短編 獅子と虎
クリスマスパーティーが終わった後、俺はあるプレイヤーからの呼び出しを受けていた。
これが女性だったら、もう少し心躍ったんだろうが……残念、相手は野郎だ。
待ち合わせ場所は、始まりの町の南側の門。そこに向かえば、あいつは既にそこに居た。
タイガ……今は【聖光の騎士団】のメンバーになった、俺の友人だ。
「待たせたか?」
俺が声をかけると、タイガは視線をこちらに向けて片手を上げる。
「よぉレオン。今来た所だ……って、男相手にこんな台詞言わせんな、気持ち悪い」
「お前が勝手に言ったんだろ」
相変わらず、こいつは口が悪い。しかし本気ではない事も解っているので、こちらも嫌気がさすような事でもない。
「で、聞きたい事ってのは?」
夜も遅いし、手短にな。と付け加えた俺に、タイガは正面から向き合う。その顔は、真剣だ。
「レオン、何故【聖光】の誘いを蹴って【桃園】に行ったんだ?」
俺はかつて、最前線のレイドパーティに参加していた。その事もあって、【聖光の騎士団】からもスカウトが来ていたのだ。タイガはその頃から、俺のダチだった。常につるんでいた訳じゃあないが……周りから見れば、コンビみたいに思われてたはずだ。名前もレオンとタイガで、獅子と虎って感じだしな。
確かに【聖光の騎士団】は大規模ギルドであり、強豪ギルド。しかし、俺はその誘いを断った。その理由は……。
「なんつーかさ、こう……のびのびやりてぇんだよな、俺はさ」
「……まぁ、以前からお前はマイペースだよな」
「それなりに団体行動とかは嫌いって訳じゃないし、周りに人が居ても問題は無いんだが……まぁ、マイペースなのかもな」
大規模ギルドとあっては、マイペースではいられまい。俺一人のせいで、全体に影響が出るのは申し訳無い。そうして周りに合わせてあくせくやっていたら、今度はこっちの息が詰まっちまう。
「……【桃園】は、違うと?」
「ん? あぁ、それなりにマイペースにやってるぜ」
本当に? という視線が向けられる。しかし、本当にそうなのだ。
「常にのんびりしてる訳じゃねぇさ、当然。でも、仲間一人一人のペースとかを大事にする連中が揃ってるし。一緒に居て、リラックス出来るんだよなぁ」
一時はピリピリしたけども。まぁ、あれは俺が至っていなかったせいだしな。今ではむしろ、それを指摘してくれたバヴェルさんに感謝してる。
「そうか……そういうものか」
「おう、そういうもんだ」
寂しそうな顔しやがって、全く……。
「まぁ、今回のイベントで【聖光】とも繋がりが出来たしな。もし協力して事に当たるような事があれば、ゴールデンコンビの連携見せてやろうぜ」
「何だよ、ゴールデンコンビって。初めて聞いたぞ」
「今、適当に決めた」
「アホか」
俺の適当な発言に、タイガは呆れた様にため息を吐く。しかし、それでいい。辛気臭い顔より、そっちの方がマシだ。
「それじゃ、そろそろ」
「あぁ……野郎二人でイヴを過ごすもんじゃねぇしな」
全くだ。
「またな」
「おう、またな」
やれやれ……色気もクソもないクリスマス・イヴだよ。
次回投稿予定日:2023/4/12(短編)
ウスイ……ホンガ、アツク……ナル……( ゜д゜)ハッ!?