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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
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15-09 【聖光の騎士団】VS【フィオレ・ファミリア】

 AWOにおけるトッププレイヤーとして、真っ先に名前が挙がる人物は複数いる。その中の一人であるアークは、【聖光の騎士団】のメンバーを率いてイベントマップを突き進んでいた。

 ここへ来るまでに【煉獄】【フルアーマー愛好会】【財団A】と、三つのギルド拠点を攻め落として来た。その進軍速度は早く、飛ぶ鳥を落とす勢いという表現がしっくり来るものである。


 その要因の一つは当然、アーク本人の力だ。

 ユニークスキル【デュアルソード】と、レベル初到達達成報酬であるユニーク装備。そこにアーク本人の技量が組み合わさり、圧倒的な力を発揮する事が出来ている。

 更にそんな最強クラスのプレイヤーに、最強クラスの軍師と支援役が付いていた。そう、ライデンとルーである。

 戦略と速攻性の高い魔法に特化したライデン、支援・回復・攻撃とバランス良く魔法を行使できるルー……この二人のサポートを受けたアークを止める事は、生半可な実力では不可能といえる。


「さて……次は【フィオレ・ファミリア】だね」

 ライデンがそう告げると、アークが「ふむ……」と頷いた。

「確か、実況配信系ギルドだったか」

 アークも当然、トッププレイヤーとして他の有力プレイヤーの情報収集に余念は無い。自分の力を過信して、油断する様な男ではなかった。

「はい、実況配信者のフィオレを中心としたギルドです。フィオレは、連携と威力を重視した実戦志向の魔法職だそうですね。サブマスターは二人で、フィオレの弟【ネーヴェ】と妹の【ステラ】ですね。ネーヴェが前衛職、ステラが弓職です」

 スラスラと情報を口にするルーも、同様だ。トップギルドの幹部たる者、情報の重要性は重々承知している。


「実戦志向か。ライデン、どう見る?」

「同タイプのビルドなら、遅れは取りませんが……ただ、実戦志向にもいくつか種類がありますからね。僕は後の先を取れる速攻型。ベイルの場合は、デバフを中心にした妨害型。ルーやセバスチャンは、味方を強化する支援型です」

 勿論この分類は暫定的なもので、ベイルはデバフ以外にバフも使える。デバフが目立つのは、やはり姉であるシルフィの【ベルセルク】が大きな要因と言って良い。

 ルーとて支援だけでなく、攻撃や回復も得意としている。支援が目立つのは、ライデンのサポートに回る機会……まぁ、本人が進んでそれをやりたがるからなのだが。それ故に、支援役という役回りが多いだけで。

 セバスチャンに至っては、近接格闘が可能なタイプの支援役バッファーだ。当然妨害・回復・攻撃となんでもござれで、意外と多芸だったりする。


 そしてライデンの場合は速攻発動に重きを置いている為、威力で言うとルーの方が高い。しかし的確な魔法選択と手数の多さこそが彼の強さの源であり、魔法職の中でもトップクラスの実力者として君臨し続けている。

 AWOの有名な魔法職は誰か? と聞かれたら、真っ先に名前が上がるのは彼だろう。


 しかし、そんなライデンもある人物に対しては兜を脱ぐ。

「ただまぁ……レンさん相手は流石に骨が折れると思いますが。恐らくAWO最高レベルのINTに、速攻発動が可能なお札。そして、自己強化に近接戦闘も可能……言い方は悪いですが、それなんてラスボス? っていうレベルの存在です」

 あっさりとそう言うライデンだが、【聖光の騎士団】の面々は掛ける言葉が見つからなかった。レンという少女のアバター性能が脅威なのは、誰もが知るところだ。


 最前線級最高峰の魔法職であるライデンは、レイドパーティに参加していた頃のレンを知っている。当然その実力の高さには目を付けていたし、ライバルになるならば彼女だと確信していた。

 そうして彼女がレイドパーティに参加しなくなって、少し経った頃……第一回イベントで、和装を身に纏った彼女はとんでもない存在へと進化していた。砕けた言い方をすれば、マジでヤバい。マジヤバである。


 ライデンも、彼女がウルトラレアやユニークスキルを保有しているだろうとは予想していた。それだけの性能を、彼女は何度も見せ付けてきたのだ。

 昨夜アレクがユニークスキル【七転八起】のスキルオーブをドロップした事で、その予想は既に確信に至っている。


――あれだけの強化ならば、恐らくはユニークスキル。INT強化、これは多分だけど確実。同じような存在がすぐ側に居るしね。


 AGIタイプのジン、STRタイプのヒメノ、VITタイプのシオン。これは戦い方等から見て、間違いはない。

 ステータス強化型ユニークスキル……ライデンはその存在を、最早疑ってはいない。


――それに共通点がある……あのオーラを纏った状態だ。ジン君は当然、【九尾の狐】。ヒメノさんは【八岐大蛇】、これは確実だろう。


 第二回イベントで目の当たりにした、ジンとヒメノの最終武技。そしてシオンとレンも、同様の性能を発揮していた。

 シオンは鬼の角の様なオーラが見て取れたので、鬼にまつわる何かだろうとは思う。

 だが、レンのはイマイチ解らない。彼女がオーラを纏った際に、球が浮いていた。記憶の底からその様子を思い出すと、青・白・赤・黒の四色だったはず。


 そこでライデンは、ある可能性に思い当たる。青白赤黒、東西南北。オタクやゲーマーならば、必ず履修する四体の神獣の逸話。それも、第一回イベントではボスモンスターとして登場した、それ。

 東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武……四方の守護獣。


――まさか、それにまつわる……いや、それは無いか?


 ライデンは、その可能性を否定した。してしまった。

 当然、理由はある……四神にまつわるモノならば、その場合レンが纏うオーラが”黄色”であると考えたからだ。四神を従えるモノ……黄竜、または麒麟。そのイメージカラーは、黄色だからであった。

 それでは、おかしいと思っても仕方がないだろう。


 実は実際に、【神獣・麒麟】のデフォルトモチーフカラーは黄色だった。麒麟に雷、どちらも黄色を想起させるものである。無理もないだろう。

 まさかユニークスキルのオーラなどの、モチーフカラーが任意に選べる……とは、流石のライデンでも思うまい。もしも自分が手に入れられたならばその限りではないが、そうでなければ気付きようがないのだ。


************************************************************


 ともあれ【聖光の騎士団】は、進軍を続け【フィオレ・ファミリア】の拠点を目視できる位置まで来た。

 相手ギルドの様子を覗ってみると、それなりの人数が集まっていた。何やら、盛り上がっている様子だ。

「ふむ……思った以上にプレイヤーが多いな」

「えぇ、もしかしたら拠点攻略部隊が、帰還したのかも……斥候スカウトの誰か、【リスニング】を」

 ライデンの指示に、一人のプレイヤーが片手を上げた。【リスニング】とは【感知の心得】で習得出来る武技で、遠くの場所の音を拾う事が出来るスキルだ。


『すげー! 流石だな、ネーヴェ君!』

『ありがとうございます』

『お帰り、ステラちゃん! これだけクリスタルを破壊したなら、もしかして二十位以内も夢じゃなくないかしら?』

『ただいまでーす! はい、そうかもしれないですね!』


 聞き耳を立てた斥候スカウトの青年は、ライデン達に振り返って短く報告する。

「やはり、主力が帰還した所の様です」

 ネーヴェとステラ、二人の名前が聞こえた事を報告する。そうなると、二人の姉であるフィオレも帰還しているだろう……と予想するのは、容易い。

 しかしながら、その事実でさえもアークにとっては望むところであった。

「それならば、【フィオレ・ファミリア】の実力が見られるな。今後の事も考えるならば、この戦いは試金石になるだろう」

 もしも【フィオレ・ファミリア】がトップランカーに喰らい付けるならば、その手の内を早い内から確認する事は重要だ。

 そういう意味では、このGvGで彼等と戦う機会が訪れたのは僥倖である。


「ライデン、どう動く?」

「相手の前に堂々と姿を見せて、真正面から叩き潰す……王道の制圧が、メンツ的にもイメージ的にも最適ですね」

 前衛、後衛、盾役に支援役。バランスが取れたこの一行ならば、それは容易い。ライデンはそう判断し、提案した。その内容を聞いた【聖光の騎士団】メンバーは皆、不敵な笑みを浮かべて頷く。


「了解した。ではこれまで通り慢心せず、油断なく……その上で、俺達の力を見せ付けるとしよう」

 相手を見くびる訳でもなく、自分達の力を過信するでもない。ただ堂々と、トップギルドの名に恥じぬ振る舞いを。

 そんなアークの宣言に従い、【聖光の騎士団】メンバー達が陣形を組む。その動きはキビキビとしており、傍から見たら本当の騎士の様に見えるかもしれない。

「では、前進!」

 アークの号令に従い、進軍するメンバー達。その顔に浮かぶのは、純粋な戦意だった。


……


 接近する【聖光の騎士団】に気付いた【フィオレ・ファミリア】は、蜂の巣を突いた様な混乱を見せた。

 唐突に、トップクラスのギルドのチームが現れたのだ。それもチームを率いているのは、最強と目される男・アーク。これには、焦燥感を抱くのも無理はないだろう。


 しかし、ギルドを率いる女性は冷静だった。

「恐れる必要は、無いわ」

 そう言いながら、艶のある黒髪を靡かせ前に出た女性。彼女こそ、この【フィオレ・ファミリア】のギルドマスターを務めるフィオレだ。彼女は迫り来る強敵を前にして尚、堂々とした立ち姿だった。

「落ち着いて、迎撃準備をしてね。大丈夫、私達は結構やれると思うよ」

 優しく諭す様に、仲間達に告げるフィオレ。その声色のお陰か、メンバー達は徐々に落ち着き始めた。


 更にフィオレに付き従う様に、中学生くらいの少女が歩み出た。

「皆、正念場だよっ! 頑張って、あの人達を追い返しちゃお!」

 ハキハキとした、明るい声で呼び掛ける少女。フィオレの妹である、ステラである。

 ピンク色の髪をツインテールにした、小柄な少女。その姿は、庇護欲を掻き立てる程に可愛らしい。そんな幼げな彼女が、姉を助けようと奮起する様子……その姿に、仲間たちは負けてはいられないと気合いを入れ直した。


「では壁役が前に出て、相手の進軍を阻止。接敵と同時に、後衛は遠距離攻撃で壁役への援護を。前衛メンバーは相手の動きが止まり次第、全力突撃」

 淡々と指示を出すのは、長身の青年だった。彼はフィオレの弟・ネーヴェだ。

 濃紺の髪、青白い鎧、青い剣。寒色で揃えられた容姿と装備、感情を覗い知るのが難しい表情。そんな彼は、仲間達からは【氷雪の貴公子】と呼ばれているのだった。


「相手がアークさんの率いる【聖光】なら、切り札を使わないといけないかもしれないわね」

「トップギルドかぁ……緊張するなぁ」

「心配は無用だ。姉さん達は俺が守る」

 三姉弟が並び立つ姿を見て、ギルドメンバー達はいけるかもしれない……そんな気持ちになり始めていた。


――フィオレさんなら、やってくれるかもしれない……!!

――ステラちゃんには、指一本触れさせないぞ……!!

――無表情だけど、ネーヴェ君はお姉さんや妹さん想いなのよね。やっぱりイイかも!!


 このギルドの中心は、フィオレ・ステラ・ネーヴェの三人。元よりゲーム好きで、実況配信により人気を得ていたフィオレ。AWO参戦を契機に、彼女の妹と弟も一緒にプレイする事と相成ったのだ。

 そして三人がプレイする姿を見た視聴者達は、益々フィオレのファンに……そしてステラとネーヴェのファンも誕生していた。


 そうして近付いて来る【聖光の騎士団】を待ち構えていると、彼等は拠点の手前あたりで足を止めた。

 前衛と後衛の間に居たアークは、堂々とした足取りで前に歩み出て来る。

「俺の名はアーク……【聖光の騎士団】のギルドマスターだ。初めまして、【フィオレ・ファミリア】の諸君」

 接近する内に相手が攻撃して来るならば、相応の反撃で応じるつもりでいたアーク。しかし【フィオレ・ファミリア】は、【聖光の騎士団】の接近を迎えた上で相対する様子を見せた。

 それはアークにとって好ましい、強者としての立ち振る舞いに感じられた。その為【聖光の騎士団】としても、問答無用の攻撃は控える形となったのだった。


 そんなアークに対し、フィオレも前に歩み出た。

「初めまして、【聖光の騎士団】の皆さん。【フィオレ・ファミリア】ギルドマスター、フィオレです」

 ふわりと柔らかく微笑むフィオレは、その容姿も相俟って魅力的な女性らしさを感じさせる。しかし、それで揺らぐ【聖光の騎士団】ではない。注意深く、相手の出方を覗っていた。


「GvGイベントに参加する以上、覚悟は定まっているものと見受ける。悪く思わないで頂きたい」

「それはお互い様です。我々も負けるつもりはありませんので、悪しからず」

 無駄な問答は避け、これから本気で叩き潰すと宣言する両者。それでもどこか清廉とした空気が流れているのは、互いに相手を評価しているからだろうか。


 そして。

「では、参る」

 アークが≪聖咎の剣≫を抜き、前に突き出す。それを確認したギルドメンバー達は前進し、アークを守る様に構えた。

「受けて立ちましょう」

 フィオレは腰に装備していた≪書物≫を開くと、それがひとりでに浮き上がる。同時に【フィオレ・ファミリア】の前衛メンバーが前に駆け出し、己の武器を構えた。


「攻撃開始!」

「先手を譲るな、こっちのペースに巻き込むぞ!」

 アークの宣言に対し、ネーヴェが声を張り上げる。【聖光の騎士団】と【フィオレ・ファミリア】の前衛達は互いに、先手を譲らぬと言わんばかりの突撃を見せた。


 そうしてぶつかり合う、両ギルド。

「行くぞ、オラァッ!」

「ハァッ! 中々にやるな!」

「援護射撃、開始! 前衛を援護しろ!」

「後衛、ボーッとしている場合じゃないぞ! 撃てぇっ!」

 攻めて来た【聖光の騎士団】としては意外だったが、これまでイベント事で名前が上がらなかった【フィオレ・ファミリア】の実力……それは、中々に高く感じられる。

 基本的な動き、攻撃する時の狙う場所、防御時の注意点。そして何より、連携が上手い。


――何故、これまで無名だったのやら……ともあれ、中々の強敵だ。出し惜しみをしている場合じゃないな。


 ライデンは即座に、本気を出すべきだと判断。≪失われし魔導書≫を開き、≪古代樹のタクト≫を構える。

 そこへ、一本の矢が飛んで来た。

「……っ!!」

 ライデンはそれを半身になって躱したが、狙われたタイミングに違和感を感じる。ライデンとて人の子、思考に耽る際には注意力が薄れる。だが、思考中に攻撃される……その可能性は予測出来る。だから警戒はしているのだ。

 しかし思考の隙を突くのではなく、結論が出て行動を開始しようとした瞬間に矢が飛んで来たのだ。その瞬間は、思考と行動の隙間を突く事が出来るのである。


 矢の飛んで来た方向に視線を向けると、そこには誰も居なかった。高速で動き回っている……という可能性もあり得る。しかし、見た所そんなプレイヤーは居ない。ならば、攻撃してきた者は……普通にしていても人の陰に隠れられる、見付けにくい小柄な人物だと察しはつく。


「……まぁ、良いだろう」

 どのみち、ライデンが狙うのは後衛。ならば容赦を捨てて、本気で攻めても良いだろう。そう思いルーに視線を送ると、彼女は口元を緩めて頷いてみせる。

「舐められては困るな……こちとら【聖光トップギルド】の幹部なのでね」

 詠唱を開始すれば、スキルと装備の影響でそれはすぐに完了する。そして、ライデンが標的を前衛プレイヤーの後方……弓職や魔法職に狙いを定める。

 魔法を発動しようとした瞬間、桃色の髪の少女と視線がぶつかり合った。


――やはり、君か。


 ギルドマスター・フィオレの妹……桃色の髪の弓職・ステラ。小柄な彼女ならば、前衛や周囲の後衛の人影に隠れる事が可能だろう。

 彼女の持つ弓から矢が放たれ、それがライデンに向かって飛んで来る。しかしライデンは、彼女の攻撃を意識の外へと追いやった。

「【ウィンドウォール】!!」

 ライデンに矢が到達する寸前、彼の隣に立つルーが魔法を発動。【ウィンドウォール】の突風が、ステラの放った矢を吹き飛ばす。その的確なサポートに、ライデンは口の端を吊り上げた。

「【ライトニングアロー】!!」

 すかさず放たれる、雷の矢。殺到する魔法攻撃を前に、【フィオレ・ファミリア】の後衛職は表情を引き攣らせた。


「させません……【ディルーポ】」

 フィオレが何かを投げ、それが割れると同時に岩壁がせり上がった。その岩壁は、ライデンの放った【ライトニングアロー】を全て受け止めてしまう。

「……何?」

 無詠唱で、魔法を発動させる……その力を目の当たりにして、ライデンは思わず固まってしまう。何せそれはあの蒼銀の髪の少女、【七色の橋】のレンの戦術を彷彿とさせる光景だったのだ。


「隙ありだ……!!」

 動きを止めたライデンに向けて、【聖光の騎士団】の前衛を押し退けたネーヴェが切り込む。その動きは【聖光の騎士団】と比較しても遜色無い、雄々しい動きである。

 しかし、ネーヴェの行く手に一人の男が立ちはだかった。その男は無言で剣を振るい、ネーヴェの突進を阻んでみせる。

「そうあっさり通れるとでも思ったか?」

「……ちっ!!」

 両手の聖剣を駆使してネーヴェを止めたのは、アークだ。フィオレの予想外の魔法発動に驚きを抱きつつ、彼は冷静に敵の攻撃に対処してみせた。


 更に、そこへ魔法攻撃が飛ぶ。

「【ウィンドジャベリン】!!」

 ルーの放った風魔法が、ネーヴェを貫こうと飛来する。それに気付いたネーヴェは、当たるものかとバックステップで魔法を回避した。

 それに追い縋るアークだが、ネーヴェは油断せずにアークの接近に備えてみせる。そうして両者は剣を打ち合わせ、睨み合う。


――この男、中々出来る……か。

――こいつ……流石、【聖光】のトップって事か……!!


 互いの実力の高さを実感しつつ、負けるものかと剣を振るい合う。そんなアークとネーヴェの側で、両ギルドの前衛達が激しい攻防を繰り広げていく。

 戦況は拮抗している……かに見えたが、すぐに均衡は崩れる事となった。

「……面白い」

 その一言を呟くと同時、アークの攻撃が更に早く鋭くなっていく。

「……っ!?」

 押されている、その実感にネーヴェは表情を歪め……そして、負けるものかと表情を険しくさせた。


――姉さん達の為に、負けてたまるか!!


 ネーヴェ……【有賀音あがね 雪太ゆきた】は、姉が大好きな普通の中学一年生だった。そう、中一である。

 実は彼、アバターの外見をいじりにいじって大人アバターでゲームを始めた、やっとVRが出来るようになった中学一年生なのだった。

 そして、彼は姉が好きだった。それはもう、姉さえいれば何でもいいというくらいには姉大好きだった。簡潔に言うとシスターコンプレックスを拗らせていた。

 なので姉の前で無様に負けるなどあってはならないと、必死の抵抗を見せていた。


 一方ステラは、やたらと飛んで来る魔法を避けるのに必死だった。

「わっ……またっ……!!」

 それは【ボール】系の威力と攻撃範囲の魔法が上空から撃ち落とされる、【フォール】系の魔法。使い勝手が悪く、人気の無い魔法である。数分前からステラが弓を構える辺りを狙って、そんな【ウィンドフォール】が降って来るのだ。

「次は……あそこかな」

 そう呟いて、魔法詠唱を進めるのはルーだった。


 彼女はステラがライデンを狙って矢を放ったのを察し、彼女の動きを制限……ついでに倒そうと、魔法で攻撃していた。どうやらルー的に、ライデンを狙った彼女ステラ絶許ぜつゆるらしい。略さないで言うと、絶対ぜってェ許さねェ!!

 言葉で言うだけは簡単だが、姿を捉えにくいステラをしっかりと狙えている。だからこそ、ステラも慌てているのだ。


 ステラの配置取りは的確で、狙撃に適した位置取り。つまりはセオリー、お手本通りだ。お手本通りという事は、パターンが決まっている。行動を予測し、そこを狙う事が容易という事だ。

 VR経験の長いルーにしてみれば、それはモンスターを相手にするのと大して変わらない。

「まったくっ……どうしてウチの場所を、こんな正確に……!!」

 ステラは、まさか自分の動きを予想されているとは気付けていない。自分がセオリー通りの行動しか取れていない事が、原因とも思っていない。


 ステラは……本名【有賀音あがね 千羽ちわ】は、高校二年生の少女だ。雪太ネーヴェとは逆に、容姿を幼く設定してVRMMOを始めた。つまり、雪太からすれば彼女も姉。大好きな姉なのである。


 シスコンはさておき、彼女が幼女アバターを作成したその理由……それは彼女が、絶対に現実の自分だとバレたくないという思いからである。

 というのも、千羽は学校で風紀委員という役割を背負っているのであった。風紀委員である自分がVRMMOをしているなんて、現実の友人知人に知られる訳にはいかない……そんな考えからである。

 ちなみに姉と弟は、風紀委員でも別にゲームをするのは普通では? と聞いてみた。しかし彼女は、頑なに譲らなかった。もしかしたら、ただ単に幼女化したかっただけかもしれない。

 ちなみに彼女、弟に負けず劣らずのシスコンでブラコンである。姉も弟も、とっても大好きだった。


 ともあれステラは、攻略サイト等で得た情報を元に弓職として鍛えて来た。ただし攻略情報、つまり教科書通りに。彼女は割と固定観念に囚われやすく、型にはまるタイプであった。現実でお堅い風紀委員なのも、関係あるのかもしれない。無いかもしれないが。


 さて、そんな弟妹に愛される長姉。

「誰か、ステラとネーヴェの援護をお願い出来る? それまで、私がたせるから」

 宝石を手にし、【聖光の騎士団】の前衛に向けてそれを投げた。その数は、三つだ。

「【エスプロジオーネ】」

 フィオレが単語を呟いた瞬間、投げられた宝石が全て同時に破裂。そこを起点に、爆発が起きた。


「ぬぅ……っ!!」

「また、詠唱待機時間が無かったぞ……」

 【聖光の騎士団】のメンバーはフィオレの攻撃でHPを削られるも、戦闘不能には至らなかった。しかし足が止まっただけでも、【フィオレ・ファミリア】にしてみれば好機である。

「今だ……っ!! ステラちゃん、大丈夫かい!?」

「あ……どうもです、【オクト】さん!」

「ネーヴェ君、援護するわ!!」

「【ユノ】さん……感謝します」

 仲間達の援護を受けて、ネーヴェとステラの表情に安堵の色が浮かぶ。しかし、安心するのは早かった。


「固まってくれるならばありがたい」

 そう言って、双剣を手に駆け出すアーク。その瞳に油断の色は皆無であり、動きにも澱みは感じられない。

「ちっ、させるか……!! 【デュアルスラッ……】」

「【ソニックスラッシュ】」

 ネーヴェが発動しようとした【デュアルスラッシュ】に、アークは【ソニックスラッシュ】をぶつける。瞬間、ネーヴェの剣とアークの剣が接触した箇所が激しく光った。

「これ……はっ!?」

 システム外スキルの一つ、【スキル相殺】……相手の武技に対し、武技をぶつけて発動を強引にキャンセルさせるPSプレイヤースキル。これまで、アークがこのPSを発動した事は無かった。


 そう、アークが公の場では【スキル相殺】を披露するのは初めてである。第二回イベント以降、彼は鍛錬に鍛錬を重ね……そして【スキル相殺】を我がモノとしたのだ。


 このままでは、ネーヴェがやられる。そう判断したフィオレは、宝石をアークに投げ……そこに、魔法攻撃が襲い掛かる。

「きゃっ……!!」

 投げた直後の宝石を、正確に射抜いたのは【ウィンドアロー】。ルーが放ったものだ。

「君がどうやって、()()を会得したのかは興味があるが……レンさんと同種の芸当だろう。【聖光ぼくたち】が、それに何の対策もしていないとでも?」

 第二回イベントで煮え湯を飲まされた、レンの速攻魔法。それを破る為の術を講じない程、ライデン達は愚かではない。


「さぁ、決めさせて貰おう」

 アークとルーの攻撃は、ライデンを警戒させない為のフェイク。狙いは光属性魔法において、最高の威力を叩き出す範囲魔法攻撃だ。

「【マインドアップ】!!」

 ルーは味方の前衛を対象に【マインドアップ】を掛け、魔法攻撃の耐性を上げる。いくらフレンドリーファイアでも、この魔法の威力では大ダメージになる可能性が高いからだ。


――まずい……このままでは、姉さん達が……!!


 姉達を庇おうと、ネーヴェは即座に自分の身を盾にした。

「姉さん、クリスタルを……!!」

 ネーヴェがその言葉を言い終える前に、ライデンがその魔法を行使する。


「【ルミナスエンド】!!」


 天に放たれ、降り注ぐ光の雨。その光雨が殺到すると、【フィオレ・ファミリア】のメンバー達が次々に叫び声を上げる。

 効果時間が終わると、そこには倒れる【フィオレ・ファミリア】の面々の姿があった。

 耐え抜いた【聖光の騎士団】の面々は、流石だと言わんばかりにライデンを見るが……ライデンの表情は、まだ張り詰めたものだった。

「……まだ、隠し玉があったかな」

「フィオレさんと、ステラさんの姿がありませんね……」

 ルーも、ライデンの懸念に気付いていた。ネーヴェは他のプレイヤーと共に倒れているが、フィオレとステラの姿が見当たらないのだ。


斥候スカウトは先行し、ギルドクリスタルを確認せよ」

 アークの指示に、一瞬身体を硬直させる斥候スカウトメンバー。しかし、すぐに幹部達の懸念事項を察し、慌てて駆け出して行った。


************************************************************


「……危なかったね、姉さん」

「本当にね。皆には、悪い事をしてしまったわ……後で、謝らないと」

 フィオレはステラを伴い、拠点から少し離れた場所に辿り着いていた。フィオレの手には、【フィオレ・ファミリア】のギルドクリスタルが抱えられている。そして彼女の右腕付近に浮かぶのは、書物だ。

「この≪魔法大全≫で可能になる付与魔法の裏ワザ、魔法を触媒物質に付与する手段……まだ、習熟度が足りないかしら」

 口惜しそうに呟くフィオレだが、ステラはそんな事はないと考える。何故なら姉は……フィオレこと【有賀音あがね 斗羽とわ】は容姿と性格だけではなく、才能に満ち溢れた才女だと確信しているからだ。


「違うよ、姉さん。ウチ達が支え切れなかっただけ……次は、絶対にカンペキに姉さんのフォローをしてみせるから!! ね!!」

 グッと拳を握り、そう宣言するステラ。そんな妹の決意表明に、フィオレは申し訳なさそうに……しかし、少し嬉しそうな笑みを浮かべて頷いてみせた。


 多くの仲間を戦闘不能にされたが、クリスタルは死守した……リベンジの機会に向けて、フィオレは自分に出来る事は何だろうと考え始めるのだった。

次回投稿予定日:2022/8/20(本編)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 慢心しないトップに渡り合えるとか怖いし、それに渡り合える新興ギルドも強い。 まだ判明していないユニークスキルもあるし益々盛り上がってきますねぇ! それはさておき絶許モードのルーさん、どこ…
[良い点] ショタだとバレたらそれはそれでロックオンされそうw
[良い点] 次々と現れる隠れた実力者達。イイですね。凄くイイ。此れぞGvG!此れぞ群像劇!って感じでこれから森羅は?旅路は?何よりジンくん達はどの様なギルドと闘うのか楽しみでなりません。
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