短編 深夜の来訪者
クリスマスパーティーを終えて、AWOからログアウト。ゲームで出会った人達とクリスマスパーティーをするって、何か不思議な気分だったな……でも、私も楽しかった。
第二回イベント以降は、ずるいだの何だのと言われて来た私達のギルドだったけど……今回のパーティーでは、誰もが好意的な態度で接してくれていた。
まぁちょっと、好意的過ぎる視線もあったんだけどね。それどころか、明日のクリスマス当日にデートのお誘いまであったし。それも、ろくに面識もない人から。
勿論、私はそのお誘いを全て断った。だって明日は、先約があるし。
というか……今までろくに接点が無かった人からいきなり誘われて、喜んでついていくと思われてるのかな? そんな訳、ないでしょうに。
はぁ、ちょっとだけイライラするし、楽しい事を考えよう。だって明日は、久し振りに彼に会えるんだしさ。
前に会ったのは、二カ月も前だし楽しみ。今度は、どこに連れて行ってあげようかな。
遠距離恋愛、かぁ……まさか自分が、その状況になるとは思ってもみなかった。まぁ、これを遠距離恋愛と称して良いのかは解らないけどさ。
逆に彼の祖父……あの人には、しょっちゅう会っているんだけどね。あの人から彼に、私の事が変に伝わっていないか不安だ。
あの人は悪人ではないし、むしろ良い人だけど……だからといって、聖人君子ではない。むしろ、暴君と称されるくらいだ。まぁ、それも良い意味でのという但し書きが付く。はて、良い暴君とは?
あの人はたまにブレーキが壊れて、暴走するのだ。ジン君達の前では大人しくしているけど、奥さんがゲームに参入した事でそれも変わるかもしれない……具体的に言うと奥さんを驚かせる為に、サプライズとか言って色々とやらかす可能性がある。
そんな事を考えていたら、インターホンのチャイムが鳴った。もう、こんな深夜に誰が……というか、女子大生の家ぞ? 普通、開けたりしないし。無視しよ、無視。
と、思った時だった。あれ? これって、鍵を開ける音……? 私の部屋の鍵を持っているのは、実家の両親と……もしかして!!
寝巻の上に軽く一枚羽織って、私は玄関へ向かう。それと同時に、私の借りているアパートの部屋の扉が開いた。
「あれ? もしかしたら寝ているか、ゲーム中かと思った」
乙女の部屋の扉を開けて、第一声がそれですかい王子様や。まぁ彼ならそうしても良いと思って、合鍵を渡していたんだけどさ。
「……えーと、こんな深夜に女子大生の部屋を訪ねて来るなんて、不審者じゃないかと警戒していました……」
「あー……言われてみればそうか。ごめんね、気が付かなくて」
シュンとしてしまった彼は、叱られた子犬みたいだ。最も、そんな事を言ったら「子供扱いしないで」と拗ねてしまうのだが。
「本当にごめん。早く会いたくて、明日まで待てなかったんだ」
そんな事を言われては、怒るに怒れないじゃないか。まぁ、怒ってないけどね。
「良いよ、君なら。その為に合鍵渡してるんだもん」
そこで、私は気付いた。扉の隙間から入って来る風が、冷たい。というか、最早痛い。
「って、うわぁ……外、雪だったんだ!? 寒かったでしょ!!」
「うん……ホワイトクリスマスだね。しかし、寒いものは寒い」
「だよね! ほらほら入ってあったまろ?」
扉を閉めて、鍵をかけ直して……そうして私は、彼を抱き締める。
「お邪魔します、イロハ」
「いらっしゃい、マコト君」
鮮やかな金色の髪をした、小柄な少年。それが私の恋人、マコト君だ。
……
「ん? この荷物は?」
マコト君を部屋に招き入れたら、彼の荷物がいつもより多い事に気が付いた。というか、でかい。
「そっちの紙袋は、クリスマスプレゼント」
「私の王子様、マジ王子様だ」
「大袈裟だよ、もう」
そう言いながらも、マコト君は表情を綻ばせる。かっこかわいいな、私の彼氏は。
「で、こっちは……」
「お爺様から頂いたんだ、クリスマスプレゼントだって」
「……ほう」
あの人、まーた何か考えたな? まったく、困ったものだよ。さっきも思ったけど、あの人は身内に甘い。甘い上に、サプライズ好きで色々とやらかすのだ。良かれと思ってやっているのは解るけど、頻繁にやられると凄く疲れる。
……あれ? これ、まさか……。
「VRドライバーだって。ねぇイロハ、僕にも使い方を教えてくれるかな?」
次回投稿予定日:2023/4/16(短編)
【ナイン】の執筆も、ぼちぼち進めようと思ってます……orz
あと、【付与魔導師】アフターも。
しかし【忍者ムーブ】が楽し過ぎて、こっちの構想に脳の容量が割かれてます。