短編 月が綺麗ですね
オリジナル小説を書いて少し経ちますが、文学作品とかさっぱりです!!
サブタイトルの言葉は有名ですが、それに対する返しは色々あるそうですね。
僕はこれまで、ずっと自分は弱いんだと思って来た。思い込んで来た。
小学校の時から周囲のクラスメイトにからかわれ、いじられていた。背中を強く叩かれたり、体育の授業でわざとぶつかられたりという事は実際に何度もあった。
中学に上がって、それは過激なものに変わっていった。流石に流血沙汰とか、そういうのには至らなかったけれど……殴られたり、蹴られたり。
そういった経験から、僕は攻撃的な人を恐れる様になっていった。そうして更に気弱になって……その結果、あの少年に目を付けられたんだ。
因縁の相手であるカイトを倒したあの時、僕に恐れは無かった。それよりも、恐ろしい事を知ったから。
大切な人達が傷付けられる事、大切な人達を傷付ける事、大切な人達を守れない事。その方が、何倍も怖いんだと気付いた。
「マキナさん?」
背後から、掛かる声。それは僕が変わる切っ掛けをくれた、彼女の声だ。
「ネオンさん……まだ起きていたんだ?」
「マキナさんこそ」
苦笑しながら、僕の方へと歩み寄るネオンさん。彼女が僕に、本当の恐怖を……そして、仲間とならどこまでも強くなれる事を教えてくれた。
「眠れませんか?」
「決戦前に仮眠を取れたから、そこまで眠くなくて。夜風に当たって、のんびりしていただけだよ」
もしくは僕の心がまだ、興奮状態から抜け切っていないのかもしれない。でも、身体は動くし頭も働く。なら、明日も戦えるはず……きっと、問題はない。
それにしても、ネオンさんこそどうしたんだろう?
「ネオンさんは、眠れなかった?」
「……えぇと、そんな感じです」
少しだけ、視線を逸らしながら言うネオンさん。言い難い事だろうか?
深夜に女の子が起きて一人で出歩く。となると、考えられるのは……いや、それは無いだろう。例え完成度の高いVR世界であっても、その仕様は無いはず。僕だって、ゲーム内で一度たりとも用を足したいと感じた事は無いし。
だとしたら何か? と気にはなるが、追及するのはデリカシーに欠けているかもしれない。だから僕は、ネオンさんに気にしていないといった風を装って声を掛ける。
「良かったら、一緒に月見でもどうかな? VRではあるけど、ほら。月が綺麗だよ」
VR世界とはいえ、綺麗な満月を見ると心が安らぐ。なので、そう誘ってみたのだが……ネオンさんは、何故か顔を真っ赤にして僕を見ていた。
「……あ、はい」
そう言うと、ネオンさんはソロリソロリ……といった具合に、僕に近付いて来る。うん、何故に忍び足?
僕の横に並ぶと、ネオンさんは月を見上げてポツリと呟いた。
「……今夜は、月が綺麗ですね」
「うん、とても」
「……そこは、”死んでもいい”って言うところだと私は思います」
「死!? え、何で!?」
突然の死!? 僕、ネオンさんを怒らせるような事をした!?
「ふふっ……考えるか、調べるかして下さいね」
そう言うと、ネオンさんは桃色の髪を風に靡かせながら踵を返した。
「……また、一緒にお月見をしましょうね」
その時のネオンさんの笑顔は、本当に綺麗で……あぁ、この子が好きだって僕の心が騒ぎ出して。
でも、僕は「おやすみなさい」と一言を残して去っていく彼女を追えなかった。
必ず、いつか。また一緒に、月を見よう。
その時、もしかしたら……彼女の言葉に、答える事が出来るかもしれない。
……
流石にこのまま寝れる気がしなかったので、えぇ、調べました。調べましたとも。
そうか、”月が綺麗ですね”と”死んでもいい”ってそういう……文学的なあれなんだね。
愛の告白!? そのOKの返事!? なんてこった、こんな重大な意味があったなんて!!
今からやり直しを……って、ネオンさんはもう部屋に戻ったし!! 部屋に押しかけて、言う? 出来るはずがない!!
……あぁ、本当に参った。決意が揺らぎそうだ。
皆には、まだ言えていない……僕の考えを。自分なりに考えに考え抜いて、決断した事を。
【七色の橋】のマキナは、居なくなる……その事を言うのは、イベントが終わった後になるだろう。
次回投稿予定日:2022/5/25(短編)
このムードが許されるマキナ×ネオン……いや、ネオン×マキナか。
え? マキナの最後の独白? 安心して下さい、履いてまsじゃねーや、ハッピーエンドですよ!!
余談ですが、作者はこの短編を書くまで、”これ”に対する返しは「今夜は冷えますね」だと思っていました。冗談ですが。




