03-19 イベントの報酬を確認しました
「いやぁ、助かった……」
ジン達が避難したのは始まりの町の中にある、ユージンの工房である。ジン達五人と、ケイン達三人。そして、誘われたレーナ達四人で訪れたのだ。
何故、そうしたか? 当然、ジン達に押し寄せようというプレイヤーが居たからである。ギルドへの勧誘、報酬の買い取り取引、インタビュー、ナンパ、エトセトラ。
脱兎の如く逃げ出すのも、無理はないだろう。最後にはレン様のストームが炸裂し、目晦まししている間に逃亡を図った。
大丈夫、今日一日はまだイベント期間内。プレイヤーによるプレイヤーへのダメージは、無い。
「済みません、ユージンさん。押し掛けてしまって……」
「あはは、大丈夫だよ。君達はお得意様だからねー。新しいお友達も、大歓迎さ」
レーナ達は初めて見るアロハおじさんに驚いたのだが、ジン達とのやり取りを見て順応したらしい。
「それにしても、ジン様が一位になるとは。流石で御座います」
「ふふ、抜かされてしまいましたね」
シオンとレンがそんな事を言うが、二人に一切の含みは無い。むしろ、ジンならば不思議ではないとさえ思っていた。
「確かに、ジンは凄かったですー!」
「そうだねー、私も見ていてびっくりしちゃったもん」
楽しそうに語るシャインとルナに、ケインは興味を惹かれた。
「ジン君、どんだけ暴れ回ったんだい? レンさん達や、アーク達を抑えての一位だ、相当活躍したんじゃないかな?」
ケインにそう問い掛けられて、ジンは今回のイベントを振り返る。
北の門に配置され、そこで一閃乱舞。レーナと組んでからは、モンスターの後衛に単身乗り込んで一閃乱舞。
更にイベントモンスターを撃破した後、ユアンと共闘体制を結ぶ。その後、ヒメノと合流する為に始まりの町を全力疾走し、朱雀からヒメノを救出。
ヒメノとイベントモンスターを撃破して回り、ヒイロ達と合流。朱雀を五人で圧倒し、西へ向かう。最後に北へ向かい、玄武討伐に参加。
簡潔に言うと、こんな感じだ。
「あとは……一回もダメージを受けてない事かな?」
その言葉に、その場に集まった全員が呆気に取られた。そう、今回のイベントの間、ジンは一度も被弾していないのである。つまるところ、ノーダメージ。
「うん、間違いなくそれだ」
「それね」
「流石だぜ、ジン」
ケイン達は苦笑しながら、ジンの肩を叩く。そんな気安いやり取りに、ジンは口元を緩めた。
……
「そうだ、特別報酬ってなんだったんだ?」
和気藹々と会話している中、ゼクスがジンに問い掛ける。既にプレゼントボックスに、贈られているだろう。
「あっ、私も気になる!」
「そうね。後々手に入れられる……って話だけど」
レーナとミリアも、気になる様子だ。ジンやヒメノ、レンに視線が集中する。
「じゃあ、見てみよっか。えーと……」
システム・ウィンドウを開き、他のプレイヤーにも見えるように可視モードにするジン。プレゼントボックスを開くと、金銀のチケットとプラチナチケットが入っていた。
更にスクロールしてゆくと、見覚えのないアイテム名が存在した。
「ん? これは何だろ? 《玄武の宝玉》に《朱雀の宝玉》?」
「……あ、私の所にもあります。《朱雀の宝玉》が二つですね」
「あら? 私にも……」
ジン、ヒメノ、レンのプレゼントボックスに入っていた、謎のアイテム。報酬はこれか? と思ったが、どうやら違うようだ。何故ならば、同様のアイテムがヒイロ達のプレゼントボックスにあったからである。
「あ、これかな? 特別報酬」
ジンが一つのプレゼントアイコンをクリックし、説明を開く。
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【パートナー・AI・キャラクター《PAC》作製】
PACは、プレイヤーの戦闘や探索、生産活動や商売活動を補助するパートナーです。
PACは、学習機能型AIにより擬似人格を持っています。
通常、PACは町等でスカウトする事で、専用のクエストが発生。それをクリアする事で、専属パートナーとなります。
スカウトクエストの内容は、PACによって異なります。
PAC作製は、自分の好みのPACをデザインし作製する事が出来ます。
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「パートナー……」
「成程、これはソロでの探索等に役立つ要素ですね」
「凄いですね、学習機能が付いたAIですよ!」
ジンとレン、ヒメノは喜びの表情で説明文を見る。
「自分好みのキャラクターを作れるとか、羨ましいぜ」
「これなら確かに、イベント上位入賞の報酬としては良いですね」
ゼクスの言葉に、ルナが同意する。自分好みのキャラクターを製作し、連れて歩ける。これは確かに、人によっては喉から手が出る程に欲しいだろう。
「でもNPCとはいえ、パートナーとして連れて歩くのよね? 何だか、いやらしい事を考えるプレイヤーも居そうだわ」
ムッとした表情で、そんな事を言うのはミリアだ。彼女はどうやら、少し潔癖な所がある様子。
「その辺、ちゃんとシステム的に保護されているんじゃないかな。運営としては、当然それくらい解っているはずだよ」
ミリアの様子に苦笑しながら、ユージンが宥めるように声を掛ける。
ユージンの言う通り、PACを害する行為は禁止されている。また、PACに違反行為をさせる事も出来ない。
つまりハラスメント行為は勿論の事、PK等の行為も行えないのだ。それらを強要しようとした場合、即座にPACとの専属パートナー契約は解除される。
PACとの専属パートナー契約は、一度しか行えない。つまり契約解除となった場合、そのプレイヤーは二度と専属パートナー契約を行えないのだ。
「ちなみに、PACはパーティメンバー一人にカウントされるみたいですね!」
「指示を出せるのは……契約したプレイヤーが任意に許可出来るみたいですね。パーティ限定やギルド限定等です。また、プレイヤー名を指定して設定する事も可能ですね」
「うちのパーティは今、五人……だから僕とヒメノさん、レンさんのPACを入れて八人でパーティが組めるって事かな」
AWOのパーティとは、最大で八人。これで、人数上限になるという事だ。しかし、それは現在のままならば……だ。
ギルドを設立するか加入する事で、パーティメンバーの上限が十人になるのである。それが、AWOのパーティ人数の最大上限なのだ。
……
PACについて、色々と確認したジン達。ついでにプレゼントに入っていた《宝玉》アイテムについても、確認する。
この《宝玉》は、どうやらメッセージ機能妨害モンスターの討伐報酬らしい。
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《玄武の宝玉》
効果:装備に使用する事で、玄武のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。
スキル:【硬化】【加重】【玄の衝撃】
《朱雀の宝玉》
効果:装備に使用する事で、朱雀のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。
スキル:【滞空】【軽量】【朱の羽撃】
《白虎の宝玉》
効果:装備に使用する事で、白虎のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。
スキル:【縮地】【俊敏】【白の狩猟】
《青龍の宝玉》
効果:装備に使用する事で、青龍のスキル一つを付与出来る。一度付与すると、元には戻せない。
スキル:【延長】【鋭利】【青の咆哮】
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「装備にスキルを付与……もしかして、【自動修復】とか【幽鬼】みたいな?」
「そうじゃないかな。これは中々、興味深いね」
妨害モンスター討伐報酬は、ジンが《玄武の宝玉》と《朱雀の宝玉》を一つずつ。
ヒメノが《朱雀の宝玉》を二つ。
ヒイロ・レン・ケインは《青龍の宝玉》を一つずつ。
シオンは《白虎の宝玉》を二つ。
レーナは《玄武の宝玉》を一つだ。
それに加えて、レンが《朱雀の宝玉》を一つ、ヒイロが《白虎の宝玉》を一つ、ケインが《玄武の宝玉》を一つ所持している。
これは、ボスモンスターの討伐報酬。最後のトドメ、”フィニッシュ・アタック・ボーナス”と呼ばれる報酬である。あれだけの乱戦でトドメを刺したのだ、ボーナスがあって然るべきである。
ちなみに、青龍のFABはアークがゲット。
尚、ボス戦に参加したプレイヤーへの報酬もある。一つは、膨大な経験値だ。イベントに参加し、戦い抜いたプレイヤーへのご褒美といった所か。これは当然一律ではなく、ボス戦での成績が反映されている。最低限入手できる経験値に、成績分のボーナスが上乗せされる形だ。
更にもう一つ……ボスに一定以上のダメージを与えたプレイヤーには、ボスの素材がドロップしている。貴重な素材で、装備の強化に役立つのだ。強化成功確率の高い、激レア素材という訳である。
ここに居る面々、全員が素材をゲットしている。ユージンに装備の強化を依頼するのは、まず間違い無いだろう。
……
さて、宝玉や素材については置いておく事にしたジン達。今は、三人のPACについて悩んでいた。というのも……。
「どんなキャラにしよう……」
PACの方針設定は、本当に様々だ。名前・性別・容姿・装備・性格・ステータス……それら全てを、プレイヤーが決めなければならないのである。つまり、アバター製作よりもやる事が多いのだ。
「うーん……それならまずは、ざっくりとこうしたい! という所から、決めてみたらどうだい?」
苦笑しながらアドバイスするのは、頼れるおじさん・ユージンだ。
「一番決めやすいのは性別かな? 男性PACと女性PAC、どっちが良い?」
まず、口を開いたのはレンだ。
「私は男性のPACにします……執事を作りたいです」
レン様の遊び心溢れる台詞に、集まった面々が笑った。
「シオンさん、先輩として教育を手伝って貰いますからね」
「かしこまりました、お嬢様」
次に、ヒメノが考えを口に出す。
「女の子……ですね。その、妹という存在に憧れがあって……」
それは何とも、ヒメノらしい理由だった。そんな可愛らしい理由に、工房中が和やかな雰囲気に包まれる。
「そうしたら、俺にもう一人の妹が出来るって事かな?」
「そうですね! お兄ちゃんも、育成を手伝って下さいね!」
兄妹仲の良い姿に、ほっこりする。星波兄妹は、とっても仲良しなのだ。ブラコンとシスコンですから。
そしてジン。彼は未だに悩んでいるのだが……。
「うーん……それなら僕は……」
そこで、待ったを掛ける声が上がる。
「待った、ジン!! 俺に一つ考えがある!!」
それは、ゼクスだ。
「考え、ですか?」
「あぁ……俺はな、お前のその装備を見るたびに思っていたんだ……勿体無い!!」
何故かいきなり、テンションが高いゼクス。何かあったのだろうか。
「その見事なデザインに、お前の容姿! ベストマッチ!! 兎と戦車くらい、ベストマッチだ!!」
「え? あ、どうも……」
「ゼクス君、解っているねぇ……」
ジンは引き気味、ユージンはウンウンと頷いている。対照的。
「それは良い、とても良いと思う!! しかし、忍者とは男だけじゃない!! そうだろう!?」
どうやら、女性忍者をご所望の様だ。くノ一である。
「ユージンさんが、忍者衣装の女性版を作ったらどうなるか……正直、凄く気になります!!」
最後は何故か敬語だった。あと、この時点でゼクスの性癖がくノ一好きになった。女性陣の視線が冷たい。
「……そう言われると、作りたくなっちゃうじゃないか」
ユージンの生産職魂に、火が点りそうであった。とてもウズウズしていらっしゃる。点火まで、後もう少し。
「……あー、成程。そういう……」
正直、ジンは男女のこだわりは感じていない。というのも、周囲が充実しているからだ。視線を巡らせれば、美少女(ヒメノとレン)に美女(シオンとレーナ達、イリス)にイケメン(ヒイロとケイン)にワイルド系(ゼクスの事)、ついでにダンディと言えなくもないオジサマ(ユージン)。
ならば男でも女でも、どっちでも良いんじゃね? という感じである。
しかし、一つだけ気になる事があった……思わず、ジンは視線をヒメノに向けてしまう。自分でも、何故そうしたのか解らない。
そんな訳で、ヒメノの反応だが……。
「女忍者さん……っ!!」
お久し振りの、おめめキラキラヒメノちゃんであった。どうやら、歓迎派らしい。あと、忍者に何か思い入れでもあるのだろうか? そう思わせる程に、ヒメノはキラキラしていた。
「……じゃあ、女性にします」
決断の決め手がヒメノの反応である事は、本人達以外には筒抜けであった。
……
PACについて、色々と方針を決めたジン達。ケイン達やレーナ達も意見を出していき、イベント終了から既に二時間が経過していた。
その甲斐あって、三人のPACは満足のいく設定になるのだった。未だ、設定を完了していないが。
最後に決める、名前を今は考えているのだ。
くノ一PACは、ジンと同様のAGI特化。ジンと同様のビルドにする事で、連携攻撃による与ダメージアップを図る。
妹系PACは、ヒメノの意向で戦闘職にしない事になった。曰く「妹を戦わせるだなんてとんでもない!」だそうだ。戦力ダウンか? と思われたが、ヒメノの考えはヒーラーとして育てるというモノだった。それならばと、皆も納得した。
執事PACについては、レンの意向で暗殺系のスキルを覚えさせたいらしい。暗殺執事……レンは一体、何に影響されたのだろうか。しかし、シオンとレンの組み合わせに暗殺職が加わるのは、理に適っている。
「やはり、セバスチャンでしょうか」
「シオンさん? その名前を、人前で呼ぶんですよ? あと、イベントランキングにセバスチャンは居ましたし……」
「くノ一はやっぱ、和風の名前だよな?」
「まぁ、それは……うーん、僕の名前と似た感じにしよっかな」
「お兄ちゃん、何か案はありますか?」
「俺もヒメも”ヒ”で始まるし、それが良いんじゃないかな」
命名会議が難航している間に、ユージンは全力で衣装製作を始めている。ゼクスがくノ一を最優先でと懇願したのは、言うまでもない。
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一段落ついた所で、レンが一つ提案を持ち掛ける。
「皆さん、一つ提案があるのですが……今回のイベントで、私達はかなり目立ってしまいました」
レンはそう言うが、元々目立ちはしていた。レーナ達はともかく、ジン達は和風衣装で。ケイン達は、中華風の衣装でだ。それにレンとシオンは最前線に居た事もあり、名前も容姿も広く知られている。
だが、今回のイベントで更に目立った感は否めない。むしろ、目立っていなかったらそれこそおかしい。
それは全員が理解している為、黙って頷く。
「今後予想されるのは、ギルドへの勧誘等が主になるのではないでしょうか?」
その言葉に、ケイン達が嫌そうな表情を浮かべた。ギルド勧誘という行為について、過去に何か嫌な記憶でもある様だ。
レーナ達も、神妙に頷く。彼女達は女性のみで構成されたパーティで、特にレーナに至ってはかなり目立つ立ち回りをしてしまった。
銃というレアアイテム……最もそれは借り物なのだが、それを他のプレイヤーが知る筈もない。そんなレアアイテムを所有すると思われている彼女とその仲間が、執拗な勧誘を受けるのは火を見るより明らかだ。
「私個人の考えですが、少なくとも【聖光の騎士団】を始めとするギルドに加入するつもりは無いです」
レンはきっぱりと、そう断言した。それに驚く者は、ここには一人たりともいない。ジン達と出会わなかったならば、レンは今もシオンと二人だけで行動していた事だろう。
レンがそう言う以上、シオンがその意志に従うのは間違いない。ジン・ヒイロ・ヒメノとしても、レンとシオンがそう言うならば、その方針を尊重する。
だがしかし。レンはそこで、悪戯っぽい小悪魔の笑みを浮かべた。
「だから、作ってしまうのはどうかと思うのです……私達で、ギルドを」
ギルドに入りたくない、でも勧誘はうざったい。ならば、勧誘出来なくしてしまおう。レンは、そう言っていた。
「……レンのギルドなら、俺は勿論加入するよ」
ヒイロがそう微笑んでみせると、レンは呆気に取られた。
「私は作りませんよ? リーダー役だなんて、そんな恐れ多い」
レンの言葉に、全員が「は?」という顔をする。この中で最高レベルなのは、レンだ。
「私は、ギルドマスターにはヒイロさんを推します」
そんなレンの言葉に、ヒイロは目を見開いて驚く。
「お、俺っ!?」
「はい、私はヒイロさんがギルドを作るなら、加入しても良いと思っています」
それはズルい言い方だ。ヒイロはグッと口を噤んでしまう。レンの実力を考えれば、ギルドに所属しない方が勿体無いと思うのだ。そんな彼女が、自分ならばと言う。これは、ズルい。
「ヒイロが……か。うん、僕もヒイロがギルドマスターをやるのに賛成だったりする」
「私も、お兄ちゃんのギルドだったら安心出来ます!」
「私はお嬢様の意志を優先致します。ですが、私個人の意見をあえて述べるならば……私もヒイロ様ならば、お任せ出来ると考えております」
三人がそう言う事で、ジン達のパーティの総意となった。ヒイロがシオン、ヒメノ、ジンに視線を巡らせ……レンに視線を戻す。上目遣いで、小悪魔の笑みを浮かべているレン……実に楽しそうである。
押し黙り、自分の中で自問自答するヒイロ。各々の意図はどうあれ、その言葉と態度から感じたモノがあった。それは自分に対する信頼と、期待だ。
人の上に立つ……そんな大それた事、出来る人間では無い……そんな考えが頭に浮かび、それを振り切る。
仲間の期待に、応えたい……ヒイロは、そうして決断を下した。
「……俺は、まだまだな部分がたくさんだからさ。言い出しっぺのレンには、色々と教えて貰いたいんだけど」
その言葉はヒイロが、ギルドマスターの役割を担うと宣言したのと同義。
その言葉を受けたレンは、小悪魔の微笑みを消した。代わりに浮かべたのは、年相応の少女の笑み。ヒメノに勝るとも劣らない、天使の微笑みだった。
「……はいっ!!」
やっぱりVRMMOと言えばギルド。
ヒイロをギルマスとするギルドの設立は、執筆当初から決めていました。
ようやくここまで話が進んだ感じです!
次回投稿予定日:2020/7/20