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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第三章 第一回イベントに参加しました
30/573

03-02 東西南北に分かれました

 イベント開始直後、東西南北で始まったモンスターとの乱戦。北側の門でジンが【一閃】乱舞をかましている頃、ヒイロは東門でプレイヤーとモンスターの衝突地点にいた。

「【スラッシュ】!!」

 冷静に、周囲を確認しながら刀を振るうヒイロ。仲間達と共にレベル上げやスキル習熟に勤しみ、序盤のモンスター程度ならば盾抜きでも相手に出来る実力を身に着けている。


――やはり、レンさんと合流すべき……かな。


 フレンド一覧で、同じエリアにレンが居る事を確認しているヒイロ。他の門に移動するにせよ、この場で戦い続けるにせよ、同じエリアに居るレンと合流するのが得策。

 それはケインにも言える事だし、ミリアもである。

 モンスターを一刀両断しながら、ヒイロは何か良い方策が無いか思案する。


――少なくとも、レンさんとケインさんは気付いてくれるか。


 ヒイロはイベントに備えてレベリングしている期間中に、一目見ればヒイロだと解るモノを手に入れた。


―――――――――――――――――――――――――――――――

装備≪鬼神の右腕≫

 説明:旧き鬼の腕を元に製作された篭手。装備する事で、旧き鬼の力をその身に宿す。一度装備したら、二度と外せない。

 効果:全ステータス+10、HP・MP+10。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そう、ユージンが修復した≪古代の腕≫だ。それを使えば、レンとケインはヒイロの居場所を瞬時に察知するだろう。

「これしか、目立つモノが無いからな……やってやるか」

 ヒイロは右腕を天に掲げ、装備した篭手の力を解放する。

「【幽鬼】!!」

 スキル名を宣言した瞬間、ヒイロの背後に青いオーラで象られた鬼神の姿が出現する。


―――――――――――――――――――――――――――――――

武装スキル【幽鬼Lv1】

 効果:鬼神の霊体を召喚する。鬼神のステータスは、使用者のステータスに+50%。発動後、効果持続時間60秒。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 その手に持った片刃の剣……大太刀を振るう幽鬼。自立的に、射程圏内の敵を攻撃する姿は正に鬼神だ。ヒイロと同時に攻撃すれば、モンスターが一刀両断されていく。


 それを目の当たりにしたプレイヤー達は、目を疑った。腰から上だけの鬼神はオーラで形成されている為、幽霊の様にも見える。

 背後に出現する幽霊。それは、有名な作品によく現れるモノに似ていた。

「ス、スタ○ド!?」

「鎧武者は、ス○ンド使いだったのか!?」

「いや、あれは悪魔も泣き出すアレのじゃないか!?」

「四作目か!!」

「でも、右腕の篭手は鬼○者っぽい……」

「○武者と、悪魔狩人と、スタン○使いのハイブリッドか!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ヒイロ】Lv24

■ステータス

 【HP】96/96≪+35≫

 【MP】33/33

 【STR】22≪+18≫

 【VIT】25≪+20≫

 【AGI】18≪+16≫

 【DEX】15≪+17≫

 【INT】10≪+10≫

 【MND】10≪+35≫

■スキルスロット(4/4)

 【長剣の心得Lv7】【刀剣の心得Lv4】【盾の心得Lv6】【盾の極意Lv2】

■予備スキルスロット(2/5)

 【体捌きの心得Lv3】【採掘の心得Lv1】

■装備

 ≪ユージンの飾り布+5≫MND+6

 ≪ユージンの和風装束+4≫MND+7

 ≪ユージンのパンツ+5≫MND+7

 ≪ユージンのブーツ+3≫AGI+6

 ≪ユージンの具足+7≫VIT+10、HP+10

 ≪探索者のポーチ≫収納上限150

 ≪ユージンの打刀+5≫STR+8、DEX+7

 ≪大騎士の大盾+5≫VIT+10、MND+10、HP+15

 ≪鬼神の右腕≫全ステータス+10【幽鬼】

 ≪武芸者の指輪≫技後硬直、溜め時間-10%

 ≪生命の首飾り≫HP+10【HP自動回復(小)】

 ≪大騎士のベルト≫MND+5

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ええ、解りました。そこに居るのですね、ヒイロさん」

 戦況を確認すべく、始まりの町を覆う壁の上に上ったレン。彼女は、最前線に出現した幽鬼の姿を見て気付いた。

 それは、ヒイロからのメッセージだ。『俺はここに居る』という、仲間達へのメッセージなのだ。


「ここに居ます、ヒイロさん。これで、気付いて下さいね? 【炎陣えんじん】」

 レンが扇を振って一回転してみせる。まるでそれは、舞のようだった。そうして発動したのは、【神獣・麒麟】の魔技である。

 続けて詠唱を始めたのは、火属性魔法で最も発動が早く威力が弱い【ファイヤーボール】だ。その詠唱は、すぐに終わる。

「【ファイヤーボール】」

 それが放たれ、ヒイロから少し先で侵攻中のモンスターの群れに命中した。

 その瞬間発生したのは、爆音。そして、激しく吹き飛ぶモンスター達。普通の【ファイヤーボール】では有り得ないエフェクトに、威力であった。


 彼女が保有する、ユニークスキル【神獣・麒麟】。スキルレベル1で会得出来る【炎陣】は、詠唱不要の魔技である。それを魔法を放つ前に使用する事で、火属性魔法の効果範囲を広げるという効果が得られるのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

魔技【術式・陣Lv3(炎)】

 効果:消費MP5。詠唱破棄。発動時、陣の中に居る限りINT+7%。全ての火属性魔法の効果範囲を強化。全ての火属性魔法の延焼発生確率を向上。持続時間45秒。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 INT主体のプレイヤーの為に用意されたユニークスキルだけあり、痒い所に手が届く強化である。

 他のプレイヤーには真似できない芸当。それは、レンを知る者ならば彼女によるものだと気付ける攻撃だ。


 レンが視線を青いオーラの鬼に向けると、召喚主であるヒイロが自分の方を振り返る様子が見て取れた。

「良かった、気付いて下さいましたね」

 ヒイロが気付いた事で、レンは安堵の微笑みを漏らす。これで、連携が取れる……だから嬉しいのだと、レンは考えていた。しかしその心の奥底では、ヒイロが()()()()()()()()()に対する喜びの念が存在していた。まだ、その感情を自覚していないだけで。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【レン】Lv28

■ステータス

 【HP】104/104 ≪+20≫

 【MP】37/37 ≪+60≫

 【STR】10【-50%】≪+20≫

 【VIT】15【-50%】≪+20≫

 【AGI】15【-50%】≪+20≫

 【DEX】15【-50%】≪+20≫

 【INT】43【+70%】≪+95≫

 【MND】15【-50%】≪+55≫

■スキルスロット(4/4)

 【火魔法の心得Lv10】【水魔法の心得Lv10】【回復魔法の心得Lv6】【神獣・麒麟Lv5】

■拡張スキルスロット(3/3)

 【杖の心得Lv6】【雷魔法の心得Lv8】【風魔法の心得Lv8】

■予備スキルスロット(5/5)

 【土魔法の心得Lv3】【補助魔法の心得Lv2】【合成魔法Lv4】【聖魔法の心得Lv2】【光魔法の心得Lv2】

■装備

 ≪神獣の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】

 ≪桃花の衣≫全ステータス+20【自動修復】

 ≪探索者のポーチ≫収納上限150

 ≪鳳雛扇≫INT+20【自動修復】

 ≪伏龍扇≫INT+20【自動修復】

 ≪大賢者の腕輪≫INT+10、MND+10、MP+10

 ≪精霊の指輪≫INT+5、MND+5、MP+10

 ≪大賢者の首飾り≫INT+10、MND+10、MP+10

 ≪大賢者のピアス≫INT+10、MND+10、MP+10

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そんな派手な二人に気付く者……二人を良く知り、今回も共闘同盟を結んだケインだ。

「ふむ。流石だね、ヒイロ君」

 迫るモンスターを斬り捨てながら、ケインはヒイロが居る方角へと駆け出した。


――行くならばヒイロ君の所かな。レンさんは後方からの攻撃に専念するだろう。


 残念ながら、ケインのユニークスキルはMND特化。MNDは魔法攻撃への耐性と、状態異常への耐性を示すステータス。STRやINTの様に、攻撃向けではない。

 魔法攻撃に比重を置いたレン。その支援を受けており、鬼神召喚で攻撃力も強化されたヒイロ。この二人と行動を共にするのが、賢い選択だろう。

 最も、他力本願という訳ではない。ケインにはケインの矜持もある。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ケイン】Lv26

■ステータス

 【HP】100/100≪+50≫

 【MP】35/35≪+20≫

 【STR】25【-50%】≪+20≫

 【VIT】23【-50%】≪+35≫

 【AGI】10【-50%】≪+20≫

 【DEX】10【-50%】≪+20≫

 【INT】10【-50%】≪+20≫

 【MND】31【+65%】≪+65≫

■スキルスロット(4/4)

 【長剣の心得Lv9】【盾の心得Lv8】【投擲の心得Lv4】【鞍馬天狗Lv4】

■拡張スキルスロット(3/3)

 【刀剣の心得Lv4】【体捌きの心得Lv3】【長剣の極意Lv1】

■装備

 ≪鞍馬の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】

 ≪茜空の衣≫全ステータス+20【自動修復】

 ≪鞍馬の鎧≫MND+20【自動修復】

 ≪開拓者のポーチ≫収納上限500

 ≪天狗丸≫MND+20【自動修復】

 ≪覇王の腕輪≫VIT+15、HP+30

 ≪武芸者の指輪≫技後硬直、溜め時間-10%

 ≪大騎士のベルト≫MND+5

―――――――――――――――――――――――――――――――


 とはいえ、【鞍馬天狗】の真価は直接的な攻撃力ではない。MNDは、状態異常の発生確率の高さにも直結する。そして【鞍馬天狗】の武技や魔技は、状態異常付与が多いのだ。


――ヒイロ君が攻撃役ならば、俺は状態異常にしての支援を担当するのが良いだろう。


 支援役を自分が務めれば、ヒイロやレンが攻撃に専念出来る。それはパーティを組む仲間として、重要な役割を担う事となる。

 対等な同盟なのだから、任せ切り頼り切りにする気は微塵も無かった。


 ……


 ケインがヒイロに気付いた際に、偶然その側に居た一人の女性が彼の呟きを耳にした。

「ふむ。流石だね、ヒイロ君」

 ケインのそんな呟きに、女性は彼に目を向ける。その女性の名はミリア……そう、レーナ達のパーティメンバーだ。


――ヒイロ君……もしかしてあの時、手助けをしてくれた彼かしら?


 MPKモンスター・プレイヤーキルから救ってくれたジンと、レベリングを手伝ってくれたその仲間であるヒイロとヒメノ。ミリアにとっては、AWO内でも心を許せる数少ない存在だ。

 ケインの視線の先……青いオーラの鬼神が猛威を振るっている。


――もしかして、彼は相当強いプレイヤー? ともあれ……借りを返すチャンスかしら。


 レベリングを手伝って貰ったお陰で、あれ以降は厄介事に巻き込まれる事無くプレイ出来ている。そんな恩義ある相手だ、恩義に報いるべく力を貸すのも吝かではない。

 いささかお堅い性格のミリアだが、その分真面目で実直。ヒイロの居る場所を意識して、合流するタイミングを計るべく立ち回る。


************************************************************


 一方、西の門。迫るモンスター達を見たシオンは、真っ先に最前線へと飛び出し大盾≪鬼殺し≫を構えた。

「【ウォークライ】」

 発動した武技は、【盾の心得】で習得できる挑発。モンスターのヘイト値を上げ、自分にターゲットを向けさせるものだ。


 挑発技能を受けたモンスターが殺到するも、シオンの表情は涼しげだ。

「他の方々が居ないので、攻撃もしなくてはなりませんね。【一閃】」

 手にした大太刀≪鬼斬り≫を振るうと、複数のモンスターを同時に斬り付け倒してみせる。


 ユニークスキルの効果でマイナス50パーセントとなっているシオンのSTRは、装備の強化を受けて30。その数値は、現状で中堅レベルのプレイヤーと同等の数値だ。

 それでも尚、モンスター達は一刀の下に斬り伏せられる。これは≪刀剣≫唯一の武技である【一閃】の効果によるものだった。

 クリティカル発動率の高さに、武技発動時に付与されるステータスアップの恩恵。エクストラクエストで手に入るだけあって、≪刀剣≫の性能は他の武器から頭一つ抜き出ているのだ。


 しかしながら、シオンは攻撃専門のビルドではない。誰かと組んで戦いたいのが実情だ。

「ともなれば、やはり同じエリアに居るゼクス様とイリス様ですね」


 他にも顔見知りのプレイヤーは居る。攻略最前線で共闘した事のある面々だ。だが親しい間柄かと聞かれると、答えはノーであった。レンに合わせて最低限の交流しかしていなかったのだから、無理もない。

 となれば、やはり同盟関係にあるケインのパーティである二人。彼等と行動を共にし、貢献度を稼いで南側の門へ向かうのが得策だろう。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【シオン】Lv27

■ステータス

 【HP】102/102≪+50≫

 【MP】36/36≪+20≫

 【STR】20【-50%】≪+20≫

 【VIT】34【+70%】≪+75≫

 【AGI】15【-50%】≪+20≫

 【DEX】10【-50%】≪+20≫

 【INT】10【-50%】≪+20≫

 【MND】22【-50%】≪+23≫

■スキルスロット(4/4)

 【盾の心得Lv10】【槌の心得Lv5】【刀剣の心得Lv6】【酒呑童子Lv5】

■拡張スキルスロット(1/3)

 【バーサークLv2】

■装備

 ≪戦鬼の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】

 ≪新緑の衣≫全ステータス+20【自動修復】

 ≪探索者のポーチ≫収納上限150

 ≪鬼斬り≫VIT+20【自動修復】

 ≪鬼殺し≫VIT+20【自動修復】

 ≪覇王の指輪≫VIT+15、HP+30

 ≪守護の首飾り≫MND+3

 ≪聖なるメダル≫

―――――――――――――――――――――――――――――――


「よし、発見。やっぱ和服装備は目立つな」

 フィールドを駆け抜け、モンスターを倒していくゼクス。彼の視線の先には、モンスターに囲まれたシオンの姿があった。

 彼も斥候スカウト役であり、攻撃は専門ではない。シオン同様に、パーティメンバーの二人と合流して戦う事を優先したのだ。


「それにしても、本気ですげぇ防御力だ……モンスターの攻撃が全く効いてないぜ」

 大盾を構えないで≪鬼斬り≫を振るうシオンは、狙っていないモンスターの攻撃をその背に受ける事になる。しかし、彼女のHPバーは一ミリも減っていない。

 防御力に特化したユニークスキル【酒呑童子】の効果には、恐ろしさすら感じる。もしPvPプレイヤー・バーサス・プレイヤーのイベントが開催されたとして、彼女と当たってしまったら? 現状では、倒す方法が思い付かない。


――まぁ、今は味方だ。敵対していない内は、心強いってもんさ。


 意識を切り替え、フィールドを駆け抜ける。その姿を認めたシオンの口元が緩んだのが、ゼクスにも見えた。

「……へへっ」

 不意に漏れた笑い。シオンも、自分達を仲間として認識している……それが伝わり、嬉しさと照れ臭さが込み上げたが故だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ゼクス】Lv26

■ステータス

 【HP】100/100≪+5≫

 【MP】35/35

 【STR】20≪+17≫

 【VIT】18≪+3≫

 【AGI】30≪+13≫

 【DEX】21

 【INT】10

 【MND】10≪+15≫

■スキルスロット(4/4)

 【短剣の心得Lv9】【体捌きの心得Lv7】【隠密の心得Lv3】【刀剣の心得Lv4】

■装備

 ≪ユージンの飾り布≫MND+1

 ≪ユージンのカンフー衣装(上)+5≫MND+8

 ≪ユージンのブーツ+7≫AGI+10

 ≪ユージンのカンフー衣装(下)+3≫MND+6

 ≪探索者のポーチ≫収納上限150

 ≪ユージンの中華刀+6≫STR+9

 ≪ユージンの中華刀+5≫STR+8【遅延付与】

 ≪体力の腕輪≫HP+5、VIT+3

 ≪狩人のチョーカー≫AGI+3

■予備装備

 ≪暗殺者の短剣≫AGI+4、MND+3

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ゼクスとシオンさんが合流ね。よーし、私も行こうかな!」

 後方から魔法で攻撃していたイリスだが、ずっとその場に留まるつもりはなかった。魔法にも射程があり、前衛達が戦闘を繰り広げている辺りまでしか届かないからである。

 前線に出て、シオンやゼクスに守って貰う……その上で自分が、魔法攻撃によるダメージディーラーを務める。これが、今のメンバーで最も適した布陣。


「おっと……二人の所に行くには、あの群れを突っ切らないといけないかぁ……」

 イリスの眼前では、プレイヤーとモンスターが激しく戦っていた。恐らくまだレベルが高くないプレイヤー達なのだろう、序盤に攻めてくるモンスター相手といい勝負をしている。


――私が倒して、恨まれたりしないかな?


 通り道にいるモンスター達は邪魔だが、それは彼等の獲物である。それを横から攻撃してキルカウントを増やすのは、マナー違反だろうか? イリスはそんな風に考えたのだ。

 乱戦の中にあればそういったシチュエーションは往々にして起こり得るのだが、イリスはマナー違反と思われる行為は避けるべきだと自問自答する。

 普段は軽いノリで、脳天気なイメージを持たれやすいイリス。しかし彼女も大人の女性、ゲームの中にあってもマナーを重視しているのだ。


 ならば、彼等に倒して貰うのが良いだろう。

「隙を作ってあげましょうかねー……【サンダーウォール】!!」

 軽口を叩きながら、詠唱を進めたイリス。彼女が魔法を発動させると、モンスターの群れを雷撃の壁が襲う。

「うぉっ!? な、何だ!?」

「モンスターの動きが鈍ったぞ!!」


 イリスが発動した【サンダーウォール】は、攻撃よりも防御に向いている魔法だ。モンスターの進路上に発動し、その進行を食い止めるのである。その為、攻撃力は低い。

 しかし、ウォール系の魔法は利点もある。効果範囲が広い点と、状態異常効果が発動しやすい点である。モンスターに麻痺効果や行動遅延効果を発生させる、サンダー系の魔法向けの性能を有するのだ。


 最も本来ならば、交戦エリアのど真ん中に撃つなど出来ない。理由は単純、プレイヤーも被弾するからだ。

 しかしながら今回のイベントは、プレイヤーとモンスターの大乱戦。その為プレイヤーの攻撃は、他のプレイヤーに影響を及ぼさない……フレンドリーファイヤーが無い仕様なのだ。武技や魔法によるプレイヤーへの影響を考慮せず、思う存分に発動可能なのである。


 戸惑いながらもモンスターを攻撃していくプレイヤーを横目に、イリスはシオンとゼクスの方へと歩いていく。戦場を優雅に歩く、白いチャイナドレス姿の美女……迫り来るモンスターを余所に、目を奪われるプレイヤーが居たのも、致し方のない事だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【イリス】Lv25

■ステータス

 【HP】98/98

 【MP】34/34≪+20≫

 【STR】10

 【VIT】15

 【AGI】15≪+6≫

 【DEX】16

 【INT】25≪+22≫

 【MND】15≪+22≫

■スキルスロット(4/4)

 【杖の心得Lv7】【火魔法の心得Lv6】【雷魔法の心得Lv6】【光魔法の心得Lv5】

■予備スキルスロット(4/5)

 【氷魔法の心得Lv6】【風魔法の心得Lv4】【土魔法の心得Lv2】【回復魔法の心得Lv3】

■装備

 ≪ユージンの飾り布≫MND+1

 ≪ユージンのチャイナドレス+7≫MND+11

 ≪ユージンのハイヒール+4≫AGI+6

 ≪探索者のポーチ≫収納上限150

 ≪ユージンの魔導杖+5≫INT+9

 ≪大賢者の腕輪≫INT+10、MND+10、MP+10

 ≪魔導の指輪≫MP+5

 ≪魔導のネックレス≫MP+5

 ≪賢者のピアス(右)≫INT+3

―――――――――――――――――――――――――――――――


************************************************************


 その頃、南側の門。前衛を務めるプレイヤー達は前に出て、弓や魔法を主体とするプレイヤー達は後方から攻撃する……そんなセオリーを粉々に打ち砕くプレイヤーがいた。

「【ワイドショット】!!」

 プレイヤーに影響しないのを良いことに、思うまま弓で矢を射る銀髪の少女。彼女が矢を射れば、モンスターのHPが一瞬で消し飛ぶ。更に矢は貫通し、後ろに迫ったモンスターも死ぬ。正に一撃必殺であった。


「や、やべぇだろアレ……」

「弓って、あんなダメージ出たっけ……?」

「あ、あれが……一撃必殺少女……」

 次々とモンスターを屠っていくヒメノの姿を目の当たりにしたプレイヤー達は、あまりの光景に唖然としてしまう。モンスターが迫っているので、早く現世回帰することをお勧めしたい。


 そんな視線を意に介さず、ヒメノは更に攻撃を続ける。

「【ラピッドショット】!!」

 複数の矢を、連続で撃ち出す武技。攻撃力を犠牲に、連射性能を高めた技だ。

「……あれ? 【ラピッドショット】ってSTRが半減するんじゃ……?」

「ははは、ありえねぇ……」


 STRこうげきりょく半減? それが何か? とでも言わんばかりに、ヒメノの矢はモンスターを撃ち抜く。矢が当たった端から、モンスターは息絶えていく。

 ヒメノのSTRは58。それにユニークスキルの効果で、60パーセントの34.8が加わる。更にユニーク装備の効果で、61ポイントがプラスされる。ヒメノのSTR値は合計で、153.8ポイントなのである。半減したところで、76.9ポイントなのだ。これは、現在最高レベルと呼ばれるプレイヤーを遥かに上回る数値である。

 この攻撃に耐えられるのは、同じくユニークスキルを所有するVIT特化プレイヤーのシオンくらいなものだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ヒメノ】Lv23

■ステータス

 【HP】94/94≪+50≫

 【MP】32/32≪+25≫

 【STR】58【+65%】≪+75≫

 【VIT】10【-50%】≪+23≫

 【AGI】10【-50%】≪+20≫

 【DEX】10【-50%】≪+25≫

 【INT】10【-50%】≪+20≫

 【MND】10【-50%】≪+23≫

■スキルスロット(4/4)

 【弓の心得Lv9】

 【刀剣の心得Lv5】

 【狙撃の心得Lv6】

 【体術の心得Lv3】

■拡張スキルスロット(3/3)

 【採掘の心得Lv1】

 【八岐大蛇Lv4】

 【鞭の心得Lv2】

■装備

 ≪八岐の飾り布≫HP+20、MP+20

 ≪桜花の衣≫全ステータス+20

 ≪八岐の具足≫STR+20

 ≪開拓者のポーチ≫収納上限500

 ≪女神の大弓+3≫STR+15

 ≪覇者の矢筒≫:DEX+5、装填上限50

 ≪大蛇丸≫STR+20

 ≪生命の腕輪≫HP+20【HP自動回復(小)】

 ≪体力の指輪≫HP+5、VIT+3

 ≪桜の髪飾り≫HP+5、MP+5

 ≪守護の首飾り≫MND+3

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そんなヒメノの活躍を見て、一人のプレイヤーが行動を起こした。彼女は南門に居るプレイヤーの中で、二人しかいないヒメノの知り合いである。

「ヒメノさん、こんにちは!」

「シャインさん!!」

 ヒメノに迫るモンスターを槍で薙ぎ払い、ニッコリと微笑んだのは小柄な金髪の女性……レーナのパーティに所属する、槍使いのシャインだった。


「お久し振りですねー! 突然ですが共闘してくれませんかー? 私まだまだ知り合い少ないです!」

 外国人ながらも流暢な日本語で、ヒメノに用件を伝えるシャイン。モンスターを攻撃しながら、手短にだ。日本にも、AWOにも慣れ親しんでいる様である。

 ヒメノはニッコリ微笑むと、シャインに迫るモンスターへ矢を放つ。


「喜んで! 私もこの辺りにいる知り合いは、シャインさんとルナさんしか居ないんです!」

「ルナは多分、後ろの方かなー。この前はありがとうでしたー!」

「いえいえ、あれからどうですか?」

 戦いながら、互いの近況を話す二人。シャインもレベル上げを頑張ったらしく、危なげない戦いぶりだ。ジン達によるレベリングの後も、彼女達は自力でレベルアップを図っていた。現在は、皆揃ってレベル15である。


 近況報告が終わると、話題はイベントに移っていく。

「私達は、この南門に集合予定なんです」

「うちは北なのですー!」

 どうやら、レーナのパーティは北に集合する事になっているらしい。残念ながら、彼女との共闘は一時的なもののようだ。


 十分程度戦うと、モンスターの進撃が一度途切れた。遠くを見ればこちらに迫るモンスターの姿が見えるが、戦闘再開は数分後だろう。

 そんな中、シャインがシステム・ウィンドウを見て溜息を吐く。

「今はメッセージが使えないようになっているです。なので皆と連絡が取れないですねー」

「イベントの仕様かもしれないですね。フレンドさんの位置情報は解るんですが……」

 自分を対象とした画面は、何不自由なく見ることが出来る。しかし、フレンド情報に関しては何故か使用出来ない。これがイベント期間中ずっとなのか、一過性のものなのかも不明だ。


 そんな二人を、遠巻きに見ているプレイヤー達。銀髪和服の美少女と、金髪外人の小柄な美女だ。目立ってしまうのも無理はない。

 そんなプレイヤー達の中から、一人の女性が歩み出た。

「シャインちゃん、ヒメノさん!」

 亜麻色の髪をサイドテールに結った美女……ルナである。

「ルナ! 合流できたですー!」

「こんにちは、ルナさん!」

 キャッキャと再会を喜び合う三人の姿に、他のプレイヤー達の視線が温かいものになる。美女や美少女が戯れる姿は、良いものなのだ。


 しかし、そんな彼女達が立っているのは前線だ。最前線に程近い場所なのである。

「あ、来ましたね」

「来たですね」

「来ちゃいましたね」

 迫り来るモンスターを見た三人は、陣形を整える。

「どんどん倒しますね!」

「背中は預かるですよ!」

「私は回復魔法とか、防御魔法で支援するね!」

 前方をシャイン、後方をルナに守られたヒメノ。システム・ウィンドウを操作して矢筒に矢を補充すると、準備万端とばかりに矢を弓につがえた。


************************************************************


 北側の門は、異様な盛り上がりを見せていた。

「うおお!! 忍者が速過ぎるうぅぅっ!!」

「一撃で倒してんだけどぉっ!?」

「ってかクリティカル出過ぎぃっ!!」

 自分達も戦闘しつつ、縦横無尽にフィールドを駆け抜けるジンを見て絶叫を上げるプレイヤー達。


 そんな声に苦笑しながら、ジンはモンスターへ小太刀を振るう。

「【一閃】!!」

 またもや発動したクリティカル。激しいライトエフェクトが発生し、モンスターのHPを刈り取る。

「また一撃かぁっ!!」

「良いぞ、忍者さん!!」

 その速さとアクロバティックな動き、そしてクリティカル率の高さ。戦闘しているはずのプレイヤー達の視線は、ジンが独り占めしていた。この忍者、忍ばな過ぎである。


 そんな派手な動きをしている忍者に、一人の女性が苦笑した。

「凄いなぁ、ジン君」

 彼女の名前はレーナ……MPKモンスタープレイヤーキルされそうだった所を、ジンに助けられた女性だ。

 彼とその友人の厚意で、レーナ達はレベル10までレベリングをして貰ったのだ。その事に恩義を感じており、ジンを見つけてからは彼の為に援護射撃を行っていた。


「本当なら、弓矢じゃなくて銃が良いんだけど……なっ!!」

 嘯きながら矢を放てば、モンスターの頭部に見事命中。クリティカルヒットとなり、モンスターが倒れ伏す。

「狙い撃つよっ!!」

 更に、もう一射。そちらも見事、クリティカルヒットになる。これは弱点部位を撃ち抜く事で、クリティカルヒットの発生率が高まっているからだ。


 正確無比な射撃とクリティカルヒットで、レーナは熟練のプレイヤーに負けず劣らずのキルカウントを記録している。魔法には攻撃範囲で劣るものの、射程は弓矢の方が勝っている。故にレーナは、遠くの敵を狙い撃っているのだ。

 他の弓使いが真似をしようとしても、クリティカルはそうそう発生しない。それどころか、当たらない事も多い。

 レーナはユニークスキルや、ウルトラレアスキルを所有している訳では無い。彼女自身のテクニック……プレイヤースキルの成せる業であった。


 ……


 そんなジンやレーナを見て、口元を緩める男が居た。その男は黒のロングコートを身に纏い、フィールドに堂々と立っている。右の手には、()()()が握られていた。

 コートのみならずシャツやパンツ、グローブやブーツも黒。髪も、目も、武器も黒。正に黒尽くめの男。

 男は一つ頷くと、モンスターの群れに向かって駆け出した。


「【火竜かりゅう】」

 刀を振るう事で発生した、竜の形をした炎。炎の竜はモンスターに命中し、その身を焼いていく。

 燃えるモンスターに接近した黒衣の男は、腰溜めに構えた刀を振り抜いた。発生する、クリティカルヒットの閃光。モンスターは炎に焼かれながら、その身を散らした。


「さぁ……楽しい楽しい、遊戯ゲームの時間だ」

 彼こそが、六つ目のエクストラスキル攻略者……DEX強化のユニークスキルである【漆黒の竜】を保有する男である。

―――――――――――――――――――――――――――――――

ユニークスキル【漆黒の竜Lv4】

 説明:知り難きこと陰の如し。習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。

 効果:DEX+65%。他のステータスを−50%。

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次回投稿予定:2020/6/23

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[一言] レンちゃんやばいよライバル増えるよ
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