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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐

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15-38 幕間・天使の真相

【注意】


今回の投稿本文には、暴力行為・性的行為を匂わせる描写が含まれています。

そういった文章に不快感を感じる方は、ブラウザバックを強く推奨致します。


前書き以降の閲覧は、自己責任でお願い致します。

 益井舵定は、自らユートピア・クリエイティブに連絡。運営側からの指示された時間に、伊賀星美紀と連立って来館した。


「【禁断の果実】について、我々の犯した罪について……全てを、告白します」

 暗い未来に恐怖を抱き、怯えながらも罪を償おうとする姿勢。それを感じ取った初音室長は、同席した警察官と共に一つ一つの事情を聞きだしていく。


 その中で判明したのは……伊賀星美紀という女性を巡る、人間の愛欲に塗れた事実だった。


************************************************************


 伊賀星美紀は、物心つく前に両親が離婚。そして彼女は、母親に引き取られた。

 離婚の理由は彼女も解らないし、実父の顔も覚えてはいない。故に彼女にとっての父親は、母親が再婚した男性であった。


 彼女は幼い頃から、人に好かれるタイプの少女だった。周囲の人々に、それはもう大層可愛がられて育った。そして彼女は、その優しさに応えようとする普通の少女だったのだ。

 中学に上がる頃には、誰もが羨む容姿と性格を持ち合わせた美少女となっていった。クラスのアイドル、学校のマドンナなどと持て囃された。それを鼻にかけないのも、彼女の人気に一役買っていた。


 そんな順風満帆な美紀の人生だったが、その平穏が崩れたのは高校生になってしばらくしてからの事だった。

 ある日突然、美紀は育ての父親からの暴行を受けたのだ。美紀が抵抗しようとすると、父親は彼女の頬を強く叩いた。髪を掴まれ、口を押えられ、怒鳴り散らされた。泣き喚いても、父親は一切止まらない。


 更に、その現場を母親に目撃された。母親は美紀を助けるどころか、父親共々に物を投げ付けられ、身も心も痛め付けられた。

 唐突に襲い掛かる、両親からの暴力。そうして頭に何かを投げ付けられて、その衝撃で美紀は意識を失った。


 それ以降しばらくの間の事を、彼女は覚えていなかったそうだ。


************************************************************


 それから先で、美紀の最も古い記憶。それは、あるクラスメイトとの記憶だ。


 美紀は経緯を覚えていないが、気が付けば自分は彼に組み敷かれていた。

 そのクラスメイトは一度、美紀に愛の告白をした少年だった。しかし美紀は、その時は何かの理由でその告白を断ったのだ。それでも美紀は彼に友達でいて欲しいと伝え、彼もそれを了承したはずだったのだ。

 それなのに、何故か? それは、美紀にも解らないでいた。

 その時、彼は何度も繰り返す……「愛している」という言葉を。それこそ、口を開けば美紀への愛を何度も口にしていた事だった。

 何度も何度も、繰り返し愛を訴えるクラスメイト……それが、稗田蓮織だった。


 そこで崩壊に等しい状態だった美紀の精神は、強引に再構築された。それは、もしかしたら一種の防衛本能だったのかもしれない。

 傍から見れば、自我を取り戻したかに見えた美紀。しかしそれは、以前の彼女ではなかった。

 両親と暴力行為を嫌悪し、ひたすらに愛を求める様になってしまった。


 蓮織が拒絶されなかったのは、美紀の倫理観が崩壊していたからだろう。それと同時に、愛情を伝えた事か。

 両親が彼女に与えたのは、怒りと暴力だった。それによって、美紀は愛されていないのだと喪失感を覚えたのだ。

 その喪失感を、蓮織が口にした愛が埋めてくれる……そう錯覚してしまったのだ。

 最も……蓮織もしも、殴る蹴るといった直接的な暴力を振るっていたら。その場合は、彼女は蓮織を嫌悪し、拒絶し、憎悪していただろう。


 しかしここで、蓮織にとって予想外の事態が起きた。それは、美紀が他の人間とも関係を持ったと知ったからだ。蓮織とその相手は、美紀と三人で話をし……更に、他にも関係を持った者が居ると知った。

 美紀を問い詰める彼等に対し、彼女は心底不思議そうな顔をした。


「私は愛が貰えるなら、何でもいい。それじゃあ駄目なの?」


 彼女の言葉に、誰もが愕然とした。彼等はそこでようやく、美紀が「壊れている」のだと理解した。

 美紀は愛を求める……愛ならば全てを容認する。

 対象は、誰でも良い。特定個人でなくていい、むしろより多くの愛情を受け止めたい。それはクラスメイトでも、後輩でも、イトコでも、男でも女でも受け止める。

 愛のカタチなど、何でも良い。言葉でも、贈り物でも、キスでも受け入れる。


 一言で表現するのならば。伽藍洞がらんどうになった己の心を埋めてくれるなら、何でも良かった。


 しかし美紀のそんな状況を知った蓮織は、美紀を独占しようとした。彼女が受け入れた者達を、どうにかして排除しようとしたのだ。その中に、双子の妹がいようと関係無い。美紀を独占する為なら、何だってする気であった。

 それは同類となった者達も同じで、自分以外の者を排除しようと画策し始めた。


 その中の一人は短絡的な人物で、彼は蓮織達に暴力を振るった。それも、美紀の目の前でだ。もしかしたら、そうする事で美紀の心を自分に縛ろうと思ったのかもしれない。最も、それは逆効果だった。

 暴行を目撃した美紀は蓮織達を庇い、彼に対して激しい嫌悪感を見せ、彼を拒絶した。愛を語れば許されると思っていた男だったが、美紀はそれも拒絶した。


 男はそれ以降、彼は学校にも来なくなった。美紀に拒絶された事に絶望した彼は、今も行方不明となっている。

 そして、蓮織達は……それを、喜んだ。邪魔者が消え、美紀の事を狙うものが減った事を喜んだのだ。


 この時点で、蓮織達も狂っていた。

 伊賀星美紀という存在に対する、強烈な執着心。美紀を手に入れる為ならば、何も躊躇う事は無い。彼女の唯一無二の存在……その座を手に入れる為ならば、手段も問わない。

 美紀への思慕の情が、歪みに歪んだ結果……彼等は、社会的な常識や倫理観をも失っていった。


************************************************************


 しかし、懸念事項が彼等にはあった。美紀に執着する者は、とても多かったのだ。

 ひたすらに愛情を求める彼女は、それを無差別に受け入れかねない。もしもどこかで取り返しのつかない事になった場合、独占どころの話では無くなってしまう。


 そこで、一人の男がある事を考えた。ジェイクこと佐田貴志……彼の父親は、VR風俗を経営する人間だった。

「VR風俗なら、妊娠リスクは減ります。これならば美紀の愛されたいという望みを、低リスクで実現できる。無論、本名も容姿も別人の姿であれば問題無いでしょう」

 仕事として彼女の望みを叶えさせ、同時に彼女の行動を監視できるようにすれば……そうなれば、これ以上の同類は増えずに済むはず。貴志はそう考えたのだ。


 口八丁で蓮織達を誘導した貴志に勧められるまま、美紀は高校卒業と同時に大学に通う傍らでVR風俗に所属した。

 彼女の魅力は、ここでも効果を発揮した。あっという間に彼女を指名する顧客が増え、瞬く間に店の……いや、界隈のナンバーワンになったのだ。

 ここで蓮織が、難色を示した。大学とVR風俗の二重生活は、彼女の心身に負担が掛かると考えたのだ。最もその裏には、彼女との逢瀬の時間が減ってしまう事に対する不満も含まれていた。


 そこで出た代替案が、ネットアイドルであった。ネットアイドルならば、彼女の”愛されている”と実感するのに都合が良い。そして彼女の活動を支えるという名目があれば、彼女との時間を確保する事も出来るという考えだ。

 貴志だけは難色を示したが、他のメンバーは蓮織に賛同した。他の有象無象に、美紀が触れられずに済むのも好都合だったのだ。

 結果としてネットアイドルを始めた美紀……アンジェリカは、すぐに人気が爆発した。


 しかし同時に、VR風俗の客達は不満を爆発させた。美紀に会えなくなり、彼女を出せとVR風俗の運営会社に非難が殺到したのだ。それこそ、物理的な被害すら受けそうな程に……だ。


 そこで蓮織達は、ある事を考えた。VR風俗の顧客……美紀を求める者達は、自分達同様に彼女に依存している。彼女の為ならば、法を犯す事すら厭わない者達まで居る。

 ならば彼女との逢瀬を餌にして顧客達を誘導すれば、自分達にとって都合の良い手駒になるのではないか? と。

 人気アイドル・アンジェリカとなった美紀は、ゲーム実況や歌で視聴者を魅了している。彼女の魅力と知名度を利用して、全てを自分達の都合の良い様にしてしまおうと目論んだのだ。


 蓮織達は、止まらない……いや、止まれなかった。ナンバーワンのVR風俗嬢であり、人気が爆発したネットアイドルであるアンジェリカ。彼女と現実で関係を持つ自分達は、特別なのだと感じていたのだ。

 そうさせたのは、美紀の魅力という他ない。容姿も、性格も、声も、仕草も、何もかもが本能に訴えかけるのだ……彼女を、独占したいという欲求に抗えなかった。


 美紀の最大の不幸は、天性の魔性。彼女自身が持つ、生来の魅力だった。その魅力は老若男女を問わず、相手を魅了し引き寄せてしまうというものだった。

 母親の再婚相手も、蓮織達も、VR風俗の顧客も……全員、彼女の魔性の魅力によって壊れてしまっていたのだ。


 そうして彼等は()()()()()()()()、VR風俗の顧客にメールを送り始めた。美紀がネットアイドルとなった事を、客達にこっそり教えたのだ。

 彼女を装った彼等は、こうメールを送った。「お願いを聞いてポイントを貯めてくれれば、特別に個人的な時間を一緒に過ごす」と。


 みるみる内に使い捨てられる手駒が集まり、美紀の望みを叶える舞台も整い、自分が彼女の一番になる為の道筋も見当がついた。蓮織達はそれを実感し、まるで全てを手中に収めた気分になった。それこそ、一種の全能感に近い感覚さえ覚えていた。


 蓮織達はVR風俗の客に、美紀のふりをしてメールを送り司令を出した。スパイ活動を成功させて、彼女の役に立った者にはポイントを加算。そうしてポイントを集めた者にだけ、美紀との一時を過ごす権利が得られる。無論、顧客達は喜んでスパイ活動に全力を注ぐ。

 こうして、Vアイドル・伊賀星美紀を擁立するSNS【禁断の果実】が構築されたのだ。


 そして、その傍ら……蓮織達は美紀を独占しようと、彼女に必死にアピールをしていった。彼女の一番になる事を求めて……彼女を、自分だけのモノにしたいという欲望に従って。

 彼女が自分だけを選んだその時に、得られる優越感と多幸感を求めて……彼等は更に、壊れていったのだ。


************************************************************


「……俄かには、信じられん話だが……」

「そう言われるのも、承知の上です。ですが、俺は嘘偽りなく全てをお話しするつもりです。裏付けとか、証拠集めとか……何でも協力させて下さい」

 話し始めた時同様に、舵定は恐怖しながらも真摯に言葉を紡ぐ。初音室長から見ても、嘘を言っている様には見えなかった。

「……別室に居る伊賀星美紀さんの話す内容と整合性が取れていたならば、君の話を基に事実確認を行おう」

 そう告げて、初音室長は立ち上がった。別室で彼の妻、初音主任が女性警察官と共に美紀の話を聞いている。その報告を受け、舵定の証言と一致するのか確かめる為に。

 彼が舵定に向ける視線は、決して優しいものではない。しかし悪感情や、猜疑心が宿った眼差しではなかった。


――少なくとも彼は、本気で償おうとしている。その点に関しては、疑いの余地は無いだろう。残る問題は……ネットの方と、残る主犯達か。


 ネットの方に対しては、既に手を打ってある。残るは、【禁断の果実】の面々……彼等は今頃、事の重大さを認識して戦々恐々としているだろう。なにせ、彼等がアナザーワールド・オンラインをプレイする為に登録しているメールアドレスに、あるメールが届いているのだ。


 その内容は、ファースト・インテリジェンスと初音秀頼の名前で告訴するというもの。内容は、初音家の使用人に対する虚偽の情報の流布による、名誉毀損である。

次回投稿予定日:2023/2/20(掲示板)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 背景が 黒一色になった瞬間 バグったか と 焦りました(・。・; 内容が内容だけに 納得しましたが…… 最初に 注意書きして 正解です あとは……次回の最初に どう書くか ですね …
[良い点] 突然の黒背景でビックリしましたが、内容も中々に黒いと言うかなんというか…。 美紀の最大の不幸は人の縁に余りに恵まれなかった所ですかねぇ…。 母親の最初の離婚原因も怪しいし。 天性の魅力が…
[良い点] まさに魔性の女、傾国の美女という奴ですね。美紀本人は無自覚に魔性の女ムーブしてたんでしょうねきっと。てか稗田テメぇが全ての元凶か佐田共々禄なことしてねぇなホント。これから美紀は少しでも救わ…
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