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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
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15-41 クリスマスパーティー始まりました

 豪華メンバーにより準備が整っていく、クリスマスパーティー……その会場に集まった面々の中に、毛色の違うメンバーが数名……数組、増えていた。


 その内の一組は、赤い人達だった。クリスマス・イヴなのでサンタ服を着ている……という訳では無い。普段から、とにかく赤い人達である。赤というか、真紅である。

「こんばんはクリムゾンさん、スカーレットさん」

「……ケイン、さん。こ、こんばんは……」

 朗らかな笑みで二人を出迎えるケインに、クリムゾンはなんとも言い難い表情で挨拶を返す。

 一方的にライバル視し、第四回イベントで一騎討ちを挑み、そして敗北した相手だ。その相手に快く迎え入れられるという事態に、複雑な胸中なのは間違いない。


 そんなクリムゾンに苦笑しつつ、スカーレットも挨拶を返す事にする。

「こんばんは、ケインさん。えーと、本当に私達も参加して良いのかしら?」

 キリッとしながらも、声色や目元は柔らかいスカーレット。戦うとあらば戦意を滾らせる彼女も、このクリスマス・イヴの雰囲気に影響されている様だった。

「あぁ、問題ないよ。ゼクスから連絡を貰って、すぐに他のギルドマスター達にも了承を得てある」


 そう、二人がこのパーティー会場に訪れたのは、調達班……ゼクス達、ジュエルベリー組と遭遇したのが切っ掛けだった。

「お、来たか! 待っていたぜ、お二人さん!」

「どもども! さっきは素材集めの手伝い、ありがとうございました!」

 先に素材を届けに来ていたゼクス達が、【真紅の誓い】二人の到着に気付いて駆け寄って来た。彼等はギルド問わず、クリムゾンとスカーレットの来訪に歓迎ムードである。

「いやぁ、あんたらが来てくれて助かった! あのハチ、めちゃくちゃ厄介だったもんなぁ!」

「しかも倒したと思ったら、捕まっていたのもモンスターだし? 超うざかったねぇ」

 調達班はメイティングワスプに遭遇し、苦戦していたのだ。そこに偶然通り掛かった二人が、加勢は必要かと声を掛けた。ゼクス達はその申し出を受け入れ、二人は調達班と共にメイティングワスプと戦闘。彼等のお陰で誰も犠牲になる事なく、ジュエルベリーを集める事に成功したのであった。


「という事さ。皆、君達に感謝している。だから、どうか遠慮せず」

 ケインがそう言えば、調達班の面々が笑顔で同意した。どうやら、本当に歓迎されているらしい。

「……ま、まぁ……それなら、ありがたく」

「そうね。あぁ、遅れたけれど……お誘い、ありがとうございます」

 二人としても、こう歓迎をされては断りにくい。何より、このそうそうたるメンバーが揃ったパーティーに参加出来るのだ。それならば、断る手はないだろう。


 クリムゾンとスカーレットが、ケイン達に促されて会場に入る。そこに居るのは、実にそうそうたるメンバー達である。

「うわぁ……本当にこんな豪華メンバーが集まっているのね……」

「しかも、戦ったり競ったりするんじゃなく……パーティーする為ってのが、また……」

 既に設営は完了し、パーティーホールはクリスマスムードで満たされている。そこに集うプレイヤー達は、ギルド関係なく談笑しており賑やかだ。

「ははっ、だろう? またすぐに、イベントなんかでライバルとしてかち合うかもしれない。リソースを奪い合い、競い合うのかもしれないけれど……」

 そう言って、ケインは二人に振り返って笑みを浮かべる。

「こうして、共有できるものもあるって事だね。俺はこういうの、悪く無いと思うんだ」

 心からそう言っているのだと、クリムゾンとスカーレットはすぐに察した。そして、ケインというプレイヤーの人間性に感心すらした。

 これでは、クリムゾンも兜を脱がざるをえなかったらしい。肩を竦めて、緊張の抜けた自然体の笑みを浮かべてケインに正面から向き合い……同意を示した。

「……あぁ、俺もそう思うぜ」


……


 そんなクリムゾンやスカーレットと同様に、飛び入り参加した者達……セスに招待されて同行した、フィオレ達とセシリアも既に会場入りしていた。

「これは誇張抜きで、凄いメンバーが集まっていますね……」

「同意するわ、セシリアさん……本当に、トップランカー揃いって感じね」

 もしもこれが【七色の橋】【桃園の誓い】【魔弾の射手】といった、同盟関係にあるギルドで固められたパーティーならば理解が出来る。掲示板等でも、このギルド同士の交友関係が深い事は知れ渡っているのだ。

 しかしそれに加えて【聖光の騎士団】【森羅万象】といった二大巨頭に、中規模ギルドでも特に有名な【遥かなる旅路】が加わるとなると話は別。かと思えば、彼等には実績的に及ばないはずの【白狼の集い】まで参加している。その上、今回のイベントで注目を浴びた異色のファンギルド……【忍者ふぁんくらぶ】まで居て、和やかに会話をしているのだ。


 特に【聖光の騎士団】と【森羅万象】は、長きにわたって熾烈なトップ争いを繰り広げて来た。簡潔に言うのであれば、犬猿の仲同然だった。そんな二大ギルドが、肩を並べて談笑する様は青天の霹靂である。

 そしてこの集まりに参加しているのは、各ギルドが厳選したメンバーだ。つまりそれぞれ、トップや幹部が軒並み参加しているのである。トップランカーが集結していると言っても、過言ではない顔触れだろう。


 そんな四人をここに招待したセスは、現在バーカウンターの中でドリンク作りの最中である。数名のプレイヤーが手伝っているが、ドリンク作りの中心はセスだ。パーティー参加者はかなりの人数なので、実に忙しそうである。

「……忙しそうですね、セス様は。あの、私もお手伝いに伺っても宜しいでしょうか?」

 そう言い出したのは、セシリアだ。ただパーティーに参加し、御相伴に預かるだけでは気が引けるらしい。

「……そうですね、私も何もせず居るよりはその方が。では、一緒に参りましょうか」

 フィオレもセシリア同様に、せめて手伝いくらいはと思ったらしい。二人が笑顔で頷き合うと、ステラとネーヴェもそれに賛同する。

「だねー、折角だしパーティーに貢献したいよね!」

「タダ飯くらいになるのは、勘弁だし……少しでも、何か出来るならやるべきだよね」

 そうと決まれば、行動あるのみ。四人は早速、セスの居るバーカウンターへ向かった。


「セスさん、私達に何かやれることはありますか?」

「僕達でよければ、お手伝いさせて下さい」

 四人がそう言うと、セスは遠慮の言葉を告げようとした。だが踏み止まって、苦笑いで頷いてみせる。

「完成したドリンクが、そこの長テーブルに並んでいるんだ。それを参加者に配らないといけないんだけど、頼めるかな」


 招いた側として、手伝わせるのは申し訳ない……という考えもあった。しかし彼女達はやる事も無く、手持ち無沙汰なのだろう。それでは居心地も悪いだろうし、だからこそ手伝いを申し出たのだろうとセスは考えたのだ。

 ドリンクを配るならば、他の参加者と顔を合わせる事になる。それはプレイヤー同士の、交流の切っ掛けになるかもしれない。他の参加者にも、彼女達にもプラスになるのではないかという思いがあった。


 そんなセスの要請を、四人は笑顔で受け入れた。

「それでしたら、この辺りは私が……流石に、未成年にアルコール類を配らせるのはまずいですしね」

「確かに。じゃあ僕はこの辺りのドリンクかな」

「では私は、こちらのお茶系を担当させて頂きますね」

「じゃあジュース系は私ね! まっかっせてー!」


……


 そして、三組目の飛び入り参加者……それは【ラピュセル】の面々であった。ギルドマスター・アナスタシアと、サブマスターを務める【アシュリィ】……そしてテオドラと、アナスタシアのPACパックであるリューシャだ。彼女達はジンやレーナに会場内を案内され、今はギャラリーからホールの様子を見渡していた。

「これ程の規模のパーティーとは、存じませんでした……」

「うん、これには驚いたわぁ。呼んでくれてありがとう」

「いやいや、礼には及ばぬでゴザル」

「そうそう! サインバードを狩るのにも、手を貸してくれましたしね♪」


 実はアナスタシア達はフィールドを移動している最中に、PKer達に襲われたのだ。運が悪い事に、他のメンバーは現実リアルで予定がある。故にこの三人と、アナスタシアのPACパックであるリューシャしか居ない状況だった。

 高レベルプレイヤーである彼女達だが、多勢に無勢とあっては苦戦は免れない……といった所で、そこを通り掛かったのがサインバード班。ジン達は重犯罪者レッドプレイヤーと襲われるアナスタシア達を見て、即座に助太刀に入った。


「全く、暗殺とかマジ勘弁ですよ……折角のイヴが台無しになる所でした」

 不満タラタラなテオドラだが、彼女も彼女でアナスタシアとイヴを過ごせる(しかもパーティーに参加出来る)とあってか機嫌は回復していた。

「えぇ、本当に……しかし、残念ですね。一部のメンバーには、逃げられてしまいました」

 ちなみにそのPKer達は、第四回イベントに参加していたギルド【深淵】だった。彼等はイベント上位に入賞したアナスタシア達を尾行し、襲うチャンスを見計らっていたのだ。

 そうしていよいよ、PK開始……という所で、空から降って来たのはやっぱり忍者。更には有名ギルドの面々が続々とアナスタシア達の援護に加わり、一瞬で形勢が逆転したのだった。


 PKer達は、ジン達の参戦を確認した後すぐに逃走に移った。イベントの最中に手酷くやられたのだから、当然と言えば当然だろう。

 逃げた連中は、また彼女達……または、他のプレイヤーの暗殺を目論む可能性が高い。ジン達も、アナスタシア達もそう考えていた。故に仕留め切れなかった事が、悔やまれた。


 暗い表情を浮かべる彼女達だが、折角のパーティーだ。ここは一つ、元気付けようとジンは声を掛ける。

「ともあれ、この場に集まったギルドには【深淵】について報告済みでゴザル」

「そうそう! 折角のパーティーですし、リラックスして楽しんで行きましょう?」

 レーナもジンに同調し、アナスタシア達にパーティーを楽しんで欲しいと告げる。そんな二人の気遣いに、アナスタシアも頷いてみせた。

「……えぇ、お二人の仰る通りですね」


 フッと表情を緩めたアナスタシアだが、彼女はすぐに表情を引き締め直す。

「ところでジンさん……後程、少しお時間を頂けますか?」

 真剣な表情のアナスタシアの言葉に、ジンは何かしら重要な話があるのだろうと察した。

 先のPKerの事か、もしくはイベントでの事だろうか。それは解らないが、わざわざこう言うくらいなのだから必要な事なのだろう。ジンはそう判断し、アナスタシアに了承の意を示そうと口を開きかける。


 しかしジンが返事をする前に、テオドラが慌てた様子でアナスタシアに詰め寄った。

「アナさん、ダメです!! いけません、それはいけませんよ!! だってこの人、ヒメノって恋人が居てゲーム内では結婚済みで【七色】の主力でおまけに忍者ですよ!? ダメですっ!! そんなの認められません!!」

「……は? い、いえ!! 誤解です!!」

「誤解も六回も全力全開も無いんですよ!! イヴの夜に男女二人!! 何も起こらないはずがなく!!」

「違います、そういう意味合いではありません!!」

「アナさん、イヴの夜に誘うなら私がお相手しますから!! ゲームでもリアルでもばっちこいですよ!!」

「何故そうなるんですか……!?」


 詰め寄るテオドラと、困惑するアナスタシア。そんな二人の様子に、ジンもレーナも口を挟む事が出来ない。というか、途中からテオドラは自分の願望を垂れ流しているのだが、大丈夫なのだろうか?

「テオちゃん……どうしちゃったのかしら?」

 テオドラの豹変……実際は本能覚醒、もとい本性解放なのだが。日頃見せない勢いなので、アシュリィも不思議そうにしていた。

「……えーと、ではヒメも同席するであれば如何でゴザルか?」

「あ、それが良いんじゃない? それなら問題ナシでしょ」

「そ、そうですね!! ジンさんとヒメノさんが宜しければ、それでいきましょう!!」

 アナスタシアは、名案だとばかりに何度も頷く。これで問題解決、そう確信したのだろう。


 しかし、暴走モードのテオドラはそう簡単には止まらない。小声でブツブツ呟きながら、ジンに対して胡乱気な視線を向けていた。

「……カノジョ同伴? いや、アナさんの美貌に目が眩んでいるに違いない。それなら……まさか、自分のカノジョを巻き込んでさんp……「テオちゃ~ん、ちょっと黙ろうか?」……ヒィッ!?」

 背後から頭を鷲掴みにされたテオドラから、恐怖の悲鳴が漏れ出た。ニコニコしながらアイアンクローしているのは、サブマスターのアシュリィである。

 アシュリィから漏れ出る威圧感に、テオドラは口を噤んでプルプル震え出した。


――見た目はゆるふわ系に見えるけど……アシュリィさんから、体育会系のオーラを感じる……!!


「ジンさん、レーナさん。ちょっとこの子を落ち着かせてから、下に伺いますねー。ご迷惑にならないように♪」

「「あっハイ」」

 アシュリィが何をするのか気になる所ではあるが、ジンもレーナも異論を唱える事は出来なかった。


************************************************************


 一方その頃。

「ぐ……っ!! 何故、お前らが、俺達を……!?」

「お、同じPKer同士だろ!! なのに、何で……!!」

 フィールドの地面に転がされている彼等は、【深淵】のメンバー。暗い森の中で、HPが尽きて身体アバターに力が入らない状態である。つまり、彼等はKILLされたのだ。


「同じだ? 笑わせんな、ゴミ屑共が」

 そう言うのは、黒い衣装を身に纏った青年。彼は心底下らないと言った態度で、【深淵】の面々を見下していた。

「多勢で少数を嬲るテメェらと、俺達が同じだと? んな訳ねぇだろうが」

 ジン達から逃げおおせたのは、三人。その三人に対し、彼は一人で戦った。その上で、彼等を倒し切ってみせたのだ。


「覚えてろよ……【漆黒の旅団】……!!」

 そう、彼等を仕留めたのは【漆黒の旅団】。相手をしたのは、勿論グレイヴだ。

「ハッ、上等だ。次はもう少し、マシになってから出直せや……あぁ、そうそう。クリスマスプレゼントをどうも、ゴミ屑ども。メリークリスマス」

「くっ……!! 絶対に、この借りは返すからな……!!」

 その捨て台詞を残して、【深淵】の三人は強制ログアウトさせられた。重犯罪者レッドプレイヤーである彼等が消滅したその場には、彼等のスキルオーブや所持品がドロップする。


「暗殺ギルドとか名乗ってたが、完全に装備頼りだったな」

「ほんっと、PKerの株が下がる事をしないで欲しいわねぇ。それでお頭、これはどうする訳?」

 アッドとエリザが、ドロップした物を見て声を掛ける。それに対し、グレイヴは口の端を吊り上げながら振り返る。

「ちゃんとシステム的に許可されているし、折角のクリスマスプレゼントだ。有り難く頂いておこうぜ……コイツをよ」


 ドロップした品を回収し、歩き出すグレイヴ達。その道中で、リーパーが「あーあ」と声を上げた。

「町に入れないって仕様、どうにかならないものかなぁ。折角のクリスマス・イヴだってのに」

「そう拗ねるな、リーパー。食材も手に入ったし、何か作ってやるから」

「ケーキ!? ケーキ作れんの、アッドさん!!」

「ちょ、おま……遠慮が無いな」

 そんなやり取りをしていると、グレイヴが足を止めて振り返る。

「おい、リーパー」

 グレイヴの低い声に、リーパーは口を噤む。流石に浮かれ過ぎだったかと、謝罪の言葉を口にしようとしたら……グレイヴは、ニヤリと笑ってみせた。

「ケーキの前に、チキンに決まってんだろ。何の為にサインバード狩ったと思ってんだ」


************************************************************


 そんな事態になっているとは、露知らず。ジン達はパーティーの準備を着々と整え、そうして大量の料理も運び込まれて来た。

 調理班に参戦していたヒメノも、自分の担当を終えるとジンの下へと小走りで駆け寄る。

「お疲れ様です、ジンさん!」

「お疲れ様、ヒメ」

 いつも通り、ジンの隣に並ぶヒメノ。彼の左腕に自分の腕を絡めるのは、いつもの流れである。

 ふにゃりとした笑顔を浮かべ、ジンに寄り添うヒメノは実に幸せそうだ。


 その様子を遠目に見たアークは、何故だか自分が敗北した事が腑に落ちてしまう。

 ヒメノが隣に並んで手を伸ばす際に、ジンは同時に腕をヒメノに向けていた。その位置ピッタリにヒメノの腕が伸びて、二人は今の形になった。その流れの中で、相手の動きを待つ事も、促す事も無かったのだ。まるで、そうして寄り添う事が自然であるように。


――阿吽の呼吸、なんてものではないな……。


 自分が初めての戦闘不能を喫した、あの最後の戦い……二人はその時、息ピッタリの戦い振りを披露した。今と同様に、互いの動きが連動するみたいに。

 そう言えば……と、アークは二人の使ったスキルに思い至る。比翼の鳥、連理の枝……という、キーワードだ。【比翼連理】……二人の強い結び付きを表現するのに、これ程相応しい言葉は無いだろう。


 そんな事を考えているアークに、シルフィが歩み寄る。

「アーク、そろそろリリィさんが到着するらしい。そうしたらパーティーの開始だ」

「あぁ、了解した」

 パーティー開始の際は、ギルドマスター全員で中央に集まる予定だ。フリーランスのプレイヤーを代表するのはリリィが良いと誰もが思ったのだが、本人は頑なに固辞した。曰く、AWOをプレイする時はアイドル・渡会瑠璃で居たくない……との事。そんな訳で、リリィからの強い要望もありフリーランス代表はユージンがやる事になった。


――リリィ……彼女が【七色の橋】に、ゲストとして参加するとはな。それに、あのユージン。最高峰の生産職人であると同時に、素性不明だったトップランカー・ユアン……か。


 アロハシャツを着込んで、料理を運ぶユージンの姿を見るアーク。彼もコヨミから声を掛けられて、ひと際大きなクリスマスツリーがある中央に向かう様だ。

 見た目は、ただの成人男性。覇気も威圧感も感じさせない、何処にでもいる普通のプレイヤーに見える。

 そのすぐ側に居る、配信者ライバーのコヨミ。そして商人として、名前が知れ渡っているとされるクベラ。そして今こちらに向かっているであろう、現役アイドルであるリリィ。

 今回のイベントで、【七色の橋】にゲスト参加したプレイヤー達……その存在も、アークは重視していた。


――これも、彼等の人徳……か。ふ、俺も見習っていかなくてはならないな。


……


「済みません、お待たせしました!」

 現実世界で、二十一時になる直前。慌てて会場に駆け込んで来たリリィは、普段の服装である。第四回イベントも終わり、【七色の橋】へのゲスト参加も解消された。故に彼等から贈られた和装は、大事に収納に収められていた。

 リリィが到着した事で、いよいよパーティーの始まりだ。

「お疲れ様です、リリィさん」

「丁度、準備が出来た所でしたよ~! あ、飲み物何にします?」

「お手伝いできず、済みません……えぇと、それじゃあオレンジジュースを……」

 リリィにもグラスが手渡され、参加者が中央のツリーに集まろうとしたその瞬間だった。全員のシステム・ウィンドウに、メッセージの受信を報せる音が響く。


「おや?」

「何でしょうね……」

「どれどれ……お、運営からのメッセージじゃないか」

 各々がメッセージを確認すると、どうやら第四回イベントのPVが公式サイトにアップロードされたらしい。

「早くね? まだ四日しか経ってないぞ?」

「ここの運営、本当に仕事早いな……」

 三日間に渡る広域マップで繰り広げられたイベント動画を、この短期間で纏める手腕には誰もが驚きを隠せなかった。


 それと同時に、運営からプレイヤー全員に向けたクリスマスプレゼントがあった。

「何々……衣装引換券?」

「あははっ、サンタ服とかトナカイコスとかある!!」

「サンタ服は、結構種類あるみたいだねぇ」

「あ、これ可愛くない?」

「一人一点まで、か。まぁそれはそうだよなぁ」

「いえ、PACパック用と明記されたものもあります。流石ですね、ここの運営は……」


 そこでシンラが、参加者に向けて声を掛けた。

「皆さ~ん! 折角だから~、この衣装を着てパーティーをするのはどうかしら~?」

 シンラの言葉を耳にして、誰もがその案に賛同しようと視線を向け……そこで、シンラの隣に立つ人物に気付いた。


――アークが……サンタ服を、着るのか!?


 参加者の大半の心が、一つになった瞬間である。騎士ギルドのトップにして、攻略ガチ勢……そんなアークが、サンタ服を身に付けるとは思えなかったのだ。

 それは身内……ギルバートやライデンですら、同じ事を考えた。否、アークを良く知るからこそ、彼は「自分は遠慮しておこう」なんて言うだろうと予想した。


「あら、良いですね♪ ん~、どれを選ぼうかしら?」

「色も選べるみたいですね、これ」

 ギルドマスター勢の中で、ジェミーやフィオレが真っ先にシンラの提案に食い付いた。そんな二人に、女性陣のセシリアやアナスタシアも加わっていく。

 そんな面々を見て、他のプレイヤー達も引き換える衣装を選び始める……アークに意識を向けつつ。


「お、男向けは、女物ほど種類は多くねぇな?」

「え、えぇ……仕方ないですよ、女性ほどこだわるポイントも多くは無いですし……」

 クリムゾンが沈黙に耐え切れず、当たり障りの無い意見を口にした。この空気に、息が詰まりそうだったのだろう。

 そんなクリムゾンに、ヒイロがすかさず反応。これで少しは雰囲気が緩和されるのではないか……と考えたのだ。


 そこで、渦中の人物が口を開く。

「俺は……」

 アークが言葉を紡ごうとして、参加者達は一斉に押し黙る。ギルバートやライデンは、天を仰いでいる。シルフィは雰囲気に反して、サンタ服着用を拒むであろうアークを説得せねばと近付こうと一歩踏み出す。


「……この、二番目の衣装にしようかと思う」


 ザ・ワールド……もとい、会場内の時間が完全に停止した。予想だにしなかった発言を耳にして、今度こそ誰もが絶句したのだ。


……


 そうして女性陣は順番に、別室で衣装替え。男性陣は特に気にする事なく、その場で衣装チェンジを果たしていた。

「うーん、右腕に篭手が無い事に違和感を感じるとは……」

 自分の右腕に、篭手≪鬼神の右腕≫が無い状態。それに対して違和感を覚えるヒイロに、カイセンイクラドンとヒューズが首を傾げた。

「む? どういう意味だ?」

「あれ、呪いのアイテムで外せないんです。今は非表示にしているだけで……」

「へぇ……って、ヤバいアイテムって事か? うわ、怖っ……!!」


 その側では、シンラがユージンに声を掛けていた。過度ではないものの露出度が少し高いサンタ服を着たシンラ……彼女の視線の先にいるユージンの衣装は……。

「えぇと、ユージンさん? 何で、トナカイ衣装を……?」

「サンタばかりだと、少々もの寂しいだろう? 誰かしら、こっち路線に走った方が絵的に映えるからね」

 謎のプロ意識、発動。とはいえ、トナカイ衣装の面々も幸い数名居る。お陰で、サンタ一色という訳ではなかった。


 そんな中、ヒメノは赤いサンタ服を身に纏って、ジンの隣で楽しそうに微笑んでいた。ジンも赤のサンタ服で、パーティーの雰囲気を満喫している。

「楽しそうだね、ヒメ」

「はい! こんな盛大なパーティーは初めてですけど……」

 ジンがそう問い掛けると、ヒメノは満面の笑みで頷き返す。

「……ジンさんとも、初めて一緒に過ごすクリスマスですし……♪」

 照れ混じりながらも、しかしとても嬉しそうなヒメノの言葉。そんなヒメノに、ジンも笑みを浮かべて首肯する。

「うん……多分、今までで一番賑やかなクリスマスになりそうだね」

 最愛の恋人と大切な仲間達、そして気の合う友人達に、腕を磨き合える好敵手達。そんな面々と過ごすクリスマスパーティーが、いよいよ始まる。


「それじゃあ、改めて……」

 乾杯の音頭は、ユージンがする事に決まったらしい。これはどこのギルドマスターがやるかで揉めない様に、中立の立場のプレイヤーが良いという判断からだ。

「長い挨拶は皆も嫌いだろうし、時間も限られているからね。じゃあ皆、グラスを持って貰えるかな」

 グラスを掲げるユージンに倣い、参加者全員がグラスを持った。

「それでは、パーティーを始めよう! メリークリスマス!」

『メリークリスマス!!』

 イベント会場の隅々までに響き渡る様な、プレイヤー達の期待と活力に満ちた唱和。それが、パーティー開始の合図となった。

次回投稿予定日:2023/3/10(本編)


今回のお気に入り

①テオドラさんはやっぱりテオドラさんだった。

②グレイヴさんはフライドチキン派。

③アーク、サンタ服を装着☆

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― 新着の感想 ―
[一言] グレイヴさんほんとにかっこいい… 今までハヤテ推しだったのにここに来てグレイヴさんの株が急上昇中です…!
[良い点] 皆 それぞれのクリスマスがある クリパ メンバー また増えたwww [気になる点] アーク 変身!! [一言] 皆が 楽しく 過ごせますように Merry Christmas ……
[良い点] ケインとクリムゾンのやり取りに掛け算が滾る人いそうw
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