15-42 パーティーで交流しました
パーティーが始まると、プレイヤー達は思い思いのテーブルに分かれ始めた。それはこのパーティーの主目的が、『第四回イベントの打ち上げ』と『ギルド間の交流促進』だからだ。一つのギルドで固まるのは、交流促進の観点から考えるとよろしくない。そう判断した結果である。
その為、【七色の橋】のメンバーも分散している。とはいえ、一人一人が分かれるのも少々敷居が高い。特に、カノンは断固拒否するだろう。第一、カップル率の高さから考えてもそれは受け入れ難かった。よってニ、三人で一組となり、分散する運びとなったのだ。
そんなギルドシャッフル状態のテーブルは、合計で十八カ所ある。
ちなみに主催側のギルドマスターは、席を移動しないという事になった。これはユージンが言い出した事であり、曰く「主催側の責任者は、挨拶回りをするのではなくドンと構えて待つものだよ」との事だ。
尚、【ラピュセル】【フィオレ・ファミリア】【闇夜之翼】【真紅の誓い】のギルマス達は、招待された側だから好きに動いていいとの事である。
よって会場の席はホスト側のギルドマスターが座す席と、それ以外のフリースペースとなる席に分けられる。今回のイベントで、一位の座に輝いた【森羅万象】のホスト席……そこで、ギルドマスターであるシンラは隣に座る少女に声を掛ける。
「ハル、パーティーは楽しみ?」
「ん? うん、楽しみだよお姉ちゃん♪」
「そう~、それなら良かったわ~。たくさん楽しみましょうね~♪」
当初はシンラの隣にはクロードが控え、ハルはアーサーに同席させようとしていたシンラ。しかしいつもの面々……アーサーガールズ、オリガ&ラグナがアーサーの周りに集まって動こうとしなかったのである。
そこで、クロードさんキレる。ギルドの大黒柱による勅命で、ハルはシンラの横に。オリガとラグナは、それぞれ単独で別テーブルへ。アイテル・シア・ナイルは三人で行動する様に厳命されたのだ。
では、アーサーは? クロードに首根っこを掴まれて、引き摺られて行った。ドナドナ状態。
そんなわけで、現在【森羅万象】のホスト席にはシンラとハルのみ。そこで、この席を訪ねて来るプレイヤーが現れた。
「こちら、相席大丈夫かしら?」
訪ねて来たのは【桃園の誓い】のフレイヤとゲイル、フレイヤのPACであるスティードだった。
「あら、どうぞ~♪」
「わ、【桃園】さん! 是非是非!」
シンラもハルも、三人を快く迎え入れる。最前線級のプレイヤーであり、少数精鋭ギルドの【桃園の誓い】。その中核であり、人柄も良いと評判の二人であれば断る理由はない。
ハルは純粋に、有名なプレイヤーとパーティーで話せる事に期待していた。安定の天使。
そんな二つのギルドの様子を見て、近くに居た青年が歩み寄った。
「失礼、俺も同席させて頂いても?」
周囲で【森羅万象】のホスト席に行くか行くまいか、迷っていたプレイヤー達は息を呑んだ。何故なら声を掛けたのは、【聖光の騎士団】の幹部であるベイルだったからだ。
「頭脳派プレイヤーとして名高いシンラさんと、一度話してみたかったんだ」
「あら光栄だわ~、ベイルさんもどうぞ~」
大規模ギルドを率いるギルドマスターの席を、大規模ギルドの幹部メンバーが訪ねる。これには周囲に居たプレイヤー達も、緊張感を高めざるをえなかった。
そして数分後。
「つまり【ザ・リッパー】なら、下準備さえ整えていればDPSが見込めるのね。うん、とても勉強になるわ」
「まぁ、下準備が必要なのはシンラさんの粉塵爆発も同じだよね。そちらと違って、俺のは単体相手なのが難点かな」
「あら~そんな事ないわ~。あのやり方、風で粉塵を散らされたら簡単に防がれてしまうもの~。フレイヤさんは純粋な魔法職でしょう? だとしたら、私は多分相手にすらならないわ~」
「ふふ、そこで頼れる仲間の力を借りる……でしょう? 私もベイル君に投げナイフでヒットストップされたら、何もできないもの」
「いやいや、御謙遜を。フレイヤさんの立ち回りから見て、近接対策も万全って感じに見えたし」
「まぁ、最前線クラスの後衛職はその辺り、身についているものね~」
めっちゃ和やかに会話していた。しかも、自分の戦術についてぶちまけていた。良いのか、それで。
「そういえばイベントの時、クベラさんは銃を使っていたよな?」
「あれは購入した品……では無いのだろう?」
「ジライヤはん、鋭いなぁ。アレは≪壊れた発射機構≫を手に入れて、知り合いの生産職人に製作して貰ったモンですわ」
「あ、それってもしかしてユージンさんですか?」
「アハハ、ハルさん当たり。バレバレやなぁ、やっぱり」
ベイルのすぐ後に、フリーの商人であるクベラと【忍者ふぁんくらぶ】のジライヤがやって来た。それぞれ、同じテーブルに集まったメンバーと楽し気に会話していた。
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その頃、各ギルドのホスト席にも続々とプレイヤーが訪れていた。
例えば【桃園の誓い】の席には、【遥かなる旅路】のリーリンとノクト。そして【聖印の巨匠】に所属する二人が同席し、談笑している。
「成程……そのチャイナ衣装も、あのユージンさんが……」
「結構前から、交流があったんですねぇ」
「えぇ、そうなの。ご存知の通り、ウチの姉妹ギルド……【七色】の子達と、ユージンさんが懇意でね? 私達もその縁で、色々お世話になっているのよ」
やはり【聖印の巨匠】としては、生産系の部分に目が行くらしい。かねてから気になっていた、【桃園の誓い】の中華風衣装や【七色の橋】の和装について質問をしていた。
「それじゃあ、武器や防具もユージンさんの作だったり?」
「PACのお二人の装備も、凄く性能が高そうですよね!」
その話題は【遥かなる旅路】のリーリンやノクトも興味があった様で、真剣な様子で会話に食い付いている。自分達のギルドには生産を主とするプレイヤーがおらず、装備の更新等はもっぱら外注。NPCの鍛冶職人か、鍛冶専門のプレイヤーに依頼しているのだ。
もしもここでユージンとの接点を得られれば、今後のプレイにおいて躍進が望めるかもしれない。そんな期待を抱いても無理はないだろう。
しかしそんな彼等の予想とは裏腹に、ケインとイリスの返答は意外な物だった。
「マークとファーファのは、そうだね。俺の剣と鎧は、クエストの戦利品だよ」
「私の杖は、ガチャ産。あぁ、ウチの追加メンバーの分は私達が製作したのよ。まぁ、ユージンさんに色々と教わったんだけどね」
外部委託するだけではなく、自分達も生産活動に携わっている。その言葉を聞いて、【遥かなる旅路】の面々は目を見開いた。
「え、あの……追加メンバーというと、それは……」
「レオンにヒューゴ、マール、ヴィヴィアン、ゼクトにバヴェル……六人分だね」
六人分の装備一式を、自分達の手で揃えた。その言葉を受けて、ノクトとリーリンは驚きを禁じ得ない。
――自分達でそこまでやって、その上であの成績……それも、小規模ギルドで……?
――私達は戦闘専門、そういう方針だったけど……もしかして、自分達で装備を作れる方が強くなれたりする……?
実際、生産活動でも経験値ボーナスは得られる。生産職の中には戦闘をろくに行っていなくても、プレイヤーレベルは高いというプレイヤーも居るのだ。勿論、純粋な戦闘職のプレイヤーには劣るが。
戦闘用のスキルレベルや、武技の習熟度を上げるには戦闘を行う以外の方法はない。生産職が戦闘に長けないのは、それが理由だ。
そんな彼等の疑問を察して、ケインが笑みを浮かべながら自分の考えを口にする。
「外注オンリーも、プレイスタイルの一つだと思う。純粋な生産職にとっても、その方がありがたいと思うからね。俺達は小規模だから、大規模や中規模のギルドと同じステージに立つ為に下準備が必要なんだ」
それはプレイヤーレベル、スキルレベルや習熟度、そして装備ランク然り。
「その為には、時間を有効に使わなければならないもの。全力のレベリングに耐え得る装備を、いち早く揃えるには外注だと時間が掛かるわ」
「あぁ、そこで自作にしたって訳だね。幸い、生産のノウハウは第三回でしっかり身に付いたし」
ギルド外のプレイヤーに装備の製作や更新を依頼する場合、時間が掛かるのは自明の理。それを短縮する為に、【桃園の誓い】は自分達で生産活動を行ったのだ。
――準備段階から……つまり第四回イベントの告知があった時から、ずっと全力で……?
――ははは、強い……強過ぎるだろ、このギルド……!!
ノクトも、リーリンも、【聖印の巨匠】の二人も……ケインとイリスの言葉を聞いて、戦慄していた。
これが【桃園の誓い】というギルドであり、小規模ながらもイベント第六位という成績を叩き出した面々。そんなギルドのトップツーの存在感に、彼等は圧倒されてしまうのだった。
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トップギルドとして真っ先に名前が挙がるとすれば、先の【森羅万象】や【桃園の誓い】は外せない。同様に誰もが注目するギルドといえば、【七色の橋】……そして、【聖光の騎士団】だ。
アークとシルフィが座す【聖光の騎士団】の席に、訪れるのは誰か? と多くのプレイヤーが固唾を吞んで見守っていた。そして、その第一号は……。
「こんばんは~! あの、相席大丈夫ですか?」
とっても元気な、中学生の少女だった。青髪ショートヘアで、青いサンタ衣装を身に纏った少女だった。そんな少女の傍らには、黒髪の美少女……と思いきや、その実は男の子な男子中学生が居た。めっちゃ「やめたほうが良くない!?」という顔をしている。慌てた顔も、大変かわいい。だが男だ。
「あぁ、君達か! どうぞどうぞ、遠慮なく! なぁ、アーク?」
「勿論だ。むしろ歓迎する、【七色】の……ヒビキに、センヤだったな」
アークとシルフィが、二人の相席を受け入れた。片や――サンタ服を着てはいても――このAWOにおいて最高峰のプレイヤーであり、大規模ギルドを率いるトップ二人。片や、幼さを感じさせる美少女――だが一人は男だ――コンビである。
その様子を見ていた一部の面々は、とんでもない光景を見たと驚きヒソヒソと話していた。
「行きやがったあぁぁっ!! 勇者か、あの二人!?」(小声)
「そういや、最終日のあの戦い……あの子達、アーク達と戦ってたんだよね!?」(小声)
「ひえぇ……怖いもの知らずじゃない……!?」(小声)
そんな一部のプレイヤー達の視線もなんのその、センヤは明るい笑顔でアークとシルフィに話し掛ける。
「イベントでは、対戦ありがとうございました! めちゃくちゃビビったけど、すっごく楽しかったです!」
とっても明るく、元気がよろしい。そんなセンヤの挨拶に、アークは一つ頷いて応えた。
「こちらも、実に心躍る戦いだった。君達とあの舞台で戦えた事を、実に嬉しく思う」
いつになく、アークの口数が多い。普段は「あぁ、了解した」とか、「そうか、では詳細な報告を」とか短文で簡潔な事ばかり口にするのだ。これにはシルフィも内心で驚いており、チラリとアークとセンヤの様子を見ると……アークがどことなく、落ち着かない様子である事が見て取れた。
勿論、これは多くの時間を共にしているシルフィだからこそ気付けた事だ。アークとの関りが薄い者には、いつも通りの仏頂面をしている様に見える事だろう。
――アーク、アンタもしかして……こういう真っすぐな言葉には、弱いのか?
そんなシルフィの視線に気付き、アークは助けを求める様な視線で応えた。はい、正解でした。
アークはDKC時代からこれまで、トッププレイヤーとして君臨し続けて来た男だ。故に近付く者はアークの実力にあやかりたいか、負けじと喰らい付くタイプの者ばかりであった。
AWOが始まり、このゲームでも【聖光の騎士団】が結成されて少しずつ緩和されてきたその雰囲気。それはギルバートやライデンが、アークの脇を固めていたのもある。しかし絶対的な強者であるアークは、ギルドメンバーからも物怖じされる存在であったのだ。
第一回イベント以降、少しずつ変わり始めたアークだが……ここで、意外と「真っすぐ好意的な対応をされると、どうしていいか分からない」という事実が発覚したのだった。
最もその事に気付いているのは、このパーティー会場に集った中でも側にいるシルフィだけである。
――……くっ、駄目だ、笑うな……!! アーク……アンタにも、こんな可愛い部分があったなんて……反則だ、もう……っ!!
にやけそうになる口を、必死で堪えるシルフィ。しかしながら、このままアークを放置しておいたら後で恨み言を言われそうである。ここは、サブマスターとして彼のフォローをしてやるべきだろう。
「そっちの……ヒビキ君、でいいかい? 君も中々の実力だったよ」
「え? あ、ど、どうも……いえ、僕なんてまだまだで……」
アークの様子に笑いを堪えながらなので、シルフィも口調がちょっと硬めになってしまっていた。対するヒビキは、その言葉を真っすぐに受け止めているので雰囲気自体は悪いものではない。
ちなみに笑いを堪えているせいで、シルフィの表情が不機嫌そうなものだと勘違いする者達……ちょっと近くに集まっている、先程の面々が慌て出していた。
「おいおい……!! シルフィさんまで、不機嫌そうだ……!!」(小声)
「仕方ないだろ!! 最終日にアークさんもシルフィさんも、【七色】にやられてるんだぞ……!!」(小声)
「確か、あの夫婦と一緒に居たんだよね、あの二人……!!」(小声)
小声で叫ぶとか、結構この人達って無駄に高度な会話技術を会得している気がする。
そんなある種、異様な空間。そこにやって来る者達が現れた。
「お、珍しい組み合わせじゃんか」
「俺等もここ、一緒させて貰って良いかな?」
それは【桃園の誓い】のダイスに、【魔弾の射手】のビィトだった。二人はヒビキとセンヤが、【聖光の騎士団】の席に居るのに気付いてやって来たのだ。
「あぁ、勿論構わない……ダイスは久方振りだな」
「おう、確かに久し振りだな」
ダイスは元々は最前線級のソロプレイヤーとして、アーク主催のレイドパーティに参加していた内の一人だ。しかしながらギルドに所属してからは、アークと顔を合わせる機会が中々なかった。
「それに、【魔弾】のビィトさん……だったかな。こうして話せる機会が出来て、とても嬉しいよ」
「こりゃどうも。こっちこそ、トップランカーの人達と話せてありがたいな」
ここまでは、別段不思議でも何でもない。【桃園の誓い】も【魔弾の射手】も、【七色の橋】と親交が深いギルドだ。【七色の橋】においては歳若く、知名度的にも実績的にもそこまで高くない二人を見かねて参戦してもおかしくはない。
だが、そこからが問題だった。
「こちら、まだ席は埋まっていないだろうか? 宜しければ、相席させて頂けると助かる」
ここでまさかの、【森羅万象】のクロード。【聖光の騎士団】と並ぶ大規模ギルドのサブマスター。生産職兼頭脳労働担当のギルドマスターに代わり、戦闘における指揮権の一切を引き受ける強者だ。
そして何より彼女は、DKC時代よりアークと戦いを繰り広げ続けて来た人物。長きに渡るライバルなのだ。
「あ、俺も俺も!」
「良かったら、御一緒させて頂きたい」
重々しさを感じさせるクロードとは対照的に、軽い調子で席に歩み寄って来たのは【遥かなる旅路】のロビン。そして【忍者ふぁんくらぶ】の創設者にして、副会長であるコタロウだ。
「千客万来だな、勿論歓迎する」
傍から見れば、受けて立つ! といった意味合いに聞こえるアークの言葉。しかしその内心では、彼は別の事を考えていたりする。
――ギルド間の交流を深めるのに、実に良い面々だ。この貴重な機会、逃す訳にはいかないな。
今回のイベントで敗北を喫したアークは、ある一つの要素について真剣に考えていた。自分がジンに敗北した、最大の要因……その敗北経験を活かし、更なる高みに昇り詰める為に必要な物。それは……。
――ジンにあって俺にないもの……か。ならば俺はその欠点を克服する。そして次こそは、俺が勝ってみせるぞ……ジン。
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そして、大規模ギルドに劣らぬ好成績を収めた注目のギルド。【七色の橋】のホスト席は、最初から六人のメンバーが席に着いている。ギルドマスターのヒイロは、まず動けないルールだ。最愛の恋人がそこに居るならば、当然サブマスターのレンも同席する。そしてレンの付き人であるシオンは、特別な事情が無い限りは彼女の側に控えるのが常だ。
そこに加わるのは、三人の契約したPACである。剣鬼セツナ、執事ロータス、料理人カーム……PACは基本的に、マスターと同席するのが暗黙の了解であった。
その理由は、PACというシステム上の懸念事項があるからだ。外部のプレイヤーに話し掛けられたPACは、多くを話す事は出来ない。契約者の許可が無ければ、話せない事項が多いのだ。特にギルドの内情や、メンバーのスキルやステータス等々……話せない話題は多岐に渡るのである。
それでは交流にも支障が出るし、PACの機嫌も悪くなる可能性があった。故にどのメンバーも、PACは契約者と同席するという方向性になっていたのだ。
そんな訳で、最初から六人で来訪者を迎えるという形となった【七色の橋】のホスト席……そこに集まったのは、実にユニークな面々だった。
「ん~! このお料理も、とっても美味しいですね~!」
「そういえば、リリィ様は帰ってすぐにログインしたのでしたね?」
「確かに……お食事とかは?」
「あはは、心配ご無用ですよシオンさん、レンさん。軽くお腹に入れてますから!」
「そうですか、それは何よりです」
今日集まったメンバーの中で、現実でもゲームでも有名なプレイヤーであるリリィ。彼女も今回のパーティーでは交流を頑張るつもりだが、先程までは芸能活動で多忙を極めていたのだ。最初はとにかく、気兼ねせずに済む【七色の橋】の席に訪れていたのだった。
「アイドルは大変そうだよなぁ……無理はしないようにな? ウチにもリリィさんのファンが居るし、俺等も結構応援してっからさ」
「えぇ、健康に気を付けて下さいね、リリィさん」
「ふふっ、クリムゾンさんにスカーレットさんも、ありがとうございます♪」
クリムゾンとスカーレットは、単純にリリィのファンだった。しかし彼女が「ゲームをしている時はアイドルとしてではなく、一個人として」というスタイルなのを良く知っていた。それくらいには、リリィに詳しいファンである。ちなみに彼女の出したアルバムは、全て揃えているくらいには熱心なファンである。要するに、ただのガチなファンである。
なのでちやほやするのではなく、リリィが気兼ねなく楽しめるように……そう配慮しつつ、彼女との会話を楽しんでいた。物凄く弁えたファンである、ヨシ。
そして、その傍らでは……二人の人物が、武器を見せ合って唸っていた。
「成程、これが≪征伐者の直剣≫……私のと、同じシリーズの武器みたいですね」
「みたいだな。まぁ、他にも似たようなのがあるみたいだ」
「うん、俺もイベントで似たような武器を見たね」
「しっかし凄い名前だね、≪断罪者の大鎌≫って。あ、だからシスター服だったり?」
「あぁ、いえ……現実で少々、近所の教会のお手伝いをしていたせいで……」
ヒイロと会話しているのは、【森羅万象】のアーサーと【聖光の騎士団】のヴェイン。そして、【闇夜之翼】のセシリアであった。
アーサーはクロードに引き摺られた末、【七色の橋】の席手前で「粗相のない様にしろよ、いいな」と放置されたのだ。スパルタな姉御である、いつも通り。
丁度そこに通り掛かったのが、セシリアだった。その様子を見ていたセシリアが、自分も【七色の橋】の席に挨拶に行くから一緒にどうか? と申し出たのだ。更にそこへ、ヴェインが加わった。
「ウチの人達がさ、【森羅】の人とも友好的な関係を結びたいみたいでね? 人望厚いアーサー君なら、無碍にしないでくれんじゃないかなって思ってさ」
腹に一物抱えて良そうなヴェインだが、アーサーはギルドの幹部であり、エースと呼ばれる立場だ。彼の申し出も受け入れて、三人で【七色の橋】の席に訪れたのである。
その結果、話題はそれぞれの武器について……になった。
「まぁ、オモシロ武器は結構多いんじゃないかな? 【七色】さんの刀は、販売してんでしょ? 結構なお値段らしいけど」
「それはまぁ、カノンさんが鍛造した物ですけどね。俺達も一緒にやっているんですけど、そっちは並の性能でして……そっちであれば、それなりに安価な品のはずですよ」
「へぇ! 良いなぁ、俺も買おうかなぁ……いや、日本人って好きじゃん、日本刀!」
「まぁなぁ……うん、気持ちは解るよ」
「サブ装備がナイフなのですが、短刀みたいなものも御座いますでしょうか?」
「えぇ、短刀もありますよ。あとはジンみたいな小太刀とか、脇差も勿論あります」
「武器っていえば、ヴェイン……さん。アンタの銃も、結構なモンじゃないのか?」
「いやぁ、俺は後発でしょ。二番煎じだって」
「銃を扱うプレイヤーも、増えて来ましたよね。第二回では、結構な話題になりましたし」
クリスマスにする話題が、武器の話というのも物騒かもしれないが……しかしこの世界は、VRMMOの世界。であるならば、装備品の話に花が咲くのも至極当然なのかもしれない。
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武器関連で盛り上がっている席は、一つ二つでは無かった。その中でも大層盛り上がっている席が、【魔弾の射手】のホスト席である。
この席では女子大生・女子高生・女子中学生が揃いも揃って、武器やスキルについての話題で盛り上がっていた。
「えっ、それ凄くない!? あはは、面白いわね~!」
「そうなんですよ、意外とこれがイケて! まぁ、その……イズナさんがどうしても! っていうからだったんですが」
「えっと、ハヅキさん? 私、さっきの矢を同時に複数本撃てるっていう弓に、とても興味が……」
「あ、アイテルさんが食い付いちゃった……」
「ナイルさんの≪メデリオルスの鎖≫は、ガチャ産でしたっけ? ボクはガチャ運無いから、羨ましいです~!」
「あ、それは違うんだよイナズマちゃん。ナイルたんの≪鎖≫はトレードしたんだ、アイテルと」
「うん……アイテルさんの【ホーミング】は、私がガチャで出したから……」
「へぇ、そうだったんですね! ん……? いや、どっちにしろガチャ運良いじゃないですか!」
それはもう、女子会か? というくらい楽しそうである。テーブル上の皿がスイーツ系で満たされているのも、女子会っぽさに拍車をかけている。ちなみに話題は女子会っぽくない。
「いやぁ、思ったより楽しいかも! ジェミーさんって、こう……クールビューティー! みたいな印象だったし」
「あら、そうだったの? 仲間内では、結構こんな感じなのよ」
「親しみやすい感じがして、安心できる……」
シアとナイルの言う通り、ジェミーはこれまで”銃使いギルド【魔弾の射手】のギルドマスターを務めるクールビューティー”という印象が強かった。そう感じないのは、親交がある【七色の橋】や【桃園の誓い】といった同盟ギルド……そして、ユージン・リリィ・クベラだけである。
それも無理のない事で、【魔弾の射手】の姿を見られる場合の多くがイベントの中。第二回イベントのトーナメント以降、今回のイベントまで公の場で姿を見られなかったのだ。
そしてイベント中の彼女は、冷静沈着な任務遂行モード。そうなると、自然とイメージはクールでおっかない美人といった印象になってしまうのだ。
「それに、【忍者ふぁんくらぶ】の方々も……そうしていると、普通の女子にしか見えませんね」
アイテルがそう言うと、イナズマとハヅキが「あはは……」と苦笑いする。
「まぁ、忍者ロールプレイをしてなければ、普通の女子中学生ですし……」
「ボク達も、【忍者ふぁんくらぶ】に加入してから鍛えた感じだしね~」
聞けばイナズマとハヅキは、同じ中学のクラスメイトらしい。二人は中学三年生で、AWOが初めてのVRMMOなのだそうだ。
イナズマは第一回イベントでジンに救われ、それ以降は彼のファンになったそうな。ハヅキはイナズマに付き合ってジンを追い掛けていたら、気付けば自分も彼のファンになったらしい。そうして二人を見掛けたアヤメが、彼女達をスカウトしたのだという。
「面白いわよね、ジン君。気が付いたら、彼の人柄に皆惹かれちゃうんだもの」
イナズマとハヅキを肯定する様に、ジェミーが話に加わった。しかしアイテルとシアは、第二回イベントの準決勝での敗戦から中々それに頷けない。しかしイナズマの次の言葉が、二人のそんな感情を揺り動かす。
「はい! ギルバートさんやアーサーさんも、すっかり頭領様と仲良くなっていましたし!」
「「え!? アーサー(さん)も!?」」
この二人は、まだジンとアーサーが友好を深めている事に気付いていないらしい。それも仕方のない事で、偽物事件の際にフレンド登録をした事は知っているが……ジンとアーサーが水面下でスパイ撲滅に向けて、協力し合っていた事は伏せられていたのだ。
そんな二人の動揺に、イナズマは何でもない事の様に頷いてみせる。
「メッセージで、ちょくちょくやり取りをしていると頭領様から聞きましたよ!」
「「……知らなかった」」
そこで二人は、何となくジンの姿がどこにあるのか気になった。そうして会場内に視線を巡らせて……彼とその周囲に集まるプレイヤーの姿を見て、首を傾げた。
「めちゃくちゃ、交流してるね……」
ナイルのそんな率直な感想に、アイテルとシアも思わず頷いてしまう。
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「いやぁ、こんな機会に恵まれるとは思わなかった!」
「本当、こういうパーティーも良いものよねぇ」
「あぁ、ジン君……で良いかな? こんなに話しやすい人だったとはね」
「トップランカーなのに、全然気取ったところも無いしねー!」
「いやいや。こちらこそ様々なギルドのメンバーとお話し出来て、とても光栄でゴザルよ」
「ヒメノちゃんと、こうして色々お話しできる日が来るなんて……」
「全くだ、今まででは考えられなかったもんな」
「やだー、実際に間近で見るとマジ可愛いんだけど~!」
「あぁ、今日は良い日だわ~!」
「ありがとうございます! 私も皆さんとお話し出来て、楽しいです♪」
ジンとヒメノの周囲に居るのは、各ギルドにおいて一般的なレベルのプレイヤー達だ。【聖光の騎士団】【森羅万象】【遥かなる旅路】【白狼の集い】から、二名ずつが集まっている。
第四回イベントでは、対峙した顔もある。そんな彼等に囲まれる二人だが、にこやかかつ和やかに会話を楽しんでいるのだった。
ジンとヒメノが積極的に他のギルドの面々との会話に応じるので、自然と集まったプレイヤー達もギルド関係なしに会話をするようになっている。
リンとヒナは、夫婦の傍らでもくもくと食事を楽しんでいる。とはいっても話題を振られれば応対するので、雰囲気自体は決して悪く無い。むしろクールな印象を受けるリン、ヒメノにそっくりなヒナが美味しそうに食事をする様子に同席者達の目尻は下がりっぱなしだ。
そして何より……机の上にちょこんと座ってジンやヒメノ、リン・ヒナに取り分けられた料理を堪能しているコンが居る。
「いやぁ、凄くお利口な子だねぇ」
「ねぇねぇ、私達もあげても大丈夫かしら!?」
「きっと、大丈夫だと思うでゴザルよ」
「食べられないモノとか、ある!?」
「いえ、コンちゃんは何でも食べますよ~!」
そんな一際賑やかなテーブルの中心は、やはりジンとヒメノになる。二人は寄り添う様に隣に立ち、ピッタリとくっ付いて離れない。
しかし誰もそれを咎めはしないし、むしろ微笑ましい気持ちでいっぱいだ。なにせ二人は恋人同士であり、ゲーム内では夫婦である。そしてそんな二人の絆が【禁断の果実】との戦いにおいて決め手となり、最強の男アークにすら勝利を収めたのだ。
集まった中には独り身の者も多いが、それでも彼等の意志は一つとなっていた。
――てぇてぇ。
もしもここで腕を組んでベッタリされたり、あーんとかし合ってイチャついたりしたらその限りでは無いかもしれない。だが二人は自然な様子で互いに寄り添い合い、その上で他のギルドの面々と談笑していた。それぞれ別のプレイヤーとの会話に興じる事もあれば、二人で一緒に会話に応じる事もある。
ちなみに二人は、この場でイチャイチャするのは控える事にしていた。ナチュラルに甘い空気を充満させるジンとヒメノだが、今回はよそ様との合同パーティーだとしっかり理解している。仲間内では普段通りで良いかもしれないが、他ギルドと一緒の時は自重しているのだ。
また、主目的である「ギルド間の交流」という点についても、重きを置いている。このパーティーでギルド同士の間にある溝を埋められれば、今後のAWOでの活動がより良いものになると信じている。
だからこそ二人は、率先して他のギルド……特に、あまり会話した事が無い人達との交流を持とうとしているのだった。そうすれば他のテーブルも会話が弾むだろうし、テーブルを移った時に更なる交流が生まれると考えている。
ちなみにジンとヒメノも、内心ではイチャイチャしたいとは思っている。自分達が注目を集めているプレイヤーだと自覚しているので、パーティーを成功させるべく我慢しているだけだ。
でも、大丈夫。今日はクリスマス・イヴであり、クリスマス本番は明日なのだ。
――それに明日はジンさんと、初めてのクリスマスデートですし……!
――ここで二人の時間を満喫できない分は、その時に取り返そう……!
しっかりと、以心伝心で通じ合っていた。
次回投稿予定日:2023/3/15(本編)
どいつもこいつも、描いていて楽しいなぁ(ほっこり)
しかしながら、やはり最後はこの夫婦!
この二人が糖度を振り撒かないと、この物語進まないですからね←