短編 鍛冶職人と商人
キットキミハコ~ナ~イ~(´ºωº` 三 ๑°ㅁ°๑)アルェ!?
あ、砂糖は来ます。(糖度警報)
クリスマスパーティーでは、私は目立たない様に隅っこの方に居た。あのパーティーに参加するだけで、私的にはいっぱいいっぱいだったのだ。
でも結果的に、参加して良かったとは思っている。【桃園の誓い】の新メンバーである、マールさんとヴィヴィアンさんと話せたから。
ヴィヴィアンさんは、魔法職兼調合職人。だから和美と気が合ったし、人見知りする傾向があるのは私と同じだった。そのお陰か、妙に親近感が湧いてしまった。
マールさんは、見た目に反して穏やかな人だった。ヴィヴィアンさんを大切にしているのが解ったし、私達にもとても優しく接してくれた。何というか、近所の頼れるお姉さんって感じだ。
あの【聖印】のギルマスさん達が来たのには驚いたけど、ヴィヴィアンさんと和解した……? のかな? そんな感じだったから、とりあえず良かった。
それ以外にも、たくさんのプレイヤーが来たけど……和美とマールさんが、うまく対応してくれて助かった。
でも……一つ、残念だった事がある。クベラさんと、一緒に居られなかったな……。
そこで私は、一つやり忘れている事に気が付いた。今日は忙しくて、ログボを受け取っていなかったのだ。
連続して得られるログインボーナスは、VRMMOプレイヤーにとって貴重な財源。特に、私達の様な生産メインには。
はぁ、すぐに終わるし、もう一度入ろうかな。
……
再度AWOにログインした私は、システム・ウィンドウを開く。そこで、私宛のメッセージが届いていることに気付いた。
誰だろう? と思って、メッセージを開いてみたら……差出人とタイトルを見て、私は息を詰まらせてしまう。
『パーティーの後、少し時間を貰えませんか』
クベラさんからの、メッセージ……!! 時間から見て多分送られたのは、私がログアウトするタイミング。どうしよう、クベラさんももう落ちて……落ちて……。
落ちて、ない。
フレンドリストを見れば、ログインしているかしていないか表示で解る。クベラさんは、今もログインしているらしい。
まだ、間に合う? 怒ってない? 傷付いてない?
そんな不安が私の心を覆い始めて、彼に連絡するか……それを躊躇させる。
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昔ながらのクリスマスソングが、何故か頭の中に流れている。彼女は既に、ログアウトしていた。俺のメッセージを見た前なのか、後なのかは解らないけど……どの道、彼女はもう今夜は来ない。
これならクリスマスパーティーの間に、彼女に声を掛けに行けば……でもそれで彼女に拒絶されてしまったら、俺は当分立ち直れない自信がある。全くもって、駄目な方の自信だが。
俺は今夜、彼女に会いたかった。
会って、彼女に伝えたかった。
俺は、君が好きだって。
折角ユージンさんや、あの子達にアドバイスを貰って作ったプレゼントも……無駄になっちまったな……。
イベントの時の、あの工房でのやり取りを思い出す。彼女は、多分俺を嫌ってはいないと思う。でも、今もそうかは解らない……何かしら俺が至らない所があって、愛想を尽かしてしまった可能性もある。今日のパーティーでは、彼女の所に行かなかったしな……。
はぁ……もう、いい加減女々しく待っていないで落ちるか。俺はそう思って、システム・ウィンドウを操作して……。
「クベラさん!!」
はは、幻聴まで聞こえてきたか。本当にもう、女々しくて女々しくて……あれ?
「……カノンさん?」
そこには、ずっと待ち侘びていた彼女が居た。彼女は俺の姿を見つけるやいなや、大急ぎで駆け出してくる。その勢いは、普段の彼女からは想像もつかない程のものだ。
「ごめんなさいっ!!」
大きな声で謝りながら、彼女は俺の胸元に飛び込んで来た。
やべぇ、めちゃくちゃ嬉しい……!!
「こんなに、待たせてごめんなさい!! メッセージ、多分来た瞬間にログアウトしちゃったみたいで……!!」
顔を俯かせながら、そう言って謝るカノンさん。俺の服をぎゅうと握る手が、小刻みに震えている。
何より……人見知りで内気な彼女が、ここまで感情を爆発させているのだ。それも……俺の事で。
俺は何とか彼女を宥めて、場所を移す事を提案する。流石に深夜で人も疎らだが、皆無ではないのだ。
あと、なんか嫌な予感がビンビンする。リア充を追い求めて決闘を仕掛けるPKer的な、嫌な予感が。なんて具体的な予感なんだろうな。
既に誰も居なくなった、【七色の橋】のギルドホーム。その中にある、カノンさんの部屋……俺は、そこに通された。
正直、死ぬほど緊張している。初めて入るし、そもそも女の子の部屋入るのとか……なぁ?
「とりあえず、落ち着いた? 俺もさっさと連絡したり、クリスマスパーティーの時に話してれば良かったんだし……だから、もう気にしないでね?」
「うぅ……でも、本当にごめんなさい……クベラさんに、無駄な時間を……」
無駄……かな? まぁ、あそこでカノンさんが来てくれなかったら、それは本当に無駄な時間だった。でも……無駄じゃなかった。
「無駄じゃなかったよ。カノンさんが、ああして来てくれたんだからさ」
俺の言葉に、カノンさんは目を丸くして……そうして気まずそうに、恥ずかしそうに目を逸らす。でも、これはアレだろうな……多分嫌だとかじゃない、照れくさいだけなんじゃないかな。
ともあれ、今のカノンさんに告白は駄目だな。ちゃんと彼女が落ち着いた時に、改めてしよう。でないと彼女の罪悪感に付け込んで、OKを貰おうとしているみたいだ。それは、駄目だ。
でも……せめて、これだけは。
「用ってのは……あー、これを渡したかったんだ」
俺が作ったのは、指輪ではない。これは、マキナ君も同様なのだが……指輪は結婚を申し込む時に渡すべきで、告白する時にそれは重いだろうと考えたから。
「これ……」
「クリスマスプレゼント……だね。それと、日頃の感謝の気持ちもこもってる」
本当は、君に対する想いを込めてもいるんだ。なんて、そんな事は言えやしない。
カノンさんは恐る恐る手を伸ばして、俺の差し出した箱に触れる。そうして震える手で、その包みを開けていった。
「わぁ……綺麗……」
そのありのままの、感想が嬉しい。
俺が作ったのは、薄紫色の花を象った髪飾り。彼女の身に纏う、菖蒲水仙の髪飾りだ。これなら普段のプレイ中でも、身に付けて貰えるかと思って作った。
「……ありがとう、ございます……本当に綺麗……」
俺の贈り物を、大切そうに胸元に抱き寄せる……その姿に、心臓がバクバク鳴っている様な気がした。VRだから、そんな事は無いんだが。
「……好きです」
あぁ、こんなに喜んで貰えたのか。よっぽど、好みにあったんだな……。
「クベラさんが……好きです……」
そうそう、俺が……。
「……えっ?」
「……えっ?」
どうやらカノンさんも無意識の内に、口に出していたらしい。自分の発言に理解が及び、喜びに満ちていた笑顔は鳴りを潜め……代わりに、触れたら火傷をするんじゃないかと思うくらいに赤面した。
「あ、あの!! その、今のは、ちょっと!! 少し、凄く、思った事が!! つい口から漏れたやつで!!」
「あ、あぁ!! わかる、そういうの、あるよね!! 俺もたまにあるんだ、いやほんと!! 大丈夫、俺もよく口から漏れ出るから!!」
彼女が落ち着くまで、それから十数分かかった。その後で……俺はようやく、彼女にちゃんと自分の気持ちを伝える事に成功したのだった。
「俺は……君が、好きです」
「は、はい……っ!! わ、私も……あなたが、好き……です……!!」
顔を真っ赤に染めて俯きながらも、ハッキリと返事をしてくれた彼女……その一言で、全てが報われた気がする。
こうして、俺達は……念願の、恋人同士になれたのだった。
次回投稿予定日:2023/4/18(短編)
(ง°`ロ°)งイィィヨッシアャァァッ!!
おまけ
「その……これ、ありがとうございます……ずっと、大事に……します」
「あはは、喜んで貰えて嬉しいよ……その、いずれは指輪も渡すから……期待してて」
「はぅ……は、はい……」