表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十六章 冬休み始まりました
399/573

16-09 温泉旅行に出発しました

はい、温泉回です!!


以前のゆる募で短編リクエスト頂いていた際に、ケイ様から『アレク一派不在の【七色の橋】【桃園の誓い】オフ会』というリクエスト頂いておりました。

それではどうもお待たせしました!! 『【七色の橋】と【桃園の誓い】オフ会盛り合わせ~バヴェルとゼクトは諸事情により抜き、代わりにコヨミと親を添えて~』です!!←

 一月三日……いよいよ仁達は、ファーストインテリジェンス系列会社が建設した温泉施設への旅行に出発する。

 仁達はまず駅に集合し、そこからバスで移動となるのだが……そのバスが、とんでもないバスだった。

「おぉ……メチャクチャ豪華なバスだ……」

「凄いですね……二階建てバスですよ……」

「俺、普通の観光バスのイメージだったよ……」

「僕もです……」

「普通はこのグレードのバス乗ろうとしたら、相当な費用になるッスね……」

 一生の内に、一度乗る機会があるかどうか……そのレベルの、豪華なバスである。恋・秀頼・乙姫の初音家は平然としているのだが、一般庶民な仁達からしたら敷居が高過ぎる。


 困惑する仁達の内心を知ってか知らずか、秀頼がにこやかに声を掛ける。

「これで近隣のメンバーは、無事に集合出来ましたね。では次に、新幹線でいらっしゃる皆様をお迎えに行きましょう」

「それでは皆様、中へどうぞ」

 乙姫に促されてバスの中へ入れば、内装も素晴らしい作りだった。


 通路の床部分は高級感溢れる臙脂色のマットで覆われており、これ土足厳禁じゃないよね? と不安になってしまう。

 座席もクッション性の良さそうなシートになっており、座った瞬間に眠気に襲われてしまうのではなかろうか。しかも座席は二シートとなっており、そうなると全席窓際になる。

 バスの後の方には個室があり、洗面所なのだろうとすぐに察する事ができた。至れり尽くせりの豪華バスとあっては、途中休憩が無くてもそのまま目的地まで行って問題ないのではなかろうか。


――ラグジュアリーバス……っていうんだっけ。本当に凄いな……凄過ぎる。


 仁が部活の遠征で乗ったマイクロバスとは、何もかもが違っていて溜息が漏れる。流石、初音家と言わざるを得ない。

 そんな豪華バスは二台運行となっており、二手に分かれて乗る事になった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

(二階)

 初音 秀頼  ・ 星波 大将

 初音 乙姫  ・ 星波 聖

 星波 英雄  ・ 初音 恋

 名嘉眞 真守 ・ 土出 鳴子

 熱田 言都也 ・ 成田 蔵頼

(一階)

 飯田 左利  ・ 入間 輝乃

 入間 十也  ・ 山尾 千尋

 富河 朱実  ・ 山尾 治

 古我 大二  ・ 古我 好美

 古我 音也  ・ 伴田 千代

 伴田 満   ・ 伴田 雅子

―――――――――――――――――――――――――――――――

(二階)

 寺野 俊明  ・ 寺野 撫子

 寺野 仁   ・ 星波 姫乃

 御手来 舞子 ・ 麻盛 和美

 梅島 勝守  ・ 梶代 紀子

 笛宮 美和  ・ 奥代 里子

(一階)

 相田 鷹志  ・ 相田 桔梗

 巡音 愛   ・ 相田 隼

 巡音 勝利  ・ 巡音 友子

 新田 修   ・ 新田 優

 名井家 鏡美 ・ 名井家 拓真

 名井家 真司 ・ 名井家 悠里

―――――――――――――――――――――――――――――――


 この席順を決めるのにはプレイヤー勢がゲーム内で散々議論し、最終的にこの配置に落ち着いた形である。可能な限り、恋人と家族が同じフロアになる様に考慮された割り振りだ。

 この中で唯一、姫乃だけが家族から離れる形になる。しかしながら、星波家からは満場一致でオーケーが出ている。この事からも、仁と寺野家に対する信頼度の高さが伺えるだろう。


 ちなみに近隣メンバーは和美・紀子を除く【七色の橋】と、真守・言都也・美和である。


……


 新幹線組を拾う駅に向かえば、そこには遠方から来る【桃園の誓い】の面々……そしてコヨミこと、御手来舞子が待っていた。何とか母親の助力を得て、父親の説得に一応は成功したらしい。

「も、もっと普通の観光バスを想像してた……」

 左利がそう言えば、他のメンバーが同意! とばかりにブンブンと頷く。やはり、初音家のラグジュアリーバスには驚いたらしい。


 ちなみに左利・輝乃・十也・治・千尋は、静岡在住。朱実は愛知県らしい。今回の旅行で、ゲイルこと治とフレイヤこと朱実の住んでいる地域が隣接する県であることが判明した。幸先良いね。

 里子と舞子は新幹線を使用しないのだが、最寄駅のすぐ側が新幹線組の集合場所と近かった。その為、ここで合流する手筈となっていたのである。


 残るは九州から来る和美・紀子コンビに、大阪から来る勝守……そして、青森から来る蔵頼との合流を残すのみだ。

 左利達がバスに搭乗し、その快適性に絶句した所でバスは空港へと出発。空港組が似た様な反応をするのを眺めた所で、いよいよ参加者全員集合と相成った。


************************************************************


 空港から温泉施設までは、高速道路を利用しての行程となる。途中でサービスエリアに立ち寄る予定だが、昼過ぎには現地に到着出来る見込みだ。

 バスの中で思い思いに過ごす訳だが、折角の旅行……それも、滅多に乗る機会など無い豪華バスによる移動だ。各々、テンションが上がっていた。


 ~先頭車両・一階部分~


「こんな経験が出来るとは、思ってもみなかったな……」

「レンちゃん、本当にお嬢様だったんだなって再認識しちゃったわ……」

 普通のサラリーマンである、ケインこと飯田左利。その恋人である普通のOL、イリスこと入間輝乃。最前列で呆然とする二人は、恋……そして初音家の凄まじさを、思い知らされていた。


「本当に素敵なバスよね……多分だけど本来、外の景色を堪能する用途のバスなんじゃないかしら。ほら、窓も大きいし」

「詳しいな、さすが旅行代理店の社員」

 チナリこと山尾千尋は、旅行代理店に勤めているらしい。そんな恋人に感心しているゼクスこと入間十也は、左利や輝乃ほどガッチガチになっていない。お気楽なのが彼の欠点であり、長所でもあるのだ。


「……じー」

「な、なぁ? 富「朱美でいいわ」……あ、朱美? 何でそんなにガン見するんだ……?」

 ゲイル……山尾治は、やたらと富河朱美に凝視されていた。お陰でバスの豪華さには緊張しないで済んでいるのだが、別の意味でひたすら緊張してしまう。

「……現実では、ヒゲ無いのね」

 どうやら、そこが気になったポイントらしい。そう言う事かと苦笑して、治は朱美に理由を明かす。

「幼稚園の先生だからな、流石に現実ではちゃんと剃らにゃあな」


「朱美さん、朱美さん。こう見えて兄さんは、子供たちに大人気なんですよ」

 前の席から振り返り、クスクスと笑いながらそんな事を言う千尋。妹の言葉に治は難しい顔をするが、朱美からの視線は相変わらず治に向けられたままだ。

 そんな【桃園の誓い】初期メンバーが纏まっているのは、恋人であったり兄妹であったり、イトコであったり……そして関係の進展を仲間達から期待されている為だ。


 そんな前側の半分とは異なり、後半分は完全なる身内である。

「いやはや、バスの中で一杯引っ掛けようと思ったけど……これはやめておこうかなぁ」

「本気でやめなよ、お父さん。うっかり零しでもしたら大問題だからね」

「満君は本当に、お酒が好きだものねぇ」

「まぁおじさんは、普段は漫画の執筆で忙しそうですもんね」

 和気藹々とした様子で会話する、古我家と伴田家。家族ぐるみの付き合いである為、リラックスした様子である。


 そこで、朱美がピクッと反応する。

「え……漫画? 千夜ちゃんのお父さんって、漫画家さん?」

 オタクでコスプレイヤーで腐女子で掲示板民でもある、フレイヤさんこと朱美さんである。漫画も結構、幅広く見たりしているのだ。

「あれ、言った事ありませんでしたっけ?」

「フレ……じゃないや、朱美! 第三回イベントのデザイン考えてた時よ!」

 そう言われて、朱美も「あぁ! あの時か!」と思い出した。千夜のデザインした、魔王へのプレゼントである≪星空の衣≫。そのデザインセンスと画力の高さは、両親の職業に影響されたからという話であった。


「思い出したわ、忘れててごめんなさいね」

「いやいや、あの時ポロッと言っただけでしたしねー」

 朱美と千夜が仲良さ気に会話するので、両家の親も「この初対面の人達は、信用しても良さそうな感じかな?」と思考を巡らせる。

 中高生の親ともなれば、やはり我が子の人間関係を心配してしまうものだ。相手が大人であれば、特に。


「何ていう作品なんですか? もしかしたら、知っているかも」

 左利も話に加わると、満はからからと笑う。

「一応、【週間クライマックス】で連載しているんだけど」

 何故か電車と桃と鬼が脳裏に浮かぶが、まぁ普通の少年誌である。

「【エスの不思議な冒険譚】という漫画の作者なんだよ」

 その言葉に、左利達は漏れなく絶句した。

 それは彼等が中学生ぐらいの頃に始まった、熱いバトルと魅力的なキャラクターで人気を博した漫画だ。アニメ化や映画化のみならず、ゲーム化までされている作品である。


「マジで……!? 俺、漫画全巻揃えてるんす!!」

「おぉ、それは嬉しいな……百十五巻もあるのに」

 百十五巻ともなると、超長期連載である。

「これは驚いた……まさかそんな、大漫画家さんだとは……」

「私、五部のキャラのコスプレした事あるわ……」

「知ってるわよ、その合わせに参加したもの……」

 色々とだだ漏れてる。もしかしたら、ギルド内では隠していないのかもしれない。


「あれ? 待った、確か【エス冒】作者の奥さんって……」

「……あ、まさか……」

 デザイナーという話は聞いていたが、こちらもまさかの。

「そう、うちのお母さんは【プレアデス】のデザイナーです!」

「だよね!?」

 ファッションブランド【プレアデス】は、中高生から社会人まで幅広い客層のニーズに応えているブランドだ。高過ぎず安過ぎず、それていてデザインは奇抜に走らない王道指向。清楚なイメージを大事にしたデザインの服が多く、かくいう千尋が身に着けているのも【プレアデス】のブラウスとロングスカートである。


「マジでか……!! 私、結構【プレアデス】の服持ってるわよ……」

「輝乃? 一昨年の誕生日プレゼントのジャケットって、そこのブランドだったな?」

「それ覚えてたの、左利……!?」

「あらあら、嬉しいわねー♪」


 ちなみに古我家はというと、普通の一般家庭だ。とはいっても好美は専業主婦で、大二の稼ぎだけで暮らせている。それだけでも、大二の稼ぎがそれ相応のものだという事が解るだろう。


……


 ~先頭車両・二階~


「ふーむ、娘夫婦も来られれば良かったのだが……」

「確か、ご旅行でしたか?」

「えぇ、学生時代の友人と。まぁ私としても、その友人達は知った仲なのでね。だから構わないと許可したのですが……」

「あら、それは残念です。恋ちゃんのお姉さんにも、お会いしてみたかったのですが」

 恋は星波家で、時折家族の話をするのだ。その時の恋の様子からは、家族……特に姉と兄に対して、強い信頼を向けているのが感じ取れた。なので大将や聖としても、是非会ってみたいと常々思っていたのである。


「うぅむ、すぐるの提案がもう少し早ければなぁ」

 ちなみに賢とは、本名を【初音はつね すぐる】という。恋の兄であり、ファーストインテリジェンスの跡取り……次期社長となる人物だ。今回の旅行の発起人であり、今は現地で一行の来訪を待っているのだそうだ。

 そんな秀頼の零した一言に、乙姫が「いいえ」と声を上げる。

「仕方ありません、秀頼さん。賢も今回のプロジェクトの為に、日頃から尽力していたのはご存知でしょう? それでもつい先日、ようやく形になったのですもの。むしろあの子は、よくやっていると思いますよ」

「ふむ……うん、そうだね。確かに、乙姫の言う通りだな」

 何でも娘夫婦の旅行は、一月も前から計画されていたらしい。温泉施設は、その頃に内装工事が完了。そこから関係者による、内覧会だったのだ。

 それを考えたら恋の姉夫婦、今回の旅行にはどの道不参加となっていただろう。


「恋のお兄さん、忙しいんだね」

「えぇ、ですが元気にしている様です」

 恋によると兄である賢は、恋と姉に定期的に連絡を入れるらしい。ちなみに義兄との仲も良好で、時折一緒に食事や呑みに出るのだとか。

「昨夜も、久し振りに会えるのを楽しみにしていると……あと英雄さんに会うのも、楽しみなのだそうです」

「そ、そっか……うん、覚悟決めとくよ」

 恋人の兄……しかも、ファーストインテリジェンスの次期社長に会うのだ。英雄としては、緊張するなと言う方が無理な話である。

「ご安心を。貴方の隣には、私が居ますから」

 そう言って微笑みかける恋に、英雄は敵わないなと苦笑する。

「ありがとう、恋。でも、俺も俺で頑張るよ」

 しかし弱い部分を見せるのは、彼女の前だけと決めているのだ。

 英雄の表情から、そんな内心を汲み取った恋は柔らかく微笑んで頷いてみせた。


――夜は英雄さんを、甘やかしてあげましょうか。先日のご要望もあった事ですし……ね。


 クリスマスの日に、英雄がポロッと零した要望。それを叶えてあげようと、恋は心に決める。


 一方、そんな初音家・星波家の後ろの席では……緊張気味にプルプルしているヒューゴこと、熱田言都也がいた。

「ひえぇ……俺、とんでもない所に来ちまった感が半端無いんだけど……」

「……お前、旅行に参加する時はめちゃくちゃテンション上げてたじゃないか」

 レオン……成田蔵頼がそう言うと、言都也はギギギ……という音がしそうな動きで、視線を蔵頼に向ける。油が切れて錆び付いた、機械の様な動きである。

「実際にバスを見た瞬間に、上がっていたテンションがごっすんされた」

「大変な物を盗まれたわけでもあるまいよ」

 世代がわかるネタの応酬である。しかし、それでも言都也は落ち着かないらしい。

「レオンさんは何でそんなに落ち着いてんだよ、ずりぃよ~!」

「アバ名で呼ばんでくれ……」


「はぁ……あんま騒ぐなよ、言都也。こっちまで恥ずかしくなってくる」

「くっ……マモ、お前も何で落ち着いてんだ? お前だって俺と同じしがない学生で、こんな高級バスに縁が無いだろ!」

「鳴子の前で、だせぇ姿を見せたくねぇから」

「リア充爆発しろ」

「お前は【暗黒の使徒】かよ?」

 ちなみに真守の横の席に座る鳴子は、涼しい顔をしている。しかし口元が緩むのを我慢していたり、頬がほんのり赤く染まったりと照れている様だ。


 言都也と真守がそんなやり取りをしていると、前の方に座っていた秀頼がまさかの反応を見せた。

「あぁ、聞いた事があるよ。中々ユニークなギルドがいるそうだね」

 まさか初音のトップから、ゲームの話を振られるとは思ってもみなかった真守と言都也。これには英雄も蔵頼も、目を丸くしてしまった。

「意外だったかな? 実は私達も、水姫と北斗君からも色々と聞いているのさ」

 その色々については、本当に色々……だろう。何せスパイ集団SNS【禁断の果実】に最後のトドメを刺しているのは、この秀頼なのだから。


「第四回のPVも見たが、君達【桃園】も実に良いギルドだね」

「PV……ですか?」

 ここで、星波家の父・大将が首を傾げる。どうやら大将は、イベントの様子がPVになっているのを聞かされていなかったらしい。

「……英雄さん、まさか」

「ナ、ナンノコトカナー……」

 どうやら、意図的に伏せていた様だ。という事は恐らく、姫乃も共謀しているのだろう。


 その後備え付けられたモニターで、過去イベントのPV上映となったのは言うまでもない。


……


 ~後方車両・一階~


「さぁ優ちゃん……どうぞ」

「むむむ……これっ! あ、やった! あと一枚!」

 このフロアに割り振られた子供五人は、カードゲームに興じていた。五人とは、隼・愛・優・拓真……そして拓真の姉の、鏡美である。

「これで優さんは上がりだね……はい、姉さん」

「……拓真、そんなに顔に出ないタイプだっけ……?」

 鏡美が引いたのは、ジョーカーだった。それを顔に出さない様にと努めて平静を装い、次は隼が引く番だ。

「ほいっと……ふっ」

 鏡美が引いたジョーカーは、即座に隼の手元に渡った。鏡美の表情が喜色を浮かべるので、何が起きたのかは一目瞭然だ。なのに隼は「ジョーカーは常に俺の手元に舞い込んで来るみたいだぜ……」みたいな顔をしている。ハーフボイルドさんかな?


 そんな楽しそうな子供達を、親達は微笑ましそうに眺めるのだが……一人、優の父である【新田にった しゅう】だけは真顔である。理由は簡単で、彼は拓真が優に相応しいかを見定めようとしているのだ。


 妻を亡くしてから、修は男手一つで優を育てて来た。男親では理解の及ばないところもあるだろうと苦悩しつつ、それでも愛情を注いで来たのだ。

 そんな愛娘に、恋人が出来たと言われれば……まずは中学生の優にはまだ早いという感覚が、先に立った。次いで相手はどんな男なのか、いくつなのか、優とはどうやって知り合ったのか、どこに住んでいてどこの学校なのだと矢継ぎ早に質問してしまったのだ。


 そして終いには、優に男女交際はまだ早い。修から相手に別れて貰う様に言う……と口を滑らせた。

 娘に初めて彼氏が出来た混乱で、ヒートアップしていたのだろう。父親としては当然、娘の事に関しては過敏になってしまったらしい。母親が不在であれば、尚更だ。

 しかし拓真に会う前から、彼を否定し交際に口を出そうとした修は行き過ぎているとも言える。そんな修に、優から放たれた一言がこちら。

「……そんな事を言うお父さん、嫌い」

 その一言で、修は撃沈した。


 その後、それで親子が不仲に……とはならず。優は父の発言の、どこが不満に思ったのかを伝えた。よくできた娘さんなので。そして、まずは拓真を知ってから判断して欲しいと伝え……修は渋々それを了承し、電話越しに拓真と会話する事になった。

『優さんとの交際を認めて頂けるまで……いえ、その後の事についてもご安心頂けるように、全力で頑張る覚悟です』

 拓真は突然の電話に驚きつつも、修にハッキリとそう告げてみせた。

 そんな拓真の言葉と娘の視線の圧力を受け……修は苦い思いを抑え込んで、健全な交際をするなら一先ずは別れろとは口を出さないと宣言した。端的に言うと、折れたのだった。

 そして「流石お父さん! 大好き!」という言葉を愛娘から向けられては、強情に接するのは難しかった。しかしあっさりと認める訳にはいかなかったので……苦悩の末に「正式に認めるのは、拓真の人となりを見てから」と条件付きで許す形となったのだった。こりゃあ、すぐに折れそうだ。


 その件は拓真から、彼の家族にも伝えられ……そこで初めて、拓真に恋人が出来たと知った名井家ファミリーはお祭り騒ぎになったのは、別の話だ。

 ちなみに拓真の父である【名井家ないけ 真司しんじ】と【名井家ないけ 悠里ゆうり】が、修と顔を合わせて言った台詞がこちら。

「新田さん、まぁうちの息子は気弱ではありますが……少なくとも、愚か者ではありませんので」

「優さんに相応しい男になると、努力するつもりだそうです。ですのでどうぞ、遠慮なく審査してやって下さい」

 そんな事を言われてしまい、更には何かあれば連絡をと連絡先まで交換する事となった。絆される日は、近いのかもしれない。


 尚、子供達の中で唯一AWOをプレイしていない拓真の姉・鏡美……彼女は今、混乱の坩堝にいた。


――何でこの旅行に、()()星波君が!? あと、最近女子達が騒いでいる寺野君もいたし!? 何事ッ!?


 英雄はさておき、仁が注目を集めている……その理由は簡単で、日頃から英雄が大体側にいる為である。「人気者の英雄と一緒に居るのは誰だ?」と、視線を向けられるのも当然だろう。

 そうして英雄と並んでみると、スポーツマンらしい精悍な顔立ちと体格が解る。つまり視線を向けられる機会が単純に増えてしまった為、注目を集めつつある。

 しかもその状態で、()()文化祭の騒動があった訳だ。そう、あの糖分供給過多となった、姫乃との文化祭デート。その情報は、学校中に知れ渡っているのである。


……


 ~後方車両・二階~


「うーん……快適過ぎて、感覚が麻痺しそう……」

 マールこと、笛宮美和。彼女は旅行などもそれなりに行く方で、バスに乗る機会も多いらしい。しかし過去に乗った旅行バスと比較しても、初音家のバスは桁違いらしい。

「あはは……でもちょっと解ります。昔、家族でバスツアーに連れて行って貰ったんですけど……もっとこう、小ぢんまりしてたというか」

「やっぱそうよね」

 ヴィヴィアンこと奥代里子も、初音家のバスのグレードに勝る物は無いのでは? と考えている様だ。事実、これだけの高級バスは国内外問わずにそう多く無いだろう。


 そんな会話をしていると、前の席に座る女性が振り返る。

「あの……お二人も、飴いります……?」

 梶代紀子……今日は髪型もしっかりセットし、コンタクトでおめかしモードの彼女だ。そうすると、現実の紀子とゲーム内のカノンが同一人物だとよく分かる。

「ありがと、紀子ちゃん。おひとつ頂くわ」

「私も……紀子さん、ありがとうございます」

 二人とのやり取りに、紀子も嬉しそうにはにかむ。クリスマスパーティーに、新年の挨拶に……【桃園の誓い】に途中から加入した面々とも、仲良くなれたのが嬉しいのだろう。


 そんな紀子を横目で見て、笑顔を浮かべる勝守。恋人になったものの、紀子が照れ屋で臆病な性格な為、グイグイ行けない勝守さんである。


――まぁそれ目的で付き合ってる訳じゃないから、それは良いんだけどな。今回の旅行で、話をするタイミングがあれば良いなぁ。


 紀子がしたい事、したくない事を聞いておきたい。して欲しい事、して欲しくない事も押さえておきたい。恋人として彼女を大切にしたいから、しっかりとお互いの考えを話し合っていきたいのだ。


――少なくとも他のメンバーが一緒にいる、バスの中で話す事では無いな……!!


 間違いない。それをやったら、紀子はしばらく自分の殻に閉じこもるだろう。

 なので紀子にどう接していけばいいのか、それを明確にするチャンスを伺うのは……温泉施設に到着してからだろう。


 そんな時だった。舞子の携帯が震え始めたのだ。マナーモードにしているため、バイブレーションで着信を報せてくるのだが……その画面に表示されたのは父……【御手来みたらい 振弥しんや】という文字だ。

「ありゃ……お父さんからかぁ。はい、もしもし?」

『舞子、今どこだ?』

「バスの中」

 父親の言い方が気に障ったのか、舞子は素っ気ない様子で返事をする。そんな彼女に仁や姫乃、和美は「珍しい……」と感じてしまう。いつもの元気で明るくて礼儀正しい、コヨミのイメージが強いからだろう。


『誰と居るんだ?』

「友達と、そのご両親だけど」

『男は?』

「居るけど、ちゃんとお相手いる人だね。お父さん、用は何」

『……別に』

「あ、そう。じゃあね」

『ま、待ちなさ……』

「……用件は?」

『……』

「切るよ? もしくは私がキレるよ?」


 あちらはスピーカーモードにしているのか、クスクスと笑っていたらしい母親【御手来みたらい しずか】がここで口を挟む。

『お父さん、ちゃんと言わないと伝わらないわよー』

 その言葉にぐぬぬと唸っているが、舞子としてはさっさと用件を言って欲しい。隣の席の和美も、前の席の仁と姫乃も大丈夫? という視線を向けて来ているのだ。

「はい、これで答えが無ければ切るからね。お父さん、ご用件は?」

『……お、お前が大丈夫か……心配している』

「ご心配、どーも。大丈夫だよ、皆良い人だし」

『そ、そうか……それは良かったのだが……』


 そこで、和美が舞子に声を掛けた。

「ね、舞子ちゃん。もし何なら、ビデオ通話に切り替えてみたら?」

「確かに……それなら、ご両親も安心かもですね!」

 和美の提案に、姫乃も賛成の様だ。舞子が仁に視線を向ければ、仁も笑みを浮かべて頷いてみせる。

「私も良い案だと思うわよ。むしろ今は絶好のタイミングね」

「はい。今の状態は女性比率高いので、ご両親も安心かと?」

「それに男は、俺と仁君、んで仁君のお父さんだし」

「皆、相手が……居る、人です……よね?」

 紀子さんや、最後は自信もって言い切ってええねんで。

「もし大人同士の話が必要なら、私達が応対しようか」

「まぁ、ウチもご招待に預かっている立場だけどね」

 寺野夫妻もそういうものだから、舞子は苦笑して両親に声を掛ける。


「そんなに心配なら、ビデオ通話にしようか? 一緒のバスに乗ってる人達も、OKしてくれたし」

『……あ、あぁ』

 そうして開始された、ビデオ通話。舞子と一緒に居る面々が挨拶をすると、画面の向こうの御手来夫妻は安堵の表情を浮かべていた。

『……いい友達に、恵まれたんだな』

『ほら、だから私も言ったじゃないのお父さんってば』

 そんな両親のやり取りに、舞子もようやく心からの笑顔を向けた。

「全くだよ、心配し過ぎなんだから……でも、ありがとうね。こっちは大丈夫だよ」

 ようやく納得した父親と、ちゃんと言葉のキャッチボールをして通話は終わる。

「はぁ……ごめんなさい、皆ありがとうございました!」


 目的地に到着するまで、もう少し。

次回投稿予定日:2023/6/10(本編)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。リクエストした【七色の橋】【桃園の誓い】メンバーでのオフ会の話が採用されるとは…。    しかも、イメージしていた二つのクランだけのオフ会では無く、それぞれの家族まで一緒の温泉旅…
[良い点] 七色&桃園の家族旅行 楽しい思い出になるといいですね(⌒▽⌒) [一言] ここでも ラブ臭が 暗黒化してるのもいるし
[良い点] 親御さん達の平均スペックの高さを、若手成人組のリアクションで中和することにするぜ!! ゲイルせんせーから砂糖の波動を感じたため、今後の過糖警報に備えて厚手の塩釜を用意するんだ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ