば、上出来じゃないッスかね」

 意外にも、あっさりとイカヅチに対して及第点レベルという評価をしていた。そんなハヤテの評価を聞いて、イカヅチは目を丸くしている。

「……お前、ホント何か変なモン食ってねーよな?」

「どういう意味だ、コラ」

 失礼な……といった態度で、ハヤテはイカヅチを睨む。しかし、すぐにその表情を緩めて言葉を続けた。

「仲間に対する意見や評価に、俺は私情は挟まないッスよ。他の仲間の安全にも繋がるんだから、当然の事ッス。今回はぶっちゃけ、イカヅチにとって相性の良い攻略対象だったし? これくらいはやってくれるとは思ってたッスからね」

 そう言うハヤテはどこか清々しそうに、笑みを浮かべて肩を竦めた。

「次回、ここでモンスターと戦う時に、今のアドバイスを生かしてくれてたらそれで良いんスよ。こういうのは、積み重ねッスからね」

「お、おう……解った、色々気を付けられる様にする」

 イカヅチの予想に反して、ハヤテの評価は悪いものでは無かった。その事に内心、驚くのも無理はないだろう……ハヤテならば、重箱の隅を楊枝でほじくる様に問題点を指摘すると予想していたのだから。


 ただ、それは早計だった。イカヅチは、それを痛感させられる。

「じゃ、次に行くッスよ。今度はレンさんがユニークスキルをゲットした、[神獣の祭壇]ッス」

 その一言で、イカヅチの表情が変わった。今の様なダンジョン攻略を、ハヤテは一通りやらせるつもりなのだろうと。

「お、おい、ハヤテ……今日は、今のだけじゃねーのか? っつーか、この後どれくらいやらせる気なんだ、お前……?」

「うん? 今日の目標はダンジョンを、三つか四つ攻略ッスね。残りは明日以降にして、その後で洗い出された問題点を改善する為に、身に着くまでその繰り返し。同種のダンジョンは先のエリアにもあるから、実力が伴う様になったらそっちに移動ッスね。大丈夫、ゲーム内の時間は現実よりも三倍速ッスから。余裕ッスよ、余裕」

 ゲームを初めて間もないイカヅチからしてみれば、とんでもないブートキャンプだった。事も無げに言うハヤテに、イカヅチは絶句し……しかしすぐに、グッと表情を引き締めた。

「上等じゃねぇか……!!」


************************************************************


 その後、ハヤテが指定したダンジョンを廻るイカヅチ。

 [魔獣の洞窟]の次に向かったのは、魔法攻撃を多用するモンスターが多い[神獣の祭壇]。ここはかつて、レンが【神獣・麒麟】を入手したダンジョンだ。

 ここではイカヅチの防御面の粗が際立ち、簡単に魔法攻撃を喰らいHPを激減され、モンスターにコテンパンにやられた。

「魔法攻撃は正直、相性最悪みたいでゴザルな……」

「……ハヤテ、ダンジョンの選定については、意地悪じゃないんだよね?」

「人聞き悪いッスねー、タク。教訓を得る為に痛い目を見ておくなら、上げて落とすは基本ッス」

「やっぱり狙ったんだね……」


 このダンジョンのボス戦までに、イカヅチは二度戦闘不能に陥ってしまう。その度に蘇生された為か、終盤では[魔獣の洞窟]に挑んだ時よりも回避に意識を集中する様になった。

 ボス戦では魔法攻撃が必要不可欠なので、参戦するのはネオンとナタクの二人だ。

「ボスのタゲ引きは、僕が引き受けます」

「私は後方から魔法で支援しますね!」

 今回はイカヅチをメインにした戦闘の為、ネオンの【チャージング】もナタクの【ドッペルゲンガー】も封印だ。

 それでも二人の的確な支援のお陰か、イカヅチは攻撃に集中する事が出来た。

「イカヅチさん、右に引き付けます!!」

「おうっ!!」

「そろそろお終いですね……【ストレングスアップ】!!」

「おっ、サンキュー!! これで……どうだっ!!」

 二人の手厚いサポートを受けたイカヅチの一撃で、ボスのHPがゼロになる。ボス戦では、HPが危険域にまで減る事も無く討伐完了した。


――最初のダンジョンと比べて、ここではダメダメだったな。ボスをこう簡単に倒せたのは、二人が居てくれたからだ。いや、最初のダンジョンもそうだな。仲間が居るから、こんなに戦いやすいんだ。


 そして、またもやって来る批評タイム。今回は自分でも揮わなかった自覚があるので、イカヅチとしてはやや緊張気味だ。

「ん-、魔法攻撃への対策は急務ですね。でも武器の傾向からして、盾を持つのはあまり向いていない……でしょうね」

「うん。でも魔法は普通なら盾で受ける、魔法で防ぐ、避けるのどれかだからね」

「後は一番の持ち味である攻撃センスの高さが、意識を回避に割かれて生かし切れてなかった気がしますね。装備の拡充で、その辺りを補うべきでしょうか」

「だったらそこは、イカヅチさん用の一式装備と防具で賄えるよね! MNDだけじゃなくて、VITも盛った方が安定するかな?」

「後はHPも欲しい所でゴザルな。装飾品も含め、どのステータスを補強するかでゴザルが……」

「まぁ装備性能も大事ッスけど、根本的な魔法攻撃への対抗策は必要ッスね」

「後半はアイちゃんが言う通り、攻撃に関しては少し活かせてませんでしたが……でも、魔法をちゃんと警戒出来てたと思います! 避け方なんかは、ジンくん達がコツを教えてくれますよ!」

「「「「「いや、ジン(兄)(さん)のは参考にならないと思う(ッス)」」」」」

「えー……」

 最後のはさておき、思いの外……というのは失礼かもしれないが、皆優しい。やさいせいかつ。


「ちなみにお前……魔法攻撃は、避けてんのか?」

「そうだね、大体は全部避けてるでゴザルよ」

「全部?」

「全部」


……


 次に向かったのは、ヒメノが【八岐大蛇】を手に入れた[巨獣の住処]。STRの高いモンスターが多く生息する、危険なダンジョンである。

「一撃でも喰らったら死ぬと思った方が良いッスよ」

 ハヤテに事前にそう脅されていた為、イカヅチもおっかなびっくり攻略を開始。入って早々に、お久しぶりのサイクロプスさんが「皆、丸太こんぼうは持ったな! 行くぞぉ!」と出迎えてくれた。でも、相変わらずぼっちである。

「オラァッ!!」

 棍棒の攻撃を回避して、イカヅチはサイクロプスの脛に一撃を叩き込む。しかし、イカヅチの攻撃でもサイクロプスは怯まない。お返しとばかりに繰り出された攻撃で、イカヅチのHPが一気に危険域まで減少した。

「くっ……!? マジで、ヤベェな……!!」


 戦慄するイカヅチを見て、ジンがハヤテに視線を向ける。

「で、どうする?」

「……ジン兄、お手本オナシャス。ヒメさん、ちょっと今回はジン兄の相方役譲って貰っていいッスか?」

 ハヤテの返答に、ヒメノは目を丸くして……そして、ニッコリと微笑んで頷いた。

「んじゃ、行くッスよ」

「了解でゴザル……疾風の如く!! 【クイックステップ】!!」

 ジンが風の如く駆け抜けて、イカヅチの目前に立つ。

「まぁ、威力低めでタゲ引きとなると……これでゴザルか」

 そう言って、ジンが手にするのは手裏剣。左の掌に数枚を乗せ、それを右手で摘まみ……手首のスナップを利かせつつ、投擲する。それも、一枚だけではなく連続で数枚。


「うわぁっ!! ジンさん凄い!!」

「えー、早くない!? めっちゃスムーズに投げてる!!」

「うんうん、凄いねっ……!!」

「いや、うん……本気で凄いな!?」

「なんというスリケン・ジツ、ワザマエ!!」

「ジンくん、カッコいいです!!」

 確かに流れる様な、そしてAGIの高さを駆使したスリケン……もとい、手裏剣術なのだが、ダメージ自体は低い。

 しかし、目的であったサイクロプスのタゲ引きには成功したようだ。その大きい一つ目が、ジンを怨敵の様に睨んでいる。まぁ、無理も無いだろう……その一つ目に、都合九枚の手裏剣を投げ付けられて刺さっているのだから。

「イカヅチ、ハヤテがフォローしてくれるでゴザルから。タゲは拙者が」

 そう言ってイカヅチから距離を一瞬で取り、ジンはサイクロプスに視線を向ける。そんなジンの様子を挑発的と見做したのか、サイクロプスはすぐ近くに居るイカヅチを無視してジンに向けて一歩を踏み出した。


「さて、イカヅチさんや」

 突如、背中からそんな声が聞こえて来たので、イカヅチは何故かゾクッとしてしまった。

「ハ、ハヤテ!? おまっ……背後に回んな!!」

「いや、アンタどこのゴ●ゴッスか?」

「純粋にこえーんだよ、お前の場合!!」

「ケケケ、いい気味ッス」

 イカヅチ相手だと、ハヤテは容赦がない。しかしハヤテはすぐに表情を引き締め、ジンとサイクロプスを指差す。

「ああいう相手を止めるのは、通常攻撃だと難しいんス。俺の見た限りで言うと、体格差があるモンスターは大体そう。それを”スーパーアーマー状態”っていうッス」

「お、おう……そうか、成程な」

 煽られると思っていたイカヅチだが、割と真っ当なアドバイスをされて内心驚いてしまう。しかしそんな事を口にすれば、碌な事にはならないと解っている。というかその場合、身内なジンやハヤテに対してはともかく、付き合ってくれている他のメンバーに申し訳ない。


 さて、ならばどうすべきか……ハヤテのアドバイスを真剣に聞こうと、耳を傾ける。

「じゃ、そのスーパーアーマー持ちを止めるには、どうすればいいッスかね? さぁ、Let’s think!」

「って教えねーのかよ!!」

「何言ってんスか? んなの、自分で考えた方が身に付くに決まってるじゃないッスか。え、何? それとも手取り足取り、優しく教えて欲しいって?」

「んな訳あるかァ!!」

 ちなみにこれは、ハヤテなりの指導だ。何でもかんでも教えるよりは、自分で考えさせた方が本人の意識に残りやすい。この手法はセンヤ・ネオン・ヒビキにも……まぁ、もっと優しく丁寧にではあるが、活用していた。意外とこれが、重要なのだ。


「っつーか、そこまで言われりゃ予想できるんだよ!! 見てろクソガキ!!」

「おーおー、イキってるッスね~。あ、ちゃんと急所狙って下さいッスよ、センパーイ」

「黙って見てろやぁ!! 【一閃】!!」

 ハヤテのヒントを基に導き出した答えは、勿論正解。【一閃】等の武技を特定部位に当てる事で、モンスターをヒットストップする。また、特定部位……要するにモンスターのウィークポイントへの攻撃は、クリティカルになりやすい。これは初心者を抜け出したプレイヤーは、大体身に付けている基礎である。


――言い方はクソムカつくが、ちゃんと教えてくれてんだ……これで良いんだろうが、隼!!

――そうそう、地頭は悪く無いんスよねぇ。まぁ身内だから? 特別に? スパルタコースで教え込んでやるッスよ、数満!!


 そんな二人の表情から、ジンはその内心を看破していた。相変わらず、他人の心の機微には鋭いもので。


――何だかんだ仲悪い様に見えて、仲が良いんだよなぁ……ホント、ケンカする程ってやつだね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] パワーレベリングではなく、プレイスタイル確立のためのスパルタ式…w 各ステータスに応じた種類の敵やボスが出てくれるし、色んな視点から意見をもらえるしで強くなりますわぁw
[良い点] 皆様方でイカヅチ様をレベルアップ [気になる点] パワータイプのイカヅチ様 今後 どのようなパワーアップを 果たすのでしょうか? [一言] イカヅチ様 頑張って下さい 皆様方 …
[良い点] やはりいい感じですねハヤテ&イカズチの凸凹コンビ。今までいそうでいなかったパワーファイター系近接戦闘職イカズチくんこれからどう成長するか楽しみですね。ハイパーアーマー系のスキルとか相性良さ…
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