15-21 激動の最終日-終盤戦開幕-
第四回イベントも、あと少しで二度目の夜明けを迎える。三日目、最終日だ。その様子を見守る観戦者達、そして運営メンバーもマップとモニターの映像を食い入るように眺めていた。
生き残ったギルドは既に、戦闘準備を整えていた。
夜の内に残り僅かなギルドも続々と減り続けていき、最終日の戦いに観戦者達はイベントの終結を予想しながら期待を募らせていた。
「やっぱり、マップ中央の【聖光】に向かうギルドは多そうだな!」
「こいつらの進路を見ると……【森羅】か【旅路】なのかな?」
「【七色】に向かってる奴等も、やっぱり多いぞ」
「お、【白狼】方面も面白くなりそうだ!」
そうしてイベントマップを見守っていると、徐々に夜空が白み始める。
既に行動を開始しているイベント参加ギルドも、各々の目的を果たす為に本格的な行動を開始していく。マップ内に配置されたモンスターを退けながら戦場を駆け抜ける姿は、実に目を引く。
更に、その途中で他ギルドと遭遇。そのまま戦闘が始まる……という展開も発生していた。
「なぁ、【秘伝インテリジェンス】と【絶望甚大net】が共倒れして戦線離脱したんだが……」
「名前からしてネタギルドなのに、ここまで生き残ってたのか」
「むしろそっちの方がすげぇわな」
「あー、折角生き残っていた【マスラオ】が落ちたか~」
「散り際まで益荒男だったなぁ……w」
「思ったよりも、【闇夜之翼】強くね? あいつら、ただの厨二じゃないの?」
「極まった厨二だからね、仕方ないね」
「【絶対無敵騎士団】に凸った【白銀の聖剣】が脱落した!」
「フデドラゴンか……名前の割に、正統派の強さなんだよな」
「【白銀】も【絶対無敵】も、同じ騎士風ギルドだからな。白熱した戦いだった」
「【SAMURAI】が……何気に、応援してたのに……」
「どこにやられたんだ?」
「【森羅万象】」
「……相手が悪かったな」
「それぞれ、拠点防衛と拠点襲撃でチームを分けるのは変わらず……か」
「しかし、そうそうたるメンツだぜ……オラ、ワクワクすっぞ!!」
「戦闘民族ならあっちに居るべきでは?」
「うっせー!! 敗退済みだ、文句あっか!!」
「……お疲れさん」
「生き残ってるのは【聖光】と【森羅】に、安定の【旅路】。そして、我等が【七色】【桃園】【魔弾】は確定だろ?」
「おっ、あの装備は【暗黒の使徒】か。相変わらず、解りやすい」
「ねー、【おしゃぶり】が生き残ってるんだけど」
「意外と粘るな、あいつら。やっぱ、それなりの実力はあるんだろうなぁ」
「新たに注目されたギルドも居るぞ! 俺は地味に、【ファミリア】に期待してるわ」
「あぁ、中々の成果だよな。今後の活躍も期待できるだろ、これ」
「【竜の牙】と【ラピュセル】は居るか? 結構、注目してるんだけど」
「おりゅよ」
「おいおい、【漆黒】が動き出したぞ!!」
「うわぁ、眼がギラついてるな……」
「あれ……俺が今、見たのって……見るからにNINJAだったんだが……」
「……ついに動くか、【忍者ふぁんくらぶ】……」
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観戦エリアの期待が高まる中、あるギルドの拠点に向けて進軍したギルドが居た。彼等は、傭兵風の装いで統一された中規模ギルドのメンバー。それもギルドのエースとサブマスターの愛弟子が率いる、精鋭部隊だ。
しかし、その表情は戦意に満ちている……とはいかなかった。
「マジかよ、あいつら。結構離れてんのに、わざわざここまで来たのか……」
「夜の内に準備していたんだろうね。タイチ兄、気を引き締めていこう」
ギルド【遥かなる旅路】のタイチとエルリアがそう言うと、後方に控える仲間達も苦笑やら溜息を漏らす。その様子から、何とも言えない雰囲気が感じ取れるだろう。
そんな空気になるのも、無理はない。何せ視線の先には、ある意味で厄介なギルドのメンバーが臨戦態勢で気勢を上げているのだ。
「行くわよ、アンタ達!! 【森羅万象】をブッ潰す!! 合言葉は!?」
「「「リア充爆発しろ!!」」」
「待って、ライカ!! あっちの【旅路】からも、リア充の気配がするわ!!」
「よっしゃ、バーラ!! そっちは任せた!!」
「いいわ!! さぁ、行くわよアンタ達!! もういっちょ、合言葉は!!」
「「「リア充爆発しろ!!」」」
はい、【暗黒の使徒】の皆さんでした。とても、殺る気満々です。
まぁ、ここ【森羅万象】の拠点だからね……そりゃあ、来るよね。
第二回のリベンジ? 否、そうではない。傍から見たらハーレム系主人公みたいな、アーサーが居るギルドなのが理由です。まぁ、今は居ないけど。
さて、そんな【遥かなる旅路】と【暗黒の使徒】に接近された、【森羅万象】の面々。その防衛線、最前線に立つのはとある姉妹だった。
「あら~、千客万来ね~?」
「うん! 確かに手強そうだけど……大丈夫、守り抜いてみせるよ!」
そんな二人の側に控えるメンバーも、やる気十分といった様子で声を上げる。
「心配ご無用! 俺達が付いてるぜ!」
「えぇ、前線の皆が安心して戦える様に!」
敵襲に動じず、自然体のままふんわりふわふわとした笑みを崩さないギルドマスター。そんな彼女を守る様に、数歩前に出て大盾を構える美少女盾職。
大規模ギルド【森羅万象】を率いる二人の内の、頭脳担当であるギルドマスター・シンラ。そして彼女の妹であり、VIT極振りプレイヤーである鉄壁防御のハルである。
「さぁ、来るわよ!! 作戦通りいきましょう!」
「「「「おーっ!!」」」」
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【森羅万象】(26人)
シンラ・ハル、プレイヤー24人
【遥かなる旅路】18人
タイチ・エルリア、プレイヤー15人、PACブラスカ
【暗黒の使徒】11人
バーラ・ライカ、プレイヤー9人
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「さぁ、行くわよ!! リア充爆発しろ!!」
「「「リア充爆発しろ!!」」」
ギルド【暗黒の使徒】のメンバーは、二手に分かれて駆け出した。一つは【森羅万象】、もう一つは【遥かなる旅路】を攻撃する為の布陣だ。バーラ率いるチームは四名、ライカ率いるチームは五名である。
【森羅万象】と【遥かなる旅路】の総数よりも、少ない人数での作戦行動。しかし、その動きに迷いは一切見受けられない。
その自信の根拠は、自分達がPKerである事に他ならない。
対人戦闘に特化した、実戦派のプレイスタイル。しかも暗殺ではなく、正面から堂々と決闘を申し入れする気構え。その上で積み重ねて来た、数々の勝利。それは自分達の実力が、決して低いものではないという矜持を含むものである。
「おっと、先を越されちゃ堪らないな! 前衛を二つに分けるぞ、エル達は臨機応変に援護を!」
タイチの宣言に、事前に取り決められていた二組に前衛は分かれた。タイチの率いる五人と、もう一人の前衛が率いる五人である。後衛はエルリア含む五人で、その護衛役に三人のプレイヤーが付く形だ。
タイチは【森羅万象】へ向かい、もう一組は【暗黒の使徒】の迎撃である。
――さぁて、【森羅】は……おいおい、一気に二つのギルドを相手にする気か?
タイチの見た限り、【森羅万象】は生産職のシンラを含めて二十四人の防衛部隊。彼等は二手に分かれず、一丸となって武器を構えている。
堅固そうな石造りの砦を背に、最前で盾を構えるハル。その両脇に、男性の盾職が二名。ギルドクリスタルがある砦、その唯一の出入口を守る布陣なのだろう。
すると、ようやく【森羅万象】が動きを見せた。
「「【ガイアウォール】!!」」
複数名の魔法職によって、岩の壁が形成される。それは、外敵の接近を防ぐ為のものではない。ハル達に接近するルートを、狭める為の壁である。
「そう、来たか……っ!!」
「しゃらくさいわね……!!」
我先にと【森羅万象】に迫れば、もう一つのギルドによって背後から襲われる。かといって、相手も同じ事を考えれば先に行く事はない。
ならば、どうするか? 先に【森羅万象】ではなく、もう一方のギルドを倒さなくてはなるまい。
「ならアンタらから、ぶっ潰すだけよ!!」
「ちっ、やはりそう来るか……!!」
「アンタ、リア充の気配がするし!!」
「リア充じゃねぇのに!? 酷い言い掛かりだ!!」
想い人との、哀しい別離を経験したタイチ。しかしバーラは、タイチからリア充の気配を感じるらしい。ちなみにその気配の出処、タイチじゃないんですけどね。彼を元気付けようと常に側に居るようにしている、エルリアだったりする。
それはさておき、【遥かなる旅路】と【暗黒の使徒】の衝突を確認したシンラ。彼女は笑みを浮かべ、されど油断はせずにこの先の動きについて考える。
破壊しない限り場に残る【ガイアウォール】だが、それは逆に言えば破壊できるという事でもある。このアドバンテージを維持出来るように、今の内に強化するべきだろう。
「よしよし、引っ掛かってくれたわね~。今の内に、壁を補強しちゃいましょうか~!」
「高さと厚さですね、了解です!」
シンラの策により【森羅万象】、挟撃を嫌った二つのギルドを潰し合わせる事に成功。視覚と心理的な誘導で、優位を確保する……シンラが策士と呼ばれる所以は、こういった点だろう。
……
一方の【遥かなる旅路】と【暗黒の使徒】の別働隊は、正面からぶつかり合う形となっていた。
ライカを先頭にした【暗黒の使徒】側が、勢いのままに攻めていく。【遥かなる旅路】側は、それを迎撃するという展開だ。
その戦況を、後方から見ていたエルリア。彼女はシンラの策を見て、やり辛さを感じていた。
――どっちのチームも、私達を潰し合わせる流れ……このまま指を加えて見ていたら、【森羅】の思う壺だわ。
一番手っ取り早いのは、【暗黒の使徒】と一緒に攻め込む。しかし彼等の様子から察するに、話を聞く相手ではないだろう。
このままでは、【暗黒の使徒】と戦い疲弊した状態で【森羅万象】と闘う羽目になる。それは、中々に面倒だ。
――なら、策には策だね。
「撤退!! 全員、撤退するよ!! 後衛は、撤退の補助を!!」
開戦早々に、エルリアはまさかの撤退を指示した。これには【森羅万象】や【暗黒の使徒】だけでなく、【遥かなる旅路】の面々も驚いたが……タイチはその意図を察し、仲間達の撤退の為に行動を起こした。
「ブラスカ!! 撤退の補助を頼む!!」
「了解、ご主人!!」
混乱しながらも、撤退を開始した【遥かなる旅路】。二手に分かれた前衛も合流し、【森羅万象】の拠点から離れていく。
「……取り逃がした、って訳じゃないわね」
「ふん、先に私達と【森羅万象】を戦わせて、後ろから……って事でしょうね」
バーラもライカも、エルリアの作戦はお見通しだ。【森羅万象】が先に【遥かなる旅路】と【暗黒の使徒】を潰し合わせるならば、【旅路】側も同じ事をした……という事だろう。少ししたら、体勢を整え直して【遥かなる旅路】が再度襲撃に訪れる。
しかし、自分達はPKer。それも正面からリア充を殴りに行くのを目的とした、リア充撲滅を掲げる【暗黒の使徒】だ。
「なら話が早い!! 【森羅万象】を速攻で倒して、【遥かなる旅路】を倒せばいいわ!!」
「総員、行くわよ!!」
「「「「「リア充爆発しろ!!」」」」」
うん、まぁそういうアホな人達だった。【ガイアウォール】で出来た壁による一本道を、全力で駆け抜けていく。
「あら~、そう来たか~。じゃあ、次はこれね~」
そう言ってシンラは、アイテムを投擲。他のメンバーもそれに倣い、【暗黒の使徒】の進路にデバフアイテムが投げられていく。
「それじゃあ、後衛は攻撃開始よ~」
毒や鈍足効果のデバフを受けて尚、駆け抜けてくる【暗黒の使徒】。彼等に向けて、弓職や魔法職は遠距離攻撃を開始する。
更に剣使いや槍使いが盾職の後ろに陣取り、即座に【暗黒の使徒】を倒そうと気合いを入れて構えている。
そんな時だった。
「【ブレイクインパクト】!!」
「【デストラクトスラッシュ】!!」
壁の向こう側から、そんな声が聞こえた。
「……!? 成程、そう来たか〜」
衝撃音、そして壁にヒビが入る音が戦場に響き渡り……そして、壁が崩壊。左右の壁が同時に崩れ、【森羅万象】の前衛メンバーと【暗黒の使徒】の面々が崩れた壁に巻き込まれる。その中には、ハルの姿もあった。
「しまったっ……!!」
「やっべぇ!?」
「あー……!!」
そして崩れた壁の向こうから、勢い良く飛び込んて来るのは……傭兵風の装いで統一された、【遥かなる旅路】だ。
「今よ!! 攻撃再開!!」
エルリアがそう宣言すると、タイチ率いる前衛達が【森羅万象】の後衛に向けて駆け出した。
土魔法で形成されたオブジェクトは破壊されなければ場に残り、破壊されても一分程は消滅しない。その隙に【森羅万象】の後衛を突破し、クリスタルを破壊すればこの場は【遥かなる旅路】の勝ちだ。
「させるかぁ!!」
「ここを通すな!!」
それを察した【森羅万象】の後衛メンバーは、護身用の近接武器を手にして【遥かなる旅路】を迎え討とうとしたが……。
「く、そぉ……!!」
「やはり……強い……!!」
「あったり前だぁ!!」
「突っ切れぇぇ!!」
精鋭メンバーのタイチ達に対抗できるはずもなく、ダメージを受けていく。HPを枯渇させられ、倒れる者も出始める。
「仕方がないわね〜、それじゃあ……」
シンラはアイテムを胸に抱えて、駆け出した。それはシンラが製作した、もしもの時の為の切り札の一つ。
「シンラさん!?」
「ギルマス、駄目だ!!」
「く、それだけは……っ!!」
――自爆覚悟って事でしょうね……まぁ、それはそれで。
エルリアは、シンラが抱えているのが爆弾と推定。彼女は自爆してでも、ギルドマスターとしてクリスタル防衛を果たそうとしているのだろう。
タイチ達が戦闘不能になっても、蘇生猶予時間がある。自分達が爆発の範囲から逃れられれば、仲間を蘇生する事が出来るのだ。
「距離を取って、≪ライフポーション≫を用意!!」
「了解です!!」
しかし、彼女の……彼女達の予想は、外れだ。シンラが手にしているのは、爆弾……≪爆裂玉≫ではない。
「それっ!!」
地面に叩き付けられた球体は、光を放ち炸裂する。同時に地面を掛け巡る電撃が、プレイヤー達に襲い掛かった。その範囲の広さは市販品の≪麻痺玉≫を凌駕しており、退避していたエルリア達まで麻痺状態に陥った。
「……麻痺!?」
「くっ……しかし、アンタらも全員麻痺ってんじゃねぇか……!!」
「そうよ~? ちなみに効果は、45秒なの~」
45秒。それはつまり土魔法のオブジェクトに呑まれたハル達や、【暗黒の使徒】が解放されるに足る時間。
「ハハッ……乱戦がお好みで?」
「私の策は、まだまだこれから……戦いも、これからが本番よ~」
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一方、そんな【森羅万象】の拠点からやや西側。そこでも、三つ巴の戦闘が開始されていた。
彼等は【森羅万象】の拠点を襲撃すべく、そちらに向かっていたギルドの面々であった。
「くっそぉ……!! 全然、抜けられねぇ……!!」
「流石に、最終日まで残る奴らは……強い……!!」
三つの勢力の内、一つは仮設ギルドAだった。彼等はギルドに所属しないプレイヤーの集まりであるが、ここまで勝ち残るだけあって連携して行動するだけの実力を有している。二十三人で組んだ編成も、バランス良い振り分けだ。
二つのギルドと同時に遭遇した彼等は、臨機応変に対応出来るように予め決めておいたチーム分けで二手に分かれた。
それでも尚、彼等は劣勢を強いられている。仮設ギルドとは思えない練度と、連帯感を有していても。
そんな彼等の相手の一つ……それは、新興ギルド【竜の牙】だ。
「寄せ集めとは思えん、中々の連携だな!!」
「はははっ、面白い!!」
彼等は豪快に笑いながら、仮設ギルドAと激しい打ち合いを演じていた。強敵と戦い、それを打ち倒す……それこそが、このチームに集められた面々の特徴である。
しかしながら、四人のプレイヤーに付き従う応援者……その動きはあくまでNPCらしい、どこか機械的な動きだった。これは【竜の牙】が彼等を、「イベントの為に用意されたNPC」と捉えているからだ。
そんな彼等を率いる男……【竜の牙】のサブマスターである【フレズ】は、三組目のギルドと戦いを繰り広げていた。最も旗色は悪い。
「聞きしに勝る、精鋭揃いか……流石だ、【桃園の誓い】!!」
「そうか? それはどうも」
「しかし、我々は負けん!!」
「それはこちらも同じ事よ……さぁ、続けましょう?」
己と仲間を鼓舞する為の言葉にも、軽口で返される。大柄で強面の盾職であるゲイルと、大人の色香を身に纏った魔法職のフレイヤだ。二人は前衛・後衛としてコンビを組み、フレイヤのPACであるスティードや応援者と共にフレズ達を抑え込んでいる。
フレイヤの高度な魔法戦術に、頑強な盾術でフレイヤを守るゲイル……二人の実力が高いのは、言うに及ばず。しかしそれ以上に、戦況が劣勢である原因……フレズも、それに気付いていた。
――応援NPCの使い方が上手い……いや、違う。
フレズがゲイルの脇を擦り抜けようとすれば、その進路を塞いで受け止める。攻撃を弾かれたフレイヤの魔法を阻止しようと攻撃すれば、それを妨害してアシストする。魔法が放たれれば、即座に数名で連携して追撃を加えていく。
自分達の従える応援NPCと、【桃園の誓い】と共に戦う応援者の違い。フレズは最終日に至って、ようやくそれを理解した。
――NPCを使うんじゃない、互いに信頼し合っているんだ……!!
もしも彼等が応援者達を、「共にこの戦いを制する人達」と考え接していたら……【桃園の誓い】を相手に手も足も出ない事も、それこそ仮設ギルドAを圧倒する事も出来ただろう。
そう、【桃園の誓い】のもう一組の様に。
「ナイスだ、ディアン!! このまま一気に決めるぞ!!」
「アイサー!!」
「ヒューゴ、あぶないよっ!!」
「うおっと!! サンキュー、【ジョゼフィーヌ】!! 助かったぜ!!」
ダイスとヒューゴが率いる前衛は、果敢に仮設ギルドAを攻め立てていく。弓職や魔法職の応援者がそれをサポートし、前衛の為の隙を作っていく。
傍から見たそれは、プレイヤーとNPCの混成チームと思えるものではなかった。何も知らない者が見れば、肩を並べ戦う彼等全員がプレイヤーと思えるに違いない。
それは【桃園の誓い】が、応援者達を一人一人が生きた人間だと思い接して来たからだ。二日間の戦いを共にし、寝食を共にした仲間に他ならないからである。
AWOのNPCは、誰もがPAC契約出来る対象となる。つまり、一人一人が自己進化型の高性能なAIを搭載しているという事だ。それは、イベント限定の応援NPCでも変わりはない。
経験し、見聞きし、成長していくAI。そんな彼等を道具として扱えば、反感を覚えていくのは当然だ。
逆に信頼し、誠意ある対応をする事で好感度が上がっていく。そうすると、高度な連携や自己判断でのサポートといった能力を見せてくれるようになる。
最も、【桃園の誓い】はそこまで計算してそうした訳ではない。応援者達はPAC同様に、共に戦う仲間だと認識して接しただけだ。
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【桃園の誓い】23人
ダイス・フレイヤ・ゲイル・ヒューゴ、PACスティード、応援NPC18人
【仮設ギルドA】
プレイヤー23人
【竜の牙】19人
フレズ、プレイヤー6名、PAC2人、応援NPC10人
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「こんな……馬鹿な……っ!!」
「手も足も、出なかった……」
真っ先に決着が付いたのは、【桃園の誓い】と仮設ギルドAの戦い。その軍配は、火を見るよりも明らか。
「さて、俺等は……」
「とーぜん、あっちだよな?」
圧勝してみせたダイスとヒューゴは、仲間達の応援では無く……更なる獲物を求めて駆け出した。
フレイヤとゲイルのチームが、劣勢ならば応援に駆け付けただろう。しかし今、彼等は【竜の牙】を相手に危なげない戦いを繰り広げている。心配は要らない……そう判断した。
自分達が為すべきは、このまま仮設ギルドAと【竜の牙】をどちらも壊滅させるべき……という事だ。
イベント上位を狙うギルドの動きは今、ギルドクリスタルの破壊を二の次にしていた。それはクリスタルの絶対数が、数少なくなっているからだ。
イベント最終日の各ギルドの考えた方針……それは、敵対ギルドのポイントを下げる事である。イベント上位に食い込むには、他の手段を選択するべき状況。己の順位を押し上げるには、相手の順位を下げる必要があるのだ。
それ即ち、生き残った全てのギルドによる……壮絶な潰し合いを意味していた。
次回投稿予定日:2022/11/20
2022/12/14・・・タイトルに-●●●-追記