15-06 【桃園の誓い】 VS【竜の牙】
ヒイロ・レン・シオンが、ちゅうn……【闇夜之翼】と遭遇している、その頃。イベントマップのとある場所で、勢いのある進軍を見せる一団が居た。
「よし、次はいよいよ大物だ! 【桃園の誓い】を攻めるぞ!」
そう高らかに宣言するのは、彼等のギルド……【竜の牙】のギルドマスターで、【リンド】である。尚、このアバター名は伝説に謳われる竜・リンドヴルムから取ったそうだ。
赤茶色の髪に、精悍な顔付き。体格も良く、兄貴と呼ばれていそうな外見。よく響くバリトンボイスは声が大きいと言われそうだが、不快感を感じさせない程度に留まっている。
このリンド……彼はかつて、ラストクエスト・オンラインというゲームでトッププレイヤーとして名を馳せていた。
LQOの方が自分や周囲の仲間の好みに合致するゲームだった為、AWOへの移籍は考えの外にあった。
ならば何故、彼等がAWOに移籍して来たのか? それはLQOがサービス終了を迎え、次の活躍の場を探していたからだ。
そんな事情があり、彼等は次の活躍の舞台をAWO……現時点で最も勢いと話題性に富んだ、アナザーワールド・オンラインに定めたのだ。
――【聖光】【森羅】は最後、彼等が疲弊したタイミングを見計らって攻め込む。となれば当然、中規模以下……第二回イベントの決勝トーナメントに進出していた、【七色】【魔弾】【旅路】【暗黒】……そして【桃園】から狙う!
この判断の根拠は、所属プレイヤーの人数。プレイヤーが多ければ多い程、高度な連携や作戦行動が可能になる。
PACや応援NPCは、ただの数合わせ……というのが、リンドの考えだ。故に彼は応援NPCをチームのメンバーではなく、数合わせの駒や盾として認識している。
あと、彼はナチュラルに【ベビーフェイス】を標的から外している。
「いよいよ、このゲームのランカーっすね……緊張するー!」
「ビビッて動けなくなんなよなー!」
緊張気味の青年と、ギャルっぽい女性。そんな二人のやり取りに、リンドはすかさず割って入る。
「緊張するのは俺も同じだ、相手はこのゲームを盛り上げて来た強者だからな。しかし、俺達は【竜の牙】だ。彼等と並び称される実力があるのだと、このイベントで証明しようじゃないか!」
そんなリンドの言葉に、仲間達は表情を緩ませ……そして、力強い頷きで応えた。
「よし、それじゃあ行くぞ……全員、突撃!!」
リンドの号令と共に、駆け出すギルドメンバー達。総勢二十五名による、奇襲作戦だ。
ちなみに彼等が堂々と真正面から突撃するのは、その方が強者っぽいという考えから。つまり、相手ギルドや観戦プレイヤーを意識した為だ。
このゲームでトップに立つ為には、まず王者の風格を見せ付ける必要がある。そう思っての事だった。
そんな【竜の牙】の奇襲に、【桃園の誓い】は即座に対応を見せた。
「敵接近! 北東方向より、敵接近!」
一人の応援NPCがそう声を張り上げると、他の応援NPC達もそれに合わせて声を上げ始める。
「敵総数、二十五名!」
「勢いを削ぐぞ! 矢を放て!」
「盾部隊、受け止めるぞ! 前に出るッ!!」
その様子を見て、リンドは違和感を覚える。【桃園の誓い】の応援NPC達と、自ギルドの応援NPCの間に差を感じたのだ。
しかし、所詮は応援NPC。最前線クラスのプレイヤーに比べれば、物の数では無い。そう判断し、リンドは指示を飛ばす。
「作戦は予定通りだ! 押し通るぞ!」
第一陣が攻撃を仕掛け、すぐ様第二陣が追撃。そしてダメ押しの第三陣による、波状攻撃。
これはかの有名な歴史上の人物……織田信長の逸話からヒントを得た、【竜の牙】の得意とする戦法。彼等はこれを【三段討ち】と呼んでいた。
オーソドックスな戦術ではあるが、実際に理に適っている。三人一組で仕掛ける波状攻撃に、【桃園の誓い】の応援NPCが次々とダメージを受けていった。
そこへ、本陣からプレイヤーが駆け付ける。
「大丈夫か!?」
現れたのは、レオンとゼクトの二人だ。後方には、マールとヴィヴィアンの姿もあった。
「傷が深い者は、下がって態勢を立て直せ! 無事な盾使いは俺に続け!」
前に出て、ゼクトが大盾を構える。その大柄な体躯と、手にした大盾。そして発せられる威圧感から、巨大な巌を想起させる。
「ハッ、いいねぇ! そういうの、結構好きだぜ!」
ゼクトに向けて、突進するのは槍使い。その攻撃を受け止めて、ゼクトは大盾で押し返す。
そのすぐ後に、大剣使いの男が接近。既に攻撃態勢に入っており、その姿を見てゼクトは舌打ちをする。
「そういう戦術か!!」
「フンッ!!」
振り下ろされた大剣を、かろうじて構えなおした大盾で受け止める。次に攻撃してくるのは、槍使いだろう……そう考えたゼクトだったが、直後自分の腹部に剣を突き出されて表情を歪めた。
「これが、【三段討ち】よっ!!」
剣で刺して来た女性プレイヤーの言葉に、ゼクトは苛立ちを覚えた。
「しゃらくさいっ!!」
大盾を振るって相手を押し退けようとするゼクトだったが、既に体勢を整え直した槍使いがそれを阻止。大盾を持つ腕を狙った攻撃で、ゼクトの反撃を潰した。
他の盾職も、【竜の牙】の連携によってダメージを受けていく。更に後方から、弓職と魔法職による攻撃が放たれる。このままでは、防衛戦が食い破られてしまう。
たたらを踏むゼクトに向かって、槍使いから攻撃を引き継ぐ大剣使い。そこへ、弓から放たれた矢が撃ち込まれる。
「ぬっ!?」
肩に当たったのは、【スパイラルショット】。五段ヒットで相手のHPを抉り取る、強力な武技である。
「後衛職! 二番手を止めなさい!」
「イエッサー!」
「前衛は三番手だ! 行くぞ!」
「おうよ!」
走りながら矢を放ったマールは、二番手の役割を持つプレイヤーへ。レオンは三番手……剣使いの女性に向けて、疾走する。武器を振るおうとしていた女性に斬り掛かり、ゼクトへの追撃を阻止した。
「回復です!」
ヴィヴィアンが投げたポーションがゼクトや盾職応援NPCの背に当たり、彼のHPが一気に回復する。
「ナイスだ、ヴィヴィアン!」
「ありがとうございます、ヴィヴィアンさん!」
「助かりました、感謝します!」
「はいっ、回復は任せて下さい!」
彼等の【三段討ち】は、確かに完成度の高い連携攻撃だ。しかしながら、誰がどのタイミングで攻撃するのか……それが決まっている。
単体の敵相手ならば、完封できるかもしれない。だが、こういった大人数同士の戦闘ではどうか? その連携を止めるべく横槍を入れるのは、至極当然。
火力が不足している【竜の牙】では、一気に攻め落とせない時点で有利とは言えないのだ。
確かに【竜の牙】は、LQOでトップの集団だったかもしれない。しかし【桃園の誓い】もまた、AWOで上位のギルドとして名が上がるのだ。
AWOでの経験も、【桃園の誓い】の方が長い。プレイヤーレベルやスキルレベルも上で、装備も整えられている。
そして何より【桃園の誓い】は、地力の高さがウリのギルドだ。最前線で活躍して来たプレイヤーや、それに近いプレイヤーが集結しているのである。
――ふむ、流石。これが、【桃園の誓い】……AWOの最前線クラスのギルドか。
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リンド……本名【成都翼】は、二十九歳のごく普通の会社員だ。
とりたてて仕事場では目立つ事は無く、日々の仕事もそれなりの結果さえ出れば良いという感じである。同年代の社員達が成長し、昇格していく……それでも焦る事は無く、心は冷め切ったままだった。
何となく生きて、何となく死んでいくのだろうか。そんな事を、漠然と考えていた事もある。
しかし彼は、なんとなくで始めたVRMMORPG【ラストクエスト・オンライン】……その中のあるイベントで、思いもよらず上位に入るという結果を出した。
誰もがリンドを称え、そうして彼は人生で初めての達成感を覚えた。周囲のプレイヤー達に称賛され、尊敬の眼差しを一身に浴びて……彼はその成功体験で、覚醒を果たした。
――VRをする時間を作る為には、仕事の効率を上げないと。
――VRドライバーを長時間動かすと、電気代がかかる。基本給を上げないと。
――大事なイベントに出る時に、有休休暇が取れないと何もならない。社内での評価を上げないと。
好きな事を、好きなだけ出来る様に。誰にも文句を言われず、あの時に感じた震える程の達成感を味わいたい。
人生初の大快挙は、彼の心に火を灯した。そうしてVRへの熱意が燃え上がり、その為にも仕事をしっかりしなければと業務にも打ち込み始めた。
すると社内での評判も上がり、周囲の同僚達からも頼られるようになった。つい先日、これまで足踏みをしていた事が嘘の様に昇進した。
周囲の人々と積極的に会話する事が増え、現実でもゲーム内でも周りに人が集まるようになった。
成功したい。達成したい。称賛されたい。尊敬されたい。トップに立ちたい。そんなある意味、純粋な欲望。それが彼を掻き立ててきた。
こうしてLQOには、リンドという名のトッププレイヤーが誕生したのだ。
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メイン戦術である【三段討ち】への対抗策を、予想より早く見出された。これは、次の作戦に移る必要がある。リンドはそう判断し、号令を出す。
「作戦変更! プランB!」
その号令を受け、【竜の牙】のメンバー達が即座に反応を見せた。
「あん? 横に広がっただけじゃねぇか」
ゼクトの言う通り、【竜の牙】のメンバー達は横に広がった。中央の戦力は下がっており、くの字を描いた様な位置取りだ。
そのまま彼等は、投擲武器や弓矢・魔法で攻撃を開始。それ以外のメンバーは、遠距離攻撃部隊の護衛のつもりらしい。
「そんなへっぴり腰な戦法で、俺等を食い尽くせると思うなよ!! それなら大将首を狙って突撃だ!!」
そう言うと、ゼクトが獰猛な笑みを浮かべて駆け出す。その動きに合わせて、応援NPC達も突撃を開始した。
――掛かった!!
リンドが指示した陣形……それは、古来より戦場で使われて来た【鶴翼の陣】。自軍の損傷を軽微にし、相手を両翼の兵で包囲して有利に立ち回る為の陣形である。
まだ後方から支援射撃をしているマール……そして、ゼクトとは別行動をしているレオン。この二人を警戒しておけば、ゼクトを落として盾役を排除する事が出来るだろう。
リンドがそう考えた、その時だった。
「ゼクトさん、ストップ!! 包囲されるので戻って下さぁい!!」
そんな声が、戦場に響いた。
「あ、ヴィヴィアン? 包囲されんの、俺?」
足を止めて振り返ったゼクトに、ヴィヴィアンは懸命に声を張り上げる。
「敵の陣形は、【鶴翼の陣】です!! 盾役を先に落とす為の作戦だと思われます!! その場合、正面突破は罠ですので!!」
「マジか、あっぶね!! お前ら、一旦ストップ!! 相手の誘いだ!!」
あっさりと突撃を中断して、応援NPC達に待ったを掛けるゼクト。その姿に、リンドは目を見開いた。
――あれだけ闘気剝き出しだった男が、こうもあっさり止まって……更に、指示に従った!? まさかあの眼鏡の女性、相当な実力者なのか!?
そんな事を考えさせるくらいには、先程のゼクトは闘争心の塊だった。闘争心を擬人化したと言われても、納得出来てしまいそうな状態だった。
もしこれが”ただの味方”ならば、ゼクトは止まらなかっただろう。しかしヴィヴィアン……そしてレオン・マールは、ただの味方などではない。
「サンキューな、ヴィヴィアン!!」
「ナイスよ、ヴィヴィ!!」
「ありがとよ、助かるぜ!!」
彼等は”ただの味方”などではない……”信頼し合う仲間”なのだ。ゼクト……そして、マールとレオン。そんな仲間からの言葉に、ヴィヴィアンは満面の笑みを浮かべて応えた。
「サポートが、私の得意分野ですので!!」
笑みを浮かべながらグッとガッツポーズをするヴィヴィアン。その姿に、リンドは目を奪われた。
――な、なんて可憐なんだ……!!
リンド、不覚にも胸キュン。戦場でまた、一つの恋が誕生しそうだ。
ちなみに、花が咲くとは言っていない。
……
それからも、あの手この手で攻め立てる【竜の牙】。それに対し、拠点を防衛する側の【桃園の誓い】。互いに有効打を見出せず、十数分が経過した。
「チッ……こうなったら、強引に行くしかないか。プランFだ!」
プランF……それは【鋒矢の陣】と呼ばれる、突撃に特化した陣形。矢印を形成する様に配列を組み直した【竜の牙】は、決死の突撃で拠点内に押し入るつもりであった。
「盾部隊の皆さん、正面から受け止めて下さい! あれは突撃用の陣形です!」
即座に【竜の牙】の魂胆を見抜いたヴィヴィアンは、仲間達に向けて警戒を促す。
――やはり部隊の陣形を、特性までしっかり把握している。彼女は恐らく、優秀な軍師役……判断も的確だ。
ヴィヴィアンの指示は、相手の陣形を理解しているからこその的確なもの。しかしながら、それが罠だとは気付くまい。
プランFとは、複合プランである。【鋒矢の陣】による突撃、単純な正面突破。そう見せかけて、裏をかく。後方のメンバーが前衛の衝突の隙に二手に分かれ、拠点へ向かいギルドクリスタルを破壊する。二段階の作戦、それこそがプランFである。
これは相手が想定以上に強かったからこそ、行使せざるを得ない搦め手としていた。
本来ならばこのゲームの頂点に昇り詰めるギルドとして、王道の武力制圧で片を付けたかった。しかし【桃園の誓い】の強さを目の当たりにし、それは困難だと理解した。
ならば王道の正面突破を諦め、確実な勝利を手にする為の戦略的な手段を行使する。リンドはそれを、卑怯だとは思わない。むしろ逆に、【桃園の誓い】への敬意だと考える。
――彼等は強い!! 己のプライドに固執していたら、確実に負ける!!
戦略もまた力であり、このイベントにおいて重要視される一要素。ならばここでそれを駆使し、【桃園の誓い】に打ち勝つ。
「総員、突撃!!」
内心で「彼女に恨まれないと良いな」とか思いながら、リンドは作戦開始を高らかに宣言した。
一斉に駆け出した【竜の牙】の面々を前に、【桃園の誓い】は盾使いを前に置いた円形の配置だ。【竜の牙】に倣って表現するならば、【輪形陣】。防衛に重きを置いた、主戦力を守る様に盾職を配置した陣形である。
その最前に立つゼクトが、盾を前方に構えて武技を発動する。
「【ストロングガード】ッ!!」
直後、【竜の牙】の最前線プレイヤーが攻撃。ゼクトや他の盾職NPCへ、苛烈な攻撃を開始した。
その背後で、リンドはタイミングを覗う。すぐに行動を開始するのは、愚策だ。
「チッ……倒れろぉっ!!」
「残念だが、倒れてやる義理はねぇな!!」
激しい攻防を繰り広げる、先鋒。そして、盾職の間からレオンやマールも攻撃に参加し始めた。
――ここだ!!
主力が一点集中されたこのタイミングこそ、好機。リンドは無言で右手を振り、後続メンバーに指示を出した。これまでと違う、無言の指示。それを受けた後続メンバーが、五人一組で左右に分散して駆け出した。
この時の為に、配置していた敏捷性に長けたメンバーは四人。残る六人は、彼等がギルドクリスタルに到達できるようにサポートをする為の露払い。
彼等は、リンドを含む二十人が【桃園の誓い】とぶつかり合うその脇を、擦り抜けようと全速力で駆ける。
――抜けた……っ!!
【竜の牙】のメンバー全員が、突入部隊が【桃園の誓い】の防衛メンバーをやり過ごした……そう、確信した直後だった。
「【白狼天狗】」
長剣を依り代として、オーラで形成された白狼。それが突入部隊の一人に噛み付き、押し倒す。
「【クインタプルスラッシュ】」
宙に浮く二振りの中華刀と、右手に持つ中華刀。その三振りそれぞれで発動した武技が、【竜の牙】の突入部隊を襲う。
「な……!?」
居なかったはずの戦力が、二組。それも、片方はギルドマスター率いる主力部隊。真紅の鎧を身に纏う男は、決して忘れてはならない存在だ。なにせかの聖騎士を、あと一歩という所まで追い詰めた男である。
「ケイン……それに、他のメンツも……ッ!!」
何故ここに? 先行して偵察させた面々が、見逃したか? そんな思案を許される状況ではなくなったのだが、リンドはそれを考えずにはいられない。
それに対する回答は、相手側から齎された。
「連絡ありがとう、マール!! よく持ち堪えてくれたわ!!」
「お待たせ、レオンさん!! 巻き返しましょうか!!」
ケインチームのイリスと、バヴェルチームのヒューゴ。二人の声が、リンドの耳に届く。
――連絡? 持ち堪えた? 巻き返す? まさか……彼等が帰還するまでの時間を、稼いでいたという事か!?
リンドの推測は、正解である。
彼等は【竜の牙】の襲撃……その当初から、相手戦力が強敵だと察した。そして、拠点攻略に向かった二組を呼び戻した。
それは確かに、ギルドクリスタル防衛に最善を尽くした良い手だ。しかしギルドクリスタル破壊を担う面々を呼び戻すのは、ポイント稼ぎを中断する事に外ならない。それも、二組もだ。
しかしその判断が間違っていなかった事は、【桃園の誓い】のメンバー全員が確信していた。
「悪かったわね、呼び戻して」
「相手の動きが明らかにやばそうなんで、安全策を取るべきだと思ってな」
マール、そしてレオン。二人は即座に【竜の牙】が只者ではないと警戒して、連絡したらしい。
――やられた……!!
悔しがって、負け惜しみでも言うべきか。それとも、そこまで評価されたことを喜ぶべきか。
しかしそんな思考の海に耽る事を許されるほど、戦場は甘くはない。
「っしゃあ!! 押し返すぞお前等!!」
ゼクト達も援軍の到着によって、威勢の良さが増していく。
そして、援軍メンバー。彼等も損傷は微々たるもので、突入部隊を前に不敵な笑みを浮かべていた。
「こっちは任せてくれていいよ、マスター。さぁ、反撃の時間だ」
【ゴーストハンド】による二振りの中華剣を肩の辺りで構えつつ、右手の中華剣を目標に向けて突き出すのはバヴェル。
「助かる、バヴェル。【桃園の誓い】ギルドマスター・ケイン……参る!!」
左手に盾を構え、右手に長刀≪天狗丸≫を構える【鞍馬天狗】。最前線クラスのプレイヤーである、最強に対抗できる男・ケイン。
――しくじったか。最前線はまだ、早かったのかもな……。
相手の動きを見抜けずに時間を掛けてしまったリンドは、この場で全滅する覚悟を決めた。