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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐

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15-16 【七色の橋】VS【漆黒の旅団】

【七色の橋】の拠点防衛班の前に現れた、六人の男女。彼等はかつてハヤテとアイネを襲い、ジン達によって壊滅させられたPKギルド【漆黒の旅団】のメンバーだった。


 ジンとヒメノはその時の戦いに参加しており、彼等がどんな手合いの輩か覚えていた。

【漆黒の旅団】は当時、加入間もなかったハヤテとアイネを狙ったのだ。

 それも大人数で待ち伏せし、甚振り、狩ろうとしていた。しかもその目的は、イベント上位になったジン達に向けた見せしめだったのだ。

 幸いな事にジン達の救援が間一髪で間に合い、襲撃犯は全員殲滅する事が出来たが……決して良い記憶では無いのは、間違いない。

 だからジンとヒメノは、緊張感を滲ませて臨戦態勢を取る。


「六人だけ……でゴザルか?」

 まだ、どこかに仲間が隠れ潜んでいる……そして、自分達を襲おうとしているのではないか? そう考えたジンは、カマをかけてそう告げる。

 そんなジンに、代表格であろう男がニヤリと笑った。

「警戒しているねェ……ま、無理もねーな」

 くつくつと笑いながら、男は肩をすくめる。男の頭上には赤カーソルと共に、【GRAVEグレイヴ】というアバターネームが表示されていた。

 日本語に訳すと”墓”を意味する単語であり、不吉なイメージを纏っている。とはいえ、PKerらしいといえばらしい名前なのかもしれない。


「まぁ安心しな。俺等は正真正銘、六人で来た……お前等への返礼の為によ」

 返礼……それは【漆黒の旅団】を壊滅させた事に対する、仕返しなのだろう。ジンとヒメノの緊張感は、更に高まっていく。

 しかし、彼の次の言葉は予想外だった。

「あんがとよ、()()()()()()()()()をブッ潰してくれて。お陰でギルドはそのまま、俺等が乗っとれたんだ。感謝してるぜ、お前等にはさ」

「「……はい?」」

 思わず、呆気にとられるジンとヒメノ。そんな二人の様子に、グレイヴは更に愉快そうな表情を浮かべる。見れば、他の五人も似た様な表情だった。


 困惑するジンとヒメノに、グレイヴはやけにサッパリした表情で言葉を続ける。

「俺等は確かに、PKerプレイヤーキラーさ。それは事実だし、いい子ぶるつもりなんざねェ。でもな、節度ってモンは必要だ……そうだろう?」

 ジンは思わず、それを自分に言われても? という表情になる。しかし彼はそれに気付いているのか、いないのか……楽しそうに続きを口にした。

「前のギルドの大多数は、ハッキリ言うと”弱者を狙って甚振るゴミクズ”の集まりだったんだよ。PKの美学ってモンを、全く解っちゃいねェ連中さ」

 PKの美学……という言葉が出ると、他の男女がウンウンと頷いた。


「……え、えぇと……つまり、どういう事だってばよ?」

 困惑しているのか、ジンのキャラが迷子になった。確かに忍者で九尾だけど、それ以上はいけない。

 すると控えていた面々も、グレイヴに続いて話し始めた。

「かつての【旅団】は、ただ暴力を楽しむ……そういうギルドだったわ。ギルドマスターを務めていたディグルが、そういう人間だったもの」

「でもよ、最初の頃はもっと違ったんだぜ?」

「そうそう。行動パターンが決まり切ったモンス狩りじゃ、満足できねェ……だからこそ、俺等はPvPを求めたのさ」

「でもそれをやるには、決闘専門のスタイルか……もしくは、PKerになるかの二択になるでしょう?」

「ルールに縛られた決闘じゃ、満足できない……私達は、そういうタイプだったの」

 やけに饒舌に、語り掛けて来る【漆黒の旅団】の面々。しかも表情を見るに、フレンドリーな感じで。かつての【漆黒の旅団】とは確かに違うが、不気味なのは間違いない。


「えぇと、つまりは”自由にPvPがしたいから、PKerを選んだ”……という事ですか?」

 コヨミが片手を挙げてそう問い掛けると、代表格の男が指をパチンと鳴らして喜色を浮かべる。

「そういう事だ、お嬢ちゃん。ヒリ付くような、プレイヤーとの駆け引き……それは相手が強ければ強い程、燃えて来る。それこそ、PvPの醍醐味だ」

 ”強ければ強い程”の部分で、グレイヴはジンに視線を向ける。つまり、彼は強い相手と本気で勝負がしたい……という、殺人者というよりは戦闘狂の部類らしい。

「格下相手に暴れて悦に浸っていた、無能なトップとその取り巻き……そいつらは、お前等が潰してくれた。感謝してるぜ、【七色の橋】」


「え、でも……PKはするんですよね?」

 ヒメノがそう言うと、グレイヴ達は「そりゃあな」と首肯する。

「俺等は本気のPvPがしてェ、だから決闘システムみたいなノーリスクの戦いじゃ満足できねェのさ。【暗黒の使徒】との違いはそこかね。お互いに負けたくない、だから本気で殺し合う。それこそ、PvPの面白れェ所だ」

「……はぁ」

「あのカス共みてぇに、弱いヤツを狙うのはクソダセェ。それに大人数で囲んで、数の暴力でKILLするのも恰好悪ィ。だろう?」

「まぁ……確かに、格好良くは無いと思います」

 思わず素直に頷くヒメノに、グレイヴは「だよなぁ?」と笑う。


 すると、我が意を得たりとばかりに他のプレイヤー達も話し始める。

「ヤるなら、やっぱ同格か格上だろ!」

「条件はイーブンの方が良いし、不意を突くのは雑魚のやり方よねー」

「そうそう。正面から戦いを挑んで、ブッ倒せばそれで勝ちだかんな」

「あー……まぁ戦利品としてドロップ品は貰うが、それ目当ては……なぁ?」

「あぁ。ドロップ目当てで殺るのは、強盗だもんなァ」

 今まで遭遇して来たPKer達とは毛色が異なる面々に、ジン達は困惑しきりである。


「っと、そういや名乗って無かったな? まぁ、頭の上の表示で解るだろうけど」

「……グレイヴ殿、で宜しいか?」

 ジンがそう言うと、グレイヴは笑って首を横に振る。

「呼び捨てにしとけよ、忍者。俺みたいなPKerに、敬称なんぞ必要ねェさ」

 そう言って、グレイヴは背中に背負った剣を抜いた。

「先代ギルマス……つまりディグルのアホが、お前等の情報を送って来てな。多分、お前等への復讐目的なんだろうが……逆にこの戦いは、俺等にとっては再出発になるバトルにさせて貰うぜ」

 イーブンな条件で戦う……その為に、彼等は六人で来たのだろう。ジン達と、人数を合わせる為に。最も、コンは一人ではなく一匹なのだけが。


 ともあれグレイヴに続き、他の五人も武器を構える。滲み出る強者の雰囲気は、これまで戦って来た中小規模のギルドとは一線を画している。それはジンやヒメノ、そしてコヨミにも感じ取れる程だ。

「クソッタレなゴミクズ集団の【旅団】は、壊滅してもう無ェ。俺等は最高にスリリングなPvPがしたいだけの、イカレたギルドだ。さぁ、アンタらは俺等の挑戦を受けるかい?」

 期待の篭った視線を向けられ、ジンは一つ頷くと姿勢を低くして小太刀を構えた。ヒメノとコヨミも、同様に己の得物を手に体勢を整えている。

「どのみち、このイベントはPvPイベント……望み通り、戦う事に異は唱えぬでゴザル」

「そうかい、あんがとよ。じゃあお喋りもそこそこにして、始めっか」

 そこで言葉を切って、グレイヴは剣を構え……そして、駆け出した。

「殺り合おうぜ、【七色の橋】!!」

 その声と姿は、ジンのすぐ目前。ほんの一瞬で、グレイヴは距離を詰めて接近して来たのだ。


 ——速い……!!


 とはいえ、戦闘に対する備えは出来ていた。そしてAGIに関しては、誰にも遅れを取りはしない。ジンはその俊敏性を駆使し、グレイヴが振るった剣を避けてみせた。

「流石だ!! そうでなくちゃあなぁ!!」

 先程までとは違い、グレイヴは戦意を剥き出しにして笑っていた。ジンを捉えた視線は険しく、一挙一投足を見逃すまいとギラついている。

 だが、次の瞬間……グレイヴの視線が一瞬、コヨミに向けられた。


 ——この男、タイミングさえ合えば他のメンバーにも……!!


 グレイヴに、付け入る隙を見せてはならない。直感でそう判断したジンは、全力疾走でグレイヴを倒す決意を固める。

 ヒメノ達に他のPKerを任せる事になってしまうが、グレイヴは優先して倒すか……あるいは、足止めしなくてはならないから。


************************************************************


「こっちも行くわよぉ!」

「楽しませてくれよ、お嬢さん方!」

「行くぜぇ!!」

 他のPKer達も、グレイヴに続いて駆け出した。彼程速くはないが、それでも並のプレイヤーよりは速さに重きを置いている様だ。


 ——私のAGIだと、捉えられないかも……!!


 そう判断しつつ、ヒメノは攻撃して来る面々に集中する。可憐な外見とは裏腹に、彼女も歴戦の猛者なのだ。

 自分の方へ女性が一人、その後ろから男性二人が迫っている。コヨミとコンの方へは、男女の二人組が向かった。

 後ろから女性を追って走る男性二人は、リンとヒナを狙うのか……それとも、そのまま自分を狙って追撃するのか。


 ともあれ、相手のペースに呑まれてはならない。逆にこちらのペースに引き込むのが、PvPの常套戦術だ。

「【炎蛇えんじゃ】!!」

 弓刀の切っ先を迫り来るPKerに向け、魔技を発動。直進する彼等の進路を塞ぐ事で、その動きを止めようと試みる。

 しかし先頭を走る女性はニヤリと笑い、そのまま【炎蛇】に突っ込んでいった。

「INTはそこまで高くないんでしょ、お姫様ッ!!」

 確かにヒメノのINTは85と、STRと比較すると低い。MNDにポイントを盛ったビルドのプレイヤーならば、容易く耐えられるだろう。


 そうして、PKer……戦鎌を持つ女性【エリザ】が、ヒメノに迫る。

「させるとでも?」

 そこに駆け込んだのは、黒髪の女性。両手の小太刀を振るい、エリザに斬り掛かった。

「あらっ……くノ一ちゃん!! 流石に速いわね!!」

 しかしPACパックの援護も、エリザ達は予想していた。

「じゃあ、よろしくっ!!」

 エリザは強引にヒメノへと向けて駆け抜け、後方から追走していた男性二人組がリンに対して斬り掛かる。


 一方コヨミは、迫る相手二人が只者ではないと判断してコンに声を掛ける。

「コンちゃん、牽制したら私を下ろしてね! 多分、呑気に背中に乗ってたらすぐやられちゃう!」

「コンッ!!(わかった!!)」

 コヨミの指示を受け、コンは魔技を発動させる。使用したのは、ジンと同じ【狐火】だ。

「キツネ型モンスターが、魔法!?」

「テイムしたのか……? ホント、面白れぇヤツらだぜ!!」

 コンの【狐火】を避けた二人は、構え直してコヨミとコンに再度駆け出す。その隙にコヨミはコンの背から降りて、大太刀を構えて迎え撃つ体勢を取る。


「確か、あの子は配信者をやっている子よ。突き抜けた所は無かったはずだけど……油断するんじゃないわよ?」

「相手を侮るなんざ、素人のやる事だろ」

 お互いに聞こえる程度の声量で、声を掛け合う二人。すぐに彼等はコヨミとコンを射程内に捉え、攻撃に移る。


「悪く思わないでね!!」

 コヨミの大太刀は、見た目からも大剣と同種の武器だと判断出来る。故に女性……短剣使いの【リーパー】は、コヨミの動きに注視しながら懐へ潜り込むべく踏み込んだ。

「えいっ」

 そんなリーパーに対し、コヨミは手にした大太刀を地面に突き刺すという行動に出た。それはリーパーが踏み込んだ、目と鼻の先。彼女は思わず、衝突を避けようと速度を緩めてしまう。


 だが、コヨミの戦術はここからが本番である。

「【ハイジャンプ】!!」

 突き刺した大太刀を握ったまま、コヨミは武技を発動して跳躍。そのまま空中で体勢を整えると、両手で大太刀を振り被った。

「【一閃】!!」

 振り降ろすと同時に、【一閃】を発動させるコヨミ。その刃の向かう先には、リーパーの後に続いていた青年【グリム】が居た。

「あ……ぶねっ!!」

 慌てて急停止し、バックステップで後退するグリム。しかしコヨミの【一閃】がわずかに掠り、HPが減少してしまう。


――ヘェ……【七色】におんぶに抱っこの新人ルーキーかと思ったら、意外と削ってくれるじゃねーの!!


 コヨミは前衛で、STRとVITを重視しているビルドとなっている。そこへ【七色の橋】から贈られた高性能な装備が加わり、ステータスも大幅に強化されている。

 更にゲスト参加が決定してから、コヨミは【七色の橋】と共に第四回イベント対策に明け暮れていた。その内容は、ひたすらに特訓である……それも、【七色の橋】のメンバーやユージン・リリィと共に。


 お陰で今のコヨミは、トップランカー級のプレイヤー……とはいかずとも、最前線クラスに近いプレイヤーと言って良い実力を身に付けている。【七色の橋】にぶら下がっているだけのプレイヤーなどでは、断じてないのだ。


「やるじゃないっ!!」

 リーパーが攻撃後のコヨミに接近するが、コヨミはそれに冷静に対処する。ぶっちゃけ、特訓した際のジンによる追撃の方が怖かったのだ。比較対象がエグいのは、仕方のない事である。

「そこっ!!」

 片手で大太刀を振るえば、リーパーの脇腹の位置へと迫る。リーパーはそれを察し、避けようとするが……。

「【一閃】!!」

 大太刀を振るう最中に、【一閃】を発動させるコヨミ。迫る大太刀の速度が、その瞬間加速した。リーパーはその変化に対応し切れず、モロに大太刀の一撃を喰らってしまう。


「ヘッ……楽しませてくれるじゃないか!!」

 グリムは、コヨミがリーパーに集中している隙を突こうと動いた。必要最小限の動きを、物音を立てぬ様に。相手の警戒が緩んでいるタイミングこそ、彼等の本領を発揮する絶好の機会なのである。

 しかしながら、それも二対一の場合。今、彼等は二対一ではなく二対二……正確に言うならば、二人対一人と一匹である。

「コンッ!!(【狐雷こらい】!!)」

 グリムの背中に爪を突き立てると同時に、魔技を発動させるコン。グリムの全身に電撃が迸り、麻痺状態に陥ってしまう。

「ぬぁ……っ!? この、狐……ッ!!」


……


「【セイクリッドスフィア】!!」

 ヒメノの援護をしようと、彼女のPACパックであるヒナは防御と回復を同時に行える魔法を発動させた。そのシールドにより、ヒメノに迫っていたエリザの戦鎌を防ぐ事に成功する。

「ありがとう、ヒナちゃん!! リンちゃん、あっちの二人は……」

「注意を引き付けるのは、お任せを」

 クールにそう告げて、リンは姿勢を低くしながら疾走する。その背を見送ったヒメノは、エリザを狙い矢をつがえた。


「そんなに悠長に狙っても、当たってなんてあげないわよ?」

「それはどうでしょう? 【縮地】!!」

 ヒメノが発動させたのは、本日初の四神スキル。白虎の素早さを武装スキルに変えた、四度のみの瞬間移動技である。

「な……っ!?」

 ヒメノが転移したのは、エリザの左側。そしてヒメノは、必殺の矢を放つ。


「なんてね?」

 それは、ヒメノが矢を放つ直前。エリザは片足で立ち、逆の足を延ばしてバランスを取る。同時に手首を巧みに動かして、手にした戦鎌をヒメノに向けて振るってみせた。

 上体を低く沈ませる体勢で、ヒメノの矢を避けたエリザ。そして彼女の戦鎌が、ヒメノの胸元にズブリと突き刺さった。

「!?」

「あなたに転移技があるのは、第二回イベントで予習済み。私も同じ状況なら、その戦術を取るでしょうね……羨ましいスキルだわ」

 痛みは無くとも、刺された事による不快感は感じられる。その感触に表情を歪めながらも、ヒメノはエリザと距離を取るべく身体に力を込め……自分の身体が動かない事に気が付いた。


――麻痺効果!!


 ヒメノはすぐに、原因が状態異常によるものだと察した。しかしながら、アイテムを取り出そうにも身体が動かずそれは敵わない。

 しかし、ヒメノには頼りになるPACいもうとが居る。ヒナのスキルならば、この状態異常をすぐに解除できる……そう思い、自分の相棒に視線を向ける。


 そこにあったのは、杖を構えてヒメノを見るヒナと……彼女が張った【セイクリッドスフィア】のシールドを、戦槌で砕くPKerの姿。

「ヒナちゃん!!」

 ヒナは自分を回復しようと、魔法詠唱に入っていた。シールドの中に居る限り、安全だと判断したのだろう。しかし、そのシールドは砕かれて……ヒナに迫るPKerの戦槌が、彼女の身体を強かに打ち付けた。

 強い衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がるヒナ。自分とうり二つのその姿に、ヒメノはこの後に待ち受ける未来を察して言葉を失う。


 絶句しているヒメノに対し、エリザは優し気な声色で話し掛けた。とはいっても、その内容は決して優しくなど無い。

「ゴメンだけど、そういうルールだからね。悪く思っても構わないわよ」

 そう言って、エリザはもう一度ヒメノの身体を斬り付けた。HPがガクンと減り、麻痺効果も延長される。

「甚振って悦に入るなんて、低俗な趣味は持ってないから安心して。すぐに終わりにするから」

 あと一撃喰らえば、ヒメノのHPはゼロになる。それはエリザも理解しており、早々にケリを付けようと戦鎌を振り被っていた。

「これで……」


「ああぁっ!! すっぽ抜けたぁ!!」

「え……きゃあぁっ!?」

 あらぬ方向から飛んで来たのは、大太刀。それがエリザの側頭部に当たり、彼女の攻撃が止まった。

 そして、先程の声……それが誰の声なのかは、言わずもがな。この場に、大太刀を持っているプレイヤーは彼女しか居ない。


「コヨミさん……!?」

 視線を向けると、そこには大太刀を手放してアワアワしているコヨミの姿があった。その眼前に居るリーパーは、それを好機とコヨミに迫っている。

「武器を手放すなんて、まだまだね!!」

「うわあぁん、ごもっともです~っ!!」

 短剣を振るうリーパーの攻撃で、コヨミのHPが減る。しかし彼女はそれなりにVITがあるので、まだ耐えられる程度だ。


 そしてリーパーの攻撃を何とかしようと、駄々っ子の様に手を振り回すコヨミだが……その拳が、意外にもリーパーの良い所に突き刺さった。

「うっ……!?」

 まさかのクリティカルヒットが発生し、リーパーの身体が飛ばされる……ヒメノは、それが自分達の方角へと飛んで来ているのを呆然と眺めていた。

「いたた……もう、何事……って、えええぇっ!?」

 正確には、エリザの方へとリーパーは飛んで来た。そりゃあもう、結構な勢いで。


「「ぐふっ……!?」」


 リーパーと、激突されたエリザは……揃って、地面を転がっていった。先程までの緊迫感が薄れ、ヒメノは呆然とする事しか出来ないでいる。

「あぁっ、ヒメノさん!? 大丈夫ですか!?」

 偶然にもリーパーを殴り飛ばす事に成功したコヨミが、慌ててヒメノに駆け寄った。走りながら取り出したポーションで、ヒメノの麻痺状態をすぐに解除する。

「な、何かわかんないけど、結果オーライですね!!」

「……コヨミさんって、凄いですね」

 ここ一番という所で発揮された、コヨミのリアルラック。それに感謝しつつ、ヒメノは側に落ちていたコヨミの大太刀を手に取る。それを手渡しながら、ヒメノはコヨミに微笑み掛けてお礼を口にした。

「助かりました、ありがとうございます!!」

「いえいえ、ラッキーでした!!」

 本当にね。


「ご、ごめん!! まさか、こんなに吹っ飛ばされるなんて……!!」

「ドンマイ、そんな日もあるわよ!!」

 罵倒しても良さそうなものだが、エリザはリーパーに優しい言葉を投げ掛けた。彼女も根っこの部分は良い人なのだろう、PKerではあるのだが。

 そこへ、戦槌を手にした男が歩み寄った。スキンヘッドに厳つい顔をした、大柄な男だ。

「大丈夫か、めっちゃ飛んでたな」

 その男の背後では、ヒナが地面に倒れ伏していた。ピクリとも動かない彼女の頭上には、ゲージが徐々に減り……そして、たった今ゼロに到達したHPバーが表示されていた。


「ヒナちゃん……っ!!」

「急いで、回復を……!!」

 ヒメノとコヨミが、すぐにでもヒナに駆け寄ろうと一歩を踏み出す。しかし、二人の前に立ち塞がる三人のPKer達。

「行かせはせんさ。彼女は非常に厄介なPACパックだからな……」

 強面の男はそう言って、戦槌を構える。しかし、その口から放たれた次の言葉はどことなく穏やかさを感じさせた。

「いい相棒を得たな、羨ましいもんだ……まぁ、PKerの俺達はPACパック契約が出来ないんだがな」

 やっぱり、この人も根は良い人かよ。


「……押し通らせて貰います」

 ヒナと自分を遮るならば、容赦は要らない。ヒメノは珍しく目の端を吊り上げて……両手を前に突き出した。

「……? 何だ、そのポーズは……」

「ん……? 待った、そのポーズって……」

「え?……ハッ!? と、止めるわよ!!」

 ヒメノの取ったポーズの意味を理解した三人は、ヒメノを止めようと慌てて駆け出す。しかし今度は、コヨミが彼等の前に立ち塞がった。

「邪魔はぁっ!! させませんけどっ!?」


 ヒメノは弓刀を持つ左手を前に、そして右手を後ろに移動させる。それは、弓の弦を引く様な動作だ。そして握り締めた右手をパッと開いたヒメノは、そのスキル名を高らかに宣言する。

「【変身】!!」

 ジンがそうする時と同じ様に、右手を振り上げ……そして、地面に振り降ろす。その直後、ヒメノの全身を赤い炎が覆い隠した。炎の中で、ひと際激しい炎が周囲を照らし……それは二度、三度と続く。その輝きは、八度続いた。

 そうしてヒメノは、右手で勢い良く炎を薙ぎ払い……初めて、衆目の前にその姿を晒した。


「【八岐大蛇】のヒメノ……参ります!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ヒメノ】Lv60

■所属ギルド

 【七色の橋】

■ステータス

 【HP】 168≪+275≫(合計443)

 【MP】  69≪+275≫(合計344)

 【STR】133【140%】≪+60≫(合計489)

 【VIT】 10【-50%】≪+60≫(合計 65)

 【AGI】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)

 【DEX】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)

 【INT】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)

 【MND】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)

 【LUK】 10【-50%】≪+60≫(合計 65)

■スキルスロット(6/6)

 【弓の心得Lv10】【刀剣の心得Lv10】【狙撃の心得Lv10】

 【八岐大蛇Lv10】【鞭の心得Lv7】【砲撃の心得Lv5】

■拡張スキルスロット(5/5)

 【ゴーストハンド】【採掘の心得Lv4】【クイックドロウ】【クイックチェンジ】

 【変身】

■武器

 両手武器 弓刀≪大蛇丸・参≫STR+110【破壊不能】

■予備装備

 ≪四門大砲・桜吹雪≫固定ダメージ50×4【軽量】

■防具

 一式装備≪戦衣・桜花爛漫+10≫全ステータス+60【破壊不能】【縮地】

 鞄≪大商人のポーチ≫収納上限1000

■装飾品(5/5)

 首元≪八岐の飾り布・参≫HP+60、MP+60、【破壊不能】

 頭部≪ユージンの付け髪+10≫HP+200、MP+200

 腰部≪覇者の矢筒+10≫DEX+20、装填上限100

 頭部≪ジンの髪飾り・咲+10≫AGI+20、HP+15、MP+15【HP自動回復(中)】

 胸元≪レンの首飾り・咲+10≫INT+20、MND+20

■結婚指輪

 ≪ヒメノとジンの結婚指輪≫【比翼連理】

次回投稿予定日:2022/10/15(観戦者視点)


新生【漆黒の旅団】は、【暗黒の使徒】とは違ったスタイルの真っ当(?)なPKer達でした。

実はこの展開、彼等を出した当初から練っていた展開となっておりました。

そのせいで、ディグル達は徹底的に嫌な奴になって貰っています。


そしてコヨミのラッキー体質が、ここでも炸裂。全登場人物の中でも、トップクラスのラッキーガールです。

しかしながら、最後に美味しい所を持って行くヒメノ。メインヒロインは伊達じゃありません。

前章の序盤にヒメノのステータスを載せていましたが、【???】にしていたのはコレでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ディグル君にはこの一連の会話を聞いて憤死して頂きたくw ラッキーガールといい、先代が狙った相手と言い、漆黒はPKの代償として不運でもついてるのだろうかw オールレンジ高火力に変身は、相手…
[良い点] PvPを正しく理解している 奴等は 強敵だ 油断めさるな 忍♡姫 [気になる点] リアルラック あれ何?  理解不能 理解不能 [一言] 過去の大会にて 並び立つ者達 そして 今回 …
[一言] ラッキー=どんな軍師も読めない展開を引き起こす特大の爆弾だなぁ… そして、ヒメノちゃん変身! 夫婦で変身できるようにw
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