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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
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15-44 幕間・彼女を巡る陰と陽

後半にて、糖度警報の発令をお知らせします。

前半? 「あーあ」注意報ですかね。

 盛り上がりが加速していくクリスマスパーティーも、時間が来れば当然お開きとなる。その時が着実に迫る中、俺は意を決して立ち上がった。

 彼女に、この胸に秘めた想いを伝える……その為に。


 その人物とは、金色の髪の美しい女性だ。整った顔立ち、恵まれたボディライン、洗練された所作……誰もが彼女に対して、美しいという評価を下すだろう。

 普段の和装メイド姿もさることながら、サンタクロースの衣装を身に纏った姿もよく似合っている。

 彼女のサンタ衣装は、ノースリーブのトップスにロングスカートといったタイプ。胸元や脚の露出は少ないが、逆にそれが大人の色香と淑女の貞淑さを兼ね備えている様だ。

その美しさは現実でも同様……そう、俺は現実の彼女も見た事があった。それに気付いたのはつい先日で、面と向かい合った訳では無いが。


 常に、主の側に控える彼女。それが彼女の務めであるのは、重々承知している。

 これからはどうか、俺の隣に居て欲しいと思っている。しかしながら、彼女が今の職を続けたいと言うならば、俺はそれを受け入れる。主に向けた視線や態度からも、彼女が自らの意思でその立場に居るのだと理解できるから。


 歩み寄る俺に気付いたのか、彼女は立ち上がった。それは彼女が、俺を迎え入れてくれるという事だろう。

「こちらのテーブルに御用でしょうか? それでしたら、こちらの席へ……」

 あぁ、美しいのは声もだったな。そう内心で付け足しながらも、俺は彼女に対して否定の言葉を告げる。

「いえ。私の用件は、あなた個人に対してになります。申し訳御座いませんが、少々お時間を頂けますか?」

「……左様でございますか、セバスチャン様」


 この宇治室千雅、必ずや君を我が伴侶に迎え入れてみせる!!


 俺の内心の決意を知ってか知らずか、彼女は俺の言葉を受けて主であるレンさんに向き直った。

「お嬢様、少々外しても宜しいでしょうか?」

 流石は本職のメイドといったところか。主の許可無く、席を外す事は無いのだな。これはやはり、初音家の教育の賜物だろう。

「え、えぇ……構いませんよ、シオンさん」

「ありがとうございます、お嬢様」


 レンさん……彼女が水姫さんの妹であると知って、俺は非常に納得してしまった。彼女の顔立ちはよくよく見れば、確かに水姫さんに似ている。あの人が中学生の頃は、レンさんの様な少女だったのではないか。

 そしてレンさんに傅く彼女……それが、シオンだ。


 第二回イベントで相対した時は、小生意気なメイド……の、ロールプレイだと思ったものだ。

 しかし彼女は、初音家のメイドだったのだ。ならばあの態度も理解出来る、なにせ初音家のメイドなのだから。

 初音家はご子息やご息女への教育は当然、使用人への教育も徹底されている。そんな彼女だ、主やその周囲の人間を守る為ならば……毅然とした態度で努めを果たすのは当然だろう。


 ここであの時の非礼を詫び、彼女と結婚を前提とした交際をしたいと告げる。当然、現実での関係も含めて。

 俺は彼女に、本名を明かす覚悟でいる。宇治家の者ならば、身元もしっかりしていると思ってもらえるはず。初音家としても、宇治家の後継者が相手ならば否は唱えまい。


「場所を変えますか?」

 俺に向き直ったシオンは、姿勢良く立ちながらそう提案して来た。

 そうだな、この場でプロポーズしても俺は構わないが……しかし、彼女は奥ゆかしい女性。見世物の様な状態でプロポーズされては、気後れしてしまう可能性はある。

「そうですね。では、ギャラリーの方で宜しいですかな」

「私はそれで構いません」


……


 場所を移した俺とシオンは、ギャラリーで向き合う。

「では、ご用件をお伺い致します」

 やはりまだ、彼女の表情は硬い。まぁ良く出来たメイドならば、それも当然だろう。

 しかしメイドではない、ありのままの彼女が見たい。プロポーズを受けたら、彼女はどの様な表情を浮かべるのだろう。デートをする時、どんな表情で笑うのだろう。ベッドの上では、どの様な顔をするのだろう。


「お時間頂き、感謝します。まずは第二回イベントでの件……あの時の無礼を、お詫びさせて頂きたい」

 そう言って、俺は頭を下げる。無様にペコペコするつもりは無い。しかし、あの時の事は俺が悪かった。

 謝る時には、誠意を持って謝罪する……それは、人として当然の事だ。当たり前の事を、当たり前に出来ない。そういった者は、実は非常に多い。

 だからこそ、俺が誠意ある謝罪ができる男だと示す所からだ。


 五秒程は頭下げ続けた後に顔を上げれば、シオンの困惑した顔がある……と思った。が、そんな事はなかった。

「……あの時の件についてでしたら、まずはカノン様に謝罪をなさるべきかと存じます」

 なんという、冷たい視線。やばい、これはミスった。


 言われてみれば確かに、あの時の発端はカノン嬢に対する俺の発言だった。彼女の言う通り、まずはそちらからだった……!!

 どうする、どう取り繕えば良い!? いや、待てよ? 確か、彼女は人見知りするタイプだったはず。ならば、これだ!!

「勿論、私としてもそのつもりでおります。しかしながら、私見ではございますが彼女は人見知りの傾向がある方かとお見受け致しまして……そこで、謝罪の為のアポイントを取らせて頂きたく存じます」

「……成程、そういったご用件でしたか」

 ち、違うんだ……!! 本当は……本当は、君を……!!


 しかしカノン嬢への謝罪が済まない内から、プロポーズしても受け入れて貰えるとは思えないッ!! 先程の冷たい視線から見るに、絶対に絶対だ!! いや、ちょっとあぁいう視線も良いなと思いはしたが。


 俺の内心の葛藤を知ってか知らずか、シオンは一つ頷いてみせた。

「かしこまりました。日を改めて機会を設けられるよう、私の方からカノン様にお話させて頂きます。尚、カノン様は確かに人見知りの傾向がございますので、同席者が居る可能性が高い事を予めご了承頂ければと存じます」

 日を……改める? いや、しかしまぁ、それもそうだよな!? 折角のクリスマスパーティーに、水を差されたくは無いだろうし!?

 しかしそれでは、クリスマスムードでのロマンティックなプロポーズという俺の計画が……!! このまま、行くか!? いや、多分それは悪手だな!? 間違いない!!


 ……よし、次のイベントで仕掛けよう。俺は失敗を経験値にし、次に活かせる男!! 彼女の好感度を上げる時間が出来たと考えれば……よし、バレンタインだ!! そこで、今度こそプロポーズを……!!


************************************************************


 クリスマスパーティーも大いに盛り上がっているが、時間が来れば当然お開きとなる。その時が着実に迫る中、俺は気合いを入れて立ち上がった。

 彼女に、この胸に秘めた想いを伝える……その為に。


 その彼女とは、先日の話し合い以降で距離が縮まった女性……シオンだ。整った顔立ち、恵まれたボディライン、洗練された所作……誰もが彼女に対して、美しいという評価を下すだろう。

 普段の和装メイド姿もさることながら、サンタクロースの衣装を身に纏った姿もよく似合っている。

 大人の女性らしく、落ち着いた雰囲気を醸し出すノースリーブのトップスとロングスカート。露出は少ないが、代わりに大人の色香と淑女の貞淑さを感じさせる。

その美しさは現実でも同様……そう、俺は現実の彼女と話した事があった。それはRAINの映像通話越しで、直接会った訳では無いが。


 常に、レンさんの側に控えるシオン。彼女がレンさんを大切に思っている、それがひしひしと感じられる。

 俺は彼女の隣に居たいと思っている。だから、俺はある事を決意していた。彼女はレンさんの側を離れるつもりは、無いだろう。


 しかし先程まで、ヒイロ君やレンさんと一緒だった彼女の姿が無い。他のテーブルに移動したのか? とも思ったが……シオンが用事もなく、レンさんの側を離れるとは思えなかった。

 そんな時、背後から声が掛けられた。

「ダイス?」

 声すらも美しい、と感じさせる音色。他の面々に向けたものとは違う、砕けた口調。それだけで、自分の心臓が早鐘を打つのを自覚する。

「あぁ……ちょっと用というか、話たい事があって……少し、時間良いか?」

「えぇ、勿論」


 行くぞ、名嘉眞守。今日こそ、シオンに……告白するんだ。


 俺の内心の決意を知ってか知らずか、彼女はチラリと【七色の橋】のテーブルに視線を向ける。

 そこで談笑しているレンさんが、シオンの視線に気付き……笑みを浮かべて頷いてみせた。


 ――もう少々、席を外しても?

 ――構いませんよ、ごゆっくり。


 そんな言葉無きやり取りが、二人の間でされているのではないだろうか。そう思わせる、視線の応酬だった。


 レンさんも、あの頃……最前線のレイドパーティに参加していた頃とは、随分印象が変わったな。

 表情は柔らかくなり、それに生き生きとしている。あの頃は周囲に対して壁を作っていたし、シオン以外とはつるんでなかったもんな。

 彼女の変化はやはり、【七色の橋】という居場所が出来たから。そしてヒイロ君という、素晴らしいパートナーと巡り会えたからじゃないだろうか。


 その頃はシオンも、クールビューティーなメイドさんくらいにしか思っていなかった。というか、本職とも思っていなかった。

 しかしどうやら、レンさんは本当に良いとこのお嬢さんらしい。つまりシオンも、本当にメイドだったという事だろう。

 まぁ、それで態度を変えるつもりもない……無かった、あの時までは。

 第三回の生産イベントに向けた、材料集め。その時にシオンが見せた、メイドではない素の表情。あれから俺は、どんどん彼女の事が好きになっていった。


 俺は、彼女が許してくれるなら……現実でも、交際をしたいと思っている。勿論、真剣に。その為に出来た、将来の目標についても聞いて貰いたいと思っていた。

 彼女のパートナーに、相応しい男になりたい。隣に立っても、見劣りしない様な存在になりたい。その為に、まずは……しっかりと彼女に、自分の気持ちを伝えなくてはいけない。


「場所を変える?」

 シオンは柔らかい表情で、そう提案して来た。彼女の提案は、俺にとっても渡りに船だ。

 この場で話せば、彼女への告白を周りの連中にも聞かれる。周囲に対する牽制にはなるだろうが、流石にそれは恥ずかしいしシオンも望まないだろうな。ここはお言葉に甘えて、場所を変えておきたい所だ。

「だな。シオンはどこが良いとか、あるか?」

「そうね……じゃあ」


……


 場所を移した俺とシオンは、ギャラリーで向き合う。

「それで、話って何かしら?」

 やはり、彼女の表情が柔らかい。俺には心を許してくれている……と思って、良いのだろうか。自惚れても、良いのだろうか。


 メイドではない、ありのままの彼女の表情。俺が告白したら、彼女はどの様な表情を浮かべるのだろう。デートをする時、どんな表情で笑うのだろう。気が早いのは自覚してるが、男女の関係になれた時はどんな顔を見せてくれるのだろう。

 俺はそれが見たいし、独り占めしてしまいたい。


 その為にも、まずは勇気を振り絞らなければ。そう思って、俺は彼女に本題を切り出す。うだうだとしていたら、誰かに横から掻っ攫われてしまう。それだけ、シオンは魅力的な女性なのだから。

「その、さ。明日は何か、用事とかあるかな。無ければ……俺と、デートして欲しい」

 そう言って、俺は頭を下げる。緊張で少し声が上擦ったのだが、やり直すわけにもいかない。

 五秒くらいで顔を上げれば、そこにはシオンの困惑した顔がある……と思った。が、そんな事はなかった。

「……デート、ね。まぁダイスなら構わないけれど」

 なんて、良い顔で笑ってくれるのか。というか、オーケー貰った? マジか? いや、待て。そうじゃない。デートしたいだけじゃないんだ。


「……あ、ありがとう。でもまぁ、その……ごめん、順番間違えた。デートしたいってのも、勿論そうなんだけどさ。本当に言うべきなのは、こっちが先だった」

「……うん」

 そうだ、まずはちゃんと告白するんだ。


 デートを了承してくれた。それはつまり、俺の事を嫌ってはいないという事だ。その事実が、俺のなけなしの勇気を後押ししてくれた。

「俺はシオンと、恋人になりたい。いずれは結婚して、一緒に生きていきたい」

 言った……言えた。言ってやったぞ、ついに。後は、シオンの返事を待つだけだ。たとえ今、この場で返答が貰えなくても……と思っていたら、シオンの目が少し悪戯っぽいものになった。

 俺はこの目付きに、実に見覚えがある。ヒイロ君を弄る時の、レンさんにそっくりだ。主従って、似るんだな。


「……結婚前提のお付き合い、と。それは、ゲームの中だけじゃなく……現実含め、で良いのかしら?」

 シオンが悪戯っぽい視線のままそう言うが、ここで尻込みしては男が廃る。俺はハッキリと、その言葉を肯定した。

「あぁ、ゲームの中だけじゃ無い。シオンと、将来を見据えて真剣に付き合いたい……その、重いか?」

「いいえ、誠実でとても良い事だと思うわ」

 途端に彼女の表情は、柔らかい笑顔に変わった。良かった、冷え切った視線で見られたら、どうしようかと思った……。


 俺の内心の葛藤を知ってか知らずか、シオンは一つ頷いてみせた。

「私もあなたを、とても好ましい人だと思っている。気配りも出来るし、リーダーシップも取れる。お嬢様達に対する思い遣りからも、あなたの懐の深さが良く解る。現実のあなたと通話した時も、とても素敵な好青年だと感じた」

 そんな風に思ってくれていたんだなと、俺は胸が熱くなる。当然、オーケーを貰いたいのだが……彼女がそう認めてくれた、それだけで俺は幸せだなと思ってしまった。


「だから……これからどうぞ、宜しくお願いします」

 そう言って、シオンは丁寧なお辞儀をして答えてくれた。


 オーケー? 本当に!? 良かった、これが「ごめんなさい」のお辞儀じゃなくて本当に良かった!!

「ガッツポーズして叫びたいくらい嬉しい」

「やったら引くかも」

「うん、だと思うから我慢しているし」

 ここで叫んだりしたら、ギャラリーの下に居る連中にバレる。自分が見世物になるのは嫌だし、シオンを見世物にするのも申し訳ない。なので、我慢だ。


 俺はシオンに真っ直ぐ向き合うと、この先の事について話す。今すぐ抱き締めてしまいたいが、そんな事をしたら彼女も困るだろうし。今いるギャラリーの下には、身内以外のプレイヤーも大勢居るしな。

「えーと、今後の事とか将来的な事も、話したいとは思うんだが……長くなると思うし、それは明日でもオーケー?」

「えぇ、たくさん話す事があるものね。今ここで話していたら、パーティーが終わってしまうから」

 こんな綺麗な女性が、今日この時からは俺の恋人なんだな。そう思うとまたも、胸の内から熱いものが込み上げそうになる。しかし俺はそれをグッと押さえ込み、落ち着きを装って笑った。

「まずは、今夜のパーティーを楽しもうか」

「えぇ。それじゃあ、テーブルに戻ろうかしら。あなたも、来る?」

「あぁ、喜んで」

 絶対に、この選択を後悔なんてさせない。俺の人生を賭けて、シオンを幸せにしてみせる。


「あぁ、そうだった。ダイスが一緒なら、デートで行きたい場所があるの。最寄り駅は、どこ?」

 しまった、ゲームでデートか現実でデートか言ってなかった。い、いや……現実で……彼女に会えるのか。

「あ、あとでRAINで送る……時間も、シオンに合わせるし」

「そう……待ってるわね」

次回投稿予定日:2023/3/30(幕間)


セバスとダイスによる、シオンを巡る恋模様。


あーあ、セバスかわいそー←

まぁ、自業自得なんですけどね。


ダイスは着実に好感度を積み上げて、シオンからの信頼を勝ち取って来ました。

それが今回のラストに繋がった感じです。


次回の幕間は……同窓会的な感じですかね!

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― 新着の感想 ―
[良い点] マスター、エスプレッソ濃い目ダブルで頼む!!(ジャリジャリ なんとなくセバスチャンの恋愛って前回も今回も、動き出した頃には全てが終わってるんじゃないかと思わされましたw
[一言] ダイスさん、リアル職業保父さんだったよね…グループ内に保育園あったらいいけど、なかったら結構大変かも いや、自社社員向けの保育園作ってしまえば将来的に問題ないのか? 虹を見る 春爛漫な …
[良い点] 覗き見してるのがいたら温度差で風邪ひいてそうですねw
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