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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
355/573

15-35 最終決戦2―接戦―

―――――――――――――――――――――――――――――――

 ■拠点【天使の抱擁】


【七色の橋】(6人と1匹)

 ジン・ヒメノ・ヒビキ・センヤ、PACパックリン・PACパックヒナ・神獣コン


【聖光の騎士団】(6人)

 アーク・シルフィ・ベイル、プレイヤー4人


【森羅万象】(6人)

 アイテル・シア・ナイル、プレイヤー3人


【遥かなる旅路】(5人)

 カイセンイクラドン・トロロゴハン・ノクト、PACパックコリン・PACパックシャーリー


【忍者ふぁんくらぶ】(3人)

 アヤメ・イナズマ・タスク


【絶対無敵騎士団】(4人)

 フデドラゴン・エム、プレイヤー2人


【漆黒の旅団】(5人)

 グレイヴ・エリザ・ムジーク・ヘイグ・ゼット


【天使の抱擁】(16人)

 ハイド・エミール・ソラネコ、プレイヤー13人

―――――――――――――――――――――――――――――――


 各ギルドの主要戦力が、それぞれの戦いに集中しているのと同時。【天使の抱擁】拠点内にある建物へ、複数のプレイヤーが集中していた。狙いは当然、【天使の抱擁】のギルドクリスタル……同時に、彼等を含めた他のギルドのメンバーを戦闘不能にさせる事だ。

 複数のギルドを前に、【天使の抱擁】の防衛網はすぐに劣勢に陥った。故にエミールが防衛に回り、体制を立て直した。しかしその間に五人のプレイヤーが戦闘不能に陥り、戦線離脱していた。


 とはいえ、全てのギルドが同時に攻めている訳ではない。

 まず【遥かなる旅路】のプレイヤー……【ノクト】は、【天使の抱擁】よりも【漆黒の旅団】への攻撃を優先した。これは【漆黒の旅団】がPKギルドであり、過去に何人ものプレイヤーをその手に掛けているのが原因の一つだ。

 そのノクトには、カイセンイクラドンとトロロゴハンから託されたPACパックが同行している。


「そこだっ!! 【パワーショット】!!」

「からのーっ!! 【ソニックピアス】!!」

 カイセンイクラドンのPACパック・コリンによる射撃に、トロロゴハンのPACパックであるシャーリーの追撃。【漆黒の旅団】のムジークに向けられたそれを、残る二人のメンバーが阻止する。

「ふぅん、PACパックってのも結構やるねぇ」

「やっぱりAWOは面白れぇわ」

 片手斧を両手に持ち、コリンの矢を叩き落したのは【ヘイグ】。盾でシャーリーの短槍を受けたのが、盾と槍を扱う【ゼット】だ。


 彼等も当然、グレイヴの方針に従うPKerである。そして自分達が悪役である事を理解しており、【遥かなる旅路】が自分達を狙って攻撃する理由についても自覚がある。

 主な原因はやはり、グレイヴが率いる様になる前の【漆黒の旅団】が行った悪質なPK行為。それに関与していたかと言われれば、答えは否だ。彼等が【漆黒の旅団】に加入したのは、ジン達によって壊滅した後であった。

 しかし彼等は、それについて言及する気は無い。その方が自分達の目的……本気の戦いを楽しむという目的にとって、都合が良いのだ。


 そんな【漆黒の旅団】と【遥かなる旅路】の戦闘については、他のギルドはあまり手を出していない。あくまで目的はイベント上位を狙う事であり、他ギルドの戦力を削ぐ事だからだ。戦い合って、疲弊してくれるに越したことはない……という判断である。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「【旅路】はやっぱ、PKerを狙ってる感じか?」

「あそこは初心者のサポートとかもしてるし、マナーを大事にしているからね。それを平然と破る相手を、見過ごせないのかも」

「相容れない訳だ……まぁ、そこは仕方ないな」

「だなぁ……」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 【天使の抱擁】から見て、右側から攻めるのは【聖光の騎士団】。ベイル率いる、五人組のチームである。

「中々に粘るね、【天使】も」

 既に十四人まで数を減らした彼等だが、思いの外善戦している。ベイルはその理由が、エミールにあると解っていた。


――彼はこの戦いが再開されてから、ずっと指揮と支援・回復に徹している。それで防衛線を立て直せたという事は、どうやら一門ひとかどのプレイヤーらしいね。


 相手を侮り、油断するなど愚の骨頂。過去の失態は二度と犯すまいと、ベイルは気を引き締め直す。

 最前線クラスのプレイヤーであれば、何かしらの秘策を隠している可能性も有り得る。この最終局面でそれを許せば、状況が引っ繰り返される可能性も有り得るのだ。

 警戒は怠らず、その上で攻め切る。ベイルはその為の作戦を練るが……アークやシルフィを除いたこの面々では、突破力に欠けるのは事実であった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「ここまで人数を減らされると、流石の【聖光】も攻め手に欠けるか……」

「むしろあの人数で、よくやってると思うぜ」

「ベイルも強いんだけど、【天使】の指揮官……あいつのサポートと回復が、結構上手いんだよな」

「クールタイム管理、魔法の選択、発動タイミング……どれもドンピシャだもんな」

「確か彼は、エミールってプレイヤーだな」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そんな【聖光の騎士団】から見て逆、左側から攻めているのは【七色の橋】。センヤ・ヒビキと、コンである。センヤとヒビキは純粋な前衛であり、息の合った連携で【天使の抱擁】に迫っていく。

「【一閃】……うおりゃああっ!!」

「う……っ!?」

 特にセンヤが、果敢に攻撃を繰り出していく形だ。仲間達の協力を得て、努力の末に会得した居合い戦法。その成果が、ここで発揮されていく。


「調子に乗るな!!」

「させない!!」

 そんなセンヤへの攻撃は、ヒビキが≪篭手・護国崩城ごこくほうじょう≫で防ぐ。篭手と盾を合成したこの装備は、高い防御性能を誇るのだ。

 そしてこの篭手は、防御だけではなく攻撃でもその力を発揮する。

「【アッパーカット】!! はぁっ!!」

「この……っ!! 中々やる……っ!!」

 防御から一転、攻勢を仕掛けるヒビキ。彼も仲間達との特訓で、対人戦でも問題無く戦えるだけの実力を身に着けた。


 そんな前衛コンビをサポートするのは、最速忍者と最強姫君の愛狐。神獣である、コンだった。

「【狐火(コン)】ッ!!」

 主人パパと同じ魔技【狐火きつねび】で、相手前衛に攻撃。センヤとヒビキが攻撃しやすい様に、隙を作り出していく。これには【天使の抱擁】も辟易しており、防衛ラインを維持するのに苦心している状況が続いていた。


 そして二人と一匹をサポートする、ある人物がいた。最早お馴染み、【忍者ふぁんくらぶ】のメンバー。その名も、【タスク】である。

 彼は元より魔法職らしく、センヤ・ヒビキ・コンの後方から回復魔法と支援魔法でのサポートを続けていた。

「【バイタリティアップ】!!」

 バフが切れる前に、再びバフを掛け直す。このサポートにより、【七色の橋】幼馴染カップルはいつもより強引な攻勢を仕掛けられているのだった。


 ちなみにパーティメンバーやギルドメンバーではない相手に、回復や支援の魔法を使用して効果を発揮させるのは難しい。同行している相手の場合はシステムサポートが働き、対象に自動照準されるのである。しかし同行者でない場合は、システムのサポートが得られない。照準を自力で行わなければならず、動いている相手ならば難易度は更に増すのだ。

 それを全て、的確に当てている……このタスクは、支援役として高い能力を持っているらしい。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「センヤちゃんとヒビキちゃんの連携、上手くね?」

「上手く噛み合っているよね、あの二人。息ピッタリというか」

「それにしても、コンさんすげぇな。指示されてねぇのに、戦況に応じた魔法で支援してるぞ……魔法、だよな?」

「多分そうなんだろうけど、それよりナチュラルにさん付けしてるの草」

「何よりウケるのが、当たり前の様に一緒に居る【ふぁんくらぶ】」

「それなw」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そんな【聖光の騎士団】と【七色の橋】の間……正面から攻撃を仕掛けていくのは、【森羅万象】の三人。

 彼等の実力は、最前線クラスという程では無い。だが警戒対象ギルドに差し向けられるくらいには、実力を認められている面々だ。

 先程までは、彼等の動きは鈍かった。その理由は、アーサーガールズの三人が分断されていた為だ。彼女達の援護に向かうか、それとも託された【天使の抱擁】攻略を進めるかで迷ってしまったのだ。それ故に、攻めやすい左右の位置取りを逃してしまっていた。


 この立ち位置は、彼等にとって非常にプレッシャーを感じる位置取りとなる。正面に【天使の抱擁】、左右には強豪ギルド。当然、左右からの攻撃にも警戒しなければいけないのだ。

 その為に大きな隙を晒してはならぬと、大胆な行動を取れずにいるのである。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「【森羅】は何か、他に比べて勢いが無いな?」

「そりゃそうだろ、左右を【聖光】と【七色】に挟まれてんだ。隙を見せたら攻撃されるんだぞ」

「敵の敵は味方って段階じゃないもんね」

「敵だらけの戦場での大乱戦とか、マジ無理」

「そう考えると、良くやってる方だろうな」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 逆に、勢い良く【天使の抱擁】に向かっていくのは【絶対無敵騎士団】。その練度は、正直に言うとそこまで高くはない。シビアな目で見ると最前線クラスから一歩劣るといった、その程度の実力だ。

 最も彼等は、このイベントに備えて格段にレベルアップしている。元の実力がそこまで揮わなかったのだが、そこから鍛えて現在の力量まで上り詰めたといって良い。


 彼等がそこまでしたのは、何故か? それは第二回イベントで、トーナメント進出を逃したからだ。

 フデドラゴンの腕と、彼の優しさに甘えていた……そのせいで、自分達の実力は大した事が無かった。トーナメントに進出出来なかったのは、自分達が弱かったせいだ。

 そう考えたエム達は、フデドラゴンに申し訳無いと謝罪した。そんな彼等に、フデドラゴンは責める様な事は言わなかった。見捨てずに、励まし、共に頑張ろうと呼び掛けた。


――フデドラさんの想いに応えられなきゃ……男が廃るってもんだろ……!!


 フデドラゴンを今度こそ、トップクラスの舞台に。その為に、彼等は必死になってレベリングや素材集めに励んだ。そうして最終日を迎え、この頂上決戦に乗り込んだのだ。

「フデドラさんの為に、負けられねぇんだよ!!」

「おぉぉっ!!」

「やってやる!! 俺達ならやれるぞ!!」

 たった三人、されどその勢いは決して無視できない。彼等の強い意志をもって繰り出す攻撃が、それを証明していた。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「おぉ……【絶対無敵騎士団】、勢いあるな?」

「実力的には他のギルドに比べたら、一歩劣る感じなんだけどね」

「気合いと勢いで、ガンガン攻めてるって印象かな」

「あのままだと、その内息切れしそうだな」

「あぁ……あんだけの特攻、そう長い時間は保たないだろ」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そうして繰り広げられる接戦。時間が経過し、イベント時間は残り六分。そこで、ついに状況が動いた。


 グレイヴとカイセンイクラドン、アヤメとフデドラゴンの戦いに変化が起きたのだ。

「くっ……これだけの力を……」

 グレイヴの方が、対人戦でカイセンイクラドンを上回っていた。カイセンイクラドンのHPが、いよいよ危険域に突入しようとしていたのだ。更に、攻撃を受けていた盾の耐久ももう保たない。

「モンスの相手ばっかしてる奴等にしちゃあ、やるじゃねぇか。でも、こっちはPvPコレに全部賭けてるもんでな……終わりにしようぜ」

 そうしてグレイヴが剣を振り被った、その瞬間。


――ここだ!!


 カイセンイクラドンは左手にした盾を使い、カウンター気味の攻撃に転じる。それは、盾を投げ捨てる事で成立する武技だ。

「【シールドキャノン】!!」

「へっ、それはお見通しだっ!!」

 残りの耐久値が少ない盾を使い、攻撃する。それは予測が容易く、この土壇場で一発逆転を狙う手段に最適。セオリー通り、だがそれが読みやすい。

 武技無しで、カイセンイクラドンの【シールドキャノン】を避けるグレイヴ。更に彼は、カイセンイクラドンの次の攻撃について予測を立てていた。


――追撃の剣、武技は無し。それを受け流して、反撃……それで勝負ありだ。


 冷静沈着に、カイセンイクラドンの動きを予測。基本的なプレイングを重視しているカイセンイクラドンは、グレイヴにとって与し易い相手だった。

 彼の予測通り、カイセンイクラドンは【シールドキャノン】を放った直後に剣を手に前進。そうして互いに直剣の間合いに入り……そこで、計算は崩れた。

「うぉぉっ!!」

 それは、グレイヴからして予想外の攻撃。グレイヴの攻撃の軌道を予測し、その軌道を避ける様にしての蹴り。更に、そこからカイセンイクラドンは一か八かの賭けに出た。


「【ハイジャンプ】ッ!!」

「はぁっ!?」

 カイセンイクラドンの、予想外の反撃……【ハイジャンプ~ただし飛ぶのは相手~】が、グレイヴの腹に決まった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「やりやがったぁ!!」

「出た、【ハイジャンプ】!!」

「ジンさんのアレから、随分広まってんなw」

「えぇぇぇwww」

「あれ、本来の使い方じゃないよね? 修正しないのかな?」

「運営も面白がっている説に一票」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 同時にフデドラゴンも、アヤメの実力に圧倒されていた。

「……まだまだ……やれる……!!」

 遠目に見れば、奮闘する仲間達の姿がある。彼等の熱意と、自分への信頼を裏切るものかと奮起する。

 しかしそれでも、立ちはだかる壁は高い。

「……参る」

 余計な問答はせず、フデドラゴンの戦意に答える様に。アヤメは小太刀を手に、駆け出した。


「【一閃】!!」

 アヤメの小太刀にライトエフェクトが発生し、その光の軌跡がフデドラゴンの身体アバターに命中するその直前。

「【ファントムステップ】!!」

 攻撃を擦り抜ける、【体捌きの心得】の武技。しかしそれは技後硬直を強いられる、悪手だ。少なくとも、アヤメはそう判断した。なにせ【一閃】のクールタイム、技後硬直はほんの数瞬。彼が体勢を立て直す前に、アヤメは追撃を放てるのだから。


 ただし、それは技後硬直が発生した場合。このタイミングで、技後硬直が発生しない要素があった。

「【ジェットステップ】!!」

「……なっ!?」

 【ファントムステップ】も【ジェットステップ】も、武技。そして、武技であれば【チェインアーツ】の対象となる。攻撃ではなく、移動手段でもそれは変わらない。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「くノ一さんが飛んだぁっ!!」

「【体捌き】の武技で、【チェインアーツ】!? 出来たのか、そんな事!!」

「使いどころが難しそうだが、試してみようかな……」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 フデドラゴンの【ジェットステップ】は、アヤメの身体を上空に巻き上げた。彼女は忍者らしく、くノ一らしく軽装だ。当然、【ジェットステップ】の効果に該当する。


――機動タイプの武技による、【チェインアーツ】。成程、中々面白い着眼点ね。


 アヤメは上空に打ち上げられながら、このまま落ちれば落下ダメージで戦闘不能になると判断。それを避けるべく、体勢を立て直そうとした……空中で。

「【一閃】!!」

 アヤメは空中で【一閃】を発動させ、その反動を利用して姿勢制御に成功。更に着地する瞬間、地面に向けて武技を発動させる事で衝撃を緩和するつもりである。これは【忍者ふぁんくらぶ】の面々との研究で可能な手段だと、既に実証済みであった。何をやっているんだ、この人達は。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「武技を空打ちして、体勢立て直すとかホント忍者かよw」

「落下死は避けられないんじゃね?」

「いや、あの感じだと更に何かしら手段があるのかもしれん」

「ん? いや、待て!!」

「あ、あれはっ!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 アヤメが飛ばされたそこは、運悪く蹴り飛ばされたグレイヴの動線となっていた。

「あ、危ねぇっ!?」

「え?……ちょっ……!?」

 グレイヴとアヤメは、それぞれ身構える。アヤメとグレイヴはそれぞれ腕をクロスさせ、衝撃に備えた。そうして二人は空中で接触、動きを止め……そのまま、重力に従い地面へと落下を始める。

「悪い、とりあえず何とか着地を……!!」

「無論……!!」

 アヤメとグレイヴは突然の事態に困惑しつつも、互いに着地に意識を向ける。そうして下方へと意識を向けると、そこに居たのは数名のプレイヤーの姿だった。

「げっ……!!」

「まずい……っ!!」


……


 アーク、ハイド、そしてジン。武技を使わない、激しい技の応酬。一度ひとたび気を抜けばあっという間に攻め切られてしまう、そんな戦いを繰り広げる三人。


 ジンは【変身】で対抗するも、APは着実に減少している。このままいけば、どちらかを倒し切る前にAPが尽きる可能性がある。そうなると【変身】の効果は解除され、ステータス強化の恩恵を失うだろう。


 アークはアークで、被弾が増えていた。被弾が【ヒーリングファクター】の効果を上回れば、押し切られてしまう可能性は低くない状態となっていた。そこでアークが取った行動は、守りに徹する……のではなく、攻めに更に力を入れる事だった。


 そんなジンとアークを相手取るハイドは、その力量に舌を巻いていた。自分もそれなりの実力だと考えていたが、この二人は明らかに格が違う。打ち合えているのは、乱戦状態だからに過ぎない。一瞬でも集中を切らせたら、巻き返す事など不可能。それを理解していた。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「ジンとアークは解るが、あの【天使】のヤツも粘るね」

「しかし表情からして、いっぱいいっぱいみたいだな」

「ん? おい、カイさんとフデドラさんが……」

「それより上!! 上にっ!!」

「え? エリック上田?」

「おいおいおい!! なんてタイミングだよ!!」

「ピタゴラァッ!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 この三者に向けて、駆け込んで来るのはカイセンイクラドンとフデドラゴン。カイセンイクラドンは、蹴り飛ばしたグレイヴを追って。フデドラゴンは、あの高度ならばアヤメの戦闘不能は確実だと判断しての事だ。

 その上空から、落下して来るアヤメとグレイヴ。落下位置は正に、ジン・アーク・ハイドの交戦地点であった。

「……っ!?」

 アークは落下して来る二人に気付き、両手の聖剣を構える。そのままアヤメとグレイヴを攻撃して、戦闘不能にするつもりだ。

 ハイドは二人の落下に気付かず、背後から迫るフデドラゴンを警戒していた。このままフデドラゴンを通して、この硬直状態の戦況を打破しようと考えている。

 フデドラゴンもフデドラゴンで、アヤメとグレイヴは落下ダメージによる戦闘不能を避けられないと判断。構う事なくジン・アーク・ハイドに迫り、戦闘に入るつもりであった。

 カイセンイクラドンは別方向から駆けて来ており、変わらずにグレイヴに狙いを定めている。彼が地面に落ちて戦闘不能になるか、それとも何かしらの行動でそれを免れるか……どちらにせよ、悪質PKer(と思われる存在)であるグレイヴを放置しないつもりだ。


 それらの状況の中にあって、ジンは左手の≪小狐丸≫を一旦鞘に収めた。そのまま腰に下げた≪シーカーロープ≫を手にし、勢い良くそれを投げる。

 この≪シーカーロープ≫は対象を縛り付け、引き寄せるという性能を持っている。または相手の装備重量が重かった場合、相手に接近する事にも使う事が出来るのだ。

「……何っ!?」

「はあぁっ!!」

 ジンが≪シーカーロープ≫を放ったのは……アークである。

 アークの装備は鎧であり、明らかにジンよりも重い。故にジンはアークを引き寄せるのではなく、アークに自分が向かっていく形で使用した。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「ジンさん!?」

「アークに急接近!!」

「また忍者ムーブか、ありがとうございます!!」

「あれ楽しそうだな、やってみたい」

「ス○ール……リー○コア……うっ、頭がっ!!」

「あー、まぁ似てるな、確かに」

―――――――――――――――――――――――――――――――


「【一閃】!!」

「……っ!! 【クロスジャッジメント】!!」

 ジンの【一閃】と、アークの【クロスジャッジメント】……それが互いの身体に命中する。激しいライトエフェクトと同時に、二人の身体にダメージ痕が刻み込まれた。

「ぐっ……!! だが、まだだ!! 【ヒーリングファクター】!!」

「むぅ……っ!! やはり、【変身】が……!!」

 アークは≪聖痕の鎧≫の武装スキルを使用し、HP回復を図った。逆にジンはAPが尽き、【変身】状態が解除されてしまう。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「あっ……!!」

「忍者さんの【変身】が……っ!!」

「確か、【変身】はステータスアップの効果があったはず……それが消えたら……」

「接戦だったけど、ここまで……なのか……?」

―――――――――――――――――――――――――――――――


 変身状態が解除されれば、ジンのステータスは元の状態に戻る。均衡していた戦いの天秤は、これで傾く可能性が強まった。

 その間にアヤメとグレイヴは、地面に向けて武技を発動。その反動で落下ダメージを低減し、どうにか着地に成功した。

「くっ……頭領様ッ!!」

「……テメェ、何の真似だッ……!!」

 空中では回避系の武技を使用できない為、アークの攻撃で二人が戦闘不能になる可能性は高い。そう考えたジンが、二人を助けようと考えてアークに向かっていったのは誰の目にも明らかだった。


 しかしジンに、返事をする余裕は無かった。アークの追撃が、ジンを襲うからである。

 振り下ろされる≪聖印の剣≫をサイドステップで躱し、直後に≪聖刻の剣≫による突きを姿勢を下げて避ける。負けじと≪大狐丸≫で斬り掛かるが、アークはそれを引き戻した≪聖印の剣≫で受け流した。

 一進一退の攻防だが、先程までと違いジンの攻撃が受けるか躱されていた。最初は、【変身】前でも攻撃がヒットしていたにも関わらず。

 これはアークが、戦いの中でジンの攻撃パターンを覚えたからだ。言うだけならば簡単だが、それを実現するのは困難。その事からも、アークが力一辺倒のプレイヤーではない事が解る。


 更に問題は、相手がアークだけではないという事だ。

「チャンス……ッ!!」

「今なら、行けるッ!!」

 ハイドとフデドラゴンは、ジンの【変身】解除を好機と見た。彼が戦闘不能になれば、この戦況に大きな変化が生まれる……そう考えても、おかしくはないだろう。

 アークの攻撃を回避した直後の所に、背中から迫る二人。ジンはそれを察知したが、狙われたタイミングが悪かった。


――避けられない……っ!!


 強引な動きをすれば、体勢が崩れる。前に出ればアークが、下がればフデドラゴンかハイドが居る。彼等の前でそんな隙を晒せば、そこを突かれるだろう。

 せめて前か後ろ、どちらかならば凌げるだろう。しかし、どちらもとなると手が足りない。


――ここまでかな……?


 ジンはそう思いつつ、それでも小太刀を握る手を緩めなかった。結果がどうであれ、走れる所まで走る。このまま倒れるとしても、せめて最後まで戦い抜く。それが競技選手時代から続く、部隊がVRMMOになったとしても変わる事のない……ジンのポリシーだった。 


 そこでふと、ジンは背後に気配を感じた。それは唐突に、ふわりと出現したのだ。にも関わらず、ジンはその気配の主に対して警戒しようとは思わなかった。

 むしろ、逆。これならば行ける、まだ走れる……そんな確信を抱いていた。


「馬鹿なっ!?」

「何故、ここに……!?」

「……っ!!」

 ハイドとフデドラゴンが驚愕し、アークは目を見開いた。唐突にジンの背後に現れた彼女は、それだけの存在感を持つプレイヤーなのだ。

 ジンの背中を守る様に、ハイドとフデドラゴンに向き合うのはあどけなさを残す少女。長い銀色の髪と、赤いマフラーを靡かせている。


 その姿を見て、観戦エリアは一気に沸き上がった。思わず立ち上がったプレイヤー達は、モニターに映る少年少女……忍者とその姫君に向けて、声援を送る。


―――――――――――――――――――――――――――――――

「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」

「おいおい、最高かよ!!」

「これこれっ!! これだよっ!!」

「瞬間移動技、何回か使ってるの見たけど……ここで来たか!!」

「これで勝つるッ!!」

「夫婦タッグ、待ってましたぁ!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ヒメ、行くでゴザル!!」

「はい、ジンさん!!」


 それは【縮地】を駆使してジンの背後を守る為に駆け付けた、彼の最愛のお姫様……ヒメノだった。

次回投稿予定日:2023/1/30(本編)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 守られるお姫様だけじゃなく、守るヒーローにもなれるヒメでござった。 救援対象が初回イベントの逆パターンでしょうかねw 混沌過ぎて個別の闘いに言及しにくいけど、ヒメにはまだかくし球あるし…
[良い点] 彼らをアーサーガールズにならってフデドラボーイズと命名したい
[良い点] トップレベルの大混戦 か〜ら〜の〜 大混乱になる………前に 忍者 ナイッスー それにしても 観戦側ありだと 見やすさ倍増デス [気になる点] 忍者ふぁんくらぶ 何気に活躍…
感想一覧
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