03-16 朱雀を討伐しました
南門を背に、並び立つ五人のプレイヤー。左からジン、ヒメノ、ヒイロ、レン、シオンの順で並んでいる。まるでスー○ー戦隊の並び方だが、別段名乗りは上げたりしない。流石にそこまで突き抜けてない。
「作戦は?」
ヒイロの言葉に、ジン達は声を合わせる。
「「「「いつも通りで!!」」」」
それが、彼等にとっての黄金パターン。数々のエクストラボス達を屠って来た、最も持ち味を活かせる戦い方なのだ。
四人の声が見事に揃い、ヒイロは苦笑して頷いた。
「だよね。それじゃあ……ジン!!」
声を掛けるは、和装勢の誇る忍者。初めての和装プレイヤーにして、彼の親友。
「任されたでゴザル!! 疾風の如く!! 【クイックステップ】」
言うや否や、ジンは朱雀の居る方へと駆け出して行く。その速さは、目で追い切れるものではなかった。流石はAGI極振りにして、ユニークスキル【九尾の狐】の保有者。これぞ正に、最速の忍者の真骨頂だ。
「いざ参る、飛燕の如く!! 【ハイジャンプ】」
ジンは強く大地を蹴り、翼をはためかせて飛んでいる朱雀へ迫っていく。朱雀の眼前、ジンは小太刀をクロスして構える。構える意味は特にない!!
「二連……【一閃】!!」
ほぼ同時に振るった小太刀の【一閃】。それが朱雀の顔面を斬り付ける。盾職のプレイヤーのヘイト値を上回り、ジンは朱雀に標的として見定められた。
「頭上を失礼、【天狐】!!」
更に天狐で前方に宙返りし、朱雀の頭を飛び越えてその背に立つ。余談だが、わざわざ宙返りしなくても問題は一切無い!!
「雷鳴の如く!! 【狐雷】!!」
その背中に、小太刀を勢い良く突き立てる。感電による麻痺効果は起こらなかったものの、朱雀の身体に雷撃が駆け巡る。
堪らない、許せない。そう言わんばかりに朱雀が翼を大きく広げ、身を震わせる。ジンを振り落とそうという事だ。だが、振り落とされる前にジンは飛び退く。
「乗り心地は、まずまずでゴザルな」
そう言いながら地面に落ちていくジン。その合間に【天狐】を発動し、落下の勢いを殺していく。最後に大きく飛ぶと、クルクルと回って着地。まるで曲芸師のようである。
そんなジンに向け、朱雀が急降下。最も、その攻撃はジンにとっては脅威たり得ない。既に二度、その攻撃を回避する事ができているのもそうだが……。
「させませんよ?」
今は、難攻不落の盾職メイドが共に居る。
「【ガード】」
シオンの掲げた大盾《鬼殺し》が、朱雀の急降下を受け止める。VITの高いシオンならではだ。
攻撃を完全に受け止めたシオンの脇を擦り抜けるのは、刀を構えたヒイロだ。
「【一閃】!!」
《ユージンの打刀》を振るい、朱雀を斬り付けるヒイロ。カウンター気味の一振りは、クリティカル発動と相成った。
ダメージを受け、その動きが止まった朱雀。破壊の天使と殲滅の女神は、それを見逃す愚策は犯さない。
「行きます!!」
「えぇ……【風陣】!!」
全力で、矢をつがえた弦を引き絞るヒメノ。扇を振るい、魔法攻撃を強化する陣を展開するレン。
「【パワーショット】!!」
「【ハリケーンピラー】!!」
ヒメノの矢が放たれ、朱雀に向けて飛んで行く。その直後、発動されるレンの風属性魔法。ヒメノの矢が朱雀の眉間に突き刺さった瞬間、その足元から渦巻く突風が柱の様に立ち昇る。タイミングぴったりの、息の合った連携攻撃である。
ヒメノとレンのコンビネーションに、朱雀は耐える事適わず。その巨体が前のめりになり、そのまま地面に伏せてしまった。
「ダウン!! 総攻撃!!」
ヒイロの号令に、四人が即座に反応した。
「疾風の如く!! 【クイックステップ】」
回避ではなく、間合いを詰めるために【クイックステップ】を発動したジン。両手の小太刀を手に、朱雀の眼前で構えを取る。
――【分身】が使えないのが、悔やまれるけど……っ!!
「【スライサー】!! 【デュアルスライサー】!!」
左右の小太刀を振るい、【チェインアーツ】を発動。これには、突然の事態に唖然としていたアーク達も驚いた。
「俺も行くぞ……【幽鬼】!!」
背後霊……いや、スタ○ド……でもなく、鬼神の霊体を背に従えるヒイロ。自身も刀を手に、朱雀に向かって駆け抜ける。
「【スラッシュ】!!」
ヒイロが長剣の武技を発動し、朱雀を斬り付ける。そこへ、鬼神も同様に手にした大太刀を薙ぎ払う。それは、ヒイロの【スラッシュ】と同じ軌跡。
――もしかして……!!
ヒイロは自分の直感に従い、追撃を放つ。
「【デュアルスラッシュ】!!」
それは、【チェインアーツ】だ。ヒイロのAGIとDEXでは、そこまでのチェインは出来ない。だが、【幽鬼】には意外な効果があった。
鬼神の攻撃は、ヒイロの攻撃と見做される。そしてヒイロが武技を発動すると、鬼神も同じ武技を発動するのだ。つまり鬼神の攻撃が終わるタイミングを見計らい、武技を発動する。これで、ヒイロと鬼神による【チェインアーツ】が成立するのだった。
ジンとヒイロ、二人のプレイヤーによる【チェインアーツ】のラッシュ。その様子を見たシオンは、フッと口元を緩める。
自分には【チェインアーツ】をするだけの技量も、ステータスも無い。ならば、一撃に力を込めて攻撃するのが良いだろう。
抜いた大太刀を振り上げ、シオンは【酒呑童子】のスキルを発動した。
「【展鬼】!!」
シオンのスキル発動宣言を受けて、手にした大太刀《鬼斬り》が割れた。正確には刀の模様の様な継ぎ目から分割され、刃を構成していたパーツとオーラで形成された、巨大な刀となっている。
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武技【展鬼Lv3】
説明:装備を分割し、効果範囲を拡張する。
効果:発動中、VIT-50%。持続時間30秒。
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更に、シオンはスキルを上乗せする。
「【バーサーク】!!」
それは、防御を捨てて攻撃に全てを注ぎ込んだ狂戦士のスキル。VIT値をゼロにし、そのVIT値を全てSTR値に変換する。シオンの【酒呑童子】で強化された、全てのVIT値がである。
「参ります! 【ブレイクインパクト】!!」
鬼斬りは《大剣》と《刀剣》の属性を併せ持つ、ユニーク装備。そして《大剣》のスキルには、ある特徴があった。他の重量武器……《大槌》や《戦斧》等の武技も使える、というものだ。
無論、該当する武器よりは性能が少し落ちる。しかし、今のシオンにとっては多少の性能差など誤差でしかない。朱雀の首に向けて振り下ろされた、渾身の一撃。それはヒメノの一撃に匹敵する威力を持っていた。
そんな前衛メンバーに、合流するは一撃必殺少女。銀色の髪を靡かせて、脇差《大蛇丸》を抜いたヒメノだ。
「【蛇腹剣】!!」
ユニークスキル【八岐大蛇】のスキルを発動し、鞭状に分割された愛刀。それをヒメノが振り被る。
――矢よりも、刀の一撃の方が火力が出るはず……!!
「【一閃】!!」
ヒメノの放つ一閃。それは、STR極振りプレイヤーの渾身の一撃だ。激しいライトエフェクトが、朱雀の翼を斬り裂いた。これではもう、朱雀は飛ぶ事も出来ないだろう。
唯一後方に布陣するのは、青銀色の髪を揺らす少女。魔法職の中でも、最高峰の実力者だ。
「【風陣】……【雷陣】」
舞う様に両手の扇を振るい、二色の陣を展開する。そんな少女……レンは、口元をニヤリと歪めた。
――今回は、フレンドリーファイアが無い仕様で良かった……これは、シャレになりませんから。
そう言っている間に、レンの魔法は詠唱を終える。【魔法合成】で融合され、更には【神獣・麒麟】のスキルで強化された合成魔法。
「【サンダーストーム】!!」
発動した魔法は、ジン達すら巻き込んで吹き荒れる暴風の渦。その中では、稲妻が迸る。確かにフレンドリーファイアがあれば、味方殺しになってしまっただろう。ジンは回避し、シオンは耐え抜きそうだが。
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そんな光景を見ていたアークは、目を見開いて震えていた。目の前で繰り広げられる、圧倒的な攻勢。朱雀が手も足も出ないではないか。
――この力は……っ!!
アークは、自分の力で全てを切り開こうというタイプだ。周囲の力は、大してアテにしていない。レンやシオンが最前線から離れても、騒ぎ立てないのはそれ故だ。
しかし、彼は気付いてしまった。圧倒的な力の正体に。そのお手本が、目の前にあるのだ。
――力を、合わせる……それが、更なる大きな力になるのか……!?
アークは強さを重視する。それは自分の強さだけではなく、他人の強さもだ。そのくせ周りの人間を、アークは仲間として認識していなかった。信頼していなかった。
それは主にアーク個人の力に頼り、その力を利用される者が多かったからだ。そして、そういった者達はいつか裏切ると思っていた。
アークがそう思うようになってしまったきっかけは、最初にプレイしたVRMMOで苦い体験をしたせいだった。
それ以降は周囲のプレイヤーを信用せずに、利用し利用される関係しか求めなくなっていた。アークは、それで良いと判断していたのだ。
しかし、今思えばそれだけではなかった様に思える。
例えば、仲間として長い時間を共にするギルバート達。彼等は、アークに負けじと自分の実力を磨いていた。
それに対してアークは、いつか自分を疎んだりするのだろうと思っていた。しかしながら、そんな彼等との付き合いも数年……彼等は変わらず、自分と共に歩んでいる。
もしかしたら、自分はこれまで間違えて来たのではないだろうか? そんな考えが、目の前の五人を見て沸々と沸き上がる。
――仲間との連携、息の合ったタイミング……仲間を認め、信頼し、力を合わせる事で……ここまで、強くなれるのか……!!
力を合わせるジン達の姿が、自分には無いモノなのだと……足りていないモノなのだと、アークは実感した。そして、それを素直に受け入れる。
次に考えるのは……更に強くなる、その為に必要な事。自分が、今一番しなければならない事についてだ。
まずは、仲間を信頼する所から始めよう。裏切られる事を恐れ、遠ざけていたら……ジン達の様にはなれないのだから。
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レンの魔法攻撃が止んだところで、朱雀は倒れ伏した。そのままピクリとも動かなくなった朱雀は次の瞬間、その身体が硝子の様に砕け散る。
『プレイヤーの皆様に報告します!! 南門にて、ボスモンスターの討伐を確認!! 南門、防衛成功です!!』
運営アナウンスと同時に、南門の戦いは終わりを迎えた。
ジン達の攻撃だけでトドメを刺せたのは、南門で戦って来たプレイヤー達の奮闘があったからだ。朱雀のHPは、もう三割程度しか残っていなかった為である。
最後に美味しい所を持って行った形にはなるが、強力なボスとの戦闘で疲弊していたプレイヤー達。してやられたという感想よりも、やってくれたという思いの方が強い。そうなったのは長期戦の疲労感と同時に、ジン達の圧倒的な力を目の当たりにした事もあるだろう。
運営アナウンスを聞いた南門のプレイヤー達は、一瞬の静寂の直後に歓声を上げた。
「よっしゃあっ!!」
「やったな!!」
「いやぁ、最後のはヤバかったな!!」
「すげぇよなぁ!! いいもん見たぜ!!」
「アークの指揮も、流石だったな!!」
「あぁ!! やっぱトッププレイヤーは違うな!!」
プレイヤー達は南門での戦闘について、口々に感想を伝え合う。知り合いも、初対面も関係無い。
そんな光景に、アークは笑みを浮かべた。これまでは自分の戦果にしか意識を向けていなかった。しかしジン達の影響を受けた今、周りの存在を意識し出すと見えなかったものが見えてくる。
「さっきはフォローしてくれて、ありがとな!」
「おうよ!」
「いやぁ、ヒヤヒヤしたなぁ」
「でもメチャクチャ楽しかったな。いや、マジであいつ倒せるの? とか思ったけどさ」
「それ、わかりみ!」
互いの健闘を称え合い、共に掴んだ勝利に湧くプレイヤー達。その笑顔が、とても眩しく思えた。
――この一体感に、達成感。そしてそれを、分かち合うという事……あぁ、成程。これは気分が良いものだ……。
次にする事は、皆に声を掛ける事だろう。アークはプレイヤー達に向けて、声を張り上げる。
「南門で戦った皆!! 全員の力を合わせる事で、俺達は勝利出来た!! 感謝している、ありがとう!!」
その言葉に、プレイヤー達は盛大な拍手と勝鬨の声を上げる。
「ちょっと、変わりましたね……」
「以前のアーク様なら、あんな言葉はかけませんでした。何か、心境の変化があったのでしょうか?」
歩きながら、レンとシオンがそんな感想を口にしていた。しかし、悪い事ではない。二人の口元には、笑みが浮かんでいる。
すると、朱雀が倒れていた辺りに変化が起きた。
「む、これは……?」
「魔法陣、ですね?」
ジンとヒメノの言う通り、それは魔法陣である。左から、青・緑・白だ。
「他の門に転移するんじゃないかな、これで」
ヒイロの推測に、ジン達は納得する。どの門に飛ぶのかも、色で判断が出来る。東は青龍、西は白虎、北は玄武。それを色で表しているのだろう。
魔法陣を観察するジン達に、アークが歩み寄ってくる。
「話しているところ、済まない」
そう一声掛けて、アークが軽く会釈する。
「君達のお陰で、無事にここの戦いを終えられた。ありがとう」
アークがそう言った所で、レンとシオンに視線を向ける。
「レンさん、シオンさん。ご無沙汰している……元気そうで、何よりだ」
それは、とても穏やかな声だった。これまでのアークならば、事務的な温度を感じさせない声であった。
そんなアークの様子に、レンとシオンはやはり彼が変わったと確信する。
自分達が離れた後、何があったのだろうか? と内心で首を傾げるが……彼の変化が、先程の自分達の戦闘とは思いも出来なかった。
「それで、この後についての話をしたい。そこの魔法陣で、他の門へ向かえるのだろう。君達は、何処に向かう?」
アークの言葉を受けて、レンがヒイロに視線を向ける。
「どうしますか?」
判断を委ねる……そんなレンの態度に、アークは不思議に思う。目の前の鎧武者は、魔法職として最高峰と呼んでも差し支えないプレイヤーであるレンが、判断を委ねる程に信頼しているプレイヤーなのだろうか? と。
一方、ヒイロは苦笑気味。レンが自分に判断を任せるのは、もう慣れた。そんなヒイロは思案し、諸々の事情を考慮して結論を出した。
「俺達は西へ向かいます」
西に居たシオンと連絡を取り合っていたので、知人の動向は把握している。
ケインとミリアは、東から北へ向かった。西に居たイリスとゼクスも、北へ向かったのだ。
彼等が居るならば、北は大丈夫。ならば自分達は、西で戦うのが良いだろう。
東に関しては、ギルバートが居る。ならばアークは、ギルバートの居る東に向かうのだろう。それならば、戦力の一極集中は避けるべきという判断も含まれていた。
ヒイロが振り返ると、ジンは頷いて同意した。ヒメノとレンは、笑顔を向ける。シオンは相変わらずのクールな表情だが、何も言わない所を見ると異論無し、という事だろう。
それを受けて、アークはフム……と頷く。
「残念ながら、別行動の様だ。俺は東に向かい、ギルバートに加勢する」
アークの宣言に、ヒイロはやはりと納得した。
……
数分後、アークはギルドメンバーに声を掛けて、東門へ通じる魔法陣へと向かった。
「また会おう……では、行くぞ!」
見送るジン達に一声掛けたアークが、魔法陣へと入る。その後を【聖光の騎士団】のメンバーがそれに続いた。そして、アークと倶に行きたいというプレイヤー達も、魔法陣へと入って行った。
そんな中、一人の男がジンを睨んでいた。マリウスだ。彼はジンに近付くと、おもむろに指を差してがなり立てる。
「どんな汚い手を使ったのか知らないが、俺は騙されないからな!!」
そう言うと、マリウスは踵を返して東へ続く魔法陣に飛び込んで行った。
「……え?」
ジンは、何故彼が怒っているのか……全く見当が付かない。困惑しているのは、ヒイロもだ。
「ジン、ここに来てから何かしたのか?」
「いや? ヒメノさんを助けた後で朱雀の相手をして……後はイベントモンスターを倒して、戻って来ただけだけど」
思わず、忍者ムーブを忘れて素で返答してしまう。
ヒイロはそれを、別段おかしい事とは思わなかった。ヒメノも、普通の事だと思った。
しかし、レンとシオンは気付いた。あのイベントモンスター討伐のアナウンスが、五分程しか間隔が無かったのだ。
「恐らく、ジンさんが速過ぎたからでは? 他のプレイヤーでは、ジンさん程速く走れませんし」
「……あ、成程。ジンのAGIを知らないなら、仕方ないか」
「最も、あの態度については仕方ないとは思えません。ジン様には何ら落ち度は無いのですから」
シオンの言葉に、ヒメノは険しい表情でウンウンと頷く。おこ状態なのだが、それすらも愛らしく見える。
「まったく、マリナントカはシツレイセンパンです!」
「シャインちゃん、それを言うなら失礼千万だからね? あと、マリエルさんだからね?」
ぷんすかしているシャインと、それにツッコミを入れるルナ。失礼戦犯は、ある意味正解な気もする。あと、マリエルでもない。マリウスだ。
「あ、ルナさん、シャインさん!」
「お久し振りです、お二人とも」
ヒメノとヒイロが、笑顔で二人を迎える。その後ろで、レンとシオンは首を傾げた。
「レン殿、シオン殿。彼女達は拙者達のフレンドさんで、魔法職のルナ殿と槍使いのシャイン殿でゴザル」
おかえり忍者ムーブ。そんなジンの紹介に、ヒイロが補足事項を伝える。
「ミリアさんのパーティメンバーだよ。あと、レーナさんって人も居るんだけど……」
「レーナ殿ならば、北に居たでゴザルよ」
その補足にレンは納得すると同時、レーナの名前を聞いて全てを察した。
「……そういう事ですか、理解しました。あの方もいらっしゃるのですね」
その反応に今度はヒイロが首を傾げるのだが、今はそれどころでは無かった。
「ルナさん、シャインさん。ミリアさんなら北に向かうと仰っていましたよ」
「おー、了解ですー!」
「レーナちゃんも、北に戻るってメッセージがあったし……それじゃあ私達は、北に向かいますね!」
そんな二人に、ジン達も頷きで返す。
「ゴウウンを祈るです!」
「それを言うなら、幸運? あれ、ご武運かな? 別に豪運でも良いのかな?」
そんなコントの様なやり取りをしつつ、二人は緑の魔法陣へと向かった。
「よし、俺達も行こうか!」
ヒイロの言葉に、四人が頷く。すると、他のプレイヤー達が側に寄ってきた。
「……おや?」
「これは……?」
ジンとヒメノが不思議に思っていると、一人のプレイヤーが歩み出た。ゲイル……ヒメノを庇ってみせた、盾職だ。
「俺等は、あんたらに付いていきたいってプレイヤーさ。邪魔はしない……むしろ、協力させて欲しい」
ゲイルの言葉に、他のプレイヤーも続く。
「もっと、あんたらの戦闘が見たいんだ!」
「シオンさんにゃ負けるが、俺も盾役やってみせるぜ!」
「一緒に行かせてくれ!」
そんな声に、ヒイロは驚き……そして、笑みを浮かべた。
「どうかな、皆?」
振り返ると、ジンとヒメノは満面の笑みだ。レンは苦笑しているが、反対では無い模様。シオンはいつも通り、レンの側に控えている。
否定意見は、無いらしい。
「それじゃあ……皆で行きますか?」
ヒイロがプレイヤー達に向き直ってそう告げると、彼等は一斉に拳を突き上げた。
「「「「おーっ!!」」」」
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白い魔法陣に乗って、白い光に包まれたジン達。目を開くと、そこはフィールドではなく町中だった。転移先は門の中らしい。
「よし、行こうか」
ヒイロの言葉に頷き、全員で門の外へと出た瞬間だった。
一人のプレイヤーが、白い巨大な獣の体当たりを受けて吹き飛ばされた。
「うわあぁっ!?」
勢いよく吹き飛び、壁に叩き付けられるプレイヤー。HPがたちまち0になってしまう。
「おい、大丈夫か!?」
「今ならまだ間に合う。ほら、ポーションだ!!」
南門から来たプレイヤー達が、吹き飛ばされたプレイヤーを介抱する。
ジンの視線の先には、白い虎の姿があった。西といえば、やはり白虎だろう。獰猛そうな面構えである。
「動きは速そうだが……行けるか?」
「無論っ!! 疾風の如く!! 【クイックステップ】」
地を蹴り、白虎の目前まで一気に接近したジン。いきなり目の前に現れたジンに、白虎が目を見開いた。
「【一閃】!!」
続けざまの速攻だが、白虎も流石はボスだった。後ろに跳び退き、深手を負うのを避けてみせたのだ。
「……小癪」
小太刀を構え、油断なく白虎と向かい合うジン。そこへ、この西門でずっと戦い続けていたダイスが近寄って来る。
「……とんでもねぇ速さだな。おたく、一体どこから現れたんだ? やっぱ忍術か?」
ダイスは、槍を構えながら軽口を叩く。しかし、白虎への警戒を緩めないのは流石だ。
「拙者の名はジン。仲間達と共に、南門より応援に参上した次第」
「そいつぁ助かる。見ての通り、ヤツはくっそ速いもんでな」
そんな二人に向けて、白虎が跳躍して襲い掛かる。
「【ガード】」
それを受け止めるのは、シオンだ。二人が会話している間に、走って近付いて来たのだろう。更に、その脇をヒイロが擦り抜ける。
「【一閃】!!」
シオンが攻撃を受け止め、そこへヒイロが斬り込む。朱雀をダウンさせた、攻撃の起点だ。
しかし、白虎はシオンの盾を足場に飛び退いてしまう。
「【ラピッドショット】!!」
「【ファイヤーアロー】!!」
照準をシオンの前方から、白虎の着地地点に変えるヒメノとレン。急いで攻撃を繰り出したが、白虎はそれを着地と同時に転がる事で回避する。
「えぇ!?」
「まるでジンさんの様ですね」
すると、白虎は大きく跳んでヒメノとレンに襲い掛かる。
「【クイックステップ】!!」
二人を守るべく、ジンが再び【クイックステップ】を発動。白虎の前に立ちはだかった、その瞬間。
「【一閃】」
黒い刃が、白虎を斬り付けた。空中で斬り付けられた白虎は、地に落とされる。白虎を斬った男は、黒いコートを翻して両手に刀を構えた。
「……ユアンさん?」
ジンの声に、黒衣の男……ユアンが口角を上げる。
「やぁ、ジン君」
最高レベルプレイヤーとして名を馳せるアークが、ジン達をロックオン。
次でイベントが終了します。
次回投稿予定日:2020/7/17