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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十五章 第四回イベントに参加しました・弐
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15-02 戦闘準備を進めました

 夜が明け、朝を迎えた頃。イベントに参加するギルドの大多数が、二日目を勝ち進もうと行動を開始する。消耗品の補填に、装備の修理。料理を食べ、腹を満たすと同時にバフを得る。不寝番をしていた者達と、見張りを交代しようと近付いていく。

 そんな光景が、イベント専用エリアのそこかしこで見る事ができる。


 それは大規模ギルド【聖光の騎士団】も、例外ではない。

「ふむ、モンスターの配置……一日目とは異なる状況か」

 アークに報告するのは、周囲の警戒を担当していたヴェインだ。

「えぇ……とはいっても、モンスター自体は大したレベルのモンスターじゃありませんけどね」

 そう言うと彼は、拠点付近で目撃したモンスターの種類を説明していく。確かに告げられたモンスターならば、始まりの町[バース]から第二エリアの都市レベルの強さだ。


 しかし、アークは油断していない。

「時間が経過する事で、更に出現するモンスターのレベルが上がる可能性は十分にあり得るだろう。油断せず、単独行動は控えさせろ」

 例えば正午を越えたら、第二エリアから第三エリアの適正レベルのモンスターが現れるかもしれない。もしくは単体で出現するモンスターが、複数体ポップする可能性もある。

 そんなアークの考えに、誰もが成程と納得した。モンスターを二日目開始と同時に配置したのならば、更にイベントの難易度が上がる。ならば配置されるのが、ゲーム前半程度のモンスターだけとは思えない。


「最終的には、フィールドボスも出て来たりしてね」

「有り得ないとは言い切れないな。よく警戒して事に当たる必要があるだろう」

 ライデンやギルバートも、アークの予想を肯定していた。その上で、彼等は戦意を滾らせる。

 このイベントが一筋縄ではいかないのは、承知済みだ。むしろ、そうこなくては。だからこそ、やり甲斐がある……そう考えているのだ。

 彼等は生粋のVRMMOプレイヤーであり、難易度が高ければ高い程燃えて来る……そういった考えのプレイヤーだ。


「モンスターの配置は、難易度の引き上げ……それに、必要な素材の確保の為だろうね」

 ベイルが会話に加わると、セバスチャンがそれに同意した。

「モンスター素材は、草や花の様にマップに置くような物ではございません。宝箱の中に入れるのも興が削がれますし、間違いないかと」

 宝箱から手に入るアイテムは、基本的にゴールドコインやクエストアイテム……稀に野菜等の食材が収められている。賞味期限が心配になるが、宝箱の中から手に入れて初めて使用期限がカウントされるようになるのだ。もしかして、宝箱の中は異次元なのだろうか。


「とりあえず方針の再確認ですわね。まずは周囲のギルド拠点を一掃する……この方針に、変更は無いのですわね?」

 そんなアリステラの問い掛けに、ライデンが即答する。

「無いね。周囲のギルドを叩いて、ポイントを稼ぐ。これが最優先だ。それに追加して、モンスターの間引きも行う事にすべきかな」

 彼等【聖光の騎士団】は、一にも二にもポイントを稼ぐ事を優先する事にした。目下の相手は、周囲の中小ギルドである。

 来たるべき時に備え、まずはポイントを稼いで安全マージンを確保する事を優先したのだ。それは全て、最終目的の為の下準備に過ぎない。


「本番はその後……全力を以って、強敵を正面から堂々と打ち砕く。我々【聖光の騎士団】の強さを、天下に知らしめるのは邪魔を全て排除した上で……というのが、良いと思うのだけれどね」

 強敵である【七色の橋】や【森羅万象】、【遥かなる旅路】【桃園の誓い】【魔弾の射手】。更に【暗黒の使徒】や【忍者ふぁんくらぶ】など、気の抜けない相手が多々存在するのだ。

 そういった相手と衝突する前に、ポイントを稼ぎ万一にも負けが無い様に備えたい……そんな思惑があった。


 早々に強敵と戦う……といった意見もあった。しかし、それでイベント上位の椅子から漏れるのは避けたい。今度こそ、【七色の橋】に勝つという大目標があるのだ。

 慎重に慎重を期して。それが、今イベントの方針である。


「うむ、ライデンの意見に異論はあるか?」

 当然、異論の余地など無い。ギルドを支えて来た名参謀……そんなライデンの作戦を、ギルドの誰もが信頼していた。

「よし……では周辺ギルドを壊滅させ、ポイントを稼ぐ。スパイ共を一掃した影響で二十人程が減っているが、それは【森羅】や【旅路】も同様だ。決戦に向けて、まずはその為の土台を作るぞ」

 イベント終盤は、決戦の時となる。そう考えるアークの言葉に、ギルドメンバー達は気合いを入れ直した。


 まずは周辺の一掃。それに向けて、ギルドメンバーがチームを組んで行動を開始した。

 拠点防衛に残ったアークとシルフィは、出撃する仲間達を見送っている。

「それにしても良かったのかい、アーク……()()()()()、アタシが貰っちまって」

 シルフィがそう問い掛けると、アークは真剣な表情で頷いてみせる。

「そのスキルと最も相性が良いのは、シルフィ……君だ。それは幹部全員で話し合い、決めた結論でもある。その分、君がギルドの為に活躍してくれれば良い」

 シルフィはシステム・ウィンドウを開き、スキルスロットに視線を落とす。そこに表示されているのは、アレクが手に入れ、そしてデスペナルティによって失ったスキルオーブ……ユニークスキル【七転八起Lv1】が表示されていた。


************************************************************


「さぁ、それじゃあ二日目も張り切って行きましょうか~」

 間延びした口調で、朗らかにそう告げるのは【森羅万象】のギルドマスターであるシンラだ。彼女の周囲には、ギルドメンバーが勢揃いしている。

「それじゃあクロード?」

「あぁ」

 シンラに促され、前に出るのはサブマスターであるクロード。方針を決めたり、ギルドを運営する能力はシンラの方が適している。しかし戦場でギルドメンバーを指揮するという点においては、クロードが最適。この二本柱に加え、アーサーを始めとする実力派の幹部メンバー達……それこそが、【森羅万象】の強みである。


「既に耳にした者も居ると思うが、二日目になりモンスターが姿を現した。これはイベントを単調にしない為、そして真に実力を持つギルドが勝ち残る為の措置だと考えて良いだろう」

 クロードの告げた言葉……その中の一言に対して、ギルドメンバー達は口元を笑みの形にした。誰一人として、モンスターの配置に脅威を感じる者は居ない。

 クロードの言う”真に実力を持つギルド”……自分達は、そのカテゴリーに分類されている。一人一人が、その自信を持っているのだ。


「うむ、良い顔をしているな。お前達の考えている通り、我々にとってモンスターの配置は脅威足り得ない。そして【七色の橋】へのリベンジ、【聖光】を始めとする強豪ギルドを撃破するのは準備が整った後だ。まずは周囲のギルドを制圧し、後顧の憂いを断つ」

 堂々とした様子で、方針を説明するクロード。決して声を張り上げている訳では無いが、彼女の言葉は最後列のメンバーにもハッキリと聞こえている。

 そしてその力強い言葉に、異を唱える者は居なかった。今回のイベントでトップを狙い、頂点の座に輝くという目標は揺るがない。


 その為の前段階は、やはり周囲の中小ギルドを潰す事だ。

 本来ならば周囲のギルドを巻き込み、同調して標的を攻撃し疲弊させる方が常套手段と言えるだろう。こうした大人数同士が何組も入り乱れる戦場において、敵の敵を一時的にでも味方に付ける。

 このやり方は、戦略的にも非常に有効である。


 しかし【森羅万象】は今回、その手段を真っ先に捨てた。

 理由はただ一つ……それは、第二回イベントの雪辱を晴らす為。その為には、【森羅万象】単体で相手を圧倒する必要があると考えたからだ。

 これは強者として、そして大規模ギルドとしての矜持とも取れる。

 ただし、それだけではない……単純に、VRMMOプレイヤーのサガ故だ。つまり、単純に負けず嫌いの意地という訳であった。


「相手も相応の実力を備えた猛者である事は、お前達も重々承知の上だろう。しかし案ずるな、お前達は強い。一人一人が実力を発揮し、連携を乱さなければ、どんなギルドが相手でも打ち砕く事が出来る!」

「「「オーッ!!」」」

 そんなクロードの演説に、一人一人が力強い表情を浮かべ応える。突き上げた拳には、やってやるぞという気合いが込められている。そして胸に宿した闘志は、激しく燃え上がっていた。


 つい最近まで、実力が不足する仲間の育成を二の次にしていた【聖光の騎士団】。それに対し自分達は、ギルド発足当初から全体のレベルアップに心を砕いて来た。

 個の力が強くても、少人数の【七色の橋】や【桃園の誓い】、【魔弾の射手】に数で勝る。潜入されたスパイ達二十人を追放したとしても、八十人の精鋭が居る。


「お前達の奮闘に期待する! さて……まずは各チーム、出撃前に私の所に来て貰いたい。まずはアーサー達からだ、付いて来い」

 そう言うと、クロードは拠点内に設えられた会議スペースへと向かう。呼び掛けられたアーサーは、同行するメンバーを伴ってクロードの後を追った。


 そしてスパイ達を排除した際に、彼等が所有していたアイテムやスキルオーブがギルド倉庫に収納された。その中には、エレナが使用した【変身】もある。

 これらを分配し活用する事で、イベント参加メンバーの戦力増強を図る事が出来る。

 シンラはスパイ討伐の後も、仮眠を取る事無く戦利品の確認を敢行した。そして、それらをどう分配するのか……それを考え続けていたのだ。


************************************************************


 一方、【遥かなる旅路】でも二日目に備えてメンバーが集合していた。

「偵察メンバーの皆、ご苦労だった。報告を頼む」

 カイセンイクラドンがそう告げると、偵察を行っていた五名のプレイヤーが笑みを浮かべた。


 ちなみにこの偵察だが、スパイとの大乱戦の後から敢行された作戦だったりする。というのも【遥かなる旅路】はイベントマップの東寄りに配置されているのだ。イベントマップの全体像を確認する為にも、そして主要ギルドの所在を確認する為にも……昨夜の大乱戦に参加したギルドを、こっそりと後を尾行けさせたのである。


 ちなみに【遥かなる旅路】にも尾行が付いており、カイセンイクラドン達もそれを察知してはいた。しかし、それをわざと無視したのだ……何故ならば、ギルドクリスタルを持ち帰る必要があったから。

 ギルドクリスタル破壊、または帰還制限を迎えるか。それとも、自軍の位置情報を相手に知られるか……この中で、最もリスクが少ないデメリットを選択したのだ。


「初日に確認した通り、【聖光】は岩場エリアの開けた場所に拠点を構えています。こちらは大きな岩で身を隠しながら、接近が可能です。周辺のモンスターの中にロックゴーレムが居ましたが、レベルはさほど高くありません」

「【森羅万象】も周囲に障害物がありましたからね……もしかしたらギルド規模に応じて、拠点の立地に影響があるのかも」

 メンバーの一人……ロビンが告げた内容に、トロロゴハンは「ありえるわね」と頷いてみせた。


 実際、ギルド拠点の立地にもイベント参加者の人数が関与している。参加プレイヤーの人数に応じて、拠点防衛の難易度が高くなるのだ。

 ちなみに【遥かなる旅路】は中規模ギルドなので、可もなく不可もなく……といったところか。


「さて……それで、【七色】はどうだったの?」

 トロロゴハンに問い掛けられたプレイヤー……弓使いの女性【リーリン】は、難し気な表情を浮かべた。

「それが、御城でした」

「……城?」

「はい……それも立派な和風の御城です。堀もありました」

 その言葉を最後に、気まずい空気が流れる。痛いくらいの沈黙、しかしメンバーの心の声はとても騒がしい。


――和風の城って、ちょ……おま……。

――マジで? そこまでやっちゃう?

――これが【七色】クオリティ……いや、もういっそ感心しちゃうわ。


「よし、難攻不落! 城攻めとか労力が半端ないから、駄目ね!」

「良いのですか、トロさん?」

 即断即決のトロロゴハン。彼女は正面から【七色の橋】を攻めるのは、労力に見合わないと判断した。そんなトロロゴハンに、エルリアが困惑気味の表情で確認する様に声を掛けるが……トロロゴハンは、動揺の”ど”の字も見せない。

「100ポイント得る為に、100ポイント失う羽目になるわよ。いえ、100で済めば御の字かもしれないわね。プラマイゼロどころか、マイナスになる可能性は限りなく高いわ。あと、単純に遠い」

 エルリアの疑問に、またも即答するトロロゴハン。


 実際、プレイヤーが十人倒されれば100ポイントを失うのだ。運よくギルドクリスタルを破壊出来ても、マイナスになる可能性は大いに有り得る。

 そして目的地が、遠ければ遠いほど損害は大きくなる。その間で発生する戦闘、その損害を勘定に入れ……割に合わない、その結論に至るのは至極当然の事だった。


「まぁ、割に合わないのは間違いないか……でも、勝ちに行くんだろう?」

 カイセンイクラドンがそう言うと、トロロゴハンはニヤリと笑って見せた。

「勿論。正面から戦って勝てるなら、そうしても良い。でも今回のイベントは、ポイントありきのGvGよ。それならそれで、戦い様があるわ」

 トロロゴハンは仲間達に視線を巡らせて、堂々と宣言した。

「最終的に高ポイントを保って、一位になれば良いの。だから二日目はモンスターにも注意を払いつつ、中小規模のギルドを攻略。ポイントを稼げるだけ稼いでいく。相手がどれだけポイントを稼いだか、今回は確認する術がない……なら、やれるところまでやるしかないわ」


 追放されたスパイは、ルシアをはじめとした五人。残るプレイヤーは五十四名、PACパックは十二名だ。そこに応援NPCが二十八名加わるのだが、その内の十名は生産系NPCとなる。

「夜の内に、拠点防衛と実働部隊を分けたわ。既にデスペナを受けている子達は、可能な限り均等に配置した。全体の戦力低下には至っていないから、まだ十二分に稼げるはずよ。ギルドメッセージで編成の詳細を送ったから、確認して頂戴」

 トロロゴハンがそう言うと、全員がシステム・ウィンドウを開いて編成を確認し始める。


 斥候職・盾職・火力役・魔法職・回復役……様々な状況に対応できる、オーソドックスな編成だった。しかしながら、一要素に特化した作戦行動には向かない。万能と言えば聞こえはいいが、その実態は器用貧乏である。


 だが、トロロゴハンは自信満々だ。それは、自分が考えた編成に自信があるからではない。

「見ての通り、基本的な編成。実験も冒険も捨てた、基礎の上塗りね……でも、貴方達も知っているでしょ? 最後にモノを言うのは、その基本だって」

 地道な研鑽、ありふれた修練、面白みのない反復練習。しかし戦う力を支えるのは、その基礎だ。


「どんなに立派なお城でも、土台がグズグズだと倒れるのは一瞬よ。でも私達が固めてきた基礎は、どんな揺れにも耐え得る強固さを誇る。万能型の器用貧乏、大いに結構! 最後に勝つのは、地力を鍛えた者ってことを教えてあげましょう?」


************************************************************


 そして、【桃園の誓い】も二日目に向けて話し合いをしていた。PACパックや応援NPCは警戒中で、ギルドクリスタルを横目にプレイヤーのみで会議中だ。

「二日目の方針については、昨夜話した通りだ。何か質問はあるかな?」

 ギルドマスターであるケインがそう告げると、一人の青年が手を挙げた。

「レオン、何かな?」


「昨夜の戦いで思ったんだが、バヴェルさんにも前に出て貰うのはどうだ? 拠点防衛に欲しい気もするんだが……【ゴーストハンド】を利用した、剣での攻撃。あれは対人戦でも、モンスター相手でも通用すると思う。拠点攻めをする突破力としては、非常に心強い戦力じゃないか?」

 レオンがそう言うと、仲間達の視線がバヴェルに集まる。そんな視線にも、バヴェルは揺らぐ事なく笑みを浮かべていた。

「そうなると、攻め手を三チームに出来るか」

 レオンの発言をゼクスが引き継ぎ、編成について話し始める。

「ケインとダイス、バヴェルでチームを率いて攻めるなら、同行者も見直す必要があるが……俺等はプレイヤー数が少ない、攻め手が増やせるなら実際アリだろ」


 そんなゼクスの言葉だが、ダイスがそれに待ったをかける。編成を見直すにしろ、ギルドとして動くには本人の意思と作戦を考案する本営の判断を確かめなければなるまい。

「まぁまぁ、ちょっと待とうぜ。バヴェルさん、アンタはどう思うんだ?」

 問い掛けられたバヴェルは、穏やかな表情を崩さぬままに頷いて見せる。

「攻めでも守りでも、オーケーだ。仲間の期待に応えるよ、僕は」

 その力強い言葉を口にして、バヴェルはケインに視線を向ける。

「判断はギルドマスターに任せる。どこに配置されても、僕は全力を尽くすと約束しよう……なにせ、ここからが本番だ」


 バヴェルの言葉を受けて、ケインは頷いて立ち上がる。システム・ウィンドウを開いて可視化設定にすると、彼はそれを拡大させてマップが全員に見えるようにした。

「恐らく他の強豪ギルドも、この先取る手段は同じだと思う……まだ中小規模のギルドが生き残っているうちに、彼等のギルドクリスタルを破壊してポイント稼ぎを進める算段だろう」

 イベント上位を狙うギルドならば、結論は変わらないはず。ケインはそう考えて、周囲のギルドについて説明し始める。

「彼等がイベントから敗退したら、ギルドポイントを稼ぐ手段の難易度が跳ね上がる。そうなる前に、稼げるだけ稼ぐ」


「そうなると、確かに攻め手を増やすのは有効ね。拠点防衛のメンバーには、負担を強いる事になるけれど……」

 二日目の振り分けは、ケインとダイスがチームを率いて他ギルドの拠点を襲撃する予定だった。

 ケインチームには、イリス・ゼクス・チナリを配置。ダイスチームには、フレイヤ・ゲイル・ヒューゴ。拠点防衛にレオン・マール・ゼクト・ヴィヴィアン……そして、バヴェル。ここに、PACパックや応援NPCを振り分けて、三チーム体制にするつもりだった。


「心配すんな、キッチリ守ってみせるさ」

 力強い笑顔を浮かべて、ガッツポーズをしてみせるレオン。その表情からは、ギルドの為に力を尽くそうという意思が窺える。

 そんなレオンに、他の面々も追従する。

「ふふっ、背中は任せてくれて良いのよ?」

「クリスタルには、指一本触れさせはしないぜ」

「私も頑張りますよ! えぇ、頑張りまくります!」

 頼れる仲間となった彼等の言葉に、ケインは笑みを浮かべてみせる。そんなケインの様子に、ギルドメンバーの誰もが心の中で安堵した。


 昨夜の対スパイ戦……そこで、彼はドラグを処断した。ドラグを切り捨てざるを得なかったのだ。

 それが彼の様な、心根の優しい青年には精神的に堪える事なのは明白だ。それでも己の心を押し殺して、気丈に振る舞わなければならない。

 ギルドマスターという立場が、彼の肩に重く圧し掛かっている。ケインが無理をしているのは、メンバーの誰もが分かっていたのだ。


 しかし今、ケインの表情に浮かんだのは心からの笑みだ。様々な感情を振り切れてはいないにしても、重圧を少しは軽減出来たのだろう。

「ケイン、何でも一人で背負うなよな」

 ケインの胸に握り拳を軽く当てて、ゼクスがニヤリと不敵な表情で笑う。親友だからこそ、ケインの内心はお見通しだった。

 そしてイリスがケインに寄り添い、彼の手に自分の手を重ねる。

「一人で持てる荷物の量には、限りがあるわ。優秀なリーダーっていうのはね、人に任せるのが上手い人の事よ?」

 そう言いながら「任せっぱなしは論外だけどね」と付け足して、慈しむように笑い掛けるイリス。


「……あぁ、皆の言う通りだな。よし! 飯を食いながら、配置を見直そう。皆もどんどん、意見を出してくれ!」

『おうっ!!』


************************************************************


 そして、【七色の橋】の拠点……誰が呼んだか[風雲七色城]でも、ブリーフィングの時間となっていた。

「戦術的に考えれば、どのギルドも中小規模のギルドを狙うはずだ」

「そうでしょうね……手っ取り早くポイントを稼ぐならば、それが常套手段です」

 今回のイベントにおいては、成績を評価するのにポイントという評価基準が明確化されている。

「ちなみにこのポイントですが、最終集計で何らかの加算があるはずです。第一回イベントの時の様に」

 レンがそう言うと、第一回イベントに参加していなかった面々から質問が飛んだ。


「あの、僕はその時まだゲームを始めていなかったんですが……どんなモノだったんでしょうか?」

 ヒビキがそう質問すると、ジンが笑みを浮かべて答えてみせる。

「キルカウント一位とか、タゲ引き一位とか……そういった、特別な条件を満たしたプレイヤーに対するボーナスポイント。頑張ったプレイヤーへの、ご褒美みたいなものだったでゴザルよ。拙者の場合は、ノーダメージに対する評価だったでゴザル」

 何でもないことの様に言うが、ジンの発言に初期メンバー以外が目を見開いた。


「え? ジン兄? 待って、ノーダメ? あの、モンスターだらけの乱戦で?」

「うむ、とにかく避けたでゴザル。避けて避けて避けて、一度も攻撃を受けてはいなかったでゴザルよ」

 その割には、第一回イベントのPVにはジンが何度も映っていた気がする。それはもう、何度も。映画館のコマーシャルとして上映された、アレでも。

 特に南門のボス戦では、ジンが朱雀を翻弄する様なシーンが映っていた。その時、確かに攻撃を食らった映像は無かったが……。

 ちなみに運営もジョークのつもりで”門の外で戦闘したプレイヤーのみを対象とするノーダメージボーナス”を設定したが、本当に現れるとは思っていなかった。ジン達には、それを知る由も無いが。


「……おk、ジン兄はジン兄だった」

「ん-、ジン君は人間やめてるねぇ」

 イトコ二人からの褒め言葉なのか、ディスっているのか判断に迷うお言葉。流石のジンも、それには眉尻を下げざるを得ない。

「ちなみにジンさん、今回のイベントではまだ戦闘不能にはなっていませんよね」

 リリィがそう問い掛けると、ジンは苦笑したまま昨夜の戦闘でのダメージについて話す。

「でゴザル。今のところ、アンジェリカ殿との戦いでギリギリまでいったくらいでゴザルな……いやはや、強敵でゴザった」

「流石にノーダメ報酬は無理でしたけど、それなら戦闘不能ゼロを狙いましょう!」

 そう言って、ガッツポーズを取るリリィ。


 リリィのそんな発言で、ジンもフッと柔らかな笑顔を浮かべて頷いてみせる。それは彼女が、自分を気遣って話題の方向転換をしてくれた事に気付いているからだ。

 そこで、ジンはある事に気付いた。


――そう言えば、僕ってまだ()()()()()()()()()()()()な。


 そんな言葉を口にしていたら、またも仲間達に驚かれた事だろう。このゲーム内で、戦闘不能を経験した事がないプレイヤーは何人居るのだろうか。それも、戦闘職で。


 ともあれ、ジンはリリィの軌道修正に乗っかる事にした。

「戦闘不能といえば、確か五回で復帰リスポーン出来なくなるのでゴザったな」

 ジンがそう言うと、レンが頷いてみせる。

「はい。つまり復帰リスポーン不可能による、戦線離脱ですね」

 このイベントでは、いくらでも戦えるわけではない。五回の戦闘不能によるデスペナルティは、イベントエリアからの退去となってしまうのだ。

 既に少なくないプレイヤーが戦線離脱しており、観戦エリアに転送されている。最も、ジン達にそれを確認する術は無いのだが。


 ジンとレンが会話していると、マキナが真剣な表情で話に加わる。

「加えてギルドポイントを失った場合、ギルドそのものが戦線離脱となります。昨夜の廃拠点……確か【宴】というギルドの拠点でした」

「既に敗退しているギルドも出て来ている……という事になりますね」

 シオンがそう言うと、マキナは頷いてみせる。


 そこでハヤテが、ヒイロに声を掛ける。

「ギルドポイントを減らす要因は複数あるんスけど、増やす方法は一つなんッスよね。ギルドクリスタルを破壊しなければ、ポイントは増えない」

 そう、ポイントを増やす手段はそれだけ。プレイヤーやPACパック、応援NPCをいくら倒しても、ポイントは加算されないのだ。

「そして敗退するギルドが増えると、ギルドクリスタルの数が減る……だね」

「稼げるタイミングは、昨日の夜までと今これからッて事になるッスね」

 マキナとハヤテの言葉に、ヒイロは力強く頷いた。


「ギルドクリスタルを一つでも多く、少しでも早く破壊する必要がある……だな」

 そうなれば狙うのは勿論、中小規模のギルドだろう。彼等がまだ残っている内に、ギルドクリスタルを破壊しに攻め込む必要がある。

「となると、本日も分散して動く形になりますね」

「昨日と違って、各ギルドも拠点防衛を意識しているはず。同じ編成は、当然警戒されていますよね」

 ヒメノとアイネの言葉に、ヒイロは笑みを浮かべて頷いた。


 懸念事項だったスパイは、昨夜の内に排除した。これまでの戦績から狙われる事はあっても、一方的で粘着質な攻め方をするギルドは減らせただろう。

 ならばここからは、自分達の本来の持ち味を活かした戦術が取れる。

「あぁ。だから今日は、()()()()()に転じようか」

次回投稿予定日:2022/6/30(本編)


【七色の橋】をはじめとする、主要ギルドがアップを始めました。

もう、みんな死ぬしかないじゃない!!(マ〇さん顔)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大手ギルドにスパイ達からの強化素材が!! って思ってたら最後に不穏な殲滅宣言がw
[良い点] ベッドの上でヒメノちゃんにホールドされて戦闘不能になってたのは誰だったかなぁ!?(語弊)
[一言] これから(主要ギルドの)全力全壊の戦いになるんですねぇ では、いよいよもってタヒぬがよいw
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