16-14 幕間・その頃ある場所で
|・ω・*)チラ
|・ω・*)っ【微糖警報】
|彡サッ!
仁達が温泉を堪能しているその頃、都内のあるファーストフード店。
「お? 明人と麻衣さん?」
鳴洲人志が少し遅い昼食にしようと入店したら、そこに親友とその恋人の姿があった。
「あぁ、人志」
「こんにちは、鳴洲さん」
にこやかに声を掛けて来る二人に、人志は笑みを浮かべる。親友とその恋人が、仲睦まじくデートしているのだ。それは人志にとって嬉しい事であり、応援して来た甲斐があったと思わせるものである。
――ま、俺は何も大した事はしてないけどな。
人志はそう思うものの、明人を常に励まし勇気付けて来たのは人志だ。明人はそう思っているし、心から感謝していたりする。
ともあれデート中の二人の邪魔をするまいと、人志は軽く話をしてその場を離れようと考える。人の恋路を邪魔して、馬に蹴られるのは御免なのだ。
ちなみに馬に蹴られるよりも嫌なのは、忍者に~ただし跳ぶのは相手~される事です。
「あぁ、こんちわ。順調そうで何よりだ……じゃ、ごゆっくりな」
ギルバートはクールに去るぜ、しようとしたのだが、そこで明人と麻衣から待ったが掛かる。
「まぁまぁ、折角会ったんだし。一緒に食べようよ」
「そうですよ。たまにはそういうのも、良いじゃないですか」
付き合い始めのカップルから、そんな事を言われてしまった。
「えー、俺は馬に蹴られたくないんだが?」
「「いいからいいから」」
……
結局は二人に押し切られて、同席する事になった人志。ポテトを食べつつ、二人の様子を窺うが……二人は何故か、自分に意識を向けていた。
「何なのか……見られてるのは、何なのか」
「五七五だけど季語が無いので、落選だね」
「別に俳句詠んだ訳じゃねぇよ」
人志と明人がそんな会話をしていると、麻衣の表情が綻んだ。
「お二人って、いつもそんな感じなんですか?」
「「まぁ、大体は?」」
そんな息ピッタリにハモってしまうものだから、麻衣の笑みが深まった。
「で? デート中に俺を巻き込んで、やたらと見て来るのは何でなん?」
「ん? いやぁ、人志にもそろそろ春が来ないかなって」
「あれ? 俺、喧嘩売られてる?」
人志がムスッとした表情を浮かべるので、麻衣が慌ててフォローに入る。
「そういう訳じゃなくてですね……鳴洲さんって今、ギルドの女の子から結構良い評価なんですよ」
「それだけじゃなく、学校の女子にもね。夏休み以降、人志は色々と頑張っていたじゃん。それで、皆に人志の良い所が伝わっていってるんだよ」
二人からそんな事を言われて、人志は「え? そうなの?」という顔になる。どうやら、自覚は無かったらしい。
「だからそろそろ、人志もこっち側に来そうだなと。そうなったら、ダブルデートでもしたいね」
「……そうかなぁ」
明人と麻衣の言葉を受けても、人志はいまいちパッとしない言葉を口にするだけだった。
以前の自分だったならば、その話に大喜びしただろう。それこそ舞い上がって、脈がありそうな女性に声を掛けようと行動を起こしていたかもしれない。
だが、今は違う。そういった行動に出ようとは思わないし、言葉をそのまま真に受けて大喜び出来ないのだ。
「なんつーか、過去の俺って馬鹿だったしさ。今は何か……こう……何て言うのかな」
人志としては、今の思いを言葉にするのは難しい様だ。無理もないだろう、彼自身が自分の中で咀嚼し切れていない感情なのだから。
「明人と麻衣さんとかさ、仁や英雄達を見てて……こう、誰でも良いから付き合うとかって、違うんだよなって思ってさ」
その言葉に、明人は驚いて……そして、フッと優しい笑みを浮かべる。
「この人じゃなきゃ……って思える相手に、出会いたい?」
「……あぁ、そうなのかも。確かに、そんな感じ」
本当に、人志は変わった……明人はしみじみと、そう思う。
今の彼ならば、本気で好きになった女性と愛を育む事が出来るだろう。上辺だけの愛ではなく、共に育てていく愛を。
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そんな会話がされている一方で、歩道を歩いているとある少女は……鞄の中に入っているあるモノについて考えていた。
――ほ、本当に買ってしまった……いや、だってお父さんがマジでVRドライバー買っちゃうんだもん!! たっかいのに!! めっちゃ高いのに!!
VRドライバーだけでは、フルダイブゲームは出来ない。ドライバー単体で出来るのはフルダイブ以外のゲームプレイか、VR系のゲームの実況動画を視聴するくらいだ。
なので彼女……隈切小斗流は、自分のお小遣いでゲームソフトを購入したのだ。それは話題作の為、現在は売り切れ店舗が続出している人気のVR・MMO・RPG……その名も【アナザーワールド・オンライン】である。
近隣のゲームショップでは最後の一軒しか置いてなかったあたり、本当に人気作なのだなと小斗流は驚いた。
勿論、彼女がこのゲームの購入に踏み切ったのは……あの初詣の時にした、クラスメイトとのある会話が切っ掛けである。
彼とゲームで冒険が出来たら、きっと楽しいだろう。その事を考えて、小斗流は早々に家に帰ろうと思うのだが……ゲームショップをハシゴした為、空腹であった。
普段から無駄遣いをしない小斗流は、ゲームソフトを買っても財布の中身はまだ余裕があった。ふと視線を向けると、ファーストフード店の看板が見えた。
――普段は食べないけど、たまにはいいよね。
彼女の足は、自然とファーストフード店に向いた。そうして店に入れば、店内はそれなりに人で溢れている。
小斗流はひとまず注文を済ませ、商品を受け取って席を探し……そこで、気付いてしまった。
「あ……あれ? 鳴洲……それに、倉守君?」
気になっている少年と、その親友……そして、見知らぬ可愛い女の子がいる。
「あれ、委員長?」
「こんにちは、委員長。あけましておめでとうございます」
「う、うん……あけましておめでとうございます、倉守君。えぇと……」
困惑しつつ同席する麻衣に視線を向けると、彼女も立ち上がって挨拶をした。
「初めまして、私は豊塚麻衣といいます。えーと、明人さんの彼女をさせて貰っています」
そう言って微笑む麻衣は、まごう事なき美少女だった。その笑顔に、小斗流は明人と麻衣に視線を巡らせ……そして、笑顔を浮かべる。
「初めまして。私は鳴洲と倉守君のクラスメイトで、隈切小斗流と申します」
「ウチのクラスの、学級委員長なんだよ。めちゃくちゃ頼りになる」
人志がそんな事を言うので、小斗流は「言い過ぎだよ」と苦笑する。そんなやり取りに、麻衣は明人に視線を向けて……。
――まさか、この二人は……!!
――うん。そう言えば、委員長……人志を結構気にしていたっけ。
――であれば、もしかして!! いずれはそうなる可能性も!?
――有り得るね。むしろ、良い感じに相性良さそうだし。アリ寄りのアリじゃないかな。
こいつらも、視線で意思疎通できるらしい。最早、視線で会話できないのって誰だろうってレベルだ。
「折角だし、委員長も一緒にどう?」
「良いですね、良かったらご一緒しません?」
「え? で、でもお邪魔じゃないかしら……」
「いや、居てくれた方がありがたい……おひとり様には、こいつらの甘々ムードは毒なんだよ」
人志までそんな事を言うので、小斗流は「じゃあ、御言葉に甘えて……」と席に着く。
「そうだ、鳴洲。この前の件なんだけど……」
「うん?」
この前の件とは、どの件だ? と人志が記憶を呼び起こそうとしているので、小斗流は鞄の中からある物を取り出した。
「これ」
「あぁ、ゲームの件ね……って」
ゲームソフトのパッケージは、人志も明人も麻衣も良く知っているゲームの物だ。なにせ彼等は、毎日そのゲームでギルドメンバーを率いて戦いと冒険に明け暮れているのだから。
「「「AWOのソフト……ッ!?」」」
三人同時に驚かれて、若干引き気味になりつつ……小斗流は人志に、初詣での会話について言及する。
「色々あって、買っちゃったんだ……えーと、良かったら教えてくれる?」
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その頃、AWOの中。【聖光の騎士団】のギルド拠点で、一組の男女が会話していた。とはいっても、会話内容は色気の無いものである。
「成程、【七転八起】で使用出来るのは≪ライフポーション≫だけではない……か」
「あぁ。他のポーションも一通り試して、確認したよ。ポーションと名の付くものは、全て効果対象だった」
アークとシルフィ……【聖光の騎士団】を率いる二人は、ユニークスキルについて話し合っていた。
「アークの【デュアルソード】は、レベル到達報酬なんだろ? ネーミングにしても、入手条件にしても違うね」
「あぁ、そうだな。特に【七転八起】のこの記載……スキルオーブ入手法条件が、【霊薬師】ゲッカの試練をクリアするという点だ」
「恐らくはNPC。ゲッカというのは、エクストラクエストのボスだろうね」
調べる価値がある……アークとシルフィは、同じ見解に至っていた。
その時、アークのシステム・ウィンドウに通知が来た。RAINのメッセージが届いたのだ。
「済まん、ライデンからだ」
「うん? 今日はルーとデートって聞いているけどな」
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アーク殿
ギルバートが現実で交友のある人物に、AWOについて教える事になりました。
その為、時折ギルド活動に参加できない日があるかもしれません。
僕としてはその人物にはお世話になっている為、協力してあげたいと思っています。
ギルが不在の時は、僕がその穴埋めをします。ルーも協力してくれるそうです。
お手数をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いします。
ライデン
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ライデンの送ったメッセージを見て、アークはシステム・ウィンドウを可視化した。
「シルフィ」
「? あぁ、見ろって事かい」
こういう所は相変わらずだ……と思いつつ、シルフィはアークの横に立ってシステム・ウィンドウを覗き込む。
そこで、アークはある事に気付いた。
――……近い。
だろうよ。
シルフィは十人中十人が美人と称する女性であり、いつもは鎧で隠れたボディラインも見事なものだ。声色も耳当たりが良く、毎日聞いていたいと思わせる。
更に言ってしまえば、姉御肌でざっくばらんな面はあるが……性格的にも、非常に女性としての魅力に溢れている。
そんな美女が、手を伸ばせば届く距離に居る……アークは何となく、居心地の悪さを感じてしまう。
「へぇ、ギルバートがねぇ。で、どうすんだいアーク」
ニヤッとした笑みを浮かべるシルフィは、アークとの距離感に戸惑った様子は無い。これは彼女に、ベイルという弟が居るからである。
「む……うむ。構わないと思う。ギルバートも、よくやってくれているからな」
そう言うと、アークはシステム・ウィンドウを操作してライデンに向けた返事を打ち込んでいく。
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ライデンへ
報告に感謝する。
ギルバートの件、了承した。
彼も日頃から、ギルドや仲間の為に尽くしてくれている。
息抜きにもなるだろうし、俺も協力しよう。
では、宜しく頼む。
アーク
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「……こんな所だろうか」
「うん、良いんじゃないか?」
ギルバートやライデンに対しての気遣いを感じさせるアークの文面に、シルフィは笑顔で頷いてみせる。彼女の返答にどことなくホッとした様子のアークは、送信ボタンを押してメッセージを送信した。
――アーク、アンタも最近は人付き合いとかを頑張ろうとしてるの、知ってるよ。
手間のかかる男だ……と思う傍らで、自分がサポートしてあげなくてはと思う。シルフィは柔らかく微笑んで、アークに声を掛けた。
「何かあれば、アタシにも相談しなよ」
「あぁ、助かる」
「よろしい。あ、そしたらRAIN交換しとくかい? 現実でも、何かあれば連絡とり合えるし」
「……そう、だな……君が良いのなら……頼む」
二人の間に流れるどことなくくすぐったい空気は、しばらくの間続くのだった。
次回投稿予定日:2023/6/25(本編)
|・ω・*)チラ
|・ω・*)微糖が一つとは言っていない。
|彡サッ!




