14-17 幕間・コンの御城探検
殺伐としたイベント章に子狐が!!
僕の名前はコン、神獣っていう生き物だ。
この前生まれた僕はパパとママ、そしてパパとママの仲間達に沢山可愛がって貰っている。
いつもは林の中にあるお家に居るんだけど、今日は違うお家だ。もしかして、ここにお泊りするのかな?
折角だから、探検してみよう。パパからの言い付けは『勝手に拠点の外に行かない』だからね。
僕は広間から走り出して、建物から出る。拠点の外は、あの塀の外のこと。だから、建物の外は大丈夫だよね。
「ありゃ? コンじゃん、どしたッスか?」
そう声を掛けて来たのは、パパの弟のハヤテさん。明るくて面白い人なんだけど、怒ると怖い。僕には優しいから、僕は怖がってないけど。
「ジンさんとヒメちゃんがお休みだから、暇だったのかな?」
ハヤテさんの隣に居るのは、アイネさんっていうママのお友達。とても優しくて、可愛い人だよ。ハヤテさんと居る時とか、特に。
「コンちゃん、おやつ食べる?」
アイネさんが、僕におやつを差し出してくれる。でも、それはアイネさんの分だ。ありがとう、でも大丈夫! 僕はさっき、夜ご飯をいっぱい食べたから!
「コンッ!」
「……要らないんスかね?」
「私の分だから、自分で食べなよって事……かな?」
おぉ、流石アイネさん。僕の伝えたい事を、察したよ! やっぱり凄い人だ!
おっと、そろそろ次の場所に行ってみないと! ハヤテさんとアイネさんは”つがい”だから、邪魔したら駄目だもんね! またね! 頑張ってね!
「コンッ! コンコンッ!」
右の前足を上げて、僕は次の探検へと向かう。
「……またねって言われた気がした」
「私も……あと、頑張って……みたいな?」
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そういえば、あっちにはあの人達が居たはずだ。折角だし、会いに行ってみよう!
お城の前に用意されている、あの人用の特等席らしい。椅子に座った男の人に、その横に立つ青い髪の女の人。そして、金髪の女の人だ。
「なぁ、やっぱこれやめない?」
「あら……PVに使うには、とても良いシーンになると思ったのですが……」
「拠点防衛なのに、座らされておかしいと思ったよ!? 無しだよ、これは!!」
「残念です……」
「お嬢様、悪ノリが過ぎますよ」
何か楽しそうにしてるなー。
「あれ、コン?」
金髪の男の人は、ママのお兄ちゃんのヒイロさんだ。この人がパパ達のボスなんだよ。とても優しくて、カッコいい人なんだ。ヒイロさんは、パパとも仲良しなのさ。
「どうしたのかしら、コンちゃん。お散歩?」
そしてヒイロさんの”つがい”で、次に偉いレンさん。ママのお友達で、すっごい魔法を使えるんだ。ヒイロさんとラブラブしている時以外は、キリッとしてて皆に指示を出すすっごい人なんだよ。
「いつもと違う場所です、好奇心を刺激されたのでしょう。コンちゃんはお利口ですから、ジン様の言い付け通り拠点の中だけの移動に留めるかと」
金髪の女の人、シオンさんはレンさんのメイドさん? っていうらしい。フリフリの服は可愛いよね。パパもママも、みーんなシオンさんを頼りにしているんだよ。
それにしても、シオンさんはよく分かってるよね! 僕はちゃんと、パパとママの言う事を聞く良い子なんだよ!
「コンッ! コンッ!」
僕が鳴いてそう伝えると、シオンさんが笑った。
「えぇ、存じております」
おっ! シオンさん、くすぐったい! でも気持ちいー。シオンさんは、僕を撫でるのがとってもうまいんだ!
「シオンさん、コンちゃんの言っている事が解るんですか?」
レンさんが不思議そうな顔をしている。でも僕、レンさんともお話したりしてなかったっけ?
「コーン?」
僕がそう思って鳴いてみると、レンさんが僕をチラッと見た。
「……今、私ともお話した事がある……と伝えようとしたのかしら?」
おっ? そうだよ! ほーら、レンさんだって僕とお話しできるんだよ!
「コンッ? コンッ! コンコンッ!」
「確かに……そうですね」
しかしレンさんは、納得がいかないっていう顔だ。
「でも、先程シオンさんと話している時は……」
「……お嬢様、今のお嬢様とコンちゃんのやり取りですが、私にはよく分かりませんでした……」
あれぇ~? なんで解る人と、解らない人が居るんだろう?
すると、ヒイロさんが僕を抱き上げた。おぉっ! 高い! 凄いぞー!
「コンッ! コンッ!」
「……今、コンが何を考えたか二人は解った?」
「「いえ……」」
「俺はさっきまで解らなくて、今は解った。多分だけど……コンが『この人に気持ちを伝えたい』って思って鳴いたら、対象者に気持ちが伝わるんじゃないかな?」
へー、そーなのかー。
それじゃあ三人に気持ちを伝えたいって考えたら、三人共解ってくれるのかな?
えーと、じゃあ……。
パパとママ、一緒にお寝んねしてたよ!!
「コン、コンッ!!」
「「「えっ!?」」」
あ、伝わった。
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成程ねー。僕が気持ちを伝えたいって思う人に、気持ちが伝わるんだね。
それなら、皆といっぱいお話が出来そうだね! よーし、今度はあっちに行ってみよう!!
「おや」
うおぉっ!?
「コンッ!?」
背の高い、男の人が居た。何か黒いもので目を隠した、大人の男の人だ。
この人は、知っている……僕に力を分けてくれた人だから、よーく知ってる。そして、解るんだ。僕は凄い狐だからね、この人がメチャクチャ凄い人だって解るんだよ。
「やぁコン君、驚かせてしまって済まないね」
体勢を低くして、男の人が優しく声を掛けてくれる。優しい人なんだと解っている、解っているんだけど……この人、何か凄いんだよなぁ。色々と凄い、それはもう。野生の勘で解るんだ、僕はパパとママの子だから野生じゃないけど。
「ユージンさん、どうかしましたか……あら、コンちゃん!」
あっ、パパのお姉ちゃんだ! 僕はお姉ちゃんに向かってジャンプする! はいじゃんぷ!! パパみたいでしょ!
パパのお姉ちゃん……ミモリさんが、僕をぎゅっとキャッチしてくれたよ! 流石パパのお姉ちゃんだね!
「うふふ、どうしたのかしら? あぁ、モフモフ~♪」
ふふっ、僕の毛並みでお姉ちゃんは癒されているみたいだね。良いよ、お姉ちゃん! 僕にいつも優しくしてくれるお姉ちゃんだから、いっぱい触ってくれてもOKだよ!
「コンッ! コン、コンッ!」
「あら、ありがとうコンちゃん~♪」
「ふむ、コン君も立派に成長したね」
あっ、そういえば凄いおじさん居たんだった。
「ははは、次は忘れないでくれると嬉しいかな。コン君、明日の朝ご飯は何が良いかな?」
朝ご飯? うーん、今日はハンバーグっていうのを貰ったんだよね。お肉のやつ。僕、お肉好き。
「ふむ、お肉が良いんだね。了解、明日は唐揚げでも用意してあげようかな」
「……あの、ユージンさん? コンちゃんの気持ちが解るんですか?」
「うん? あぁ、もちろんだ。ミモリ君も、さっき楽しそうに会話していたじゃないか」
「コンちゃんが鳴いてくれたから、何となく……でも、今って鳴いてなかったですよね?」
あっ、そういや僕、鳴いてなかったじゃん。えっ、何で? えっ、何それ、こわい。
「企業秘密だが、特別に教えてあげよう……僕は、勘が良いんだ」
答えになってないよ、おじさん。
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次の探検へと向かった僕は、どこに行くか悩んでいた。
パパとママ、そしてセンヤさんとヒビキさんはお休み中。コヨミさんっていうお姉ちゃんも一緒にお休みに入っている。他に行く場所は……。
そう考えていると、僕は聞き覚えのある音に気が付いた。あっ! この音は、アレの音だ!
僕がそこに行くと、茶色の髪のお姉さんが金槌を振っていた。金槌は知っているよ! ママが教えてくれたんだ!
茶色の髪のお姉さんは、カノンさんっていうんだ。色々なものを作れる、とっても凄い人なんだよ!
カノンさんは今、何かをガンガンッて金槌で作ってる……直してるのかな? こういう時、僕は黙って見ているんだ。邪魔しちゃダメだよって、パパが教えてくれたからね!
カノンさんは、いつもは気弱そうなお姉さんなんだ。けど、金槌使っている時は凄くかっこいいんだよ。今も、すっごくかっこいい!
それにカノンさんが作ったものを、皆喜んで受け取るんだ。皆、凄く嬉しそうな顔をするんだよ。で、カノンさんもとっても嬉しそうに笑うんだ。きっと素敵な事なんだと思うんだ!
「お? コンちゃんやんか、見学か?」
僕に気が付いたのは、細い目をした変なしゃべり方のお兄さんだ。クベラさんっていう、パパ達のお友達さ!
この人は【七色の橋】っていう、パパ達が作った群れの人じゃない。でも、よく群れに来てくれるんだ!
硬そうな物を、何かたくさん持って来た。カノンさんが直すやつなのかな……量、多くない?
「カノンさんは……集中してて、気付いてへんな。あぁなると、止まらんからなぁ」
うん、知ってるよ。でも僕、邪魔しないよ! 大事な事をしているんだもんね!
「コン。コン! コンコンッ!」
どうやらクベラさんにも、僕が言いたい事が伝わったみたいだ。
「邪魔しない様に、見てるって言いたいんやな。ええ子やなぁ、コンちゃん」
そう言って、クベラさんが僕を撫でてくれる。へへ、この人もやっぱり良い人だ!
「ふぅ……あ、クベラ、さん……と、コン、ちゃん?」
あ、カノンさんがお仕事を一つ終わらせたみたいだ! お疲れ様、カノンさん!
「コンッ!」
「……ふふ、お疲れ様、って言ってくれたの、かな? ありがとう、コンちゃん……」
カノンさんはそう言って、僕に手を差し出してくる。おいでって事かな? おっけー!
「うん……癒される」
お疲れなのかな? いいよ、僕で良かったらたくさん癒してあげるよ!
でも、カノンさんはすぐに僕を解放した。そして、クベラさんが持って来た硬くて大きくて重そうなやつを手に取る。
「コンちゃんの、お陰で……元気出たし、次……!」
「カノンさん、休憩してもええんちゃうか?」
クベラさんいいぞ、もっと言って! カノンさん、頑張りすぎだよ!
でも、カノンさんは首を横に振った。その眼は、真剣だ。
「私、職人……ですから……皆が、全力で戦う為の、お手伝い……それが……私の、戦いです」
かあぁっこいいぃ!! カノンさん、ちょーかっこいいよ!!
そういえば、今日カノンさんとミモリお姉ちゃんが戦って負けたって聞いたぞ。よし、お姉ちゃんたちは僕が守ろう! パパみたいに、シュ! ってして、ブワッ! ってして、えいっ! ってしてやる!
イメージトレーニングをする僕に、クベラさんが声を掛けてくれた。
「コンちゃんも、男の子なんやなぁ」
僕が顔を上げると、クベラさんは笑っていた。でも、何だか……戦う時の、パパ達みたいに見える。
「ワイも負けてられへんな。ともあれ、素材を持ってこなあかん。ごめんな、コンちゃん。今度ゆっくり遊んだるさかい」
大丈夫、クベラさん! お仕事頑張ってね! カノンさんも、頑張れ!
「コンッ! コンコンッ!」
「おおきに、コンちゃん」
「ありがとう、コンちゃん」
あ、ちゃんと伝わっているね。良かった~。
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僕は御城の中を探検して、何となくだけど思うんだ。
パパ達は皆、いっぱい戦ってる。それは、勝つためだ。でも、それだけじゃないんだろうな。
皆、誰かを大事にしてる。皆の事を、大事にしてる。僕の事も、大事にしてくれている。
大事なものを守るために、パパ達は戦ってるんだろうな。
……僕も守りたいな。パパとママ、皆を守りたいな。
その時、僕は変な音に気付いた。今の音は、ヒイロさんが着ている硬いモノからよく鳴る音だ。あの硬いのと硬いのが当たる音。
「……狐? 紫のマフラーをした、狐……まさか?」
姿が見えないけど、声がした。これ、パパのかくれんぼのやつだ!
声がした場所に、何か居るのは解る。御城の塀の中で、パパ達の群れの人がそんな事をするはずがない。
だとしたら、敵だ!!
「コンッ!! コンコンッ!!」
僕は誰かに教えようと、大きな声で鳴く。
「チッ、テイムモンスターか!! うるせぇ!!」
攻撃される……それが解った。でも、解るぞ!!
僕はピョンッって飛んで、危険な場所から動いた。地面に何か、硬いものが当たった音がする。
やっぱり敵だ!! よぉし……見てろ!!
「【狐火】ッ!!」
怪しい場所に向けて、【狐火】を使う!!
「ぬおっ!? こ、この狐……!!」
攻撃が当たった!! よし、敵が見えたぞ!!
「クソッ、ぶっ殺してや……「させません!!」……あぁっ!?」
あ、何か……音がする。綺麗な音、この音は知っている。
僕が音のする方を見たら、今日初めて会ったおじさん達……そして、綺麗な女の人が立っていた。口に何かを当てて、綺麗な音を出している。
「リ、リィ……ちゃ……? な……で……」
敵がバタッと倒れた。リリィお姉ちゃん、すげー!!
リリィお姉ちゃんが音を出し続けていると、今日初めて会ったおじさん達が敵に駆け寄った。そうすると、おじさん達が敵をやっつけてくれた。わーぉ、こうして外から見てたらひどい事しているみたいに見えるね。
敵がやられたのを見て、リリィお姉ちゃんが僕の所に来た。あの綺麗な音はおしまい? 残念。
「コンちゃん、お疲れ様」
そう言って、お姉ちゃんが僕を抱っこしてくれた。ふふ、このお姉ちゃんも優しくて好きだよ。
「敵を見つけてくれたのかな?」
うん、そうなんだ! 僕、頑張ったよ!
「コンッ! コンコンッ!」
「ふふっ、良い子だね。ありがとうコンちゃん、助かっちゃったよ」
リリィお姉ちゃんに抱っこされている僕の所に、おじさん達もやって来た。
「コン、だったか? 良くやってくれたな!」
「おう、かっこよかったぜ!」
「ちっこいのに、大したもんだぜ!」
えへへ? そう? このおじさん達も、良い人だなぁ!
よぉし、もっともっと頑張るぞ! パパ達と一緒に、いっぱい戦えるようになるんだ!
次回投稿予定日:2022/1/25
信じられるか……この子狐、AIなんだぜ……?