15-20 決戦前夜でした
第四回イベントの様子を覗っていた運営メンバー達は、一つのモニターから発生したアラーム音を耳にした。すぐにスタッフがその場に向かい、内容を確認する。
「……エ、エクストラクエスト攻略……!! ユニークスキル取得者が、現れました!!」
その言葉に、スタッフ達の目が丸くなる。イベント中にエクストラクエストが攻略されるという展開は、予想外だったのだから無理もない。
なにせダンジョン奥に鎮座するエクストラボスモンスターを攻略する【神獣スキル】は、ダンジョンに挑めない上に全て攻略済み。エクストラボスNPCの課す試練を攻略する【聖人スキル】と【魔人スキル】は、そのNPCと接触できない。そして特定条件を達成する事で得られる【勇者スキル】は、イベントマップ内では各種経験値を得られない仕様なのだ。
故に、現存するユニークスキルの取得など想定されていなかったのだ。
しかし突然のユニークスキル取得に、全員が驚いている訳ではなかった。
「取得したのは、【勇者スキル】ね? 誰?」
穏やかに、冷静にそう問い掛けるのは、運営主任を務める才媛・エリア。彼女に詳細を促され、スタッフは深呼吸を一度して口を開いた。
「な、【七色の橋】のヒメノが……【エレメンタルアロー】を取得しました!!」
「「「「な……なんだってー!!??」」」」
ヒメノと言えば、第一回イベントから活躍が見られたプレイヤーだ。その上、イベントランカー常連。そして彼女はユニークスキル【八岐大蛇】の保有者である。
これまでの来歴も含め、運営が注目している一人なのは当然の帰結。何かしら特別な行動をしても、おかしくないとは思われていた。
しかしながら、流石にこのイベント中にユニークスキルを入手するというのは予想外過ぎた。
誰もが関心を惹かれ、モニターに映る少女に視線を向けている。
「モニター、出します」
一番大きいメインモニターに、映し出されるヒメノの情報。そこに記載されているのは、ヒメノと彼女のPACであるヒナのステータス画面だ。
「やはりね……ヒナのスキルを、ヒメノのスキルスロットに移したのね」
何かに納得した様にエリアがそう呟くと、シリウスとガイアも頷いてみせた。
「あぁ、【癒やしの聖女】と【回復魔法の心得】……これはどちらも、ヒナが使用していたスキルだな」
「ふむ……ヒナは戦闘不能になり、拠点にリスポーンしていますね……おや、何やら公式サイトに連絡が……?」
ガイアがシステム・ウィンドウを開いて詳細を確認し始める傍らで、シリウスとエリアはステータス画面をじっくりと見つめている。
「それにしても、彼女がヒナの装備とスキルを使うなんてね。正直、意外だわ」
「恐らくヒナが不在になった事で、回復役が不在になったから……だろうか?」
二人がヒメノらしくない行動を取った理由について、思案を巡らせていると……公式サイトへの連絡内容を読み終えたガイアが、その理由について話し始めた。
……
「戦闘不能になったPACへの攻撃行為、ね。そのプレイヤーは?」
「仮設ギルドBに参加した、ピーターというプレイヤーです。どう致しましょう?」
判断を仰ぐガイアに対し、シリウスは処分を即座に決めた。
「厳重注意措置だな」
その内容に、運営メンバー達は視線で「宜しいのですか?」と問い掛ける。それに答えたのは、シリウスではなくエリアだった。
「妥当な所じゃないかしら。あれはあくまでも、”蘇生の阻止による行動”の範疇よ。締め付け過ぎは、ユーザー離れの要因になるわ」
そう言う割には、エリアの声は冷たい。閉じられた瞳も、何らかの感情を堪えている様に見える。
勿論、エリアが堪えているそれは怒りの感情だ。
PACに対する死体蹴りという行為は、PACシステムを打ち出した運営側からすると許しがたい行為である。
プレイヤーのゲームライフをサポートし、より良いものにする……そんな願いを込めて生み出された、高性能AI搭載NPC。それこそが、PACである。そんなPACを対象にした、死体蹴り行為……これは、そんな願いを踏み躙る様なものなのだ。
とはいえエリアの言う通り、”蘇生行動の阻止”という目的があったのも否定は出来ない。絵面があれでも、一応は戦術として理解できなくはないのだ。とはいえ、褒められた行為ではないし、運営としては怒りを覚えても仕方がない。
同時にエリアに怒りを抱かせる要因は、もう一つある。その標的となった、一人の少女についてだ。
ヒメノ……星波姫乃という少女を、シリウスもエリアも知っている。なにせ、妹の親友なのだから。実際に今年の夏休みには彼女と顔を合わせ、食事を共にした事もあった。
彼女は全盲という障害にもめげず、真っ直ぐで心優しい少女だ。思いやり深く、笑顔が可愛らしいその少女……その笑顔を曇らせ、泣かせるなど到底許しがたい。
だが運営責任者として、運営主任として公私混同は出来ない。相手が誰であろうと、公平な判断を下す……その責務が、二人にはあるのだ。
しかしエリアは一つ溜息を吐いて、言葉を続けた。
「最も今回は、それで済まないでしょうけどね」
そう言った彼女の表情は、氷を思わせる冷たい笑みだ。その笑顔の圧に、スタッフ達は言葉を失う。
エリアはその先を言わず、スタッフ達は戸惑い気味。そんな様子に苦笑して、シリウスは妻である女性の言葉を引き継いだ。
「……今回のイベントは、観戦エリアで観戦するプレイヤーが数多く居る。イベントに敗退したプレイヤー達も、観戦エリアで戦場を見守っているだろう……となると」
「……人の口に、戸は立てられない」
一人のスタッフがそう言うと、シリウスは頷いてその言葉を肯定した。
「実際に映像で見ると、非常に酷い光景だ。その後のヒメノに対する攻撃も、褒められたものではない。この光景を見たプレイヤー達は、彼等に対してどういう感情を抱く?」
「関わり合いを持とうとは、思わないでしょうね……むしろ、バッシングを受ける事になるかもしれない」
スタッフの言葉は、的を射ている。
ノーマナー行為を嬉々として実行するプレイヤーと、パーティを組めるか? そんなプレイヤーを、ギルドに加えられるか? 誰もが忌避するのは、間違いないだろう。
そして、死体蹴りというノーマナー行為。しかも、その標的がヒメノというプレイヤー……AWOにおいて知名度も人気度も高いプレイヤーと、そのPACだったのだ。
周囲のプレイヤーが、果たして黙っているだろうか? 昨今のプレイヤーの様子からすると、またひと悶着が起きても不思議ではない。
そうなるとピーターは、この先のゲームプレイに支障を来す事になるのは自明の理。運営の処罰が軽微なものでも、それは変わりはしない。
「でも、そうなると彼は今後、ゲームから離れるのでは……?」
「そうだろうな。だが、我々にそのことに対して関与する義務は無い」
スタッフの女性が告げた言葉に、シリウスは即答した。その声色に、温度は無い。
「彼がそういった状況に陥ったとして、それは彼の身から出た錆……つまりは自業自得だ。あの状況でヒメノがヒナを蘇生するのを阻止する方法は、いくらでもあった。彼が取った行動は、最も短絡的で稚拙な方法だったとも言える」
措置の決定とは別として、シリウスは更に運営責任者としての判断を口にする。
「言い方は悪いが、彼のゲームプレイに便宜を図る理由がない。自らの行動がどの様な結果を生むかを考えられたならば、他の手段を講じる事は出来たからな。第一、彼を擁護する様な事をすれば……それこそ、全プレイヤーに対して公平ではなくなるだろう」
本音を心の中に仕舞い込み、シリウスはあくまで運営責任者としての言葉を口にする。それはトップに立つ者として、貫き通さなくてはならないスタンスだからだ。
「ともあれ彼の進退は、彼自身の問題。我々が気に留めるべきは……イベントを無事に終わらせる事だ」
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激しい戦いが繰り広げられる二日目も、間もなく日が落ちて夜を迎えようとしていた。各ギルドの拠点を攻略していた者達も、一度自分達の拠点に帰還していく。
それは【七色の橋】も同様であり、メンバー全員が集まっていた。
「……えぇと、ごめん。もう一度説明をお願い出来るかな?」
最後に帰還したギルマスチーム、そのリーダーであるヒイロは……ジンとヒメノから、ある報告を受けていた。しかし内容があまりにもとんでもないもので、思わず説明をおかわりしてしまう。
「ユニークスキルを入手しました!」
「オーケー、聞き間違いじゃなかった」
ハッキリと事実を口にしたヒメノに、ヒイロは降参した。降参早いな。
「なんでまた、そんな事に?」
レンがヒメノに問いかけると、ジンが軽く手を上げて会話に割り込む。
「少々、話が込み入るかと。拙者から説明するでゴザルよ」
込み入った話になると言われ、詳細を知らない面々は首を傾げる。同時に、ヒメノが何故にヒナを抱き締めて離さないのかも気になるし。
「実は拠点防衛の際に……」
……
数分後。
「よーし、全員集合!! 全戦力で、仮設Bをブッ潰そうか!!」
「粉砕……うん、やっぱり、粉砕……だね……その後、擦り潰そう……」
「ユージンさん、ガトリングガンっておいくら万円ッスか? 今なら言い値で買うッスよ」
「うふふふふ〜……状態異常を複数同時に与える薬、試すいい機会が来たわね〜」
「大変、薙刀の刃を砥がなきゃ……いざ首を飛ばす時に切れ味が悪いと駄目だもんね……」
「今ならカイトと戦った時並の動きが出来そうだね、うん。ヒイロさん、あのスキルを使っても?」
「ヒイロ様、私もそろそろ【酒呑童子】の未公開スキルの使用許可を……」
「今宵の≪勇王舞真≫は、血に飢えたり飢えてなかったりするよ……!!」
「落ち着いて下さい!?」
「第二回を思い出すでゴザルなぁ……」
「ジンさんも止めて下さいっ!!」
「闇討ちですー!」
「ヒナちゃんまで!?」
第二回決勝前の控室を思い出しますね。あの時は止めに入ったジンがあっち側(?)なので、ヒメノが大慌てである。
「駄目ですよ、予定が変わっちゃいますから! もー、落ち着いて下さい!」
「でもな、ヒメ。ヒナはPACだけど、俺にとっては大切なもう一人の妹なんだ。傷付けられたって聞いたら、その犯人をメッタメタにしないと」
ヒイロ……君、そう言えば自他共に認めるシスコンだったね。
「そうよ。それにヒメちゃんも、彼等に囲まれて攻撃されたんだもの。女の子を寄ってたかって……万死に値するでしょう? いいえ、万死では足りないわね」
「レンちゃん、良い笑顔なのに発言が物騒だよ!!」
ギルマスカップル、殺意マシマシ。
暴走気味の【七色の橋】設立メンバー+αを見て、ヒビキ・ネオンはポカーンとしている。
ユージンはいつも通り穏やかな笑みで、リリィは苦笑いでその様子を見守っていた。
ちなみに、コヨミは物騒な面々の言葉に「うんうん、うんうん! そうですよね!」と同意している。クベラはといえば、≪初心者向け夜襲マニュアル≫という本を熟読し始めた。誰だよ、それ書いたの。
ともあれ、そろそろ混乱を収束させた方が良い。そう判断して、ジンは皆に聞こえるように声を掛けた。
「まぁ恐らく、相手はもう居ないかと思うでゴザルよ」
そんなジンの言葉に、喧騒はピタリと止む。
「仮設ギルドBの様子からして、ステータスダウンを相当受けていたと思われたでゴザル。それに後が無さそうな表情だった故、恐らくギルドポイントもギリギリだったはず。先の全滅で、ポイントが枯渇しても不思議では無さそうでござった」
ジン、正解。【七色の橋】襲撃失敗により、仮設ギルドBはポイントを全て失った。ギルドポイントがゼロになったという事は、仮設ギルドBはイベント敗退……イベントマップにリスポーンする事が出来ず、観戦エリアに転移させられたのだ。
ちなみにピーター氏、すぐに周囲のプレイヤーから後ろ指をさされる事態になっていた。
イエローカーソルとなり、運営からの厳重注意のメッセージを見たピーター。更に、他プレイヤーから指をさされての非難の声。それに彼は耐えられず、顔を真っ赤にしつつゲームからログアウトしていった。
一度ログアウトしてしまうと、イベント期間中はイベントエリアに入る事は出来ない。つまり、イベントの行く末を見る事ができないということになる。
「ともあれ、この先に待ち受けるのは主要ギルドとの戦い。不要な損害は徹底して避けるべきでゴザル」
「……ふぅ、とりあえず解った」
渋々……ほんっと〜うに渋々といった様子で、矛を収めるヒイロ。他の面々も、ひとまずは物騒発言を控える事にしたらしい。
「では、ギルマス。ここからの動きについて、再確認でゴザル」
「あぁ、解った」
一度落ち着きを取り戻せば、頼りになるギルドマスターとしての雰囲気が戻って来る。ヒイロは冷静に現状と、この先の予想についてを話し始めた。
「戦闘に至ったトップギルドは、現状ではハヤテ達が戦った【魔弾の射手】。それだけという事は、他の主要なギルドも俺達と同じ方針……今は周囲のギルドを攻略し、ポイントを稼ぐつもりだろう」
「そうでしょうね。もしも近場のギルドが我々を襲うとしても、それなりの戦力を投入しなければならない。そうすると拠点の防衛が薄くなり、クリスタルが破壊される危険性が増します」
「その時、真っ先に群がって来るのは周囲の中小規模ギルド。つまり彼等が居る限り、大規模な作戦は取りにくいという事になる」
だからこそ、【七色の橋】は真っ先に拠点のグレードアップを図った。同時に情報を流し誘導するであろうスパイ達を駆逐し、イベントマップ内のギルドの位置を把握する事に努めたのだ。
「本当の戦いは、ここから。既に俺達のポイントは相当数を稼いでいるけど、それは他の主要ギルドも同様のはずだ」
「残っているギルドは、精鋭揃いと考えて良いでしょう。気を抜けば、我々も損害を受ける可能性は否めません」
ヒイロとレンの言葉を受け、メンバー全員が気を引き締める。
ここまでは、中小規模ギルド……言い方が悪いが、自分達よりも格が下のギルドが大半だった。
しかしここからは同格、もしくは格上のギルドとの戦いがメイン。油断できない、激しい戦いが待ち受けているのは想像に難くない。
「よし、頃合いだ。ここで、チームの割り振りを変えよう」
ヒイロの言葉に、異を唱える者は居なかった。事前に取り決められた事であり、それが現状で最も有効な作戦だと理解しているからだ。
実は【七色の橋】は、イベントの段階ごとにチームを振り分けていた。
第一段階はスパイの動きを待ちつつ、ジンによるイベントマップ開放と各ギルドの所在把握。
第二段階は、スパイによる作戦開始に合わせた徹底迎撃と……シオンを除く初期メンバー三組による、少数精鋭での強襲。
第三段階が、今までの振り分け。最小限の防衛体制による、広域同時進軍だ。
そして、第四段階。それは精鋭部隊による、夜間作戦だ。
「休息がてらの防衛と、襲撃部隊。既に脱落したギルドも少なくないし、残っているギルドは実力派が多いと考えるべきかな」
「それに、夜間は相手も固まっている可能性が高いかと」
「うん、シオンさんの考えている通りだと思う。だからここからは、メンバーの分散は最低限にする。来たるべき時に備えて、消耗を抑えつつポイントを稼ぎに行こう」
日中は、各ギルドのメンバーも外に出ていることが多い。しかし夜は、拠点で休息を取りつつ外敵の警戒に当たっている事だろう。
しかし、そこでジンが片手を挙げる。
「ジン? どうしたの?」
「うーん、確証は無いんだけど……もしかしたら、思ったよりも戦況は加速しているんじゃないかって思うんだ。まず、偵察してみようかと」
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【ヒイロチーム】
ヒイロ・レン・シオン・ヒビキ・センヤ・ミモリ・ユージン・コヨミ
リン・ロータス・セツナ・コン
【ハヤテチーム】
ハヤテ・アイネ・マキナ・ネオン・カノン・リリィ・クベラ
ヒナ・カゲツ・ジョシュア
【ジンチーム】
ジン・ヒメノ
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ギルド【七色の橋】が方針を定め、各自が行動を開始したその頃。各ギルドもまた、夜に向けて作戦を開始していた。
既に半分以上のギルドが壊滅し、イベント敗退となっている現状。しかしそれでも、ランキング二十位圏内に名を連ねようとするギルドは少なくない。
拠点防衛に全力を注ぐギルドもいれば、防衛戦力を最低限に抑えて夜襲を試みるギルドも居る。中小規模のギルドからしてみたら、今この時間こそが正念場と言えた。
しかし初日と違い、現在のイベントマップにはモンスターが配置されている。プレイヤーだけに注意を向けていると、今度はモンスターに足を掬われるのだ。
「うわあぁっ!」
「馬鹿な……!! 朝はザコモンスターばっかりだったのに……!!」
「きょ、拠点に撤退だ!! ここでポイントを減らす訳には……!!」
二日目の早朝から姿を見せ始めた、モンスター。最初は確かに弱いゲーム序盤のモンスターばかりだったのだが、徐々にモンスターの強さが上がっていた。夜になると同時に、その多くが第三エリア相当のモンスター……それも、ダンジョンで行く手を阻むモンスターばかりだ。
フィールドモンスターよりも、ダンジョンモンスターの方が強い傾向がある。更に日が落ちて、周囲は暗く見通しも悪い。モンスターの接敵に気付くのが遅れれば、パーティが瓦解する可能性も高いのだ。
そして、そんなギルドの面々を離れた場所から確認する者がいた。
「ギルド【プリースト特攻隊】でゴザルな……であれば、拠点はここから二分程の所でゴザル」
「ジンさんのAGIだと、ですよね?」
冗談めかした最愛のお嫁様の言葉に、少年忍者は苦笑しつつ頷く。お姫様抱っこ状態で、身を隠しているジンとヒメノ。二人が確認したかったのは、どのギルドが生存しているかである。
「ヒイロ達の現在地点なら、恐らく十五分。ならば、予定通りあちらに任せるでゴザル」
ジンの言葉に頷き、ヒメノはシステム・ウィンドウのマップ画面に情報を書き込む。とはいっても、ギルド拠点を示すマークを赤い丸で囲っただけだ。
ギルドメンバー全員が共有しているこのマップで、生存しているギルドの情報を共有しているのだ。
逆にギルド拠点マークに、黒でバツ印を付けている箇所がある。これは、既にイベント敗退済みのギルドである。
「他のギルドは敗退済みを確認……ですね。やっぱり大半のギルドは、大打撃を受けて敗退済みかもしれないです」
「でゴザルなぁ……まぁ、確認出来る限りしておくでゴザルよ」
「はいっ!」
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一方その頃、イベントマップの中央エリア。
「やはり、周囲のギルドは全滅しているか」
そう口にしたのは、【聖光の騎士団】ギルドマスターであるアークだ。彼の前にはギルバートにヴェイン、他にもAGIや偵察任務に優れたスキルを保有する面々が立っていた。
「少なくとも、把握している限りは……だがね。しかしヴェインが中心になって調査した事だし、確度の高い情報だと思うよ」
そう告げるギルバートに、ヴェインはいつもの態度を崩す事なく口を挟む。
「買い被りは勘弁して欲しいんですがねぇ……俺は見ての通り、うだつの上がらないオッサンな訳でして」
そんなヴェインの言葉に、同じ調査メンバーは苦笑する。その苦笑いを浮かべる顔には、既に数々の功績を挙げているだろうに……と、書いてある様だ。
それでもヴェインは、仲間から悪感情を抱かれていない。今までは過剰な謙遜だと妬まれていたのだが……今回のイベントで、仲間達は実感したのだ。
そのどこにでも居そうなおじさんっぽい仮面の奥には、鋭利な刃が隠されている。誰もがそれを、このサバイバルイベントで悟った。
彼の言葉や態度も、頼りなさそうな笑みも、全ては冷徹で無慈悲な戦い振りを覆い隠す為のものだ。騎士団の名を冠するギルドにあって、汚い手は使えない……故に、自らの態度や話術を駆使する。そうして相手の心に油断を生じさせ、そこを正攻法で痛烈なまでに突く。
それもまた、力だ。己の力を活かす為の、創意工夫なのだ。だからこそ、アーク達はヴェインを重用している。
「君がそう言うならば、これ以上は控えよう。だが君達の情報は、信頼に値するのは間違いない。これを元に指針を決める」
アークがそう断言すると、横に立つシルフィが頷いて言葉を引き継ぐ。
「ここらでのポイント稼ぎは、最早厳しい。攻撃の手を、今よりも広げるしかないか。ライデン、どうだい?」
誰もが認める【聖光の騎士団】の軍師は、シルフィに判断を求められて不敵に頷く。
「同感だけど、そう上手く行く確証は無いね。なにせ、あちらこちらに同格のギルドが点在している。その動きを偵察していたメンバーからの報告では、僕達と同じ方針だと思われる」
北に向かうと、【桃園の誓い】がある。東には【森羅万象】と【遥かなる旅路】、西には【七色の橋】、南にはそれなりに強いギルドと目している【白狼の集い】が位置している。
更に先の衝突で対峙した【フィオレ・ファミリア】、勢いのある新興ギルド【竜の牙】などの様子も確認できた。
「更に怖いのは、未だに拠点の所在が解らない【魔弾】と【忍者ふぁんくらぶ】。彼等に対する警戒は、してもし足りないね……そういえば、【天使】はどうだった?」
「動きが全然、見受けられなかったですね。もしかしたらですが、敗退したのかも」
拠点の場所が程近く、規模だけならば同等の規模である【天使の抱擁】。プレイヤー全体の質は論じるまでも無いが、油断ならないギルドという認識であった。
しかしギルドマスターであるアンジェリカと、スパイ達……【禁断の果実】の関係性が明らかになり、彼等の快進撃は見る影も無くなった。
「まぁなぁ……あれだけの大事になったとあれば、離反者も多く出たんじゃないか? それなら、残った奴等も戦線離脱しててもおかしくはないだろうね」
シルフィの言葉に、ギルバートも頷く。
「アンジェリカとスパイの間柄に、失望感を覚えても不思議ではないからね。もし残っていたとしても、当初の様なゴリ押しは難しいのではないかな」
アンジェリカがスパイの協力を得て、活動していた……これはアイドルという彼女のイメージ的に、非常によろしくない印象を植え付ける話だ。
【天使の抱擁】はアンジェリカのギルドであると同時に、彼女のファンギルドという側面がある。彼女の事実を知ったギルドメンバー達が、離反するのは目に見えている。
「ともあれ、ギルドポイントを獲得する為のクリスタルも数が減っている……となると、切り口を変えるしかないね」
そこまで言って、ライデンはアークに視線を向ける。ここから先の言葉は、彼から口にして貰うべきだという意思を込めて。
アークもそんなライデンの無言の提案を察し、強い頷きで応えた。
「このイベント、その趨勢を決める最後の戦いが始まる。総員、休息も含めた準備を進めるように。夜明けと同時に、全方位への攻撃を開始する」
次回投稿予定日:2022/11/10(本編)
強豪ギルドによって、中小ギルドの大半が戦線離脱。
いよいよ、イベントも終結に向かい出します。