16-04 幕間・とある神社にて
元旦の朝、一人の少女が寒さを堪えながら歩いていた。あと数分も歩けば、クラスメイトと合流できるのだ。
元旦は神社の前で待ち合わせをして、一緒に初詣をするのが毎年恒例の事。だから、今年も一緒に行こうねと事前約束をしていた。
――今頃、頭領様と姫様も初詣かな。
その呼称は、彼女が所属するギルドでは統一された呼称。AWOにおいて最も有名な夫婦と称して差し支えない、【七色の橋】が誇る最高の夫婦である。
その片割れである少年・ジン。彼には熱心な……いや、熱心過ぎるファンが付いている。そのファンの一人が立ち上げ、気が付けばかなりの人数になったギルド【忍者ふぁんくらぶ】。
彼女……【羽田 名都代】も、その一員だ。彼女のプレイヤーネームは、ハヅキ。仲間達を補佐する、裏方である。
中学三年生のハヅキは、親友と違い戦闘は得意ではない。かわりに物作りが大好きで、色々とアイディアを元にして開発するのが趣味だったりする。
仲間達の役に立ち、ひいては頭領様の役に立ちたい……そんな思いから、彼女は日々アイテム製作に心血を注いでいるのだ。
その結果生まれたのが、ココロの≪仕込み杖≫やイズナの≪シュリケンシューター≫である。
対する親友・イナズマは身体を動かすのが好きで、ハヅキとは正反対だ。しかしながら何故か気が合い、中学入学で出会ってから今まで仲良くしている。
彼女はその明るさでハヅキを楽しませたり、笑わせたりしてくれる。その空気はとても居心地が良く、日々がとても楽しく賑やかなのだ。
とはいえイナズマも、その明るさの裏に影を背負っている。彼女は小学四年の時に、父親を亡くしているという。
今年の春に母親が再婚したとの事で、名字が変わりクラス内でも微妙な空気になったのを、ハヅキ……名都代は今でも覚えている。
それでも彼女の明るさ故か、今ではすっかり雰囲気は元通りになった。新しい名字も、クラスメイト達に馴染んでいるのだ。
そんな彼女には、親の再婚によって出来た兄がいる。神社の入口で、名都代を待つ少女の横にはその新しい兄が立っている。
――相変わらず心愛ちゃんを大事にしてるんだな、お兄さん。
フッと口元を緩ませて、名都代は二人の方へと歩き出す。
心愛は名都代に気付くと、笑顔で手を振った。この可愛らしい女の子が、ゲームではバカでかいハンマーを振り回している。クラスメイト達がそれを目にしたら、相当驚くだろう……名都代はそんな事を内心で考えつつ、二人と合流して新年の挨拶を始める。
「お待たせしました。二人共、あけましておめでとうございます」
「なっちゃん! あけましておめでとう!」
「羽田さん、あけましておめでとう」
見た目は不良っぽい少年だが、名都代は彼が気配り上手で優しい人だと知っている。だから彼女達のクラスメイト達が彼を怖いと思うのに、少々不満を覚えていたりする。
「今年もよろしくねー! 今日は何時くらいにインする?」
「八時くらいかな、早くても。正月だし、家族との時間もあるからねー」
「正月早々、ゲームなんだな二人とも。まぁ、楽しんでるようだから何も言わないけど」
心愛の兄は二人の様子に笑みを浮かべ、そして境内の方へと視線を向ける。それは「お参りに行こうか」という、彼の無言のメッセージだ。二人はその意図を汲み、並んで歩き出す。
その後は二人の後ろに付き、二人を見守る様にしている。何かあればすぐ手を差し伸べられるようにという配慮だろう。
彼らしいと名都代は思いつつ、彼にも話を振ってみる。折角三人なのだから、彼をのけ者にするのは宜しくないだろう……と思ったからだ。
同時に高校一年生で一つ年上の彼に対して、ちょっとした憧れの様な感情も無きにしもあらず。
「お兄さんは、やらないんですか? AWO」
「……うーん、考えとく。VRは良くわからないし、それに金かかるしね」
「あー、うちにも一台しかないもんねー」
三人は和やかに会話しながら、境内に向かう参拝客に合せて歩いていくのだった。




