短編 二人きりのプレゼント交換
ほらよアーサー、ご褒美だぞ!
スパァン!!(‘д‘⊂彡☆【微糖】))Д´)
いつもとは違う、賑やかな時間。その時間が終わり、AWOからログアウトした後はいつも通りだ。
明日は仲間内で集まって、カラオケ行って飯食って……まぁ、ここ数年のクリスマスと代わり映えしない予定である。
しかし今年は、少しいつもとは違った。いや、少しではない……こんなに賑やかなクリスマス・イヴは、初めてだろう。
AWOのクリスマスパーティーは、本当に疲れたけど楽しかった。DKC時代はこんな日が来るとは思ってもみなかった……まさか【聖光】や【旅路】と、グラスを重ねる事になるとはな。
それもまぁ、やっぱりあいつらのお陰な訳だ。本当に、とんでもない連中だ……【七色の橋】は。
ただまぁ、少しばかり……いや、結構残念なんだよな。
ハルともっと、一緒に居たかったな。
そんな事を考えていると、携帯端末にRAINのメッセージ受信音が鳴った。もう、日付も変わろうという時間なのに……誰だ?
『トモ、窓開けられる?』
それは、ハルからだった。隣の家に住むハルの部屋は、俺の部屋の真向かい。つまり窓を開けたら、そこにはハルの部屋がある訳だ。
俺達は小さい頃から、窓越しに話す事が多かった。
カーテンと窓を開ければ、ひんやりとした空気が室内に流れ込む。その先には、寝間着姿のハルが居た。心臓の弱いハルは、体を冷やすと体調が悪くなる。だからか、暖かそうなストールを肩から掛けていた。いつもは結った髪を下ろしており、儚そうな印象を視覚的に与えてくる。
「どうした? ってか、大丈夫か?」
「うん、今日は楽しかったけど……あんまり、トモと話せなかったから」
わざわざ、その為に? 今まで、確かにずっと一緒にいたけど……。
「それにね、ほら! トモにこれ渡したかったし!」
そう言って、ハルが掲げたのは赤い紙袋。どこからどう見ても、クリスマスプレゼントだ。
「お、おう。えーと、俺も……明日、渡そうと思ってたんだけどさ」
俺もまた、ハルにプレゼントを用意していた。机の上に置いてあったそれに手を伸ばし、ハルに見えるように持ち上げる。
「わっ、ありがとう! それじゃあ、はい!」
「ん、こっちも。ありがとな」
互いにプレゼントを右手で差し出して、相手のプレゼントを左手で受け取る。
「ね、開けてもいい?」
「勿論。その……気に入ってくれると良いんだけど」
毎年、クリスマスプレゼントは渡してる。姉ちゃんや真代さんも、一緒のタイミングで。だから、今年もそのつもりでいたんだけど……今年は、いつもとは違うタイミングだ。
変わって良いのかな。これまでよりも、一歩踏み込んだ関係を望んでも……良いのかな。
ハルは、俺の贈ったプレゼント……ネックレスを見て、表情を綻ばせた。
「わぁ……可愛い♪」
満面の笑顔で、喜んでくれるハル。その表情で、俺はもうお腹いっぱいになりそうだった。
そのネックレスはそんなに高いものでもない、高校生の財布事情でも手が届く程度の値段の物。でも、ハルが好きそうだと思って、即決で買ったものだ。
「ありがとう、トモ! 大切にするね!」
「お、おう……で、こっちは……おっ、マフラー?」
赤い毛糸のマフラー……すげぇ手触りも良くて、首に巻いたら暖かそうだ。
「今使ってるの、古くなってきたでしょ? だから、新しいマフラー欲しいかなって。明日の集まりで使えるように、早く渡そうと思ったんだ」
「よく見てらっしゃる。ありがとな、すっげえ嬉しい」
俺の感謝の言葉に、ハルはいつもの笑顔を浮かべ……そして、可愛らしいくしゃみをした。
「あー、もう。体弱いんだから無理するなよな……」
「えへへ、ごめーん。そろそろ寝とこうかな……あれ?」
これでお開き……と思ったところで、空からひらりと舞い落ちるのは白。その白は少しずつ、数を増やしていく。
「雪だ……」
「うん、ホワイトクリスマスだね?」
「あぁ、だな」
二人きりの、イヴの夜に雪が振り始めるとか。これはあれか? 俺なりに頑張ったから、神様からのご褒美か何かか?
でも、これ以上は駄目だ。本音を言えば、もっと一緒に居たい。ハルと、二人きりの時間が欲しい。でも、そうしたらハルの身体に負担がかかるのだ。
「さて、ハルも寝ときな。あんまり冷やしたら、身体に障るだろ?」
いつもとは違うタイミングで、二人きりのプレゼント交換。それに、ホワイトクリスマスというシチュエーション。傍目にしたら、絶好の機会なんだろうけどさ。
このまま話し込んでいたら、ハルは必ず体調を崩す。そうしたら、あいつが楽しみにしていたクリスマス会に行けなくなるだろう。それは駄目だ、絶対に。
「うん、ありがとう。それじゃあ、トモ……メリークリスマス!」
「おう、メリークリスマス。暖かくして寝るんだぞ」
「はぁい! じゃあ、おやすみ! また明日ねっ♪」
ハルが大切だから、俺の我儘は呑み込んでしまおう。ハルが幸せな気持ちで、笑っていてくれるならそれでいいんだ。だから、俺はこれで良い……今は、まだ。
次回投稿予定日:2023/4/10(短編)
作者的にアーサーは、押しの弱いヘタレにも見えるかもと思っていたんですよね。しかしその裏には、身体の弱いハルを思い遣って大切にしているからという事情もあります。
それが今回のお話で、伝われば良いなと。