15-01 夜が明けました
読者の皆さん、甘いものは好きですか?
作者は好きです……が、最近はブラックコーヒーが捗ります。
各コンビニの挽き立てコーヒー、良いですよね。
まぁつまり、何が言いたいかというと……
【過 糖 警 報】
ギルド同士が鎬を削り合う、第四回イベント。そのイベント専用エリアも二日目を迎え、混沌とした夜が明けて朝日が昇り始めていた。
ゲーム内時間としては、朝の六時半である。朝日が昇る時間も現実の季節とリンクさせているあたり、運営の環境設定はとても細かい点まで考えられているらしい。
そんな夜明けの中、夢から醒めた一人の少年が居る。
――朝か……流石に疲れていたからか、いつもより遅く起きたかな……? いや、そうだ。今はイベント中だった。
時計の類が無くとも、彼は即座に今が何時くらいかを察していた。毎朝、五時前後には目を覚ます彼……寺野仁としては、少し寝坊した感覚らしい。
そこで、ふにっとした柔らかい何かの感触に意識が向く。
――あれ? 鎖骨辺りに何か……それに、すべすべした感触……これは…………あ。
柔らかく温かいその感触で、ジンは現在の状況についてようやく気が付いた。彼はスパイ騒動に決着が付いた後、最愛の恋人……ゲーム内では結婚している少女、星波姫乃と同衾していたのだ。
その事実に思考が追い付くと、瞬時に眠気がどこかへと吹き飛んだ。すぐに思考回路がフル稼働を始め、今すべき最善の行動について考えを巡らせる。脳細胞がトップギアだぜ。
すべすべした何かは、彼女の肌だろう。柔らかいものは、当然彼女の胸だろう。それも中学二年生とは思えない、大人顔負けのサイズのお胸様である。
そして彼は今現在、そんな彼女にがっちりホールドされている。愛妻ホールドだ。
結論、はよヒメノに起きて貰わにゃならん。
「ヒ、ヒメ? 起きてる……?」
「ん……んぅ?」
起きそうだ、起きてくれそうだ。しかし、まだ夢心地らしい。
「ジン……さん……?」
「うん、そろそろ起きない?」
「えへへ……ジン、さん……♪」
更に抱き締められた。そのリアクションが可愛いので、ジンは「もうちょっとこのままでも良いか?」なんて考えが浮かび掛ける。
しかし、このままだと流石に照れるやら気恥ずかしいやらで大変な事になる。
「匕、ヒメ? 起きよう? ね?」
「んー……あと、五分……」
「定番の台詞!?」
五分間もこのままの体勢だと、流石のジンでも理性が煩悩に敗北する可能性がある。故に、ここはなんとしても屈してはならない。
結論から言うと、ジンがヒメノに解放されたのは五分以上経ってからだった。尚、煩悩には打ち勝った模様。
……
「やぁ、おはよう」
戦闘用の装備に切り替えて、建物から出たジンとヒメノ。そんな二人を出迎えたのは、甚平姿のユージンだった。彼はこれまでと違い、付け髭やサングラスは外しており、髪もおろした状態である。服装だけが【七色の橋】と作り上げた装いで、それ以外はユアンを名乗っていた頃の姿だった。
「おはよう、ジン君! ヒメノちゃん!」
その隣には、ミモリが立っていた。彼女は既にメイン装備で、いつでも行動を開始できる状態だ。
「姉さんにユージンさん、おはようございます」
「おはようございます! ユージンさん、変装はしていないんですね?」
ヒメノがユージンにそう問い掛けると、彼はニッコリと笑って頷いた。
「まぁね。イベントに参加しているプレイヤーは、まだ僕がユアンだと知らないだろう。しかし、観戦しているプレイヤーは既に把握しているだろうからね」
まだイベント参戦組が詳細を知らなくとも、観戦組は既にユージンがユアンの正体だと察している。ユージンはそう考えていた。
彼は不意打ちで優位を確保する為に、変装をしていたのではない。ただ正体不明の強者という存在感を出す為に、普段からロールプレイをしていただけ。
つまるところ彼にとっては、公の誰かにバレた時点で変装の意味が無くなるのだ。そんな訳で、陰の実力者プレイは昨夜をもってお終いにしたらしい。
「さて、他の皆も起きてくるかな?」
「そうですね。そろそろ、朝食作りにします?」
ユージンとミモリがそう言うと、ジンとヒメノは迷いなく声を上げる。
「「あ、手伝います!」」
ハモってしまった二人は、思わず顔を見合わせてしまう。そんな二人の様子を見て、ユージンとミモリは穏やかな笑顔を浮かべてみせた。
「本当に、似た者夫婦だね。仲が良い様で何よりだ」
ユージンはそう言うと、システム・ウィンドウを操作してエプロンを装備する。
エプロンと言っても、上半身と下半身の両方を覆うビブ・エプロンではない。腰から下のみを覆う、ウエスト・エプロンである。
ここでユージンがフリル付きのエプロンを装備し出したら、中々に面白い光景だったが……流石に、そこまで突き抜けてはいないようだ。
「それじゃあ、お手伝いをお願いしても良いかな?」
ミモリは逆に、ビブ・エプロンを装備。同時に、邪魔になりそうな袖部分を非表示にしている。勿論、≪ユージンの飾り布≫もだ。
エプロン自体も、ゴテゴテしたデザインではない。シンプルな、淡い緑色のエプロンである。それでもミモリが大人っぽい容姿なので、その方が彼女の魅力をより引き立てている。
「はい、頑張ります!」
ヒメノはシステム・ウィンドウを操作すると、ミモリ同様に袖部分と≪八岐之飾り布≫を非表示設定に変更。その上から、エプロンを装備した。
残念ながらハートマークとフリルがふんだんにあしらわれた、新妻向けエプロンではない。しかし桜の花が咲き乱れる、白と桃色で彩られた可愛らしいエプロンだ。
これは料理の特訓という名の花嫁修業をする為に、シオンとセンヤに相談して用意して貰った逸品である。ちなみに付随する効果としては、生産した料理のバフ効果を2%向上させるというスグレ物だったりする。
「それじゃあ、僕は……」
対してジンは、鍛冶や装飾品生産の際も普段の装備のままだ。しかし料理の場にそれはそぐわないだろうと、本人も考えたらしい。
そこでシステム・ウィンドウを開き、せめて鎧や苦無・手裏剣の装飾部分を非表示にしようとした所で……。
「おやっ?」
「?」
「……ふふふ」
ジンの視界に、メッセージが流れ出した。そのメッセージが示すのは、他のプレイヤーからプレゼントが贈られた事を示している。送り主? そこに居るアロハな甚平さんだ。
「ヒメノ君と一緒に料理をしたりする機会があると思ってね、こんな事もあろうかと用意しておいたのさ。こんな事もあろうかと」
「強調しますね、こんな事もあろうかと」
”こんな事もあろうかと”は特定の人にとっては、是が非でも言いたい台詞なので仕方が無い。
「あ、それじゃあ……もしかして!」
ジンに向けて、ヒメノが期待の眼差しを向ける。最愛の旦那様の新たな一面が見れる、その事に対する期待だろう。
「……ユージンさん、フィールドで見付けた素材要ります? せめてものお礼に」
「ははは、タダでも良いのに。相変わらず律義だ」
「まぁ、ジン君はそういう子よね」
思えばジンはユージンに気遣って、自分のエクストラクエスト報酬であるチケットを譲る程のお人好しだ。タダでプレゼントを受け取る少年では無いのは、ユージンも承知の上だった。
「じゃあ報酬については、イベント後で良いよ。それより、付けてみてくれないか? ヒメノ君も期待している様だし」
「ハードルを上げないで下さいよ……」
そう言いつつ、ジンはシステム・ウィンドウを操作していく。やはり、プレゼントはエプロンだった。
「わぁ……!!」
「おぉ……流石ユージンさん。や、これはジン君が付けているからっていうのも……」
「そうだね、モデルが良いと装備品も映えるから。しかし、うん。我ながらグッジョブ」
ジンといえば、イメージカラーがやはり紫……もしくは黒なのだが、ユージンが用意したのは白いビブ・エプロンだった。装甲や装飾を取り払った上にそれを装着しているので、違和感は無い。
加えてジンは細身ながら、しっかりと鍛え上げられた身体付き。中々に似合っていた。
「中々に似合うね、ジン君。格好良いよ」
「そうですか? でも、料理はそこまで詳しくないから、見た目だけになりそうで……」
「なに、誰だって最初は初めてよ~? 心配は要らないわ」
和やかに話すジンとユージン・ミモリだが、ヒメノはぽーっとしたままフリーズしている。そんなヒメノに気付き、ジンははて? と首を傾げた。
「どうしたの、ヒメ?」
ジンに呼び掛けられて、ヒメノは自分が呆けていた事に気付く。
「はっ!? い、いえ! 何でも無いです! 見惚れてただけですから!」
取り繕うという概念が、彼女には無いのかもしれない。なので慌てながら、ジンに心の裡を馬鹿正直に打ち明けてしまう。
そんなヒメノを見て、ユージンとミモリは苦笑する。でも、止めないのは二人の邪魔をしない為だ。ジン×ヒメノのラブラブ状態を邪魔してはいけない、これは当ギルド内では常識である。
「み、見惚れて……?」
「はい!! ただ、ジンさんが素敵だなぁって思っただけで!!」
「ごめん、照れるんでそのくらいでお願いします」
「いいじゃないか、夫婦同士の時間だ。要するに、いいぞもっとやりたまえ」
「ユージンさん!? 何故、私まで柱の影に!?」
「ナズェミティルンディス!!」
「確信犯!! あと、見てる側の台詞ではないですけど!?」
照れながらツッコミを繰り出すジン、そんなジンに熱を帯びた視線を向けるヒメノ、ダディアナザンしているユージン、巻き込まれるミモリ。そんな騒がしい四人だ、すぐに周りに人が集まる。
「おはようございます主様、奥方様、ミモリ様、ユージン様。ゆっくりお休み頂けましたか?」
ジンのPACであるリンがそう言って歩み寄ると、ヒメノとユージン・ミモリはすぐに復帰した。
「おはようございます、リンちゃん!」
「おはよう、リン君」
「不寝番させて済まなかったわね……お陰様で、ゆっくり休めたわ」
僕は朝から無駄に疲れたよ……と言えたら、どんだけ楽だろうか。そう思いつつも、ジンはリンに向き直る。
「おはよう、リン。警戒、ありがとね」
「いえ、お役に立てたならば何よりです」
リンの後に話し掛けて来るのは、応援者のまとめ役であるダナンだ。
「休めたようで何よりだ、ジンの兄ちゃん。メシの支度に人手は要るかい?」
彼等も寝ずに警戒をしてくれたというのに、更に手伝いを申し出て来る。気持ちはありがたいが、彼等にも休んで貰わねばなるまい。
「いえ、夜通し見張って疲れたでしょう? 僕達で食事の準備をしますから、今のうちに休息を取って下さい」
ヒイロやレンも、この指示に文句は言わない。それが解っているからこそ、ジンはギルドメンバーを代表してそう指示した。
「そうかい? そいつはありがてぇ。なら、お言葉に甘えて少し休ませて貰うぜ」
「リン達も休んでね。何かあれば、声を掛けるよ」
「かしこまりました、主様。お気遣いに感謝致します」
仲間達が起きるまで、まだ時間はある。その間の警戒が、手薄になるだろう。
しかしジンは、ヒメノとユージン・ミモリが一緒ならば問題は無いと考えた。それが判断間違えとは、一概に断じる事は出来ない。
なにせ、自分を含めた三人はユニーク持ちの極振りプレイヤー。そしてミモリはアイテム投擲により、味方を支援する戦う調合師なのだ。不安要素は無い、むしろ安心感しかない。
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ジン達が朝食の支度に入り、十数分後。建物から、二人の人物が姿を見せた。
「あれ? おはようございます、四人共早いですね」
「おはようございます、ジン様、ヒメノ様、ミモリ様、ユージン様」
起きてきたのはネオン、そしてシオンだ。
「すぐにお手伝いに加わらせて頂きます」
シオンが手伝いを申し出ると、ネオンも笑顔を浮かべて自分もと手を挙げる。
「あ、私もお手伝いしますね!」
ヒメノに並んで、エプロンを装備するネオン。
緩やかでふわふわとした雰囲気のネオンなので、どことなく家庭的なイメージも感じさせる。そんな予想に反せず、彼女も料理は普通にできる様だ。その理由は……。
「ネオンちゃんは、自分でお父さんのお弁当とかも作ってるんだよね?」
「ふふっ、そうだよ~」
笑顔で応えながら、手際良く食材の下拵えをするネオン。
しかし彼女がそうする理由は、母親が居ないという家庭環境に起因する。
ネオンの母親は身体が弱く、彼女が幼い頃に病気で亡くなったという。それからというもの、ネオンは家事を一手に引き受ける父親を支えようと、手伝うようになったのだ。
そのお陰で、ネオンは家事全般に長けているのである。
そうこうしていると、建物から二人の人物が姿を見せた。
「お兄ちゃん、レンちゃん! おはよう!」
「おはよう、二人共!」
ヒメノとミモリが声を掛けると、ヒイロとレンが連れ立って歩いて来る。どことなく、ぎこちない様子で。
「おはよう……あれ、何かあった?」
はて? と首を傾げるジン。流石、他人の心の機微に聡い。
「あぁ、おはよう……いや、何て言うか……」
「おはようございます。えぇと、大した事ではないので……」
――相談した後、眠気に負けて気が付いたら……。
――朝まで寄り添って眠っていたとは言えない……!!
レンの相談を受けたヒイロは、感極まったレンが落ち着くようにと肩を抱き寄せていた。そこまでは良かったのだ。
その後レンはヒイロの温もりに安心感を覚え、そのまま夢の世界へ旅立った。そしてヒイロもレンが落ち着いた事で安心し、そのまま疲れのせいもあってスヤァ……。
で、朝チュン。いや、決してやましい事は、何も無いのだが。無いのだが。ちょっと保護者さんには言えないかな。
「おはようございます、お嬢様。ヒイロ様も、おはようございます。疲れは取れましたか?」
「おはようございます! 何か飲みますか?」
「二人共、おはよう。すぐに朝食の支度をするから、待っていてくれたまえ」
シオン・ネオンは、ぎこちない雰囲気に気付いた様子もなく……ユージンに至っては、いつも通りの穏やかな笑みで二人に声を掛けた。二人が共に(とっても健全に)一夜を明かしたとは、微塵も考えていない様である。良かったね。
その次に起きて来たのは、カノンとリリィだ。
「お、おはようござい、ます……何か、出来る事があれば……」
「おはようございます。お邪魔じゃなければ、私もお料理に参加します!」
カノンは料理バフの検証の際に、台所に立った事がある。なので手伝い程度ならば、十分戦力になるのだ。
「わ、私は何を……すれば、良いかな……?」
「あ、じゃあカノンさんも、おにぎり手伝って貰えますか?」
「リリィ君、パンケーキを焼いて貰えるかい?」
「了解です! 豪華な朝食になりそうですねぇ」
リリィはこれまでゲーム内では料理をした事は無かったが、現実では普通に自炊している。その為、料理に関して素人という訳ではない。
数名で朝食の支度を進め、日が昇ったところで残るメンバーがやって来た。
「おはよーッス」
「おはようございます」
ジン達にとって予想外だったのは、アイネがこのタイミングで起きて来た事である。彼女の家はかつては厳しめの教育方針だったと知っているので、もっと早く起きて来ると思っていたのだ。
その原因は仮眠前、ハヤテからプロポーズを受けた事が原因なのだが……それを知る者は当人達のみである。ともあれプロポーズを受け、ハヤテと離れるのを嫌ったアイネがそのままハヤテの部屋で眠りについたのだ。無論、不純異性交遊な要素は一切無しで。
「遅くなってごめんなさい、何か手伝う事はありますか?」
「あ、串焼き? シオンさん、お手伝いするッスね!」
次に起きて来たのは、コヨミだ。
「おはようございますー……皆さん、結構早いですねぇ……ふわぁ……」
コヨミは単純に、疲れですっかり寝入ってしまったのである。肉体的な疲労は、ゲーム内なので当然の如く無し。要するに、精神的な疲労が蓄積していたのだ。
駆け出し配信者のコヨミは、まだAWO歴がそこまで長くない。贈られた装備や、ジン達によって鍛えられたプレイヤースキルもあって立派な戦力なのだが……精神的には、あの大乱戦はやはりメンタル面に堪えたらしい。
「えっと、お手伝いは何をすれば……? 一応、多少は料理も出来ます」
「それじゃあコヨミさん、焼き上がったパンケーキにソースをかけて貰えますか?」
センヤとヒビキの二人は、何でもない様子で揃って姿を見せた。
「おっはよーございまーす!」
「皆さん、おはようございます」
この二人が一緒の布団で眠っていたとは、誰も思ってもいなかったりする。
幼馴染として長い年月を共に過ごしたからか、側に居る事が至極当然といった雰囲気だったのが一番の要因かもしれない。ジンとヒメノが新婚らしいカップルならば、センヤとヒビキの場合は熟年夫婦の様な空気感といった具合だろうか。
「おっ! エビふりゃー! エビふりゃーだ!」
「エビフライ、ね……揚げ終えたのは、このお皿に盛れば良いですか?」
「うん、それで頼めるかな?」
クベラもコヨミ同様に、狙った時間に目を覚ます事が出来なかったらしい。
「遅くなってごめん、寝過ごした……うわぁ、良い匂い」
まだ眠いのか、商人ロールプレイ……つまり、エセ関西弁も忘れているクベラ。素のままの、穏やかな標準語で挨拶をする。
昨夜のカノンとのやり取りで、一歩進んだ気がしたが……どこまで自分達は進展したのか? それが分からなかったので、悶々として中々寝付けず、思ったより寝過ごしてしまったのだ。
「よーし、俺も手伝いに参加しないと……料理は平凡レベルだけど。あ、おにぎりなら普通に作れそうかな?」
「ク、クベラさん……そこに、炊いたお米、あります……」
そして、クベラのすぐ後にマキナが姿を見せた。
「おはようございます……僕が最後でしたか、遅くなって済みません」
急いで朝食の支度に加わるマキナ。とはいっても料理はほとんど完成済みなので、手伝うのは配膳の方だ。
眠れなかった原因は、ネオンとの深夜の月見……その時の彼女の言葉が、頭の中でグルグル回っていたので、中々に寝付けなかったのだ。
「しかし、凄い量だ……まぁ、百人分だもんなぁ……」
「自分達でこんな量の料理を作る事になるとは、思いませんでしたよねー」
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料理が完成して、少ししたらPACと応援者達が起きて来た。
他ギルドへの警戒をしなくてはならない為、ジン達は朝食を弁当箱(ユージン製)に詰めて門の上へ。PACと応援者達は、建物の前で休息がてらの朝食である。
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北側:ジン・ヒメノ・カノン・クベラ・コヨミ
南側:ヒイロ・レン・シオン・リリィ
東側:ハヤテ・アイネ・マキナ・ネオン
西側:ヒビキ・センヤ・ミモリ・ユージン
建物:リン・ヒナ・ロータス・セツナ・ジョシュア・カゲツ・カーム・ボイド・メーテル・応援者達・コン
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ヒイロは二日目について、夜の内に考えを巡らせていた。
「一日目とは、何か違った要素が追加になっているかもしれない。何か変化を感じたら、ギルドメッセージで連絡を取り合おう」
そんな指示を出したのも、当然ながら理由がある。それは、イベントルールの中にある一文だ。
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【モンスター】
・マップ内にはモンスターも配置される。
・モンスター撃破によるポイント増減は発生しない。
・モンスターによって戦闘不能になった場合、プレイヤーによって戦闘不能になったものと同様の措置となる。
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こんな一文がある割に、初日は全くモンスターに出会わなかったのだ。完全に、PvPのみの状態だった。
「ジン兄が見てないなら、多分初日はモンスターが配置されてないって感じじゃないッスか?」
ハヤテの意見に、誰もが同意した。イベントエリアを縦横無尽に駆け抜けた、ゲーム内最速の忍者であるジン。彼はその最高クラスのAGIを活かし、初日の早い段階でマップをほぼ全て開放したのだ。そして、その間にモンスターは一匹たりとも見ていない。コン? モンスターじゃなくて、可愛い神獣なのでノーカウント。
そんな訳で、ジン達は拠点の外の状況に対して意識を集中させていた。
すると、早速。
「あ、【サーベルウルフ】……」
「あっちに、【キラーホーネット】が居ます……こちらには気付いていない様子ですし、建物には反応しないみたいですね」
獣型モンスターや、昆虫形モンスターがポップしていた。初日には、影も形も見当たらなかったのに。
ちなみに建物……[風雲七色城]が視界に入らない、というのは無理がある。それでも何の反応も示していないので、建造物ではなくプレイヤーを感知したらアクティブに変化するのだろう。
「難易度を引き上げたって事やな。プレイヤーだけでなく、モンスターにも注意せなあかん」
「でも、モンスターが居て助かる事もありますよ! モンスターのお肉は、食用ですから!」
そんなクベラとコヨミの会話に、カノンも参戦する。
「それに、硬いモンスターの素材は武器の修理に使えたりするんです。ゴーレム系、居るかな……居たら素材が欲しいな……」
鍛冶に関わると、流暢に喋るカノン。そんなカノンの様子に、クベラもコヨミも笑みを浮かべて頷いてみせた。
「ほな、モンスターからの物資補給が捗るっちゅーわけやな! 悪い事ばかりやない!」
「どのモンスターがどの程度出るのか、調べた方が良いでしょうか?」
「モンスターのリポップ頻度が、どの程度かくらいは調べておいても良いかも。分布まで調べていたら、イベントが終わっちゃうから……」
そんな三人の会話を笑顔で見つつ、ジンは一つ考えがある。
――モンスターの配置は、ドロップ狙いと難易度の引き上げ……それくらいなのかな?
わざわざモンスターを配置したのには、運営の他の狙いがあるのでは? そんな考えが浮かぶが、答えは出ない。
――とにかく、今日も走って戦って頑張ろう。
ゲーム的な知識については、ハヤテやマキナの得意分野。自分の得意分野で、仲間達を守ろう。
そう考えて、ジンはおにぎりを頬張った。




