16-11 幕間・準備中のやり取り
~仁&英雄~
「へぇ、賢さんも同タイプだったんだ」
「何かめちゃくちゃ納得してるのは、何なのかな?」
「いや、だって英雄は自他共に認めるシスコンじゃないか」
二人は寛ぎながら、ここまでの事について話していた。親友同士なので、気楽な雰囲気だ。
「この後は温泉施設だけど……ほぼほぼ、プールに近いよね」
「そういう施設は少なくないしな、ここは規模がヤバいけど……」
「初音家の本気を感じるよねぇ」
取り敢えず貴重品と着替えを用意していると、英雄が仁に笑い掛ける。
「なぁ、仁。ヒメと一緒の部屋が良かった?」
「……まぁ、解っちゃいたけどそれなりに。それは、英雄も同じでしょ?」
「まぁね。親の居る旅行で恋人と二人部屋なんて、中高生じゃ認めて貰えないとは思ってたけど」
「だよねー、残念だ」
「ははっ、ほんと残念だね」
互いに理解し合っている為、取り繕う事は無い。本音で語り合える二人は、笑みを交して準備を進めていった。
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~千夜&舞子~
「舞子さん、見て見て! 部屋に温泉付いてるよ!?」
「うっわ……内湯も外湯も完備とか、本当に凄くない!?」
「修学旅行でこんな良い所に来たら、絶対にテンション上がっちゃうなぁ」
「うん、間違い無いね」
部屋には檜で拵えられた内風呂があるのだが、窓を開けると露天風呂になっている。当然ながら隣の部屋とは柵で仕切られており、覗きの心配は要らなそうだ。
浴槽にはお湯が常に注がれており、常に温かい状態なのが見れば解る。
「これも本物の温泉……ぽいね、この感じ」
「くぅ~、今すぐ入りたいくらい!! 舞子さん、夜に一緒に入ります? 入っちゃいます?」
「おっ、良いねぇ千夜ちゃん!! 寝る前に二人で入ろうよ!!」
現実では初対面であるはずの二人だが、ゲームでは何度も冒険を共にした仲だ。性格的にも相性が良いのか、和気藹々としている。
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~優&鏡美~
謎の緊張感が漂う、この部屋。そこで、優が鏡美に改めて挨拶をしていた。
「先日より拓真さんとお付き合いさせて頂いています、新田優と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……!! えぇと、弟がお世話になっています?」
「ふふ、どちらかというと私の方がお世話になりっぱなしですね」
拓真が聞いたら全力否定する言葉だが、鏡美にそれが解るはずもない。目の前の美少女が、弟の恋人だという事はハッキリと理解した。しかも可愛いだけでなく、お淑やかさと包容力を感じさせる美少女だ。
「拓真ってば、こんな可愛い子を捕まえるとは……えーと、優ちゃんで良いかな?」
「はい。あの……鏡美お姉さんって呼んで良いでしょうか? 私は一人っ子なので、ずっと昔から兄弟姉妹が居るのに憧れていまして……」
「……ぐっ!! 良いよぉ!! いくらでも呼んで良いよ!!」
鏡美、ハートキャッチされてあっさり陥落。
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~左利&輝乃~
「わーぉ、本当に凄い……」
「こんな良い所に招待して貰えるとか、身に余るな」
子供達のダブルルームより、少し宿泊料金が高いグレードの部屋を選んだ二人。その内装も、実に落ち着いた雰囲気で良い感じである。
「今回はこっちにしたけど……ファミリータイプの部屋も、いつか泊まる事になるんだろうな」
「……そ、そういう事言っちゃう? ねぇ、言っちゃうわけ?」
「まぁな。その時の為にも、頑張って稼がないとなぁ」
「今回は、皆との旅行なんだからね? 我慢するって、約束したよね?」
まさか夜に二人きりになったら……と、輝乃は身構える。しかし左利の返答は、あっさりしたものだ。
「そりゃ勿論、約束だからな。でも、露天風呂は一緒に入るだろ?」
「入るけどさぁ!! もー!! ばーかばーか!!」
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~十也&千尋~
「隣の部屋で、何かイチャついてる気がするな」
「どこの誰がそれを言うのかな~?」
十也の発言に苦笑しつつ、千尋は自分のお腹辺りに回された手をポンポンと軽く叩く。
「駄目だよ、今回はそういう事はしないって皆で決めたでしょ?」
そういう事とは、男女のあぁいう事である。二人は交際して長いので、当然ながら深い関係だ。
「だからだよ。我慢する分、ちょっと補填が必要なんだ」
「仕方が無いなぁ、十也ってば。ってか、前からじゃなくて大丈夫?」
「それは夜のお楽しみに取っとく」
千尋は内心で、十也が本当に我慢できるか? と思いつつ、後ろから抱き締めてくる十也の好きにさせるのだった。
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~真守&言都也~
「ヘタレ」
部屋に入って開口一番、真守に対して言都也が告げた言葉はこれである。
「解っているよ、自分でもヘタレだって」
本心で言うならば、鳴子と二人で同じ部屋に泊まりたかった。しかし、二人はそれを選択しなかったのだ。理由は……。
「鳴子と二人で泊まって、耐えられる自信無い……」
何に耐えるか? 彼の煩悩に決まっている。ちなみにそれは鳴子にも打ち明けており、仕方ないなぁと苦笑されはしたが了承は得られた。
「まぁ、あの美女だもんな。顔良し、スタイル良し、性格良しだし」
「そうなんだよ。しかも素の表情でデレてくれるんだ、破壊力高ぇよ」
「ヘタレの分際で惚気けんな、このヘタレ」
いつもは真守に言い包められる言都也なので、こうして真守に対して強気になれるのは珍しい。なので嬉々として真守をからかっていたのだが、最後は真守の不興を買って額にデコピンを喰らうのだった。
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~鳴子&朱実&美和~
「成程、真守がヘタれたのね」
「まぁ……そういう見方も出来ると申しますか……」
こちらは付き合い始めた鳴子と真守だが、別々の部屋となった理由について話をしていた。
「名嘉眞君は、慎重派って感じだものね。それに付き合って数日でいきなり同じ部屋っていうのも、ガツガツしてる気がするし」
朱実が呆れ気味なのに対し、美和は真守の判断を肯定している様子だ。実際、まだ交際して間もない時期である。そんな早い時期から二人で同室に……というのも、がっついているという考え方も出来るだろう。
「真守もちゃんと、それについては事前に相談してくれましたし……ちゃんと私の事を考えてくれているのが解っておりますので、今回はこれで良かったと思っております」
そう言って微笑む鳴子は、幸せそうだった。なので朱実と美和も、これ以上は言うまいと顔を見合わせて笑うのだった。
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~隼&音也&拓真~
「良かったよ、愛と二人部屋とかにならなくて。自分の理性が保つか心配だったし」
温泉に向かう準備をする隼が、音也と拓真にそんな内心を吐露した。
「意外ですね、隼さんなら平気なのかと思ってました」
本当に意外だったのか、音也が目をぱちくりさせて言うのだが……拓真は隼に同意見な様だ。
「僕も別室で安心した側だね。まぁそんな流れになっても、どのみち親からストップが掛かるだろうけどね」
拓真と優は交際を始めたばかりで、修からは正式に認めて貰った訳ではない。そんな内から一気に距離を縮めようとするのは、下手をしたら体目的ではないか……と思われても仕方ない。
「成程……僕は千夜ちゃんと幼馴染なので、色々と麻痺しているのかも……」
お泊りに添い寝は昔からで、流石に小さい頃限定だが一緒にお風呂にも入っていた。年季の入った付き合いの為、微妙に感覚がズレているのだろう。
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~治&蔵頼&勝守~
「勝守さんは、二十五だっけ? 梶代さんとは、六つ差なのか」
「ですね。こっちは蔵頼さんが三十なのに驚きました。若く見える」
「俺は治さんの髭が無い事に驚いた」
「確かに」
「いやだから、俺は普段は幼稚園で働いてんだっての」
朱実だけでなく、他の仲間からも「髭ないじゃん!」と言われた治。そんなに違和感があるのかと、苦笑してしまう。
「全く……話題を逸らそうとしていたが、勝守君は梶代さんと一緒じゃなくて良かったのか? ……とイジり返したいが、仕方ないよなぁ」
「だなぁ……彼女の性格だと、まだ無理だろうさ」
「俺もそう思います。まぁ、それでも俺は大丈夫ですよ。少しずつ積み重ねていって、お互いに納得した上で一歩ずつ進めりゃオーケーです」
そう言う勝守に無理をしている様子は無く、本気で紀子を大切にしようと考えているのが解る。だから治も蔵頼も、それ以上は言わずに笑うだけだ。
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~和美&紀子&里子~
「凄ーい! 新しいのもあるだろうけど、それを踏まえても良い部屋じゃない?」
和美を先頭に入ったのは、華美過ぎず質素過ぎずの内装や調度品で彩られた部屋だった。この部屋は、グレード的には一番安めの三人部屋である。それにしては、中々に居心地が良さそうだ。
「わぁ……本当に素敵なお部屋!」
「こ、こんな体験が、出来るなんて……本当に、ありがたい、よね」
部屋に運ばれた荷物を確認して、荷解きを始める和美。そんな和美に続いて、紀子と里子も自分の荷物から水着やらタオルやらを準備していく。
「その、もし良ければ……二人の事を"ちゃん"付けで呼んでも、良かったりします?」
同じ年代の二人と、もっと仲良くなりたい。そんな思いから一歩踏み出した里子に、和美も紀子も笑顔でそれを受け入れる。
「もっちろん!」
「ぜ、是非……っ! 私達も、嬉しい……ですし」
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~姫乃&恋&愛~
「残念です、仁くんと同じ部屋になりたかったのに」
「ね、残念だよね。私も隼君と一緒ならと思ってたんだけど」
水着やら何やらを準備しつつ、そんな事を宣う姫乃と愛。そんな二人に、恋は苦笑してしまう。
「親も来ている状況では、流石にそれは無理ね」
恋はそんな風に、最もらしい事を言うのだが……姫乃と愛の視線が何故か痛い。
「「さっきの部屋割りの時に、勢いでいけないかと思ってたでしょ」」
「……ちょっと、期待はしてましたけどね?」
あっさり素直に白状した。気持ちは恋も、当然ながら同じだったのだ。
「英雄さんは今日、随分緊張していた様ですから。少し、甘やかしてあげたいなと」
「あー、恋ちゃんは確かに甘やかす側だよね。私は甘える方だからなぁ……姫ちゃんは?」
「えへへ、どっちも出来たら良いなって」
「「……確かにそれが一番良いかも」」
次回投稿予定日:2023/6/15(本編)