短編 大切な君への贈り物
っ【微糖警報】
これまで、クリスマスパーティーなんてものには縁がなかった。せいぜい家族といつもより豪華なご馳走を食べて、ケーキを食べて寝るくらいだ。
それで良いと思っていたし、家から巣立つまではそんな風に過ごすと思っていた。
ゲーム内では、尚の事。DKC時代はひたすら、レベリングやら素材集め。クリスマス限定のイベントがあれば、その報酬を目指して戦いに明け暮れていた。周囲がやたらと色めき立つだけの、ただの普通の日だったのだ。
ギルド内のメンバーが、クリスマスを理由に休む事にもさして興味は無かった。あぁ、彼等にとっては今日は特別なんだなと思っただけだ。
それが、どうしたことか。今年のクリスマス・イヴは、とても満ち足りた想いで満たされる日だった。
その要因はまず、パーティーに集った面々だ。トップ争いを繰り広げて来た【森羅万象】に、侮れない相手である【遥かなる旅路】。彼等と共にテーブルを囲み、飲食を共にし雑談に興じる。こんな事、これまでは想像すら出来なかった。
【桃園の誓い】や【魔弾の射手】と交流を深めるのも、実に楽しいひと時だった。頭角を現し始めた他のギルドも、接してみれば気の良い人達だったしね。
それもこれも、全て彼等……【七色の橋】の存在が大きい。彼等と友人になれたのは、本当に幸運な事だった。
そして、僕個人として大切なのはもう一つの要因。今夜のパーティーでは、ずっと僕の隣に居てくれた彼女だ。
ルー……明日、僕は彼女とデートする。勿論、現実で。そこで彼女に、気持ちを伝えたいと思っている。
多分だけど、ルーも……麻衣も、僕にそれなりに好感を抱いてくれているはずだ。文化祭のあの日以降、彼女は何も言わずに僕に寄り添ってくれている。
覚悟を決めろ、倉守明人。彼女の厚意に甘えて、ズルズルと引き伸ばすヘタレにはなるな。
デートする場所は、密室を避ける。しかし彼女が疲れないように、落ち着ける雰囲気の場所をピックアップした!
彼女の家の方に足を伸ばすのは、帰宅時間が遅くならないようにしなければならないからだ。門限は無いらしいが、遅い時間まで連れ回すのは断じてノー!
これは【七色の橋】の女性陣から、アドバイスして貰った事だけど!
そして、悩みに悩んだプレゼント……!! いきなり指輪とか、くっそ重いのは避けるに限る!!
彼女の好みは、雑談の中で色々とリサーチしてある。彼女も御多分に漏れず、可愛らしいものが好きだ。
星を象った、可愛らしいブレスレット。彼女が喜んでくれたら良いな。
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なんって、素敵なクリスマス・イヴだったんだろう!
ギルドの人達も、ライバルギルドの人達も、皆楽しそうだったし。それに、ずっとライデンさんの隣に居られたし!
あぁいうパーティーでも、ライデンさんは落ち着いていて素敵だったな。現実では私と同じ歳なのに、大人っぽいというか……。
そんなライデンさん……明人さんと、明日はデートする約束だ。
今回は、わざわざ私の家の方まで来てくれるらしい。何でも文化祭では私があちらに行ったんだから、今度は自分の番だね……って。格好良すぎる。
ちなみに、文化祭の時は私が勝手に行ったんでした。何の連絡もなく、相談もせず。明人さんじゃなかったら、ストーカー扱いされてもおかしくなかった。カッとなってやった、今では反省している。
デートでは、手とか繋いでも大丈夫かな。軽い女とか、思われないかな。
あの夫婦みたいに、腕を組む……いや、あれはまだ早い。あの境地に至るには、まだまだ私は経験値が不足している。ちなみに、胸のボリュームを言っている訳ではない。それなりには、ある方だと思う。
明日は頑張って早起きして、しっかりメイクしないと。明人さんに、可愛いって思って貰えるように!!
そうして……ずっと言えなかった言葉を、伝えよう。あなたが好きです……って。
ゲームだけではなく、現実でも……あの人の隣に居るのは、私が良い。その為に頑張って女子力磨いたりしてきたし、置いて行かれないようにゲームでも強くなったんだ。
それに、プレゼントも喜んで貰えたら良いな。
明人さんはあまり、チャラチャラしたものは好まない方だ。だからなのか、装飾の類は全然持ってないらしい。
私が買ったのは、黒と銀の落ち着いた色合いのブレスレット。ゴテゴテしてない、スマートなデザインの物だ。大人っぽい彼には、ピッタリだと思ったんだ。
明日の目標は、明人さんをいっぱい楽しませること! そして、プレゼントを渡すのと……告白すること!!
私が側にいる時は、最近なんだか穏やかな笑顔を浮かべてくれてるし……それに凄く気遣ってくれるし、デートにも誘ってくれたんだし! 脈無しじゃ、ないと思う!!
目指すはあの【七色】夫婦レベルの、ベストカップルだ! 頑張るぞ、おーっ!!
……あ、明人君って呼んだら……喜んで、くれるかな?
次回投稿予定日:2023/4/14(短編)
気苦労の多かった明人には、麻衣を彼女にする権利とオプーナを買う権利をあげよう。
この両片思いにも、いよいよ決着が付きそうですね。そして、めちゃくちゃいちゃつきそうですよ、これ。
【聖光の騎士団】の糖度警報重点警戒地区ですよ。
だがそれが良い。