16-07 幕間・とある神社にて2
ほらよギルバート!! お年玉だぞ!!
( ‘д‘⊂彡 ε=【微糖】))Д´)
一年の計は元旦にあり。私はそう思い、家族と共に初詣へと繰り出した。
近所の神社はそれなりに人が集まり、混み合っている。そんな中を振袖で歩かなければならないので、一苦労だが……ここでしっかり頑張れば、良い一年を過ごせるのではないかと思うのだ。
長い時間を掛けて、ようやく辿り着いた御神前。賽銭箱にお賽銭を入れ、二礼二拍手してお祈りする。
どうか、今年も私と周りの人達が健やかに過ごせますように……。
自分と周りの人達の無病息災を祈った後は、のんびりと帰るだけだ。
「あ、こと姉! あっちに友達が居たから、新年の挨拶してくるわ!」
「解ったわ、先に行ってるからね麻太」
弟の麻太が友人達の所へと歩いていくのを見送って、私は両親と共に歩いていく。振袖は可愛いし、着飾るのは嫌いじゃない……が、やはり流石に歩きにくい。早々に帰宅して、着替えたいところだ。
そんな事を考えて神社の入口に差し掛かった所で、私はクラスメイトを見付けた。彼が新年早々、一人で初詣に来ているのは意外だった。面倒臭いとか言って、空いた頃に来るのではないかと思っていたのだ。
「お父さん、お母さん。私もクラスメイトを見付けたから、ちょっと挨拶してくるね」
私がそう言うと、両親は笑顔で「じゃあ先に帰っているね」と言って歩いていく。
さて、それじゃあ行きますか。
「鳴洲!」
私が声を掛けると、彼は小さな少年と手を繋いでいた。あれ、兄弟が居るんだっけ? それにその少年は、ちょっと半ベソかいているし……これは、まさか?
「お、委員長。あけましておめでとう」
「うん、あけましておめでとうございます。それで、その子は?」
私が気になっていた事を問い掛けると、鳴洲は笑って何でもない事の様に……
「あぁ、迷子。親とはぐれたっていうから、一緒に探してあげようと思って」
……そんな事を言った。
中学時代の彼は何かといえばゲームばっかりで、勉強は不真面目で、遅刻の常習犯で、身嗜みも適当な男子だった。でも、困っている人に手を差し伸べられる……そういう人だと、私は知っていた。
ただのクラスメイトが怪我をした時は、保健室に行くのを手伝ってくれたりした。ただのクラスメイトが財布を落とした時に、一緒になって探してくれた事もあったな……まぁ、それどっちも私なんですが。
そんな事があってから……私、隈切 小斗流は、彼の事が気になっていたのだ。
「そっか。一人だと大変じゃない? 私も手伝うわ」
「お、マジか。委員長が居ると、心強いな」
鳴洲の同意を得たので、私は姿勢を屈めて少年に微笑みかける。
「私もお父さんお母さんを探すの、お手伝いするけど良いかな?」
そう声を掛けると、少年は……ムスッとした表情をした。え、何故に?
「誤解のない様にお願いしたいんですが、迷子になったのは父さん母さんの方です。僕が迷子になったんじゃありませんから」
こまっしゃくれてるなぁ!! 見たところ小学校低学年なのに!!
私が視線を鳴洲に向けると、彼は肩を竦めて苦笑していた。
「だそうだ。まぁ、こんだけ人が多いんだから仕方ないよな」
「……そうね、大人でもはぐれたりしそうね」
私達の、少年の言葉に対する肯定的なニュアンス。それを聞いて納得したのか、少年はやれやれと溜め息を吐く。
「全く、困った父と母です。お手数をおかけします」
うーん、これはこっちも困っちゃうかなぁ。でもまぁ、しっかり者みたいだし……私達には一応、礼儀正しいと受け止めれば良いのかな? 小生意気そうだけど。
************************************************************
はぐれた親御さんは程なく見つかり、少年は両親にブツブツ文句を言っていた。しかし別れ際、彼は私達に感謝の言葉を告げて来る。
「お兄さん、お姉さん、ありがとうございました。お二人のお陰で、とても助かりました」
こまっしゃくれてるなぁ……(笑)
少年と分かれて、私達はホッと一息だ。
「手伝ってくれてありがとな、委員長。お陰で助かった」
「良いって、あれくらい。それに鳴洲だって、お疲れ様。新年早々、良い事してるじゃない」
不真面目な生活態度であまり知られていないが、彼は基本的に善意の人だ。なので、そういった面を他の人が知らないのは勿体ないと思う。
「委員長こそ、だろ。手伝いを申し出てくれて、ありがたかったしさ。そうだ、折角だしお汁粉でも飲まね? 俺出すよ」
本当に……こういう所があるのだから。これだから鳴洲は……もう。
しかし何か、こう……妙に女性の扱いに、こなれている感は何なのか? とはいっても彼が日頃から「モテたい! 彼女欲しい! 出会いが無い!」とか言っているのを知っているので、お相手がいるという事では無いと思うけど。
「良いの?」
「おう、俺からのお年玉兼お礼で」
「じゃあ、御馳走になろうかな」
……
鳴洲の奢りでお汁粉を飲みながら、私達は何気ない会話を楽しむ。鳴洲は毎年、倉守と一緒に初詣に来ていたらしいのだが……今年は事情が変わったらしい。
「倉守が居ないと思ったら、まさかのデートとは」
「そそ。麻衣ちゃんは良い子だし、明人にお似合いだからな。邪魔しない様に、今年はおひとり様ってワケ」
クラスメイトに恋人が出来たと聞き、私としてはもっと詳しく話を聞きたい所だ。
それにしても、倉守にねぇ……。
「ん? でも、どこで知り合ったんだろ」
他校の生徒だと言うし、尚更そこが気になってしまう。すると鳴洲は何でもない様子で、しれっとその出会いの場について明かした。
「そりゃゲームだよ」
「……それ、大丈夫なの?」
ゲームとは、彼等がよく話題にしているVRMMOの事だろう。そう言ったゲームで知り合った結果、トラブルに発展するという話はよく聞く。
しかし鳴洲は、どこか確信めいた様子で笑う。
「悪い事ばかりクローズアップされっけど、良い結果になる事もあるぞ? 明人もそうだけど、仁や英雄を見て尚更そう思うわ」
「ふぅん…………ん? ちょい待ち」
今、仁と英雄と言わなかったかしら? それはやはり、あの寺野君と星波君?
「あ、そっか……あいつら、VRMMOの事はあまり学校では知られない様にしてたな。これ、オフレコで頼むわ」
あの真面目な二人が、VRMMOをしていたとは……それは本気で意外だった。
……
ゲームでたまたま会った寺野君と、星波君と彼の妹さん……そしてそのクラスメイトに、寺野君のイトコさんを始めとした面々。そんな彼等とこれまたたまたま会った鳴洲と倉守が親しくなった……と。
「二学期から仲良さげだったのは、それが原因だったのね」
「あー、まあうん。そんな感じで」
何かまだ隠しているな、これは……まぁ部外者がこれ以上、深く追求するのは流石に筋違いだろうけどさ。
「まぁ、二学期からは鳴洲も倉守も頑張ってるみたいだし……確かに、良い結果になったのかもね」
「お、おう! 悪い事ばかりじゃないって事な」
「ん、それは理解したわ」
それにしても……ゲーム、か。
「良いわね、楽しそうで」
四人で楽しそうに話している様子を思い出して、少しだけ……良いなぁって、思ってしまう。
「あぁ、楽しいぜ。委員長も興味があるなら、やる?」
「……一緒に?」
私がそう言うと、彼は目を丸くして……そして笑う。
「そりゃな、誘う以上はサポートさせて頂きますとも」
「ふふ、そっか。まぁ考えとく」
VRゲームをするのには、VRドライバーというハードが必要だ。あれは一番安価な物でも、高校生には高額なのだ。
「さて、そろそろ帰るか……ギルドのメンバーにも、新年の挨拶したいし」
ギルド……あぁ、ゲームの話か。全く、これだから鳴洲は。
「ま、そうね。私もさっさと着替えたいし、帰りましょうか」
「あぁ。そしたら委員長、送ってくよ。振袖だと、歩きにくそうにしてたしさ。転んだりして、折角の振袖汚したくないだろ? 折角めちゃくちゃ似合ってるんだから、勿体ないし」
……これだから鳴洲は!! 本当に、もう!!
私はひとまず「ありがと」と返して、鳴洲に家まで送って貰う。帰って着替えたら、すぐにVRドライバーの値段について調べたのは……別に、他意は無い。
神は言っている……そろそろ人志にも春が来ても良いだろうと……。
次回投稿予定日:2023/5/30(本編)
おまけ
「姉ちゃん、何調べてんの?」
「……ちょっと、ね」
「VRドライバー? 姉ちゃんがそういうの興味示すの意外」
「あら、小斗流にしては珍しいわね」
「小斗流も日頃から頑張ってるし、お年玉代わりに買ってあげようか!」
「!?」