15-33 幕間・運営観測室3
終結に向かおうとしている、第四回イベント。その趨勢を見守る運営陣は、プレイヤー達の様子を映すモニターに意識を集中させていた。
「問題や事件は、確かにありましたが……こうして純粋にイベントを楽しんでいる姿を見ると、ホッとしますね」
「ですねー! 第二回よりも、更に盛り上がってますよ!」
運営メンバーの誰もが、プレイヤー達にこのイベントを……そして【アナザーワールド・オンライン】というゲームを、心から楽しんで欲しい。そんな思いから日々、職務に励んでいるのだ。
より多くのプレイヤーに、スポットライトが当たる様に……そんな考えもあった今回のイベント。観戦エリアの様子をモニターで見れば、最初から観戦していた者も、敗退して観戦エリアに転移した者も、熱狂の渦の中だ。上位二十組が確定した現在も、盛り上がりを見せている。これには運営もホッとしていた。
「最高峰のプレイヤー達が集い、乱戦を繰り広げる……か。正に頂上決戦ですね」
運営メンバーにして、今回のイベントのプレゼンテーターを務めるセイン。彼は戦いの結末を見守るべく、管制室へとやって来ていた。
「ポイント的には、上位陣はやはり接戦です。そして頭角を伸ばしてきたギルドも、今後に期待が持てますね」
「第二回は狭き門でしたからね……」
第二回イベントは、上位八組のチームによるトーナメント戦。その仕様上、トーナメントに出場できなかったチームには注目が集まらなかったのだ。
「【竜の牙】に【ラピュセル】……それに【闇夜之翼】は、今後の活躍に期待大だな」
「特に【闇夜】は、目が離せませんね……色んな意味で」
今回のイベントで、最終日に残ったギルド。彼等は今後のゲーム内でも注目を浴び、成長が期待されるギルドとなるだろう。
「【ファミリア】や【真紅の誓い】は、更に力を付けて来ましたね。あと、【ベビーフェイス】……彼等は少人数ですが、思いの外安定していました」
「応援NPCとの接し方が、彼等は中々に良かったですからね。我々としても、嬉しい限りですよ」
応援NPCに誠意をもって接し、協力関係を築けたギルド。そんな彼等の様子を見て、運営陣は一定の成果を得られたと喜んでいた。
実はこのAWO運営、今回のイベントを契機に応援NPCによる【増援システム】を採用する予定でいた。
これはレイドボスとの戦いで使用できるシステムであり、レイド上限に満たない場合の戦力の補填となる。レイド専用となる為、通常時は使用できない。だがこのイベントに参加したギルドには、共に戦った応援NPC達と再会できる様にするつもりであった。
その構想が実現するか否か……常に行動を共にするPACだけではなく、一時的な仲間にも誠意をもって対応できるか。第四回イベントは、それを試す試金石になったのだ。
そして運営陣の考えは、ほぼ纏まっている……【増援システム】は、実現可能だと。
「それにしても、【漆黒の旅団】には流石に驚きましたねぇ。最近は彼等の悪質なPK行為に対する通報が無いと思っていましたが、あぁも変わるとは……まぁ、PKerではありますけど」
「【暗黒の使徒】の決闘PKと、通常のPKの間を取った様なものだな」
運営としても、彼等の変化は意外だったらしい。
「観客の中でも、彼等のPK方針ならば許容範囲内という意見もありましたね」
「新たなギルドマスターのグレイヴが、上手く纏め上げている印象ですね。要注意対象ではありますが」
過去に悪質PK行為で、プレイヤーからは蛇蝎の如く嫌われていたPKギルド【漆黒の旅団】。しかし今回のイベントで再び姿を現し、公の場で新生を果たした事を宣言。観戦しているプレイヤー達の抱いていた悪印象は、その言動と行動で緩和されていた。その相手となったのが、【七色の橋】であった事も一因だろう。
「それにしても、ユージンさんとケリィさん……この二人が落ちたのは、本当に予想外でした」
「あぁ……あの実力だからな。俺も同意見だよ」
エリアとシリウスがそう言うと、セインは苦笑して首を横に振る。
「ある意味では必然でしょう……あの二人の性格を考えると」
セインの言葉に、シリウスもエリアも反論は無い。
ケリィがわざわざ離れた場所に拠点を構える【七色の橋】に向かったのは、そこにユージンが居たからだろう。そうでなければ、仮設Cにおいて中心人物であったケリィ……彼女が率いるチームは、【聖光の騎士団】や【天使の抱擁】といった要注意ギルドに向かって然るべきである。
対するユージン自身も戦闘能力を加味すれば、攻め手として配置する作戦も可能だった。もしもジンとヒメノといった、同等クラスのプレイヤーと組ませたら? もっと早く、イベントの趨勢は決まっていたかもしれない。しかし、彼はそうしなかったのだ。
互いに、戦う未来を予想していたのではないか……セインはそう考えているし、シリウスやエリアもその考えに行き着いたのだ。
目まぐるしく変化する戦場を見つめながら、シリウスはある事について言及する。
「そして、初めて戦闘不能になったプレイヤー達……か」
初めて戦闘不能になった……というのは、ユージンとケリィ。そしてレンも、その中に含まれている。逆に”戦闘不能になった事が無いプレイヤー”は、残りわずかとなっていた。
実はそれこそが、ある要素における条件なのだ。最もそれは、条件の内の一つに過ぎない。しかし最も難易度が高いのが、この戦闘不能になった事が無いという条件だろう。
「全ての第二エリア開放された時点で、規定のキルカウントに達し、戦闘不能になった事が無いプレイヤー」
「この条件に該当し、あのスキルを手に入れるのは……果たしてどちらになるのか」
特殊条件達成により得られるスキル……それは運営が【勇者系】と呼称する、ユニークスキル。
「【九尾の狐】と、【デュアルソード】。どちらが勝っても、おかしくないな」
次回投稿予定日:2023/1/20(本編)