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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐

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15-18 共闘しました

 ジンはグレイヴの相手をしながら、ヒメノ達の戦況にも気を配っていた。無論、ヒメノが【変身】を使用した事にも気付いている。


――ヒメは攻撃特化な分、打たれ弱いのが難点だった……だけど、【変身】がその弱点を改善してくれる。


 今回のイベントに備えてのガチャ大会で、ヒメノが引き当てた最終兵器。本来はイベント終盤で使用し、流れを一気に自分達に引き寄せる為の手段だった。

 ヒメノがそれをここで使用したのは予定外だが、それを誰も責めはしまい。ヒメノがヒナを、本当の妹同然に可愛がっているのは周知の事実なのだ。


「……ほんっと、お前等って理不尽だなァ」

 斬り合いながら、グレイヴはそんな事をぼやく。しかし、その顔に浮かぶ表情は……心底愉しいと言わんばかりの、不敵な笑みだ。

「不正だなんだと疑いをかけられたでゴザルが、拙者達に後ろ暗い事は何も無いでゴザル」

「ハッ、()()()()()()()()()

 あっさりと、ジンの言い分を受け入れるグレイヴ。この素直さが、他のプレイヤーにもあればいいのに。

「……何でそう思うのか、ってツラしてんな。俺に勝ったら教えてやらァ!!」

「……っ!!」


************************************************************


 一方、赤い変身専用装備を身に纏ったヒメノ。その姿を目の当たりにした【漆黒の旅団】のPKerプレイヤーキラー達は、表情を引き攣らせて笑うしか無かった。

「は、はは……最悪じゃねぇか」

「これ、やばくない?」

「もうやだ、この夫婦」

 彼等の反応も仕方のないもので、ヒメノと言えばSTR。むしろSTRと言えば、ヒメノである。そんな彼女の弱点は、やはりSTR以外のステータスだろう。

 VITが低いので、打たれ弱い。AGIが低いので、移動は速くない。INT不足で魔技の威力自体は低いし、MNDも然程高くないので魔法攻撃や状態異常は通るのだ。


 だが、【変身】という稀少なスキルがあれば話は変わって来る。

 この【変身】の特徴は、やはりAPアーマーポイント。このAPが尽きるまでは、HPは減らない。

 これは普通のプレイヤーが使うだけでも、手強い存在となるのだが……ジンやヒメノの様な、得意分野に特化したプレイヤーが使用する事でかなりの脅威となる。


 具体的に言うと……止める手段が限られるのが、一番だろう。

「行きます!!」

 ジンの変身専用装備≪風の忍鎧≫と似通ったデザインの、ヒメノ変身専用装備。蛇の頭部をイメージした面部分も、ジンのそれを意識したものになっている。


「させるかぁっ!!」

 ヒナを倒した男……【アッド】はヒメノを止めようと、戦槌を振り被る。そして渾身の力を込めて振り下ろすが……ヒメノはそれに対し、弓刀≪大蛇丸≫を振るってみせた。

「はぁっ!!」

 気合いの篭った掛け声の直後、戦槌と刀の衝突する音……そして、鉄塊が強引に押し戻される音が鳴り響いた。

「ぬぁ……っ!?」


「どいて……下さいっ!!」

 更に、ヒメノは刀身の逆……かつて、脇差の鞘であった部分でアッドを打ち据える。その一撃は、彼女からすれば大した力を込めていない一撃。しかし強化されたヒメノのSTRは、それで済むものではない。

「なん……だと……!?」

 軽く小突いた程度の一撃により、アッドの全身から力が抜ける。膝から崩れ落ちた彼は、そのまま地面に倒れ伏した。

 つまりはたったの一撃で、彼のHPは全て消し飛ばされてしまったのだ。


 その光景を目の当たりにしたエリザとリーパーは、VRなのに冷や汗が流れ出した感覚を覚える。

「一撃……必殺……」

「マジでパネェ」

 しかしそれで心が折れる程、彼女達はヤワではない。むしろ、逆だ。

「当たらなければ良いって事ね!!」

「燃えて来たわ……行くわよ!!」

 相手が強ければ強い程、倒した時の達成感は強くなる。そういった戦いこそを、彼女達は求めているのだ。

 二人は足並みを揃えてヒメノに迫り、彼女の動きを止めるべく行動を起こす。


「痺れさせてあげるわ!!」

 新体操の様な、柔軟な動きと安定した体幹。そこから繰り出される、変幻自在の戦鎌の斬撃。それがエリザの持ち味であり、数多くのプレイヤーのHPを刈り取って来た戦術だ。

 しかし彼女にとっては不運な事に、相手があまりにも悪過ぎた。

「嫌です!! 【クイックドロウ】!!」

 ヒメノはスキルを駆使し、矢筒から矢を手繰り寄せる。そして、それを弓につがえる事なくブン投げた。

「え!?」

「はぁっ!?」


 投げた矢は、エリザの身体を支える太腿部に突き刺さる。軽く小突いただけで、アッドが倒れたのだ……彼よりも軽装のエリザでは、その矢のダメージに耐え切れなかった。

「……なんてムチャクチャな」

 そう言いながら、エリザは地面に崩れ落ちる。その表情は、とても愉快そうな笑みだった。


「えーい、もうヤケよ!! やってやるわよ、とことん!!」

 仲間二人を瞬殺されたリーパーは、負けるもんかと短剣を構える。虚勢なのは疑いようがないが、それすらも楽しもうと自分を鼓舞しているのがその表情と仕草から感じて取れる。

 しかし、彼女は忘れている。敵はヒメノだけではないのだ。

「どっせーい!!」

「ちょっ……おまっ……!?」

 ヒメノに駆け出そうとしていたリーパーの前に割り込み、大太刀を勢い良く振り下ろしたコヨミ。その乱入に、リーパーは足を止めた。


「私の方が、先約でしょ!!」

 不敵な笑みで、リーパーを挑発するような言葉を口にするコヨミ。彼女はリーパーの注意を引き付けたのを確認すると、ヒメノに向けて声を掛けた。

「ヒメノさん、ヒナちゃんを!! まだ、間に合うから!!」

「はい!!」

 コヨミは敵の横槍を防ぐ盾になる為に、割って入ったのだ。その好意を無駄にすまいと、ヒメノは倒れたヒナに向かって駆け出した。

 その間、コヨミはリーパーに全神経を注いで構えていた。ヒメノがヒナを救出する、その邪魔はさせない……そんな強い決意を、リーパーは彼女の視線から感じ取った。

「……さっきといい、あなた面白いわ。次の配信見に行くから、楽しみにしてるわね。まぁ、だからといって加減はしないけど」

「モチのロンです!! あと、ありがとうございます!!」


……


 ヒメノがヒナの元に辿り着いた時、ヒナの蘇生猶予時間は尽きるギリギリのタイミングであった。

「ヒナちゃん!!」

 ヒメノは間に合ったと思いつつも、急いで≪ライフポーション≫を取り出す。

「お姉ちゃん……ありがとうございます……」

「うん、もう大丈夫だよ……!!」

 そして、ヒナの背中にそれをかけようとした瞬間。


「ハッハアァッ!!」

 奇声にも似た笑い声を上げながら、一人の男がヒナの身体を蹴り飛ばした。

「……え?」

 かけようとした≪ライフポーション≫の中身は、ヒナが倒れていた場所……そして今は誰も居ない場所に零れ落ちて、地面を湿らせるだけだ。


「チャンスだ、やれっ!!」

 ヒナを蹴り飛ばした男がそう声を張り上げると、一斉にプレイヤー達が姿を現した。その数は二十人を超える、大人数だ。

「一斉にかかれ、まずは【変身】を解かせろ!!」

「囲めぇ!! 潰せッ!!」

 彼等は一斉にヒメノに向けて襲い掛かり、彼女のAPを傷付けていく。


「……あぁ?」

「ヒメ……ヒナ……ッ!!」


 しかし、それを気にするよりもまず……ヒメノの視線は、蹴り飛ばされたヒナに向かっていた。しかしすぐに蘇生猶予時間が尽きて、ヒナの身体が光の粒子になって消えていった。

「……ヒナ、ちゃん……」

 攻撃してくる乱入者も、削られていくAPもどうでも良かった。ヒナを傷付けさせてしまい、守れなかった事が悔しくて。


 そうしてヒメノのAPは削られていき、もう【変身】が解けてしまった。【変身】のAPは、100。これは誰がどの装備を使用しても、同様だ。

 ジンやアーサーの様な回避型ならば、そのAPを削るのは困難となる。しかし防御重視や攻撃重視のプレイヤーが使用した場合、被弾が増える。AP100というのは、突破できない壁という訳では無い……適した攻撃を用いて当てれば、着実に削れる。

 そしてヒメノは、ヒナを襲った凶行のショックで回避どころではない。APは早々に削られて、あっという間に【変身】解除という状況まで追い詰められたのだ。


「よっしゃ、解けた!!」

「一気に片付けて……」

 そして凶刃がヒメノに触れる、その寸前。

「【閃乱】【一閃】!!」

「【デュアルスラッシュ】!!」

 激しい剣閃と、二振りの剣撃が不埒者達の身を引き裂く。その勢いに圧され、彼等はヒメノの周囲から吹き飛ばされた。

 そこに立つのは、ジンとグレイヴ……先程まで、激しい一騎打ちを繰り広げていた二人だ。


「ヒメ……間に合えず、ごめん……」

「ジン、さん……」

 ヒメノを気遣う様に、彼女の肩を抱くジン。その横に立つグレイヴは、不愉快さを隠しもせずに乱入者達に向けてがなり立てた。

「余計な邪魔しやがったばかりか、死体蹴りなんてクソみてぇな真似しやがって……テメェら、覚悟は出来てんだろうなァ……!!」

 ヒナを蹴り飛ばした男は、グレイヴの剣幕に顔色を変えた。無論、その表情に浮かぶのは恐れだ。


************************************************************


 乱入して来たのは、三つの仮設ギルドの内の一つ。仮設ギルドBのプレイヤー達だった。

 彼等は他の二つとは違い、纏まり無く好き勝手に暴れ回るプレイヤー達の集団だ。故に勝手な行動をして、戦闘不能になるプレイヤーも少なくはない。


 そんな彼等は、ポイントを稼ごうと周囲を巡っていたのだが……そこで、ジン達の戦いを目撃した。

 過去のイベントで華々しい戦績を上げた、【七色の橋】を倒せる。そんな絶好の機会に、仮設ギルドBの面々はすぐに作戦を立てた。


 戦っているのは、【七色の橋】と【漆黒の旅団】。【漆黒の旅団】といえば、最大規模を誇るPKギルドとして有名だ。彼等と同調して動けば、【七色の橋】を倒す事も不可能ではない。

 そんな中、アッドの攻撃に耐え切れずヒナが倒れた。ヒメノとコヨミはヒナを助けようとしている様子だし、ジンはグレイヴの猛攻を凌いでいて救援どころではない。

 ヒメノかコヨミが、ヒナを助ける瞬間がチャンス。その隙を突いて、倒してしまおう。

 後は【漆黒の旅団】と協力して、打倒【七色の橋】を実現。その後で、【旅団】を潰せば良い。そんな考えだったのだ。


 だから、彼等は理解出来なかった。ジンがヒメノを気遣いつつ、殺気を向けて来るのは解る。しかし【漆黒の旅団】のPKerが……グレイヴが、射殺さんばかりにこちらを睨んで来るとは思いもしなかったのだ。


************************************************************


「勝負はお預けだ、忍者。テメェは、その娘を連れて下がってな……俺はこいつらゴミクズ共の身体に、身の程ってモンを刻み込まねぇと気が済まねぇ」

 グレイヴは言外に、ヒメノを慰めろと言っていた。ジンも、それは解っている。

 しかしながら、そうはいかない。ヒナを傷付け、ヒメノを泣かせた連中とケリを付ける。それを、他人の手に委ねる訳にはいかない。

 それに、もう一つ。


「ヒメ、下がるでゴザルか?」

 返答は、とっくに予測済み。しかし、ジンはあえて問い掛けた。そんな問いに対する、ヒメノの答えは決まっている。

「……いいえ」

 彼女は決して、弱くない。力や技量はアバターの性能であり、彼女の強さの一側面に過ぎない。ヒメノの強さ、その核となるのは……意志の強さ。

「私のヒナちゃんを傷付けた事……絶対に許しません……!!」

 ヒメノのその赤い瞳に、どんな感情が込められているか……それは大切なPAC(いもうと)を傷付けた者に対する、純粋な怒りの炎だった。


 そんなジンとヒメノのやり取りを横目で見つつ、グレイヴは感心していた。

 ヒメノが中学二年生の少女だという事は、AWOでは周知の事実だ。その年頃の少女ならば目の前で起きた蛮行に、不快感を抱いてもおかしくない。同時に自分も同じ目に合わされるのではないかと、恐れる者は少なくないだろう。


――それを差し置いて、PAC(パック)の事で怒るか……どれだけ大事にしているのやら。全く……。


 グレイヴは、口に出さずに胸中では呆れていた。相手はPAC(パック)であり、NPCだ。AIで制御された、人ではない存在なのだ。AWOのサービスが終了したその時には、跡形もなく消えてしまう。PAC(パック)は、そういった存在なのだと考えていた。

 しかし、同時に思う。それ程までに大切に想う価値が、ヒナにはあるのだろう。少なくとも、ヒメノにとっては。

 グレイヴはそれが正しいとも、間違いとも思わない。考え方は、人それぞれなのだから。


 ともあれ、ヒメノは戦う意思を示した。ならばグレイヴが、この場でやる事は一つしかない。

「上等だ!! 気に入ったぜ、姫さんよ」

 グレイヴはそう言うと、仲間達に向けて声を掛ける。

「野郎共、この姫さんを援護してやれ!! こいつらゴミクズ共を、一匹たりとも逃がすんじゃねェぞ!!」

 それは、ヒメノの怒りを晴らす為に力を貸す……という意味合い。その指示を受けて、【漆黒の旅団】のメンバー達は口元を緩めて頷いていた。


「って訳だ、忍者。今回だけは、手ェ貸してやる」

 ぶっきらぼうなグレイヴの言葉に、ジンは一瞬の思案の後に頷く。

「コヨミ殿!! リン、コン!! 標的は仮設ギルドBのプレイヤー、【旅団】の彼等と共闘するでゴザル!!」

 ジンがそう声を張り上げると、【漆黒の旅団】の面々の笑みは深まった。


「だそうよ、コヨミちゃん……殺し合い(デート)は一旦、お預けね」

「今、物凄いやばいルビふりしてません!? ねぇ!?」

「はぁ……ったく、あの人は……」

「≪メダル≫をここで使う羽目になるとはね。まぁ良いわ、これはこれで面白そうだし」

「って事らしい、くノ一の姐さん。今だけは共闘と行こうや」

「……良いでしょう」

「コン……(ブッ殺……)」

「狐さんや、今やべー事考えてね? 大丈夫か?」


 逆に、困惑と焦燥に侵されるのは仮設ギルドBの面々だ。目論見が外れたばかりか、【七色の橋】と【漆黒の旅団】が共闘を宣言。そして、その標的は自分達である。

「おい! 誰だあんな杜撰な作戦立てたのは!!」

「ち、ちげぇ!! 俺じゃねぇ!!」

PAC(パック)蹴ったのが駄目なんだよ、アホが!!」

「お前謝れ!! 今すぐ謝って!!」

「お、俺は悪くねぇ!! ただ、ちょっとテンションが上がってはっちゃけただけだ!!」

「清々しいまでにクズだ!!」

「それで済むなら警察は要らねぇんだよ!!」

「こ、こいつの首で勘弁して貰おうぜ!!」

 ついには、仲間割れを起こして責任の擦り付け合いが始まってしまう。その姿は滑稽であると同時に、見苦しい事この上無かった。


 しかし、仮設ギルドBの都合なんて構う必要性は無い。少なくともジン達に……そして、グレイヴ達にはどうでも良い事だった。

「行くでゴザル!!」

「行くぞ、テメェら!!」

 ジンとグレイヴが同時に叫ぶと、双方のメンバーが同時に駆け出した。


……


 そこから始まるのは、一方的な殲滅……ではなかった。

「一つ、やりたいことがあります……時間を稼いで欲しいです」

 ヒメノのそのお願いに、ジンやコヨミがNOというはずもなく。システム・ウィンドウを操作するヒメノを、ジンとグレイヴが守っていた。

「ハハッ、てめぇらと肩を並べるたぁな……!!」

「拙者も意外ではござったが……アリ寄りのアリでゴザル!!」

「ひ、ひいぃっ!? こんなはずじゃあ……っ!!」

 技量、速さ、判断力。それらを兼ね備えたジンとグレイヴの、ヒメノ防衛網。仮設ギルドBの面々がそれを突破するなど、夢のまた夢であった。


 コヨミはリーパーと肩を並べて仮設ギルドBを逃がすまいと、果敢に攻め立てていく。≪聖なるメダル≫で蘇生したアッドとエリザも、そこから少し離れた場所で交戦中だ。

「な、何で手を組んでんだよ!! PKerと【七色】がっ!!」

「そんな事も分かんないのかなっ!?」

「なら、何言っても無駄ね!! せいぜい神様にでも祈ってれば!!」

 コヨミの大太刀は、威力がある分隙が大きい。リーパーはそれをカバーする様に、コヨミの攻撃後に割り込んで敵を斬り付けていく。

 先程まで、互いに互いを叩きのめすべく戦っていた二人。しかしそれこそが、この連携を生んだ。互いに、相手の次の動きを予測できるのだ。共通の敵を前にして、打ち合わせも前準備も無しの連携攻撃を可能にしたのは……お互いが相手を認め合い、死力を尽くしてぶつかり合ったお陰だろう。


「く、くそっ……!! PKerのくせにっ!!」

「面白い冗談だ、それならお前等はPKerおれたち未満だろう?」

「そういう事だ!! 自分らの事を棚に上げてんじゃねぇ、ゴミクズどもっ!!」

 アッドは冷たく冷静に、エリザはジン達に対する言葉遣いとは真逆の……実に乱暴な物言いである。ヒナの件、内心では二人も心底腹を立てていたらしい。

 こちらは即席ではなく、積み重ねられた連携。力と技の融和、息の合ったコンビネーションだ。アッドの戦槌がエリザの戦鎌の攻撃を生かし、エリザの変幻自在の攻撃がアッドの破壊力を生かしていた。


 そしてリンは【グリム】、コンは【ムジーク】と共闘しながら仮設ギルドBを逃がすまいと戦っている。先程まで交戦していた相手とは思えぬ程、その息はピッタリ合っていた。

「な、なにがどうなって……!!」

「ヒナを傷付けたからに決まっているでしょう」

「そういう訳だ、観念しなぁ!!」

 リンにとって、ヒナとロータスは同時期に生まれたPACパックである。クールな性格に設定されているリンではあるが、同期の二人に対する親愛の情はとても強かった。そんなヒナを傷付けられたのだ。リンもまた、静かに激しく怒りの炎を燃やしていた。

 グリムはリンへの攻撃を企てるプレイヤーに、湾曲した剣で斬り付けていた。これは≪ショーテル≫という武器で、盾を迂回する斬撃を可能にする上級者向けの装備だ。わざわざそんな武器を使うだけあり、グリムの動きは洗練されたもの。十把一絡げの仮設ギルドBのプレイヤー達では、劣勢に陥るのは当然であった。


「コン……ッ!! (ぜってぇ許さねぇ!!)」

「何なんだこのキツネ!! こええぇよぉっ!!」

「それにゃあ同意だが、お前らが悪い」

 怒りを露にしたコンの動きは、彼の体躯も相まってモンスター感を増していた……むしろ、ボスモンスターと言われたら納得できるまである。【狐火】や【狐雷】を駆使すると同時に、体当たりや引っ掻き攻撃も織り交ぜていく。知る者が見たならば、サイズ縮小版のアンコクキュウビといった印象を受けるだろう。

 そんなコンをフォローするかのように、ムジークは魔法を駆使して仮設ギルドBのプレイヤー達の動きを阻害する。彼はライデンと似た、魔法の速攻発動をメインスタイルにしたプレイヤーだ。より実戦的な魔法職を目指すと、そこに行きつくのかもしれない。


 そんな仲間達と、【漆黒の旅団】達の協力を得て……ヒメノは今、あるモノを手にしていた。

「準備、出来ました……!!」

 彼女が掲げたそれは、≪聖女の杖≫。ヒナに持たせていた、ヒメノが贈った装備である。同時に彼女は、ヒナのスキル≪癒しの聖女≫を自分のスキルスロットに移していた。


 プレイヤーと契約PACパックのスキルオーブは、実は共有が可能となっている。プレイヤーのスキルオーブをPACパックに装備させる、またはPACパックのスキルオーブをプレイヤーが装備する事が可能。その際、スキルオーブのレベルや習熟度のリセットは起きないのだ。

 これはPACパックがシステム・ウィンドウを持たず、プレイヤーのシステム・ウィンドウでステータス管理をする仕様だからだろう。


 そしてヒメノは、ヒナの無念を晴らす為に……彼女ヒナの力で、仮設ギルドBを倒す事を考えた。

「……【我等は比翼の鳥、連理の枝】」

 ジンはヒメノの意図を理解し、自分のINTを全て彼女に渡す。互いに極振りプレイヤーであるから、装備の強化値を入れてもINTは人並み程度なのだ。ならば、少しでも補強が必要と判断したのだった。

「可愛い義妹の為、拙者の分も託すでゴザルよ」

 仮設ギルドBのプレイヤーを相手取りつつ、自分にINTを譲渡してくれたジン。彼の言葉の意味に気付いたヒメノは、その背中に視線を送り一つ頷いた。

「はいっ!! ヒナちゃんと、私と……皆の分で!!」

 そう宣言して、ヒメノは詠唱を開始した。


「ま、まずい……!!」

「魔法を止めろぉっ!!」

 数名のプレイヤーが慌てて、ナイフや鉄球等の投擲武器を投げる。ほんの微小なダメージでも、ヒットストップで魔法詠唱が止まる事を期待しての事だろう。それは、彼等に出来る最適な抵抗であった。

「させぬ!!」

「邪魔すんじゃねぇ!!」

 それを、ジンとグレイヴが打ち落とさなければ。

「な……っ!!」

「くそぉ……っ!!」


 そうして、ヒメノの詠唱が完了する。あとは、魔法名を宣言して効果を発動させるだけだ。それは隙は大きいが、攻撃範囲も広い【癒しの聖女】における最大の魔法攻撃である。

「【ディバインフォール】!!」

 対象の頭上に大きな光の魔法陣を生み出し、直下に聖属性魔法を降り注がせる……【神聖なる瀑布(ディバイン・フォール)】の名そのままの、範囲魔法攻撃。

 降り注ぐ光の柱は仮設ギルドBのプレイヤー達のHPを、あっという間に減少させていく。そして光が収まった後、そこに残されていたのは倒れ伏すプレイヤー達の姿だった。


 グレイヴはその中の一人に目を付け、歩み寄る。

「く、クソが……っ!!」

「死体蹴りなんてする、テメェの方がクソだろうが。ふーん……【PIERTOR】? なんて読むんだ、これぁ」

 そのプレイヤーは、ヒナを蹴り飛ばしたあの男だった。

「うるせぇ、PKerの分際で……っ!!」

 反論の声を上げて、グレイヴを睨むPIERTOR氏。そんなPIERTOR氏の横で、一人の青年が馬鹿にしたような表情で補足を口にした。

「あ、それ【ピーター】って名前らしいっす」

「読めねぇな。スペルミスだろ、コレ」

「うっせぇな!!」


 敵味方問わずバカにされているピーターだったが、一人の少女が歩み寄った事で口を噤んだ。その少女が誰なのか、言うまでもないだろう。

「ヒ、ヒメノ……」

 俯いているヒメノの表情は、ハッキリとは解らない。だが彼女の右拳が強く握られ、震えている事から明白だ。

 ピーターの側に来たヒメノは、その拳を振り上げる。

「や、やめろ!! わ、悪かった、謝っから……!!」

 グレイヴは、それを冷めた眼で見るだけだ。とはいえ、その行為自体を良しとしている訳では無い。

 もし本当にヒメノが彼を殴れば、彼女もピーターと同類になる。それはあまりにも馬鹿馬鹿しくて、止める気にもならなかっただけである。


 そして振り下ろされた拳は……ピーターの顔面、そのすぐ真横の地面に突き立てられた。その際の衝撃音、そして陥没した地面……その威力に、ピーターは口をパクパクさせて震える事しか出来ない。

「私はあなたを殴りません。でも……あなたは自分がやった事が、どういう事か解っていたんだと思います」

 それは何かを堪える様な、震える声だった。

「二度としないで下さい」

 そう言い残して、ヒメノはピーターから離れていく。


――多分、この男が二度と死体蹴りなんてしないように……と思ったんだろうな。憎んでもおかしくない相手の事まで、尊重しているとも考えられる。逆効果になる場合もあるだろうが……今回はどうだろうか。甘いと言えば甘いが、うん……その点は評価に値する。


 内心でそんな事を考えつつ、グレイヴはトドメを刺そうと口を開いた。

「フン……甘ちゃんだが、ガキのくせにお前らより大人だな。爪の垢を煎じて飲めば、ちったぁマシになるんじゃねぇか」

 揶揄する様にそう言って、グレイヴもピーターから離れていった。もう、相手にする価値も無いと判断したのだろう。

 そこから仮設ギルドBのプレイヤー達は、誰も何も口に出来ず……蘇生猶予時間が尽きるのを待って、消滅する事しか出来なかった。


************************************************************


 グレイヴ……本名【筆田ふでた 空葉からは】は、真っ当な社会人だ。周囲からも信頼され、人望も厚い。現実においては、PKerとは真逆の人間であった。

 そんな彼は、ある目的の為にPKerとして【漆黒の旅団】に身を置き……そして今、ギルドの主導権を手にして第四回イベントに参戦した。

 筋を通すのも、何だかんだ面倒見が良いのも、彼の真の狙いがPKプレイヤーキルやPvP以外の場所にある。

 だからこそディグルの【漆黒の旅団】時代、【七色の橋】襲撃時をボイコットした。


 それは正解だったと、グレイヴは確信する。ジンやヒメノ、コヨミの姿を見て……自分が目指したモノが、自分が背負うと決めたソレが間違いではないと。


 そんなグレイヴは、ここから再び戦闘再開……という気にはなれない様子だった。

「ゴミクズの乱入で白けた。今回はここまでにしようぜ」

 つまらなそうにそう言うグレイヴだったが、その意識はヒメノに向いているのは誰もが察していた。ヒナを傷付けられたヒメノの心情を、慮っているのだろう。

「……感謝するでゴザル、グレイヴ殿」

「敬称は要らねぇっつーの」


 立ち去ろうと踵を返したグレイヴだったが、一歩踏み出した所で動きを止めた。すると彼は半身だけ振り返り、ジンに向けて声を掛ける。

「不正疑惑の件、お前が勝ったらって話したっけな。ノーサイドゲームになったし、サービスしてやるよ」

 ジンとグレイヴの一騎打ちの際、確かに彼はそんな事を言っていた。ジンは頷き、続きを待つ。

「不正なんてしている奴等にゃあな、心の中に驕りが絶対に生まれんだ。それは態度や視線、動きや攻撃にも出る。お前らにゃぁ、そんなモンは微塵もねェ……それが全てだろうよ」

 そう告げるグレイヴの眼には、己の考えに対する絶対の自信を感じ取れた。ジンはグレイヴのその眼に、ある人物を思い出す……それは、【聖光の騎士団】のアークだ。


 彼もまた、己の信念を貫き通す男だ。グレイヴの眼は、彼によく似ている様に思えた。

 しかしながら、強さこそ全てだと思っていた頃の彼ではない。似ているのは今の、仲間を重んじるアークの眼だ。

 確固たる自信と、揺るぎない信念。アークとグレイヴは、プレイスタイルも立場も違うが……根の部分では、よく似ているのかもしれない。


「……ご理解痛み入る、グレイヴ殿」

「かしこまんなくて良い。んな余計な気を回すくらいなら……」

 どことなく穏やかな表情は一変し、グレイヴは獰猛な肉食獣の様な笑みを浮かべた。

「次は、テメェの本気を見せてみやがれ」

 本気を出していない訳では無い……ジンはそう言いたい気持ちもあるが、一方でそれを否定する思いもある。自分は未だ、切り札を切っていないのだ。

「……了解した、期待は裏切らぬ」


「あのっ……!!」

 今度こそ、立ち去ろうとしたグレイヴ達。それを、ヒメノが呼び止めた。彼女の手には、ヒナの≪聖女の杖≫が握られている。

「今回、お力を貸して頂いてありがとうございました……せめてものお礼に、回復を受けて貰えませんか?」

 ヒメノが自分達に、心から感謝している……それは、間違いない。グレイヴ達はそう考えた。

「ハッ、PKerに感謝するなんてやめとけ? 後で、仇になって返ってくんぞ」

 偽悪的な言動で、ヒメノに注意するグレイヴ。ヒメノは反論しようとするが、しかし彼の話は終わっていなかった。

「だから、それは感謝なんかじゃなく……俺等に借りを作らない為って事にしとけ。それなら、こっちにゃ否はねぇよ」

「あ……はい!!」


「アンタ、本当に何でPKerなんてするんでゴザルか」

「マジ勿体ないですよ、顔も性格もイケメンなのに」

 ジンとコヨミのマジレスに、グレイヴはフンと鼻を鳴らす。そんな様子に、エリザ達は「そう思うよね~」という表情だった。

「型に嵌まってお利口に仲良くなんざ、性に合わねぇんだよ。ほら、やるならさっさとしてくれ」

「あ、はい!!」

 ヒメノは【癒しの聖女Lv10】ではパーティ外のプレイヤーを回復出来ない事を知っていたため、ヒナのスキルスロットから【回復魔法の心得Lv10】のスキルオーブを借りた。


 その際、ヒメノの脳裏にアナウンスが響き渡る。

『【弓の心得】【癒しの聖女】【回復魔法の心得】の完全習得を確認しました』

「え……?」

 続くアナウンスを耳にして、ヒメノの表情は驚きのそれに変わる。


 グレイヴの返答に、ほんのり笑みを浮かべていたヒメノ。その表情が一変した事で、ジン達もグレイヴ達も何かあったのだと気付く。

「ヒメ、どうかした……?」

「何かあったのか、姫さん?」

 心配そうに歩み寄るジン達に、グレイヴ達も同様の様子を見せる。ヒメノはその声掛けにハッとして、首を横に振る。

「いえ、済みません……ちょっと、ビックリした事があっただけです……」

 ヒメノはそう言うと、≪聖女の杖≫を握りしめて詠唱を開始した。


……


 グレイヴ達のHPを全快させ、去っていく彼等を見送ったヒメノ。彼女はその姿が見えなくなると、ジンとコヨミに視線を向けた。

「一度、拠点に戻っても良いですか? ヒナちゃんを迎えに行きたいのと……一つ、ご報告があります」

 それは、ヒメノにだけ聞こえたアナウンス。彼女が驚愕したのは、そのアナウンスが告げたある事実だった。


『エクストラクエスト【精霊の弓】を達成。ユニークスキル【エレメンタルアロー】を習得しました』

次回投稿予定日:2022/10/25(観戦者視点)


今回は情報量が多めの回になったかもしれません。


一つは【変身】の仕様。使えば無敵に見えますが、AP100は使い方によってはすぐに枯渇するものというのを表現したかった感じですね。


続いて、【漆黒の旅団】のグレイヴ。彼がただの戦闘狂ではなく、何かしらの理由があってPKerを束ねて活動しているところを描きたかった感じです。


そして最後に、”勇者系”ユニークスキル。その取得条件の一つが、『特定のスキルオーブ(複数種類)の”完全習得”到達』です。

ただ、全てが同じ条件という訳ではありません。アークの【デュアルソード】がその例です。

とはいえ、以前から感想でも予想していた方がいらっしゃいましたので……意外性は無かったかなと心の汗を流しつつ。


では、ここでちょっくら作者の本音を。

ウ チ の 読 者 さ ん 鋭 過 ぎ ま せ ん ! ?

読者の皆様がハイスペック過ぎて、執筆のハードル上がりまくりな気が!! あとどれだけのネタが、皆様の予想を覆すかしら。


折角なのでここは開き直って、こういうの見たいとかネタ下さい(※作者の能力で描ける確証はない)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の場合一般的に言われているマナー違反としての死体蹴りには当たらないと思う、蘇生の阻止は起こっているわけだし… [一言] まあ、ブチ切れない理由にはならないんですけどね
[良い点] 流石のPKerさん達も、直接対決を邪魔された挙げ句死体蹴りなんて恥知らずな事をしたらこうもならぁ。 今後、観戦者席で見てた人達からの口コミで形見狭くなりそう南無。 ヒメノさんの剛久に属性…
[良い点] 妹への深い愛情 泣けてくる(号泣) 新生漆黒の旅団 最高のPKer [気になる点] 最後のは 妹からの感謝の証……かな [一言] 漆黒の旅団 七色の橋 裏部隊 闇夜に潜む 漆黒の集団…
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