03-02 東西南北に分かれました
イベント開始直後、東西南北で始まったモンスターとの乱戦。北側の門でジンが【一閃】乱舞をかましている頃、ヒイロは東門でプレイヤーとモンスターの衝突地点にいた。
「【スラッシュ】!!」
冷静に、周囲を確認しながら刀を振るうヒイロ。仲間達と共にレベル上げやスキル習熟に勤しみ、序盤のモンスター程度ならば盾抜きでも相手に出来る実力を身に着けている。
――やはり、レンさんと合流すべき……かな。
フレンド一覧で、同じエリアにレンが居る事を確認しているヒイロ。他の門に移動するにせよ、この場で戦い続けるにせよ、同じエリアに居るレンと合流するのが得策。
それはケインにも言える事だし、ミリアもである。
モンスターを一刀両断しながら、ヒイロは何か良い方策が無いか思案する。
――少なくとも、レンさんとケインさんは気付いてくれるか。
ヒイロはイベントに備えてレベリングしている期間中に、一目見ればヒイロだと解るモノを手に入れた。
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装備≪鬼神の右腕≫
説明:旧き鬼の腕を元に製作された篭手。装備する事で、旧き鬼の力をその身に宿す。一度装備したら、二度と外せない。
効果:全ステータス+10、HP・MP+10。
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そう、ユージンが修復した≪古代の腕≫だ。それを使えば、レンとケインはヒイロの居場所を瞬時に察知するだろう。
「これしか、目立つモノが無いからな……やってやるか」
ヒイロは右腕を天に掲げ、装備した篭手の力を解放する。
「【幽鬼】!!」
スキル名を宣言した瞬間、ヒイロの背後に青いオーラで象られた鬼神の姿が出現する。
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武装スキル【幽鬼Lv1】
効果:鬼神の霊体を召喚する。鬼神のステータスは、使用者のステータスに+50%。発動後、効果持続時間60秒。
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その手に持った片刃の剣……大太刀を振るう幽鬼。自立的に、射程圏内の敵を攻撃する姿は正に鬼神だ。ヒイロと同時に攻撃すれば、モンスターが一刀両断されていく。
それを目の当たりにしたプレイヤー達は、目を疑った。腰から上だけの鬼神はオーラで形成されている為、幽霊の様にも見える。
背後に出現する幽霊。それは、有名な作品によく現れるモノに似ていた。
「ス、スタ○ド!?」
「鎧武者は、ス○ンド使いだったのか!?」
「いや、あれは悪魔も泣き出すアレのじゃないか!?」
「四作目か!!」
「でも、右腕の篭手は鬼○者っぽい……」
「○武者と、悪魔狩人と、スタン○使いのハイブリッドか!!」
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■プレイヤーネーム/レベル
【ヒイロ】Lv24
■ステータス
【HP】96/96≪+35≫
【MP】33/33
【STR】22≪+18≫
【VIT】25≪+20≫
【AGI】18≪+16≫
【DEX】15≪+17≫
【INT】10≪+10≫
【MND】10≪+35≫
■スキルスロット(4/4)
【長剣の心得Lv7】【刀剣の心得Lv4】【盾の心得Lv6】【盾の極意Lv2】
■予備スキルスロット(2/5)
【体捌きの心得Lv3】【採掘の心得Lv1】
■装備
≪ユージンの飾り布+5≫MND+6
≪ユージンの和風装束+4≫MND+7
≪ユージンのパンツ+5≫MND+7
≪ユージンのブーツ+3≫AGI+6
≪ユージンの具足+7≫VIT+10、HP+10
≪探索者のポーチ≫収納上限150
≪ユージンの打刀+5≫STR+8、DEX+7
≪大騎士の大盾+5≫VIT+10、MND+10、HP+15
≪鬼神の右腕≫全ステータス+10【幽鬼】
≪武芸者の指輪≫技後硬直、溜め時間-10%
≪生命の首飾り≫HP+10【HP自動回復(小)】
≪大騎士のベルト≫MND+5
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「ええ、解りました。そこに居るのですね、ヒイロさん」
戦況を確認すべく、始まりの町を覆う壁の上に上ったレン。彼女は、最前線に出現した幽鬼の姿を見て気付いた。
それは、ヒイロからのメッセージだ。『俺はここに居る』という、仲間達へのメッセージなのだ。
「ここに居ます、ヒイロさん。これで、気付いて下さいね? 【炎陣】」
レンが扇を振って一回転してみせる。まるでそれは、舞のようだった。そうして発動したのは、【神獣・麒麟】の魔技である。
続けて詠唱を始めたのは、火属性魔法で最も発動が早く威力が弱い【ファイヤーボール】だ。その詠唱は、すぐに終わる。
「【ファイヤーボール】」
それが放たれ、ヒイロから少し先で侵攻中のモンスターの群れに命中した。
その瞬間発生したのは、爆音。そして、激しく吹き飛ぶモンスター達。普通の【ファイヤーボール】では有り得ないエフェクトに、威力であった。
彼女が保有する、ユニークスキル【神獣・麒麟】。スキルレベル1で会得出来る【炎陣】は、詠唱不要の魔技である。それを魔法を放つ前に使用する事で、火属性魔法の効果範囲を広げるという効果が得られるのだ。
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魔技【術式・陣Lv3(炎)】
効果:消費MP5。詠唱破棄。発動時、陣の中に居る限りINT+7%。全ての火属性魔法の効果範囲を強化。全ての火属性魔法の延焼発生確率を向上。持続時間45秒。
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INT主体のプレイヤーの為に用意されたユニークスキルだけあり、痒い所に手が届く強化である。
他のプレイヤーには真似できない芸当。それは、レンを知る者ならば彼女によるものだと気付ける攻撃だ。
レンが視線を青いオーラの鬼に向けると、召喚主であるヒイロが自分の方を振り返る様子が見て取れた。
「良かった、気付いて下さいましたね」
ヒイロが気付いた事で、レンは安堵の微笑みを漏らす。これで、連携が取れる……だから嬉しいのだと、レンは考えていた。しかしその心の奥底では、ヒイロが自分に気が付いた事に対する喜びの念が存在していた。まだ、その感情を自覚していないだけで。
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■プレイヤーネーム/レベル
【レン】Lv28
■ステータス
【HP】104/104 ≪+20≫
【MP】37/37 ≪+60≫
【STR】10【-50%】≪+20≫
【VIT】15【-50%】≪+20≫
【AGI】15【-50%】≪+20≫
【DEX】15【-50%】≪+20≫
【INT】43【+70%】≪+95≫
【MND】15【-50%】≪+55≫
■スキルスロット(4/4)
【火魔法の心得Lv10】【水魔法の心得Lv10】【回復魔法の心得Lv6】【神獣・麒麟Lv5】
■拡張スキルスロット(3/3)
【杖の心得Lv6】【雷魔法の心得Lv8】【風魔法の心得Lv8】
■予備スキルスロット(5/5)
【土魔法の心得Lv3】【補助魔法の心得Lv2】【合成魔法Lv4】【聖魔法の心得Lv2】【光魔法の心得Lv2】
■装備
≪神獣の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】
≪桃花の衣≫全ステータス+20【自動修復】
≪探索者のポーチ≫収納上限150
≪鳳雛扇≫INT+20【自動修復】
≪伏龍扇≫INT+20【自動修復】
≪大賢者の腕輪≫INT+10、MND+10、MP+10
≪精霊の指輪≫INT+5、MND+5、MP+10
≪大賢者の首飾り≫INT+10、MND+10、MP+10
≪大賢者のピアス≫INT+10、MND+10、MP+10
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そんな派手な二人に気付く者……二人を良く知り、今回も共闘同盟を結んだケインだ。
「ふむ。流石だね、ヒイロ君」
迫るモンスターを斬り捨てながら、ケインはヒイロが居る方角へと駆け出した。
――行くならばヒイロ君の所かな。レンさんは後方からの攻撃に専念するだろう。
残念ながら、ケインのユニークスキルはMND特化。MNDは魔法攻撃への耐性と、状態異常への耐性を示すステータス。STRやINTの様に、攻撃向けではない。
魔法攻撃に比重を置いたレン。その支援を受けており、鬼神召喚で攻撃力も強化されたヒイロ。この二人と行動を共にするのが、賢い選択だろう。
最も、他力本願という訳ではない。ケインにはケインの矜持もある。
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■プレイヤーネーム/レベル
【ケイン】Lv26
■ステータス
【HP】100/100≪+50≫
【MP】35/35≪+20≫
【STR】25【-50%】≪+20≫
【VIT】23【-50%】≪+35≫
【AGI】10【-50%】≪+20≫
【DEX】10【-50%】≪+20≫
【INT】10【-50%】≪+20≫
【MND】31【+65%】≪+65≫
■スキルスロット(4/4)
【長剣の心得Lv9】【盾の心得Lv8】【投擲の心得Lv4】【鞍馬天狗Lv4】
■拡張スキルスロット(3/3)
【刀剣の心得Lv4】【体捌きの心得Lv3】【長剣の極意Lv1】
■装備
≪鞍馬の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】
≪茜空の衣≫全ステータス+20【自動修復】
≪鞍馬の鎧≫MND+20【自動修復】
≪開拓者のポーチ≫収納上限500
≪天狗丸≫MND+20【自動修復】
≪覇王の腕輪≫VIT+15、HP+30
≪武芸者の指輪≫技後硬直、溜め時間-10%
≪大騎士のベルト≫MND+5
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とはいえ、【鞍馬天狗】の真価は直接的な攻撃力ではない。MNDは、状態異常の発生確率の高さにも直結する。そして【鞍馬天狗】の武技や魔技は、状態異常付与が多いのだ。
――ヒイロ君が攻撃役ならば、俺は状態異常にしての支援を担当するのが良いだろう。
支援役を自分が務めれば、ヒイロやレンが攻撃に専念出来る。それはパーティを組む仲間として、重要な役割を担う事となる。
対等な同盟なのだから、任せ切り頼り切りにする気は微塵も無かった。
……
ケインがヒイロに気付いた際に、偶然その側に居た一人の女性が彼の呟きを耳にした。
「ふむ。流石だね、ヒイロ君」
ケインのそんな呟きに、女性は彼に目を向ける。その女性の名はミリア……そう、レーナ達のパーティメンバーだ。
――ヒイロ君……もしかしてあの時、手助けをしてくれた彼かしら?
MPKから救ってくれたジンと、レベリングを手伝ってくれたその仲間であるヒイロとヒメノ。ミリアにとっては、AWO内でも心を許せる数少ない存在だ。
ケインの視線の先……青いオーラの鬼神が猛威を振るっている。
――もしかして、彼は相当強いプレイヤー? ともあれ……借りを返すチャンスかしら。
レベリングを手伝って貰ったお陰で、あれ以降は厄介事に巻き込まれる事無くプレイ出来ている。そんな恩義ある相手だ、恩義に報いるべく力を貸すのも吝かではない。
いささかお堅い性格のミリアだが、その分真面目で実直。ヒイロの居る場所を意識して、合流するタイミングを計るべく立ち回る。
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一方、西の門。迫るモンスター達を見たシオンは、真っ先に最前線へと飛び出し大盾≪鬼殺し≫を構えた。
「【ウォークライ】」
発動した武技は、【盾の心得】で習得できる挑発。モンスターのヘイト値を上げ、自分にターゲットを向けさせるものだ。
挑発技能を受けたモンスターが殺到するも、シオンの表情は涼しげだ。
「他の方々が居ないので、攻撃もしなくてはなりませんね。【一閃】」
手にした大太刀≪鬼斬り≫を振るうと、複数のモンスターを同時に斬り付け倒してみせる。
ユニークスキルの効果でマイナス50パーセントとなっているシオンのSTRは、装備の強化を受けて30。その数値は、現状で中堅レベルのプレイヤーと同等の数値だ。
それでも尚、モンスター達は一刀の下に斬り伏せられる。これは≪刀剣≫唯一の武技である【一閃】の効果によるものだった。
クリティカル発動率の高さに、武技発動時に付与されるステータスアップの恩恵。エクストラクエストで手に入るだけあって、≪刀剣≫の性能は他の武器から頭一つ抜き出ているのだ。
しかしながら、シオンは攻撃専門のビルドではない。誰かと組んで戦いたいのが実情だ。
「ともなれば、やはり同じエリアに居るゼクス様とイリス様ですね」
他にも顔見知りのプレイヤーは居る。攻略最前線で共闘した事のある面々だ。だが親しい間柄かと聞かれると、答えはノーであった。レンに合わせて最低限の交流しかしていなかったのだから、無理もない。
となれば、やはり同盟関係にあるケインのパーティである二人。彼等と行動を共にし、貢献度を稼いで南側の門へ向かうのが得策だろう。
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■プレイヤーネーム/レベル
【シオン】Lv27
■ステータス
【HP】102/102≪+50≫
【MP】36/36≪+20≫
【STR】20【-50%】≪+20≫
【VIT】34【+70%】≪+75≫
【AGI】15【-50%】≪+20≫
【DEX】10【-50%】≪+20≫
【INT】10【-50%】≪+20≫
【MND】22【-50%】≪+23≫
■スキルスロット(4/4)
【盾の心得Lv10】【槌の心得Lv5】【刀剣の心得Lv6】【酒呑童子Lv5】
■拡張スキルスロット(1/3)
【バーサークLv2】
■装備
≪戦鬼の飾り布≫HP+20、MP+20【自動修復】
≪新緑の衣≫全ステータス+20【自動修復】
≪探索者のポーチ≫収納上限150
≪鬼斬り≫VIT+20【自動修復】
≪鬼殺し≫VIT+20【自動修復】
≪覇王の指輪≫VIT+15、HP+30
≪守護の首飾り≫MND+3
≪聖なるメダル≫
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「よし、発見。やっぱ和服装備は目立つな」
フィールドを駆け抜け、モンスターを倒していくゼクス。彼の視線の先には、モンスターに囲まれたシオンの姿があった。
彼も斥候役であり、攻撃は専門ではない。シオン同様に、パーティメンバーの二人と合流して戦う事を優先したのだ。
「それにしても、本気ですげぇ防御力だ……モンスターの攻撃が全く効いてないぜ」
大盾を構えないで≪鬼斬り≫を振るうシオンは、狙っていないモンスターの攻撃をその背に受ける事になる。しかし、彼女のHPバーは一ミリも減っていない。
防御力に特化したユニークスキル【酒呑童子】の効果には、恐ろしさすら感じる。もしPvPのイベントが開催されたとして、彼女と当たってしまったら? 現状では、倒す方法が思い付かない。
――まぁ、今は味方だ。敵対していない内は、心強いってもんさ。
意識を切り替え、フィールドを駆け抜ける。その姿を認めたシオンの口元が緩んだのが、ゼクスにも見えた。
「……へへっ」
不意に漏れた笑い。シオンも、自分達を仲間として認識している……それが伝わり、嬉しさと照れ臭さが込み上げたが故だ。
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■プレイヤーネーム/レベル
【ゼクス】Lv26
■ステータス
【HP】100/100≪+5≫
【MP】35/35
【STR】20≪+17≫
【VIT】18≪+3≫
【AGI】30≪+13≫
【DEX】21
【INT】10
【MND】10≪+15≫
■スキルスロット(4/4)
【短剣の心得Lv9】【体捌きの心得Lv7】【隠密の心得Lv3】【刀剣の心得Lv4】
■装備
≪ユージンの飾り布≫MND+1
≪ユージンのカンフー衣装(上)+5≫MND+8
≪ユージンのブーツ+7≫AGI+10
≪ユージンのカンフー衣装(下)+3≫MND+6
≪探索者のポーチ≫収納上限150
≪ユージンの中華刀+6≫STR+9
≪ユージンの中華刀+5≫STR+8【遅延付与】
≪体力の腕輪≫HP+5、VIT+3
≪狩人のチョーカー≫AGI+3
■予備装備
≪暗殺者の短剣≫AGI+4、MND+3
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「ゼクスとシオンさんが合流ね。よーし、私も行こうかな!」
後方から魔法で攻撃していたイリスだが、ずっとその場に留まるつもりはなかった。魔法にも射程があり、前衛達が戦闘を繰り広げている辺りまでしか届かないからである。
前線に出て、シオンやゼクスに守って貰う……その上で自分が、魔法攻撃によるダメージディーラーを務める。これが、今のメンバーで最も適した布陣。
「おっと……二人の所に行くには、あの群れを突っ切らないといけないかぁ……」
イリスの眼前では、プレイヤーとモンスターが激しく戦っていた。恐らくまだレベルが高くないプレイヤー達なのだろう、序盤に攻めてくるモンスター相手といい勝負をしている。
――私が倒して、恨まれたりしないかな?
通り道にいるモンスター達は邪魔だが、それは彼等の獲物である。それを横から攻撃してキルカウントを増やすのは、マナー違反だろうか? イリスはそんな風に考えたのだ。
乱戦の中にあればそういったシチュエーションは往々にして起こり得るのだが、イリスはマナー違反と思われる行為は避けるべきだと自問自答する。
普段は軽いノリで、脳天気なイメージを持たれやすいイリス。しかし彼女も大人の女性、ゲームの中にあってもマナーを重視しているのだ。
ならば、彼等に倒して貰うのが良いだろう。
「隙を作ってあげましょうかねー……【サンダーウォール】!!」
軽口を叩きながら、詠唱を進めたイリス。彼女が魔法を発動させると、モンスターの群れを雷撃の壁が襲う。
「うぉっ!? な、何だ!?」
「モンスターの動きが鈍ったぞ!!」
イリスが発動した【サンダーウォール】は、攻撃よりも防御に向いている魔法だ。モンスターの進路上に発動し、その進行を食い止めるのである。その為、攻撃力は低い。
しかし、ウォール系の魔法は利点もある。効果範囲が広い点と、状態異常効果が発動しやすい点である。モンスターに麻痺効果や行動遅延効果を発生させる、サンダー系の魔法向けの性能を有するのだ。
最も本来ならば、交戦エリアのど真ん中に撃つなど出来ない。理由は単純、プレイヤーも被弾するからだ。
しかしながら今回のイベントは、プレイヤーとモンスターの大乱戦。その為プレイヤーの攻撃は、他のプレイヤーに影響を及ぼさない……フレンドリーファイヤーが無い仕様なのだ。武技や魔法によるプレイヤーへの影響を考慮せず、思う存分に発動可能なのである。
戸惑いながらもモンスターを攻撃していくプレイヤーを横目に、イリスはシオンとゼクスの方へと歩いていく。戦場を優雅に歩く、白いチャイナドレス姿の美女……迫り来るモンスターを余所に、目を奪われるプレイヤーが居たのも、致し方のない事だった。
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■プレイヤーネーム/レベル
【イリス】Lv25
■ステータス
【HP】98/98
【MP】34/34≪+20≫
【STR】10
【VIT】15
【AGI】15≪+6≫
【DEX】16
【INT】25≪+22≫
【MND】15≪+22≫
■スキルスロット(4/4)
【杖の心得Lv7】【火魔法の心得Lv6】【雷魔法の心得Lv6】【光魔法の心得Lv5】
■予備スキルスロット(4/5)
【氷魔法の心得Lv6】【風魔法の心得Lv4】【土魔法の心得Lv2】【回復魔法の心得Lv3】
■装備
≪ユージンの飾り布≫MND+1
≪ユージンのチャイナドレス+7≫MND+11
≪ユージンのハイヒール+4≫AGI+6
≪探索者のポーチ≫収納上限150
≪ユージンの魔導杖+5≫INT+9
≪大賢者の腕輪≫INT+10、MND+10、MP+10
≪魔導の指輪≫MP+5
≪魔導のネックレス≫MP+5
≪賢者のピアス(右)≫INT+3
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その頃、南側の門。前衛を務めるプレイヤー達は前に出て、弓や魔法を主体とするプレイヤー達は後方から攻撃する……そんなセオリーを粉々に打ち砕くプレイヤーがいた。
「【ワイドショット】!!」
プレイヤーに影響しないのを良いことに、思うまま弓で矢を射る銀髪の少女。彼女が矢を射れば、モンスターのHPが一瞬で消し飛ぶ。更に矢は貫通し、後ろに迫ったモンスターも死ぬ。正に一撃必殺であった。
「や、やべぇだろアレ……」
「弓って、あんなダメージ出たっけ……?」
「あ、あれが……一撃必殺少女……」
次々とモンスターを屠っていくヒメノの姿を目の当たりにしたプレイヤー達は、あまりの光景に唖然としてしまう。モンスターが迫っているので、早く現世回帰することをお勧めしたい。
そんな視線を意に介さず、ヒメノは更に攻撃を続ける。
「【ラピッドショット】!!」
複数の矢を、連続で撃ち出す武技。攻撃力を犠牲に、連射性能を高めた技だ。
「……あれ? 【ラピッドショット】ってSTRが半減するんじゃ……?」
「ははは、ありえねぇ……」
STR半減? それが何か? とでも言わんばかりに、ヒメノの矢はモンスターを撃ち抜く。矢が当たった端から、モンスターは息絶えていく。
ヒメノのSTRは58。それにユニークスキルの効果で、60パーセントの34.8が加わる。更にユニーク装備の効果で、61ポイントがプラスされる。ヒメノのSTR値は合計で、153.8ポイントなのである。半減したところで、76.9ポイントなのだ。これは、現在最高レベルと呼ばれるプレイヤーを遥かに上回る数値である。
この攻撃に耐えられるのは、同じくユニークスキルを所有するVIT特化プレイヤーのシオンくらいなものだろう。
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■プレイヤーネーム/レベル
【ヒメノ】Lv23
■ステータス
【HP】94/94≪+50≫
【MP】32/32≪+25≫
【STR】58【+65%】≪+75≫
【VIT】10【-50%】≪+23≫
【AGI】10【-50%】≪+20≫
【DEX】10【-50%】≪+25≫
【INT】10【-50%】≪+20≫
【MND】10【-50%】≪+23≫
■スキルスロット(4/4)
【弓の心得Lv9】
【刀剣の心得Lv5】
【狙撃の心得Lv6】
【体術の心得Lv3】
■拡張スキルスロット(3/3)
【採掘の心得Lv1】
【八岐大蛇Lv4】
【鞭の心得Lv2】
■装備
≪八岐の飾り布≫HP+20、MP+20
≪桜花の衣≫全ステータス+20
≪八岐の具足≫STR+20
≪開拓者のポーチ≫収納上限500
≪女神の大弓+3≫STR+15
≪覇者の矢筒≫:DEX+5、装填上限50
≪大蛇丸≫STR+20
≪生命の腕輪≫HP+20【HP自動回復(小)】
≪体力の指輪≫HP+5、VIT+3
≪桜の髪飾り≫HP+5、MP+5
≪守護の首飾り≫MND+3
―――――――――――――――――――――――――――――――
そんなヒメノの活躍を見て、一人のプレイヤーが行動を起こした。彼女は南門に居るプレイヤーの中で、二人しかいないヒメノの知り合いである。
「ヒメノさん、こんにちは!」
「シャインさん!!」
ヒメノに迫るモンスターを槍で薙ぎ払い、ニッコリと微笑んだのは小柄な金髪の女性……レーナのパーティに所属する、槍使いのシャインだった。
「お久し振りですねー! 突然ですが共闘してくれませんかー? 私まだまだ知り合い少ないです!」
外国人ながらも流暢な日本語で、ヒメノに用件を伝えるシャイン。モンスターを攻撃しながら、手短にだ。日本にも、AWOにも慣れ親しんでいる様である。
ヒメノはニッコリ微笑むと、シャインに迫るモンスターへ矢を放つ。
「喜んで! 私もこの辺りにいる知り合いは、シャインさんとルナさんしか居ないんです!」
「ルナは多分、後ろの方かなー。この前はありがとうでしたー!」
「いえいえ、あれからどうですか?」
戦いながら、互いの近況を話す二人。シャインもレベル上げを頑張ったらしく、危なげない戦いぶりだ。ジン達によるレベリングの後も、彼女達は自力でレベルアップを図っていた。現在は、皆揃ってレベル15である。
近況報告が終わると、話題はイベントに移っていく。
「私達は、この南門に集合予定なんです」
「うちは北なのですー!」
どうやら、レーナのパーティは北に集合する事になっているらしい。残念ながら、彼女との共闘は一時的なもののようだ。
十分程度戦うと、モンスターの進撃が一度途切れた。遠くを見ればこちらに迫るモンスターの姿が見えるが、戦闘再開は数分後だろう。
そんな中、シャインがシステム・ウィンドウを見て溜息を吐く。
「今はメッセージが使えないようになっているです。なので皆と連絡が取れないですねー」
「イベントの仕様かもしれないですね。フレンドさんの位置情報は解るんですが……」
自分を対象とした画面は、何不自由なく見ることが出来る。しかし、フレンド情報に関しては何故か使用出来ない。これがイベント期間中ずっとなのか、一過性のものなのかも不明だ。
そんな二人を、遠巻きに見ているプレイヤー達。銀髪和服の美少女と、金髪外人の小柄な美女だ。目立ってしまうのも無理はない。
そんなプレイヤー達の中から、一人の女性が歩み出た。
「シャインちゃん、ヒメノさん!」
亜麻色の髪をサイドテールに結った美女……ルナである。
「ルナ! 合流できたですー!」
「こんにちは、ルナさん!」
キャッキャと再会を喜び合う三人の姿に、他のプレイヤー達の視線が温かいものになる。美女や美少女が戯れる姿は、良いものなのだ。
しかし、そんな彼女達が立っているのは前線だ。最前線に程近い場所なのである。
「あ、来ましたね」
「来たですね」
「来ちゃいましたね」
迫り来るモンスターを見た三人は、陣形を整える。
「どんどん倒しますね!」
「背中は預かるですよ!」
「私は回復魔法とか、防御魔法で支援するね!」
前方をシャイン、後方をルナに守られたヒメノ。システム・ウィンドウを操作して矢筒に矢を補充すると、準備万端とばかりに矢を弓につがえた。
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北側の門は、異様な盛り上がりを見せていた。
「うおお!! 忍者が速過ぎるうぅぅっ!!」
「一撃で倒してんだけどぉっ!?」
「ってかクリティカル出過ぎぃっ!!」
自分達も戦闘しつつ、縦横無尽にフィールドを駆け抜けるジンを見て絶叫を上げるプレイヤー達。
そんな声に苦笑しながら、ジンはモンスターへ小太刀を振るう。
「【一閃】!!」
またもや発動したクリティカル。激しいライトエフェクトが発生し、モンスターのHPを刈り取る。
「また一撃かぁっ!!」
「良いぞ、忍者さん!!」
その速さとアクロバティックな動き、そしてクリティカル率の高さ。戦闘しているはずのプレイヤー達の視線は、ジンが独り占めしていた。この忍者、忍ばな過ぎである。
そんな派手な動きをしている忍者に、一人の女性が苦笑した。
「凄いなぁ、ジン君」
彼女の名前はレーナ……MPKされそうだった所を、ジンに助けられた女性だ。
彼とその友人の厚意で、レーナ達はレベル10までレベリングをして貰ったのだ。その事に恩義を感じており、ジンを見つけてからは彼の為に援護射撃を行っていた。
「本当なら、弓矢じゃなくて銃が良いんだけど……なっ!!」
嘯きながら矢を放てば、モンスターの頭部に見事命中。クリティカルヒットとなり、モンスターが倒れ伏す。
「狙い撃つよっ!!」
更に、もう一射。そちらも見事、クリティカルヒットになる。これは弱点部位を撃ち抜く事で、クリティカルヒットの発生率が高まっているからだ。
正確無比な射撃とクリティカルヒットで、レーナは熟練のプレイヤーに負けず劣らずのキルカウントを記録している。魔法には攻撃範囲で劣るものの、射程は弓矢の方が勝っている。故にレーナは、遠くの敵を狙い撃っているのだ。
他の弓使いが真似をしようとしても、クリティカルはそうそう発生しない。それどころか、当たらない事も多い。
レーナはユニークスキルや、ウルトラレアスキルを所有している訳では無い。彼女自身のテクニック……プレイヤースキルの成せる業であった。
……
そんなジンやレーナを見て、口元を緩める男が居た。その男は黒のロングコートを身に纏い、フィールドに堂々と立っている。右の手には、黒い刀が握られていた。
コートのみならずシャツやパンツ、グローブやブーツも黒。髪も、目も、武器も黒。正に黒尽くめの男。
男は一つ頷くと、モンスターの群れに向かって駆け出した。
「【火竜】」
刀を振るう事で発生した、竜の形をした炎。炎の竜はモンスターに命中し、その身を焼いていく。
燃えるモンスターに接近した黒衣の男は、腰溜めに構えた刀を振り抜いた。発生する、クリティカルヒットの閃光。モンスターは炎に焼かれながら、その身を散らした。
「さぁ……楽しい楽しい、遊戯の時間だ」
彼こそが、六つ目のエクストラスキル攻略者……DEX強化のユニークスキルである【漆黒の竜】を保有する男である。
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ユニークスキル【漆黒の竜Lv4】
説明:知り難きこと陰の如し。習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
効果:DEX+65%。他のステータスを−50%。
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次回投稿予定:2020/6/23