03-14 集結しました
ジンが南門に到着したのと同じ頃、東側の門では一人のプレイヤーが勇猛果敢に青龍へと攻撃していた。そして彼に続き、苛烈な攻撃を繰り出すプレイヤー達もいる。
その後方で控えめに攻撃するプレイヤー、そして更に後ろには魔法職や弓使いが様子を覗っていた。
最前線を走る青年が、味方を鼓舞する様に声を張り上げる。
「続きたまえ、諸君!! 我々の総力を以って、この龍を倒すのだ!!」
最前でプレイヤー達を鼓舞するのは、ギルバート。第二陣で無茶な特攻を繰り返し、体力が限界になったギルバート氏である。更にはこのままではいかんと、慌てて後退したギルバートさん。神速の異名を持ち長槍を自在に操る高貴なる青年騎士、ギルバート様だ。
そんな神速さん(笑)が後退した際に、万全の態勢でモンスターを迎撃したプレイヤー集団が居た。レンとリリィが纏め上げたプレイヤー達による、連携を重視した防衛部隊だった。
彼等は安定した戦いで、一人も欠けることなくモンスターの進撃を食い止めてみせた。更に襲い掛かってきたワイバーンも、巫女な美少女魔法職が尽く撃ち落とし、鎧武者やら中華武将やら女騎士を筆頭とする前衛職が殲滅してみせた。
ならば何故、青龍との戦闘にギルバート達が前に出て来たのか? 単純に言うと、ギルバートは防衛部隊の意図を勘違いしていたのだ。
――俺が回復している間、必死に敵を食い止めていたとは!! それも、レンちゃんやリリィちゃんが!! もしかして、戦う俺の姿を見て惚れてくれちゃったり!?
んな訳ない。ギルバートがきっかけで発生した、プレイヤー同士の獲物の奪い合い。それが沈静化したところで、セオリー通りの協力プレイに移行しただけだ。
だというのに、ギルバートは自分の都合が良いように判断していた。
――ふっ、モテる男は辛いぜ。さぁて! この龍を倒せば、俺がヒーローだ!!
鼻息荒く、ギルバートは青龍に向かって切り込んでいく。
……
「ダメージは然程与えられていませんね」
前線の戦闘を見て、レンがバッサリと切って捨てる。実際、ギルバート達の攻撃で青龍は三割程度も削れていない。
とはいえ、レンがそう思うのにも理由がある。慣れてしまったのだ、ヒメノという少女の攻撃性能に。
散々、ヒメノとボス攻略を繰り返したレン。ボスのHPがごっそり削られる、そんな日常に適応してしまっていた。ちなみに自分が同じ事を、魔法攻撃でできるのも一因である。
とはいえ、ペースが落ちているのも事実。何故ならば、ギルバートのせいである。
青龍が現れると、意気揚々と「ご苦労! ここからは俺のステージだ!」なんてフルーツ鎧武者みたいな事を宣いながら駆け出した。
そんなギルバートに仕切られては、萎える。どうせまたヤバくなったら撤退するだろうとレン達は考え、とりあえず囮にでもなって貰う事にしたのだ。彼等を捨て石にして青龍の攻撃パターンを確認しようとしても、バチは当たるまい。
「大型モンスターには、条件を満たせばダウン状態になるという特性があります。ダウンさせての総攻撃……これがベストでしょうね」
そんな考察をしているが、レンは攻撃に参加していない。MP回復の為もあるが、ギルバート達を支援するのが嫌だったからだ。ダウン状態になったら、総攻撃をするつもりだが。
「そうですね。ダウン値の高い攻撃を繰り返していけば、その内ダウンするでしょうねー」
レンと同じ考えだったリリィも、隣に座ってMP回復を図っている。ダウンしたら、周囲の協力関係にあるプレイヤーにバフを撒く為だ。
一方ヒイロとケイン、ミリアはギルバート達の少し後ろに居る。一応攻撃はしているが、堅実に攻めて消耗を抑える形だ。
「無茶な行動は謹んで、ダウン状態になったら総攻撃……か。連絡ありがとうございます。了解したと、レンに伝えてくれますか?」
レンに依頼された、敏捷性の高いプレイヤー。その役割は、伝令役だ。レンを呼び捨てにしたヒイロに一瞬顔を顰めるも、すぐに頷いて下がって行く。
ケインと共に、ミリアを守りながら戦うヒイロ。彼は青龍をよく観察していた。
「うーん、行動パターンがまだ掴み切れないな」
「全力攻撃は、流石に半分削ってからが良いね」
ヒイロのぼやきに、ケインも同意する。
「方針としては、あの猪プレイヤー達を囮にしてパターンを観察……五割削った所で、全力攻撃で良いのね?」
ミリアも、ヒイロとケインの意図を察していた。そうこうしていると、あるメッセージが三人に届く。それは、南門に居るヒメノからのメッセージだ。
『ジンさんと合流しました。ボスモンスターのHPが半分に達すると、ダメージが通りにくい状態になります。その状態を解除するには、メッセージ機能を妨害するモンスターの討伐が必要です』
ヒイロとケインは、ジンがヒメノの下へと全速力で走ったのだと勘付いた。
「どうだい、お兄さん?」
微笑ましそうなケインの言葉に、ヒイロもニヤリと笑う。
「そうですね、俺個人としては嬉しい限りです」
ジンが、ヒメノの為に力を尽くした……それが、ヒイロには喜ばしい事だった。親友であり、自分の中では未来の義弟として確定している。気が早いのだが、そうなりそうな気しかしないのだから仕方が無い。
「さて、そうしたら俺達のやる事は一つですね」
「あぁ、分散しようか」
「了解、一旦下がりましょう」
三人は、青龍から離れて後方で待機しているレンの下へと向かう。
……
「ケインさんとミリアさんに北側をお願いして、私とヒイロさんで南側へと向かうのを提案します」
当然、レンもヒメノのメッセージを確認済みだった。ヒイロ達が戻って来るなり、レンは考えていた行動指針を提案した。その言葉に、ヒイロ達は笑顔で頷く。
「俺達はそのまま、南門の二人と合流かな?」
「その方向が良いかと」
ヒイロもレンも、考える事は共通していた。
――ジンとヒメがどんな感じになってるか、気になる。
――ヒメノさんとジンさんが、進展している気がします。
全くもって、気が合う二人であった。
そこへ、更なるメッセージが届く。今度はシオンからだ。宛先はヒイロとレンだけで、その文面に二人は苦笑してしまう。
『お嬢様とヒイロ様も、南へ向かわれる事でしょう。私も南へ向かいます。ヒメノ様とジン様の様子を、少し観察してから合流でよろしいでしょうか?』
恐らくはジンとヒメノには別の内容でメッセージを送っているのだろう。
「考える事は、同じか」
「というか、タイミング良過ぎですね。シオンさん、まさかこちらに居て監視してないでしょうね?」
レンがそう嘯いたら、更にシオンからメッセージが届く。
『ちなみに私は西門におりますし、監視はしていませんよ、お嬢様』
……タイミングばっちりだった。まるで図ったかのようなタイミングである。
「本気で監視されてないでしょうか?」
「何で解るんだ、あの人……」
更にメッセージが以下略。
『メイドの嗜みですので』
「……メイドすげぇ」
「……あの人、本職はメイドじゃないんですけどね」
二人は何だか疲労感を感じてから、南側へと駆け出した。
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二人でフィールドを駆けて行くヒイロとレンは、やがて東南の中心あたりに辿り着いた。
「恐らくこの辺りだと思うのですが……」
「空を飛んでいるはずだったかな? ……あ、アレかもしれない」
ヒイロが指を差した先には、青空が広がっていた。しかし、その一部分をよく見ると何だか違和感がある。
「恐らくアレでしょうね」
レンも頷いて、妨害モンスターを発見したと断定した。
「それでは、ヒイロさん……お願いします」
そう言って、レンが一歩下がる。
「あれ? レンがやらなくても良いの?」
自分がやるよりも、レンがやる方が早いだろう。しかしレンはニッコリと微笑み、ヒイロに討伐を促す。
「私は一体倒しましたから。恐らくそれなりの貢献度が手に入るはずです……私達のパーティで、上位独占というのも面白くないですか?」
それはレンらしからぬ、挑発的な発想であった。しかしながら、その真意はヒイロにも伝わる。
――俺の事を考えて言ってくれたんだな……。
思えば、まだ中学二年でありながら、レンはいつも全体の事を見ている。大人顔負けの思慮深さを見せるのだ。
判断をヒイロに委ねる事が多いのは、年上でありヒメノの兄である彼を立ててくれているから……ヒイロは、そう考えた。
きっと今回も、そうなのだろう……ヒイロはレンに、強い感謝の念を抱く。
「解った……レン、ありがとう」
そう告げて、レンの髪を撫でる。そのヒイロの行動にレンは目を丸くして、徐々に頬が赤らんでいく。赤面する様子まで再現する、AWOのアバターは凄い完成度であった。
ニコポならぬ、ナデポ状態のレン。そんな様子に一度笑顔を向けてから、ヒイロは刀を抜く。
ジン達とは違う、ユージンの製作したプレイヤーメイドの刀。特別なスキル等は付与されていない。しかし、ヒイロもまた普通から逸脱するプレイヤーだ。刀を上段に構え、気合いを入れてスキルを発動する。
「【幽鬼】!!」
刀を振り下ろすと、青白い幽体の鬼神が妨害モンスターに向けて飛び出す。
この【幽鬼】を宿す《鬼神の右腕》を手に入れてから、様々な攻撃パターンを模索して来た。
その内の一つが、この現象。武器を振るいながらスキルを発動すると、その方向に向けて鬼神が突進するのだ。これならば離れた場所、プレイヤーの狙い通りの場所に攻撃させる事が可能となる。
鬼神の振るう巨大な太刀が、妨害モンスターを真っ二つに斬り裂く。まさに、一刀両断である。
『プレイヤーの皆様にご報告します! 東南地点で、メッセージ機能を妨害するモンスターを討伐! 東南エリアのメッセージ機能が復活しました!』
その運営アナウンスに、ヒイロはフッと笑顔を浮かべる。そうして振り返れば、レンが微笑みを浮かべて歩み寄る。
「お見事でした、ヒイロさん。とても、素敵でしたよ」
「レンにそう言って貰えると、嬉しいかな……ありがとう、レン」
微笑み合い、見つめ合う二人。本人達は普通にしているつもりだが、傍から見たらとても良い雰囲気だ。
そんな二人の耳に、電子音が響く。メッセージを受信した音だ。
『ただ今、南側の門付近に到着しました。お待ちしておりますので、逢瀬は程々にお願い致します』
やはり、あのメイドは監視しているのではなかろうか? そんな事を思いつつ、見つめ合っていた事に気恥ずかしさを感じる二人。
「行こうか」
「行きましょうか」
照れ臭さを振り切るかの様に、二人は南門へ向けて走り出した。
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西門から西南地点、南西地点と移動してきたシオンは、途中で始まりの町をぐるりと囲む防壁の上に登った。
その前に、彼女は西南のイベントモンスターを討伐している。これで、残るイベントモンスターは西北地点と東北地点の二体のみである。
更に言うと、ジン達のパーティメンバーによる討伐が大半だ。ジンとヒメノ、シオンが二体ずつ。ヒイロとレンが一体ずつ。
ついでに言えば、レーナとユアン……ジンと共闘を結んだ二人が一体ずつだ。討伐者の全てに、ジンが関わっていた。
ちなみに、西門で共闘していたダイスには一言断ってある。パーティメンバーと合流すると説明すると、ダイスは朗らかに笑ってみせた。
「そうか、お嬢様以外にも仲間が出来たんだな。おめでとう、シオンさん」
ダイスはそんな風に、快く送り出してくれたのだった。不覚にもキュンと来そうになったが、メイドはお嬢様優先。丁寧に挨拶をして、西門エリアを後にしたのであった。
ちなみにイリスとゼクスも、北へと移動を開始した。ケインが北に向かうと聞いたからである。
残されたダイスは、西門で最後まで戦うと決めたプレイヤー達と、西門防衛に専念するらしい。盾職も多い為、素早いボスモンスター・白虎が相手でもそうそうやられはしないだろう。
それなりの距離を駆け抜けたシオンの目に、目的地が見えて来た。防壁の上を移動して、南門の辺りに到着するシオン。すると彼女は戦闘に参加せず、壁の上から門前での戦闘を眺め始めた。正に高みの見物。
戦場に出ない理由は、二つ。ヒイロとレンの到着を待つ為と、ジンとヒメノの様子を観察する為だ。
忍者ムーブする変な人物……だが仲間を大切にしており、仲間の為に身体を張れる少年、ジン。
明るく健気で、レンとは違うタイプながらも守ってあげたいと思わせる少女、ヒメノ。
貴重なユニークスキルを手に入れる機会を得ながら、自分の信念を愚直なまでに貫き通してシオンに譲った少年、ヒイロ。
――思えば、大切と思える存在がこの世界にも増えましたね。
そんな事を考えて、シオンは口元を緩める。普段のクールさを感じさせない、穏やかで慈愛に満ちたほほえみであった。
……
数分程、未だにシオンは戦場を俯瞰していた。
眼下で繰り広げられる戦闘は、激しさを増していく。アークを旗印とした、プレイヤー連合軍……空を舞う赤い鳥・朱雀の攻撃に耐え、急降下した所で盾職が受け止め、前衛職が攻撃する。
しかし見た所、ヒメノのメッセージにあった攻撃が通りにくい状態では無い様子である。
――成程、ジン様とヒメノ様が全てのイベントモンスターを撃破したのですね。
シオンはあっさりと、その状況を察してみせる。
既にメッセージを受けてから、十五分……それだけあれば、ジンとヒメノにとって不可能ではない。二人をよく知る者ならば、同じ事を考えるだろう。
さて、そのジンとヒメノはどこか? そう思い視線を巡らせるが、二人の姿は見当たらない。あの目立つ服装だ、見落とす事はそうそう無いだろう。
――まだ、お戻りでは無いのでしょうか?
そんな事を考え、視線を巡らせたシオン。すると、南東側から駆け寄ってくる二人のプレイヤーの姿があった。金髪の鎧武者、青髪の巫女……ヒイロとレンだ。
駆け寄る二人に向き直り、シオンは恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました、お嬢様。ご無事で何よりです、ヒイロ様」
普段通りの、クールな挨拶。それに対する返答は、ジト目である。
「シオンさんは、メッセージでは意地悪なのだと解りました」
「メイドの嗜みですから」
「そんな嗜みは必要ないです」
ふてくされるレンに、真顔でジョークを言うシオン。そんな二人に、ヒイロは笑みが溢れる。
「シオンさんも、無事で何よりです」
心からの言葉だったが、それにレンが口を挟む。
「無事に決まっています。シオンさんのVITなら、大したダメージを受けないでしょうから? ”鉄壁メイド”という通り名はどうでしょう?」
「では、お嬢様は”魔性の御令嬢”で如何ですか?」
喧嘩だろうか? 止めるべきか? そんな風に、ヒイロが狼狽え出す。
そんな時だった。ヒイロが何か無いかと、視線を巡らせた先。
「おや?」
ヒイロの言葉に、レンとシオンがじゃれ合いを切り上げる。
「あらあら……」
「これはまた……」
ヒイロの視線を追いかけると、彼と似たような反応を漏らした。
視線の先には一人の少年と、一人の少女。少年が少女をお姫様抱っこし、始まりの町の建物……の屋根の上を、飛び跳ねるようにして近付いてきている。
「お姫様抱っこは置いておくとして、ますます忍者らしくなってるな」
「大通りを走った方が早くないでしょうか? お姫様抱っこは別として」
「お姫様抱っこですし、他のプレイヤーの視線を避けたのでは?」
「「ジン(さん)が??」」
忍びなれども忍ばないを地で行く、最速忍者である。ヒイロとレンは、ジンが人目を避けるとは思えなかった。
とはいえ、今回は実際に人目を避けていた。だって、ヒメノをお姫様抱っこしているんだもの。シオンさん、正解です。
そんなジンも、三人の姿に気付いた。大きく跳躍し、三人の居る壁へと急接近する。そして。
着地の前に、【天狐】で勢いを殺したのだろう。ストンという軽快な着地音を立てて、ジンとヒメノが三人の前に到着した。
「何だか、久し振りな気がするでゴザル」
ヘラッと、人懐っこい笑みを浮かべるジン。普段はそんなに見せない、素の”仁”の表情である。
対するヒメノは、頬を赤く染めながら地面に降り立つ。
「やっと会えましたね!」
二人きりも悪くないけど、やはり三人も一緒が良い。基本的に良い子なヒメノは、全員集合を素直に喜んだ。
「あぁ……やっぱり、このメンバーが揃うと安心するな」
からかおうか……なんて考えは、二人の顔を見て、二人の声を聞いて吹き飛んだらしい。親友と、妹……二人に再会できた喜びが、何よりも大きかったから。
「……やはり良いですね、このメンバーは」
それは、レンも同様だったらしい。ありのまま、肩肘を張らずに接する事が出来る……そんな仲間に出会えた喜びは、このメンバーの中でも特に大きい。
「お待ちしておりました、ジン様、ヒメノ様。どうやら、随分とご活躍なさった様ですね」
シオンも、二人をからかう気が失せたらしい。色々と、聞いてみたい気はしているのだが。お姫様抱っことか、お姫様抱っことか。しかしジンとヒメノの顔を見たら、すっかり毒気が抜かれてしまった。
「さぁ、全員集合した所で……行くかい?」
そう言って、外壁の縁に立つは濃紺の鎧武者。
「行きますか?」
両手に魔扇を持ち、片方の扇で口元を隠すは青の巫女。
「行きましょうか」
背負った大太刀と大盾を構えるは、緑の和装メイドだ。
「はい、行きましょう!」
左手に弓を携え、三人に続いて縁に並ぶ赤の弓巫女。
「うむ、それでは各々方。いざ、尋常に……」
そして両手に小太刀を手にする、紫色のマフラーを風に靡かせる忍者。
忍者のフリに、口元を一瞬緩ませる四人。そして、次の瞬間には表情を引き締め……。
「「「「「参るっ!!」」」」」
声を揃えた台詞を口にした五人は、そうするのが当然とばかりに門の上から飛び降りた。
和装勢が集結ですね。
イベント終盤で仲間と合流しボスに挑む、ベタにベタを重ねた展開です。
ついでにジンとヒメノのベタベタラブコメもお楽しみに!
ちなみに自分で書いていて、シオンさんの言う”メイドの嗜み”ってかなりヤバいと思う。
次回投稿予定日:2020/7/15