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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
341/574

15-22 激動の最終日2-加速する激戦-

 本格的にギルド同士の潰し合いが始まった、イベント最終日。その戦況は加速し、イベントマップのそこかしこで激戦が繰り広げられる。


……


「く……っ、何だ……この強さは……!!」

 地面に倒れ伏すのは、【竜の牙(ドラゴンファング)】のギルドマスターであるリンド。彼は仮設ギルドAを倒そうと拠点に攻め入り、そして敗北していた。

「マジかよ……リンドさんが……!!」

「早く蘇生だ!! 蘇生しろ!!」

 リンドを復活させようと、慌てて駆け出す【竜の牙(ドラゴンファング)】の面々。


 しかしリンドの側には、彼を打倒したプレイヤーが未だ立っている。

「応援NPCは、ヤツを止めろ!!」

「……了解した」

 例によって応援者をNPCとして扱い、顎で使う様な指示。それに憮然とした様子ながらも、応援者達は任務を遂行しようと敵に向けて加速する。

「恨みは無いが、やらせて貰う!!」

 そんな応援者達の勢いに怯む事無く、彼は自然体で肩を竦めた。

「構わないさ、俺は俺の仕事をするだけだ」


 その言葉の直後……鋭い剣閃が、応援者達に襲い掛かる。身体に刻まれたダメージエフェクトに顔を顰めつつ、応援者達は反撃しようとするが……相手は滑らかな動きで剣を操り、再度振るって攻撃を続けてみせた。

「く……っ!!」

「なんて力だ……!!」

 武技ではなく、純粋な剣術。そしてその動きは精密であり、苛烈。相手の攻撃を弾き、封じ、受け流す。そうして生まれた隙を逃さず、的確な一撃を次々と与えていく。


 その戦い振りを見ながら、仮設ギルドAの生産職プレイヤー達も動揺を隠せずにいた。彼等もまた【竜の牙(ドラゴンファング)】との戦いを繰り広げている。とはいえ、彼等は生産者だ。応援NPCに戦闘を任せ、自分達は盾で攻撃を防いだり、アイテムで回復支援をしたりが関の山である。

「おい……あれ、本当にセスか?」

「何だよ、あの動きは……」

「実力を隠していたのか?」

 まさか料理番に過ぎない青年……セス=ツジが、ここまで強いプレイヤーだとは思ってもみなかったのだ。


 彼等も最初は【竜の牙(ドラゴンファング)】の勢いと、それなりの実力を目の当たりにして敗北を覚悟した。仮設ギルドAの実力者達は拠点防衛を応援者と生産職プレイヤー達に任せ、他のギルドを倒すべく出払っていたのだから。この辺りは、指揮系統が確立されていない寄せ集め集団の弊害だろう。

 そうして不安を抱いていた彼等の下に、襲い掛かって来た【竜の牙(ドラゴンファング)】。それなりの実力者だというのは、見ただけで解った。

 大人しくやられるか、無様に足掻いてやられるか、逃げるか。それくらいしか、選択の余地は無い……一人を除き、誰もがそんな未来を予想したのだ。

 そして、その予想は覆された……思わぬ伏兵、セス=ツジの力によって。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 ギルド拠点【仮設ギルドA】


竜の牙(ドラゴンファング)】(20人)

 リンド、プレイヤー5人、PACパック2人、応援NPC12人


【仮設ギルドA】

 セス=ツジ、プレイヤー19人(生産職)、応援NPC11人

―――――――――――――――――――――――――――――――


「うぉぉぉっ!!」

「もう、時間が無い……!!」

 必死の形相でリンドの下に駆け付けようと奮起する、【竜の牙(ドラゴンファング)】の面々。しかし、それを許すセスでは無い。

「潰す気で攻めて来たんだろう? なら……」

 リンドの蘇生に向けて駆けるプレイヤー達は、セスを止める為に使い潰すつもりだった応援者達が斬られる様を見た。

「この短時間で……同時に、四人を……!?」


 応援者達を倒したセスは、彼等を一瞥する事なくプレイヤー達を見る。その姿から発せられる圧力は、トッププレイヤー達と同等……または、それ以上ではないかと錯覚させる。

「返り討ちに遭う覚悟も出来ているな」


 迂回してリンドを助ける気だったプレイヤー達は、立ち塞がるセスに向けて顔を歪める。

「こうなったらぁぁぁっ!!」

 追い詰められたプレイヤー達が、セスに向けて斬り掛かる。破れ被れの行動なのは、見るまでもない。

「戦場では、冷静さを欠いてはいけないよ」

 セスは流麗な動きで、剣を振るう。その攻撃は【竜の牙(ドラゴンファング)】のプレイヤー達の動きを止めつつ、確実にダメージを与える完成された剣の使い方。

 そんなセスの剣に抗う事敵わず、リンドを救おうとしたプレイヤー達のHPが尽きる。


 同時に、リンドの蘇生猶予時間もタイムアップを迎えた。

「お前達……済まん……」

 そう言い残し、消えていくリンド。その言葉には、己に対する不甲斐無さと悔しさが滲み出ていた。

「残りの敵は……大丈夫そうか。さて、もうコーヒーを淹れている場合じゃなくなるかな」


************************************************************


 同じ頃、イベントマップの中央からやや南西に位置するエリア。そこに拠点を構えるギルドのメンバーが、決死の防衛戦を繰り広げていた。

 その相手は、ある意味で非常に有名なギルド。まるで世界征服を企む秘密結社の構成員の様な恰好をした、異様な装いの集団であった。実際には、世界征服などと大それた事を考えているのではなく……リア充死すべし慈悲は無いというスローガンを胸に、戦い続ける事を目的とした集団なのだが。

「ふはははははっ!! 思ったよりも出来るではないか!! 数だけでなく、質も申し分ない!!」

「それでこそ、殴る甲斐がある!! さぁ、面を出せぃ!!」

 ハイテンションでそんな台詞を吐くのは、決闘PKギルド【暗黒の使徒】のメンバー。アバターネームは、【モーリ】と【ナイン】である。


 しかしながら、彼等と相対するプレイヤーは思う……何故、自分達は狙われているのだろうかと。

 自分達はリアルフレンドの男五人で集まって、この異世界VRで心を潤したい……なのにナンパしても相手にされず、イベントでも散々な目に遭って来た。

 それでも負けじとAWOをプレイし、この第四回イベントで最終日まで生き残ったのだ。なのに、何故【暗黒の使徒】……リア充を殴る事に全身全霊を捧げる、決闘PKerに狙われているのだ。


「誰が出すか!! 訳が分からん!!」

 そう言いながら、片手剣を振るいモーリを斬り付ける。その姿は何かやたらとキマっており、見た目だけで言えば格好良い青年だ。

 それが【ベビーフェイス】のギルドマスター、ローウィンでなければ多数のプレイヤーがそう思っただろう。

「リア充を殴りに行けよ、それがお前らの目的なんじゃないのか!?」

 自分がリア充では無いと認めているようなものなのだが、状況が逼迫しているので取り繕う余裕もないらしい。


「いや、たまたま通りかかったんだがな」

「見掛けたからには、放置は出来ん。それに貴様らは、リア充になりたいと思っているのだろう?」

「「ならば、早い内にその芽を摘んでおくのも良いかと思ってな!!」」

 本気で迷惑な言い分だった。リア充になろうとするのを妨害しようとしている、はた迷惑過ぎる理由だった。これにはローウィンもカチンと来て、剣を握る手に力を籠める。

「ふざけんな……俺達がこのゲームでモテる為に、どれだけ苦労して来たと思ってんだ……!!」

 剣を構えるその姿、そして気迫。こちらも実にキマっており、見た感じだけならばピンチに陥って尚諦めない……そんな物語の主人公の様な、格好良いシーンに見える。でも、発言はそこはかとなく哀しい。


「俺達は、モテてみせる……!! 邪魔はさせねぇぞ!!」

「ふはは、そう来なくてはな」

「それでこそ、わざわざ来た甲斐があるというものよ!!」

 何か盛り上がっているのだが、会話の内容が非常に残念。しかし本人達は至極真面目に、そして本気の想いをぶつけ合う為に激しい斬り合いを再開したのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 ギルド拠点【ベビーフェイス】


【ベビーフェイス】(36人)

 ローウィン、PACパックルイス、応援NPC34人


【暗黒の使徒】(11人)

 モーリ・ナイン、プレイヤー9人

―――――――――――――――――――――――――――――――


 ギルド拠点を襲撃して来た【暗黒の使徒】は、プレイヤーのみで構成されているメンバーだ。その分、人数は少なめである。

 一方【ベビーフェイス】はプレイヤーはローウィンのみで、PACパックも彼の相棒であるルイスのみ。しかし応援者は34人と多く、戦力差は歴然か……と思われた。

【暗黒の使徒】は数の差を覆し、戦況を互角のところまで持って行っていた。これはやはり、彼等が決闘PvPを得意としている面が大きいだろう。


「この異邦人達……強いぞ!!」

「なんて奴等だ……!!」

 応援者達も、【暗黒の使徒】の予想外の強さに面食らっていた。モーリとナインをローウィン・ルイスコンビで対応し、残る敵は全て応援者複数人掛かりで対応していた。それでも尚、PKer達は互角以上の戦いを繰り広げている。

 やはり対人戦に長けているだけあり、プレイヤーやPACパックに近い動きをする応援者達との戦闘もお手の物なのだろう。三から四人を同時に相手をして尚、【暗黒の使徒】の動きに翳りは無い。


 ここまでか……そんな空気が応援者達の間に漂い始める、その瞬間。ローウィンが応援者達に向けて、力強く呼び掛けた。

「油断するな、そいつらは対人戦を得意としている!! しかし、あんた達だって負けていない!!」

 ローウィンがそう言うと、応援者達はチラリとローウィンに視線を向けた。ローウィンは目の前の敵から目を逸らさず、それでも応援者達に伝わる様にと声を張り上げる。

「相手の土俵で戦う必要は無いんだ、正面から取っ組み合うのは止めよう!! 俺達の得意な戦術で、こちらの土俵に引き摺り込む!! そうすれば……勝てるッ!!」

 すぐに視線を戻した彼等は、口元に不敵な笑みを浮かべて動き出す。


「そうこなくちゃな!!」

「お前の言葉を信じるぜ!!」

 応援者達は三~四人で固まり、【暗黒の使徒】のメンバーに猛進。その中の一人が攻撃を仕掛けるも、【暗黒の使徒】のプレイヤーはそれを受け流して反撃に転じる。しかし、その瞬間には攻撃を仕掛けた応援者は勢いを殺さずに駆け抜けていった。その進行方向には、他の【暗黒の使徒】のメンバーが居る。

 そして、攻撃を受け流したプレイヤーに対する追撃。それを避けるも、またもや応援者はそのまま駆け抜けていく。そして、三人目……四人目と続いた所で、PKer達は【ベビーフェイス】の戦術に気付いた。


「全員で、ヒット・アンド・アウェイを……!!」

「くそ……っ!! 攻撃が、途切れねぇ……っ!!」

 無理に突進攻撃を止めようとすると、視界の死角から迫る応援者によって妨害される。周囲にいくら気を配っても、相手は次々と代わる代わる押し寄せて来る。

 彼等【暗黒の使徒】は、決闘によるPvPが主なギルドだ。そして決闘は主に、パーティ単位での戦闘がメイン。最大で十人対十人の戦闘になるのが、常道である。

 だが、今回のイベントはGvG……それを上回る人数による、乱戦ありきのサバイバルバトル。最大十人の戦闘に慣れていた【暗黒の使徒】は、三十人単位の波状攻撃に対応し切れなかった。


「猪口才な……!! ならば、これで……っ!!」

「させるかよ!!」

「おい……やめろ、貴様!!」

「マスターに近付くな!!」

 消費アイテム≪爆裂玉≫を投げようと、モーリが足を踏み出した。しかしローウィンは、そんなモーリに迫って投擲を阻止する。ナインはローウィンを妨害しようとするも、ローウィンの相棒であるルイスがナインに掴み掛って地面を転がる。

「なんだと……まさか……っ!!」

 地面に落ちる、≪爆裂玉≫。それをモーリは、スローモーション再生を見ている様な感覚で見下ろした。その距離は、自分達の足元なのだ。

「爆ぜな、非リア充」

 ローウィンがそう言うと同時に、二人を中心に爆発が起きた。爆心地に居たローウィンとモーリのHPは、当然の様に弾け飛ぶ。そしてルイスとナインも、至近距離で爆発に巻き込まれて戦闘不能に陥った。


「くそっ、早く蘇生を……っ!!」

 優先されるのは、プレイヤーやPACパックの生存。それは大半のイベント参加者の認識と言って、差し支えないだろう。

 だが、ローウィン達はそう思ってはいなかった。どれだけ敗北したとしても、最後に勝てばそれで良い。だから彼は、戦闘不能に陥りながらも勝つ為に指示を出す。

「攻撃の手を緩めるな!!」

 モーリとナインを救出しようと、【暗黒の使徒】のメンバーは動き出そうとする。しかし【ベビーフェイス】の応援者達は、ローウィンの指示に従って【暗黒の使徒】の殲滅を優先した。

「何……っ!?」


「俺達の力を見せ付けろ!! お前達がそいつらを倒して勝ってくれれば、俺達の勝利だ!!」

 その言葉には、ここまで共に戦って来た応援者達に対する信頼の想いが込められていた。それを感じたからなのか、応援者達の攻撃は更に力強さを感じさせ、勢いを増していく。

「馬鹿な……っ!!」

「信じられん……!!」

 応援者達の猛攻によって、【暗黒の使徒】のメンバーが力尽きて倒れ始める。同時にモーリとナインが、蘇生猶予時間の終了を迎えて消滅する。

「後は任せた!!」

 それは、ローウィンとルイスも蘇生猶予時間が尽きた事を意味する。二人の身体が光の粒子となって消滅していくが、応援者達は表情を引き締めて戦い続ける。

 それはローウィンの信頼に全力で応え、【暗黒の使徒】を倒す為に。そしてローウィン達に……【ベビーフェイス】に勝利を齎す為に、駆け抜け続けるのだった。


 蘇生待機時間を消化したローウィンが、戦線復帰リスポーンしたのは五分後。そんな彼を迎えたのは【暗黒の使徒】を倒し切り、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべた応援者達だった。


************************************************************


「深淵は常に、貴殿達の側にあると知れ!!」

「はぁっ!? 何だって!?」

「貴殿達には未だ理解出来ぬか? しかし恥じる事は無い!! 我々と貴殿等では、潜り抜けて来た修羅場の数が違うのだから!!」

「理解出来ねぇし、したくもねぇよ!!」

「遊びは終わりだ!! 時空を司る神の力、その一端を見るがよい!! 【超加速】!!」

「はぁ!? くそっ、無駄に良いスキルを……っ!!」

「仕方ねぇ!! 【超加速】!!」

「ほう!! 貴殿も【超加速リミットブレイク・アクセラレーション】の使い手だったとはな……!!」

「だから、何だって!?」

 随分と賑やかな戦場は、いろんな意味で混沌と化していた。それはもう、カオスな状況である。


 片や少数精鋭(?)の新興ギルド、片やカリスマプレイヤーを支える中規模ギルド。彼等は行動中に偶然出くわしてしまい、そのまま遭遇戦を繰り広げてはや十数分。応援者達が倒れていく中、それでも戦況は拮抗しているという状況であった。


 特に応援者五人を従える修道女の様な装いの女性と、PACパック一人と応援者二人を従える艶のある黒髪が印象的な女性。二人は互いに真剣な表情で、相手を見て緊張感を高めていた。

「ここまでしても自分の得意な距離に持ち込めない戦いは、とても久し振りに感じます。本当にお強いのですね、フィオレさん」

「ふふっ……セシリアさん、でしたね? それは、こちらも同様です。ここまで隠し玉を投入しているのに、まだ倒せないだなんて……感服しました」


―――――――――――――――――――――――――――――――

 ギルド拠点【七色の橋】より南部


【闇夜之翼】(29人)

 セシリア=ランバート、プレイヤー3人、応援NPC25人


【フィオレ・ファミリア】(18人)

 フィオレ、プレイヤー5人、PACパック2人、応援NPC10人

―――――――――――――――――――――――――――――――


 彼女達はどちらのギルドも、【七色の橋】の拠点に向かう道中だった。その途中で互いの存在に気付き、そのまま開戦。セシリアもフィオレも、仲間達に他の相手を任せて狙いは大将首……と、互いに相手パーティのトップを狙った。この二人の戦いは、本当に互角の勝負であった。

 フィオレはウルトラレア装備≪魔導大全≫で製作した、魔法を封じ込めた宝石を惜しみなく投入して応戦。

 それに対し、セシリアは携えた大鎌……こちらもウルトラレアアイテム≪断罪者の大鎌≫を駆使して、フィオレの猛攻を搔い潜り戦っていた。


 フィオレはポーチから取り出した宝石を投げ、魔法発動のキーワードを口にする。

「【エスプロジオーネ】!!」

 そのキーワードを耳にした瞬間、セシリアは即断で対応を決定した。

「【アマラ】、魔法防御です!!」

「了解!!」

 帯同する応援者に魔法防御を指示すると、アマラと呼ばれた妙齢の女性は前に出て盾を構える。飛来する宝石は、アマラの盾に触れた瞬間に爆発。しかしアマラが【エレメンタルガード】を使用していたお陰で、爆発による被害は最低限に留められた。


――やはり、彼女が宝石を投げる時に口にしているのは……イタリア語!!


 セシリアの予想通り、フィオレが消費アイテムの効果発動に設定しているキーワードはイタリア語だ。【ディルーポ】は岩壁、【エスプロジオーネ】は爆発を意味する。その理由は、彼女が大学でイタリア語を専攻しているが故だ。

「あら、防がれてしまいましたね」

「まぁ、防がせてくれたのかと思いました」

 口惜しがるどころか、嬉しそうなフィオレの言葉。それに対し、セシリアも楽しそうに返していた。


 フィオレがキーワードを日本語や英語に設定しなかったのは、簡単に手の内を気取られない為に……というわけではない。そんな事よりも、()()()()()を重視した結果である。

 稀少な装備によって扱える様になった、特殊な消費アイテム。それを配信者としての彼女は、より()()()見える様にしたかった。

 格好を付けたいとか、手札を秘匿したいとかではない。配信を見る視聴者達がそれを見て、考察し、推測を立て、正解に辿り着くという過程……それを、楽しんで欲しいと思ったからだった。

 そんな考えの為、フィオレはセシリアを見て口元を緩めていた。


――彼女……気付いている!! 私の戦術を、キーワードの意味を理解しているのね!! イタリア語に精通しているのかしら、素晴らしいわ!! あぁもう、ありがとう!!


 テンションを上げていらっしゃった。それはもう、とってもとっても喜んでいらっしゃった。

 彼女としても、この仕込みに気付いてくれる存在を待っていたのだ。もっと早くから、この仕込み要素に気付いてくれる人がいると思っていた。なのに中々、気付いて貰えなかったのだ。

 実妹や実弟も、【エスプロジオーネ】くらいは何となくこんなの? と気付いてくれた。しかし【ディルーポ(岩壁)】はさっぱりだったし、他のもさっぱりだった。はぁ~、さっぱりさっぱり。

 そんな訳で、フィオレ的には仕込みに気付いてくれたセシリアに対して、心からの感謝の念を抱いていた。


 尚、セシリアがイタリア語を知っている理由について、フィオレは「もしかしたら?」という予測をしていた……してしまった。先程からやたらと耳に入って来る【闇夜之翼】のメンバーの声が、そうさせてしまった。

「祈りたまえ、【ファミリア】の諸君!! 【最終日の終結(ラグナロク)】はすぐそこまで迫っている!!」

「日本語でお願いします!! マジで!!」

「見事な腕前だ、【カルロス】殿!! 貴殿の実力を称賛し、【不屈の槍戦士(レイジングスピア)】の異名を贈ろうではないか!!」

「やめろぉ!! 俺を巻き込むなぁ!!」


――きっとそういう事ね。何かそういう感じの世界の、そういう感じで覚えたイタリア語なんだろうな……多分だけど、そうだと思う。多分だけど。


 つまるところ、厨二病の台詞を考える時に覚えたんだろうな……と思われていた。その内心がセシリアに伝わっていないのは、幸運なのか不運なのか。

 ちなみに実際の所なのだが、セシリアの母親がイタリア語の講師をしているからというのが真相だ。ちなみにセシリアママがフィオレの大学の講師だったとか、そういう運命的な偶然は無い。


「……何故だか、妙な胸騒ぎがします」

 戦鎌を構えながら、そんな事を言うセシリア。ちなみに胸騒ぎの原因は、フィオレの勘違いだ。

 サラッと聞いただけでは何という事は無い言葉なのだが、周りが周りなだけに厨二病ムーブに聞こえてしまった。フィオレは、「やはり!!」と確信を強める。強めないであげて欲しい。


 それはさておきセシリアとフィオレは、互いに似たような事を考えていた。

 もう既に、戦い始めてからそれなりの時間が経過している。このままここで時間を浪費すれば、機を失する可能性もあるだろう。なにせイベント最終日ともなれば、戦況は目まぐるしく変わるに違いない。

 ならばここで持ち得る全てを出し切り、相手を倒して次の行動に移るべきだ。自分の手中には切り札があり、眼前の相手はそれを使うに相応しい実力の持ち主なのだから。


――三回分しか無い、貴重な切り札……!! あなたに使うなら、惜しくはないわ!!

――彼女程の使い手に接近させて貰えるのは、一回が限度のはず。確実に決めます!!


 フィオレは三色の赤と紫、緑の光が混じり合う宝石を取り出し、右手に握る。同時に左手で青い小さな宝石を三つ、ポーチから抜き出すとそのまま投擲した。

「【ムーロ・アックア】!!」

 フィオレがキーワードを口にすると同時、三つの宝石が光を放つ。


――【ムーロ】に【アックア】……【アクアウォール】!!


 フィオレの切り札は、右手の宝石なのは間違いない。ならば投げられた三つの宝石は、それをセシリアに命中させる為の布石だろう。

 そんなセシリアの予想を裏切る事無く、フィオレの投げた宝石が地面に落ちて【アクアウォール】が発生した。一枚ではなく三枚の水壁が吹き上がる事で、フィオレの様子が視認できなくなる。

 それを見たセシリアは、本命はここからだと確信する。

「強大な魔法攻撃の可能性が高いです。私が前進したら、あなた方は後退して全力で防御して下さい」

「了解です」

 セシリアは、応援者達を使い潰すつもりはない。彼等を心強い仲間と認識しており、決してここで倒れさせはしないという強い意志がある。だから、彼等にそう指示して戦鎌を構えた。


――彼女が魔法を発動させる、その直前がチャンス……投擲した瞬間を狙って、水壁を突破。私のMNDなら、耐え切れるはずです!!


 そうしてフィオレが手にした宝石を投げる瞬間を逃すまいと、意識を集中させるセシリア。だが、フィオレの切り札は魔法攻撃では無かった。

「【ヴィゴーレ速度ヴェロチタ防御ディフェーザ】!!」

「……えっ!?」

 それは一定時間だけSTR・AGI・VITを同時に増強する、魔法職の常識を覆すものだった。その効果時間は、わずか30秒という短時間。しかも代償として、効果発動中はINT・DEX・MNDが低下する。しかしその分、ステータス上昇率は300%と大幅な強化が見込めるのだ。


 そしてフィオレは配信者として名前も売れておらず、弟妹もゲームをしていない時期……他のゲームで、前衛職を選択していた。

「【ソニックウェーブ】!!」

「うっ……!?」

 高速機動からの回し蹴りが、セシリアの左脇腹に命中する。その衝撃でセシリアの身体が吹き飛ばされそうになるが、そうなる前にフィオレが追撃を放つ。

「【ハイアングル】!!」

 今度は、セシリアの右肩。吹き飛びそうになる彼女の身体を、武技による一撃で強引に押し留める。普段のフィオレからは想像も出来ない、荒々しい戦い振りである。


 体勢が整っていない状態で武技を発動しても、十全に威力を発揮できない。今のセシリアが、その状態だ。そしてフィオレは、セシリアに決定的な隙が生まれたと判断した。そして、これで決めると強い意志を以って構える。

「フィナーレです!!」

 最後の希望な、指輪の魔法使いっぽい事を言い出したフィオレさん。心の中で色々と確信(勘違い)していたけど、彼女もセシリアさんの事を言えない気がする。

 それはさておき、フィオレはセシリアを確実に仕留めるべく渾身の一撃を放とうと跳んだ。それは【体術の心得】の最後に習得できる、最高の威力を誇る蹴り技。

「【キックインパクト】!!」

 必殺技と言えば、やっぱりキックだね。絶対に運営は狙っている、この光景を見た者は誰もが同じことを考えるだろう。


 さて、これでセシリアも戦闘不能……と思いきや、彼女はまだ諦めていない。その瞳に宿る闘志には、少しの衰えも見られなかった。

「……【ディキャパテイション】!!」

 彼女が握り締めた戦鎌≪断罪者の大鎌≫は、アーサーが持つ≪征伐者の直剣≫やハルの≪反逆者の大盾≫と同種の武器である。

 そんな大鎌に宿る武装スキル……それが、【ディキャパテイション】。その性能は、相手の首に向けて飛ぶというものだ。その射程距離は、二メートル以内である。

 同時にこの大鎌は、キルカウントを蓄積する。蓄積したキルカウントが多ければ多い程、その一撃の破壊力は増大するのだ。

 セシリアが蓄積したキルカウントは、百九十七。故にこの一撃には、STRプラス197という数値が加算されるのである。


「な……っ!?」

 自分の攻撃が命中したと思った、その瞬間。セシリアの戦鎌が自分の首を狩る様に迫ったのを見て、フィオレは目を見開いた。強化されたVITを持ってしても、その一撃に耐える事は適わなかった。

 しかしセシリアもまた、フィオレの【キックインパクト】を受けてHPを全て失っていた。同時に二人は地面に倒れ、そして顔を見合わせる。


「……相打ちですね?」

「してやられましたね……勝ったと思ったのですが」

 二人がそんな会話をする間にも、仲間のプレイヤーが、PACパックが、応援者達が駆け付けようとする。

「不満ですか、この結果は」

「いいえ、互いの本気をぶつけ合ったのですから……ただ、悔しいです」

「そうですね……実は、私もです」

 しかし、互いにそれを阻止しようと妨害が始まり……もう蘇生猶予時間内に到達するのは、絶望的となった。

 それでも、互いの顔には笑顔が浮かぶ。

「次は勝たせて貰いますね、フィオレさん」

「こちらこそ、負けません。またお会いしましょうね、セシリアさん」

 相打ちになったにも関わらず、二人の間には爽やかな雰囲気が漂い……そして再会の約束を交わした二人は、時間切れとなって消滅していった。

2022/12/14・・・タイトルに-●●●-追記

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見応えのあるバトルの連続 最高です [一言] バトルの途中で 妖精が現れました とりあえず とある部族に頼んで 作者の足元にも 妖精召喚の魔法陣 描くとしますか……
[良い点] 戦闘中に相手の二つ名を即興で付けるの、もはや精神攻撃の類ですねw
[良い点] セスさんの強キャラムーブと竜の牙の応援者達への理解度の低さでワクワクしてたらおしゃぶりと暗黒!! とはいえ上記二組含めて応援者達への対応100点でしょ。 [一言] それはそれとしてセシリ…
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