15-41 クリスマスパーティー始まりました
豪華メンバーにより準備が整っていく、クリスマスパーティー……その会場に集まった面々の中に、毛色の違うメンバーが数名……数組、増えていた。
その内の一組は、赤い人達だった。クリスマス・イヴなのでサンタ服を着ている……という訳では無い。普段から、とにかく赤い人達である。赤というか、真紅である。
「こんばんはクリムゾンさん、スカーレットさん」
「……ケイン、さん。こ、こんばんは……」
朗らかな笑みで二人を出迎えるケインに、クリムゾンはなんとも言い難い表情で挨拶を返す。
一方的にライバル視し、第四回イベントで一騎討ちを挑み、そして敗北した相手だ。その相手に快く迎え入れられるという事態に、複雑な胸中なのは間違いない。
そんなクリムゾンに苦笑しつつ、スカーレットも挨拶を返す事にする。
「こんばんは、ケインさん。えーと、本当に私達も参加して良いのかしら?」
キリッとしながらも、声色や目元は柔らかいスカーレット。戦うとあらば戦意を滾らせる彼女も、このクリスマス・イヴの雰囲気に影響されている様だった。
「あぁ、問題ないよ。ゼクスから連絡を貰って、すぐに他のギルドマスター達にも了承を得てある」
そう、二人がこのパーティー会場に訪れたのは、調達班……ゼクス達、ジュエルベリー組と遭遇したのが切っ掛けだった。
「お、来たか! 待っていたぜ、お二人さん!」
「どもども! さっきは素材集めの手伝い、ありがとうございました!」
先に素材を届けに来ていたゼクス達が、【真紅の誓い】二人の到着に気付いて駆け寄って来た。彼等はギルド問わず、クリムゾンとスカーレットの来訪に歓迎ムードである。
「いやぁ、あんたらが来てくれて助かった! あのハチ、めちゃくちゃ厄介だったもんなぁ!」
「しかも倒したと思ったら、捕まっていたのもモンスターだし? 超うざかったねぇ」
調達班はメイティングワスプに遭遇し、苦戦していたのだ。そこに偶然通り掛かった二人が、加勢は必要かと声を掛けた。ゼクス達はその申し出を受け入れ、二人は調達班と共にメイティングワスプと戦闘。彼等のお陰で誰も犠牲になる事なく、ジュエルベリーを集める事に成功したのであった。
「という事さ。皆、君達に感謝している。だから、どうか遠慮せず」
ケインがそう言えば、調達班の面々が笑顔で同意した。どうやら、本当に歓迎されているらしい。
「……ま、まぁ……それなら、ありがたく」
「そうね。あぁ、遅れたけれど……お誘い、ありがとうございます」
二人としても、こう歓迎をされては断りにくい。何より、このそうそうたるメンバーが揃ったパーティーに参加出来るのだ。それならば、断る手はないだろう。
クリムゾンとスカーレットが、ケイン達に促されて会場に入る。そこに居るのは、実にそうそうたるメンバー達である。
「うわぁ……本当にこんな豪華メンバーが集まっているのね……」
「しかも、戦ったり競ったりするんじゃなく……パーティーする為ってのが、また……」
既に設営は完了し、パーティーホールはクリスマスムードで満たされている。そこに集うプレイヤー達は、ギルド関係なく談笑しており賑やかだ。
「ははっ、だろう? またすぐに、イベントなんかでライバルとしてかち合うかもしれない。リソースを奪い合い、競い合うのかもしれないけれど……」
そう言って、ケインは二人に振り返って笑みを浮かべる。
「こうして、共有できるものもあるって事だね。俺はこういうの、悪く無いと思うんだ」
心からそう言っているのだと、クリムゾンとスカーレットはすぐに察した。そして、ケインというプレイヤーの人間性に感心すらした。
これでは、クリムゾンも兜を脱がざるをえなかったらしい。肩を竦めて、緊張の抜けた自然体の笑みを浮かべてケインに正面から向き合い……同意を示した。
「……あぁ、俺もそう思うぜ」
……
そんなクリムゾンやスカーレットと同様に、飛び入り参加した者達……セスに招待されて同行した、フィオレ達とセシリアも既に会場入りしていた。
「これは誇張抜きで、凄いメンバーが集まっていますね……」
「同意するわ、セシリアさん……本当に、トップランカー揃いって感じね」
もしもこれが【七色の橋】【桃園の誓い】【魔弾の射手】といった、同盟関係にあるギルドで固められたパーティーならば理解が出来る。掲示板等でも、このギルド同士の交友関係が深い事は知れ渡っているのだ。
しかしそれに加えて【聖光の騎士団】【森羅万象】といった二大巨頭に、中規模ギルドでも特に有名な【遥かなる旅路】が加わるとなると話は別。かと思えば、彼等には実績的に及ばないはずの【白狼の集い】まで参加している。その上、今回のイベントで注目を浴びた異色のファンギルド……【忍者ふぁんくらぶ】まで居て、和やかに会話をしているのだ。
特に【聖光の騎士団】と【森羅万象】は、長きにわたって熾烈なトップ争いを繰り広げて来た。簡潔に言うのであれば、犬猿の仲同然だった。そんな二大ギルドが、肩を並べて談笑する様は青天の霹靂である。
そしてこの集まりに参加しているのは、各ギルドが厳選したメンバーだ。つまりそれぞれ、トップや幹部が軒並み参加しているのである。トップランカーが集結していると言っても、過言ではない顔触れだろう。
そんな四人をここに招待したセスは、現在バーカウンターの中でドリンク作りの最中である。数名のプレイヤーが手伝っているが、ドリンク作りの中心はセスだ。パーティー参加者はかなりの人数なので、実に忙しそうである。
「……忙しそうですね、セス様は。あの、私もお手伝いに伺っても宜しいでしょうか?」
そう言い出したのは、セシリアだ。ただパーティーに参加し、御相伴に預かるだけでは気が引けるらしい。
「……そうですね、私も何もせず居るよりはその方が。では、一緒に参りましょうか」
フィオレもセシリア同様に、せめて手伝いくらいはと思ったらしい。二人が笑顔で頷き合うと、ステラとネーヴェもそれに賛同する。
「だねー、折角だしパーティーに貢献したいよね!」
「タダ飯くらいになるのは、勘弁だし……少しでも、何か出来るならやるべきだよね」
そうと決まれば、行動あるのみ。四人は早速、セスの居るバーカウンターへ向かった。
「セスさん、私達に何かやれることはありますか?」
「僕達でよければ、お手伝いさせて下さい」
四人がそう言うと、セスは遠慮の言葉を告げようとした。だが踏み止まって、苦笑いで頷いてみせる。
「完成したドリンクが、そこの長テーブルに並んでいるんだ。それを参加者に配らないといけないんだけど、頼めるかな」
招いた側として、手伝わせるのは申し訳ない……という考えもあった。しかし彼女達はやる事も無く、手持ち無沙汰なのだろう。それでは居心地も悪いだろうし、だからこそ手伝いを申し出たのだろうとセスは考えたのだ。
ドリンクを配るならば、他の参加者と顔を合わせる事になる。それはプレイヤー同士の、交流の切っ掛けになるかもしれない。他の参加者にも、彼女達にもプラスになるのではないかという思いがあった。
そんなセスの要請を、四人は笑顔で受け入れた。
「それでしたら、この辺りは私が……流石に、未成年にアルコール類を配らせるのはまずいですしね」
「確かに。じゃあ僕はこの辺りのドリンクかな」
「では私は、こちらのお茶系を担当させて頂きますね」
「じゃあジュース系は私ね! まっかっせてー!」
……
そして、三組目の飛び入り参加者……それは【ラピュセル】の面々であった。ギルドマスター・アナスタシアと、サブマスターを務める【アシュリィ】……そしてテオドラと、アナスタシアのPACであるリューシャだ。彼女達はジンやレーナに会場内を案内され、今はギャラリーからホールの様子を見渡していた。
「これ程の規模のパーティーとは、存じませんでした……」
「うん、これには驚いたわぁ。呼んでくれてありがとう」
「いやいや、礼には及ばぬでゴザル」
「そうそう! サインバードを狩るのにも、手を貸してくれましたしね♪」
実はアナスタシア達はフィールドを移動している最中に、PKer達に襲われたのだ。運が悪い事に、他のメンバーは現実で予定がある。故にこの三人と、アナスタシアのPACであるリューシャしか居ない状況だった。
高レベルプレイヤーである彼女達だが、多勢に無勢とあっては苦戦は免れない……といった所で、そこを通り掛かったのがサインバード班。ジン達は重犯罪者と襲われるアナスタシア達を見て、即座に助太刀に入った。
「全く、暗殺とかマジ勘弁ですよ……折角のイヴが台無しになる所でした」
不満タラタラなテオドラだが、彼女も彼女でアナスタシアとイヴを過ごせる(しかもパーティーに参加出来る)とあってか機嫌は回復していた。
「えぇ、本当に……しかし、残念ですね。一部のメンバーには、逃げられてしまいました」
ちなみにそのPKer達は、第四回イベントに参加していたギルド【深淵】だった。彼等はイベント上位に入賞したアナスタシア達を尾行し、襲うチャンスを見計らっていたのだ。
そうしていよいよ、PK開始……という所で、空から降って来たのはやっぱり忍者。更には有名ギルドの面々が続々とアナスタシア達の援護に加わり、一瞬で形勢が逆転したのだった。
PKer達は、ジン達の参戦を確認した後すぐに逃走に移った。イベントの最中に手酷くやられたのだから、当然と言えば当然だろう。
逃げた連中は、また彼女達……または、他のプレイヤーの暗殺を目論む可能性が高い。ジン達も、アナスタシア達もそう考えていた。故に仕留め切れなかった事が、悔やまれた。
暗い表情を浮かべる彼女達だが、折角のパーティーだ。ここは一つ、元気付けようとジンは声を掛ける。
「ともあれ、この場に集まったギルドには【深淵】について報告済みでゴザル」
「そうそう! 折角のパーティーですし、リラックスして楽しんで行きましょう?」
レーナもジンに同調し、アナスタシア達にパーティーを楽しんで欲しいと告げる。そんな二人の気遣いに、アナスタシアも頷いてみせた。
「……えぇ、お二人の仰る通りですね」
フッと表情を緩めたアナスタシアだが、彼女はすぐに表情を引き締め直す。
「ところでジンさん……後程、少しお時間を頂けますか?」
真剣な表情のアナスタシアの言葉に、ジンは何かしら重要な話があるのだろうと察した。
先のPKerの事か、もしくはイベントでの事だろうか。それは解らないが、わざわざこう言うくらいなのだから必要な事なのだろう。ジンはそう判断し、アナスタシアに了承の意を示そうと口を開きかける。
しかしジンが返事をする前に、テオドラが慌てた様子でアナスタシアに詰め寄った。
「アナさん、ダメです!! いけません、それはいけませんよ!! だってこの人、ヒメノって恋人が居てゲーム内では結婚済みで【七色】の主力でおまけに忍者ですよ!? ダメですっ!! そんなの認められません!!」
「……は? い、いえ!! 誤解です!!」
「誤解も六回も全力全開も無いんですよ!! イヴの夜に男女二人!! 何も起こらないはずがなく!!」
「違います、そういう意味合いではありません!!」
「アナさん、イヴの夜に誘うなら私がお相手しますから!! ゲームでもリアルでもばっちこいですよ!!」
「何故そうなるんですか……!?」
詰め寄るテオドラと、困惑するアナスタシア。そんな二人の様子に、ジンもレーナも口を挟む事が出来ない。というか、途中からテオドラは自分の願望を垂れ流しているのだが、大丈夫なのだろうか?
「テオちゃん……どうしちゃったのかしら?」
テオドラの豹変……実際は本能覚醒、もとい本性解放なのだが。日頃見せない勢いなので、アシュリィも不思議そうにしていた。
「……えーと、ではヒメも同席するであれば如何でゴザルか?」
「あ、それが良いんじゃない? それなら問題ナシでしょ」
「そ、そうですね!! ジンさんとヒメノさんが宜しければ、それでいきましょう!!」
アナスタシアは、名案だとばかりに何度も頷く。これで問題解決、そう確信したのだろう。
しかし、暴走モードのテオドラはそう簡単には止まらない。小声でブツブツ呟きながら、ジンに対して胡乱気な視線を向けていた。
「……カノジョ同伴? いや、アナさんの美貌に目が眩んでいるに違いない。それなら……まさか、自分のカノジョを巻き込んでさんp……「テオちゃ~ん、ちょっと黙ろうか?」……ヒィッ!?」
背後から頭を鷲掴みにされたテオドラから、恐怖の悲鳴が漏れ出た。ニコニコしながらアイアンクローしているのは、サブマスターのアシュリィである。
アシュリィから漏れ出る威圧感に、テオドラは口を噤んでプルプル震え出した。
――見た目はゆるふわ系に見えるけど……アシュリィさんから、体育会系のオーラを感じる……!!
「ジンさん、レーナさん。ちょっとこの子を落ち着かせてから、下に伺いますねー。ご迷惑にならないように♪」
「「あっハイ」」
アシュリィが何をするのか気になる所ではあるが、ジンもレーナも異論を唱える事は出来なかった。
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一方その頃。
「ぐ……っ!! 何故、お前らが、俺達を……!?」
「お、同じPKer同士だろ!! なのに、何で……!!」
フィールドの地面に転がされている彼等は、【深淵】のメンバー。暗い森の中で、HPが尽きて身体に力が入らない状態である。つまり、彼等はKILLされたのだ。
「同じだ? 笑わせんな、ゴミ屑共が」
そう言うのは、黒い衣装を身に纏った青年。彼は心底下らないと言った態度で、【深淵】の面々を見下していた。
「多勢で少数を嬲るテメェらと、俺達が同じだと? んな訳ねぇだろうが」
ジン達から逃げおおせたのは、三人。その三人に対し、彼は一人で戦った。その上で、彼等を倒し切ってみせたのだ。
「覚えてろよ……【漆黒の旅団】……!!」
そう、彼等を仕留めたのは【漆黒の旅団】。相手をしたのは、勿論グレイヴだ。
「ハッ、上等だ。次はもう少し、マシになってから出直せや……あぁ、そうそう。クリスマスプレゼントをどうも、ゴミ屑ども。メリークリスマス」
「くっ……!! 絶対に、この借りは返すからな……!!」
その捨て台詞を残して、【深淵】の三人は強制ログアウトさせられた。重犯罪者である彼等が消滅したその場には、彼等のスキルオーブや所持品がドロップする。
「暗殺ギルドとか名乗ってたが、完全に装備頼りだったな」
「ほんっと、PKerの株が下がる事をしないで欲しいわねぇ。それでお頭、これはどうする訳?」
アッドとエリザが、ドロップした物を見て声を掛ける。それに対し、グレイヴは口の端を吊り上げながら振り返る。
「ちゃんとシステム的に許可されているし、折角のクリスマスプレゼントだ。有り難く頂いておこうぜ……銃をよ」
ドロップした品を回収し、歩き出すグレイヴ達。その道中で、リーパーが「あーあ」と声を上げた。
「町に入れないって仕様、どうにかならないものかなぁ。折角のクリスマス・イヴだってのに」
「そう拗ねるな、リーパー。食材も手に入ったし、何か作ってやるから」
「ケーキ!? ケーキ作れんの、アッドさん!!」
「ちょ、おま……遠慮が無いな」
そんなやり取りをしていると、グレイヴが足を止めて振り返る。
「おい、リーパー」
グレイヴの低い声に、リーパーは口を噤む。流石に浮かれ過ぎだったかと、謝罪の言葉を口にしようとしたら……グレイヴは、ニヤリと笑ってみせた。
「ケーキの前に、チキンに決まってんだろ。何の為にサインバード狩ったと思ってんだ」
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そんな事態になっているとは、露知らず。ジン達はパーティーの準備を着々と整え、そうして大量の料理も運び込まれて来た。
調理班に参戦していたヒメノも、自分の担当を終えるとジンの下へと小走りで駆け寄る。
「お疲れ様です、ジンさん!」
「お疲れ様、ヒメ」
いつも通り、ジンの隣に並ぶヒメノ。彼の左腕に自分の腕を絡めるのは、いつもの流れである。
ふにゃりとした笑顔を浮かべ、ジンに寄り添うヒメノは実に幸せそうだ。
その様子を遠目に見たアークは、何故だか自分が敗北した事が腑に落ちてしまう。
ヒメノが隣に並んで手を伸ばす際に、ジンは同時に腕をヒメノに向けていた。その位置ピッタリにヒメノの腕が伸びて、二人は今の形になった。その流れの中で、相手の動きを待つ事も、促す事も無かったのだ。まるで、そうして寄り添う事が自然であるように。
――阿吽の呼吸、なんてものではないな……。
自分が初めての戦闘不能を喫した、あの最後の戦い……二人はその時、息ピッタリの戦い振りを披露した。今と同様に、互いの動きが連動するみたいに。
そう言えば……と、アークは二人の使ったスキルに思い至る。比翼の鳥、連理の枝……という、キーワードだ。【比翼連理】……二人の強い結び付きを表現するのに、これ程相応しい言葉は無いだろう。
そんな事を考えているアークに、シルフィが歩み寄る。
「アーク、そろそろリリィさんが到着するらしい。そうしたらパーティーの開始だ」
「あぁ、了解した」
パーティー開始の際は、ギルドマスター全員で中央に集まる予定だ。フリーランスのプレイヤーを代表するのはリリィが良いと誰もが思ったのだが、本人は頑なに固辞した。曰く、AWOをプレイする時はアイドル・渡会瑠璃で居たくない……との事。そんな訳で、リリィからの強い要望もありフリーランス代表はユージンがやる事になった。
――リリィ……彼女が【七色の橋】に、ゲストとして参加するとはな。それに、あのユージン。最高峰の生産職人であると同時に、素性不明だったトップランカー・ユアン……か。
アロハシャツを着込んで、料理を運ぶユージンの姿を見るアーク。彼もコヨミから声を掛けられて、ひと際大きなクリスマスツリーがある中央に向かう様だ。
見た目は、ただの成人男性。覇気も威圧感も感じさせない、何処にでもいる普通のプレイヤーに見える。
そのすぐ側に居る、配信者のコヨミ。そして商人として、名前が知れ渡っているとされるクベラ。そして今こちらに向かっているであろう、現役アイドルであるリリィ。
今回のイベントで、【七色の橋】にゲスト参加したプレイヤー達……その存在も、アークは重視していた。
――これも、彼等の人徳……か。ふ、俺も見習っていかなくてはならないな。
……
「済みません、お待たせしました!」
現実世界で、二十一時になる直前。慌てて会場に駆け込んで来たリリィは、普段の服装である。第四回イベントも終わり、【七色の橋】へのゲスト参加も解消された。故に彼等から贈られた和装は、大事に収納に収められていた。
リリィが到着した事で、いよいよパーティーの始まりだ。
「お疲れ様です、リリィさん」
「丁度、準備が出来た所でしたよ~! あ、飲み物何にします?」
「お手伝いできず、済みません……えぇと、それじゃあオレンジジュースを……」
リリィにもグラスが手渡され、参加者が中央のツリーに集まろうとしたその瞬間だった。全員のシステム・ウィンドウに、メッセージの受信を報せる音が響く。
「おや?」
「何でしょうね……」
「どれどれ……お、運営からのメッセージじゃないか」
各々がメッセージを確認すると、どうやら第四回イベントのPVが公式サイトにアップロードされたらしい。
「早くね? まだ四日しか経ってないぞ?」
「ここの運営、本当に仕事早いな……」
三日間に渡る広域マップで繰り広げられたイベント動画を、この短期間で纏める手腕には誰もが驚きを隠せなかった。
それと同時に、運営からプレイヤー全員に向けたクリスマスプレゼントがあった。
「何々……衣装引換券?」
「あははっ、サンタ服とかトナカイコスとかある!!」
「サンタ服は、結構種類あるみたいだねぇ」
「あ、これ可愛くない?」
「一人一点まで、か。まぁそれはそうだよなぁ」
「いえ、PAC用と明記されたものもあります。流石ですね、ここの運営は……」
そこでシンラが、参加者に向けて声を掛けた。
「皆さ~ん! 折角だから~、この衣装を着てパーティーをするのはどうかしら~?」
シンラの言葉を耳にして、誰もがその案に賛同しようと視線を向け……そこで、シンラの隣に立つ人物に気付いた。
――アークが……サンタ服を、着るのか!?
参加者の大半の心が、一つになった瞬間である。騎士ギルドのトップにして、攻略ガチ勢……そんなアークが、サンタ服を身に付けるとは思えなかったのだ。
それは身内……ギルバートやライデンですら、同じ事を考えた。否、アークを良く知るからこそ、彼は「自分は遠慮しておこう」なんて言うだろうと予想した。
「あら、良いですね♪ ん~、どれを選ぼうかしら?」
「色も選べるみたいですね、これ」
ギルドマスター勢の中で、ジェミーやフィオレが真っ先にシンラの提案に食い付いた。そんな二人に、女性陣のセシリアやアナスタシアも加わっていく。
そんな面々を見て、他のプレイヤー達も引き換える衣装を選び始める……アークに意識を向けつつ。
「お、男向けは、女物ほど種類は多くねぇな?」
「え、えぇ……仕方ないですよ、女性ほどこだわるポイントも多くは無いですし……」
クリムゾンが沈黙に耐え切れず、当たり障りの無い意見を口にした。この空気に、息が詰まりそうだったのだろう。
そんなクリムゾンに、ヒイロがすかさず反応。これで少しは雰囲気が緩和されるのではないか……と考えたのだ。
そこで、渦中の人物が口を開く。
「俺は……」
アークが言葉を紡ごうとして、参加者達は一斉に押し黙る。ギルバートやライデンは、天を仰いでいる。シルフィは雰囲気に反して、サンタ服着用を拒むであろうアークを説得せねばと近付こうと一歩踏み出す。
「……この、二番目の衣装にしようかと思う」
ザ・ワールド……もとい、会場内の時間が完全に停止した。予想だにしなかった発言を耳にして、今度こそ誰もが絶句したのだ。
……
そうして女性陣は順番に、別室で衣装替え。男性陣は特に気にする事なく、その場で衣装チェンジを果たしていた。
「うーん、右腕に篭手が無い事に違和感を感じるとは……」
自分の右腕に、篭手≪鬼神の右腕≫が無い状態。それに対して違和感を覚えるヒイロに、カイセンイクラドンとヒューズが首を傾げた。
「む? どういう意味だ?」
「あれ、呪いのアイテムで外せないんです。今は非表示にしているだけで……」
「へぇ……って、ヤバいアイテムって事か? うわ、怖っ……!!」
その側では、シンラがユージンに声を掛けていた。過度ではないものの露出度が少し高いサンタ服を着たシンラ……彼女の視線の先にいるユージンの衣装は……。
「えぇと、ユージンさん? 何で、トナカイ衣装を……?」
「サンタばかりだと、少々もの寂しいだろう? 誰かしら、こっち路線に走った方が絵的に映えるからね」
謎のプロ意識、発動。とはいえ、トナカイ衣装の面々も幸い数名居る。お陰で、サンタ一色という訳ではなかった。
そんな中、ヒメノは赤いサンタ服を身に纏って、ジンの隣で楽しそうに微笑んでいた。ジンも赤のサンタ服で、パーティーの雰囲気を満喫している。
「楽しそうだね、ヒメ」
「はい! こんな盛大なパーティーは初めてですけど……」
ジンがそう問い掛けると、ヒメノは満面の笑みで頷き返す。
「……ジンさんとも、初めて一緒に過ごすクリスマスですし……♪」
照れ混じりながらも、しかしとても嬉しそうなヒメノの言葉。そんなヒメノに、ジンも笑みを浮かべて首肯する。
「うん……多分、今までで一番賑やかなクリスマスになりそうだね」
最愛の恋人と大切な仲間達、そして気の合う友人達に、腕を磨き合える好敵手達。そんな面々と過ごすクリスマスパーティーが、いよいよ始まる。
「それじゃあ、改めて……」
乾杯の音頭は、ユージンがする事に決まったらしい。これはどこのギルドマスターがやるかで揉めない様に、中立の立場のプレイヤーが良いという判断からだ。
「長い挨拶は皆も嫌いだろうし、時間も限られているからね。じゃあ皆、グラスを持って貰えるかな」
グラスを掲げるユージンに倣い、参加者全員がグラスを持った。
「それでは、パーティーを始めよう! メリークリスマス!」
『メリークリスマス!!』
イベント会場の隅々までに響き渡る様な、プレイヤー達の期待と活力に満ちた唱和。それが、パーティー開始の合図となった。
次回投稿予定日:2023/3/10(本編)
今回のお気に入り
①テオドラさんはやっぱりテオドラさんだった。
②グレイヴさんはフライドチキン派。
③アーク、サンタ服を装着☆