15-16 【七色の橋】VS【漆黒の旅団】
【七色の橋】の拠点防衛班の前に現れた、六人の男女。彼等はかつてハヤテとアイネを襲い、ジン達によって壊滅させられたPKギルド【漆黒の旅団】のメンバーだった。
ジンとヒメノはその時の戦いに参加しており、彼等がどんな手合いの輩か覚えていた。
【漆黒の旅団】は当時、加入間もなかったハヤテとアイネを狙ったのだ。
それも大人数で待ち伏せし、甚振り、狩ろうとしていた。しかもその目的は、イベント上位になったジン達に向けた見せしめだったのだ。
幸いな事にジン達の救援が間一髪で間に合い、襲撃犯は全員殲滅する事が出来たが……決して良い記憶では無いのは、間違いない。
だからジンとヒメノは、緊張感を滲ませて臨戦態勢を取る。
「六人だけ……でゴザルか?」
まだ、どこかに仲間が隠れ潜んでいる……そして、自分達を襲おうとしているのではないか? そう考えたジンは、カマをかけてそう告げる。
そんなジンに、代表格であろう男がニヤリと笑った。
「警戒しているねェ……ま、無理もねーな」
くつくつと笑いながら、男は肩をすくめる。男の頭上には赤カーソルと共に、【GRAVE】というアバターネームが表示されていた。
日本語に訳すと”墓”を意味する単語であり、不吉なイメージを纏っている。とはいえ、PKerらしいといえばらしい名前なのかもしれない。
「まぁ安心しな。俺等は正真正銘、六人で来た……お前等への返礼の為によ」
返礼……それは【漆黒の旅団】を壊滅させた事に対する、仕返しなのだろう。ジンとヒメノの緊張感は、更に高まっていく。
しかし、彼の次の言葉は予想外だった。
「あんがとよ、あのクソッタレどもをブッ潰してくれて。お陰でギルドはそのまま、俺等が乗っとれたんだ。感謝してるぜ、お前等にはさ」
「「……はい?」」
思わず、呆気にとられるジンとヒメノ。そんな二人の様子に、グレイヴは更に愉快そうな表情を浮かべる。見れば、他の五人も似た様な表情だった。
困惑するジンとヒメノに、グレイヴはやけにサッパリした表情で言葉を続ける。
「俺等は確かに、PKerさ。それは事実だし、いい子ぶるつもりなんざねェ。でもな、節度ってモンは必要だ……そうだろう?」
ジンは思わず、それを自分に言われても? という表情になる。しかし彼はそれに気付いているのか、いないのか……楽しそうに続きを口にした。
「前のギルドの大多数は、ハッキリ言うと”弱者を狙って甚振るゴミクズ”の集まりだったんだよ。PKの美学ってモンを、全く解っちゃいねェ連中さ」
PKの美学……という言葉が出ると、他の男女がウンウンと頷いた。
「……え、えぇと……つまり、どういう事だってばよ?」
困惑しているのか、ジンのキャラが迷子になった。確かに忍者で九尾だけど、それ以上はいけない。
すると控えていた面々も、グレイヴに続いて話し始めた。
「かつての【旅団】は、ただ暴力を楽しむ……そういうギルドだったわ。ギルドマスターを務めていたディグルが、そういう人間だったもの」
「でもよ、最初の頃はもっと違ったんだぜ?」
「そうそう。行動パターンが決まり切ったモンス狩りじゃ、満足できねェ……だからこそ、俺等はPvPを求めたのさ」
「でもそれをやるには、決闘専門のスタイルか……もしくは、PKerになるかの二択になるでしょう?」
「ルールに縛られた決闘じゃ、満足できない……私達は、そういうタイプだったの」
やけに饒舌に、語り掛けて来る【漆黒の旅団】の面々。しかも表情を見るに、フレンドリーな感じで。かつての【漆黒の旅団】とは確かに違うが、不気味なのは間違いない。
「えぇと、つまりは”自由にPvPがしたいから、PKerを選んだ”……という事ですか?」
コヨミが片手を挙げてそう問い掛けると、代表格の男が指をパチンと鳴らして喜色を浮かべる。
「そういう事だ、お嬢ちゃん。ヒリ付くような、プレイヤーとの駆け引き……それは相手が強ければ強い程、燃えて来る。それこそ、PvPの醍醐味だ」
”強ければ強い程”の部分で、グレイヴはジンに視線を向ける。つまり、彼は強い相手と本気で勝負がしたい……という、殺人者というよりは戦闘狂の部類らしい。
「格下相手に暴れて悦に浸っていた、無能なトップとその取り巻き……そいつらは、お前等が潰してくれた。感謝してるぜ、【七色の橋】」
「え、でも……PKはするんですよね?」
ヒメノがそう言うと、グレイヴ達は「そりゃあな」と首肯する。
「俺等は本気のPvPがしてェ、だから決闘システムみたいなノーリスクの戦いじゃ満足できねェのさ。【暗黒の使徒】との違いはそこかね。お互いに負けたくない、だから本気で殺し合う。それこそ、PvPの面白れェ所だ」
「……はぁ」
「あのカス共みてぇに、弱いヤツを狙うのはクソダセェ。それに大人数で囲んで、数の暴力でKILLするのも恰好悪ィ。だろう?」
「まぁ……確かに、格好良くは無いと思います」
思わず素直に頷くヒメノに、グレイヴは「だよなぁ?」と笑う。
すると、我が意を得たりとばかりに他のプレイヤー達も話し始める。
「ヤるなら、やっぱ同格か格上だろ!」
「条件はイーブンの方が良いし、不意を突くのは雑魚のやり方よねー」
「そうそう。正面から戦いを挑んで、ブッ倒せばそれで勝ちだかんな」
「あー……まぁ戦利品としてドロップ品は貰うが、それ目当ては……なぁ?」
「あぁ。ドロップ目当てで殺るのは、強盗だもんなァ」
今まで遭遇して来たPKer達とは毛色が異なる面々に、ジン達は困惑しきりである。
「っと、そういや名乗って無かったな? まぁ、頭の上の表示で解るだろうけど」
「……グレイヴ殿、で宜しいか?」
ジンがそう言うと、グレイヴは笑って首を横に振る。
「呼び捨てにしとけよ、忍者。俺みたいなPKerに、敬称なんぞ必要ねェさ」
そう言って、グレイヴは背中に背負った剣を抜いた。
「先代ギルマス……つまりディグルのアホが、お前等の情報を送って来てな。多分、お前等への復讐目的なんだろうが……逆にこの戦いは、俺等にとっては再出発になるバトルにさせて貰うぜ」
イーブンな条件で戦う……その為に、彼等は六人で来たのだろう。ジン達と、人数を合わせる為に。最も、コンは一人ではなく一匹なのだけが。
ともあれグレイヴに続き、他の五人も武器を構える。滲み出る強者の雰囲気は、これまで戦って来た中小規模のギルドとは一線を画している。それはジンやヒメノ、そしてコヨミにも感じ取れる程だ。
「クソッタレなゴミクズ集団の【旅団】は、壊滅してもう無ェ。俺等は最高にスリリングなPvPがしたいだけの、イカレたギルドだ。さぁ、アンタらは俺等の挑戦を受けるかい?」
期待の篭った視線を向けられ、ジンは一つ頷くと姿勢を低くして小太刀を構えた。ヒメノとコヨミも、同様に己の得物を手に体勢を整えている。
「どのみち、このイベントはPvPイベント……望み通り、戦う事に異は唱えぬでゴザル」
「そうかい、あんがとよ。じゃあお喋りもそこそこにして、始めっか」
そこで言葉を切って、グレイヴは剣を構え……そして、駆け出した。
「殺り合おうぜ、【七色の橋】!!」
その声と姿は、ジンのすぐ目前。ほんの一瞬で、グレイヴは距離を詰めて接近して来たのだ。
——速い……!!
とはいえ、戦闘に対する備えは出来ていた。そしてAGIに関しては、誰にも遅れを取りはしない。ジンはその俊敏性を駆使し、グレイヴが振るった剣を避けてみせた。
「流石だ!! そうでなくちゃあなぁ!!」
先程までとは違い、グレイヴは戦意を剥き出しにして笑っていた。ジンを捉えた視線は険しく、一挙一投足を見逃すまいとギラついている。
だが、次の瞬間……グレイヴの視線が一瞬、コヨミに向けられた。
——この男、タイミングさえ合えば他のメンバーにも……!!
グレイヴに、付け入る隙を見せてはならない。直感でそう判断したジンは、全力疾走でグレイヴを倒す決意を固める。
ヒメノ達に他のPKerを任せる事になってしまうが、グレイヴは優先して倒すか……あるいは、足止めしなくてはならないから。
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「こっちも行くわよぉ!」
「楽しませてくれよ、お嬢さん方!」
「行くぜぇ!!」
他のPKer達も、グレイヴに続いて駆け出した。彼程速くはないが、それでも並のプレイヤーよりは速さに重きを置いている様だ。
——私のAGIだと、捉えられないかも……!!
そう判断しつつ、ヒメノは攻撃して来る面々に集中する。可憐な外見とは裏腹に、彼女も歴戦の猛者なのだ。
自分の方へ女性が一人、その後ろから男性二人が迫っている。コヨミとコンの方へは、男女の二人組が向かった。
後ろから女性を追って走る男性二人は、リンとヒナを狙うのか……それとも、そのまま自分を狙って追撃するのか。
ともあれ、相手のペースに呑まれてはならない。逆にこちらのペースに引き込むのが、PvPの常套戦術だ。
「【炎蛇】!!」
弓刀の切っ先を迫り来るPKerに向け、魔技を発動。直進する彼等の進路を塞ぐ事で、その動きを止めようと試みる。
しかし先頭を走る女性はニヤリと笑い、そのまま【炎蛇】に突っ込んでいった。
「INTはそこまで高くないんでしょ、お姫様ッ!!」
確かにヒメノのINTは85と、STRと比較すると低い。MNDにポイントを盛ったビルドのプレイヤーならば、容易く耐えられるだろう。
そうして、PKer……戦鎌を持つ女性【エリザ】が、ヒメノに迫る。
「させるとでも?」
そこに駆け込んだのは、黒髪の女性。両手の小太刀を振るい、エリザに斬り掛かった。
「あらっ……くノ一ちゃん!! 流石に速いわね!!」
しかしPACの援護も、エリザ達は予想していた。
「じゃあ、よろしくっ!!」
エリザは強引にヒメノへと向けて駆け抜け、後方から追走していた男性二人組がリンに対して斬り掛かる。
一方コヨミは、迫る相手二人が只者ではないと判断してコンに声を掛ける。
「コンちゃん、牽制したら私を下ろしてね! 多分、呑気に背中に乗ってたらすぐやられちゃう!」
「コンッ!!(わかった!!)」
コヨミの指示を受け、コンは魔技を発動させる。使用したのは、ジンと同じ【狐火】だ。
「キツネ型モンスターが、魔法!?」
「テイムしたのか……? ホント、面白れぇヤツらだぜ!!」
コンの【狐火】を避けた二人は、構え直してコヨミとコンに再度駆け出す。その隙にコヨミはコンの背から降りて、大太刀を構えて迎え撃つ体勢を取る。
「確か、あの子は配信者をやっている子よ。突き抜けた所は無かったはずだけど……油断するんじゃないわよ?」
「相手を侮るなんざ、素人のやる事だろ」
お互いに聞こえる程度の声量で、声を掛け合う二人。すぐに彼等はコヨミとコンを射程内に捉え、攻撃に移る。
「悪く思わないでね!!」
コヨミの大太刀は、見た目からも大剣と同種の武器だと判断出来る。故に女性……短剣使いの【リーパー】は、コヨミの動きに注視しながら懐へ潜り込むべく踏み込んだ。
「えいっ」
そんなリーパーに対し、コヨミは手にした大太刀を地面に突き刺すという行動に出た。それはリーパーが踏み込んだ、目と鼻の先。彼女は思わず、衝突を避けようと速度を緩めてしまう。
だが、コヨミの戦術はここからが本番である。
「【ハイジャンプ】!!」
突き刺した大太刀を握ったまま、コヨミは武技を発動して跳躍。そのまま空中で体勢を整えると、両手で大太刀を振り被った。
「【一閃】!!」
振り降ろすと同時に、【一閃】を発動させるコヨミ。その刃の向かう先には、リーパーの後に続いていた青年【グリム】が居た。
「あ……ぶねっ!!」
慌てて急停止し、バックステップで後退するグリム。しかしコヨミの【一閃】がわずかに掠り、HPが減少してしまう。
――ヘェ……【七色】におんぶに抱っこの新人かと思ったら、意外と削ってくれるじゃねーの!!
コヨミは前衛で、STRとVITを重視しているビルドとなっている。そこへ【七色の橋】から贈られた高性能な装備が加わり、ステータスも大幅に強化されている。
更にゲスト参加が決定してから、コヨミは【七色の橋】と共に第四回イベント対策に明け暮れていた。その内容は、ひたすらに特訓である……それも、【七色の橋】のメンバーやユージン・リリィと共に。
お陰で今のコヨミは、トップランカー級のプレイヤー……とはいかずとも、最前線クラスに近いプレイヤーと言って良い実力を身に付けている。【七色の橋】にぶら下がっているだけのプレイヤーなどでは、断じてないのだ。
「やるじゃないっ!!」
リーパーが攻撃後のコヨミに接近するが、コヨミはそれに冷静に対処する。ぶっちゃけ、特訓した際のジンによる追撃の方が怖かったのだ。比較対象がエグいのは、仕方のない事である。
「そこっ!!」
片手で大太刀を振るえば、リーパーの脇腹の位置へと迫る。リーパーはそれを察し、避けようとするが……。
「【一閃】!!」
大太刀を振るう最中に、【一閃】を発動させるコヨミ。迫る大太刀の速度が、その瞬間加速した。リーパーはその変化に対応し切れず、モロに大太刀の一撃を喰らってしまう。
「ヘッ……楽しませてくれるじゃないか!!」
グリムは、コヨミがリーパーに集中している隙を突こうと動いた。必要最小限の動きを、物音を立てぬ様に。相手の警戒が緩んでいるタイミングこそ、彼等の本領を発揮する絶好の機会なのである。
しかしながら、それも二対一の場合。今、彼等は二対一ではなく二対二……正確に言うならば、二人対一人と一匹である。
「コンッ!!(【狐雷】!!)」
グリムの背中に爪を突き立てると同時に、魔技を発動させるコン。グリムの全身に電撃が迸り、麻痺状態に陥ってしまう。
「ぬぁ……っ!? この、狐……ッ!!」
……
「【セイクリッドスフィア】!!」
ヒメノの援護をしようと、彼女のPACであるヒナは防御と回復を同時に行える魔法を発動させた。そのシールドにより、ヒメノに迫っていたエリザの戦鎌を防ぐ事に成功する。
「ありがとう、ヒナちゃん!! リンちゃん、あっちの二人は……」
「注意を引き付けるのは、お任せを」
クールにそう告げて、リンは姿勢を低くしながら疾走する。その背を見送ったヒメノは、エリザを狙い矢をつがえた。
「そんなに悠長に狙っても、当たってなんてあげないわよ?」
「それはどうでしょう? 【縮地】!!」
ヒメノが発動させたのは、本日初の四神スキル。白虎の素早さを武装スキルに変えた、四度のみの瞬間移動技である。
「な……っ!?」
ヒメノが転移したのは、エリザの左側。そしてヒメノは、必殺の矢を放つ。
「なんてね?」
それは、ヒメノが矢を放つ直前。エリザは片足で立ち、逆の足を延ばしてバランスを取る。同時に手首を巧みに動かして、手にした戦鎌をヒメノに向けて振るってみせた。
上体を低く沈ませる体勢で、ヒメノの矢を避けたエリザ。そして彼女の戦鎌が、ヒメノの胸元にズブリと突き刺さった。
「!?」
「あなたに転移技があるのは、第二回イベントで予習済み。私も同じ状況なら、その戦術を取るでしょうね……羨ましいスキルだわ」
痛みは無くとも、刺された事による不快感は感じられる。その感触に表情を歪めながらも、ヒメノはエリザと距離を取るべく身体に力を込め……自分の身体が動かない事に気が付いた。
――麻痺効果!!
ヒメノはすぐに、原因が状態異常によるものだと察した。しかしながら、アイテムを取り出そうにも身体が動かずそれは敵わない。
しかし、ヒメノには頼りになるPACが居る。ヒナのスキルならば、この状態異常をすぐに解除できる……そう思い、自分の相棒に視線を向ける。
そこにあったのは、杖を構えてヒメノを見るヒナと……彼女が張った【セイクリッドスフィア】のシールドを、戦槌で砕くPKerの姿。
「ヒナちゃん!!」
ヒナは自分を回復しようと、魔法詠唱に入っていた。シールドの中に居る限り、安全だと判断したのだろう。しかし、そのシールドは砕かれて……ヒナに迫るPKerの戦槌が、彼女の身体を強かに打ち付けた。
強い衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がるヒナ。自分とうり二つのその姿に、ヒメノはこの後に待ち受ける未来を察して言葉を失う。
絶句しているヒメノに対し、エリザは優し気な声色で話し掛けた。とはいっても、その内容は決して優しくなど無い。
「ゴメンだけど、そういうルールだからね。悪く思っても構わないわよ」
そう言って、エリザはもう一度ヒメノの身体を斬り付けた。HPがガクンと減り、麻痺効果も延長される。
「甚振って悦に入るなんて、低俗な趣味は持ってないから安心して。すぐに終わりにするから」
あと一撃喰らえば、ヒメノのHPはゼロになる。それはエリザも理解しており、早々にケリを付けようと戦鎌を振り被っていた。
「これで……」
「ああぁっ!! すっぽ抜けたぁ!!」
「え……きゃあぁっ!?」
あらぬ方向から飛んで来たのは、大太刀。それがエリザの側頭部に当たり、彼女の攻撃が止まった。
そして、先程の声……それが誰の声なのかは、言わずもがな。この場に、大太刀を持っているプレイヤーは彼女しか居ない。
「コヨミさん……!?」
視線を向けると、そこには大太刀を手放してアワアワしているコヨミの姿があった。その眼前に居るリーパーは、それを好機とコヨミに迫っている。
「武器を手放すなんて、まだまだね!!」
「うわあぁん、ごもっともです~っ!!」
短剣を振るうリーパーの攻撃で、コヨミのHPが減る。しかし彼女はそれなりにVITがあるので、まだ耐えられる程度だ。
そしてリーパーの攻撃を何とかしようと、駄々っ子の様に手を振り回すコヨミだが……その拳が、意外にもリーパーの良い所に突き刺さった。
「うっ……!?」
まさかのクリティカルヒットが発生し、リーパーの身体が飛ばされる……ヒメノは、それが自分達の方角へと飛んで来ているのを呆然と眺めていた。
「いたた……もう、何事……って、えええぇっ!?」
正確には、エリザの方へとリーパーは飛んで来た。そりゃあもう、結構な勢いで。
「「ぐふっ……!?」」
リーパーと、激突されたエリザは……揃って、地面を転がっていった。先程までの緊迫感が薄れ、ヒメノは呆然とする事しか出来ないでいる。
「あぁっ、ヒメノさん!? 大丈夫ですか!?」
偶然にもリーパーを殴り飛ばす事に成功したコヨミが、慌ててヒメノに駆け寄った。走りながら取り出したポーションで、ヒメノの麻痺状態をすぐに解除する。
「な、何かわかんないけど、結果オーライですね!!」
「……コヨミさんって、凄いですね」
ここ一番という所で発揮された、コヨミのリアルラック。それに感謝しつつ、ヒメノは側に落ちていたコヨミの大太刀を手に取る。それを手渡しながら、ヒメノはコヨミに微笑み掛けてお礼を口にした。
「助かりました、ありがとうございます!!」
「いえいえ、ラッキーでした!!」
本当にね。
「ご、ごめん!! まさか、こんなに吹っ飛ばされるなんて……!!」
「ドンマイ、そんな日もあるわよ!!」
罵倒しても良さそうなものだが、エリザはリーパーに優しい言葉を投げ掛けた。彼女も根っこの部分は良い人なのだろう、PKerではあるのだが。
そこへ、戦槌を手にした男が歩み寄った。スキンヘッドに厳つい顔をした、大柄な男だ。
「大丈夫か、めっちゃ飛んでたな」
その男の背後では、ヒナが地面に倒れ伏していた。ピクリとも動かない彼女の頭上には、ゲージが徐々に減り……そして、たった今ゼロに到達したHPバーが表示されていた。
「ヒナちゃん……っ!!」
「急いで、回復を……!!」
ヒメノとコヨミが、すぐにでもヒナに駆け寄ろうと一歩を踏み出す。しかし、二人の前に立ち塞がる三人のPKer達。
「行かせはせんさ。彼女は非常に厄介なPACだからな……」
強面の男はそう言って、戦槌を構える。しかし、その口から放たれた次の言葉はどことなく穏やかさを感じさせた。
「いい相棒を得たな、羨ましいもんだ……まぁ、PKerの俺達はPAC契約が出来ないんだがな」
やっぱり、この人も根は良い人かよ。
「……押し通らせて貰います」
ヒナと自分を遮るならば、容赦は要らない。ヒメノは珍しく目の端を吊り上げて……両手を前に突き出した。
「……? 何だ、そのポーズは……」
「ん……? 待った、そのポーズって……」
「え?……ハッ!? と、止めるわよ!!」
ヒメノの取ったポーズの意味を理解した三人は、ヒメノを止めようと慌てて駆け出す。しかし今度は、コヨミが彼等の前に立ち塞がった。
「邪魔はぁっ!! させませんけどっ!?」
ヒメノは弓刀を持つ左手を前に、そして右手を後ろに移動させる。それは、弓の弦を引く様な動作だ。そして握り締めた右手をパッと開いたヒメノは、そのスキル名を高らかに宣言する。
「【変身】!!」
ジンがそうする時と同じ様に、右手を振り上げ……そして、地面に振り降ろす。その直後、ヒメノの全身を赤い炎が覆い隠した。炎の中で、ひと際激しい炎が周囲を照らし……それは二度、三度と続く。その輝きは、八度続いた。
そうしてヒメノは、右手で勢い良く炎を薙ぎ払い……初めて、衆目の前にその姿を晒した。
「【八岐大蛇】のヒメノ……参ります!!」
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■プレイヤーネーム/レベル
【ヒメノ】Lv60
■所属ギルド
【七色の橋】
■ステータス
【HP】 168≪+275≫(合計443)
【MP】 69≪+275≫(合計344)
【STR】133【140%】≪+60≫(合計489)
【VIT】 10【-50%】≪+60≫(合計 65)
【AGI】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【DEX】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【INT】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【MND】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【LUK】 10【-50%】≪+60≫(合計 65)
■スキルスロット(6/6)
【弓の心得Lv10】【刀剣の心得Lv10】【狙撃の心得Lv10】
【八岐大蛇Lv10】【鞭の心得Lv7】【砲撃の心得Lv5】
■拡張スキルスロット(5/5)
【ゴーストハンド】【採掘の心得Lv4】【クイックドロウ】【クイックチェンジ】
【変身】
■武器
両手武器 弓刀≪大蛇丸・参≫STR+110【破壊不能】
■予備装備
≪四門大砲・桜吹雪≫固定ダメージ50×4【軽量】
■防具
一式装備≪戦衣・桜花爛漫+10≫全ステータス+60【破壊不能】【縮地】
鞄≪大商人のポーチ≫収納上限1000
■装飾品(5/5)
首元≪八岐の飾り布・参≫HP+60、MP+60、【破壊不能】
頭部≪ユージンの付け髪+10≫HP+200、MP+200
腰部≪覇者の矢筒+10≫DEX+20、装填上限100
頭部≪ジンの髪飾り・咲+10≫AGI+20、HP+15、MP+15【HP自動回復(中)】
胸元≪レンの首飾り・咲+10≫INT+20、MND+20
■結婚指輪
≪ヒメノとジンの結婚指輪≫【比翼連理】
次回投稿予定日:2022/10/15(観戦者視点)
新生【漆黒の旅団】は、【暗黒の使徒】とは違ったスタイルの真っ当(?)なPKer達でした。
実はこの展開、彼等を出した当初から練っていた展開となっておりました。
そのせいで、ディグル達は徹底的に嫌な奴になって貰っています。
そしてコヨミのラッキー体質が、ここでも炸裂。全登場人物の中でも、トップクラスのラッキーガールです。
しかしながら、最後に美味しい所を持って行くヒメノ。メインヒロインは伊達じゃありません。
前章の序盤にヒメノのステータスを載せていましたが、【???】にしていたのはコレでした。




