短編 覚悟を決めました
今回はちょっと際どい? と思われるかもしれません。
安心して下さい、健全ですよ! 多分。
それでは作者より、極糖警報の発令をお報せ致します。
むしろその上位の警報かもしれないんですけど、良いネーミングが浮かばんのです。
それでは短編3の締めを飾る二人のお話、どうぞお楽しみ下さい。
ジンとヒメノがログインすると、仲間達が集合している大広間に来客があった。それは【桃園の誓い】の面々……そして、商人ロールプレイヤーであるクベラだ。
その理由は、当然……。
「乱立したなぁ、カップル」
「はい、とてもめでたいですね」
嬉しそうにしみじみと笑うケインに、ガス抜きが出来たからか同じ様な顔で笑うヒイロ。そう、カップル成立のご報告である。
「まぁ、その……ちゃんとカノンさんを、大切にしていきますから。今後共、どうぞ宜しくお願いします……」
「お、お願い……しま、す……」
結婚の報告かな? と突っ込みたいくらい、かしこまって挨拶をするカノンとクベラ。しかしその距離は近付いており、尚且つ二人は幸せそうだ。見ている側としても、良かったなぁと素直に思える。
「まぁ、俺等も……な。姉妹ギルドだし、ちょくちょく顔出すと思うから……よろしくな」
「勿論、自分達の役割についてはしっかりと全うして参りますので、ご安心頂ければと」
シオンとダイスは、クベラ×カノン程は緊張していない。が、照れていないとは言っていない。ダイスはぶっきらぼうな感じの報告に聞こえるが、表情は緩んでいる。シオンも普段のクールさを装っているものの、頬を赤らめているので照れているのは間違いないだろう。
「僕は今夜転生して、新しいアバターになりますが……その、改めて宜しくお願いします」
「えっと……皆みたいな、素敵なカップルを目指します♪」
マキナとネオンは、付き合いたての初々しさが何とも堪らない感じだ。マキナの方が照れが強く、ネオンはしっかりと決意表明しているのがまた、何とも。
ちなみに転生した後の事は、また改めて……らしい。主に、結婚システムのあたり。
「ちなみにライデンから、ルーさんと正式にお付き合いする事になったと報告がありました!」
「おぉー!」
「いえーい! ドンドンパフパフー!」
ジンがそう報告すると、集まった全員から歓声が沸き起こる。この場に居ないし、同盟相手ではないが……それでも、他者の幸せを喜べるのはこのメンバーらしいといったところだろう。
ライデンこと明人としても、アドバイスをくれた【七色の橋】には報告すべきだろうと思ったらしい。仁と英雄に、RAINで報告と感謝の言葉を送って来たのだ。勿論、アドバイスをくれた女性陣へのお礼についてもしっかりと書かれている。
「本当にめでたいよね」
「クリスマスパーティーをしたばかりですけど、お祝いしたいですね」
ヒイロに寄り添うレンは、どことなく上機嫌だ。その原因は、英雄がようやく彼女に甘えてくれた事もある。だが一番はやはり、大事そうに両手で持っている箱の中身だろう。
「俺とアイはこの後行くつもりだったんスけど……他の皆もッスか?」
「そのつもりだったんだけどなぁ」
「どうやら、今日の教会エリアは満員御礼らしいよ」
ハヤテの言葉に対して返事をしたのは、ゼクスとケインだ。顔に浮かべた苦笑いには、残念といった感情が滲んでいた。
一部の女性陣が、ソワソワしている理由……そして、男性陣が教会について気にしている理由。それは、結婚システムだ。
ヒイロとレン、ハヤテとアイネ、ヒビキとセンヤ……このメンバーに加え、ケインとイリス、ゼクスとチナリはゲーム内で結婚しようと考えていたのである。
クリスマス当日、いよいよ行こうか……という所で、教会に人が殺到しているのだという。不特定多数のプレイヤーが大量にいる中での結婚は、流石にどうかと思うらしい。
「各教会に、プレイヤーが長蛇の列を作って並んでいるらしいね。結婚式というよりも、役所に婚姻届を提出する待機列って感じかな」
バヴェルが苦笑しつつそう言うが、結婚しようとしていた面々は笑えない。
そしてその様子が、既にSNSや掲示板に流れているらしい。
「結婚は、指輪の交換だけで成立するんだろ? そんなに混雑するのかね……」
ゼクトがそう言うと、フレイヤがそれについて言及する。
「以前、ジン君とヒメノちゃんの挙式をやったんだけど……あれも話題になったらしくてね。並んでいる人達、ウェディングドレスやタキシードの人が多いみたいよ」
「自分達も……って事か。かー、若いねぇ」
つまり新郎新婦の装いで、カップル達が教会の前に列を作って並んでいる……それを想像すると、実にシュールな光景である。
「更にそこへ、【暗黒の使徒】が現れたらしくてな……」
「うん、カオスですね……」
「まぁ、今すぐにしなければならないって事は無いし……後日、落ち着いた頃合いに改めてでもいいのかな」
「それが良いでしょうね。時間に追われておざなりになるくらいなら、日を改めての方が断然良いですから」
ヒイロとレンがそう言うと、他のカップル達も同意の姿勢を見せた。
「それなら、挙式の準備も出来るもんね?」
「ははっ、それもあるな」
ジンがヒイロに向けてそう言うと、彼はカラッとした笑いで肯定する。その様子に、レンは穏やかな笑みを湛えて微笑んでいた。
……
後日改めて、教会に行こうと相談するカップル達。そんな面々を見つつ、ジンは口元を緩ませた。
「カップル成立に加えて、結婚確定かぁ………」
「ふふっ、クリスマスですものねー」
ジンとヒメノがそんな事を言うが、一部のメンバーからはジト目が向けられた。
「原因の二人が、何か言っているなぁ」
「知らぬは本人ばかりってか?」
そんな反応を見せられて、ジンとヒメノは「えっ?」と首を傾げる。
「ここ以外でもカップルが成立したり、結婚が成立したりしているのはさっきの話で解ったと思う。で、その兆しが見られたのはね……第四回イベントが終わってすぐなんだよ」
第四回イベント……そのキーワードを耳にしても、ジンとヒメノは解っていない。誰と誰の姿が、カップル達の心に刺激を与えたのか……を。
「アークを倒した時の映像、アレがトドメだな」
そこまで言われて、二人もようやく理解が及んだ。
ジンとヒメノのコンビネーション……それは夫婦という絆を結んだ二人だから出来た、非常に高度な連携であった。とはいっても、結婚しただけで出来る芸当ではない……それは、誰もが理解している。
それでもジンとヒメノの絆を目の当たりにしたプレイヤー達は、「あの二人みたいになりたい」と感じ行動を起こした。それが、このクリスマス当日にカップル成立・夫婦成立に繋がったのだ。
「ちなみに【暗黒の使徒】のメンバー数が増えたそうだよ……」
「いや、それは僕達のせいではないですよね!?」
……
結婚は日を改めて……尚、挙式もしようという方向性で話が固まった。そしてマキナが転生を実行した所で、今日はお開きである。
アカウント削除をした後、アバターを再作成するまでにログイン制限が掛かる。これは、ゲームシステムの仕様だ。
これはアバターを作り変えて悪さをするというプレイヤーが、別のゲームで一時話題になった事がある為だ。そういった悪用を防止するべく、AWOではアカウント削除後に一定時間のログイン制限をかけるのだ。
ちなみに重犯罪者は七日、軽犯罪者は四日と、ログイン制限はかなり長時間になる。しかし通常のプレイヤーの場合は、六時間で済むのだった。
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ログアウトすれば、あとは寝るだけ。しかし、それが今日の仁にとってはメインイベントかもしれない。
仁より先にログアウトした姫乃が、彼が横たわるVRドライバーの横に立っていた。
「おかえりなさい。お疲れ様でした、仁くん」
「ログアウトしたらヒメが出迎えてくれるの、何か不思議な気分だね……ただいま、ヒメもお疲れ様」
新婚さんかな? という感じのやり取りに、二人は笑顔を交換する。
そんな、くすぐったい空気なのだが……それも、長くは続かない。姫乃はベッドに腰掛けて、仁に向けて声を掛ける。
「それじゃあ、仁くん……」
ふにゃりと微笑む姫乃の頬は、ほんのりと赤く色付いている。
「……うん」
VRドライバーを離れて姫乃の隣に腰掛ければ、彼女は寄り添う様に仁へと近付く。その時に揺れた髪から、ふわりと立ち上る香りに仁は息を呑んだ。
自分も使っている、シャンプーの香り。同じ香りであるはずなのに、姫乃からは別の甘い香りがする。それはきっと、姫乃自身の匂いだろう。
――ヒメが選んだ寝間着が、普通のパジャマだったのは良かった……。
姫乃のパジャマは、オーソドックスなピンク色のパジャマだ。そして、仁は紺色の同じデザインの男性向けパジャマ。選ぶ時に、紫色を姫乃が真剣に探したのは言うに及ばないだろう。
あの時彼女が、ネグリジェを選択しないで良かった。姫乃が自宅でそれを着て寝る分には、良いのだ。問題は我が家でそれを着て、自分と同じベッドで寝る……という場合である。多分、本能覚醒しかねない。
「仁くん……ここに、VRギアを置いて充電させて貰いますね?」
「うん、解った」
姫乃はベッドの半分……窓側の部分に座り、掛け布団の中に太腿から下を滑り込ませる。そしてVRギアの電源ボタンを押して、その機能を停止させた。
「えっと……このへんに……」
自宅の配置と違うせいか、姫乃は目当ての物を見つけられない。仁はそっと姫乃の手に自分の手を重ね、彼女に声を掛ける。
「僕がやるよ……横になって、待っていてね」
姫乃の手からVRギアを受け取り、充電ケーブルを挿した。彼女の申告した場所にVRギアを置き、振り返る。
そこには何も見えなくなった事で、少しだけ不安げな顔を浮かべる姫乃がいた。
「充電しておいたよ、ヒメ。それじゃあ、横になろうか」
「……一緒に、居てくれますか?」
見えない事が不安なのではなく、仁が側で寝てくれるかが不安だったらしい。そんな姫乃に愛しさを覚えると同時に、自分が彼女を置いて別の部屋で寝ると思われたのかなと思ってしまう。
「別の部屋で寝ると思った?」
「いえ……でも”床に布団を敷くね”とか、言われちゃうのかなって」
「あ、その手があったか」
今気付いたと言わんばかりだが、実際にその選択肢は既に頭にあった。あって尚、選ばなかったのが実情だ。
「仁くん……」
名前を呼ぶ姫乃の声には、咎める様なニュアンスが含まれていた。しかしながら、それは仁としても本心ではない。だからまずは、姫乃の誤解を解くところからだ。
「冗談だよ、勿論……ここまで来て、そんな事は言わないよ」
仁は姫乃の隣に腰を下ろして、自分の足を布団に入れていく。そうして姫乃の肩に手を回して、彼女を自分の方へ抱き寄せる。
「VRで寝るのと、現実で寝るのは違うけど……大丈夫?」
「私だって……覚悟していなきゃ、こうしませんよ?」
仁に向き合うように身体の向きを変えた姫乃は、胸元に擦り寄った。姫乃の感触が仁に伝わるが、仁は動じずに彼女の背に手を回して撫でる。
姫乃が瞳を閉じて、唇をつんと突き出す。そのねだるような仕草に、仁の口元が緩みっぱなしになってしまう。しかしそうして、にやけてもいられない……可愛い恋人のおねだりに、応えなくてはならないだろう。
その時、脳内に今朝方の夢の光景がフラッシュバックする。恰好は違えど、今の姫乃は……夢の中のヒメノの様に、仁を求めていた。
そんな姫乃の表情を見てしまった仁は……もっと、彼女を愛でたいという欲求に従う。
姫乃の頬に手を添えた仁は、彼女の唇に吸い付く様に自分の唇を重ねる。それはいつもの触れ合うだけのキスではなく、彼女の唇を堪能する様なキスだ。
いつもよりも激しく、生々しい口付け。姫乃は仁の行動にビクリとするが、抵抗する様子は無い。姫乃が嫌がっていない……それを確認した仁は、彼女の唇をじっくりと堪能し続ける。
やがてされるがままだった姫乃も、順応したのか応える様に唇に吸い付いて来る。時折漏れる吐息の生暖かさが、これは現実なのだという実感を与える。
姫乃は仁の背中に手を回し、もっとと言わんばかりに力を籠める。そんな彼女のいじらしい意思表示に、仁も応えるように姫乃を抱き寄せる。
どれだけ、唇を合わせていただろうか。長いキスを終えて唇を離すと、姫乃はとろんとした目をしていた。その目は見えていないはずなのに、仁の瞳を捉えて離さない。
それは男の理性を崩すだけの破壊力を秘めた、魅惑的な姿だ。上気した頬も、荒い吐息も本能を煽り立てる。
しかし、仁はその破壊力に耐えてみせた。
「それじゃあ、ヒメ……はい、どうぞ」
姫乃の首後ろに腕を回して、寄り掛かって良い様に力を込める。姫乃の身体はそれに従う様に、体重を預けて来た。
彼女の頭を枕まで誘導する中で、仁もベッドに身体を沈めていく。そうして完成したのは、腕枕をする仁とされる姫乃である。
「仁くん、あの……良いんですか?」
「腕枕? うん、ヒメが良いならこのままで寝ようか」
そう言って仁は手を伸ばし、姫乃の髪をさらりと一撫でする。
「いえ……その、そうではなくて……いつもよりキスが、その、あれだったので……」
先程のいつもより熱烈なキスに、どうやら姫乃も困惑したらしい。
「このまま、食べられちゃうかと思いました……」
「いや、食べるって……」
「も、勿論、嫌だっていう意味じゃないですよ? その、仁くんは……仁くんにだけは、何でもしてあげたいっていうか……」
姫乃がそんな直接的な発言をするので、仁はそれを止める様に彼女の頭に手を伸ばす。
「はーい、そこまで。僕の理性を揺さぶるの禁止で~す」
そう思わせたのは申し訳ないと思いつつ、仁は姫乃の髪を少し強めに撫でた。
「わぅ……髪がぐしゃぐしゃになっちゃいます」
「おっと、ごめんね」
今度は髪を整える様に、優しく姫乃の髪を撫でる仁。姫乃は頬を膨らませていたが、その優しい手の感触に目を細めて気持ちよさそうな表情を浮かべる。
姫乃の表情の変化を見ながら、優しく頭を撫で続ける仁。愛しさが胸から込み上げるのを感じながら、穏やかな声で言葉を紡ぎ出す。
「今の僕達に許される愛情表現は、ここらが限界地点でしょ。まぁ、いつものキスよりあれだったのは申し訳ないけど」
「……めちゃくちゃ、求められてるのかなって……思わず、覚悟決めちゃいました。その、最後まではいかないとしても……触り合ったり、とか……?」
「……それは嬉しいし、やりたくないと言えば嘘になるけど……まだ僕達には早いからね。僕だって、許されるなら……ヒメに触れたいし、求めたいって思う。これでも一応、男だしさ」
本音を言えば、姫乃にもっと触れたい。彼女の全てを見せて欲しいし、自分の全てを受け入れて欲しい。しかしそれは、彼等の年齢では許されないのだ。
「でも、ヒメを大切にしたいから。愛しているからこそ、まだしない」
仁の宣言を受けて、姫乃はふにゃりとした笑みを浮かべる。くすぐったそうな、嬉しそうな、幸せそうなその笑顔。ずっと、彼女にそうして笑っていて欲しいから……仁の理性は、本能に屈しないのだ。
「求めるだけじゃないし、押し付けるだけじゃない。一緒に、育んでいくもの……ですね」
それは仁が、あの戦いで口にした言葉。偽りの愛に対して、自分の考える愛の定義を表した言葉だ。
「うん、僕はそう思う」
「仁くんの、その言葉……私、好きです」
同じ気持ちですからと付け加え、姫乃は笑顔を浮かべる。その笑顔は仁と二人で愛情を育てていく事を、全面的に受け入れている……それを感じさせる、幸せそうな笑顔だった。
「さて、それじゃあ寝ようか」
仁がそう促すが、姫乃は何やらソワソワしている。というより、何か気になっている様だ。
「……腕枕、したままで大丈夫ですか? 腕、痺れちゃうと思います」
どうやら、腕枕が気になったらしい。それも、仁に負担があるのではないか? と考えているあたり、やはり姫乃らしい。
気にしてくれた事を嬉しく思いつつ、仁はくすりと笑って頷く。
「まぁ、ヒメが喜ぶならそれくらい大丈夫だよ。それとも、他に何かリクエストがあるかな?」
「じゃあ……」
姫乃は仁との距離を詰め、彼の胸元に頬からぴったりとくっ付く。もちろん二人の体は真正面から密着し、隙間など無い状態だ。
「一番喜ぶのは、これ……です♪」
それは大胆なおねだりで、仁の理性を揺さぶるものだ。しかし、同時に喜びが仁の心を満たしていく。愛されているという実感が、全身で感じられるのだ。
彼女の匂いも、柔らかな感触も、じんわり伝わる熱も、喜びに満ちた声も……仁は全て受け止めて、抱き締める。己の中から湧き上がる欲求は、姫乃への愛で抑え込む。
「……仰せのままに、我が姫」
「ふふっ♪ もしかして……忍者さんですか?」
それはあの、始まりの町で……何の変哲もない、NPCショップで姫乃が仁に向けた言葉だ。それが仁の忍者ムーブの……そして、二人の関係の始まりの言葉。
「その通り。僕は……姫の為の、忍者だよ」
愛する姫乃のおねだりに、応える仁。これからもきっと、こうして互いに互いを想い合って歩んで行くのだろう……仁はそんな事を考えながら、姫乃にもう一度口付けた。
受け入れる覚悟と、大切にする覚悟のお話でした。
二人のお泊り、これ定期イベントになりそうですね←
次回からは新章突入です!
1年程、更新ペースを下げておりましたが、従来のペースで投稿していこうと思います!
12:00に短編の登場人物紹介をうpしますので、そちらも是非ご覧下さいませ!
次回投稿予定日:2023/5/5(本編第16章)
【おまけ】
「あと、仁くん……夢見がって言っていましたけど、どんな夢だったんですか?」
「くっ……それだけは、勘弁して下さい……」
「むぅ、気になります」
「いや、その……」
その質問に答えるだけの覚悟は、まだ決まっていなかった。




