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短編 君に贈るもの

         ___  l 糖_l

         |___| |_糖_|

         ( ・ω・ )|_糖_| お待たせ

        O┬−へノ  チリン

        ( .∩.|      チリン

         ι| |j::...

            ∪::::::




( 'ω'o【過糖警報】o

 僕の腕の中に、愛しくてたまらない恋人がいる。彼女はとても嬉しそうに、僕の胸元に頭を寄せていた。

 その艶のあるサラサラの銀髪を撫でれば、彼女は顔を上げて赤いクリクリとした瞳で僕を見つめる。

 とろける様な、いつものふにゃりとした笑顔……僕が、一番大好きな笑顔だ。

「ジンくん……」

 瞼を閉じて、彼女はその唇をつんと突き出す。可愛らしいおねだりに僕は口元が緩んでしまう。桜色のベビードールを纏った、中学生らしからぬ身体を抱き寄せて……………………いや、待って!?


 何故、僕もヒメもこんな状態に!? というかヒメの髪の色が銀色だし、目も赤い!! という事は、今の彼女はアバターのはず!!

 十八歳未満は、何をどうしてもインナーウェアが露わになるまでは脱げない。唯一の例外が、水着を着用する時だ。それは男女問わずなのだから、こんな大胆な下着姿にはなれない!!


 という事は、これはまさか……!!

「あ、気付いたね」

「気付いてしまったね~」

「残念でゴザルな」

「ここからが、良いところなのにね。コン」


 どっかで見た事ある奴らがいる!!

 やっぱり、夢だこれ!!


************************************************************


 罪悪感とか羞恥心に満たされた僕は、慌てて飛び起きる。

 クリスマス当日の朝に、なんて夢を見ているんだ僕は……いや、まぁ男子高校生としては普通なのかもしれないけれど……。


『ジンくん……』


 くっ……さっきの夢の、ヒメの姿が脳裏にこびりついて……これは多分、昨夜の()()が原因だろう。


 ベッドから起き上がった僕は、時間を確認する。午前八時十五分……ヒメとの約束は、九時である。慌てる必要もない時間だが、といってのんびり出来る時間ともいえない。

 僕はさっさと服を着替え、昨夜の内に支度をしていた荷物を手に部屋を出る。


 今日は最愛の恋人である、ヒメとのデートの日だ……そんな日に、あんな夢を見てしまうとは。


 昨夜の、AWOの中で催されたクリスマスパーティー。その際にヒメがしてくれた「あーん」の後……僕達は、言葉に出来ない気恥ずかしさともどかしさに襲われる事となった。

 ヒメはこれまで、僕の事を”さん”付けで呼び続けてくれていた。だから……僕を”くん”付けで呼ぶのを、とても恥ずかしく思ったらしい。

 僕は僕で、ヒメの愛らしさに完全にやられてしまった。あれはもう、反則だよ。しかもあの時、パーティー会場中の皆に注目されていたらしいし……その事に気付いた僕達は、ログアウトするまでろくに会話も出来なかった。


 勿論、嫌とは言っていない。むしろ嬉しいし……これからも、そう呼んで欲しいと思っている。

 そんな思いが、どうやら僕にあんな夢を見させたらしい。勘弁してくれ、今日くらいは。

 ちなみに僕も健全な男子高校生なので、そういう夢を見たのは……その、一度や二度では無いのはご理解頂けるだろう。や、僕は誰に理解を求めているんだ。


 洗面所で歯磨きをして、顔を洗い髪を整える。うーん、髪が伸びたな。

 以前は常に、短く切り揃えていた髪だけど……これだけ伸びても邪魔だと思わないのは、やはりAWOの髪型が原因かな?


 洗面所を出た所で、どうした事か……リビングに居るはずの父さんと母さんが、どこかに出掛けるようだ。

「父さん、母さん? 今日は出掛けるの?」

 僕が声を掛けると、二人はやたらと笑顔を浮かべている。

「あぁ、ちょっと買い出しにね」

「今日はクリスマスでしょう。今夜はご馳走よー」

 何だろう? いつもはここまで、気合いを入れていないはずだ。


 まぁ去年は、僕が事故の事もあり塞ぎ込んでいたし……それまでは陸上競技選手として、食事にも結構気を使っていた。今思えば、パーティー料理なんかに大喜びしたのは結構昔の事だった気がする。

 だからだろうか? 今年の母さんは、何やらウッキウキだ。それは表情を見れば、すぐに解る。


 まぁ美味しい物を作ってくれるというのは、心底ありがたい。母さんの料理は、やはり僕にとってホッとする家庭の味だ。であれば、デートの後にも楽しみが待っている訳で。

「そっか、楽しみにしてるね」

 僕がそう言うと、母さんは笑みを深めた。それも、普段とは違う……何か、意味ありげな笑みに見える。

「えぇ、私達も楽しみにしてるのよ♪」

 え、自分で作る料理を……?


************************************************************


 支度を終えて家を出れば、外は晴れていた。昨夜は雪が降ったけれど、幸いな事に積もらなかった様だ。

 僕は足がこれだから、積もっていなくて本当に良かった。雪が積もっていれば歩き難くなり、折角のデートなのにヒメにも気を使わせてしまうだろうしね。

 僕は通い慣れた、星波家への道を歩いていく。デートの時は僕が迎えに行き、僕が送っていく……それが、僕達のデートスタイルである。


 ヒメは、今日はどんな服で来てくれるのだろう。制服姿も可愛いけれど、私服の時だってとても可愛い。デートの時の、密かな楽しみだったりするのだ。

 いや、浮かぶな夢の光景。あれは出掛ける時にしていい服では無いし、そもそもヒメはまだ中二だし!! あんな大人な下着なんて、まだ早…………くも、無い……か?

 ヒメは中学生にしては、身長も高めである。そして、言うまでもないあのボディライン……高校生、ヘタしたら大学生と言われても信じられるレベルだ。


 あー、あの夢の原因はもう一つあるな。AWOでの、第四回イベントの初日の夜だ。僕の思考回路がショートした、あの個室での仮眠……ヒメは≪戦衣・桜花爛漫≫を脱ぎ、アンダーウェアで僕と一緒のベッドに入った。

 千夜センヤさんがデザインした最新装備は、露出防止のアンダーウェアがセットになっているが……そのデザインは、ほぼほぼ下着と変わらない物なのだ。

 僕の中の内なる願望が、夢として顕現するには十分過ぎる出来事だった。それは、間違い無い。


 落ち着け、僕。これからヒメに会うんだから、煩悩退散。

 必死に頭から夢の原因(推定)である、あれやこれを追い出す。もうすぐ、ヒメが待つ星波家だ。


 ……


 星波家に着いたのは、九時になる二分前だった。ちょうど、約束の時間に到着した感じだ。インターホンを押せば、『はーい、待ってねー』と聖さんの声が聞こえた。

 ほんわかとした聖さんの声を聞くと、どことなくホッとする気がする。それに聖さんは相変わらず、下校時にお邪魔する事の多い僕や恋さんを温かく迎え入れてくれる。とても優しい母親で、ヒメは聖さんによく似ていると思う。


 そんな事を考えながら少し待てば、玄関の扉が開く。真っ先に出て来たのは、僕の最愛の人だった。

「おはようございます、仁さ……仁、くん……」

 いつもの元気な声ではないものの……僕の名前を呼ぶ時に、はにかみながら"くん"付けしてくれる可愛い彼女。

「おはよう、ヒメ」

 ヒメの姿を見た瞬間、夢の光景もあの夜の姿も頭から掻き消えた。なにせ目の前に居るヒメが可愛くて、愛しくて仕方がないのだ。


 今日のヒメは、普段よりも大人びた印象だ。通学時に着るスクールコートではなく、グレーのコートを羽織っている。その中に着ているピンク色のニットセーターと、白いスカートがとても良く似合っていた。

 着ている物はシンプルなのに目を引くのは、ヒメという少女がそれを身に着けているからだろう。

「ヒメ、今日も凄く可愛い。良く似合ってるよ」

 僕がそう言うと、ヒメはくすぐったそうに微笑んだ。元々火照っていた彼女の頬が、更に赤みを増しているのがよく解る。

「お母さんに、色々と相談に乗って貰いました……仁さんにそう言って貰えて、嬉しいです……♪」

 あ、さん付けに戻った。しかしそれを指摘したら、きっと後ろから出て来た聖さん……そして、大将さんに何事かと思われそうだ。今指摘するのはやめよう、そうしよう。


「やぁ、仁君。おはよう」

「おはよう仁君、今日もお迎えありがとうね」

 にこやかに声を掛けてくれるお二人に、僕は背筋を伸ばして頭を下げる。

「おはようございます」

 デートする時は、休みの日だ。だから大将さんもお仕事はお休みで、こうしていつも見送りをしてくれる。

「姫乃の事を、宜しく頼むよ」

「はい、遅くならない内に送り届けます」

 僕がそう言うと、お二人は「おや?」といった顔をする。そしてヒメに視線を向けると、ヒメはあらぬ方向に視線を向けていた。

 次いで星波夫婦は、ヒメに何やら苦笑気味だ。例えるなら……「困った子だなぁ」といった様子である。気のせいかもしれないけど。


 どうかしたのかなと思い、僕はヒメに声を掛けようとして……その前に、ヒメが僕に声を掛けた。

「そ、それじゃあ行きましょうか仁さん! ……じゃなくて、仁……くん……」

 あ、訂正した。やっぱり、意識しないと呼び慣れた呼称の方が先に出て来るのだろう。

 僕も"姫乃さん"から"ヒメ"に、呼び方を変えた時に……たまに"姫乃さん"と呼んでしまい、ヒメに不服そうな顔をされた覚えがある。付き合い始めた頃の事だし、何だか懐かしく感じられるなぁ。


「お父さん、お母さん、行ってきます!」

「あ、ヒメ……その、済みません! 行ってきます!」

 僕の腕をとって歩き出したヒメに、僕は合わせて歩き出すしかない。勿論、ヒメは僕の足の事をよく知っている。だから歩幅は決して広くなく、僕が付いて行ける速度だ。単に、腕を引かれているだけである。まるでヒメのご両親から、引き離そうと言わんばかりに。

 ともあれ慌てて僕がお二人に声を掛ければ、二人は笑顔で手を振って送り出してくれた。


************************************************************


 星波家からある程度離れると、ヒメは普通に歩き始めた。あのままでも歩けない訳ではないが、この方が落ち着いて歩けるので助かるのは間違いない。

「仁くんは……その……この呼び方でも、大丈夫ですか?」

 昨夜、初めて呼ばれてから今まで、ヒメは僕を"くん"付けで呼んでいた。だから割と今更なのだけど、僕の心境も慮ってくれる。愛されているんだなという実感が、そんな些細な事でも感じられる。

「うん。むしろ、嬉しいまである」

 僕がハッキリとそう返せば、ヒメはふにゃりと顔を綻ばせた。そう、その顔……ヒメが幸せそうなその笑顔が、僕は一番好きなのだ。

「えへへ……良かったです……♪」

 ヒメが嬉しそうな声で、僕の腕と絡めた手に力を込める。もっと幸せそうな笑顔を見せて欲しいと思い、彼女の方を見たその瞬間……心臓が止まるのではないかと思うくらいに、僕の胸が高鳴った。ヒメの笑顔は、更に破壊力を増していたのだ。


 赤みを帯びた頬に、花開く様な笑顔を浮かべたヒメ。その満面の笑顔は、まるで春を先取りした満開の桜の様だ。クリスマスなんだけどな、今日。

 その幸せそうな甘い甘い笑顔を前にしては、僕はもう目が離せなくなってしまう。改めて、自分の恋人の愛らしさが骨身に染みる。


 心臓がバクバクと高鳴るのを自覚し、必死にそれを落ち着かせようとしていたら……僕の耳に、不機嫌そうな声が届いた。

「ちょっと、どこ見てんの!!」

「デート中に、他の女の子見ないでよ!!」

「デレデレ鼻の下を伸ばして、最低!!」

 あちらこちらから、そんな声が聞こえて来る。どうやらヒメの笑顔を見たカップルの片割れが、魅了されてパートナーの不興を買ったらしい。

 えっ、まさかこの笑顔だけで、道行く男性を虜にしたの……!? ヒメの笑顔、マジでヤバくない!?


 これは止めないと……メリークリスマスが、メニークルシミマスに変わってしまう。しかし、どうやって止めれば良い?

 ヒメを悲しませる様な方向性は、却下だ。僕の良心が、確実に悲鳴を上げる。

「ヒメ……?」

「はい、仁くん♪」

 ハートマークやら音符マークやらが、弾けるような笑顔だよ……これはハートを鷲掴みにされても、無理はない。ハートキャッチされちゃうよ、そりゃあ。

「……幸せそうに笑ってくれるのは嬉しいけど……ちょっと、抑えられるかなーって」

「ふぇ?」

 当然のごとく、彼女は自分の笑顔の破壊力に気付いていないらしい。

「その笑顔は、二人きりの時にして欲しいな」

 僕がそう言うと、ヒメは「えっと、どういう意味ですか……?」と首を傾げる。しかし僕のお願いだからなのか、破壊力満点の魅惑の笑みを抑えてくれた。


 申し訳ないなと思うけれど、あのままだとメニークルシミマスだったし……それにあんな表情を他の男に見られるのは、僕個人としては嫌な訳で。

 というかさっき、僕って何を口走った? 二人きりの時にあの笑顔やられたら、理性が崩壊したりしないかな……。


 ……


 ヒメと連れ立って歩いていると、新しくオープンしたらしいアクセサリーショップに人が集まっていた。女子中学生から、女子高校生の割合が多いかな? でも、カップルもちらほら居るね。

「ヒメ、見てみる?」

「私は大丈夫ですけど……仁くん、アクセサリーとかあんまり興味ないかと思っていました」

 まぁ、陸上時代はそうだったかな。でも今は、それなりに関心がある。

「今日のデートで、クリスマスプレゼントを一緒に選びたかったからさ。ここなら、良いのがあるかもしれないでしょ?」

「……っ!! はいっ♪」


 二人でショップの中に入れば、やはり店内は結構な人で溢れていた。しかし身動きが取れない程ではない様なので、足の悪い僕でも問題無く商品を見る事が出来そうだ。

「ペンダントとか、ブレスレットとか色々あるね……」

「はい♪ あ、あれは男性でも付けられそうですね!」

 ヒメは自分のより、メンズ向けに意識を注いでいる様だ。そういう僕も、メンズ向けではなくレディース向けにばかり目を向けているのでお互い様かな。

「あ……こっちのコーナーは……」

「……指輪、ですね」

 指輪……それは恋人達にとって、特別な意味を持つアクセサリーだ。陳列棚には単品の指輪もあれば、ペアの指輪もある。


「あ、仁くん! 誕生石の指輪です!」

「本当だ……」

 流石に誕生花を象った物は無かったけれど、誕生石が嵌め込まれた指輪がそこにあった。流石に、本物の宝石では無いだろう。恐らくはイミテーションなのだが、それでも何だか視線を奪われてしまう。

「値段は……まぁ、そこそこだね」

「はい、お小遣いで買えちゃいますね~」

 僕達は視線を見合わせて、誕生石の指輪に手を伸ばした。


 ヒメの指に合うであろうサイズで、ダイヤモンドのイミテーションが嵌め込まれた指輪があった。指輪そのものに、銀色とピンク色で着色された物だ。

「ヒメ、手を出して」

「……はい」

 僕は差し出された彼女の左手の、薬指に指輪を嵌める。よし、サイズぴったりだ。

「ヒメが良いなら、これをクリスマスプレゼントにしようと思うんだけど……どうかな?」

 僕は視線を指輪から、ヒメの顔に向けてみると……そこには、真っ赤に染まった彼女の顔があった。

「……仁くん……あの……」

 どもりながら、落ち着きなく視線をあちらこちらに向けるヒメ。どうしたのか、と思っていたら……。


 ざわざわ……ざわざわ……。


「で、出来れば……二人きりの時に……」

 あぁぁ、こっぱずかしい!! 最近、こんなんばっかじゃないか僕!?

 よくよく考えてみれば……ここ、公衆の面前でした!! マジでごめんなさい!!


 ちなみにその後で、お返しとばかりにヒメが選んだ指輪を嵌められた。勿論アメジストのイミテーションの指輪を、左手の薬指に。

 店内に居る店員からは、生暖かい視線を向けられた。ちなみに女性客からは熱の込められた視線、男性客からは冷たい視線であった事は……まぁ、言うまでもないよね?

作者の脳がバグって短編が短編の文章量じゃなくなりました。

ですが僕はあくまで短編と言い張りたいと思います。


つまり、続きます。


次回投稿予定日:2023/5/3(短編)





おまけ


「あのカップル、何処かで見た事がある様な……」

「芸能人? では、無いと思うけど……」

「でもなんか、コマーシャルとか……」

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― 新着の感想 ―
[一言] うん。ゲームでも現実でもらぶらぶなジンとヒメノ。 二人のらぶらぶっぷりに周りの人達は、まぁまぁ( ´艸`)という女性達と、なにソレ羨まし…(▼皿▼)との一部の男性達に別れているでしょう。
[良い点] 男性客はそこで冷たい視線を送っちゃうからダメなんじゃないかな?w(禁止カード)
[良い点] 安定の極甘カップル 今までのが 糖度100としたら 忍♡姫は 糖度∞ [気になる点] 忍母 何を期待してるのやら…… [一言] 忍者も男 だということか……… ………(¦3[…
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