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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
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15-24 激動の最終日3 -忍者と聖騎士-

 イベントマップのあちらこちらで、最終日まで残ったギルド同士の戦闘が激化していく。その激しさは初日・二日目を越えており、それを見守る観戦プレイヤー達の声援にも熱が籠もっていた。

 注目を集めているのは、まずこれまでのイベント等で活躍して来たプレイヤー達。そして今回のイベントで、名前が知られるようになったプレイヤー達だ。


 そんな中、AWOをプレイする者ならば必ず名前を聞いた事がある……そんなプレイヤー達が存在する。その中でも()()()()と言って良いプレイヤー達が、ある場所で遭遇した。

「……ここで君達に出会うとはな」

「考える事は、どうやら同じだった様でゴザルな」

【七色の橋】を代表するプレイヤー……紫色をパーソナルカラーにした忍者・ジン。

 白銀の騎士装備で身を包む、大規模ギルド【聖光の騎士団】を率いる男・アーク。

 最速と最強の邂逅、かつてない大物同士の対峙。この二人が向かい合う姿を見た観戦者達は、興奮し沸き上がっていた。


「【聖光の騎士団】の、ギルマスにサブマス……!! めちゃくちゃ大物じゃん!!」

「うん……!! こんな強敵と戦えるなんて、ラッキーだね……!!」

 センヤ思わぬ遭遇に驚いているが、その表情には喜色が浮かんでいる。そして大物相手に戦えるとあって、普段の大人しさは鳴りを潜めて興奮気味のヒビキ。

「アークさんにシルフィさん、ベイルさんですね……強敵です!!」

 そしてヒメノは強敵との遭遇に、気を引き締めていた。既に彼女の頭の中では、どう戦うべきかを思案してフル回転している。


 一方、対峙する【聖光の騎士団】の面々。

「このタイミングで【七色】の主力夫婦……!? それにあの二人……スパイ戦でも活躍していた新人だ!!」

「その上くノ一PACパックと、ヒナって娘……それに何だ、あの狐モンスターは」

「マジかよ、勘弁してくれ……!!」

 動揺しておられた。ジン・ヒメノ夫婦に、ヒビキ・センヤコンビ。そしてリンとヒナ、コンの存在感が強いせいだろう。

 そんな部下達の叫び(小声)を耳にして、これは気を引き締めさせねばとベイルが苦言を呈する。

「君達、まずは落ち着いてくれないかな」

 落ち着き払ったその声に、【聖光の騎士団】の面々は口を噤んだ。それを確認したシルフィは、ニヤリと笑いながら言葉を引き継ぐ。

「ベイルの言う通りだぞ。最終日にこんな強敵と戦えるなんて、燃えて来るじゃないか!!」

 そんなシルフィの言葉に、ベイルは微妙そうな顔を浮かべた。ちがう、そうじゃないと言いたげである。


 最強と最速がここで逢うのは、偶然に思えるかもしれない。しかしある意味では、この遭遇は必然の出来事だった。

 アークもそう思っているらしく、ジンから視線を逸らさずに口を開く。

「今回のイベントで、特に警戒しなければならないプレイヤー……アンジェリカに対抗するには、最大戦力を以って臨まねばならない。そう考えたのは、君達も同様だった様だな」

 そんなアークの言葉に頷き、ジンも言葉を返す。彼もまた、アークがここに居る事を不思議には思ってはいない。

「【八咫烏】の力に対抗し得る者が必要になるのは、自明の理。だからこそ、そちらも最大戦力である貴殿が来たという訳でゴザルな」


 ジンとアーク……二人がここに来た理由は、アンジェリカの存在によるものだった。【天使の抱擁】がどんな状態なのかは不明だが、もしもアンジェリカが再びその力を振るおうとした場合……ステータスの暴力が猛威を振るう可能性があった。

 それに対抗するには、やはり最大戦力を投入する。だからこそ【七色の橋】はジンとヒメノを、【聖光の騎士団】はアーク・シルフィ・ベイルを【天使の抱擁】の拠点へと向かわせたのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 ギルド拠点【聖光の騎士団】とギルド拠点【天使の抱擁】の中間


【七色の橋】(16人と1匹)

 ジン・ヒメノ・ヒビキ・センヤ、PACパックリン・PACパックヒナ・神獣コン・応援NPC10人


【聖光の騎士団】(14人)

 アーク・シルフィ・ベイル、プレイヤー11人

―――――――――――――――――――――――――――――――


 二人の会話を見守る面々は、一様に口を噤む。ただその傍らで、武器を手に緊張感を高めて控えていた。

 それはジンとアークの会話に割り込む隙がないのではなく、邪魔をしてはいけないという思いからだった。

「想定とは異なるが、良いだろう……俺としても、君とは是非戦ってみたかった」

「最終日にこうして遭遇した以上、戦いは避けられぬ……でゴザルな。望む所でゴザル」

 互いに「戦闘を避ける」という選択肢は、存在しない。互いに認め合い、敬意を表しているからこそ……戦い、そして勝利したい。


「リンは、ヒメとヒナのフォローを頼むでゴザル」

「かしこまりました、主様」

 ジンの指示を受けたリンは、ヒメノの側へ寄る。既に小太刀を構えており、臨戦態勢だ。

「よろしくね、リンちゃん。ヒナちゃん、準備は良い?」

「勿論です!」

 ヒメノは弓刀≪大蛇丸≫を手に、いつでも射撃出来るように構える。その傍らに立つヒナも、相手の動きに合わせて魔法支援を行えるように備えていた。


「シルフィ、ベイル……指揮を任せる」

「ま、そうなるよね」

「解りました、やってみます」

 アークは一歩前に出て、シルフィとベイルにそう呼び掛けた。そんな彼の背中を見ながら、シルフィは苦笑して肩を竦める。ベイルは落ち着いた表情を崩さずに、力強く頷いて応えた。


「胸を借りるつもりで……なんて、言ってられないよね」

「ふふっ、やる気満々じゃん!」

 気合十分といった様子で、拳を握り締め構えるヒビキ。いつでも抜刀出来る体勢を維持しつつ、恋人の様子に満面の笑顔を浮かべるセンヤ。二人の様子に一つ頷いて、ジンは己の神獣の頭を優しく撫でた。

「頼むでゴザルよ、二人共。コン、ヒビキ殿とセンヤ殿を守るでゴザル」

「コンッ!(任せてパパ!)」


 アークは振り向く事無く、それでも仲間達に向けて声を掛ける。

「決して油断などするな、相手は強敵だ。そして……この戦い、我々が勝つ」

 その力強い言葉に込められた強い意志を耳にして、困惑していたメンバー達も覚悟を決め……そして、応えた。

「「「「了解!!」」」」

 自然と揃ったその返答を耳にし、アークの口元が軽く緩む。しかしアークは、すぐに口元を引き締め直した。


「アーク殿の相手は……」

「ジンは……」

 姿勢を整え、いつでも駆け出せる体勢のジン。双剣を構え、全力で攻める体勢のアーク。

「……拙者が!!」

「……俺が!!」

 気合いの籠もった宣言も、駆け出したのも同時。紫色の飾り布(マフラー)を靡かせ走る、九尾の狐の忍者。対するは青い外套マントをはためかせ駆ける、聖剣の聖騎士。


 先制攻撃を繰り出したのは、ジン。すぐに距離を詰め、アークの身体に一太刀を浴びせようと≪大狐丸≫で斬り掛かる。アークはそれを左手の≪聖咎の剣≫の刀身で受け、すぐに右手の≪聖印の剣≫で突きを繰り出した。

 それを半身になって避けるジンだが、アークもそれを予測していた。攻撃を避けたジンの動きに合わせ、剣を横凪に振るって追撃を繰り出す。しかしジンは姿勢を下げて、アークの剣を掻い潜る形で避けた。その反応の速さに、アークは軽く目を見開いた。


――これがギルバートをも圧倒した、ジンの力か……!!


 ジンはアークの一挙一動、そして視線に意識を集中している。彼の意識がどこに向いているのか、そこからどんな攻撃を繰り出すのか。それを材料にして、アークの動きを読んでいるのだ。

 しかしそれはアークもまた、同じ。ジンの動きを予測し、攻撃と防御を繰り出している。


――ユージンさんに教わった、戦闘での攻撃予測のコツ……アークさんの読みも、同じコツを使っているんじゃないか?


 VRMMO歴が長いアークは、PvPの経験も多い。そして研鑽を積む中で、彼は相手の動きを予測する術を見出した。それはユージンがジンに伝授した、視覚情報から得られる先読み術と同様のものである。

 長年の経験で得られた技術を、短期間で習得出来たジンが優れているのか。それともユージンと同様の技術を自ら見出した、アークが優れているのか。両者共に、優れているというべきだろう。


 しかしそれでも、こと速さにおいてはジンの方が上回る。全プレイヤー中最高峰のAGIを誇る、最速忍者なのだ。故にアークの予測を上回り、その防御を抜けて攻撃をヒットさせていく。


――ダメージは軽減されるか……でも、着実に積み重ねていけば……!!

――と、思っているだろう……しかし、俺にはこの力がある……!!


 アークが身に纏っている≪聖痕の鎧≫には、武装スキル【ヒーリングファクター】が宿っている。このスキルはアークのHPを回復し、状態異常を解除する事が可能だ。

 更に、アークは【カウンター】というスキルも備えている。これは相手の攻撃に合わせて発動し、相手の攻撃の威力が強ければ強いほど威力を増す特性がある。

 扱いの難しいスキルではあるが、アーク程の実力者ならば十全に使いこなせる。このスキルのカウンター攻撃ならば、流石のジンといえども完全回避は困難だろう。


――チャンスは一瞬……しかし好機を見逃す俺ではないぞ、ジン……!!


……


 ジンとアークの戦いが始まった直後から、ヒメノ達も動き出していた。勿論それは、シルフィ達も同様だ。

「さぁ、行くよ!! 【ベルセルク】!!」

 自己強化スキル【ベルセルク】を発動させ、獰猛な笑みを浮かべて駆け出すシルフィ。その狙いは、ヒメノだ。同じく前衛メンバー達が、シルフィを援護すべく追従する。

 ベイルは後方でアイテムを手にし、冷静に戦場を分析している。その傍らで、弓使いや魔法職が遠距離からの攻撃態勢を整えた。

「ヒメノさん、出ますね!!」

「切り込み隊長!! いっきまーす!!」

 ヒビキとセンヤは並んで駆け出し、シルフィ達の行く手を阻もうと前進する。その背後に続くのはジンの神獣であるコンと、応援者達だ。


「ヒナちゃん、リンちゃん、行くよ!!」

「はいっ、お姉ちゃん!!」

「お任せを、奥方様」

 ヒメノは弓に矢をつがえ、弦を引き絞る。狙いは当然、シルフィ……ではない。

「……おや、僕かい?」

「【パワーショット】!!」

 真っ先に狙ったのは、ベイル。消費アイテムを用いた彼のデバフが、シルフィの【ベルセルク】の効果を高める。その戦術は、第二回イベントで対戦した際に目の当たりにしていた。


 しかし、狙われるのは予想通り。警戒されるのも当然と、ベイルも解っていた。

「ところが僕も、別にサポートしか出来ない訳では……」

 そう言いながら、彼はフード付きのローブに手を入れ……そこから取り出した投げナイフを三本同時に抜きつつ、ヒメノの【パワーショット】を避けた。

「……ないっ!!」

 言い切ると同時にナイフを投げ、更にナイフを抜くベイル。左右の指に三本ずつナイフを挟む姿は、この攻撃方法に慣れているのが見て取れる。

 硬直中のヒメノに向けて、飛ぶ投げナイフ。しかしヒメノに到達する前に、リンが両手の小太刀でそれを叩き落としてみせる。

「奥方様には、指一本触れさせません」


「こっちも先制攻撃だよっ!! 【一閃】!!」

 間合いに入った瞬間、センヤは武技発動と共に刀を抜き放つ。その気合いの籠もった抜刀術に、シルフィはニッと笑う。

「受けて立つよ、お嬢ちゃん!!」

 シルフィも己の得物を振るい、センヤの刀と打ち合った。火花が散り、甲高い金属音が戦場に鳴り響く。シルフィが次の攻撃に備えようとした所へ、踏み込んで来るのは黒髪の少年。

「【ナックル】!!」

「っと……!!」

 繰り出されたヒビキの拳を、シルフィは大剣の刀身で受け止める。その威力に押され、シルフィの身体が押し返された。


「押し通るぜぇっ!!」

「どけどけぇっ!!」

 ヒビキとセンヤ、そしてシルフィの脇を通り抜けて、後衛に接近しようとする【聖光の騎士団】のメンバー達。その行く手を遮るのは、【七色の橋】の応援者達だ。

「通れると思うなよ!!」

「俺達が相手だ!!」

 正面からぶつかり合う、両ギルド。その光景は和風鎧の武者達と、洋風鎧の騎士達がぶつかり合う形となっていた。剣や槍、盾がぶつかり合う。矢が宙を飛び、魔法攻撃が地を抉る。

「おい、応援の現地人ってこんなに強いのか!?」

「ちぃっ!! 今までの連中よりもやるぞ、こいつら!!」

 騎士達は応援者達の予想以上の強さに戸惑い、武者達は精鋭騎士達の力量に舌を巻く。


「ははっ、燃えてくるじゃないか!! やっぱり、PvPはこうじゃないとね!!」

 その言葉通り、シルフィの攻撃がヒビキとセンヤを襲う。攻撃を繰り出す度に、シルフィの動きや力強さが増していくかのようだ。

「く……っ!! やっぱり、強い!!」

「二人掛かりでコレだもん……ねっ!! でもっ!!」

 二人だけでシルフィの相手をするつもりは、無い。何せ、すぐ側に最速忍者の神獣が追従しているのだ。

「コンッ!!」

「何ッ!?」

 成長した状態のコンは、その体躯を駆使してシルフィの側面から体当たりしてみせた。その衝撃は決して軽くは無く、シルフィの体勢を崩させる。


「チャンス!! 【一閃】!!」

「【アッパーカット】……はあぁっ!!」

 体勢を崩したシルフィに、急接近する二人。そしてその攻撃は、確かにシルフィを捉えた。しかしそれで倒せる程、シルフィは甘くはない。

「やるじゃないか!! さぁ、今度はこっちの番だ!!」

 至近距離に居る二人に向けて、剣を振るう……と思いきや、シルフィはその長くしなやかな脚でヒビキの太腿にローキックを入れる。

「う……っ!?」

「こ、のぉっ!!」

 再び、居合いの【一閃】を放とうとするセンヤ。だがその行動も、シルフィの想定内。

「【一閃】!!」

「甘いよ!!」

 大剣を盾代わりにして、センヤの【一閃】を防ぐシルフィ。そのままセンヤの左腕目掛けて、蹴りを繰り出した。鞘を支える腕を蹴られ、センヤの体勢は崩される。

「うぉっと……!?」

 勢いに逆らわず、そのまま跳んで地面を転がるセンヤ。勢いのままに体勢を整えて、すかさず立ってみせた。その動きを見て、シルフィは口元をニヤリと歪める。


――場馴れしている? いや、違うね……相当な特訓を積んできたんだろ、【七色の橋】! 燃えるじゃないか!


……


 そして後衛組は互いに、前衛のサポートと相手後衛への牽制に腐心している。【七色の橋】側はヒメノを中心とした遠距離攻撃。護衛のリン・回復役ヒーラーのヒナ以外は、ヒメノと弓職二人に魔法職二人である。

 対する【聖光の騎士団】の面々は、ベイルを中心とした四人となっている。護衛役を配置していない為、彼等はヒメノの体得した速射法に面食らいつつも必死で回避していく。

「おいおい、ヒメノのあの動きは何だよ……!!」

「早撃ち……? あの威力の矢が、こんな短時間に飛んで来るとは……!!」


 騎士達を驚かせているヒメノではあるが、かといって余裕綽々という訳ではない。

 【聖光の騎士団】のメンバー達の練度は決して低くは無く、ヒメノの攻撃をしっかりと避けているのだ。更に自分に注意が向いていない事を確認し、反撃に転じていく。それら反撃はリンやヒナ・応援者達がカットするので、ヒメノは未だ被弾無しである。しかしながらその反撃、狙いも威力も申し分無い。当たれば確実に、戦況のバランスに影響が出るだろう。


 だが、そんな戦況を放置するベイルではない。現状で最も効果的な作戦を練り、虎視眈々と作戦発動のタイミングを図っている。

 ヒメノとリン・ヒナはまず間違いなく、難敵。しかしながら【七色の橋】の応援者達は別だ。パッと見でNPCとは思えないくらいの動きには感心するものの、驚愕する程では無い。

 故にベイルは彼等に対して、投げナイフによる攻撃を繰り返していた。その狙いは、単純にダメージを与える事ではない。


 このイベントに参戦するプレイヤーの中には、切り札を隠して臨んだ者達が居る。ベイルもまた、その中の一人である。

 ベイルのメイン武器は、投げナイフ。そして投げナイフとは消費アイテムの為、使用したら命中しようがしまいが消滅する物だ。

 しかしベイルのナイフは、地面に転がってはいても未だ残っている。この状況こそが、ベイルの真の狙いなのだ。


「さて……そろそろかな」

 下準備は十分と判断したベイルだが、油断などは微塵も無い。これで形勢を引き寄せられると、確信していない。

 上手くいけば儲け物、いかなければ他の作戦を使えば良い。戦い方は一つでは無く、一つの戦術に固執はしない。油断すればその瞬間、自分が死ぬと思って立ち回る。それが、ベイルという男の思考回路。

 慎重に慎重を期した、その性格……これはライデンとよく似ており、彼等が仲が良い理由でもあった。


――せいぜい驚いてくれよ、【七色の橋】……!!


 【聖光の騎士団】幹部以外には、一度も見せていないスキル。それを今、ベイルは初めて公の場で使用する。

「【ザ・リッパー】!!」

 ベイルがスキル名を口にした事で、スキルの効果が発動。地面に残留していたナイフが、独りでに空中に浮かび上がる。

「これは……っ!?」

 転がっていたナイフは、数え切れない程の数。それらが一斉に浮かび、切っ先を己に向けている様子は焦りを産むのは当然の事だ。ヒメノが驚きのあまり目を見開いたのを確認したベイルは、自分の策が有効打になると察した。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 スキル【ザ・リッパー】


 効果:消費アイテム≪ナイフ≫を対象に発動。投擲後、≪ナイフ≫は残留する。効果発動後、≪ナイフ≫は攻撃対象に自動的に飛来する。二度目の攻撃後、≪ナイフ≫は消滅する。クールタイム60分。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 戸惑う【七色の橋】の面々に向けて、投げナイフが飛来する。

「く……っ!!」

「くそっ、まずい……!!」

「嬢ちゃん達、逃げろ!!」

「……っ!! ごめんなさい!!」

 その数を捌き切るのは、容易ではないのは明らかだ。小規模ギルドに向けたステータスボーナスと、一線級の和風装備で強化された応援者でも難しい。

 それでも応援者達は、ヒメノ達を逃がす事を優先した。


「ヒナちゃん、行くよ……!! 【縮地】!!」

 ヒメノ達の姿が掻き消えるのを確認した応援者達は、投げナイフの猛威に晒されて尚、口元に笑みを浮かべる。

 この戦いの主戦力、そして依頼主でもある彼女達を優先する。それが応援者として戦列に加わった彼等の役割であり、誇りなのだ。

「よし……全力で耐えろぉ!!」

「よし来たあぁっ!!」

「なんてスキルだ、全く……!!」

 被弾に次ぐ被弾で、HPがみるみる内に削られていく応援者達。それでも生き残ろうと、必死に足掻く。


――正直、PACパックもNPCも変わらないと思っていたが……案外、良いモノなのかもな。


 ベイルは応援者達の様子を見て、自分もPACパック契約の相手を探してみても良いのかもしれない……と考える。これまでPACパックはただ黙って付き従い、AIプログラム通りの言葉を口にするNPCだと思っていたのだが……それは違うのだと、認識を改めたのだ。


――さて、君達は瞬間移動技で退避し……そして、彼等を回復する算段だろう。だが、その為には一瞬のタイムラグが発生する。


 彼の予想では、ヒメノとヒナは【縮地】で安全圏へと退避。そして【ザ・リッパー】による攻撃が終了すると同時に、再び転移して彼等を回復する。戦闘不能者が出るのを見越して、既にヒナが蘇生魔法の詠唱を開始……ヒメノは≪ライフポーション≫を手にし、転移するタイミングを見計らっている。

 蘇生魔法の発動中、ヒナの動きは数秒止まる。そしてヒメノは≪ライフポーション≫を手にする為に、一時的に武装解除状態になるだろう。その隙を突いて、勝負を決める。


――とはいえ、予想外の展開も起き得る。可能性としては、彼等をそのまま見捨てる事か? 彼女達の性格的に、有り得ないとは思うがね。あとは、先に……いや、待てよ?


 彼等の蘇生を後回しにして、自分達を先に倒す。その可能性も、あるのではないか? ベイルの脳裏に、悪寒が走る。

 自分を含めた【聖光の騎士団】の精鋭は、そう簡単に倒せるものではない。だが、例外はある……そして、ヒメノこそがその例外だ。大盾を一度の攻撃で破壊するSTRの持ち主であり、その火力は全プレイヤー中で随一。そして彼女の過去の戦闘データには、範囲攻撃が存在する。


――ま、まずい……っ!!


 ベイルが仲間達に、警戒を促そうと振り返ったその瞬間。

「【シューティングスター】!!」

 ヒメノの武技が、発動された。

「避けるぞ!!」

「でも、攻撃はどこから……!?」

 周囲を見渡しても、ヒメノの姿は確認出来ない。誰もがそう判断したが、彼等は一箇所確認出来ていなかった。

 ストン……と、プレイヤーの一人の肩に矢が刺さった。同時にHPが一瞬で消し飛び、彼は戦闘不能になる。自分の肩に刺さった矢の角度から、彼はヒメノがどこから攻撃しているのかを察し……倒れる前に、必死の叫び声を上げる。

「上!! 空からだ!!」

 その叫び声を耳にし、誰もが背筋を冷たい何かが駆け上がる感覚を覚えた。生身の身体であるならば、冷や汗が全身から噴出していたのではないだろうか。


 そして視線を上空に向けてみると、そこには……射撃後のヒメノと、彼女にしがみつくようにしているヒナの姿があった。勿論それだけではなく……自分達に降り注ごうとしている、淡い光を纏った大量の矢。その光景は正に、矢による流れ星(シューティングスター)だ。

「逃げろっ!! 【クイックステップ】!!」

 ベイルが必死で走り出すと、彼等も正気を取り戻してこの場を離れようと駆け出し……しかし間に合わず、降り注ぐ矢に呑まれてしまう。


「見通しが甘かった、僕もまだまだだな……っ!!」

 そう独り言ちたベイルは、己に向けられた殺気に気付く。紫色のマフラーを靡かせた、黒髪の美女の姿がそこにあった。

「ちぃっ!! ここまでが計算されていたのか!!」

 接近するリンに向けて、ナイフを投げる。しかし彼女は立ち止まると、それを両手の小太刀で弾いてみせた。そのまま再度、ベイルに向けて走り出す。


――嫌になるくらい、仕上がった動きだ。彼等の蘇生も含めて、すぐに行動しないとな。


 加速する戦況は、勝負が決するまで止まらない。その中で即断即決し相手を上回るしか、勝機は無い……ベイルはそう判断し、次の策を発動させるべくポーチから消費アイテムを取り出した。

次回投稿予定日:2022/12/10(本編)


申し訳ありませんが、次の話は別の戦場のお話になります。

ジンVSアーク、これは以前から実現させたかった戦いでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アークの予想を上回る辺りとてもゼ〇ワンみを感じるし、なんならジンくんの狐モチーフが今年のギ〇ツだったりでこの作品のそこはかとなく散りばめられたライダーネタがとても面白いです
[良い点] 最速vs最強は前回大会で晒した手札すら切ってないからこれからどうなるのか楽しみですわ。 前衛組も後衛組も良い勝負してるなぁ…。 ベイルくん、相当な隠し技使ってるのに強カードの一枚程度って…
[良い点] 遂に実現した 最強VS最速 聖光VS七色 読み合い 駆け引き  最高のBATTLE これを 待ってました!! [一言] 七色と聖光は 過去の大会でも 色々な因縁等がありました …
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