15-31 幕間・策士の真価
「スティード、そのPACを抑えてて!!」
「イエス、マスター」
フレイヤの指示を受け、彼女のPACであるスティードは【遥かなる旅路】のブラスカをマーク。同時にフレイヤは、ゲイルと共に【暗黒の使徒】のバーラ・ライカとの戦いを演じていた。
「良い雰囲気になってんじゃねーぞ、ゴルァッ!!」
「見せ付けてんのか!? オォ!? 美女と野獣気取ってんのかァ!?」
「ぐ……っ!! 本当、理不尽だな!! こいつらっ!! あと、野獣扱いすんなぁ!!」
何故、【暗黒の使徒】対フレイヤ・ゲイルなのか。当然、二人が何か良い感じだからである。【桃園の誓い】参戦と同時にそれを察したバーラとライカは、鬼気迫る勢いで二人に向けて突撃をかまし……双方の仲間がどんどん倒れて行く中、この二対二の状況になった訳だ。
その傍らでは、槍使いと直剣使いが激しい斬り合いに興じている。
「くっそ……やっぱ強いな、アンタ!!」
「アンタがそれ言うか!? 以前よりもキレが増してんじゃねーか!!」
【桃園の誓い】のダイスと、【遥かなる旅路】のタイチ。その攻防戦は、互いのHPが徐々に減っていく事から見ても互角と見て良い。トッププレイヤー同士の戦いは、見る者の興奮を呼ぶ名勝負となっていた。
そして、【森羅万象】の拠点中心に建つ建造物……その前に立つのはシンラとハルの姉妹と、四人のギルドメンバーだ。
「ハル、大丈夫?」
「うん!! お姉ちゃんが回復してくれているから、まだまだいけるよ!!」
ハルを要とした、拠点防衛。そんなハルを前にしているのは、【桃園の誓い】のヒューゴ。そして【遥かなる旅路】のエルリアだ。
「くっそー、ほんっと強いなぁ……自分がまだまだだって、思い知らされている気分だよ……」
「これだけ撃っても、彼女のHPは然程減らない……やはりVITが高い。状態異常にしても、すぐに回復されるのも手痛い……大きいのを撃ちたいけど、周りの護衛がそれをさせてくれないし……」
ヒューゴは【森羅万象】の難攻不落ぶりにぼやき、エルリアはどうすれば彼女達を落とせるかを必死に考えていた。エリアボスとの戦い、そして他ギルドとの戦い……連戦に次ぐ連戦で、仲間達や応援NPCも倒されてしまった。それが非常に、手痛い現状なのである。
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■拠点【森羅万象】
【桃園の誓い】(5人)
ダイス・ヒューゴ・フレイヤ・ゲイル、PACスティード
【森羅万象】(6人)
シンラ・ハル、プレイヤー4人
【遥かなる旅路】(3人)
タイチ・エルリア、PACブラスカ
【暗黒の使徒】(2人)
バーラ・ライカ
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「んー……そろそろかしら~?」
ヒューゴとエルリア、ダイスとタイチ、ゲイル&フレイヤとバーラ&ライカ……その位置関係を見て、シンラは機を見計らう。
拠点防衛は、同時に複数のギルドを相手にする場合がある。今回の戦いでも、それが苦戦の理由であった。しかし拠点での戦いは、利点もある。
「……ふふっ、それじゃあ終わりにしましょうか」
シンラがそう言うと、拠点から【森羅万象】のプレイヤー達が姿を現した。
「増援!? 隠れていた伏兵か!?」
「いや……戦線復帰組か!!」
シンラは拠点防衛戦力として、リスポーンしたメンバーを拠点内に待機させていた。それは防衛線を突破された場合の、予備戦力として……同時に、襲撃者達の数が減った時の備えとしてだ。
更に、シンラの狙いはそれだけではなかった。
「こ、こいつらいつの間に!!」
「囲まれた……!?」
他の戦場で戦闘不能になった面々は、建物の裏側から出て回り込んでいた。全ては、シンラの策の為に。
囲まれた状態で攻撃を受け、じりじりと追い遣られる【桃園の誓い】【遥かなる旅路】【暗黒の使徒】。逆に【森羅万象】側は、反撃などに警戒して深追いをしないように徹している。
傍から見れば、気付けただろう……彼等が【森羅万象】によって、誘導されている事に。
「今よ、ハル!!」
「了解っ!!」
シンラの合図を受け、ハルが単身駆け出した。
「ん? 防衛を捨てるのかしら?」
「……違う、これは……っ!!」
戦線復帰した【森羅万象】のメンバーによって、彼等はハルの進路にまとめられていた……それも、一列に。
ハルはこれまで、≪反逆者の大盾≫のスキルを使用せずにいた。過去のイベントで、彼女の大盾の性能についてもおおよその予想は立てられている。それは『受けたダメージ値を攻撃力に変換する』という予想であり、事実それは的を射ている。
ハルが拠点防衛の戦いで受けて来た攻撃のダメージ値は、相当なものになっている。それを解放した場合、一撃で戦闘不能になる大ダメージを受けるのは間違いないだろう。
「決めるよ……っ!! 【チャリオットバッシュ】!!」
ある程度距離を詰めた所で、ハルは【チャリオットバッシュ】を発動。そして、溜めに溜めた力をここで解放する。
「【リヴェンジ】!!」
赤黒いオーラを纏った大盾を使った、突進攻撃。それに触れた瞬間……まずエルリアとヒューゴの身体が、大きく吹き飛んだ。次いでゲイルとフレイヤが、バーラとライカが……そしてスティードとブラスカ、最後にダイスとタイチが吹き飛ばされる。
地面に倒れた彼等を見つつ、ハルは右手で小さいガッツポーズを取る。ここまで堪えに堪えて貯めた力を一気に発揮しての、強力な攻撃だったのだ……気分が高揚していても、不思議ではあるまい。
そして何より……ここまで打った布石が噛み合い、一気に強敵を殲滅する策を用意していたシンラ。彼女の顔から緊張の色が消え、柔らかい笑みが浮かび上がる。
「ハル、それに皆……頑張ってくれて、ありがとう」
穏やかな声色で響き渡るその言葉を耳にして、【森羅万象】の面々は勝鬨の声を上げた。
【森羅万象】、拠点防衛成功。
次回投稿予定日:2023/1/10(本編)
本来であれば本編で描ける名勝負なのですが、【森羅万象】の拠点がマップの端にある為に案外人が集中しませんでした。
そうする事も出来たのですが、そうするとコレどうなるんだ? みたいな展開になったものでして……物語の構想には、今も絶賛頭を悩ませていたりします。文才が欲しい。
でも、シンラさんとハルちゃんの活躍を描きたいと思いまして、幕間としてお届けした次第です。作者はこの姉妹結構お気に入りです。
読者の皆様は、特にお気に入りの登場人物はいらっしゃるでしょうか?
ご感想等でお声を頂けたら、何かしらの形で活躍を描くのも良いかなと思っています。端的に言うとネタが欲しい←
次回はあの場所でのバトルです!!




