表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第三章 第一回イベントに参加しました
38/573

03-10 幕間・東と西では

『プレイヤーの皆様にご報告します! 北門付近で、メッセージ機能を妨害するモンスターを討伐! 北門中央エリアのメッセージ機能が復活しました!』

 そのアナウンスを受け、東門ではどよめきが起きていた。

「北の奴らに先を越されたか……!!」

「ここは俺達も……!!」

 そんな事を言いながら、数名のプレイヤー達が駆け出そうとする。しかし、それはごく少数だった。


 その理由は簡単である。

「慌てる必要はありません、私達が力を合わせればすぐに北のプレイヤーを追い越せます」

「「「「「はいっ!! レン様!!」」」」」

「皆ー! この群れを討伐したら、今度は妨害モンスターを探そうねー!」

「「「「「はーい、リリィちゃーんっ!!」」」」」

 レンとリリィ……男性プレイヤー達に絶大な人気を誇る、美少女プレイヤーコンビのお陰であった。


 そんなプレイヤー達の最前線で剣を振るうのは、ヒイロとケイン……そして、もう一人。

「防御は俺達に任せてくれていい。ミリアさんは、どんどん攻撃していこう」

「何だか申し訳ないわ……ヒイロ君やケインさんに、守って貰いながら戦うなんて」

 そう、ミリアである。


 彼女はヒイロに共闘を持ちかけようとした際、現実での知人に出会ってしまった。言うまでもなく、レンである。

 レンとミリアはそこまで親交が深い訳では無いのだが、家同士の付き合いで何度か食事を共にした事もあった。そして互いの人柄をよく知っていた。

 ミリアはレンを、まだ若いのにとても大人びている少女で、素敵なレディだと認識している。レンはレンで、ミリアは思いやりが深く周囲の人を大切にする、信頼のおける女性だと考えていた。


 そうなれば、どうなるか? 互いに自分から切り出せない、そんな二人を見て口を出したのは……やはり、彼だ。

「じゃあ、皆で一緒に戦おう」

 そんなヒイロの一声に、二人は顔を見合わせ……そしてクスリと笑い、頷いたのだった。


 ……


 さて、そんなヒイロ達も次々とモンスターを倒していく。明らかに異色の装備で身を包むヒイロとケイン、そして初心者を抜け出したばかりといった雰囲気のミリア。得体の知れない存在と思われても、仕方が無い。

 しかし前衛を務めるプレイヤー達は、三人に続き勇猛果敢に戦っていた。三人よりも突出したり、先走る様子は無い。

 その理由の一つは、ケインが実力派プレイヤーだと知る者が居た事。更に、ヒイロが【幽鬼】を発動したのを見た者が居た事……それに加え、レンと同じ和装である。一部では既に有名な和装集団の一員であると確信されているため。

 そしてミリアについてだが……彼女を軽視しないのは当然、その美貌故である。彼女の前で良い恰好をしようと、張り切るプレイヤー達が続出。レンやリリィ目当ての者達も居るが。


 そんなこんなで実に順調な防衛戦なのだが、変化の時は刻一刻と近付いていた。第二陣のモンスター……ゴブリンやオーガの背後から、飛んで来るモノが居る。最前線で戦うヒイロも、自分達に迫るモンスターの姿に気付いた。

「おいおい、マジか?」

 ヒイロの視線の先にいたのは、大きな翼を広げて飛来するモンスター。ゲームではお馴染みであり、大人気でもある種族の代表格。

 ドラゴン系モンスターをゲームに出すなら? と問い掛ければ、まず大半の人はこの名前が出て来るだろう……ワイバーンという名前が。


「と、飛ぶ相手は卑怯じゃないですか?」

 思わずそんな苦言を口にしてしまうミリアに、ケインは苦笑する。

「セオリーとしては、魔法職や弓使いが撃ち落とすんだ。そこからが、俺達の戦いになるかな?」

「……成程、相性があるわけですね」

 不満そうにしながらも、ミリアはワイバーンを睨み付けていた。何か、竜に嫌な思い出でもあるのだろうか?

「大丈夫、すぐに落ちますよ……なにせ、俺達には最強格の魔法職がいますから」

 そうヒイロが微笑むと同時に、十発の炎の投槍が飛んでいく。放たれた炎槍がワイバーンに命中すると、ワイバーン達が苦しそうに吠えながら落下していく。


「……今のって……」

「レンさ……じゃなかった、レンの魔法です。さ、行きましょう!」

 しかし十匹居るワイバーンの内、一匹はレンの【ファイヤージャベリン】から免れていた。その理由は、ワイバーンと炎槍の間にモンスターが居たからだ。そう、イベント限定のメッセージ機能妨害モンスターである。


『プレイヤーの皆様にご報告します! 東門付近で、メッセージ機能を妨害するモンスターを討伐! 東門中央エリアのメッセージ機能が復活しました!』


 そのアナウンスが流れると同時、イベントモンスターが地面に落下する。空の青に溶け込んでいた身体は、より濃い蒼に変化していた。

 妨害モンスターの撃破……それは喜ばしい事なのだが、問題は未だに制空権を有したままのワイバーンだ。

「ワイバーンが一匹残って……」

「あぁ、ヒイロ君。ちょっと俺に任せて貰ってもいいかい? 試したい事があるんだよ」

 ケインが長剣≪天狗丸≫を構えて、そんな事を言う。その言葉に、ヒイロは苦笑して頷いて見せる。

「解りました、俺とミリアさんで援護をしますね」

「ええ、任せて下さい」

 爽やかに微笑むヒイロと、凛々しく微笑むミリア。イケメン鎧武者と、美人の女騎士といった感じである。


「ありがとう、二人共。勿論、損はさせないよ。それじゃあ……【風天ふうてん】!!」

 ケインが刀を突き出すと、刀の周囲に風が渦巻く。一拍置いて、刀の切っ先が示す方向へと突風が吹き荒れるのだった。これは勿論、ユニークスキル【鞍馬天狗】の魔技である。

 吹き荒れる突風が、レンの魔法から逃れたワイバーンに襲い掛かった。狙いは、その翼だ。ワイバーンの翼に殺到する暴風。真空の刃となった風がワイバーンの翼を切り付け、その大柄な体が地面に墜ちる。


「行くぞ、追撃だ!!」

 刀を掲げて、ケインが声を張り上げる。その姿に、前衛プレイヤー達が雄叫びを上げて駆け出した。

「私も……っ!!」

 ミリアはワイバーンをキッと睨み、剣と盾を構えて走り出す。

「負けていられない、な……よし!!」

 ヒイロもまた、刀を手に駆け出した。


************************************************************


 一方、西門では奇妙な現象が起こっていた。モンスター達が、壁を攻撃しているのだ。無論それは西側の門でもないし、すぐ脇にある壁でもない。

 それは、盾だった。

「すげぇな、その装備。まるで城壁だ」

 ダイスの言葉に、壁の中心に立つ女性……シオンは苦笑した。城壁は城壁でも、この世界にはミスマッチだろう……何故なら、それは和風なのだから。


 壁の正体は、シオンのユニーク装備《鬼殺し》。そう、相変わらずの完全防御でモンスターの攻撃を受け止めているのである。

 襲い掛かってきたのは、ペガサスであった。白く優雅に空を飛ぶペガサス達は、タゲを集中させたシオンに群がって襲い掛かっている。襲い掛かっているのだが、やはりダメージは無い。


「それでは、お願いしますね」

 シオンの言葉に、ダイス達が大きく頷いた。シオンしか見えない! 馬まっしぐら! なペガサス達を囲むように、魔法職達が詠唱を続けている。前衛職のプレイヤーも、威力が高い代わりに予備動作が大きかったり、溜め時間が長い武技を発動すべく武器を構える。


「よし、スリーカウントで行くぞ! スリー! ツー! ワン!」

 ダイスの合図に合わせ、プレイヤー達が全力攻撃を放つ。魔法や弓、剣に槍、斧や戦槌等もある。多種多様な攻撃が、ペガサス達に殺到していくのだ。


 彼等の戦法を簡潔に言うならば、シオンごとペガサスを袋叩きにしているのであった。

 攻撃によるエフェクトが消え去ると、ボロボロになったペガサスが倒れていた。その中心で、涼し気な顔をして立つシオン。


――これだけの攻撃を食らっても、平然としているようにしか見えねぇ!!


 それは、この西門に集うプレイヤー達の総意だった。最も今回のイベントは、プレイヤーによる攻撃はプレイヤーに影響を与えない仕様となっている。

 だから、周囲のプレイヤー達はこう思うのだ。


――流石に、PvPプレイヤー・バーサス・プレイヤーではこうはなるまい。


 しかしゼクスとイリスは知っている。今程度の攻撃ならば、流石にノーダメージとはいかないだろう。しかし、HPの七割は残っているはず……と。

 それを可能にするのが、彼女のユニークスキル【酒呑童子】なのである。正に、動かざること山の如し。


 そんな中、シオンがある事に気付いた。

「何かが浮いていますね」

 それは、いつの間にかそこに浮かんでいた。その身体は白い。純白とは言えないが、白かった。オフホワイトだ。

 無論、それは妨害モンスター。何故、迷彩色の能力が解けているのか? それは、先程のペガサス(とシオン)に降り注いだ矢や魔法の流れ弾が命中したからである。


「それにしても、何だかグロテスクな容姿ですね……見るに耐えません」

 そう言うと、シオンが背負った大太刀を抜く。それを頭上に掲げると、短く魔技名を口にした。

「【鬼雷おにいかづち】」

 その言葉と同時、シオンの大太刀の切っ先から雷撃が迸る。それが天に駆け上がった、次の瞬間。一筋の落雷が、妨害モンスターの頭上から降り注いだ。

 オフホワイトだった体が、落雷によって所々焦げている。白と黒が混ざり、ダークグレーだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

魔技【鬼雷おにいかづちLv1】

 説明:≪刀剣≫を天に掲げ、落雷を放つ。

 効果:消費MP5。詠唱破棄。攻撃時、INT+5%、DEX+5%。

―――――――――――――――――――――――――――――――


『プレイヤーの皆様にご報告します! 西門付近で、メッセージ機能を妨害するモンスターを討伐! 西門中央エリアのメッセージ機能が復活しました!』


「あぁ、今のがメッセージを妨害していたのですね」

 事も無げに呟くシオン。側まで歩み寄っていたダイスが、引き攣った笑いを浮かべながら声を掛けた。

「あんな強力な魔法を覚えていたんだな、シオンさん……」


 彼はシオンやレンと共に、アークのレイドパーティによく参加していた。だから、同じパーティに居た者達の手札カードは知り尽くしていたつもりであった。

 だからこそ、驚いた。全く知らない魔法、ちっともダメージを受けないその堅さ。もし決闘や武道会の様なイベントが開催された時、どう対処すべきか? 内心では、そんな事を考えていた。


 そんなダイスの意図を知る由もないシオンは、事も無げに嘯いた。

「メイドの嗜みですから」

 世間一般に知られているメイドが、そんな魔法を嗜んでいるはずもなく。ダイスは言葉を詰まらせてしまうのだった。


 そこで、イベント開始から二時間が経過した。このタイミングで、運営はイベントを最終局面へと移行させるのだった。

『プレイヤーの皆様にお知らせします! 各門に、強力なモンスターの出現を確認しました!』

イベント戦もそろそろ終盤です。


次回投稿予定日:2020/7/9

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ