短編 夫婦の時間
クリスマスパーティーが終わった後、俺達は他のギルドやうちのギルメン達がログアウトするのを見送った。それを見届けてログアウトし、現実でのクリスマス・イヴを過ごす事にする……まぁ、平たく言えば酒を飲みたい。
「んじゃ、冷やしてたの持ってくる」
「はいはーい、おつまみ出しとくねー」
妻……風子も勿論、俺と同じ考えだったらしい。VRでも酒は飲めるが、アルコールによる酩酊感は一瞬感じたらすぐに消える。それが良いと言うプレイヤーも少なくないが、俺はやはり酔いたいのだ。
俺は缶ビールで、風子は缶チューハイで乾杯。つまみを合間に口に運びながら、アルコールで喉を潤していく。
「明日はご馳走作ってあげるから、楽しみにしててねー」
「おう、楽しみにしてる。いつもありがとな」
俺は、これだけはと決めているルールがある。それは、妻に必ず感謝の気持ちを伝える事だ。あれもそれも、やって貰って当たり前だと思ってはならない。
浮気をしない? それは大前提で、当たり前過ぎる事だろう。
「それにしてもさ、あんだけ飲み食いしたのにまだ足りないって凄いよねぇ」
「VRで満腹になったら、現実で健康被害が起きるからな。当たり前といえば、当たり前だが」
「まぁねー」
ちなみにだが、俺達はゲームに入る前にきちんと食事は済ませておいた。その上であのパーティーだったのだから、精神的にはお腹いっぱいかもしれん。
「パーティー、参加できて良かったね」
「だな。しかし、グレイヴとやらには悪い事をしたな」
【七色の橋】の面々から聞かせて貰った、【漆黒の旅団】の内情……それを聞いて、俺は少し申し訳ない気持ちになった。
あのグレイヴは悪質なPKerだったプレイヤー達を排斥し、純粋にPvPを求めるプレイヤー達を纏め上げているという。現にヒメノさんは彼に助力して貰ったと言うし、あの子達がそう言うのならそうなのだろう。
彼等はそれなりの良識を持ち合わせている……と、俺は考えている。それを過去の悪質なPKer達と、同一視してしまったのは反省している。
まぁ、PKerはPKerなのだが。
PKerはPKerだし、PKはノーマナー行為。しかしVRMMOでPKがある程度想定されているのは、AWOも変わらない。それくらいは、理解している。
「ほら」
俺が思考に耽っていると、風子がつまみを口元に差し出してきた。食え、という事だろう。
「せっかくのイヴに、辛気臭い顔しないの。あんまり気にし過ぎてると、ハゲるよ」
「……それはまだ嫌だな」
将来はハゲるかもしれんが、この年でハゲたくはない。
「大丈夫、頭ツルッツルになっても、私はちゃんと愛してあげるから」
「まだハゲたくないっての」
俺の言葉に風子は声を出して笑い、そしてふっと微笑んだ。
「さて、飲んだらおっぱじめる? ちょうど、例の六時間ですし?」
「なんつー誘い方だよ、俺よりおっさん臭いぞ」
まぁ、勿論受けて立つのだが。
次回投稿予定日:2023/4/22(短編)
カイさんとトロさんは作者お気に入りキャラです(o˘◡˘o)