短編 彼の脳内会議(?)
深く考えずにご閲覧下さい。良いですか、深く考えてはいけません。
ひたすら脳みそを空っぽにして、程々に苦いブラックコーヒーでも片手にお読み下さい。飲めない方にはもれなく青汁をお勧めします。
僕は今、とても困っている事がある。それはとてもとても可愛らしい、最愛の人についてだ。
「すぅ……すぅ……」
寝息を立てる彼女を見ていると、その寝顔をずっと見ていたいなんて思ってしまう。しかしながら、それだけでは終わらない。
彼女の整った顔が、自分の目と鼻の先にある。それだけ近くにあるという事は、彼女の体も近くにあるという事だ……というか、近いどころの話じゃ無かったりする。
もう、完全に密着してる。その細い腕は背中に回され、スラリと長い両足で僕の左足をがっちりホールドされている。これが大好きホールドというやつなのかな? わっかんないや。
で、そうすると彼女の柔らかい部分とか、そういうのが……ね? 柔らかな感触、スベスベの肌……そういったモノが、僕の煩悩にダイレクトアタックをかましておられる。
つまり……最愛の恋人、ゲーム内では奥さんな彼女。その魅力的なスタイルを目だけでなく、肌でも実感してしまっているのだ。
僕達の関係なら普通と思う人も居るのかもしれないけれど、僕的には流石にちょっと困っているのだ。
良かったよ、ここがゲームで。だってこれが生身ならば、確実に生理現象的なアレでのっぴきならない状態になっていたと思う。
それにしても……このお姫様は、寝る時に何かに抱き着くクセがあるのだろうか。スパイ討滅戦の前の仮眠でも、彼女にこうしてがっちりホールドをされたんだっけか。
そんな彼女のパートナーである僕はといえば……先程も今も、自分の邪な感情と戦う羽目になっている。
ここまでぼんやりと独白を続けているが、決して文句があるわけではない。
これはヒメが僕を愛してくれているからだと理解しているし、僕も健全な男なので……照れるけれども、とっても照れてしまうのだけれども。嬉しいは嬉しいのだ。
据え膳食わぬは男の恥? その据え膳を食って良いのは、責任を果たせる者に限るのだ。R18指定? 全年齢だが、文句があるか? こちとら18歳未満なものでね。
つまり誰に向けてかも分からない独白は、自分の中の欲望に流されない為の抵抗。魅惑の感触から意識を少しでも……ほんのわずかでも良いから、意識を逸らそうという苦肉の策。もしくは現実逃避。
そうだ、心の中で般若心経でも唱えていようか? ……いや、駄目だ。全く覚えてないや。
……
天使ジン「考え事をしていると、逆に眠れない。目を閉じて、力を抜くと良いよ。さっきまで、あんなに激しい戦いをしていたんだ。きっとすぐに寝付けるよ」
いや、そんな事をしたらヒメの感触を更に意識しそうで……。
天使ジン「そっかー」
悪魔ジン「なら、いっそ触ってしまえば良い。それで満足したら、流石に眠れるんじゃないかな」
ちょっと待て!! 寝ているヒメにそんな事、出来る訳ないだろ!?
悪魔ジン「え、待とうよ。どこを触れって言われたと思ってるのさ」
え、その……流石に胸とかお尻とかはダメだし、太腿とか……?
天使ジン「いやいや、太腿も結構際どいポイントだよ?」
悪魔ジン「うん、その通りだ。だからここはほっぺを触ろう、それならセーフのはず」
……あ、はい。そうだね、人によるだろうけど、ヒメは許してくれるね。
忍者ジン「ふむ……悪魔になっても、拙者は拙者でゴザったな」
増えた!? 何か増えたぞ!?
いや、ちょっと待ってくれ。よくよく考えたら、何だこれ!? 誰だ君達は!?
白い天使の羽を持った僕っぽい何かに、黒い悪魔の羽を持った僕っぽい何か……そして何故か、忍者っぽい頭巾を被った僕だと!? 取れよ、それ!! コタロウさんみたいじゃんか!!
忍者ジン「より忍者らしさを追求した結果にゴザル」
知るかっ!! そこは突き詰めるな!!
天使ジン「うーん、ほっぺたも人によってはデリケートな部分かも? ここはヒメの髪を撫でて落ち着くのは?」
悪魔ジン「それはアリかもね。あ、背中をさすってあげるのは?」
忍者ジン「うむ、それは無難かつ良いかもしれぬでゴザルな。ヒメも喜んでくれるのでは?」
狐耳ジン「というか、優しく抱き締めてあげるのが最適解じゃないかな? コン!」
何か増えたぞ!? コンの鳴き真似は要らないんじゃない!?
ってか、抱き締めるって……それだと更にヒメの胸の感触とかが!! ダイレクトに来るじゃんか!! あれ、今とそんな変わらんか? ヒメにがっちり愛妻ホールドされているし……。
忍者ジン「ふむ、確かにそうかもしれぬな。既に所謂、”当ててんのよ”状態でゴザルし……」
天使ジン「でもこっちから抱き締めたら、ヒメは喜んでくれると思うけど?」
狐耳ジン「絶対に喜ぶね。あの最高の笑顔も見せてくれると思う。コン!」
悪魔ジン「しかし胸元を意識して抱き締めるのは、確かに邪な感情を疑われても仕方が無いな。ここは一つ、頬を撫でるというのはどうだろう?」
ねぇ君、本当に悪魔なの?
天使ジン「君を悪魔にしたって、どこまでいっても君なんだよね」
悪魔ジン「天使の君だって、普段とそこまで大きな差は無いよ」
狐耳ジン「白さが当社比八割増しなだけだし……衣装の話だよ、コンッ!」
忍者ジン「ぶっちゃけると拙者なんて、頭巾取ったら忍者ムーブ中と何も変わらないでゴザルよ」
狐耳ジン「折角なので、出て来ました。コン!」
悪魔ジン「たまには≪友好の証≫の出番が無いと、折角の伏線要素が忘れ去られるからね~」
本当に、何なんだこれは!?
とりあえず、やめろこの悪魔!! 伏線とかいうな!! あと、狐耳! 鳴き真似はもうやめろぉ!! 僕の顔でそういう事すんなよぉ!!
いや、待てよ? 少し頭が働いてきたぞ?
……ははーん、これは夢だな? 僕、気付いたら寝落ちしてたのか。
悪魔ジン「おっ、ようやく気付いた?」
狐耳ジン「既に君は夢の中に居たんだコン」
忍者ジン「まぁ、あれだけの激戦でゴザった故」
天使ジン「疲れたもんね~? あ、そうそう」
おっ、どうした天使?
天使ジン「ちなみに現実では今、寝ぼけたヒメが君の頭を胸元に抱き寄せています」
……ッ!?
忍者ジン「ゲームの中で良かったでゴザルな。現実ならば、窒息していたかもしれないでゴザル……」
……よし、このまま寝てよう。起きたら駄目だ。
悪魔ジン「それは何故かな?」
そんな嬉し恥ずかし状態の時に起きたりしたら、理性を保てる自信がない!! 下手をしたら、僕の中の野生が目覚めてしまうかもしれない!!
狐耳ジン「【九尾の狐】だしね! コンッ!!」
うまい事言ったつもり!? 全然うまくないからね!?
はぁ……朝起きた時、ヒメが離してくれているとは思っていない……せめて、ホールドする力が緩んでいますように……。
次回投稿予定日:2022/4/30(短編)
作者の脳が変な電波を受信した結果、こんな怪文書が生まれました。
マンガで良くある表現の、天使と悪魔。
ジンがこれやったら、ただのジンとジンとジンじゃね? と思ったのがきっかけです。
そうしたら忍者が乱入し、狐耳が湧いて出ました。
というきっかけから始まる、ちょっとした短編ストーリーをしばしお送り致します。
お付き合いの程、宜しくお願い致します。