15-14 昼時になりました
第四回イベントが、二日目を迎えて折り返し……太陽が最も高い位置に昇る、正午の頃合いとなった。現実で言えば、昼時である。そんな時間帯ともなると、休息を挟むギルドが増えていた。
拠点襲撃作戦を実行中の【七色の橋】も、各々がおにぎりを口にしつつ一息吐いていた。
そこでハヤテから齎された情報……【魔弾の射手】との戦いで戦闘不能になり、拠点にリスポーンしたという報告。この事態に、大半のメンバーが驚きを隠せずにいた。
彼はVRMMOに慣れており、銃の扱いにも長けている。更にはユニークスキルとユニークアイテムを備え、このゲーム内でトップクラスの銃使いと目されているプレイヤーだ。
そんな彼が敗北したという事実に、多くのメンバー……特に中途加入組と、ゲストメンバーであるコヨミは驚愕していた。
さて、当のハヤテだが。
「いや、俺の勘違いか。冷静に考えたら、ありえないッスよね」
リスポーンした拠点、誰が呼んだか[風雲七色城]でそんな言葉を呟いていた。アイネとカノンはこちらに帰還している最中で、不在。ハヤテの周囲に居るのはカノンのPACであるボイドと、今イベント限定の応援者達……そして、ゲストメンバーのクベラ。つまり【魔弾の射手】との戦いで戦闘不能となり、リスポーンした面々だ。
「ハヤテ君、どないしたんや?」
独り言ちたハヤテに対し、不思議そうな表情を浮かべるクベラ。そんなクベラに苦笑を向けつつ、ハヤテは自分の感じた事を素直に口にした。
「【魔弾】と戦っている時、”まるで軍人みたいだ”なんて思ったんスけどね……」
それは、あまりにも現実味を感じさせない内容だった。なにせ、かのギルドのメンバーは大半が学生なのだ。
「ちょお待ってや、それは流石に……」
「うん、冷静になってみたら無いッスよねぇ……レーナさん達は大学生だし、メイリアさんに至ってはまだ高校生ッスし」
訝しげなクベラに対し、ハヤテもそんなはずはないと前言を撤回する。戦時中でもあるまいし、学生が軍人になるなどあり得ない。
とはいえ、そう思わせるだけの実力者。これは、間違いない。
同盟ギルドとして、これまでは肩を並べる事が多かった【魔弾の射手】。味方である場合は心強い存在だが、敵に回れば実に厄介なライバルとなる。
「あそこと正面からぶつかって勝てるのは、生半可な実力じゃダメだ。特に俺は、相性が悪かった」
「銃のアドバンテージが、生かせなかったっちゅう事やな?」
ハヤテの言わんとする事を、クベラも正確に察している。一介の商人ロールプレイヤーだった彼だが、このイベントに備えて事前準備をしっかりして来た。戦闘における知識等も、懸命に覚えたのだろう。
だが、それでも二度と負けるつもりはない。多くのVRMMOプレイヤーがそうであるように、ハヤテも実に負けず嫌いだ。
次は勝つ……その為の戦術を思案しながら、ハヤテはシステム・ウィンドウを操作する。仲間の編成、戦術の選択、使用するアイテムの準備。それらを駆使すれば、決して勝てない相手では無い……ハヤテは、そう確信していた。
「クベラさん。アイやカノンさん達と合流したら、もう一度アタック仕掛けるけど……だいじょぶ?」
「勿論や、ハヤテ君」
力強く頷くクベラに笑みを向けると、ハヤテはボイドに視線を向ける。ハヤテの視線の意味を察したボイドは、クワッ!! と目を見開きながら力強く頷いてみせた。眼力、つよい。
「私に戦う力はありませんが、全力でサポートします。存分に戦って下さい」
顔は厳ついが、気配りが上手く穏やかな性格。それが鍛冶職人PACのボイドだ。ハヤテはニッと笑って、ボイドの肩を叩く。
「サンキューッス! 応援者の皆も、よろしく頼むッスよ!!」
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一方、拠点北側に向けて進軍を続けるヒビキ率いるチーム。こちらも現在、おにぎりを口にしながら現状把握をしている所だった。
「午前中だけで、結構な数のギルドを落としましたね。この分だと、ポイントもかなり稼げていそうです」
「ガッポガッポだね!」
真剣な表情のヒビキの横で、快活に笑うセンヤ。そんな二人の様子を見ながら、微笑んでいるのはユージンである。
「あぁ、中々の成果だね」
当然ユージンはアロハ装備ではなく、ユニーク装備を身に纏っての参戦。ユアンモードである。
「うーん、ユージンさんがその装備の時はやっぱりまだ違和感」
そう言いながら、システム・ウィンドウを操作するのはミモリだ。彼女はこのメンバーのサポート役に徹しているが、ヒビキとセンヤが前線を引っ掻き回すお陰で無傷である。
しかし、内心では昨日の出来事……拠点での防衛戦で、侵入したプレイヤーに敗れた事が脳裏にこびり付いている。
――皆は何も言わないけれど……私は戦力としては微妙な所なのよね……。
運動神経があまり良くないので、唯一得意としている投擲戦術で仲間のサポートをする。それが、今までのミモリのスタイルだった。
しかし、それが通用するのは強力な仲間が居るからこそ。トップクラスのプレイヤーと一緒だから、うまくいっていただけなのである。
逆に、成長著しいのは中途加入メンバーだ。
ヒビキとセンヤは、それぞれが前衛として急成長を遂げた。複数のギルドが入り乱れた襲撃ですら、コンビネーションと的確な判断で勝ち抜いてみせたのである。
ネオンもまた、魔法職としての役割についてしっかりと学んでいた。レンの様な突き抜けた性能ではないが、魔法職の中では上位に着々と近付いている。
マキナに至っては、対人戦に対する恐怖心を克服しつつある。大規模PKやカイトとの決着が、彼に自信を付けさせているのは間違いないだろう。
後から加入したメンバーが、より強く逞しく育っていく。そんな仲間達に対して、自分は投擲と調合以外の取り柄がない。こういったイベントでは、皆の役に立てていない。そんな暗い思いが、心を翳らせていく。
皆に置いて行かれる……そんな、不安と恐怖がある。それは嫌だと、焦りを覚える。
笑顔の裏に隠した不安は、時間が経つにつれてどんどん大きくなっていく。
――カノンの様に、もっと何か……自分の持ち味を、見つけないと……。
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その頃、拠点の西側に向かったマキナ・ネオン。同行するのは、リリィだ。
彼等は既に【Fabulous Division】と【スライムスレイヤー】、【暇を持て余した我々の遊び】を陥落させた後である。現在は、【サンシャイン】の拠点に向けて移動している最中であった。
「リリィさんのお陰で、ほぼ万全の状態ですね」
「ですね。お陰で、思い切り戦える」
ネオンとマキナがそう言うと、リリィは照れ笑いして首を横に振る。
「お二人と、応援者の皆さんのお陰でもありますよ? 戦闘中も守って貰っていますし、お互い様です」
リリィの【魔楽器・笛】と、演奏する事でバフ・デバフを発動させる【魔楽器の心得】。同時に周囲のプレイヤーのHPを回復し、状態異常を回復するスキル【癒やしの旋律】。
この組み合わせは、実は相乗効果を生む。魔楽器を所持し、この二つのスキルをスロットに入れて【癒やしの旋律】を使用した場合……更に、一定時間【物理攻撃耐性】と【魔法攻撃耐性】が付与されるのだ。
今回の様な乱戦において、この効果は非常に有用なのだった。
「それにしても、スキルとスキルの組み合わせですか……他にも、何かありそうですよね?」
「確かに。というか、【刀剣】なんかは尚更ですね」
マキナが自分の手にある≪短槍・一錬卓将≫を見て、握り締める。
「武技が【一閃】だけの、特殊な装備。こういう物程、隠された力があったりしますから」
「確かに……そうなると、一番可能性があるのはユニークシリーズでしょうか」
普及している刀は、約半分が【七色の橋】によるもの。もう約半分は、他の鍛冶プレイヤーが試行錯誤して製作した物……こちらは【刀剣】属性が付かないので、見た目だけである。
そして、残り一部がユージン製の刀。それ以外は激レアアイテムである、ユニーク装備なのだ。
その中でも、一番最初にプレイヤーの手に渡ったのが≪大狐丸≫と≪小狐丸≫。ジンが手に入れた、ユニークスキル【九尾の狐】に由来する刀である。
「ユニークシリーズ、他にはどんなものがあるんでしょうね。マキナさんも、やっぱり欲しいですか?」
ネオンが口にした言葉に、マキナは言葉を詰まらせる。欲しいという気持ちはあるが、しかしそれは出来ない相談だ。
ユニークシリーズを手に入れてしまったら……とても、勿体無い事になってしまうのだから。
「……マキナさん?」
言い淀むマキナに対して、ネオンは不思議そうな表情を浮かべる。そんな彼女の声にハッとなったマキナは、慌てて言葉を返した。
「あー、今はまだ良いかなって……いつか欲しいとは思うんですけど、そんな簡単に手に入るものではありませんから」
そんなマキナの取り繕うような態度に、ネオンは不自然さを覚える。しかしネオンは、マキナの事を信頼していた。
――何か、考えがあるのかも……なら、無理に掘り下げない方がいいよね。
言えるようになれば、彼はきっと話してくれる。不思議と、そんな確信がある。だからネオンは深く追求しない事にして、ふわりと微笑んだ。
「チャレンジする時は、私もお手伝いしますね? リリィさんも、私で良ければ声を掛けて下さい」
「ありがとうございます、ネオンさん。ふふっ……【七色】の皆さんの協力は、本当に心強いです」
不審がられなかったかと安心し、マキナは息を一つ吐く。
――たった一つしか存在しない、ユニークスキルが消える……そんな勿体事は出来ないな……。
そこでマキナは、一つのスキルオーブについて思い出す。このイベントの準備をしている際、運良く手に入れた貴重なスキルだ。
それがウルトラレアのスキルオーブで良かったと、心の底から思う。貴重ではあるが、他人に譲渡する事……そして、預ける事も可能だからだ。
そして、このスキルオーブを預けるならば……目の前で微笑む彼女しかいないだろう。
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それぞれのメンバーが各々の思いを胸にしながら、行動を続けている中。【七色の橋】を束ねる二人組&メイドトリオもまた、次の攻撃対象を求めて移動していた。
その行軍速度は、作戦開始当初から然程衰えてはいない。
部隊を率いる、ヒイロとレン。そして二人のサポートを的確に行い、全体に気を配るシオン。この三人の手腕は、大規模ギルドにも引けを取らない。
そんな三人だが、今現在は……。
「……広まらないと良いなぁ……アレ……」
「どう……でしょう……嫌な予感がしています……」
「そもそもイベントを観戦しているプレイヤー達が、それを見聞きしている可能性はありますね」
肉体的にはほぼ無傷なのだが、精神的に強烈なダメージを受けていた。未だに、ショックが抜け切らない様子である。
理由は当然、とあるギルドによって与えられたある意味精神攻撃のせいだ。恐るべし、【闇夜之翼】。
とはいえ、それをズルズルと引き摺っているという訳でも無い。ヒイロも、レンやシオンも、意識を切り替えて次の行動に集中する事が出来るスペックの持ち主なのだ。
特に、戦闘中はそれが顕著である。これまでの激戦と辻厨ニ病に疲労感を感じつつも、戦闘が始まれば何ら問題は無い動きを見せる。身に付けた力を、遺憾なく発揮してみせるのだ。実際、あれから更に二つのギルドを攻め落としているのであった。
それに彼等は、いざという時に備えて切り札を温存している。
二日目が始まってから、ヒイロは右腕の篭手≪鬼神の右腕≫に宿る【幽鬼】をまだ使用していない。レンも【術式・符】で生み出した札を温存しているし、シオンも余力を残している。
更に第一回イベントの報酬である四神にまつわる武装スキル……これらも、未だ使用せずにいる。
無論、それは今日中に大規模ギルドや強豪ギルドとぶつかり合う可能性を考慮しての事だ。
「他の主立ったギルドの動きは、俺達の想定通りなのかな」
ポツリとヒイロが呟くと、レンはヒイロに視線を向ける。
自分達の予測が外れるのではないか? この作戦は間違っているのではないか? そんな不安に駆られているのでは……などとは、一切思っていない。
「一つか二つのギルドは、もしかしたら【七色の橋】を攻撃しようと迫っているかもしれませんよ?」
そう嘯いてみせれば、ヒイロはフッと口元を緩めた。そんなヒイロの表情に、レンは心の中で「やっぱりね」と呟いた。
「だとしたら、御愁傷様かな。拠点周辺を守っているのは、ウチの最速と最強だからね。コヨミさんも居るし」
そこまで言って、ヒイロは「でも」と続ける。
「俺達の戦術に勘付かれたら、他のギルドも何かしらの手段を講じるはず。もしかしたら、戦闘不能者も増えるかもしれない」
真剣な表情でそう告げるヒイロに、シオンも同意を示した。
「事実、ハヤテ様とクベラ様……そして、ボイドと応援者が戦闘不能になっております。可能性は、決して低くはないかと」
十分な人数を割り振って敢行した、五方向への同時進軍。しかしこの戦術は拠点防衛を必要最低限にした奇策であり、そう何度も通用するものではない。
「だから、今の内に稼げるだけ稼ごう。他のギルドよりポイントを多く稼いで、最終日にランキング圏内に入れば良い」
今回のイベントでは、ランキング上位二十位までが表彰対象となる。これまでのイベントランカーに向けた報酬を考えると、更なる力を付けられるモノが手に入る可能性が高い。
目標は高く、一位。しかし今回はそううまくいかない可能性は、大いに有り得る。
なので現実的な目標は最低でも十位……可能ならば五位以内、欲を言うなら三位内に入りたいところである。
というのもイベント報酬は四位、三位くらいから大きく変わる。
第一回では上位三名に、【PAC制作権】が与えられた。第二回では準決勝に進出すれば、≪プラチナチケット≫が贈呈される。そして第三回イベントは、四位に入れば≪魔札≫が三枚手に入れられたのである。
「はい、そうですね。で、どうしますか?」
「やれる事はほぼやっている、後は急ぐだけだね。ただし、急ぎはするけど焦りは禁物。一つずつ、丁寧にやっていこうか」
ヒイロの言葉に、レンとシオンは思わず苦笑してしまう。
確かに焦れば視野狭窄に陥り、思いもよらぬミスを起こす事は往々にして有り得る。しかし「焦らないでいこう」と言って、果たして本当に焦らず行動出来るだろうか?
だからこそ、レンは方策を尋ねる。
「では、焦らない為の対策は何ですか?」
その問い掛けに、ヒイロはニッと笑ってみせる。
「俺が最前でどっしり構えていれば、皆も少しは落ち着けるだろ?」
ギルドを率いる彼が、最前で落ち着いて戦う姿を見せる事。それは仲間に心強さと、安心感を与えるだろう。確かにギルドマスターであり、前衛職であるヒイロに出来る方策と言える。
しかし、それだけで良しとするレンではなかった。サブマスターとして、ヒイロだけにその役割を担わせるわけにはいかないのだ。
「では、私がしっかりと背中をお守りしないといけませんね」
そう言ってレンは、ヒイロの後ろに回り込んだ。そうしてヒイロの背を、その小さく美しい手で優しく押してみせる。
「ヒイロさんに何かあれば、私は取り乱してしまうかもしれませんね。ですから、不覚などとらないで下さいね?」
「ハードルを上げてくるなぁ……」
すっかり見慣れた、小悪魔の笑み。しかしこれは、レンが自分に甘えているからこそだと知っている。
――相変わらず……いえ、更に成長している仲睦まじさね。
そんな二人を見守るシオンだが、決して二人に自重しろとは言わない。何故ならこれは、互いを高め合う為の通過儀礼。この二人がこうしてじゃれているのは、今が順調であるという事に他ならないのだ。
ただ、羨ましいとは思う。彼女が想いを寄せる相手は、今回はライバルの位置付けになるのだから無理もない。
――移籍して来ないかしら、彼。いえ、無いわね……仲間を放り出す様な人じゃないもの。
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そして少数精鋭による速攻戦術の、拠点防衛部隊。ジンとヒメノ・コヨミの班はというと……食事休憩にすべく拠点に戻ろうとしていた所で、他ギルドからの襲撃を受けていた。
「はあぁぁっ!! 必殺、クリムゾン【スラッシュ】!!」
「いや、ただの【スラッシュ】でゴザルよね?」
赤を基調とした装備に身を包んだ、男性……多分だけど、青年。その攻撃を難なく躱しつつ、ジンはツッコミを入れた。
何故、そんな反応なのか? それは、相手の出で立ちがあまりにもアレな感じだからなのだ。
赤い人の攻撃を避けたジンだったが、そんな彼に追撃を仕掛ける者がいた。
「隙あり!! サファイヤ【パワーショット】!!」
「逃がさないぜ!! エメラルド【スライサー】!!」
青い人と、緑の人だった。彼等もまた、イメージカラーというかそんな感じの装備に身を包んでいる。その顔は、フルフェイスのマスクに隠れて見えない。
そう、彼等の出で立ちは某スーパーな戦隊の様なモノなのである。
彼等のギルド名は、【異世界戦隊オレンジャイ】。何だかニマニマ動画で、MADが量産されているあのコントを彷彿とさせる。
ちなみに、彼等の人数は五人では留まらない。ギルドメンバー、総勢二十五名。スパイも占有していないギルドなので、メンバー増減は無しだった。
余談なのだが、彼等がジン達と遭遇したその際に放った言葉がこれである。
「ついに見つけたぞ、不正を行った【七色の橋】!!」
「君達の野望を阻止し、真っ当な道を歩める様に更生させる!!」
「行くぞ、皆!!」
「我等、二十五人揃って!! 【異世界戦隊オレンジャイ】!!」
多過ぎるし、数の暴力がエグい。そして未だに、【七色の橋】が不正していると信じている。とても、居たたまれない。
さて、そんな彼等はジンに十五名、ヒメノとコヨミにそれぞれ五名が殺到した。
そして、こうなった。
「覚悟したまえ!!いくら君が可愛くても、我々は正義を貫き君達の過ちを止めてみせる!!」
「……えーと、私達は不正とかしてませんよ?」
「悪事を働く者は、八割方そう言うのだ!!」
「……残り二割に該当するんですよ?」
「嘘を重ねるな、ヒメノさん!! 君はまだ若い、今ならやり直せる!!」
「……えいっ」
「イエロー!! しっかりしろぉ!!」
天使と評判のヒメノ、話が全く通じないのでイラっと来たらしい。会話を諦め、さっさと戦闘不能にしてお引き取り願う事にした。イエローは犠牲となったのだ……自業自得で。
「お、おのれぇ!! 不意打ちなんて卑怯だぞ!!」
「いえ、今絶賛戦闘中ですよね? それに五対二で卑怯と言われても……」
「シャラアァップ!! バイオレット【ファイヤーボール】!!」
「【セイクリッドスフィア】!!」
「からの……【ラピッドショット】!!」
「ギニャアァァッ!!」
ヒメノ・ヒナの主従コンビは、何ら苦も無く【オレンジャイ】を退けていく。地力の違いは、歴然であった。
「ま、まてぇ!! 話せば解る!!」
「話が通じないから、仕方が無いですよね~。せいっ!!」
「ぎょわぁっ!?」
「ブ、ブルー!!」
「……青が四人くらい居るんですけどね」
「あっちはスカイブルー、そっちがネイビー、彼はマリンブルーだ」
「微妙な違い!! というか……どうでもいいので、そりゃあっ!!」
「ひでぶっ!!」
コヨミはコヨミで、大太刀を振り回して獅子奮迅の活躍を見せている。
「隙ありぃっ!!」
「しまっ……!!」
「コンッ!!」
「き、狐さnブホアァッ!!」
「コンッ!!(コヨミさんは僕が守るよ!!)」
「コンちゃん、ありがとう!! 超かっこいいよ!!」
コヨミの護衛をジンに命じられ、コンはやる気満々である。背後からコヨミを襲ったシルバーを、強烈な体当たりで吹っ飛ばしてみせた。実に頼りになる神獣である。
そしてジンと、そのPACであるリン。
「パープル【クラッシュインパクト】!! ハアァッ!!」
「……させません。【一閃】」
「ぬうぅっ!?」
「むっ、感謝するでゴザルよ、リン」
「主様ならば苦も無く避けられるでしょうが、念の為です」
「ならばそちらのくノ一から……!!」
「させると思うでゴザルか?」
「はぇ?」
何故かわざわざリンと赤い人の間に、ジンが滑り込む様に割って入る。それは、ジンの身に付けた技術とスキルを最大限に発揮出来る戦術を実行に移す為であった。
「【アサシンカウンター】……【ラピッドスライサー】!!」
「ぐわあぁっ!!」
攻撃を避けた瞬間、赤い人に向けて繰り出される怒涛の連続攻撃。その全てがクリティカルヒットとなり、赤い人のHPが瞬時に枯渇した。
「レッド!? レッドがやられたぁ!!」
「リーダーは倒せたみたいでゴザルな」
「勘違いするな、そいつはリーダーじゃない!! リーダーはピンクだ!!」
「何でッ!?」
どういう基準で構成されているのか、何が何だかわからない。そもそも、赤っぽい人も結構いるし。
「か、囲め!! 機動力を殺せば、怖れるに足らず!!」
「了解!! 行くぞ!!」
「……【狐火】」
「うあっちゃちゃちゃ!!」
「く、くそぉ!! 誘われたか!!」
「汚いな忍者流石汚い!!」
「酷い言い掛かりでゴザルな……リン! もう、一気にカタを付けるでゴザル」
「御意に」
彼等に付き合い、時間を割けば作戦に支障が出る可能性が上がる。そう判断したジンは、リンと共に全力疾走で攻める事にした様だ。
「ふっ、そう簡単に行くとでも……」
「「【超加速】」」
「えっ」
スキル発動宣言をしたジンとリンの姿が、一瞬で掻き消えた。次いで彼等の身体に、鋭い衝撃が走る。それも一箇所では無く、何箇所もだ。
「こ……これは……ッ!?」
「見え……ないっ!!」
それが斬られたからだと気付く前に、身体から力が抜けていく。そうして彼等が地面に倒れ伏して、ようやくジンとリンが足を止めた。
「よし、殲滅完了」
「奥方様とヒナ、コヨミ様とコンも終わったようですね」
紫色のマフラーを風に靡かせて立つ、二人の姿。正に忍者とくノ一らしい立ち姿に、ピンクの人(♂)は目を奪われた。
「く……良いだろう!! ここは潔く、敗北を受け入れよう……!!」
その圧倒的な存在感の前では、流石のピンクも目を伏せて己の力が及ばなかったことを受け入れるしかなかった。何が流石なのかは解らないが、多分だけど流石のピンクなのだろう。
「だが、我々はまだ二回の復活を残している!! この意味が解るか!?」
ヒーローっぽい外見をしながら、某カリスマ的な悪役のごとき物言いをするピンク。キャラクター性は、大事にして欲しい所である。
「忘れるな、次こそはお前達を……ってあれ?」
しかしジンとリンは、既にヒメノ達と合流して去って行く所だった。聞いて欲しかった、このセリフ。
「ま、まてえぇい!!」
ピンクが思わず声を張り上げると、ジン達は足を止めて振り返った。
「何でゴザルか?」
わざわざ、小走りで駆けて来てくれるジン。その反応に、「あ、話を聞いてくれるの?」とピンクは口元が緩みそうになる。多分、日頃から話を聞いて貰える機会に恵まれていないのだろう。
「あー、えーと、次は勝つ!!」
「ふむ……了解したでゴザル、次も真っ向からお相手致す。最も、拙者達とて負ける気は無いでゴザル」
再戦を希望したら、快く受け入れられてしまった。ピンク(38)、不覚にも胸キュン。
「良いだろう、次は私達の本当のちk……」
そんなジンに、何か気の利いたセリフを返そうと口を開いたピンクだったが……残念、時間切れです。
「あ、きえてしまった」
蘇生猶予時間が尽きて、光の粒子となって消えたピンク。他の色の人達も、消えていった。
「……まぁ、うん。とりあえず、拠点防衛は出来たし。うん、ヨシ」
次回投稿予定日:2022/9/30(本編)
【魔弾】を除くと、【七色の橋】はイロモノばかりと当たっている気がします。
イロモノホイホイなのでしょうか←
思考を巡らせるハヤテ、ミモリの焦り、マキナの決意、ヒイロとレンの激甘イチャイチャとありましたが、今回のお気に入りは「二十五人揃って、オレンジャイ!!」という数の暴力。