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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十六章 冬休み始まりました
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16-10 温泉施設に着きました

 道中はトラブルも無く、道路が混む事も無かった。そうして昼時を少しばかり過ぎた頃に、仁達はオープンを目前に控えた新しい温泉施設に到着した。

 バスが施設の敷地に入ってまず思うのは、施設そのものの大きさがまず気になる。


――何だか……見た目ドーム球場みたいに見えるなぁ。


 真っ先に感じたのは、外観がドーム球場っぽいなという点だった。しかしスポーツ観戦向けの施設では無い事が、所々に設置された看板や店からも解る。

 そんなドーム型の施設の横に立つのは、片や近代的なビル型のホテル。そちらとは逆隣には和風の旅館風ホテルである。

 ホテルや旅館はドームに繋がっており、宿泊客ならば外に出る事無く温泉施設へ直接行ける様になっているのだろう。


「わぁ……凄いですね!」

 目を輝かせてそう口にした姫乃が、施設から仁に視線を向けてふにゃりと笑う。どことなくソワソワしているのは、これから体験できる全く新しい温泉施設が楽しみなのだろう。

「うん、本当に凄いよね。中を見るのも楽しみ」

「ですね♪」

 バスの中に居る内はいいが、今は冬真っただ中である。今日の外気は例年に比べて低く、着込んでいても寒さを完全には遮断できない程だ。こんな日に温泉に浸かれる……それも、初音家が手掛けた温泉施設を貸し切り状態だというのだから、身に余るほどにありがたい事だと仁は思ってしまう。


 そうこうしていると、バスが目的地に到着する。停車したのはドームから東側にある、ホテルの方だ。

 仁達がバスを降りると、そこに待ち受けていたのはホテルの従業員らしき人々。そしてその前に立つ、長身の青年がいた。

『ようこそ、【スパリゾート・フロンティア】へ!!』

 従業員と青年が歓迎の言葉を口にすると共に、一糸乱れぬ動きで一礼する。その歓迎振りは、やはり社長と社長夫人が居るのもあるだろうが……最大の要因が、恋の招いた客人が居る点だろうか。


――それにしても最前線フロンティア……かぁ。その名を施設名にするあたり、初音家が本気で力を入れているんだなぁ。


 英雄がそんな事を考えていると、出迎えの最前に立っている青年が歩み出る。

「皆様、本日はようこそお越し下さいました。私は株式会社ファーストインテリジェンスで経営計画部門を任されております、初音賢と申します」

 スラリと長い手足と、モデルかと見紛う整った顔立ち。それは父親である秀頼によく似ており、彼の血を色濃く受け継いでいるのだろう。柔和で穏やかな笑みは、人柄の良さを感じさせる。

「妹の恋がお世話になっているご友人……そしてそのご家族をお招き出来るとあって、今日を楽しみにしておりました。皆様どうぞ、心ゆくまで楽しんで頂ければ幸いです」

 恋の兄であるのだから、彼も恋を心底大切に思っているのだろう。そんな兄の笑顔と言葉に、恋も少し照れ臭そうにしている。


 そんな賢の挨拶に、真っ先に反応したのは彼の父親である秀頼だった。一歩前に出た彼に、賢は姿勢正しく一礼する。

「社長、本日はご足労頂きありがとうございます」

 実の父親が相手であっても、仕事の場ではこうして社長と部下として接しているのだろう。

 しかし秀頼は苦笑し、賢に声を掛ける。

「賢、今日の私は休暇中の身だよ。今日は乙姫と一緒に、恋達と旅行に来ただけだ」

「お言葉は解りますが……」

「そういう事にしておいてくれ。恋の友人やそのご家族の前で、社長面していると気まずいじゃないか」

 ただ単に、恋やその友人・家族との旅行を楽しみたいらしい。いつもは厳格な父親のあまりにもあんまりな発言に、賢は口には出さないが「そんな事言ってもさぁ……」という顔だ。


 そんな賢の内心を慮ってか、恋がここで口を挟む。

「社長面というか、事実社長ではありませんかお父様。申し訳ありません、お兄様。お父様は皆さんを招けた事で、どうやらテンションが上がっているようです」

 恋が会話に参加した事で、賢の困惑が和らぐ。初音家は、女性陣がお強いので。

「みたいだね……恋、社長を説得出来るかな?」

 暗に「恋が言えば、お父様もちゃんとしてくれるんじゃないかな?」というニュアンスが込められた、その問い掛け。しかし恋は、首を横に振る。

「諦めましょう」

「……了解」

 先日の星波家での様子から、恋は察している。今日の秀頼は、社長スイッチをオフにしている。それは恋達との旅行……特に、先日仲良くなった寺野夫妻・星波夫妻も居る。社長として持ち上げられる事なく、杯を交わし合ったのが余程楽しかったに違いあるまい。

 となれば秀頼は、子供達がいくら何を言っても、断固として社長らしく振る舞わないだろう。そして、乙姫が何も言わずにニコニコしている。これは乙姫も、秀頼の意向に賛成しているという事だ。だとすると、止める術は無い。


「まぁ、皆さんが緊張しないようにという考えがあるのも事実でしょう。それよりも、お兄様?」

「うん、解っているよ。皆様、大変お見苦しいところをお見せし失礼致しました。寒い中、こんな所で立ち話も何ですね」

 そう言うと、賢が従業員達に目配せをする。すると従業員達は流れる様な動きで、エントランスの扉の両脇に整列する。今日、この日の為に練習したのかも。

「運転手から、お食事はまだと伺っております。差し支えなければ、まずはお食事に致しませんか?」

 賢がそう言うと同時に、バスの収納スペースからそれぞれの荷物が台車に丁寧に乗せられていく。どうやら重い荷物は、彼等が運んでくれるようだ。

 ちなみにバスに乗る際に、誰の荷物か解る様にタグが取り付けられている。なので、受け渡しに不便する事もないだろう。


 反対意見は誰からも出なかった為、賢の提案を受け入れてまずは昼食タイムにする事となった。


************************************************************


 ホテルの内装は華美過ぎず、かといって安っぽくもないちょうど良い塩梅のものだった。

 初音家の作った施設という事で身構えていた面々……特に大学生組や、社会人組・親勢。しかし思ったよりも普通のホテルで、驚きよりも先に安堵してしまった。

「ほえぇ、結構普通のホテルなんだね!! 別荘みたいな凄い所なのかと思ってた!!」

「こら、千夜」

 夏の別荘のイメージが強かったため、思わず考えていた事を口に出してしまう千夜。そんな千夜を、母親である雅子が窘める。

 そんな千夜の発言に、反応を見せたのは賢だった。

「はは、伴田千夜さんでしたね。確かあなたも夏に、ウチの別荘に来てくれていたとか。ここは一般のお客さんに利用して貰う、娯楽と宿泊場所を提供する施設ですから。なので、気楽に来て貰える様な作りなんですよ」

「おぉ、成程です!!」

 クリスマスパーティーの時もそうだが、千夜は物怖じせずに賢に接する。満と雅子からしたらヒヤヒヤものなのだが、逆に賢は上機嫌だ。


 それは恋の父親である秀頼も、同様らしい。

「千夜さん……で良いかな? 恋からも、君のその明るさに元気を分けて貰っていると聞いているよ。これからも、娘と仲良くしてくれたら嬉しいな」

 秀頼がそう言うと、千夜は嬉しそうにはにかむ。

「私こそ、恋ちゃんからはたくさん教わったり、支えて頂いています! こちらこそ、ずっと仲良しでいたいと思っています!」

「お父様も千夜ちゃんも、そういうのは本人の居ない所でしてくれます? いえ、居ない所でされるのも気恥ずかしいですが」

 恋としては、そんなやり取りをされると気恥ずかしいらしい。英雄と腕を組んでいたのだが、ほぼ彼の二の腕に顔を密着させて顔を隠していた。照れた顔を見られたくないのだろう。


 ホテルの中を進んで行くと、やがて広い部屋に行き着いた。テーブルと椅子が整然と並べられている事から、ここが食堂なのだろうとすぐに解る。

「さて、今日はこちらで昼食となります。夜もこの部屋で、夕食にする予定です。ちなみにこちらから、今回お楽しみ頂く施設の様子もご覧になれますよ」

 賢の言う通り、食堂からは温泉施設の中が伺えた。目に飛び込んできたのは、とんでもない規模のレジャー施設である。


「うわぁ、ウォータースライダーだぁ……」

「結構長いのもあるし、短いのもあるね」

「あっちは……子供用かな。結構広いね」

「本当だね。休憩出来そうなところもあるし、小さい子供がいる家庭は良さそうねぇ」

「おっ、見ろよ! 打たせ湯があるぞ! 仁、修行できるんじゃね?」

「えぇぇ……」

「あれ? あそこ、奥に行けそうじゃない?」

「あぁ、あそこを中に進むとジャグジーがあるんですよ。逆側には、ミストサウナもあります」

「サウナ! 良いねぇ、最近行けてなかったし……折角だし、今回は堪能させて貰うか」

「あれ? あそこってもしかして……流れるプールならぬ、流れる温泉!?」

「わぁ、楽しそうだね!!」

「というか、あれって競泳プールでは……?」

「広いとは思っていたけど、ここまでとは……」

 AWO組は、温泉エリアが気になって仕方がないらしい。今すぐにでも行きたい……といった顔をしている面々も、少なくは無かった。


「温泉と言うか、温水プールみたいな感じね」

 ガラス越しに温泉を見てそう呟くのは、愛の母である【巡音めぐりね 友子ともこ】だ。中学二年生の娘が居るとは思えない、引き締まった身体付きと若々しさである。愛と並んだら、姉妹に見えてもおかしくない美貌の持ち主なのだ。

「見ただけですと、そうお思いになりますよね。勿論こちらの施設、全て本物の温泉を使用しておりますよ」

 賢はそう言って、この施設の温泉について解説する。

「こちらの温泉は、既に枯渇寸前だった泉源を弊社で買い取って再開発したんです」

「へぇ……この辺りには、元々温泉旅館があったんでしょうか?」

「えぇ、勿論。ですが跡継ぎがおらず、この辺りは廃れつつありましてね……ちなみに、このホテルの逆側にある旅館エリア。この辺りに残っていた旅館の方々には、そちらをお任せする事にしたんです」

 開発のみならず、地元の旅館事情にまで手を付けていたらしい。


 ちなみに賢は、三つのエリア……温泉施設・ホテル・旅館の建造に細心の注意を払っていた。

 特に旅館エリアについては、相当な力を込めている。従来の旅館の良さを残そうと、地元の旅館のオーナーや経営者……そして従業員と徹底的に話し合って、新たな旅館を建てたらしい。

 旅館の一部には過去の旅館の木材を使用したり、取り壊す前の旅館の写真を飾ったりと様々な人情味溢れる方策をとったらしい。

「明日は皆様にもそちらに宿泊頂いて、古き良き旅館の風情を味わって頂く予定なんですよ」

「成程。それはとても楽しみですわ」


……


 そのまま昼食となるのだが、料理も中々に美味しかった。

「んー、美味しい♪」

「この味で、この値段なのか……」

 昼食のメニューはオーソドックスな物なのだが、材料と調理の腕が良いのかそこらのレストランよりも遥かに美味だった。


――そこそこの値段でこのクオリティの料理が食べられるとなると、オープンしたら相当混むんだろうな。


 そんな事を考える仁は、ふと隣でニコニコしながら食事をしている姫乃に視線を向ける。

 姫乃が食べているのは、ハンバーグランチだ。これは姫乃が卵料理が好きで、ハンバーグの上に乗った目玉焼きに惹かれたからだろうと予想している。対する自分の選んだメニューはオムライスで、彼女の好きな卵のオムレツをあげたら喜ぶと思う。

「姫、一口いる?」

 仁がそう声を掛けると、姫乃は目に見えて嬉しそうな表情を浮かべる。

「良いんですか? じゃあ、仁くんもどうぞ♪」

 仁がオムライスの皿を姫乃の方に寄せると、姫乃もハンバーグランチの皿を差し出して来た。

 あーん? 親の居る前でやる勇気はない、お互いに。それでも二人の雰囲気は自然体でも甘やかで、誰が見ても相思相愛の間柄だと感じるだろう。


 事実、二人の向かいに座っている蔵頼と言都也は、眩しいものを見た……と言わんばかりの表情だ。

「二人とも、本当に仲が良いね。羨ましい限りだ」

「ホントになー。君等を見てると、誰か良い人がいないもんかって考えちゃうよ」

 蔵頼と言都也にそう言われて、姫乃は照れ笑いしつつ俯く。頬を染めているのは、やはり仁との事を言われて照れてしまったのだろう。

「そ、そうですか?……えへへ」

 そんな可愛らしい姫乃の様子に、蔵頼も言都也も口元が緩む。

「いつかそういう相手が出来たら、是非ここに連れてきてあげたいな。その時はもうオープンして、混み合っているかもしれないがね」

「良いですね、それ。きっと喜んで貰えますよ、こんな素敵な所ですし」

「その時案内できるように、色々とオススメスポット見付けないと! 蔵さん、後で報告会しようぜ!」

「良いですねそれ、僕も参加したいです」

 仁と蔵頼、言都也がそうやって笑い合うので、姫乃も表情から笑みがこぼれて出る。


――新しい【桃園】の皆さんとも、たくさん仲良くなれた気がします……♪


 旅行に来て良かった、そう思って誘ってくれた恋の方に視線を向けると……恋の隣に座る英雄が、緊張しているのが解った。

 無理もないだろう、正面に座るのは秀頼と乙姫。その隣に星波家の両親で、逆隣には賢が席に着いているのだ。


――何だか、緊張感が……お兄ちゃん、大丈夫でしょうか?


************************************************************


 姉夫婦を除く恋の家族と同席する英雄は、それはもう緊張していた。昼のメニューをナポリタンにしたのだが、それを食す時も「マナーとかを見て、審査されているのでは……!?」なんて思ってしまう。美味しい料理なのだろうが、緊張で味わうどころの話ではなかった。

 そんな英雄の隣に座る恋には、彼の緊張度合いがマックスであるのを察していた。ここはやはり、助け舟を……と思い、英雄に声を掛ける。

「英雄さん、英雄さん。私のチキンソテー、一口いかがですか? 美味しいですよ」

「え、あ、うん。じゃあ、一口だけ……」

「えぇ。それでは……はいあーん」

 フォークは恋が持ったまま、英雄の口元に差し出されるチキンソテー。仁と姫乃ですら今回は控えた「あーん」だったが、思わぬ所で発動された。


「れ、恋……!? ご家族の前で、それやる気!?」

「はい。むしろお兄様の前だから、です。お姉様も私も、素敵な相手を見付けたのですから。そろそろ仕事の虫を卒業して、将来の事についても考えて頂く良い機会かと」

 兄にも容赦ない恋様である。しかし当の賢は、そんな恋の様子に朗らかに微笑む。

「そうだね、恋の言う通りかもね。私も結婚願望が無い訳ではないし、良いお相手を探さないといけないね」

 すんなりと恋の言葉を受け止めて、微笑みながら頷いていた。英雄としては、あれ? すんなりオーケーパターン? と肩透かしを食らった気分だ。


 そんな英雄の心境を察しているのか、いないのか。賢は笑顔で英雄に声を掛ける。

「英雄君、とりあえず恋の()()に応えてあげた方が良いよ。君が食べるまで、絶対に恋はフォークを下ろさないから」

 それは、英雄も同感であった。彼女はこうと決めたら、そうそう意見を変えない所がある。やると言ったらやるスゴ味がある系女子なのだ。

「あ、あーん……」

「……♪ どうですか、美味しいでしょう?」

「そ、そうだね……」

 そんな二人のやり取りに、大将と聖は戦々恐々としている。いくら恋から仕掛けたとはいえ、秀頼と乙姫が愛娘とイチャつく英雄に対して怒っているのではないか? と考えても不思議ではない。

 しかしそんな予想に反し、秀頼と乙姫はニコニコしていた。それは微笑ましいとか、良かったなぁという感情をうかがわせるものだ。


 それもそのはずで、秀頼と乙姫……そして賢は、恋が幸せそうにしているのが嬉しいのだ。

 過去に遭遇した誘拐事件から、長い年月が経過したが……その間、恋は家族以外に心を開かずに過ごして来た。あれをしたい、これがしたい、あれが好き、これは嫌い……そんな子供らしい自己主張すら無く、ただただ決められた事を決められた通りにこなすだけ。

 中学に入り多少はその傾向が緩和されたのだが、それは彼女が他人に対し仮面を被る事を覚えただけだった。他人に踏み込まず、踏み込ませず、当たり障りの無い良好な関係を築くだけのスキルを身に着けたに過ぎなかったのだ。


 それが劇的に変わったのは、数ヶ月前。AWOで同じ学校の生徒とその兄、そして友人に出会ってからだ。そこからの恋は仮面を被らずに過ごす時間が増え、生き生きとした様子を見せるようになった。他人に対して心を閉ざしていた少女は、この短期間で一人の恋する少女に変わっていったのだ。


 それを成し遂げた英雄に対する初音家の評価は、「文句無し」という高評価なのである。

 それどころか恋が普通の女の子らしく、楽しんでいる姿が見られるのだ。むしろ「いいぞ、もっとやれ」といった、応援すらしているのが実情である。


 ちなみに賢には、英雄に対してもう一つ評価ポイントがあった。

「ところで英雄君。妹さんは大切かい?」

「はい? それは勿論」

 唐突な賢の問い掛けに、英雄は自然に本心からの返事で応える。

「うん、だろうね。君とは絶対に、気が合うと思っていたんだよ」

 賢の言葉に英雄は「どういう事だろう?」と困惑し、恋に視線を向けると……恋が、微妙な顔をしていた。それはもう、ビミョ〜な顔だ。

「英雄君。私は、姉と妹を心から愛しているんだ」

 愛している……という言葉に、まさか? と思う英雄。それは禁断の愛的なやつなのか? と。しかしそれならば、恋と自分の関係を認める事はしないだろう。


 となると、考えられるのは一つ。

「私の様な人間は、世間一般ではシスターコンプレックスと称されるらしいね」

 どうやら英雄の話を聞いて、賢は自分と同じシスコンだと認識したらしい。ちなみにそれは正解で、英雄は自他共に認めるシスコンです。

「成程、理解しました」

 シンパシーを抱かれる部分が何だかアレだが、別段世間様に顔向け出来ない様なあれやこれがある訳ではない。ならば、そのシンパシーを受け入れるくらいは構わないだろう。


 英雄は英雄で、姫乃をとても大切に思っている。彼の言う様に、愛していると言っても過言ではない。勿論性愛的なものではなく、家族愛的な意味でだ。

 だから賢が言わんとしている事は、よく解った。彼にとって英雄は、自分にとっての仁の様な存在なのだろう。

「君とは、良い義兄弟になれそうだよ。北斗義兄さんも良い人だし、私は恵まれているな」

「その期待に答えられるように、頑張ります」

 互いにそう言葉を交わし、二人は固く握手を交わす。そんな二人を見て、秀頼と乙姫はウンウンと頷いていた。


「何なんでしょう、このやり取り……」

 そんな恋の呟きに、大将と聖は「そうだね……」と苦笑してしまった。


************************************************************


 昼食も終わり、いよいよこれから最新の温泉施設へ……という所で、招待された仁達は宿泊する部屋へと案内された。

「親御様方には今回、ファミリー向けのお部屋をご用意しております。そして中高生の皆様方には、二人向けと三人向けの部屋をご用意致しました」

 子供と親を別に泊まらせるのか? と、数名が不満げな表情を浮かべかける。


 しかし賢もそれは予想済みだったのか、すぐに言葉を続けた。

「というのも、いずれは修学旅行等でのご利用も想定しているのです。学生の皆様にモニターをして頂くにあたり、是非これは感想をお聞きしたいなと」

「あ、成程……」

「それと親御様の視点からは、幼い子供を連れて来る際に不足しているものがないか等、子育てを経験された視点からご意見を頂きたいのです」

「ふむ、そういう事か」

 この温泉旅行の目的は、施設のモニターだ。それを考えたら、その言葉は理に適っている。

「大学生の皆様と社会人の皆様には、実際の旅行を想定して、部屋を選んで頂こうかと。実際の部屋のグレードと、宿泊料金が見合っているかのご意見を伺えればと思っております」

 実はこれ、今回のメンツを考えて後付で考えられた理由だ。裏で糸を引いているのは、恋である。


「そうと決まれば、部屋割りを決めましょうか」

「ちなみに中高生の皆様は、当然男女別になりますので」

 勢いで押し切ろうかと思った恋様だったが、賢がそれを許さなかった。最も、恋も本気でイケると思ったわけでは無い。なので、食い下がるような事はしなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【ファミリールーム組】

 寺野夫妻

 星波夫妻

 初音夫妻

 相田夫妻

 巡音夫妻

 伴田夫妻

 新田 修

 名井家夫妻


【ダブルルーム組】

 寺野 仁   & 星波 英雄

 伴田 千夜  & 御手来 舞子

 新田 優   & 名井家 鏡美

 飯田 左利  & 入間 輝乃

 入間 十也  & 山尾 千尋

 名嘉眞 真守 & 熱田 言都也


【トリプルルーム組】

 星波 姫乃  & 初音 恋  & 巡音 愛

 土出 鳴子  & 富河 朱実 & 笛宮 美和

 相田 隼   & 古我 音也 & 名井家 拓真

 浅盛 和美  & 梶代 紀子 & 奥代 里子

 山尾 治   & 成田 蔵頼 & 梅島 勝守

―――――――――――――――――――――――――――――――


 部屋割りが決まり、各々が部屋で準備を済ませて施設の入館口に集まる事になった。

 そこで様々なやり取りがある訳だが、それは言うまでもない事だろう。

次回投稿予定日:2023/6/13(幕間)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 親御さん同士は「普通に接する」でクリティカル、男兄弟は「我らシスコン」でクリティカル、英雄クリティカル偏重にステ振りした?w この部屋割りだけでも加糖連鎖の起点がいくつも見えるぞ!!
[良い点] 至れり尽くせり モニターとしても  最高のメンバーだから 従業員側も大助かり [気になる点] 何か 特別な施設が隠されてそう 特別なお客様限定 だとか 常連客限定 とか …
[良い点] 温泉施設というかリゾートスパ?と思ったら普通にリゾートスパ言っとりましたね。これだけの施設なら温水プールやサウナだけでなく変わり種な温泉とかもありそうですね死海風呂とか。いいですね温泉最近…
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